Login| Sign Up| Help| Contact|

Patent Searching and Data


Title:
CARBON-FIBER PRECURSOR FIBER, CARBON FIBER, AND PROCESSES FOR PRODUCING THESE
Document Type and Number:
WIPO Patent Application WO/2009/125832
Kind Code:
A1
Abstract:
Precursor fibers for high-grade carbon fibers reduced in fluffing are provided without impairing productivity. The carbon-fiber precursor fibers have a weight-average molecular weight, Mw(F), of 200,000 to 700,000 and a polydispersity coefficient, Mz(F)/Mw(F) (Mz(F) indicates the z-average molecular weight of the fibers), of 2 to 5. Also provided is a process for producing the carbon-fiber precursor fibers. Furthermore provided is a process for producing carbon fibers from the carbon-fiber precursor fibers. In this process, fluffing and fiber breakage are inhibited even under burning conditions including a high tension or high stretch ratio to produce high-grade/high-quality carbon fibers without impairing productivity. Still further provided are carbon fibers which have a crystallite size and a parameter concerning the surface of the carbon fibers and determined by Raman spectroscopy, the crystallite size and the parameter satisfying a specific relationship.

Inventors:
TANAKA FUMIHIKO (JP)
ENDO MAKOTO (JP)
KAWAKAMI DAISUKE (JP)
Application Number:
PCT/JP2009/057332
Publication Date:
October 15, 2009
Filing Date:
April 10, 2009
Export Citation:
Click for automatic bibliography generation   Help
Assignee:
TORAY INDUSTRIES (JP)
TANAKA FUMIHIKO (JP)
ENDO MAKOTO (JP)
KAWAKAMI DAISUKE (JP)
International Classes:
D01F6/18; D01F9/22
Domestic Patent References:
WO2008047745A12008-04-24
Foreign References:
JPS63275717A1988-11-14
JP2002161114A2002-06-04
JPH04222229A1992-08-12
JP2002371437A2002-12-26
JP2002371438A2002-12-26
JPS62257422A1987-11-10
JPS58186614A1983-10-31
JPS6477618A1989-03-23
JPH11107034A1999-04-20
JPH03180514A1991-08-06
JPH09170170A1997-06-30
JPH04222229A1992-08-12
JP2002266173A2002-09-18
JP2007269822A2007-10-18
Other References:
See also references of EP 2264232A4
Download PDF:
Claims:
繊維の重量平均分子量Mw(F)が20万~70万であり、多分散度Mz(F)/Mw(F)(Mz(F)は、繊維のZ平均分子量を表す)が2~5である炭素繊維前駆体繊維。
単繊維引張強度のワイブル形状係数m(P)が11以上である請求項1に記載の炭素繊維前駆体繊維。
85~90%の配向度を有する請求項1または2に記載の炭素繊維前駆体繊維。
重量平均分子量Mw(P)が20万~70万であり、多分散度Mz(P)/Mw(P)(Mz(P)は、紡糸溶液における重合体のZ平均分子量を表す)が2.7~6であるポリアクリロニトリル系重合体が、濃度5重量%以上30重量%未満で溶媒に溶解されてなる紡糸溶液を紡糸して膨潤糸を得、その膨潤糸を前延伸し、乾燥熱処理して請求項1に記載の炭素繊維前駆体繊維を得る炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
前記乾燥熱処理後に1.1~6倍の乾熱延伸を行う請求項4に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
前記紡糸溶液を濾過精度3~15μmのフィルターで濾過した後に紡糸する請求項4に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
請求項1に記載の炭素繊維前駆体繊維を、200~300℃の温度の空気中において延伸比0.8~3で延伸しながら耐炎化する耐炎化工程と、耐炎化工程で得られた繊維を、300~800℃の温度の不活性雰囲気中において延伸比1~1.3で延伸しながら予備炭化する予備炭化工程と、予備炭化工程で得られた繊維を1,000~3,000℃の温度の不活性雰囲気中において延伸比0.96~1.05で延伸しながら炭化する炭化工程を順次経て炭素繊維を得る炭素繊維の製造方法。
前記耐炎化工程において、延伸張力を0.1~0.25g/dtex、延伸比を1.3~3として、耐炎化工程で得られた繊維が78~85%の配向度を有するようにする、請求項7に記載の炭素繊維の製造方法。
結晶子サイズ(Lc(nm))、ラマン分光法で測定される炭素繊維表面のパラメーター(I D /I G 、I V /I G 、ν G (cm -1 ))が、以下の式(1)~(4)を満たす炭素繊維。
1.5≦Lc≦2.6               ・・・(1)
0.5≦I D /I G ≦1              ・・・(2)
0.4≦I V /I G ≦0.8            ・・・(3)
1605≦ν G +17(I V /I G )≦1610  ・・・(4)
ストランド引張強度TSが6~9GPaであって、Lcおよびストランド引張弾性率(YM(GPa))が次の式(5)を満たすとともに、単繊維引張強度のワイブル形状係数mが6以上である請求項9に記載の炭素繊維。
 50Lc+210≦YM≦50Lc+270  ・・・(5)
Description:
炭素繊維前駆体繊維および炭素 維とその製造方法

 本発明は、炭素繊維の製造工程における 過安定性に優れる高品位な炭素繊維前駆体 維とその製造方法、およびその炭素繊維前 体繊維を用いた高性能・高品位な炭素繊維 その製造方法に関するものである。

 炭素繊維は、他の繊維に比べて高い比強 および比弾性率を有するため、複合材料用 強繊維として、従来からのスポーツ用途や 空・宇宙用途に加え、自動車や土木・建築 圧力容器および風車ブレードなどの一般産 用途にも幅広く展開されつつあり、更なる 産性の向上と高性能化両立の要請が高い。

 炭素繊維の中で、最も広く利用されてい ポリアクリロニトリル(以下、PANと略記する ことがある)系炭素繊維は、その前駆体とな PAN系重合体からなる紡糸溶液を湿式紡糸、 式紡糸または乾湿式紡糸して炭素繊維前駆 繊維(以下、前駆体繊維と略記することもあ )を得た後、それを200~400℃の温度の酸化性 囲気下で加熱して耐炎化繊維へ転換し、少 くとも1000℃の温度の不活性雰囲気下で加熱 て炭素化することによって工業的に製造さ ている。

 高性能な炭素繊維を得るためには、先述 各製造工程において、繊維束の張力を高く あるいは高い延伸倍率(延伸比と記す場合も ある)に設定することがよく行われるが、延 倍率または張力が高い程、毛羽発生や糸切 を起こすことが多い。毛羽や糸切れが発生 ると品位・品質が低下し、更には脱落した 羽や切れた糸がローラーに巻き付いたり、 内に堆積したりして後続の繊維束を損傷さ やすいため、安定生産するためには高性能 炭素繊維を得るために足りる高い延伸倍率 設定することができず、トレードオフの関 の中で妥協的な延伸倍率で製造を実施せざ を得ないという問題がある。特に、耐炎化 程においては、耐炎化反応の進行に合わせ 、延伸プロフィールを割り振り、延伸の安 化を図る技術が提案されている(特許文献1お よび特許文献2参照)。しかしながら、これら 許文献は、前述したような妥協的な延伸倍 を選択することを提示したのみであり、抜 的に耐炎化工程で高い延伸倍率を設定でき 技術は開示しておらず、かかる文献の開示 基づき、前述したような妥協的な延伸倍率 選択して製造を実施しても、十分に糸切れ 減らすことはできなかった。

 一方、PAN系炭素繊維の生産性向上検討は 炭素繊維前駆体繊維の製糸、耐炎化あるい 炭素化のいずれの観点からも行われている 中でも前駆体繊維の生産性向上に関する従 技術には、次に示す問題があった。すなわ 、前駆体繊維を得る際の製糸においては、 金孔数とPAN系重合体溶液の特性にともなう 固糸を引き取る限界速度とその凝固構造に 係する限界延伸倍率(限界延伸比と記す場合 もある)によって生産性が制約を受ける(以下 凝固糸を引き取る限界速度を示す性質を可 性と記述する)。具体的には、多数の単繊維 からなる炭素繊維前駆体繊維を得るに際し、 紡糸速度と延伸倍率の積で決まる最終的な製 糸速度がどれほど高められるかで、生産性を 左右する条件を決定せざるを得ない。すなわ ち、生産性を向上させるために紡糸速度を上 げると延伸性低下が起こるため生産工程が不 安定化しやすく、一方、紡糸速度を下げると 生産工程は安定化するものの生産性は低下す ることから、生産性の向上と生産工程の安定 化の両立が困難であるという問題があった。

 かかる問題について、紡糸方法が可紡性 大きな影響を与えることが知られているの 、紡糸方法別に説明する。

 湿式紡糸法では、紡糸溶液を凝固浴内に る口金孔から凝固浴に吐出させるので、紡 溶液が口金孔から吐出された直後から凝固 進行する。そのため、引き取り速度の高速 に従って実質の紡糸ドラフト率が高くなる 紡糸ドラフトが高まると、口金面で糸切れ 発生するため、引き取り速度を高めるには 界がある。

 これに対し、乾湿式紡糸法では、紡糸溶 が一旦空気中(エアギャップ)に吐出されて ら凝固浴中に導かれるので、糸はエアギャ プで張力が低い状態で大部分延伸される。 のため、実質的な凝固浴内の紡糸ドラフト 小さくなり、可紡性が高くなることが知ら ている。例えば、紡糸溶液の重合体濃度を 御することにより、紡糸溶液の粘度を下げ 濾過操作における操作性を良好にし、凝固 中での繊維の引取速度と紡糸口金からの紡 原液の吐出速度の比である紡糸ドラフト率 向上させる技術が提案されている(特許文献3 参照)。この提案によれば、紡糸ドラフト率 10と向上効果が認められるが、紡糸口金の孔 径を大きくすることにより紡糸ドラフト率を 高めているに過ぎない。つまり、紡糸口金の 孔径を広げることにより吐出線速度は遅くな り、紡糸ドラフト率は高まるが、これのみで は可紡性は向上しないので、前駆体繊維の生 産性を向上させることはできない。

 また、高粘度の紡糸溶液を用い、特定の アギャップを設けることによって紡糸ドラ ト率を5~50に設定する技術が提案されている が(特許文献4参照)、この提案は、衣料用アク リル繊維に関するものであり、繊維束を形成 する実質的な単繊維の数が36と少ないため、 千から数十万という多数の単繊維からなる 維束を焼成する炭素繊維用としては不適で る。

 すなわち、従来知られているいずれの方 でも、生産性向上の効果は限定的である。 たがって、多数の単繊維からなる繊維束で っても可紡性と限界延伸倍率の両方を高め ことができ、さらには、高い延伸倍率の耐 化条件を用いた場合においても品質・品位 更には生産の安定性を低下させる毛羽や糸 れの発生を抑制することができる、炭素繊 の生産性向上技術が求められている。

 炭素繊維として毛羽が少ないことはプリ レグ化工程やコンポジット化工程における 程安定性だけでなく、毛羽などに起因する 維のうねりを低減できるので、かかる炭素 維を用いて成形した成形体のコンポジット 縮強度の発現率が高いというメリットがあ 。圧縮強度はコンポジット設計における重 な材料設計指標なので毛羽の少ない炭素繊 を実現する意義は大きい。

 このような毛羽を発生させる原因は、炭 網面の構造欠陥であることが一因であると えられる。かかる炭素網面の構造欠陥はラ ンスペクトルで評価することが原理的には 能と考えられる。従来、炭素繊維をラマン ペクトルで評価した検討例は多い(特許文献 5、6参照)が、結晶構造に関する検討が多く、 構造欠陥を議論したものはなかった。また、 これらの文献に開示の技術では、かかる評価 に基づいて炭素繊維の結晶構造を制御してい るのみで、構造欠陥の制御はされていなかっ た。そのため、物性の平均値は向上する技術 は開示されているものの、物性のばらつきを 向上する技術については、開示はなかった。

 また、毛羽を発生させる原因を炭素繊維束 着目して考察する。毛羽は弱糸が破断して きるため、強度ばらつきの大きさが毛羽の と関係する。炭素繊維の強度のばらつきは イブルパラメーター(ワイブル形状係数およ び尺度母数)で示されることが多いが、スト ンド物性値が同じでワイブル形状係数が異 る炭素繊維を用いて複合材料とした場合、 の物性値のばらつきがわずかに改善される のはあっても、その物性の平均値が顕著に 上した例は知られていない。例えば、単繊 引張強度分布をワイブル形状係数で規定し 炭素繊維が提案されている(特許文献7、8参 )。特許文献7では、黒鉛化工程で発生する毛 羽を抑制するために、黒鉛化処理前のストラ ンド引張弾性率が305GPaの炭素繊維単繊維引張 強度分布を狭く(ワイブル形状係数を5~6)なる うに制御している。かかる技術によるとス ランド引張弾性率を向上させると脆性的な 壊形態となり、応力集中が起こりやすくな ので物性が欠陥の影響を受けやすくなり、 イブル形状係数が低下する。また、特許文 8では、フィラメントワインディング加工に 適した開繊性に優れた炭素繊維が提案されて いる。繊維断面形状、表面形態を適正化して おり、大量の集束剤なしに加工工程通過性が 改善されており、これを実現するためにワイ ブル形状係数が4~6に制御することが重要と述 べている。しかしながら、弾性率は270GPa以下 であり、高弾性率と狭い単繊維強度ばらつき の両立はできていなかった。

