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Patent Searching and Data


Title:
METHOD OF MATING FUNGUS SHOWING MATING FAILURE
Document Type and Number:
WIPO Patent Application WO/2009/054330
Kind Code:
A1
Abstract:
A method of mating a fungus showing mating failure which comprises mating the fungus showing mating failure employed as a parent strain with a strain having substantially the same chromosomal pattern as the parent strain but being different in mating type therefrom which is constructed by substituting the mating type gene region of the parent strain by another mating type gene region originating in a strain showing mating failure that is different from the parent strain but belongs to the same species.

Inventors:
ARIE TSUTOMU (JP)
TERAOKA TOHRU (JP)
IMAI SYUNSUKE (JP)
Application Number:
PCT/JP2008/068907
Publication Date:
April 30, 2009
Filing Date:
October 19, 2008
Export Citation:
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Assignee:
UNIV TOKYO AGRICULTURE (JP)
ARIE TSUTOMU (JP)
TERAOKA TOHRU (JP)
IMAI SYUNSUKE (JP)
International Classes:
C12N1/15; C12N15/09
Other References:
SHUNSUKE IMAI ET AL.: "Fusarium oxysporum no Kohaigata Idenshi Ryoiki (MAT1) no Irekaekabu no Sakushutsu", HEISEI 19 NENDO THE JAPANESE SOCIETY OF PLANT PHYSIOLOGISTS KANTO BUKAI PROGRAM KOEN YOSHI YOKOSHU, 13 September 2007 (2007-09-13), pages 8
ARIE, T. ET AL.: "Mating-type genes from asexual phytopathogenic ascomycetes Fusarium oxysporum and Alternaria alternata", MOL. PLANT MICROBE. INTERACT., vol. 13, no. 12, 2000, pages 1330 - 1339
YUN, S.H. ET AL.: "Molecular organization of mating type loci in heterothallic, homothallic, and asexual Gibberella/Fusarium species", FUNGAL GENET. BIOL., vol. 31, no. 1, 2000, pages 7 - 20
TURGEON, B.G. ET AL.: "Structure and function of mating type genes in Cochliobolus spp. and asexual fungi", CAN. J. BOT., vol. 73, 1995, pages S778 - S783
Attorney, Agent or Firm:
ISOYAMA, Hironobu (Nagasaki 2-chome Toshima-ku Tokyo, 51, JP)
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Claims:
 交配不全性の糸状菌を交配する方法であって、親株である交配不全性糸状菌と、該親株の交配型遺伝子領域を、該親株と異なるが同種の交配不全性株に由来する別の交配型遺伝子領域で入換えることによって作出された、染色体パターンが実質的に相同でありながら交配型が異なる株とを交配させることを含む、前記方法。
 糸状菌が、植物病原性糸状菌、麹菌、又はその他の子嚢菌である、請求項1記載の方法。
 植物病原性糸状菌が、Fusarium oxysporumである、請求項1又は2記載の方法。
 交配型遺伝子領域又は別の交配型遺伝子領域が、MAT1-1又はMAT1-2のいずれかである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
 交配型遺伝子領域の入換えが相同組換えによって行なわれる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
Description:
交配不全性糸状菌を交配する方

 本発明は、交配不全性糸状菌を交配する 規な方法に関する。

 菌類は、キチン質を主成分とする細胞壁 有する真核生物である。俗に、「かび」、 きのこ」、「酵母」と呼ばれる形態を有す 世代を内包する。このうち、主に、菌糸や 子(主に球形で発芽し、次世代を形成する能 力を有する)からなるもので、酵母状でない のを一般に糸状菌と総称する。糸状菌には 類体系上の子嚢菌、担子菌、接合菌を含む

 糸状菌の生活環は無性世代と有性世代か 構成される。菌糸、菌核、分生子、厚膜胞 、bud cell(酵母状細胞)などが核相nの無性世 であり、菌糸の伸長、菌核や分生子などの 成によって遺伝的に同一の後代(クローン) 生み出している(無性増殖)。多くの糸状菌で は、無性増殖が繰り返され、生活環の大部分 が無性世代によって占められている。

 一方、環境条件が整うと、糸状菌は有性 代へとその生活環を切り替える場合がある 子嚢菌では子嚢、担子菌では担子器のよう 器官を、それぞれ子嚢果(子嚢殻など)、担 器果(いわゆる、きのこ)等の子実体上に形成 し、そこで有性生殖を行い、後代を形成する 。有性生殖では、核相nの2つの細胞が融合し n+nの状態(異核共存体)になり、その後、核 合(2n)し、相同染色体が対合、さらに減数分 によって核相nの後代をつくる。相同染色体 の対合から減数分裂の過程での染色体シャフ リングや乗換え等によって、遺伝子が組換わ り、親と遺伝的に異なる後代が生じる可能性 がある。その結果、後代は親と異なる性状を もつ可能性がある。子嚢菌では子嚢胞子が、 担子菌では担子胞子(担胞子)がこの後代にあ る。この一連の現象を交配(mating)と呼ぶ。 た、形成された子実体や次世代を含む一連 器官やそれを形成する生活間の部分は完全 代と呼ばれる。

 糸状菌は基本的に雌雄同体であるが、有 生殖の際に相手を要求するものとしないも が存在する。相手を必要としない性質をホ タリック、相手を必要とする性質をヘテロ リックと呼ぶ。ホモタリックは自家和合性( self-compatible)、ヘテロタリックは自家不和合 (self-incompatible)と理解することが可能である( 非特許文献1)。子嚢菌の基本的な有性生殖様 はヘテロタリックであり、ホモタリックな はヘテロタリックな菌から生じたと考えら ている(後述する。)。