特開昭62-257422号公報

特開昭58-186614号公報

特開昭64―77618号公報

特開平11-107034号公報

特開平3-180514号公報

特開平9-170170号公報

特開平4-222229号公報

特開2002?266173号公報

 本発明は、上記問題点を解決し、生産性 損なうことなく毛羽の少ない高品位な炭素 維用前駆体繊維を製造する方法を提供する とを目的とする。また、高い張力あるいは 伸倍率の焼成条件下においても毛羽や糸切 を抑制し、生産性を損なうことなく高品位 高品質な炭素繊維を製造することができる 素繊維前駆体繊維を提供することを目的と る。

 上記の目的を達成するため、本発明の炭 繊維前駆体繊維は、次の構成を有する。す わち、繊維の重量平均分子量Mw(F)が20万~70万 であり、多分散度Mz(F)/Mw(F)(Mz(F)は、繊維のZ平 均分子量を表す)が2~5である炭素繊維前駆体 維である。

 また、上記の目的を達成するため、本発 の炭素繊維前駆体繊維の製造方法は、次の 成を有する。すなわち、重量平均分子量Mw(P )が20万~70万であり、多分散度Mz(P)/Mw(P)(Mz(P)は 紡糸溶液における重合体のZ平均分子量を表 す)が2.7~6であるポリアクリロニトリル系重合 体が、濃度5重量%以上30重量%未満で溶媒に溶 されてなる紡糸溶液を紡糸して膨潤糸を得 その膨潤糸を前延伸し、乾燥熱処理して上 した炭素繊維前駆体繊維を得る炭素繊維前 体繊維の製造方法である。

 さらに、上記の目的を達成するために、本 明の炭素繊維の製造方法は、次の構成を有 る。すなわち、上記した炭素繊維前駆体繊 を、200~300℃の温度の空気中において延伸比 0.8~3で延伸しながら耐炎化する耐炎化工程と 耐炎化工程で得られた繊維を、300~800℃の温 度の不活性雰囲気中において延伸比1~1.3で延 しながら予備炭化する予備炭化工程と、予 炭化工程で得られた繊維を1,000~3,000℃の温 の不活性雰囲気中において延伸比0.96~1.05で 伸しながら炭化する炭化工程を順次経て炭 繊維を得る炭素繊維の製造方法である。
また、上記した目的を達成するため、本発明 の炭素繊維は、次の構成を有する。すなわち 、結晶子サイズ(Lc(nm))、ラマン分光法で測定 れる炭素繊維表面のパラメーター(I D /I G 、I V /I G 、ν G (cm -1 ))が、以下の式(1)~(4)を満たす炭素繊維である 。
1.5≦Lc≦2.6                   ・・ (1)
0.5≦I D /I G ≦1                  ・・・(2)
0.4≦I V /I G ≦0.8                ・・・(3)
1605≦ν G +17(I V /I G )≦1610       ・・・(4)

 本発明によれば、生産性を損なうことな 毛羽の少ない高品位な炭素繊維用前駆体繊 を製造することができる。また、高い張力 るいは延伸倍率の焼成条件下においても毛 や糸切れを抑制し、生産性を損なうことな 高品位・高品質な炭素繊維を製造すること できる。

 本発明者らは、特定の分子量分布を有す PAN系重合体を用いることによって優れた可 性を与える炭素繊維前駆体繊維の製造技術 既に提案している(特願2007―269822号)。前記 造技術の検討をさらに進め、紡糸溶液にお るPAN系重合体の分子量分布に対して、前駆 繊維の分子量分布の変化を少なくすること 、耐炎化工程における優れた生産安定性を することを見出し、本発明に到達した。

 なお、本発明では、重量平均分子量をMw、Z 均分子量をMz、Z+1平均分子量をM Z+1 、数平均分子量をMnと略記し、繊維を構成す 全PAN系重合体について言うときには添え字( F)を、紡糸溶液における全PAN系重合体につい 言うときには、添え字(P)を、付けて区別す 。

 本発明の前駆体繊維は、重量平均分子量M w(F)が20万~70万、好ましくは30万~50万であるPAN 重合体からなる。Mw(F)が20万未満の低分子量 のPAN系重合体からなる場合、前駆体繊維の強 度が低下して耐炎化工程で毛羽が発生しやす くなる。また、Mw(F)が70万を越えるような高 子量のPAN系重合体からなる場合、紡糸溶液 おける重合体の重量平均分子量Mw(P)が70万を えるように設定する必要がある。その場合 分子鎖同士の絡み合いが増加して延伸しに くなるので伸びきり鎖長が小さくなり本発 の効果が得られない。Mw(F)はMw(P)と同じか低 下するが、紡糸工程の条件によって制御する ことができる。これについては、詳しくは後 述する。

 また本発明の前駆体繊維は、前駆体繊維 構成するPAN系重合体の多分散度Mz(F)/Mw(F)(Mz 、繊維のZ平均分子量を表す)が2~5であり、好 ましくは、2.5~5であり、より好ましくは、3~5 あり、さらに好ましくは3.5~5である。

 本発明では、繊維の重量平均分子量Mw(F)、Z 均分子量Mz(F)および数平均分子量Mn(F)、なら びに紡糸におけるPAN系重合体の重量平均分子 量Mw(P)、Z平均分子量Mz(P)、Z+1平均分子量M Z+1 (P)および数平均分子量Mn(P)は、ゲルパーミエ ションクロマトグラフ法(以下、GPC法と略記 することがある)で測定され、ポリスチレン 算値として示される。なお、繊維、PAN系重 体に関わらず、多分散度Mz/Mwは次の意味を有 する。すなわち、数平均分子量Mnは、高分子 合物に含まれる低分子量物の寄与を敏感に 映する。これに対して、Mwは、高分子量物 寄与を反映し、Mzは高分子量物の寄与をさら に敏感に反映し、M Z+1 は、高分子量物の寄与をMzよりさらに敏感に 映する。そのため、分子量分布Mw/Mnや多分 度Mz/MwおよびM Z+1 /Mwを用いることにより分子量分布の広がりの 様相を評価することができる。Mw/Mnが1である とき単分散であり、大きくなるにつれて分子 量分布が低分子量側を中心にブロードになる ことを示す。一方、Mz/Mwは大きくなるにつれ 、分子量分布が高分子量側を中心にブロー になることを示す。特に、M Z+1 /Mwは、Mwの大きく異なる2種のポリマーを混合 しているような場合には、顕著に大きくなる 。

 上記のように、Mw/MnとMz/Mwの示す分子量分 布の様相は異なるため、Mw/Mnが大きい場合で 、Mz/Mwが同様に大きくなるとは限らない。

 本発明では、Mwが20万~70万を通常の分子量 、Mwが80万~1500万を超高分子量と定義する。

 本発明の前駆体繊維を用いることにより 耐炎化工程における毛羽の発生が抑制され という効果が得られる機構については現段 では特定できてはいないが、次のように推 している。高強度かつ高弾性率であるPAN系 維は、ポリエチレン繊維に代表されるよう 他の有機繊維と同様に、超高分子量のPAN系 合体を高度に延伸することでPAN系繊維中にP AN系重合体分子の伸びきり鎖を形成させ、PAN 繊維中の非晶部分や分子鎖末端を減少させ という手段により製造することが原理的に 可能であろうことは従来から知られている しかしながら、上記原理を有効に働かせる めにはPAN系重合体の溶液中のPAN系重合体の み合いを少なくなる方向に制御する必要が り、そのためにPAN系重合体の濃度を下げる とが必要となる。PAN系重合体の濃度を下げ と、溶媒の回収工程が煩雑となることから 生産性が低下する。また、PAN系繊維を多数 単繊維からなる繊維束の形態で耐炎化しよ とすると単繊維間の強度のばらつきにより ずかな割合で単繊維が破断し、毛羽が発生 る。一方、超高分子量のPAN系重合体は通常 分子量のPAN系重合体より延伸等により変形 た分子が元の形に戻るまでの時間、いわゆ 緩和時間が長いため、PAN系重合体溶液中に 超高分子量PAN系重合体をわずかに含むこと 超高分子量PAN系重合体が優先的に延伸され いわゆる伸びきり鎖を形成する。得られた 高分子量PAN系重合体をわずかに含むPAN系繊 を延伸した前駆体繊維では、前駆体繊維に 張応力が負荷された際に、前駆体繊維中の 強度かつ高弾性率である超高分子量のPAN系 合体分子の伸びきり鎖があたかもフィラー あるかのように作用し、配向した通常のPAN 重合体(前記フィラーに対するマトリックス )が破断しかけた場合に、次の(A)~(C)のような 由で破壊靭性値が上がるため、繊維束内に 断伸度の低い単繊維がなくなり耐炎化工程 の毛羽の発生が減少したのではないかと考 ている。(A)超高分子量PAN系重合体の伸びき 鎖を迂回して破壊の進展が起こる、(B)超高 子量PAN系重合体の伸びきり鎖が応力を負担 、破壊エネルギーを負担する、および(C)超 分子量PAN系重合体の分子の引き抜けが起き 。

 Mz(F)/Mw(F)を上記のように制御するための 法について説明する。本発明では、重量平 分子量Mw(P)が20万~70万、好ましくは30万~50万 あるPAN系重合体が溶媒に溶解してなるPAN系 合体溶液を紡糸溶液として用いる。Mw(P)が20 未満の低分子量のPAN系重合体溶液を用いた 合、前駆体繊維製造中には分子量が上がる とはないため、Mw(F)が20万未満となり、炭素 繊維の生産性の良い前駆体繊維が得られない 。すなわち、Mw(P)が20万未満の低分子量のPAN 重合体溶液を用いた場合、得られる前駆体 維の強度が低下して耐炎化工程で毛羽が発 しやすくなるためである。また、Mw(P)は高い 方が好ましいが、Mw(P)が70万を超えるような 分子量のPAN系重合体では絡み合いが多くな ので延伸により分子鎖が伸びきらない場合 ある。なお、伸びきり鎖長を大きくするだ であれば、重合体濃度を下げて準希薄溶液 して絡み合いを減らして延伸することによ 請求項1に規定の炭素繊維前駆体繊維を得る とは可能であるが、本発明のもう一つの目 である前駆体繊維の高生産性を達成できな 。ここで、Mw(P)は、PAN系重合体の重合時の 量体、重合開始剤および連鎖移動剤などの を変えることにより制御できる。

 紡糸溶液中のPAN系重合体の多分散度Mz(P)/M w(P)は2.7~6、好ましくは3~5.8、より好ましくは3 .2~5.5であることが好ましい。Mz(P)/Mw(P)が2.7未 では、後述する歪み硬化が弱くPAN系重合体 紡糸口金からの吐出安定性向上が不足する 一方、Mz(P)/Mw(P)が6を越えると絡み合いが大 くなりすぎて、紡糸口金からの吐出が困難 なる。PAN系重合体溶液中のより分子量の高 成分は、紡糸工程において優先的に配向し 延伸張力などの応力を負担する。その応力 分子鎖の結合エネルギーを越えると分子鎖 破断が起こり、分子鎖の破断がPAN系重合体 液中のより分子量の高い成分で優先的に起 るため、高分子量側の分子量分布ピークが 少しやすい。従って、Mz/Mwは紡糸工程にお て、小さくなることがあっても大きくなる とはなく、前駆体繊維のMz(F)/Mw(F)以上に設定 する必要がある。これらのことから、本発明 において規定するPAN系重合体の溶液を用いる ことによって、初めて工業的に成立するレベ ルのスケールで本発明の前駆体繊維を製造す ることが可能となった。

 また紡糸溶液中のPAN系重合体のM Z+1 (P)が300万~1000万であり、多分散度M Z+1 (P)/Mw(P)は6~25であることを両立することが好 しい。M Z+1 (P)はより好ましくは400万~900万であり、更に ましくは500万~850万である。また、M Z+1 (P)/Mw(P)は、より好ましくは7~17であり、更に ましくは10~15である。

 M Z+1 (P)/Mw(P)は、Mz(P)/Mw(P)より更に高分子量物に強 反映される指標であり、紡糸工程で分子量 高い成分が破断した場合でも分子量の高い 分として前駆体繊維中に残存することがで ることが多い。M Z+1 (P)が300万~1000万の範囲であれば、M Z+1 (P)/Mw(P)が6以上において、十分な歪み硬化が じPAN系重合体を含む紡糸溶液の吐出安定性 上の効果が十分である(歪み硬化については 述する)。また、M Z+1 (P)/Mw(P)が過度に大きい場合には、後述する歪 み硬化が強すぎて、PAN系重合体を含む紡糸溶 液の吐出安定性向上の効果が不足することが ある。M Z+1 (P)が300万~1000万の範囲であれば、M Z+1 (P)/Mw(P)が、25以下において、PAN系重合体を含 紡糸溶液の十分な吐出安定性が達成できる また、M Z+1 (P)/Mw(P)は6~25の範囲において、M Z+1 が300万未満では、得られた前駆体繊維の強度 が不足する場合があり、M Z+1 (P)が1000万より大きいとPAN系重合体を含む紡 溶液を紡糸口金から吐出することが困難と る場合がある。

 また、前記分子量の分布においては、Mw(P )の5倍以上の分子量成分の含有率が1~4%である PAN系重合体を用いるのが好ましい。Mw(P)の5倍 以上の含有率分子量が1%未満では、後述する み硬化が弱くPAN系重合体を含む紡糸溶液の 糸口金からの吐出安定性向上度合が不足す 場合があり、4%を超える場合には、後述す 歪み硬化が強すぎて、PAN系重合体の吐出安 性向上度合が不足する場合がある。かかる 点から、Mw(P)の5倍以上の分子量の含有率は1. 2~3.8%であることがより好ましく、1.5~3.6%であ ことがさらに好ましい。Mw(P)の5倍以上の分 量成分の含有率は、GPC法により測定される リスチレン換算分子量の対数と、屈折率差 よって描く分子量分布曲線から得ることが き、分子量分布全体の積分値に対するポリ チレン換算分子量の5倍以上の分子量である ピーク面積の積分値が占める割合で定義され る。屈折率差は、単位時間当たりに溶出され た分子の重量にほぼ対応するため、ピーク面 積の積分値が重量混合率にほぼ対応する。