 ヘテロタリックな糸状菌では、1種のうち に2つの交配型(MAT1-1とMAT1-2)の菌株が存在する 。交配型はその2つに限定される。MAT1-1の菌 とMAT1-2の菌株が適した環境条件の下で出会 と、細胞融合が起こり(この場合、雌雄同体 あるため、細胞融合するいずれかの細胞が 、もう一方が雌として機能する)、有性生殖 (上述)の一連の過程が進み、後代を形成する MAT1-1の菌株同士、あるいはMAT1-2の菌株同士 は交配は起きない。菌株の交配型を決定し いるのは、交配型遺伝子領域(MAT1)に存在す 1組の対立遺伝子(MAT1-1-1およびMAT1-2-1)であり 、各菌株はこの対立遺伝子のどちらかを保持 している。両遺伝子産物とも、DNA結合モチー フを有しており、交配の初期調節因子である ことが示唆されている(非特許文献1および2)

 従って、ヘテロタリックな糸状菌の、異 る交配型の菌株を適当な環境条件で掛け合 せる(交雑、outcross)と、完全世代を形成する 。この場合、適当な環境条件は種ごとに異な っている。例えば、Neurospora crassaでは、通常 の培地上で対峙培養すれば良い、Cochliobolus h eterostrophusでは、最少培地上に滅菌したトウ ロコシ葉を置き、その縁に両菌株を対峙さ 、20℃前後、暗黒、過湿にならないように管 理すれば良い、Gibberella fujikuroiではV8寒天培 上に片菌株の菌糸を生育させ、そこにもう 菌株の分生子懸濁液をかけ、しばらく放置 た後に過剰な水相を除去、その後約25℃で 養すれば良い。

 完全世代の形成に、交配型の異なる菌株 のoutcrossを必要としないホモタリックな糸 菌では、交配型遺伝子領域に2種類の交配型 伝子が独立してあるいは融合して存在する 、MAT1-1-1およびMAT1-2-1に相当する遺伝子がゲ ノム上の離れた領域に存在することが見出さ れており、ヘテロタリックな菌から、ホモタ リックな菌が進化上生じたことを示唆してい る(非特許文献3)。

 以上のことは、糸状菌が交配を行い、完 世代を形成するのにいずれにせよ、MAT1-1-1 よびMAT1-2-1遺伝子の両者あるいは両者の産物 が必要であることを示している。

 糸状菌の中には、これまで交配および完 世代の形成が観察されていない種が多く存 する。完全世代を形成しないことから、こ らの糸状菌は、不完全菌と呼ばれる。過去 、これらの菌は、Deuteromycotina(不完全菌亜門 )あるいはFungi imperfecti(不完全菌類)としてま められて来たが、近年は分子系統解析の進 によって、近縁の交配可能種との系統関係 明らかにされるようになっており、過去のD euteromycotinaあるいは、Fungi imperfectiのような 群は無意味なものとして理解されている(非 許文献4)。ここでは、交配が観察されてい い糸状菌を「交配不全性糸状菌」と呼ぶこ とする。交配不全性糸状菌は交配できない め、遺伝子機能の遺伝的解析(交配検定)や、 交配による育種が不可能であった。交配が可 能になれば、交配検定による遺伝子機能の解 析が格段に進歩すること、麹菌等でより良好 な形質の菌の育種が可能になり、科学的、産 業的に意義深いものとなる。

 交配不全性の糸状菌は多種に亘る。重要 物病原糸状菌として、Fusarium oxysporum、Vertic illium dahliae、Alternaria alternata、Penicillium itali cumなど、多くの交配不完全性種が報告されて いる(非特許文献5、不完全菌類の項目参照)。 また、我が国の国菌とも言われる黄麹かびAsp ergillus oryzaeも交配不完全性種である。その か、抗生物質産生菌であるPenicillium spp.や、 家庭内で問題となる黒かび類(Cladosporium spp. Alternaria spp.など)も多くは交配不完全性であ る。

 従来は、交配不全性の糸状菌を交配する 立ては、種の起源地(多様性が豊かであると 想定される)などから交配能を保持する株を し出し、これと交配することのみであった 例として、イネいもち病菌(Magnaporthe oryzae、 不完全世代Pyricularia oryzae)は長く交配不全性 菌として知られていたが、中国昆明由来の ネいもち病菌が実験室レベルで交配能を持 こと、その後、ベトナム北部、インド北西 からも交配能を持つイネいもち病菌が採集 れたことが報告されている。さらにまた、 来より交配困難であった担子菌ブクリョウ 交配を、アイソザイム分析による交配菌株 選択によって可能とした例もある(特許文献 1)。

 このような方法による交配不全性の糸状 の交配は、交配不全性菌と同種の交配能を する株が偶然にも見出された場合にのみ可 になり、しかも交配不全株を交配できるよ にしたとは言えない。すなわち、日本や韓 などで実際に圃場で発生しているイネいも 病菌菌株は交配不全性なままである。

 交配能を有することが知られているヘテ タリックな糸状菌(例えばNeurospora crassa)で 、テスター菌株との交配試験によって、各 株の交配型(MAT1-1かMAT1-2のどちらであるか)を 検定することが容易である。その結果に基づ いて、交配型の異なる菌株を適当な条件で掛 け合わせ、交配させ、完全世代を形成するこ とができる。

 しかし、交配不全性の糸状菌では、以前 、そもそも菌株の交配型を検定することす 不可能であった。言い換えれば、交配不全 の糸状菌菌株に交配型があるのかどうかも からなかった。

 非特許文献6および関連する特許「交配型 遺伝子上の特定部位を増幅させるためのプラ イマー;特許3718755」(特許文献2)は、PCR法に基 いて、交配不全性糸状菌の菌株の交配型の 定を可能にした。(もちろん、この方法は、 交配能を持つ糸状菌にも適用可能である。)

 この手法を利用して、交配不全性糸状菌 あるFusarium oxysporum、Alternaria alternata、日本 産のMagnaporthe oryzaeの種内に交配型が異なる 株が存在するかどうかを調査、両交配型の 株が存在すること(非特許文献6、7、8、9)を した。さらに、その検定結果に基づいて、 なる交配型の菌株間の掛け合わせ試験を行 たが、いずれも交配には至らなかった(非特 文献7、9)。

 交配不全性菌が交配不全である原因とし 、以下の事項(1)、(2)及び(3)が推定された。( 1)交配の初期調節因子である交配型遺伝子領 あるいは交配型遺伝子領域の遺伝子(交配型 遺伝子)が存在しないか機能不全である、(2) の下流(以降の意味)で機能するシグナル伝達 系の不全、(3)片方の交配型の菌株しか存在し ない(交配パートナーの不在)。これらを検証 た従来の研究例を概説する。

 交配不全性の菌が交配能を有する近縁の と同等の交配型遺伝子領域を持つこと、そ 領域にコードされている交配型遺伝子が、 配能を有する近縁の菌とほぼ相同であるこ が、Bipolaris sacchari、Fusarium oxysporum、Alternar ia alternata、日本産Magnaporthe grisea等を用いて されている(非特許文献7、9、10)。また、こ らの交配型遺伝子が発現していることが示 れている(非特許文献9、10、11)。

 また、交配不全性の菌の交配型遺伝子が 能を持つことは、交配不全性の菌の交配型 伝子を、ヘテロタリックな交配能を有する 縁の菌の交配型遺伝子領域を除去した交配 全性変異菌株をレシピエントとして導入し 場合に、交配能が回復することで報告され 。この様な手法を用いた研究例は、交配不 性のBipolaris sacchariおよびAlternaria alternataに ついての2つの報告(非特許文献7,11)のみがあ が、いずれでも、交配不全性の菌の交配型 伝子領域を導入した、レシピエントのゲノ 領域は交配型遺伝子領域(MAT1)ではない。 

 交配型遺伝子産物は、既述したようにDNA 合部位を有し、これがゲノムDNAに結合する とによって、交配に係わる、フェロモンや ェロモン受容体遺伝子の発現を調節すると れる。フェロモンは、異なる菌株のフェロ ン受容体と結合し、その情報が、シグナル 達系であるG-タンパク質、MAPキナーゼ、cAMP STE12タンパク質などの調節因子を介して核 に伝えられ、細胞融合、核融合、子実体の 成、後代の形成などの一連の交配挙動が起 るとされている。

 これまでに、交配不全性糸状菌のいくつ で、フェロモンやフェロモン受容体、G-タ パク質、MAPキナーゼ等の遺伝子が解析され それらが、交配能を有する菌と同様に機能 ていることが示されている。

 以上のことは、交配不全性の原因と考え れた上記(1)および(2)を否定し、交配不全性 菌が基本的に交配能を有する可能性を示し いるかもしれない。

 非特許文献8は、交配不全性のトマト萎凋 病菌(F. oxysporum f. sp. lycopersici)菌株がF. oxys porumの系統樹中で3つの系統を形成すること、 異なる系統に含まれる菌株では、菌糸融合群 が異なること、各系統に含まれる萎凋病菌菌 株は菌糸融合群が同一であるばかりか、交配 型も1つに限られることを報告した。