 上記したようなPAN系重合体を用いること より、生産性の向上と安定化の両立を達成 きる炭素繊維前駆体繊維を製造することが きるメカニズムは、必ずしも解明しきれた ではないが、次のように推定している。す わち、本発明の炭素繊維前駆体繊維の製造 法において、紡糸口金孔からの吐出直後で 高分子量のPAN系重合体を含むPAN系重合体の 液が伸長変形し、細化する際に、超高分子 のPAN系重合体と低分子量のPAN系重合体が絡 合い、主として超高分子量のPAN系重合体の み合う間の分子鎖が緊張することで伸長粘 の急激な増大、いわゆる歪み硬化、が起き 。このような紡糸口金孔からの吐出直後のP AN系重合体の溶液の細化に伴い細化部分の伸 粘度が高くなり、流動安定化するため紡糸 度を高めることができる。本発明において いるPAN系重合体の溶液では、比較的低分子 のPAN系重合体は分子鎖の流動性が高いため 向しにくいが、超高分子量のPAN系重合体の 向効果を発現するため、本発明の炭素繊維 駆体繊維の製造方法を用いることにより数1 0倍以上の顕著な可紡性の向上効果が得られ 。

 また、Mw(P)/Mn(P)が小さいほど、得られた 素繊維前駆体繊維を焼成して得られる炭素 維において、構造欠陥の原因となりやすい 子鎖末端を重量当たり多く含む低分子成分 含有量が少なくなる。かかる観点から、Mw(P) /Mn(P)は小さいほど好ましく、Mz(P)/Mw(P)よりもM w(P)/Mn(P)が小さいことが好ましい。すなわち 分子量分布が高分子量側、低分子量側の両 にブロードであっても、紡糸口金孔からのPA N系重合体の溶液の吐出安定性の低下は少な が、得られた炭素繊維前駆体繊維を焼成し 得られる炭素繊維における構造欠陥の生成 抑制する観点から低分子量側はなるべくシ ープである(すなわち低分子量のPAN系重合体 含有量が少ない)ことが好ましく、Mz(P)/Mw(P) Mw(P)/Mn(P)に対して、1.5倍以上であることが り好ましく、更には1.8倍以上であることが ましい。本発明者らの検討によると、水系 濁、溶液法などのラジカル重合によるポリ クリロニトリル系重合体の製造を行うと、 分子の分子量分布は低分子量側に裾を引く め、通常は、Mw(P)/Mn(P)がMz(P)/Mw(P)よりも大き なる。そのため、本発明の炭素繊維前駆体 維の製造方法において用いる前述した分子 分布を有するPAN系重合体の溶液を得るため は、重合開始剤の種類と割合や逐次添加な を工夫して特殊な条件で重合を行う方法、 たは、一般的なラジカル重合を用いて重合 た異なる分子量分布を有するPAN系重合体を2 種以上配合して得る方法を採ることができる 。これらの方法の内、後者の異なる分子量分 布を有するPAN系重合体を配合する方法が簡便 である。この場合、配合する種類は、少ない ほど簡便であり、吐出安定性の観点から2種 十分なことが多い。

 配合する重合体のMwは、Mwの大きいPAN系重合 体をA成分とし、Mwの小さいPAN系重合体をB成 とすると、A成分のMwは好ましくは80万~1500万 あり、より好ましくは100万~500万であり、B 分のMwは15万~70万であることが好ましい。A成 分とB成分のMwの差が大きいほど、配合された 重合体のMz/MwおよびM Z+1 /Mwが大きくなる傾向があるため好ましいが、 A成分のMwが1500万より大きいときはA成分の生 性は低下する場合があり、B成分のMwが15万 満のときは前駆体繊維の強度が不足する場 がある。

 具体的には、A成分とB成分の重量平均分 量の比は、2~45であることが好ましく、20~45 あることがより好ましい。

 また、A成分とB成分の配合時の重量比は 0.003~0.3であることが好ましく、0.005~0.2であ ことがより好ましく、0.01~0.1であることが更 に好ましい。A成分とB成分の配合時の重量比 0.003未満では、歪み硬化が不足することが り、また0.3より大きいときは重合体溶液の 糸口金からの吐出時の粘度が上がりすぎて 出が困難となることがある。A成分とB成分の 重量平均分子量の比やA成分とB成分の配合時 重量比は、GPCにより測定される。すなわち GPCで得た分子量分布のピークをショルダー ピーク部分で分割し、A・B成分それぞれの ークのMwおよびピークの面積比を算出するこ とにより測定される。

 A成分とB成分の重合体を配合する場合、 下の(D)~(G)のような方法を採用することがで る。すなわち、(D)両重合体を混合してから 媒で希釈する方法、(E)重合体それぞれを溶 に希釈したもの同士を混合する方法、(F)高 子量物であるA成分を溶媒に希釈した後にB 分を混合溶解する方法、および、(G)高分子 物であるA成分を溶媒に希釈したものとB成分 の原料である単量体を混合して該単量体を溶 液重合することにより混合する方法、である 。これらの方法において用いる、混合方法と しては、以下の方法が好ましく採用できる。 混合槽で攪拌する方法やギヤポンプなどで定 量してスタティックミキサーで混合する方法 、二軸押出機を用いる方法である。高分子量 物を均一に溶解させる観点から、高分子量物 であるA成分を初めに溶解する方法が好まし 。特に、炭素繊維前駆体製造用とする場合 は、高分子量物であるA成分の溶解状態が極 て重要であり、わずかであっても未溶解物 存在していた場合には異物となり、フィル ー濾材に濾過されるか、濾過させないほど さいときには炭素繊維内部にボイドを形成 ることがある。

 上記(F)および(G)の方法において、具体的 は、A成分の溶媒に対する重合体濃度を好ま しくは0.1~5重量%になるようにした後、B成分 混合する、あるいは、B成分の原料単量体を 合して重合する。上記のA成分の重合体濃度 は、より好ましくは0.3~3重量%であり、さらに 好ましくは0.5~2重量%である。ここで、A成分 溶媒に対する重合体濃度は、A成分と溶媒の からなる溶液を仮想したときの、その溶液 におけるA成分の重合体濃度と定義する。上 記のA成分の重合体濃度は、より具体的には 重合体分子の集合状態として、重合体分子 わずかに重なり合った準希薄溶液の濃度と ることが好ましい。B成分を混合する、ある は、B成分を構成する単量体を混合して重合 する際に、混合状態が均一となりやすいため 、A成分の重合体濃度は、孤立鎖の状態とな 希薄溶液の濃度とすることが更に好ましい 様である。希薄溶液となる濃度は、重合体 分子量と溶媒に対する重合体の溶解性によ て決まる分子内排除体積によって決まると られるため、一概には決められないが、本 明においては概ね前記範囲にすることが好 しい。上記の重合体濃度が5重量%を超える場 合は、A成分の未溶解物が存在することがあ 、0.1重量%未満の場合は、分子量にもよるが 薄溶液となっているため効果が飽和してい ことが多い。

 本発明では、上記のように、A成分の溶媒 に対する重合体濃度を好ましくは0.1~5重量%に なるようにした後、それにB成分を混合溶解 る方法でもかまわない。工程省略の観点か 、高分子量物を溶媒に希釈したものとB成分 原料単量体を混合して単量体を溶液重合す ことにより混合する方法を採用する方が好 しい。

 A成分の溶媒に対する重合体濃度を0.1~5重 %になるようにする方法としては、希釈によ る方法でも重合による方法でも構わない。希 釈する場合は、均一に希釈できるまで撹拌す ることが重要であり、希釈温度としては50~120 ℃が好ましく、希釈時間は希釈温度や希釈前 濃度によって適宜設定すればよい。希釈温度 が50℃未満の場合は、希釈に時間がかかるこ があり、120℃を超える場合は、A成分が変質 する恐れがある。また、重合体分子の重なり 合いを減らし、均一に混合する観点から、前 記のA成分の製造から前記のB成分の混合開始 あるいは、B成分の原料単量体の重合開始ま での間、A成分の溶媒に対する重合体濃度を0. 1~5重量%の範囲に制御することが好ましい。 体的には、A成分を溶液重合により製造する に、溶媒に対する重合体濃度が5重量%以下 重合を停止させ、それにB成分を混合する、 るいは、B成分の原料単量体を混合しその単 量体を重合する方法を採用することが好まし い。通常、溶媒に対して仕込む単量体の割合 が少ないと、溶液重合により高分子量物を製 造することは困難なことが多い。このような 問題を解決するためには、通常仕込み単量体 の割合を多くするが、上記のA成分の重合体 度が5重量%以下の段階では、未反応単量体が 系に多く残存していることになる。未反応単 量体を揮発除去してから、B成分を系に追加 合してもかまわないが、工程省略の観点か その未反応単量体を用いてB成分を溶液重合 ることが好ましい。

 本発明で好適に用いられるA成分は、PANと 相溶性を有するものが望ましく、相溶性の観 点からPAN系重合体であることが好ましい。A 分の組成は、全単量体中のAN濃度が好ましく は93~100モル%、より好ましくは98~100モル%であ 。ANと共重合可能な単量体を7モル%以下共重 合させてもよい。このとき、連鎖移動定数が ANより小さい共重合成分を用いる場合は、共 合成分の量をなるべく減らすことが好まし 。

 ANと共重合可能な単量体として、例えば アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸お びそれらアルカリ金属塩、アンモニウム塩 よび低級アルキルエステル類、アクリルア ドおよびその誘導体、アリルスルホン酸、 タリルスルホン酸およびそれらの塩類また アルキルエステル類などを用いることがで る。

 本発明において、A成分であるPAN系重合体 を製造するための重合方法として、溶液重合 法、懸濁重合法および乳化重合法などを選択 することができる。ANや共重合成分を均一に 合する目的から、溶液重合法を用いること 好ましい。溶液重合法を用いて重合する場 、例えば、塩化亜鉛水溶液、ジメチルスル キシド、ジメチルホルムアミドおよびジメ ルアセトアミドなどPANが可溶な溶媒が好適 用いられる。必要とするMwを得にくい場合 、連鎖移動定数の小さい溶媒を用いた重合 、すなわち、塩化亜鉛水溶液による溶液重 法、あるいは水による懸濁重合法が好適に いられる。

 本発明で好適に用いられるB成分において 、それを構成するAN比率は、好ましくは93~100 ル%であり、より好ましくは98~100モル%であ 。ANと共重合可能な単量体を7モル%以下なら 重合させてもよいが、共重合成分量が多く るほど耐炎化工程で共重合成分が熱分解し 分子鎖断裂が顕著となって、炭素繊維の引 強度が低下する。

 ANと共重合可能な単量体として、耐炎化 促進する化合物を用いることができる。例 ば、このような化合物として、アクリル酸 メタクリル酸、イタコン酸およびそれらア カリ金属塩、アンモニウム塩および低級ア キルエステル類、アクリルアミドおよびそ 誘導体、アリルスルホン酸、メタリルスル ン酸およびそれらの塩類またはアルキルエ テル類などを用いることができる。

 本発明におけるB成分の重合方法としては 、溶液重合法、懸濁重合法および乳化重合法 などから選択することができ、ANや共重合成 を均一に重合する目的から、溶液重合法を いることが好ましい。溶液重合法を用いて 合する場合、例えば、塩化亜鉛水溶液、ジ チルスルホキシド、ジメチルホルムアミド よびジメチルアセトアミドなどPANが可溶な 媒が好適に用いられる。中でも、PANの溶解 が高いので、溶液重合法の溶液はジメチル ルホキシドを用いることが好ましい。これ の重合に用いる原料は、全て濾過精度1μm以 下のフィルター濾材を通した後に用いること が好ましい。

 前記したPAN系重合体を、PAN系重合体を可 なジメチルスルホキシド、ジメチルホルム ミドおよびジメチルアセトアミドなどの有 溶媒あるいは、塩化亜鉛水溶液やロダンソ ダ水溶液など、無機塩の水溶液である無機 溶媒に溶解し、紡糸溶液とする。溶液重合 用いる場合、重合工程で得られたPAN系重合 を脱溶媒、分離し、紡糸溶媒に再溶解する 程が不要となるため、重合溶媒と紡糸溶媒 同じものにすることが好ましい。

 紡糸溶液におけるPAN系重合体の重合体濃 は、溶媒によって重合体濃度と粘度の関係 大きく変化することから、一概にはいえな が、5~30重量%の範囲であることが好ましい 有機溶媒の場合は、14~25重量%であることが り好ましく、18~23重量%であることが最も好 しい。無機塩溶媒の場合は、5~18重量%の範囲 であることが好ましい。かかる重合体濃度が 5重量%未満では溶媒使用量が多くなり経済的 なく、凝固時に繊維内部にボイドが生じて 維物性を低下させることがある。一方、重 体濃度が30重量%を超えると粘度が上昇し、 糸が困難となる傾向を示す。紡糸溶液の重 体濃度は、使用する溶媒の量により調製す ことができる。