 非特許文献12は、交配不全性の原因追及の 環としてFusarium oxysporumの交配型遺伝子領域( MAT1)の入換え株の作出を試みた。

特開平07-227164号公報

特許3718755号公報 「交配型遺伝子上の特 定部位を増幅させるためのプライマー」 Debuchy R, Turgeon BG (2006) Mating-type structu re, evolution, and function in euascomycetes.  In Th e Mycota I (Kues & Fisher eds.), Springer-Verlag,  Berlin. pp. 293-323 Shiu PK, Glass NL (2000) Cell and nuclear reco gnition mechanisms mediated by mating type in filamen tous ascomycetes. Curr Opin Microbiol 3:183-188 Yun SH, Berbee ML, Yoder OC, Turgeon BG (1999)  Evolution of the fungal self-fertile reproductive li fe style from self-sterile ancestors.  Proc Natl Aca d Sci USA 96:5592-5597 宍戸和夫ら、キノコとカビの基礎科学と バイオ技術、アイピーシー、2002 米山勝美ら編、植物病原アトラス、ソフ トサイエンス社、2006 Arie, T., Christiansen, S. K., Yoder, O. C. an d Turgeon, B. G. (1997). Effecient cloning of ascomy cete mating type genes by PCR amplification of the  conserved MAT HMG box. Fungal Genet Biol 21: 118-130 Arie, T., Kaneko, I., Yoshida, T., Noguchi, M.,  Nomura, Y. and Yamaguchi, I. (2000). Mating type g enes from asexual phytopathogenic ascomycetes, Fusarium  oxysporum and Alternaria alternata. Mol Plant-Microbe  Interact 13 (12):1330-1339 M. Kawabe, Y. Kobayashi, G. Okada, I. Yamaguchi , T. Teraoka and T. Arie (2005). Three evolutionary lineages of tomato wilt pathogen, Fusarium oxysporum f. sp. lycopersici, based on sequences of IGS, MAT1 , and pg1, are each composed of isolates of a sing le mating type and a single or closely related vege tative compatibility group. J Gen Plant Pathol:71 (4) :263-272 Masaki Kanamori, Hana Kato, Nobuko Yasuda, Shinz o Koizumi, Tobin L. Peever, Takashi Kamakura, Tohru  Teraoka, Tsutomu Arie (2007) Novel mating type-depende nt transcripts at the mating type locus in Magnaport he oryzae. Gene 403:6-17 Sharon A., Yamaguchi K., Christiansen S., Horwit z B.A., Yoder O.C., Turgeon B.G., 1996. An asexual  fungus has the potential for sexual development. Mol Gen Genet 250: 11-122 Yun, Sung-Hwan, Arie, Tsutomu, Kaneko, Isao, Yod er, O. C., Turgeon, B. Gillian, 2000. Molecular Orga nization of Mating Type Loci in Heterothallic, Homoth allic, and Asexual Gibberella/Fusarium Species. Fungal Genet Biol 31: 7-20 今井峻介、寺岡 徹、有江 力 2007. 「Fu sarium oxysporumの交配型遺伝子領域(MAT1)の入換 株の作出」 平成19年度日本植物病理学会関 東部会講演要旨集 8

 上述したことは、交配不全であるFusarium  oxysporumでは、交配し得る近縁の集団内にパー トナーが不在になってしまっており、これが 交配不全の原因である可能性を示唆した。す なわち、原因として推測された上記背景技術 の項の上記(3)の可能性を示唆したものである 。

 そのため、交配不全性糸状菌を交配する 規な方法の開発が望まれている。

 本発明は、交配不全性糸状菌を交配する 規な方法を提供することを目的とする。

 上記課題を解決し、本発明の目的を達成 るため、本発明者らは、今回、交親株であ 交配不全性糸状菌と、該親株の交配型遺伝 領域を、該親株と異なるが同種の交配型不 性株に由来する別の交配型遺伝子領域で入 えることによって染色体パターンが実質的 相同でありながら交配型が異なる入換え株 を交配させることを含む方法によって、交 不全性糸状菌を交配可能にする方法を見出 た。

 ここで、限定されるわけではないが、糸 菌が、植物病原性糸状菌又は麹菌であるこ が好ましい。また、限定されるわけではな が、植物病原性糸状菌がFusarium oxysporumであ ることが好ましい。また、限定されるわけで はないが、入換えが相同組換えによって行な われることが好ましい。

 本発明の交配不全性糸状菌を交配する方 は、産業上重要又は有用な糸状菌の遺伝子 能の解析や、良好な形質の菌の生成、すな ち育種、を可能にする利点を有する。

この図は、Fusarium oxysporumのCHEF分離に る染色体パターンを示す。図中、Aは、NBRC653 1株、Bは、880621a-1株、Cは、MAFF103038株、Dは、M AFF103036株、Eは、tomino 1-c株、Fは、F-1-1株をそ れぞれ表わす。アガロースゲル電気泳動条件 は次のとおりである。ゲル:0.8% Certified Megaba se Agarose (Bio-rad);泳動バッファー:0.5×TBE;温度 :10℃;電圧:2.0 V/cm;泳動時間:120時間;初期スイ チング時間:10分:最終スイッチング時間:30分 。 この図は、Gibberella fujikuroiのCHEF分離に よる染色体パターンを示す。アガロースゲル 電気泳動条件は次のとおりである。ゲル:0.8% Certified Megabase Agarose (Bio-rad);泳動バッファ :0.5×TBE;温度:10℃;電圧:2.0 V/cm;泳動時間:120 間;初期スイッチング時間:10分:最終スイッチ ング時間:30分。 この図は、TAIL-PCRで用いたプライマー 位置と880621a-1とtomino1-cのMAT1領域の構造を示 。白抜きのボックスは、塩基配列が95%以上 同な領域を示す。 この図は、TAIL(thermal asymmetric interlaced) -PCR及びLA(long accurate)-PCRの反応条件及び手順 示す。なお、TAIL-PCRの試薬はすべて、New Eng land Biolabs社製であり、一方、LA-PCRの試薬は べてTakara社製である。 この図は、MAT1領域入換えベクターの構 築(図5A)と形質転換体の交配型検定結果(図5B) 示す。 この図は、形質転換体の染色体パター を示す。アガロースゲル電気泳動条件は次 とおりである。ゲル:0.8% Certified Megabase Aga rose (Bio-rad);泳動バッファー:0.5×TBE;温度:10℃; 電圧:2.0 V/cm;泳動時間:120時間;初期スイッチ グ時間:10分:最終スイッチング時間:30分。 この図は、トマト茎上に形成された子 殻(図7A及び7B)、子嚢(図7C)及び子嚢胞子(図7D )を示す。

 以下、糸状菌を交配する方法にかかる発 を実施するための最良の形態について説明 る。

 本発明は、交配不全性の糸状菌を交配す 方法であって、親株である交配不全性糸状 と、該親株の交配型遺伝子領域を、該親株 異なるが同種の交配不全性株に由来する別 交配型遺伝子領域で入換えることによって 出された、染色体パターンが実質的に相同 ありながら交配型が異なる入換え株とを交 させることを含む方法を提供する。

 本明細書で使用される「交配不全性糸状 」は、交配が観察されていない糸状菌を指 。ここで糸状菌は、菌類のうち菌糸や胞子 らなるものを指し、子嚢菌、担子菌、接合 なども包含する。交配不全性糸状菌は交配 きないため、遺伝子機能の遺伝的解析(交配 検定)や、交配による育種が不可能であるた 、本発明の方法により交配が可能になれば 交配検定による遺伝子機能の解析が格段に 歩すること、また、麹菌等でより良好な形 の菌の育種が可能になり、科学的、産業的 意義深いものとなる。

 本発明における交配不全性糸状菌は、以 のものに限定されないが、例えば重要な植 病原性糸状菌、例えばFusarium oxysporum、Vertic illium dahliae、Alternaria alternata、Penicillium itali cumなど(米山勝美、2006(非特許文献5)、「不完 菌類」の項目参照)、麹菌、例えば黄麹かび (Aspergillus oryzae)やAspergillus spp.、或いは、そ 他の子嚢菌、例えばAcremonium spp.、Alternaria  spp.、Ambrosiella spp.、Arthrobotrys spp.、Aureobasidiu m spp.、Beauveria spp.、Blastomyces spp.、Botriosporiu m spp.、Botrytis spp.、Chalara spp.、Cercospora spp. Cephalosporium spp.、Chrysomnia spp.、Chrysosporium s pp.、Cladosporium spp.、Chlorodoim spp.、Coccidioides  spp.、Cryptococcus spp.、Curvularia spp.、Cylindrocarpo n spp.、Cylindrocladium spp.、Drechslera spp.、Epicocc um spp.、Fusarium spp.、Geotrichum spp.、Gliocladium  spp.、Graphium spp.、Helicomyces spp.、Helicosporium s pp.、Heliscus spp.、Helmithosporium spp.、Hyalodendron spp.、Hystoplasma spp.、Isaria spp.、Lemonniera spp. Metarhizium spp.、Microsporium spp.、Monilia spp.、M onocillium spp.、Nigrospora spp.、Nodulisporium spp.、 Oidiodendron spp.、Paecilomyces spp.、Penicillium spp. Phialomyces spp.、Phialophora spp.、Pyricularia spp. Raffaelea spp.、Ramularia spp.、Rhinocladiella spp. Sporpthrix spp.、Staphylotricum spp.、Stilbella spp. Thermomyces spp.、Trichiphyton spp.、Trichoderma spp. Trichothecium spp.、Tripospermum spp.、Varicosporium  spp.、Verticillium spp.、 Ascochyta spp.、Endothiella spp.、Leucocytospora spp.、Melasmia spp.、Pestalotia  spp.、Pestalotiopsis spp.、Phoma spp.、Phomopsis spp. Septoria spp.、Rhizoctonia spp.、Sclerotium spp.な のうち完全世代の報告がないものを例示す ことができる。

 本明細書で使用される「交配型遺伝子」 は、菌株の交配型を決定する遺伝子である 一般にヘテロタリックな糸状菌では1種のう ちに2つの交配型(例えばMAT1-1とMAT1-2)の菌株が 存在し、これらの菌株が適した環境条件で出 会うと細胞融合が起こり、有性生殖の一連の 過程が進み、後代を形成する。交配型の呼称 は各菌種によって異なる場合があるが、交配 型遺伝子領域の構造からはMAT1-1およびMAT1-2と 整理することが標準とされており(Turgeon, B.  G. and Yoder, O. C. (2000). Proposed nom enclature  for mating type genes of filam entous ascom ycetes. Fungal genet. Biol. 31:1-5.)、本明細書では交配 としてそのような標準的呼称を採用してい (従って、他の表記もすべて内包することに なる)。

 本発明では、交配不全性糸状菌の親株と 該親株と異なるが同種の交配不全性株に由 する別の交配型遺伝子領域で入換えること よって染色体パターンが実質的に相同とな た入換え株とを交配させる。ここで、親株 交配型遺伝子と、入換え株の交配型遺伝子 、菌株間での細胞融合を起こしうる、交配 を決定する2つの遺伝子である。上記例示の ような、MAT1-1とMAT1-2などが、交配型決定遺伝 子の対である。

 MAT1-1及びMAT1-2などの交配型遺伝子を含む 域の配列情報としては、各種の交配不全性 状菌についてGenBank(米国NCBI)などのジーンバ ンクに登録された配列、あるいは刊行物に記 載された配列などを利用することができる。 例えば、Fusarium oxysporumのMAT1領域及びその隣 領域(flanking regions)を含むゲノム領域の配列 情報は、GenBank  AB011379, AB011378などとして登 録されている。また、黄麹かび(Aspergillus oryz ae)の交配型遺伝子領域を含むゲノム配列に関 する配列情報は、Galagan et al., (2005) Nature V ol 438:22-29に登録されている。