 本発明において重合体濃度とは、PAN系重 体の溶液中に含まれるPAN系重合体の重量%で ある。具体的には、PAN系重合体の溶液を計量 した後、PAN系重合体を溶解せずかつPAN系重合 体溶液に用いる溶媒と相溶性のあるものに、 計量したPAN系重合体溶液を脱溶媒させた後、 PAN系重合体を計量する。重合体濃度は、脱溶 媒後のPAN系重合体の重量を、脱溶媒する前の PAN系重合体の溶液の重量で割ることにより算 出する。

 45℃の温度におけるPAN系重合体溶液の粘 は、15~200Pa・sの範囲であることが好ましく より好ましくは20~100Pa・sの範囲であること より好ましく、25~60Pa・sの範囲であることが 最も好ましい。溶液粘度が15Pa・s未満では、 糸糸条が毛管破断しやすくなるため、可紡 が低下する傾向を示す。また、溶液粘度は2 00Pa・sを超えるとゲル化し易くなり、フィル ー濾材が閉塞しやすくなる傾向を示す。紡 溶液の粘度は、Mw(P)と重合体濃度、溶媒種 などにより制御することができる。

 本発明において45℃の温度におけるPAN系 合体溶液の粘度は、B型粘度計により測定す ことができる。具体的には、ビーカーに入 たPAN系重合体溶液を、45℃の温度に温度調 された温水浴に浸して調温した後、B型粘度 で粘度を測定する。B型粘度計として、例え ば、(株)東京計器製B8L型粘度計を用い、ロー ーNo.4にて、PAN系重合体溶液の粘度が0~100Pa sの範囲はローター回転数6r.p.m.、100~1000Pa・s 範囲はローター回転数0.6r.p.m.で測定する。

 本発明において、紡糸溶液を紡糸するに 立ち、紡糸溶液をフィルター濾材に通し、 合体原料および各工程において混入・生成 た不純物を除去することが好ましい。フィ ター濾材の濾過精度は3~15μmが好ましく、5~1 5μmがより好ましく、5~10μmがさらに好ましい 本発明において、フィルター濾材の濾過精 とは、フィルター濾材を通過する間に95%を 集することができる球粒子の粒子径(直径) 定義する。そのため、フィルター濾過精度 その開孔径と関係し、開孔径を狭くするこ で濾過精度を高めることが一般的である。 かしながら、濾過精度が高いほど紡糸溶液 受ける剪断速度は大きくなり、Mz(F)/Mw(F)を低 下させる傾向があるため、本発明では、濾過 精度を下げることが好ましい。ただし、かか る濾過精度が15μmより大きいと、得られる紡 溶液中の異物が増大し、焼成延伸工程にお る延伸時に毛羽を発生させる場合がある。 方、濾過精度が3μmよりも小さいと異物だけ でなく、紡糸溶液中に含まれる超高分子量成 分を選択的に濾過し、Mz(F)/Mw(F)を低下させる 合がある。

 本発明では、前記した紡糸溶液を、乾式 湿式、または乾湿式紡糸法で紡糸すること より、炭素繊維前駆体繊維を製造すること できる。中でも乾湿式紡糸法は、本発明に けるPAN系重合体の特性を発揮させるため、 ましく用いられる。乾湿式紡糸法および湿 紡糸法のいずれでも公知の方法に従って紡 すればよい。ただし、設定する条件によっ は超高分子量成分を中心とした分子鎖の切 が起こることがあるため、超高分子量成分 含有する前駆体繊維を製造する際に、注意 べき点を述べる。

 紡糸に用いる口金孔径は、0.04mm~0.4mmであ ことが好ましく、0.1~0.15mmであることがより 好ましい。口金孔径が0.04mmより小さい場合、 口金吐出時に剪断応力がかかり、分子間の絡 み合いを失うだけでなく、極端な場合、分子 鎖の切断を起こすため、Mz(F)/Mw(F)を低下させ 場合がある。また、一方、口金孔径が0.4mm 超えると1.5dtex以下の単繊維繊度の繊維を得 ためには過剰な延伸が必要となる。このよ な処理を行うと、分子鎖の切断が生じ、Mz(F )/Mw(F)を低下させる場合がある。

 乾湿式紡糸法においては、紡糸溶液の紡 ドラフト率は2.5~15の範囲であることが好ま い。紡糸ドラフト率は、好ましくは5~15の範 囲であり、さらに好ましくは10~15の範囲であ 。

 ここで紡糸ドラフト率とは、紡糸糸条が紡 口金を離れて最初に接触する駆動源を持っ ローラーの表面速度(凝固糸の引き取り速度 )を、紡糸口金孔内の紡糸溶液の線速度(吐出 速度)で割った値をいう。すなわち、紡糸ド ラフト率は次式で表されるものである。

・紡糸ドラフト率=(凝固糸の引き取り速度)/( 出線速度)
この吐出線速度とは、単位時間当たりに吐出 される紡糸溶液の体積を口金孔面積で割った 値をいう。したがって、吐出線速度は、紡糸 溶液の吐出量と紡糸口金の孔径で決まる。紡 糸溶液は、紡糸口金孔を出た後空中で大きく 変形し、その後凝固浴に接して次第に凝固し て凝固糸条となる。凝固糸条よりも未凝固で ある紡糸溶液の方が伸び易いので、紡糸溶液 の変形の大部分は空中で起こる。 上記の紡 ドラフト率を高めることにより、繊維を細 化することが容易になり、それ以降の製糸 程の延伸倍率を低く設定できる。紡糸溶液 状態で延伸すると、溶媒によりPAN系重合体 絡み合いが弱まり、それ以降の製糸工程で 延伸に比べて小さな張力で延伸でき、分子 の切断が起こりにくいので好ましい。紡糸 ラフト率が2.5未満では、それ以降の紡糸工 の延伸倍率を高く設定せざるを得ないこと 多い。また、Mz(F)/Mw(F)の低下を抑制するた に紡糸ドラフトは15以下で十分である。

 本発明において、凝固浴には、PAN系重合 溶液の溶媒として用いたジメチルスルホキ ド、ジメチルホルムアミドおよびジメチル セトアミドなどの溶剤と、凝固促進成分を ませることが好ましい。凝固促進成分とし は、前記のPAN系重合体を溶解せず、かつPAN 重合体溶液に用いた溶媒と相溶性があるも が好ましく、具体的には、水を使用するこ が好ましい。凝固浴条件は、乾湿式紡糸あ いは、湿式紡糸それぞれに適した公知の条 を設定することができる。

 PAN系重合体溶液を凝固浴中で凝固して糸 を形成し(以後、膨潤糸と記載)、駆動源を ったローラーで引き取る。本発明で用いるPA N系重合体の特性を発揮させるためにその膨 糸の引き取り速度は、20~500m/分であることが 好ましい。その引き取り速度が20m/分未満で 生産性が落ち、また引き取り速度が500m/分を 超えると必然的にフィルター濾材や口金孔内 を紡糸溶液が通過する際に剪断応力が大きく なり、Mz(F)/Mw(F)を低下させる場合がある。

 引き取られた膨潤糸を、引き続き前延伸 、乾燥熱処理して、炭素繊維前駆体繊維が られる。必要に応じて、乾燥熱処理の後に 後延伸しても良い。

 本発明において前延伸とは、凝固浴引取 ーラーの出から乾燥熱処理までに延伸する と(工程)を指す。前延伸は、空気中または 水浴中で行うのが一般的である。通常、凝 後の糸条に残存する溶媒を水洗工程により 去した後に、浴中または空気中で延伸を行 う。なお、凝固後の糸条を直接浴中延伸し あとに水洗してもよい。また、後延伸は省 してもよいし、後延伸を行う場合には乾熱 伸であっても加熱媒体中での延伸であって 良く、それらの組み合わせでもよいが、通 、加熱媒体中で行うのが一般的である。

 本発明では、前延伸や後延伸での張力を 御することにより、Mz(F)/Mw(F)を前記範囲と る炭素繊維前駆体繊維を得ることができる

 前延伸する際には、張力を1.5~3mN/dtex、好 しくは1.8~2.8mN/dtex、より好ましくは2~2.8mN/dte xとするのがよい。前延伸での張力が3mN/dtexよ りも大きくなると、均一な延伸ができなくな り、分子配向の均一性が保てなくなることが ある。また、分子鎖の切断が起こり、Mz(F)/Mw( F)を低下させることが多い。従来知見では、 子配向させるために延伸倍率を上げていた 、本発明では、製糸工程全体の張力を下げ ことが重要である。しかし、前延伸での延 張力が1.5mN/dtexよりも小さくなると、得られ る前駆体繊維の分子配向が不十分となり、得 られる炭素繊維のストランド引張弾性率が低 下することがある。

 前延伸での張力は延伸温度と延伸倍率に って制御できるが、PAN系重合体の種類によ て変わる。特に、PAN系重合体のMzが大きい 張力が大きくなるため、延伸倍率を落とす 延伸温度を上げることが好ましい。なお、 延伸での張力とは、前延伸工程中の糸条進 に対するローラー直前で張力を測定し、そ 測定値の中で最大の張力を意味する。乾湿 紡糸で複数の延伸浴中で前延伸を行う場合 最大延伸張力発現箇所は、最後部の浴であ 場合が多い。一方、湿式紡糸の場合は、凝 浴出の引取ローラー付近である場合が多い 張力は、糸条の荷重を繊度で除して求める 荷重は張力計により走行する糸条を挟み込 で測定する。繊度(dtex)は、測定箇所の工程 条を定長乾燥させた後、一定の長さの糸条 量を測定して求める。

 前延伸での延伸温度は、好ましくは60~95 、より好ましくは65~85℃、更に好ましくは65~ 75℃である。張力を下げる観点から延伸温度 高い程好ましいが、95℃よりも高い場合、 繊維間で接着が発生し、品位が低下するこ がある。一方、60℃よりも低い場合、延伸性 が悪くなり生産性が低下することがある。前 延伸を複数の延伸浴中で行う場合、延伸温度 とは、その中で最大浴槽温度を指す。

 前延伸での延伸倍率とは、前延伸工程の 終ローラー回転速度を凝固浴出の引取ロー ー回転速度で割った値である。前延伸での 伸倍率は、1~5倍であることが好ましく、1~3 であることがより好ましい。延伸張力を下 るためには延伸倍率が小さい方がよいが、 伸倍率が1倍未満であると分子配向緩和が生 じ、強度、耐熱性ともに劣った製品になるこ とが多い。一方、延伸倍率が5を超えると、 糸工程での寸法安定性の悪化や、単繊維間 着が起こり、製糸性が低下する。焼成工程 おいても、毛羽が発生し、物性低下を招き すい。

 上記した前延伸工程の後、単繊維同士の 着を防止する目的から、前延伸された糸条 シリコーン化合物等からなる油剤を付与す ことが好ましい。シリコーン油剤を用いる 合、耐熱性の高いアミノ変性シリコーン等 変性シリコーンを含有するものを用いるこ が好ましい。

 前延伸された糸条は次に乾燥熱処理され ことが好ましい。乾燥熱処理での最高温度 160~200℃であることが好ましく、165~198℃で ることがより好ましく、175~195であることが に好ましい。乾燥熱処理での処理時間は10 から200秒が好ましい結果を与える。乾燥熱 理での最高温度が160℃を下回ると、得られ 炭素繊維前駆体繊維の緻密性が不十分とな 、本発明の効果が得にくくなる場合がある また、乾燥熱処理での最高温度が200℃を超 ると、単繊維間の融着が顕著となり、炭素 維とした場合に、得られる炭素繊維の引張 度が低下することがある。乾燥熱処理にお て、糸条の収縮に合わせるため延伸倍率を1 下としても構わない。また、乾燥熱処理と 時に延伸(以下、乾熱延伸と記述することが ある)を行うことも工程簡略化の観点から好 しいものである。なお、本発明においては 後述する加熱媒体中で行う後延伸と、ここ 述べている乾熱延伸とは、別の工程として う。乾熱延伸での張力は1.8~10mN/dtexであるこ が好ましい。乾熱延伸でのローラー表面温 は、好ましくは140~200℃である。かかる張力 と温度を上記の範囲に調整することにより、 Mz(F)/Mw(F)が低下することなく本発明の前駆体 維を得られる。乾熱延伸での延伸倍率は好 しくは1.1~6倍、より好ましくは2~6倍である かかる延伸倍率が1.1倍未満では前駆体繊維 強度が不足することがある。一方、かかる 伸倍率が6倍を超えるとMz(F)/Mw(F)が低下する とが多い。

 生産性の向上や結晶配向度の向上を目的 して、乾燥熱処理された糸条を加熱媒体中 後延伸して炭素繊維前駆体繊維を得ること 可能である。後延伸を行う場合に適用する 熱媒体としては、加圧水蒸気あるいは過熱 蒸気が生産安定性や低コスト化に有利なた 好適に用いられる。後延伸を適用する場合 後延伸時の張力は1.8~6mN/dtexであることが好 しく、3~6mN/dtexであることがより好ましく、 4~5.8mN/dtexであることが更に好ましい。後延伸 での張力が6mN/dtexよりも大きくなると、分子 の切断が起こり、Mz(F)/Mw(F)が低下すること 多い。後延伸での張力を1.8mN/dtexよりも小さ するためには、延伸倍率を下げるか、もし は温度を上げる(加圧水蒸気を加熱媒体とし て用いる場合、その圧力を上げる)手法があ が、前者は生産性を損ない、後者は溶断に る延伸切れが発生しやすい。加圧水蒸気を 熱媒体として用いる場合、後延伸での張力 、延伸倍率と加圧水蒸気圧によって制御で るが、PAN系重合体の種類によって変わるの 、適宜調整することが好ましい。後延伸で 張力は、延伸チューブなどの延伸ゾーンか 出た直後の走行する糸条を張力計により挟 込んで荷重を測定し、荷重を測定箇所の繊 で割って求めることができる。後延伸での 伸倍率は1.1~10倍であることが好ましく、1.1~6 倍であることがより好ましく、1.1~3倍である とがさらに好ましい。加熱媒体として加圧 蒸気を用いて後延伸を行う場合、用いる加 水蒸気の水蒸気圧は0.1~0.7MPaが好ましく、0.1 ~0.5MPaがより好ましく、0.2~0.4MPaがさらに好ま い。なお、延伸工程が増えれば増えるほど Mz(F)/Mw(F)が低下する可能性が高まるため、 かる後延伸工程は適用しないことが好まし 。後延伸工程を適用しない場合には、生産 を高めるために先に述べた乾熱延伸を行う とが好ましい。