 本発明は、同種の糸状菌間、特に株間で 交配型遺伝子領域の入換え(例えば、組換え 又は置換)を利用する。後述の実施例では、Fu sarium oxysporumのうち、880621a-1株とtomino1-c株と 間で、880621a-1株のMAT1-1領域(約4.5kb)及びその 両隣接領域(それぞれ、約2.5~3.0kb)を含むゲノ 領域によって、tomino1-c株のMAT1-2領域及び(880 621a-1株のMAT1-1領域(約4.5kb)の両隣接領域の各 と)95%以上(好ましくは97%以上、より好ましく は98%以上)の相同性を有するその両隣接領域( 2.5~3.0kb)を含むゲノム領域を、相同組換え法 によって組み換える(図3、図5参照)。相同組 えを実施するために、目的の糸状菌におい 、交配型遺伝子領域及びその両隣接領域か なる挿入しようとするゲノム領域(全長約7~10 kb)を、プライマーを用いるPCR (Polymerase Chain Reaction)にて増幅し、この増幅産物をプラス ドなどのベクターに組み入れたのち、制限 素で切断して一本鎖にし、これを用いて、 株のゲノムの相同領域との組換えを行う。 のとき、親株からプロトプラスト(又はスフ ロプラスト)を作製し、このなかにプラスミ ド由来の相同組換え用DNAを導入する。このよ うな方法は、一般的な手法で実施しうる。プ ロトプラスト(又はスフェロプラスト)は、培 糸状菌を細胞壁溶解酵素(例えばセルラーゼ 、プロテアーゼ、ペクチナーゼ、キチナーゼ 、リゾチームなど))で処理することによって 菌の細胞壁を部分的に又は全体的に溶解し 得ることができる。プロトプラスト(又はス フェロプラスト)内への外来DNA(ここでは、プ スミド)の導入のために、ポリエチレングリ コール(PEG)法、エレクトロポレーション法な を使用できる。PEG法で使用可能なPEGの分子 は、一般に約4,000~約10,000の範囲である。ま 、エレクトロポレーションは、細胞懸濁液 電気パルスをかけて微小な孔をあけ、これ より外来DNAを細胞内に導入する手法である プラスミドは、糸状菌の形質転換用であれ いずれも使用可能であり、例えばpCSN43(Staben , C. et al., (1989) Fungal Genet. Newsl. 36:79-81) どを含む。プラスミドは、プロモーター、 ンハンサー、選択マーカー(例えば、薬剤耐 マーカー(例えばG418、オリゴマイシン、ブ シチシジンSなど)、栄養要求性マーカー(例 ばpryG、argB、tryCなど)、チミジンキナーゼ(tk) 遺伝子など)、マルチクローニングサイトな を含むことができる。

 本発明では、交配を成功させるためには 親株の染色体パターンと、交配パートナー 入換え株の染色体パターンとが実質的に相 である必要がある。ここで、染色体パター は、後述の実施例に記載のようにCHEF電気泳 動によって確認することができる(図6参照)。 ここで、実質的とは、完全一致でないが視覚 的に一致していることの意味である。また、 染色体パターンとは、CHEF電気泳動によって 別できる当該菌株が有する染色体の数や大 さのEFHEH意味である。核型とも同義である。

 上記のようにして作出した形質転換株(入 換え株)と親株との交配は、寒天培地などの 体培地に必要な栄養分を補充した培地にて 菌株を一緒に培養し、必要であれば感染対 を接触させて培養を行い、交配により親株 と異なる形質の株を選抜する。形質の違い 、例えば、子嚢殻様構造の形成、内部の子 および子嚢胞子の形成や子嚢殻からの子嚢 子の放出によって判定することができる。

 染色体パターンが相同で交配型遺伝子が なる株は、必ずしも全く同一の株の交配型 伝子入れ換え株に限定されない。染色体パ ーンが相同(同一でなく、類似する場合も含 む)であっても、相同染色体が対合すること 可能であればよい。

 なお、本発明は上述の発明を実施するた の最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱 ることなくその他種々の構成を採り得るこ はもちろんである。

 つぎに、本発明にかかる実施例について 体的に説明する。ただし、本発明はこれら 施例に限定されるものではないことはもち んである。

 交配不全性菌であるFusarium oxysporum 菌株に ける遺伝的なバックグラウンドを調査する めに、CHEF (Clamped Homogeneous Electric Fields)  気泳動を行い、染色体のパターンを核型解 によって調査した。使用した菌株は、トマ 萎凋病菌F. oxysporum f. sp. lycopersici MAT1-1の 株を4株(NBRC6531, 880621a-1, MAFF103038, MAFF103036) MAT1-2の株を2株(tomino1-c, F-1-1)である。各株の プロトプラストを調製(プロトプラストの調 法は後述する。)、1.0 x 10 8  protoplasts/ml以上になるようにSTE (1 M Sorbitol , 25 mM Tris-HCl, 50 mM EDTA, pH 7.5) に再懸濁 た。等量のSTEに1.4 % InCert agarose (低融点 ガロース、FMC) を融解、プロトプラスト溶 と混合し、プロトプラストを包埋した。で たプラグを3 mm程度の薄さにスライスし、SE buffer (1 M Sorbitol, 50 mM EDTA, pH 8.0)中で55 、36時間インキュベートした。プラグを取り 出し、2 mg/mlのProteinaseKを含むNDS (100 mM Tris,  500 mM EDTA, 1 % N-laurylsarcosyl) 中で更に55℃ で36時間インキュベートして、細胞を破壊し 染色体を露出させた。50 mM EDTAにプラグを して10分間震盪した後、EDTAを捨てた。この 業を3回繰り返し、完成したプラグをCHEF Map per (Bio-rad) に供試した。電気泳動の条件は 1に示す。各株で染色体パターンが異なるの 分かる(図1)。特に、交配する可能性があるM AT1-1株とMAT1-2株間で染色体パターンが類似す ものがない。

 F. oxysporumに近縁で交配能を持つGibberella  fujikuroiには交配群 (mating population) と呼ばれ るグループが存在し、同一交配群内の異なる 交配型の菌株間でのみ交配がおこる。G. fujik uroi菌株の染色体を上述と同様にCHEFによって 離すると、一つの交配群の中では、異交配 の菌株間でも類似したパターンを示した(図 2)。

 しかるに、F. oxysporum菌株がたとえ交配す る潜在能力を持っていたとしても、菌株ごと に異なる染色体パターンを持つため、異交配 型菌株が交配を開始した場合でも、染色体の 対合から減数分裂の過程が不全になる可能性 、さらには、これがF. oxysporumの交配不全性 原因であることが示唆された。この原因は これまでF. oxysporumが交配をせずに、無性的 増殖を繰り返してきた結果であると推測さ た。

 以上のことは、F. oxysporumでは、各菌株の 染色体パターンが異なるため、交配可能なパ ートナーの不在が起きている可能性を示し、 交配不全性の原因として上述で推測した(3)を 強く支持するものである。

 そこで、F.oxysporumにおいて、染色体パタ ンが相同でありながら、交配型が異なる菌 を人工的に作出し、それを用いて交配試験 試みた。図3に示すように、MAT1領域の両側は 、MAT1-1株およびMAT1-2株とも相同であるため、 二回相同組換え法に基づいて、MAT1領域をそ くり入れ換えることを意図した。その結果 上述した従来作出されたMAT1領域挿入株とは なる新たなタイプの挿入株が生じる。なお 二回相同組換えによる遺伝子領域の入換え 体は普遍的な技術である。

 二回相同組換えによる遺伝子領域の入換 を行うには、当該遺伝子領域の両側の隣接 域約0.5~5 kbの塩基配列情報が必要になる。 こで、すでに決定されていたF. oxysporumのMAT 1領域および隣接領域の塩基配列(Arie et al. 2 000;GenBank  AB011379, AB011378)のさらに周辺領域 塩基配列を決定した。そのために、F. oxyspo rum 880621a-1株 (交配型MAT1-1) ゲノムDNAを鋳型 用いてTAIL-PCR(非特許文献7(Arie et al. 2000)) 行った。

 GenBank AB011379で登録されている塩基配列 基に設計した特異プライマーと7つの非特異 ライマー (表1) を用いて図4に示した条件 数回のTAIL-PCRを行い、MAT1領域の上流約2.8 kb 下流約2.6 kbの隣接領域の塩基配列を決定し た (図3) 。これらの塩基配列はF. oxysporum to mino 1-c株 (交配型MAT1-2) の同領域と95%以上の 高い相同性を示した(図3)。

 プライマーXとY (表1) を用いて図4に示し た条件でF. oxysporum 880621a-1株ゲノムDNAを鋳型 にLA-PCRを行い、得られた約10 kbのMAT1領域(MAT1 -1-1遺伝子を含む)を含むDNA断片をTOPO XL Gel p urification kit (Invitrogen) を用いて精製し、pCR- XL-TOPO (Invitrogen) ベクターに導入、MAT1領域入 換えベクターpMAT1-1とした (図5A) 。

 PSA (potato sucrose agar) 培地上で生育させたt omino 1-cの菌糸を培地ごと切り出し、50 mlのPS B (potato sucrose broth) 液体培地に入れ、5日間 、120 rpmで震盪培養した。二重滅菌ガーゼで 過して菌糸を除き、3000 rpmで10分間遠心し 胞子をチューブの底に沈め上清を捨てた。 菌RO水を加えて沈殿している胞子をよく洗い 、再び3000 rpmで10分間遠心し、上清を捨て、 当な量の滅菌RO水を加え胞子懸濁液とした 1.0 x 10 7 個の胞子を100 mlのPSBに加え、室温で静置し 。約36時間後、発芽した胞子をブフナー漏斗 と濾紙を用いて回収し、50 mlの滅菌RO水に懸 、3000 rpmで10分間遠心して上清を捨てた。 び滅菌RO水を加えて同様の作業を行った後、 回収した発芽胞子を10 mlの1.2 M MgSO 4 に再懸濁し、そこへ等容量の酵素液 (2% Lysin g Enzymes, 2% ドリセラーゼ(セルラーゼ・プロ テアーゼ・ペクチナーゼ複合酵素;協和発酵 業製)、0.0005%キチナーゼを加えて、70 rpmで3 間インキュベートした。滅菌ティッシュペ パーで菌糸を取り除き、等容のSTC (1 M Sorb itol, 10 mmM Tris-HCl, 10 mM CaCl 2 ・2 H 2 O) を加えて、3000 rpmで20分間遠心し、沈殿し たプロトプラストを回収して120 μlのSTCに再 濁し、プロトプラスト溶液を調製した。こ とき、濃度が1.0 x 10 8  protoplasts/ml以上になるように調整した。

 pMAT1-1と、ハイグロマイシンB耐性遺伝子 持つpCSN43はそれぞれQIAfilter Plasmid Midi kit ( QIAGEN) で抽出し、それぞれ20μgずつを制限酵 Not Iで一本鎖化した。両プラスミド液は65 で20分間以上加熱し制限酵素を失活させた後 、既述のプロトプラスト溶液に全量を加え、 20分間氷上に静置した。この液に60 % PEG (ポ リエチレングリコール) 4000溶液を200μl、200μ l、800μlの順に混ぜながら段階的に加えてい 、20分間氷上で静置し、細胞内に両プラスミ ドをとりこませた。6 mlのSTCを加えPEGを希釈 、40℃程度に冷ましたRM培地に混ぜ込み、シ ャーレに分注した。約24時間後に100μg/ml の イグロマイシンB(非形質転換体F. oxysporumが 受性の抗生物質)を含む1.0 %水寒天を重層し 上層に生えてきた菌株を形質転換体とし、 降の実験に用いた。この形質転換は、2つの プラスミドを同時に使用して行っている。高 い効率で2つのプラスミドが同時にゲノムに り込まれることが知られており、この方法 cotransformationという。本実施例では、2つのう ちの1つに、糸状菌をハイグロマイシン耐性 するpCSN43を使用しているため、形質転換体 ハイグロマイシンB添加培地で選抜できる。