 前延伸および乾熱延伸と後延伸の全体に る延伸倍率、(以下、トータル延伸倍率と記 載する)は高いほど、Mz(F)/Mw(F)を低下させるこ とが多いが、得られる炭素繊維の力学物性を 高める目的からは高めた方が好ましく、両者 のバランスから好ましくは1~15倍、より好ま くは2~13倍、更に好ましくは3~5倍とする。

 このようにして得られた前駆体繊維の単 維繊度は、好ましくは0.1~1.2dtex、より好ま くは0.2~1.0dtex、さらに好ましくは0.3~0.8dtexで る。前駆体繊維の単繊維繊度が小さすぎる 、ローラーやガイドとの接触による糸切れ 生などにより、製糸工程および焼成工程の ロセス安定性が低下することがある。一方 単繊維繊度が大きすぎると、耐炎化後の各 繊維における内外構造差が大きくなり、続 炭化工程でのプロセス性低下や、炭素繊維 引張強度および引張弾性率の低下を招くこ がある。なお、本発明における単繊維繊度( dtex)とは、単繊維10,000mあたりの重量(g)である 。

 本発明において、得られる前駆体繊維の 晶配向度は、85~90%であることが好ましく、 り好ましくは85~88%である。結晶配向度が85% 下回ると、得られる炭素繊維の引張弾性率 低下することがある。一方、結晶配向度が9 0%を越えると、耐炎化工程において延伸倍率 高くできず、毛羽が発生することがある。 だし、前駆体繊維のMz(F)/Mw(F)を制御するこ で、本発明以外の前駆体繊維と比べ、同等 結晶配向度でも耐炎化工程での毛羽の発生 抑制できる。

 また、本発明の前駆体繊維の単繊維引張 度のワイブル形状係数m(P)は11以上であるこ が好ましい。ワイブル形状係数は単繊維引 強度のばらつきを示すものであり、高いほ 炭素繊維製造工程での毛羽を抑制できるの 好ましい。ワイブル形状係数は、好ましく 13以上であり、20以下が工業的な限界である 。従来、前駆体繊維の単糸伸度のばらつきが 小さいことを規定した出願はあったが、ばら つきの大小よりも、単繊維強度分布形状が重 要であることが分かった。従来の手法で得ら れる前駆体繊維は、ワイブル形状係数が、11 上となるものはなかった。また、かかるワ ブル形状係数が高い前駆体繊維を用いると その前駆体繊維を使用した焼成工程の途中 のワイブル形状係数が高くなる傾向を示し 最終製品である炭素繊維においてもワイブ 形状係数が高いものが得られることを見出 た。そのため、前駆体繊維のワイブル形状 数を高めることで焼成工程安定性に優れ、 性ばらつきを低減した炭素繊維が得られる

 単繊維引張強度は、JIS R7606(2000年)に基づ いて、炭素繊維の場合と同様にして求める。 まず、20cmの長さの前駆体繊維の束をそれぞ の単繊維の本数が前駆体繊維の束の25±5%と るように4分割し、分割した4つの束それぞれ から単繊維を無作為に100サンプリングする。 サンプリングした単繊維は、穴あき台紙に接 着剤を用いて固定する。単繊維を固定した台 紙を引張試験機に取り付け、試長25mm、引張 度5mm/分、条件で引張試験をおこなう。繊維 断面積は、後述する方法で測定される繊度 よび密度より平均断面積を算出する。この うにして求めた単繊維引張強度をln強度と 壊確率Fの関数1/(1-F)の二重対数とでワイブル プロットしてその傾きからワイブル形状係数 を算出する。

 得られる炭素繊維前駆体繊維は、通常、 続繊維(フィラメント)の形状である。また その繊維束1糸条を構成するフィラメント(単 繊維)の本数は、好ましくは1,000~3,000,000本、 り好ましくは12,000~3,000,000本、さらに好まし は24,000~2,500,000本、最も好ましくは24,000~2,000 ,000本である。本発明で得られる炭素繊維前 体繊維は、延伸性が高いので単繊維繊度を さくできる。したがって、所望の総繊度の 維束を得るために1糸条あたりの単繊維の本 を増やすことがある。ただし、1糸条あたり の単繊維の本数は、生産性の向上の目的から は多い方が好ましいが、多すぎると、束内部 まで均一に耐炎化処理できないことがある。 単繊維繊度と単繊維の本数は目的に応じて適 宜調整される。

 次に、本発明の炭素繊維の製造方法につ て説明する。

 本発明の炭素繊維の製造方法は、前記の うな炭素繊維前駆体繊維を、200~300℃の温度 の空気中において延伸比0.8~3.0で延伸しなが 耐炎化する耐炎化工程と、耐炎化工程で得 れた繊維を、300~800℃の温度の不活性雰囲気 において延伸比1~1.3で延伸しながら予備炭 する予備炭化工程と、予備炭化工程で得ら た繊維を1,000~3,000℃の温度の不活性雰囲気中 において延伸比0.96~1.05で延伸しながら炭化す る炭化工程を順次経て処理することで、炭素 繊維を製造するものである。

 本発明の炭素繊維の製造方法において、 炎化とは、酸素を4~25mol%以上含む雰囲気中 おいて、200~300℃で熱処理することで、炭素 維前駆体繊維を部分的に環化・酸化し耐熱 を高める工程をいう。通常、製糸工程と耐 化工程以降は非連続であるが、製糸工程と 炎化工程の一部もしくは全てを連続して行 ても構わない。

 耐炎化する際の延伸比は、0.8~3、好まし は1.3~3、より好ましくは1.4~2である。耐炎化 る際の延伸比が0.8を下回ると、耐炎化繊維 のPAN系重合体の部分環化構造の配向度が不 分となり、最終的に得られる炭素繊維の引 弾性率が低下する。また、耐炎化する際の 伸比が3を超えると、毛羽や糸切れ発生によ り、生産の安定性が低下する。本発明の前駆 体繊維を用いることで大幅に耐炎化工程の延 伸比を向上できるため、生産性が向上する。 また、耐炎化工程における延伸張力は0.1~0.25g /dtexとすることが好ましい。耐炎化工程にお る延伸張力が0.1g/dtex未満のときは、耐炎化 維中のPAN系重合体の部分環化構造の配向度 向上することが困難であり、0.25g/dtexを越え るときは、耐炎化工程での毛羽が発生しやす くなる。本発明の前駆体繊維は、耐炎化工程 での延伸張力を上げずに延伸倍率を高められ る構造を有しており、生産性向上に適してい る。

 また、本発明の耐炎化繊維中のPAN系重合 の部分環化構造の結晶配向度は、78~85%とす ことが好ましく、より好ましくは80~85%であ 。これらは、上述の延伸比および/または張 力の条件を設定することにより達成される。 すなわち、延伸比および/または張力を高め ことでかかる結晶配向度を高めることがで る。かかる結晶配向度が78%を下回ると、得 れる炭素繊維の引張弾性率が低下すること ある。一方、結晶配向度が85%を越えると、 炎化工程において高延伸倍率を設定すると 羽を発生させることがあり、生産性が低下 ることがある。

 耐炎化の処理時間は、10~100分の範囲で適 選択することができるが、続く予備炭化工 の生産の安定性、および、炭素繊維の力学 性向上の目的から、得られる耐炎化繊維の 重が1.3~1.38の範囲となるように設定するこ が好ましい。

 耐炎化工程において、糸条を加熱する手 は、電気ヒーターやスチーム等で加熱した 気の中に前駆体繊維を通過させるテンター 赤外線加熱装置のような非接触式と、プレ ト式ヒーターやドラム式ヒーター等のよう 接触式のいずれもが用いられる。熱伝達効 を向上するために、加熱の少なくとも一部 接触式加熱方式とすることが好ましく、加 の全部を接触式加熱方式とすることがより ましい。予備炭化、および、炭化は、不活 雰囲気中で行なわれるが、用いられる不活 ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、 よび、キセノンなどが用いられる。経済的 観点からは、窒素が好ましく用いられる。

 また、本発明の炭素繊維について説明す 。

 本発明の炭素繊維は、結晶子サイズ(Lc(nm)) ラマン分光法で測定される炭素繊維表面の ラメーター(I D /I G 、I V /I G 、ν G (cm -1 ))が、以下の式(1)~(4)を満たす炭素繊維である 。
1.5≦Lc≦2.6                   ・・ (1)
0.5≦I D /I G ≦1                  ・・・(2)
0.4≦I V /I G ≦0.8                ・・・(3)
1605≦ν G +17(I V /I G )≦1610       ・・・(4)
 まず、本発明で用いる各種特性について説 する。

 炭素繊維は、無数の黒鉛結晶子から構成 れた多結晶体である。炭素繊維製造時の炭 処理の最高温度(以下、炭化温度と略記する ことがある)を上げると炭素繊維中の炭素網 の再配列が生じ、結晶子サイズの増大と結 の配向が進むため、炭素繊維の引張弾性率 上がる。つまり、他の条件が一定の下、炭 温度を上げれば、結晶サイズLcと引張弾性率 YMはいずれも上昇するという関係がある。

 次に、ラマン分光法で測定されるパラメー ーについて説明する。ラマン分光法は炭素 料の構造欠陥に対して非常に敏感な測定法 ある。ラマン分光法で測定されるスペクト を二次関数を用いたカーブフィッティング よって1360cm -1 付近、1480cm -1 付近、1600cm -1 付近の3種のピークに分割する。3種のピーク それぞれ、Dバンド(1360cm -1 付近)、DバンドとGバンドの谷(1480cm -1 付近:本発明においては谷もピークと呼ぶ)、G バンド(1600cm -1 付近)と呼ばれ、それぞれのピーク強度をI D 、I V 、I G と記述する。Dバンドは黒鉛構造の乱れを反 するもの、1480cm -1 付近のピークも同様に黒鉛構造の乱れを反映 するもの、Gバンドは黒鉛結晶構造の振動モ ドそのものを反映するものである。これら 元に検討を行う場合、ピーク強度比を採っ 、通常、検討がなされることが多い。I D /I G およびI V /I G は、結晶子サイズ(Lc)と相関が高く、結晶子 イズの増大とともにI G が大きくなり、I D 、I V が小さくなる。さらにパラメーターの意味の 詳細を述べる。I D /I G は、黒鉛構造のほとんど見られない耐炎糸で は2程度であり、炭化温度500℃から900℃にか て1付近まで低下し、その後は、炭化温度に して若干鈍感になるものの、炭化温度の増 に対して単調減少の傾向となる。また、I V /I G は、炭化温度の増加に対して複雑な挙動を示 すが、炭化温度が1200℃付近から1700℃付近に けて、0.8から0.4へ減少する傾向を示す。す わち、式(1)~(3)は炭化温度が1200~1700℃程度で 炭化処理したことを示している。Lcは、炭化 度が100℃高まると1.5nm程度高まる。次にGバ ドのピーク波数ν G (cm -1 )について述べる。Gバンドのピーク波数は黒 結晶面の広がりに伴う、π電子共役構造と 相関性が大きいと考えられており、炭化温 が1200~1700℃の領域においては炭化温度が高 ほどピーク波数は高まる傾向にある。炭化 度が100℃高まるとν G は3cm -1 程度高まる。すなわち、従来の炭素繊維にお いては、炭化温度が1200℃から高まるにした って、I V /I G が減少するのと同時にν G が増加し、ここで、本発明の炭素繊維は、現 象としてI V /I G が同じ値のとき、ν G が高いほど炭素繊維の品位が向上することが 本発明のための検討により判明した。I V /I G が同じ値で、ν G が高いということは、前記理解を基にすると 、結晶子サイズは同等にも関わらず、π電子 役構造が発達していることを表していると えられる。一方、炭素繊維の品位が向上す ことは炭素繊維中の構造欠陥が低減してい ことに対応すると考えられることから、本 明の炭素繊維は、従来の炭素繊維と比較し I V /I G の値に対してν G が高く、このような(結晶子サイズの割にπ電 子共役構造が発達している)性質を持つが故 、炭素繊維の品位が向上したものと推定さ る。先に記載したとおり、I V /I G の値は炭化温度の増加に対して減少する傾向 を示し、ν G は炭化温度の増加に伴い高まる傾向をもつこ とから、これらは逆相関の関係にある。そこ で、これらのいずれかに適当な係数をかけた 上で和を取ることにより、その炭素繊維の有 する結晶子サイズとπ電子共役構造の関係を す指標となる値が得られると考えている。 かる本発明の炭素繊維の構造の特徴を示す のを実験式として表現したものが式(4)であ 。従来の炭素繊維を式(4)の形で表現すると1 600≦ν G +17(I V /I G )≦1604となる。すなわち、本発明の炭素繊維 、式(1)~(3)で示される炭化温度で製造され、 かつ、式(4)の関係を満たす構造を有するもの である。かかるパラメーターが1605を下回る き、得られる炭素繊維の品位は従来の炭素 維と同等の品位しか得られないし、一方、 かるパラメーターが1610を上回っても構わな が、工業的にはその程度が上限である。よ 好ましくは、かかるパラメーターが1607以上 である。本発明で得られた前駆体繊維を用い ることによりかかるパラメーターを範囲内に 制御することができ、炭素繊維の品位を高め ることができる。

 次に、炭素繊維の単繊維引張強度のワイ ル形状係数mについて説明する。mは欠陥に する敏感性を示す指標となる特性であり、 いほど鈍感であることを意味している。金 材料であれば20前後、弾性率が高い材料にな ると欠陥先端部分に応力集中が起こりやすく なり、従来の炭素繊維束では5前後である。 素繊維の中でも、弾性率が41GPa程度のピッチ 系低弾性率の炭素繊維はmが7.9程度であり、 性率が940GPa程度のピッチ系高弾性率炭素繊 はmが4.2程度であり、弾性率が高いほどmは小 さい。また、欠陥サイズやその数密度を示す 特性でもあり、それらが均一であるほどmが きくなる。例えば、欠陥を多く含有し、炭 繊維の長さ方向でも、どこの単繊維をとり しても低強度のレベルで一定に破断するも に関してもmは大きくなる。炭素繊維の引張 度は、その破壊靭性値と欠陥サイズ、欠陥 状に大きく左右される。高強度の炭素繊維 、欠陥が小さくて少ないため単繊維間で欠 サイズ・形状は一様となりにくい。そのた 、mは相対的に大きくなる傾向となる。なお 、本発明の炭素繊維は繊維束として形成され ているのが一般的であり、後述するようにそ の繊維束からサンプリングして単繊維引張試 験を行なう。

 本発明の炭素繊維は、Lcが1.8~2.6の範囲にお て、以下の式を満たす。
50Lc+210≦YM≦50Lc+270        ・・・(5)
従来使用されている炭素繊維は、一般的には 、Lcが1.8~2.6の範囲において、50Lc+150≦YM<50Lc +210の関係となるが、従来の炭素繊維前駆体 維を用い、Lcが1.8~2.6の範囲において、50Lc+210 ≦YM≦50Lc+270となる炭素繊維が得られる程度 結晶の配向を進めるためには、焼成工程の 処理を高張力下で行う必要がある。しかし このような高張力下で熱処理を行うと、毛 が発生し、頻繁にローラーへの毛羽の巻付 を除去する必要があった。また、炭素繊維 欠陥サイズや欠陥数密度の分布が大きくな 、mが小さくなっていた。これに対し、本発 で得られる炭素繊維前駆体繊維は分子鎖の ながりが長く、均質なので、炭化処理をよ 高張力で行える均質な予備炭化処理繊維を ることができるようになり、本発明の炭素 維を製造できるようになったものである。

 本発明の炭素繊維は、後述する方法で測 されるmが6以上であり、好ましくは6.1以上 あり、より好ましくは7以上である。mが6未 の場合には、複合材料として使用するに際 、毛羽が増加する。mは高いほど好ましいが 10以上とすることは困難である。mを高める めには、均質で単繊維間ばらつきが少ない 駆体繊維を用いることが重要である。更に 、炭素繊維を製造する際の焼成工程の各工 を経た繊維のワイブル形状係数mが低下しな いように焼成各工程で毛羽を発生させない程 度に、限界延伸比に対し余裕を持った延伸比 を設定することが重要である。ワイブル形状 係数mが低下しないように延伸比を低く設定 ると必要とするYMが得られないことがあり、 前駆体繊維の分子鎖のつながりを長くして、 焼成工程の破断までの延伸比を高く設定でき るようにする必要がある。

 単繊維引張強度は、JIS R7606(2000年)に基づ いて、以下の通りにして求める。まず、20cm 長さの炭素繊維の束をそれぞれの単繊維の 数が前駆体繊維の束の25±5%となるように4分 し、分割した4つの束それぞれから単繊維を 無作為に100サンプリングする。サンプリング した単繊維は、穴あき台紙に接着剤を用いて 固定する。単繊維を固定した台紙を引張試験 機に取り付け、側面の紙を切り、試長25mm、 張速度1mm/分で引張試験をおこなう。サンプ ング、台紙への固定、試験機への取り付け ど全ての工程において引張試験前に単繊維 破断させてしまうことがあるので、弱糸が 択的に除去されるのを避けるために、破断 た場合にはそのバッチをやり直す。繊維の 面積は、後述する方法で測定される繊度お び密度より平均断面積を算出する。このよ にして求めた単繊維引張強度を強度の対数 破壊確率Fの関数1/(1-F)の二重対数とでワイ ルプロットしてその傾きからワイブル形状 数を算出する。

 本発明の第2ワイブル形状係数m”は破壊 率Fが0.3~1の範囲での直線近似により求めら るワイブル形状係数と定義する。第2ワイブ 形状係数m”は5.7以上であることが好ましい 。前述したmはワイブルプロットから1直線近 して求めるものであるが、炭素繊維のワイ ルプロットは屈曲することも多く見られる 該屈曲点より低強度側の材料は欠陥を多く 有し、ワイブル形状係数が大きいことが多 、該屈曲点より高強度側の材料はワイブル 状係数が小さいことが多い。複合材料とし の破断状況を観察すると単繊維の破断によ 破断点付近で応力集中が発生して隣接単繊 の破断誘発を発生させやすいものの、1本の 単繊維の破断がきっかけで複合材料全体の破 断と至ることはなく、単繊維の破断が全単繊 維のうちの10~30%程度の本数で起きたときに複 合材料としての破断が起こることが多い。そ のため、該屈曲点より低強度側のワイブル形 状係数は複合材料強度に影響を与えにくいこ とがあり、該屈曲点より高強度側のワイブル 形状係数が重要であることが多い。該屈曲点 は破壊確率Fが0.1~0.6程度で変動するものであ が、0.3~1の範囲でワイブル形状係数を求め もその値に大差なく、技術的意義を誤るこ はない。m”はmと同様の考え方で制御するこ とができ、該屈曲点より低強度側のワイブル 形状係数を大きくする、すなわち、均一かつ 大きなサイズの欠陥を有するようにすること でm”を高くすることができる。m”を5.7以上 することは、欠陥の起因となることを極力 なくした均質であり、分子鎖のつながりの きな前駆体繊維を用いることで達成される m”が5.7未満であると、得られるCFRPにおい 引張強度の変動係数(CV値)が大きくなること ある。

 本発明では、単繊維引張試験の1直線近似し たワイブルプロットの相関係数の二乗をR 2 と定義する。本発明のR 2 が好ましくは0.98~1であり、より好ましくは0.9 9~1である。1-F(F:破壊確率)をx軸に、S(負荷す 応力の積)をy軸にとってプロットすると、S 最大値が一方向CFRPの引張強度と相関が高い Sのプロットは上に凸の変曲点が一つの曲線 となることが理想であるが、屈曲度が高い場 合は変曲点が複数ある曲線となり、平均単繊 維引張強度の割にSの最大値が小さく、有効 力学的特性を発揮することができないこと 多い。このSは、破断した単繊維の分の応力 他の単繊維が均質に負担することを想定し おり、破断した単繊維周辺の応力集中が起 るため、複合材料特性を直接示すものでは いが、Sは間接的に複合材料の特性を示す一 つの指標として有効である。かかるR 2 は、ワイブルプロットの屈曲度を示し、その 相関係数が小さいほどワイブルプロットが屈 曲している。かかるR 2 が0.98未満であると一方向複合材料の力学的 性を満足させるためには炭素繊維の力学的 性の平均値を向上させる必要がある傾向に る。かかる相関係数の二乗R 2 は炭素繊維に分布している欠陥とは別の大き な欠陥を低減することにより1に近づけるこ ができる。その大きな欠陥は、前駆体繊維 造時の融着や原料重合体溶液中に含まれる 物、工程通過時の汚れなどで形成され、そ らを低減することが好ましい。なお、単繊 引張試験における破断面の破壊の起点を電 顕微鏡で観察して、その大きさから判断す ミクロ欠陥やマクロ欠陥は、単繊維引張強 の高強度と低強度に分類できるわけでなく 相関係数の二乗R 2 との関係は低い。

 また、本発明の炭素繊維は、そのストラ ド引張強度TSが6~9GPaである。従来の炭素繊 は、結晶子サイズと引張弾性率が式(5)を満 し、mが6以上である場合、そのTSは6GPa未満で ある。複合材料の引張強度および耐衝撃強度 向上を目的として該炭素繊維が使用されても 、構造材の軽量化において顕著な効果を得る に至っていない。現在のこの分野における要 望を満足させるには、TSは、6GPa以上であるこ とが好ましく、6.5GPa以上がより好ましく、7GP a以上が更に好ましい。

 本発明の炭素繊維の結晶子サイズLcは1.5~2 .6nmである。炭素繊維のLcが、1.5未満である場 合、引張強度が低く、1.8nm未満である場合、 晶性が低く、YMが低く、2.6nmを超える場合に は、圧縮強度が低く、いずれも構造部材とし て引張弾性率と圧縮強度のバランスが悪いこ とがある。よりバランスさせるためにLcは、 ましくは1.8~2.6nmであり、より好ましくは2~2. 4nmである。炭素繊維のLcは、炭化温度により 御でき、炭化温度を高めるとLcは大きくな 。

 本発明の炭素繊維は、その平均単繊維径 、2~7μmであることが好ましく、更に好まし は5~7μmである。平均単繊維径が小さいほど 均引張強度のポテンシャルは高いが、5μmよ り小さいと、体積に対して表面積が大きいの で繊維化後の工程で欠陥が生成しやすく、ワ イブル形状係数が悪化しやすくなることがあ る。また、平均単繊維径が7μmより大きいと 単繊維内部の耐炎化処理が不十分となるた 、YMが向上しにくいことがある。

 また、本発明の炭素繊維は繊維束を構成 る単繊維の本数が12000~48000本であることが ましく、更に好ましくは24000~48000本である。 単繊維の本数が少ないとイオン注入やプラズ マ処理などの高次加工処理を均一に行いやす い効果はあるものの、大型構造材料として使 用する場合には、使用する糸条数が増え、生 産効率が低下することがある。単繊維の本数 は12000本以上あれば、十分な生産効率を得ら ることが多い。また、単繊維の本数が48000 を超えると焼成工程で不均一な処理となり mが小さくなることがある。

 さらに本発明の炭素繊維の製造方法につ て説明する。上述したような方法で、耐炎 繊維が製造され、さらに以下に述べるよう 方法で、かかる耐炎化繊維を焼成すること より、炭素繊維を製造することができる。

 予備炭化の温度は、300~800℃が好ましい。 なお、予備炭化における昇温速度は、500℃/ 以下に設定されることが好ましい。

 予備炭化を行う際の延伸比は、1~1.3、好 しくは1.1~1.3、より好ましくは1.1~1.2とする。 予備炭化を行う際の延伸比が1を下回ると、 られる予備炭化繊維の配向度が不十分とな 、炭素繊維のストランド引張弾性率が低下 る。また、予備炭化を行う際の延伸比が1.3 超えると、毛羽発生や糸切れ発生により、 ロセス性が低下する。

 炭化の温度は、1,000~2,000℃、好ましくは1, 200~1800℃、より好ましくは1,300~1,600℃とする 一般に炭化温度が高いほど、ストランド引 弾性率は高まるものの、引張強度は1,500℃付 近で極大となるため、両者のバランスを勘案 して、炭化の温度を設定する。

 炭化を行う際の延伸比は、0.96~1.05、好ま くは0.97~1.05、より好ましくは0.98~1.03とする 炭化を行う際の延伸比が0.96を下回ると、得 られる炭素繊維の配向度や緻密性が不十分と なり、ストランド引張弾性率が低下する。ま た、炭化を行う際の延伸比が1.05を超えると 毛羽発生や糸切れ発生により、プロセス性 低下する。

 得られた炭素繊維はその表面改質のため 電解処理することができる。電解処理に用 られる電解液には、硫酸、硝酸および塩酸 の酸性溶液や、水酸化ナトリウム、水酸化 リウム、テトラエチルアンモニウムヒドロ シド、炭酸アンモニウムおよび重炭酸アン ニウムのようなアルカリまたはそれらの塩 水溶液として使用することができる。ここ 、電解処理に要する電気量は、適用する炭 繊維の炭化度に応じて適宜選択することが きる。

 電解処理により、得られる繊維強化複合 料において炭素繊維マトリックスとの接着 が適正化することができる。具体的には、 着が強すぎて複合材料の脆性的な破壊が起 る問題や、繊維方向の引張強度が低下する 題や、繊維方向における引張強度は高いも の樹脂との接着性に劣り、非繊維方向にお る強度特性が発現しないという問題が解消 れる。電解処理により得られる繊維強化複 材料において、繊維方向と非繊維方向の両 向にバランスのとれた強度特性が発現され ようになる。

 電解処理の後、炭素繊維に集束性を付与 るため、サイジング処理を施すこともでき 。サイジング剤には、使用する樹脂の種類 応じて、マトリックス樹脂等との相溶性の いサイジング剤を適宜選択することができ 。

 本発明により得られる炭素繊維は、種々 成形法に供することができる。例えば、プ プレグとしてオートクレーブ成形する、織 などのプリフォームとしてレジントランス ァーモールディングで成形する、およびフ ラメントワインディングで成形するなどが 示される。これらの成形品はさらに、航空 部材、圧力容器部材、自動車部材、釣り竿 よびゴルフシャフトなどのスポーツ部材と て好適に用いられる。