 得られた2株の形質転換体のゲノムDNAを抽 出し、A+B、C+Dのプライマー (表1、図5) の組 せでPCRを行い、交配型を調査した。その結 、tomino1-cのMAT1-2と880621a-1のMAT1-1が入れ替わ た株tomino1-c (δMAT1-2; MAT1-1) [以降R1とする] と入換えが起こらずMAT1-1が異所に挿入され 株tomino1-c (MAT1-2; MAT1-1) [以降E1とする] が られたことが確認された (図5B) 。

 これらの形質転換体の染色体を上述と同 にCHEF電気泳動で分離し、染色体パターンを 調査した。その結果、形質転換体(R1およびE1) の染色体パターンが親株(tomino 1-c)と相同に っていることが分かった (図6) 。

 この結果、F.oxysporumにおいて、染色体パ ーンがtomino 1-c (MAT1-2)と相同でありながら 交配型が異なる(MAT1-1)菌株(R1)を人工的に作 できたことになる。本実施例の特徴は、単 交配型の異なる株を得たのではなく、染色 パターンを相同にした上で交配型が異なる を作出した点にある。

 上述までに作出した形質転換体(R1、MAT1-1) とその親株tomino 1-c(MAT1-2)の掛け合わせ試験 行った。試験管の底に3 cmほどの水寒天を入 れ、オートクレーブ滅菌を行った。PSA、MMAの いずれかの平板培地上で両菌株を5日間ほど 養し、生育が良好な菌そうの先端部を培地 と、約1 cm四方に切り出し、先述の試験管内 の水寒天上に置いた。次に、一ヶ月以上滅菌 土で育苗したトマト (品種: ポンデローザ)  の茎の気根を取り除き、約5 cmの長さに切断 たものを、70 %エタノール中で5分間振とう ながら洗浄した。さらに有効塩素濃度1 %に 調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液中で5 間上下に振とうし、殺菌した。次亜塩素酸 トリウム水溶液を捨て、滅菌RO水で洗浄した 。この洗浄作業を3回繰り返した。得られた 面殺菌済みのトマトの茎を、茎の下端が試 管内の水寒天に届くように垂直に入れて、 験管にシリコ栓をし、25℃、明暗12時間周期 設定したインキュベータ内で培養した。

 培養14日後、tomino1-c×R1の組合せで菌を入 た試験管内で、有性世代に特異的な器官で る子嚢殻が形成されているのを確認した。 に顕微鏡下で観察を行ったところ、子嚢殻 部に子嚢、及び、子嚢の内部に8個の子嚢胞 子が確認された。従って、上述の条件下で交 配が行われたことが示された (図7) 。

 糸状菌は、交配の為に種ごとに異なる環 条件を要求する。本実施例では、上述がF.  oxysporumの交配好適条件であることを見出した ことも初の報告であり、意義深い。

 以上のように、遺伝的なバックグラウン が極めて近く、交配型が異なる菌株を作出 、交配好適条件で掛け合わせることによっ 、交配不全性菌糸状菌の交配が可能になっ 。また、この結果は、F. oxysporumが交配に係 わる機能を完全に維持していることの初の証 明である。

 両交配型遺伝子を保持するE1株は、上述 条件でE1の菌そうのみを植えたところ、上述 と同様な完全世代を形成した。ここで使用し たE1株は、背景技術で既述したホモタリック と同様に、両交配型遺伝子を保持している め、リーズナブルである。

 なお、配列表において、880621a-1 MAT1-1 loc usは、MAT1-1領域を含む塩基配列であり、MAT1-1 域は2897-7501 bpである。tomino1-c MAT1-2 leftは8 80621a-1の1219-2754 bpに相当する部分の配列であ り、tomino1-c MAT1-2 rightは880621a-1の7556-10302 bp 相当する部分の配列である。

 以上のことから、本実施例によれば以下の うな効果が得られる。
 今後Fusarium oxysporumの完全世代の命名が可能 となる。
 Fusarium oxysporumにおいて、遺伝学的手法に基 づき、交配によって遺伝子機能(植物病原性 宿主特異性なども含む)の解析などが可能に る。
 他の交配不全性の植物病原性糸状菌種でも 様な方法で発病因子の解析に遺伝的手法が 用できるようになる。

 植物病原性でない交配不全性の糸状菌(例え ばAspergillus oryzae)にも同様な手法が適用可能 あり、完全世代を形成させること、交配試 による遺伝子機能などの遺伝解析が可能に る。
 産業上有用な交配不全性菌(Aspergillus oryzae Penicillium spp.)で、交配による形質の改善、 なわち、育種が可能になる。

 産業上有用な交配不全性菌(例えばAspergill us oryzae、Penicillium spp.)で、交配による形質 改善、すなわち、育種が可能になる。