 以下、実施例により本発明をさらに具体的 説明する。本実施例で用いた各種特性の測 方法を次に説明する。
<各種分子量:M Z+1 、Mz、Mw、Mn>
 測定しようとする重合体が濃度0.1重量%でジ メチルホルムアミド(0.01N-臭化リチウム添加) 溶解した検体溶液を作製する。前駆体繊維 ついて測定する場合には、前駆体繊維を溶 に溶解して前記検体溶液とする必要がある 、前駆体繊維は高度に配向し、緻密である ど溶解しにくく、溶解時間が長いほど、ま 、溶解温度が高いほど低分子量に測定され 傾向にあるので、前駆体繊維を微粉砕して 40℃に制御された溶媒中においてスターラ で攪拌しながら1日溶解する。得られた検体 液について、GPC装置を用いて、次の条件で 定したGPC曲線から分子量の分布曲線を求め M Z+1 、Mz、Mw、Mnを算出する。
・カラム  :極性有機溶媒系GPC用カラム
・流速   :0.5ml/min
・温度   :75℃
・試料濾過 :メンブレンフィルター(0.45μmカ ト)
・注入量  :200μl
・検出器  :示差屈折率検出器
 Mwは、分子量が異なる分子量既知の単分散 リスチレンを少なくとも6種類用いて、溶出 間―分子量の検量線を作成し、その検量線 において、該当する溶出時間に対応するポ スチレン換算の分子量を読み取ることによ 求める。

 本実施例では、GPC装置として(株)島津製作 製CLASS-LC2010を、カラムとして東ソー(株)製TSK -GEL-α―M(×2)+東ソー(株)製TSK-guard Column αを ジメチルホルムアミドおよび臭化リチウム して和光純薬工業(株)製を、メンブレンフィ ルターとしてミリポアコーポレーション製0.4 5μm-FHLP FILTERを、示差屈折率検出器として(株 )島津製作所製RID-10AVを、検量線作成用の単分 散ポリスチレンとして、分子量184,000、427,000 791,000および1,300,000、1,810,000、4,210,000のもの を、それぞれ用いた。
<紡糸溶液の粘度>
 B型粘度計として(株)東京計器製B8L型粘度計 用い、ローターNo.4を使用し、紡糸溶液粘度 が0~100Pa・sの範囲は、ローター回転数6r.p.m.で 、また粘度が100~1000Pa・sの範囲は、ローター 転数0.6r.p.m.で、いずれも45℃の温度におけ 紡糸溶液の粘度を測定した。
<前駆体繊維および耐炎化繊維の結晶配向 >
 繊維軸方向の配向度は、次のように測定し 。繊維束を40mm長に切断して、20mgを精秤し 採取し、試料繊維軸が正確に平行になるよ にそろえた後、試料調整用治具を用いて幅1m mの厚さが均一な試料繊維束に整えた。薄い ロジオン液を含浸させて形態が崩れないよ に固定した後、広角X線回折測定試料台に固 した。X線源として、Niフィルターで単色化 れたCuのKα線を用い、2θ=17°付近に観察され る回折の最高強度を含む子午線方向のプロフ ィールの広がりの半価幅(H゜)から、次式を用 いて結晶配向度(%)を求めた。

     結晶配向度(%)=[(180-H)/180]×100
なお、上記広角X線回折装置として、島津製 所製XRD-6100を用いた。
<前駆体繊維の単繊維繊度>
 単繊維の本数6,000の繊維を1巻き1m金枠に10回 巻いた後、その重量を測定し、10,000m当たり 重量を算出することにより求めた。
<限界耐炎化延伸倍率>
 得られた前駆体繊維を、雰囲気温度を240℃ 定に保たれ、炉長7.5mである横型熱風循環炉 に導入した。炉の前後には前駆体繊維を送り 出し、引き取るローラーが配置されており、 引き取るローラー速度を2.5m/分に保持したま 、送り出しローラー速度を変えて延伸倍率 測定した。ローラー速度は延伸比0.1ずつ変 させ、各速度で速度変更9分後から3分間毛 の個数を数えた。毛羽が10個/m以上となるか 10本以上の繊維が部分的に糸切れするか、 維束全体が糸切れするかのいずれかを限界 炎化倍率を超えたとし、その0.1延伸比手前 限界耐炎化延伸倍率とした。

 <炭素繊維束の引張強度および弾性率>
 JIS R7608(2007年)「樹脂含浸ストランド試験法 」に従って求める。測定する炭素繊維の樹脂 含浸ストランドは、3、4-エポキシシクロヘキ シルメチル-3、4-エポキシシクロヘキシル-カ ボキシレート(100重量部)/3フッ化ホウ素モノ エチルアミン(3重量部)/アセトン(4重量部)を 炭素繊維または黒鉛化繊維に含浸させ、130 の温度で30分硬化させて作製する。また、炭 素繊維のストランドの測定本数は6本とし、 測定結果の平均値を引張強度とする。本実 例では、3、4-エポキシシクロヘキシルメチ -3、4-エポキシシクロヘキシル-カルボキシレ ートとして、ユニオンカーバイド(株)製“ベ クライト”(登録商標)ERL4221を用いた。
<炭素繊維束の引張強度および弾性率>
 JIS R7608(2007年)「樹脂含浸ストランド試験法 」に従って求める。測定する炭素繊維の樹脂 含浸ストランドは、3、4-エポキシシクロヘキ シルメチル-3、4-エポキシシクロヘキシルカ ボキシレート(100重量部)/3フッ化ホウ素モノ チルアミン(3重量部)/アセトン(4重量部)を、 炭素繊維または黒鉛化繊維に含浸させ、130℃ の温度で30分硬化させて作製する。また、炭 繊維のストランドの測定本数は6本とし、各 測定結果の平均値を引張強度とする。本実施 例では、3、4-エポキシシクロヘキシルメチル -3、4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレ トとして、ユニオンカーバイド(株)製“ベー クライト”(登録商標)ERL4221を用いた。
<炭素繊維の単繊維引張強度のワイブル形 係数m、m”、相関係数の二乗R 2 >
 炭素繊維の単繊維引張強度は、JIS R7606(2000 )に基づいて、以下の通りにして求めた。ま ず、20cmの長さの前駆体繊維の束をそれぞれ 単繊維の本数が前駆体繊維の束の25±5%とな ように4分割し、分割した4つの束それぞれか ら単繊維を無作為に100サンプリングした。サ ンプリングした単繊維は、穴あき台紙に接着 剤を用いて固定した。単繊維を固定した台紙 を引張試験機に取り付け、試長25mm、引張速 5mm/分、条件で引張試験をおこなった。ワイ ル形状係数は以下の式の定義を基に求めた

 lnln{1/(1-F)}=mlnσ+C
 Fは、破壊確率であり、対称試料累積分布法 により求めた。、σは単繊維引張強度(MPa)、m ワイブル形状係数、Cは定数である。lnln{1/(1 -F)}とlnσでワイブルプロットし、これを1次近 似した傾きからmを求めた。そのときの相関 数がRである。また、Fが0.3~1の範囲においてl nln{1/(1-F)}とlnσを1次近似した傾きからm”を求 めた。

 単繊維の断面積は、JIS R7607(2000年)に基づい て、測定する繊維束について、単位長さ当た りの重量(g/m)を密度(g/m 3 )で除して、さらに単繊維の本数で除して単 維断面積を求めた。

 <前駆体繊維の単繊維引張強度のワイブル 形状係数m(P)>
 引張速度を5mm/分とした以外は炭素繊維と同 様の方法で行った。

 <炭素繊維の結晶子サイズ>
 測定に供する炭素繊維を引き揃え、コロジ ン・アルコール溶液を用いて固めることに り、長さ4cm、1辺の長さが1mmの四角柱の測定 試料を用意する。用意された測定試料につい て、広角X線回折装置を用いて、次の条件に り測定を行った。

  ・X線源:CuKα線(管電圧40kV、管電流30mA)
  ・検出器:ゴニオメーター+モノクロメータ ー+シンチレーションカウンター
  ・走査範囲:2θ=10~40°
  ・走査モード:ステップスキャン、ステッ 単位0.02°、計数時間2秒。

 得られた回折パターンにおいて、2θ=25~26 付近に現れるピークについて、半値幅を求 、この値から、次のシェラー(Scherrer)の式に り結晶サイズを算出した。

  結晶子サイズ(nm)=Kλ/β 0 cosθ B
  但し、
  K:1.0、λ:0.15418nm(X線の波長)
  β 0 :(β E 2 1 2 ) 1/2
  β E :見かけの半値幅(測定値)rad、β 1 :1.046×10 -2 rad
  θ B :Braggの回析角。

 なお、上記広角X線回折装置として、島津 製作所製XRD-6100を用いた。

 <前駆体繊維および炭素繊維の平均単繊維 径>
 測定する前駆体繊維束あるいは、炭素繊維 について、単位長さ当たりの重量Af(g/m)およ び比重Bf(g/cm 3 )を求める。測定する繊維束の単繊維の本数 Cfとし、繊維の平均単繊維径(μm)を、下記式 算出した。なお、比重はアルキメデス法で い、比重液は、炭素繊維の測定時はo-ジク ロベンゼン、前駆体繊維の測定時はエタノ ルを用いて行った。

  繊維の平均単繊維径(μm)
  =((Af/Bf/Cf)/π) (1/2) ×2×10 3
<炭素繊維のラマン分光法>
 測定装置および、測定条件は以下のとおり 行った。
測定装置:JobinYvon製RamaonorT-64000マイクロプロ ブ(顕微モード)
対物レンズ:100倍
ビーム径:1μm
レーザー種類:Ar + (励起波長は514.5nm)
レーザーパワー:1mW
構成:640mm Triple Monochromator
回折格子:600gr/mm(Spectrograph製)
分散:Single、21A/mm
スリット:100μm
検出器:CCD(JobinYvon製1024×256)
測定は、CF表面にレーザー光を集光し、偏光 は繊維軸と一致させた。各試料につき異な 単繊維を用いてn=6の測定を行った。スペク ル比較や解析はそれらの平均を用いた。ラ ンスペクトルは、900~2000cm -1 の間で直線近似によりベースライン補正を行 った結果である。各ラマンバンド強度の算出 は、1360、1480、1600cm -1  の前後40データ点を対象に、二次関数を用 た最小二乗近似により極大点および極小点 見積もった。波数軸は低圧水銀灯の輝線で る546.1nmの発光線が1122.7cm -1 に相当するように校正した。
[比較例1]
 AN100重量部、イタコン酸1重量部、ラジカル 始剤としてAIBN0.4重量部、および連鎖移動剤 としてオクチルメルカプタン0.1重量部をジメ チルスルホキシド370重量部に均一に溶解し、 それを還流管と攪拌翼を備えた反応容器に入 れた。反応容器内の空間部を酸素濃度が1000pp mまで窒素置換した後、撹拌しながら下記の 件(重合条件Aと呼ぶ。)による熱処理を行い 溶液重合法により重合して、PAN系重合体溶 を得た。
(1)30℃から60℃へ昇温(昇温速度10℃/時間)
(2)60℃の温度で4時間保持
(3)60℃から80℃へ昇温(昇温速度10℃/時間)
(4)80℃の温度で6時間保持
 得られたPAN系重合体溶液を、重合体濃度が2 0重量%となるように調製した後、アンモニア スをpHが8.5になるまで吹き込むことにより イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基 重合体に導入し、紡糸溶液を得た。得られ 紡糸溶液におけるPAN系重合体は、Mwが40万で り、Mz/Mwが1.8、M Z+1 /Mwが3.0であり、紡糸溶液の粘度が50Pa・sであ た。得られた紡糸溶液を、濾過精度10μmの ィルター通過後、40℃の温度で、孔数3,000、 金孔径0.12mmの紡糸口金を用い、一旦空気中 吐出し、約2mmの空間を通過させた後、3℃の 温度にコントロールした20重量%ジメチルスル ホキシドの水溶液からなる凝固浴に導入する 乾湿式紡糸法により紡糸ドラフト率4の条件 紡糸し膨潤糸とした。得られた膨潤糸を水 した後、張力を2.2mN/dtexとして浴中で前延伸 行った。浴温度は65℃であり、延伸倍率は2. 7倍であった。前延伸した糸条にアミノ変性 リコーン系シリコーン油剤を付与し、165℃ 温度に加熱したローラーを用いて30秒間乾燥 熱処理を行った後、後張力を5.3mN/dtexとして 加圧水蒸気中で後延伸を行って炭素繊維前 体繊維を得た。後延伸工程の加圧水蒸気圧 0.4MPaに設定し、延伸倍率は5.2倍とした。得 れた前駆体繊維のワイブル形状係数m(P)は10 あり、単繊維強度の変動係数(CV)は12%であり 単繊維伸度の変動係数(CV)は7%であった。
[比較例2]
 紡糸ドラフト率を5に、後延伸方法をスチー ムから乾熱に変え、後延伸倍率を3.0倍に変更 した以外は実施例1と同様にして炭素繊維前 体繊維を得た。
[実施例1]
 AN100重量部、イタコン酸1重量部、およびジ チルスルホキシド130重量部を混合し、それ 還流管と攪拌翼を備えた反応容器に入れた 反応容器内の空間部を酸素濃度が100ppmまで 素置換した後、ラジカル開始剤として2,2’- アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.002重量部 投入し、撹拌しながら下記の条件(重合条件 Bと呼ぶ。)の熱処理を行った。
・ 65℃の温度で2時間保持
・ 65℃から30℃へ降温(降温速度120℃/時間)
 次に、その反応容器中に、ジメチルスルホ シド240重量部、ラジカル開始剤としてAIBN 0 .4重量部、および連鎖移動剤としてオクチル ルカプタン0.1重量部を計量導入した後、さ に撹拌しながら比較例1における重合条件A よる熱処理を行い、残存する未反応単量体 溶液重合法により重合してPAN系重合体溶液 得た。

 得られたPAN系重合体溶液を用いて重合体濃 が20重量%となるように調製した後、アンモ アガスをpHが8.5になるまで吹き込むことに り、イタコン酸を中和しつつアンモニウム をPAN系重合体に導入し、紡糸溶液を得た。 られた紡糸溶液におけるPAN系重合体は、Mwが 48万、Mz/Mwが5.7、M Z+1 /Mwが14であり、紡糸溶液の粘度は45Pa・sであ た。紡糸溶液を上記のようにして得た紡糸 液に変更した以外は比較例1と同様にして紡 を行った。得られた前駆体繊維の品位は優 ており、紡糸工程も安定してサンプリング きた。前駆体繊維のMz/Mwは紡糸溶液と比較 て低下したが、比較例1と比較して高い値を 持しており、限界耐炎化延伸倍率が高まっ 。
[実施例2]
 紡糸ドラフト率を12に、後延伸方法をスチ ムから乾熱に変え、後延伸倍率を1.1倍に変 した以外は実施例1と同様にして紡糸を行っ 。得られた前駆体繊維の品位は優れており 紡糸工程も非常に安定してサンプリングで た。後延伸倍率を低下させることで、前駆 繊維のMz/Mwは紡糸溶液のそれと比較してわ かに低下する程度に留まり、限界耐炎化延 倍率が高かった。
[実施例3]
 乾燥後の延伸倍率を2.0倍に変更した以外は 施例2と同様にして紡糸を行った。得られた 前駆体繊維の品位は優れており、紡糸工程も 非常に安定してサンプリングできた。前駆体 繊維のMz/Mwは実施例2より低下したが、それで もなお高い値を保持しており、限界耐炎化延 伸倍率が高かった。
[実施例4]
 1回目のAIBNの投入量を0.001重量部に変更した ことと、反応容器内の空間部を酸素濃度が100 0ppmまで窒素置換したこと、重合条件Aを以下 重合条件Cに変更した以外は、実施例1と同 にして紡糸溶液を得た。
(1)70℃の温度で4時間保持
(2)70℃から30℃へ降温(降温速度120℃/時間)
 得られた紡糸溶液におけるPAN系重合体は、M wが34万、Mz/Mwが2.7、M Z+1 /Mwが7.2であり、紡糸溶液の粘度は40Pa・sであ た。紡糸溶液を上記のようにして得た紡糸 液に変更した以外は比較例1と同様にして紡 糸を行った。得られた前駆体繊維の品位は優 れており、紡糸工程も安定してサンプリング できた。前駆体繊維のMz/Mwは紡糸溶液のそれ 比較してわずかに低下したが、比較例1と比 較して高い値を保持しており、限界耐炎化延 伸倍率が高まった。得られた前駆体繊維のワ イブル形状係数m(P)は13であり、単繊維強度の ばらつき(CV)は9%であり、単繊維伸度のばらつ き(CV)は7%であった。
[実施例5]
 1回目のAIBNの投入量を0.002重量部に変更した ことと、重合条件Cにおいて保持時間を1.5時 にした以外は、実施例4と同様にして紡糸溶 を得た。得られた紡糸溶液におけるPAN系重 体は、Mwを32万、Mz/Mwを3.4、M Z+1 /Mwを12であり、紡糸溶液の粘度は35Pa・sであ た。紡糸溶液を上記のようにして得た紡糸 液に変更した以外は比較例1と同様にして紡 を行った。得られた前駆体繊維の品位は優 ており、紡糸工程も安定してサンプリング きた。前駆体繊維のMz/Mwは紡糸溶液のそれ 比較してわずかに低下したが、比較例1と比 して高い値を保持しており、限界耐炎化延 倍率が高まった。
[実施例6]
 AN100重量部、イタコン酸1重量部、およびジ チルスルホキシド360重量部を混合し、それ 還流管と攪拌翼を備えた反応容器に入れた 反応容器内の空間部を酸素濃度が100ppmまで 素置換した後、重合開始剤としてAIBN0.003重 部を投入し、撹拌しながら下記の条件の熱 理を行った。
(1)60℃の温度で3.5時間保持
 次に、その反応容器中に、ジメチルスルホ シド10重量部、重合開始剤としてAIBN 0.4重 部、および連鎖移動剤としてオクチルメル プタン0.1重量部を計量導入した後、さらに 拌しながら下記の条件の熱処理を行い、残 する未反応単量体を溶液重合法により重合 てPAN系重合体溶液を得た。
(2)60℃の温度で4時間保持
(3)60℃から80℃へ昇温(昇温速度10℃/時間)
(4)80℃の温度で6時間保持
 得られたPAN系重合体溶液を、重合体濃度が2 0重量%となるように調製した後、アンモニア スをpHが8.5になるまで吹き込むことにより イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基 重合体に導入し、紡糸溶液を得た。

 得られた紡糸溶液におけるPAN系重合体は、M wが40万、Mz/Mwが5.2、M Z+1 /Mwが10、紡糸溶液の粘度は55Pa・sであった。 糸溶液を上記のようにして得た紡糸溶液に 更した以外は実施例1と同様にして紡糸を行 た。得られた前駆体繊維の品位は優れてお 、紡糸工程も非常に安定してサンプリング きた。前駆体繊維のMz/Mwは紡糸溶液のそれ 比較してわずかに低下したが、高い値を保 しており、限界耐炎化延伸倍率が高まった
[比較例3]
 AN100重量部、イタコン酸1重量部、およびラ カル開始剤としてAIBN0.2重量部をジメチルス ルホキシド460重量部に均一に溶解し、それを 還流管と攪拌翼を備えた反応容器に入れた。 反応容器内の空間部を酸素濃度が1000ppmまで 素置換した後、撹拌しながら前記の重合条 Aの熱処理を行い、溶液重合法により重合し 、PAN系重合体溶液を得た。得られたPAN系重 体溶液を、重合体濃度が15重量%となるよう 調製した後、アンモニアガスをpHが8.5にな まで吹き込むことにより、イタコン酸を中 しつつ、アンモニウム基を重合体に導入し 紡糸溶液を得た。得られた紡糸溶液におけ PAN系重合体は、Mwが65万、Mz/Mwが1.8、M Z+1 /Mwが3.0であり、紡糸溶液の粘度は95Pa・sであ た。紡糸溶液を上記のようにして得た紡糸 液に変更した以外は比較例1と同様にして紡 糸を行った。前駆体繊維のMz/Mwは紡糸溶液の れと変化なく、限界耐炎化延伸倍率は低か た。
[比較例4]
 紡糸溶液を比較例3で得た紡糸溶液に変更し た以外は実施例2と同様にして紡糸を行った 前駆体繊維のMz/Mwは低いため、限界耐炎化延 伸倍率は実施例2や6より低かった。

 上記実施例および比較例での実験条件や、 られた前駆体繊維の特性などをまとめて、 1に示す。
[実施例8]
AN100重量部、イタコン酸1重量部、およびジメ チルスルホキシド230重量部を混合し、それを 還流管と攪拌翼を備えた反応容器に入れた。 反応容器内の空間部を酸素濃度が1000ppmまで 素置換した後、重合開始剤としてAIBN0.002重 部および連鎖移動剤としてオクチルメルカ タン0.01重量部を投入し、撹拌しながら下記 条件の熱処理を行った。
(1)65℃の温度で1時間保持
(2)65℃から30℃へ降温(降温速度120℃/時間)
 次に、その反応容器中に、ジメチルスルホ シド10重量部、重合開始剤としてAIBN 0.4重 部、および連鎖移動剤としてオクチルメル プタン0.3重量部を計量導入した後、さらに 拌しながら比較例1における重合条件Aによる 熱処理を行い、残存する未反応単量体を溶液 重合法により重合してPAN系重合体溶液を得た 。

 得られたPAN系重合体溶液を用いて重合体濃 が27重量%となるように調製した後、アンモ アガスをpHが8.5になるまで吹き込むことに り、イタコン酸を中和しつつアンモニウム をPAN系重合体に導入し、紡糸溶液を得た。 られた紡糸溶液におけるPAN系重合体は、Mwが 20万、Mz/Mwが3.3、M Z+1 /Mwが14であり、紡糸溶液の粘度は95Pa・sであ た。紡糸溶液を上記のようにして得た紡糸 液に変更して、紡糸温度を80℃に設定して、 製糸条件を表1に示すようにした以外は比較 1と同様にして紡糸を行った。得られた前駆 繊維の品位は優れており、限界耐炎化延伸 率が高かった。
[実施例9]
 AN100重量部、イタコン酸1重量部、およびジ チルスルホキシド130重量部を混合し、それ 還流管と攪拌翼を備えた反応容器に入れた 反応容器内の空間部を酸素濃度が100ppmまで 素置換した後、ラジカル開始剤として2,2’- アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.002重量部 投入し、撹拌しながら下記の条件の熱処理 行った。
(1)65℃の温度で5時間保持
・ 65℃から30℃へ降温(降温速度120℃/時間)
 次に、その反応容器中に、ジメチルスルホ シド610重量部、ラジカル開始剤としてAIBN 0 .2重量部、および連鎖移動剤としてオクチル ルカプタン0.01重量部を計量導入した後、さ らに撹拌しながら比較例1における重合条件A よる熱処理を行い、残存する未反応単量体 溶液重合法により重合してPAN系重合体溶液 得た。

 得られたPAN系重合体溶液を用いて重合体濃 が10重量%となるように調製した後、アンモ アガスをpHが8.5になるまで吹き込むことに り、イタコン酸を中和しつつアンモニウム をPAN系重合体に導入し、紡糸溶液を得た。 られた紡糸溶液におけるPAN系重合体は、Mwが 59万、Mz/Mwが5.2、M Z+1 /Mwが14であり、紡糸溶液の粘度は10Pa・sであ た。紡糸溶液を上記のようにして得た紡糸 液に変更して、紡糸温度を20℃に設定して、 製糸条件を表1に示すようにした以外は比較 1と同様にして紡糸を行った。得られた前駆 繊維の品位は優れており、限界耐炎化延伸 率が高かった。
[比較例5]
 実施例1と同じ紡糸溶液を用いた。紡糸溶液 を、目開き0.5μmのフィルター通過後、40℃の 度で、孔数6,000、口金孔径0.15mmの紡糸口金 用い、一旦空気中に吐出し、約2mmの空間を 過させた後、3℃の温度にコントロールした2 0重量%ジメチルスルホキシドの水溶液からな 凝固浴に導入する乾湿式紡糸法により紡糸 凝固糸条とした。また、紡糸ドラフト率4の 条件で凝固糸条を得、水洗した後、90℃の温 中で3倍の浴中延伸倍率で延伸し、さらにア ミノ変性シリコーン系シリコーン油剤を付与 し、165℃の温度に加熱したローラーを用いて 30秒間乾燥を行い、5倍の加圧水蒸気延伸を行 い、前駆体繊維を得た。得られた前駆体繊維 の品位は優れていたものの、限界耐炎化延伸 倍率は比較例と同等であった。

 上記のようにして得られた表2に示す前駆体 繊維を、繊維束を構成する単繊維の本数6,000 のまま、240~260℃の温度の温度分布を有する 空気中において延伸比1.0で延伸しながらで90 間耐炎化処理し、耐炎化繊維を得た。続い 、得られた耐炎化繊維を300~700℃の温度の温 度分布を有する窒素雰囲気中において、延伸 比1.2で延伸しながら予備炭化処理を行い、さ らに最高温度1500℃の窒素雰囲気中において 延伸比を0.97に設定して炭化処理を行い、連 した炭素繊維を得た。耐炎化工程での延伸 に余裕があったためこのときの焼成工程通 性はいずれも良好であった。
[実施例9~17、比較例6~8]
 上記のようにして得られた表2に示す前駆体 繊維を、8本合糸し、繊維束を構成する単繊 の本数24,000本とした上で、240~260℃の温度の 度分布を有する空気中において、表2に示す 延伸比で延伸しながらで90分間耐炎化処理し 耐炎化繊維を得た。続いて、得られた耐炎 繊維を300~700℃の温度の温度分布を有する窒 素雰囲気中において、延伸比1.2で延伸しなが ら予備炭化処理を行い、予備炭化繊維束を得 た。得られた予備炭化繊維束を、最高温度1,5 00℃の窒素雰囲気中において、延伸比を0.96で 、予備炭化繊維束の炭化処理を行い連続した 炭素繊維を得た。実施例においては、耐炎化 工程・予備炭化工程・炭化工程と毛羽がほと んど認められず、生産安定性および品位はい ずれも良好であった。比較例においては、耐 炎化工程・予備炭化工程・炭化工程と毛羽が 発生しており、生産安定性および品位はいず れも良好とはいえず、実施例との差は歴然で あった。特に、比較例6および7は限界耐炎化 伸倍率の割に低い延伸倍率から少ないが毛 が出ており、品位が悪かった。得られた耐 化繊維の配向度および炭素繊維束のストラ ド物性を測定した結果を表2に示す。
[実施例18~20、比較例9~11]
 炭化処理の最高温度を表3に示すように変更 した以外は、実施例17または比較例6と同様に して炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束 の評価結果を表3に示す。




 
Previous Patent: WO/2009/125753

Next Patent: WO/2009/125853