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Patent Searching and Data


Title:
METHOD FOR PRODUCING STEEL PARTS
Document Type and Number:
WIPO Patent Application WO/2009/131202
Kind Code:
A1
Abstract:
Included are a reduced pressure carburization process wherein steel parts are subjected to a carburizing treatment in a carburizing gas under reduced pressure; a slow-cooling process wherein said steel parts which have been subjected to the reduced pressure carburization process are cooled slowly in a cooling gas; and a hardening process wherein prescribed regions of the cooled steel parts are heated using high density energy and then quenched. The steel parts subjected to the reduced pressure carburization process have a first part (where carbon diffuses readily) and a second part (where carbon diffuses with difficulty) wherein the diffusion rates of the carbon introduced during the carburizing treatment are different, depending on the shape, and the diffusion rate of the carbon introduced into the second part is slower than that in the first part. The reduced pressure carburization process is carried out under conditions such that the surface carbon concentration in the first part reaches a value within the range 0.65 ± 0.1 mass%.

Inventors:
OHBAYASHI KOUJI (JP)
OKADA KAZUAKI (JP)
Application Number:
PCT/JP2009/058126
Publication Date:
October 29, 2009
Filing Date:
April 24, 2009
Export Citation:
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Assignee:
AISIN AW CO (JP)
OHBAYASHI KOUJI (JP)
OKADA KAZUAKI (JP)
International Classes:
C21D9/32; C21D1/06; C21D1/09; C21D1/10; C23C8/22
Domestic Patent References:
WO2007034911A12007-03-29
Other References:
KOJI OBAYASHI: "Automatic Transmission no Zairyo·Netsushori Gijutsu no Doko to Kadai", DENKI SEIKO, vol. 79, no. 1, 28 February 2008 (2008-02-28), pages 53 - 60
Attorney, Agent or Firm:
AICHI, Takahashi, Iwakura, &, Associates (JP)
Patent business corporation あいち international patent firm (JP)
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Claims:
 鋼部材を減圧下の浸炭ガス中において浸炭処理する減圧浸炭工程と、
 該減圧浸炭工程を終えた上記鋼部材を冷却ガス中において徐冷する徐冷工程と、
 冷却された上記鋼部材の所望部分を高密度エネルギーを利用して加熱した後に急冷する焼き入れ工程とを含み、
 上記減圧浸炭工程に供する上記鋼部材は、その形状に起因して浸炭処理時に侵入した炭素の拡散速度が異なる第1部位と第2部位とを有し、上記第1部位よりも上記第2部位の方が侵入した炭素の拡散速度が遅く、上記減圧浸炭工程は、上記第1部位の表面浸炭濃度が0.65±0.1質量%の範囲内となる条件で行うことを特徴とする鋼部材の製造方法。
 請求項1において、上記減圧浸炭工程は、上記第1部位の表面浸炭濃度が0.65±0.05質量%の範囲内となる条件で行うことを特徴とする鋼部材の製造方法。
 請求項1又は2において、上記減圧浸炭工程は、上記第2部位の表面浸炭濃度が0.85質量%以下となる条件で行うことを特徴とする鋼部材の製造方法。
 請求項1~3のいずれか1項において、上記減圧浸炭工程は、炭化水素系の上記浸炭ガス中に上記鋼部材を保持し該鋼部材の表面に炭素を侵入させる浸炭期と、減圧状態にて炭素を上記鋼部材の内部へ拡散させる拡散期を有することを特徴とする鋼部材の製造方法。
 請求項1~4のいずれか1項において、上記鋼部材の上記第1部位は、その部位の断面形状における表面の角度が130度以上の条件を満たす任意の部位とすることを特徴とする鋼部材の製造方法。
 請求項1~5のいずれか1項において、上記鋼部材は歯形部を有するギヤであり、上記第1部位は、上記歯形部の歯面または歯底であることを特徴とする鋼部材の製造方法。
 請求項1~6のいずれか1項において、上記減圧浸炭工程は、上記鋼部材をオーステナイト化温度以上に加熱すると共に、1~100hPaの減圧条件下において行うことを特徴とする鋼部材の製造方法。
 請求項1~7のいずれか1項において、上記徐冷工程は、少なくとも上記鋼部材が冷却中にマルテンサイト変態しない冷却速度で行うことを特徴とする鋼部材の製造方法。
 請求項1~8のいずれか1項において、上記徐冷工程は、少なくとも上記鋼部材の温度がA1変態点温度以上にある間の冷却速度が0.1℃/秒~3.0℃/秒となるよう徐冷を行うことを特徴とする鋼部材の製造方法。
 請求項1~9のいずれか1項において、上記徐冷工程において用いる上記冷却ガスは、窒素、ヘリウム、又はアルゴンのいずれかであることを特徴とする鋼部材の製造方法。
 請求項1~10のいずれか1項において、上記徐冷工程は、上記冷却ガスを大気圧よりも低く減圧した状態で行うことを特徴とする鋼部材の製造方法。
 請求項11において、上記徐冷工程における上記冷却ガスの減圧状態は、100hPa~650hPaの範囲とすることを特徴とする鋼部材の製造方法。
 請求項11において、上記徐冷工程における上記冷却ガスの減圧状態は、100hPa~300hPaの範囲とすることを特徴とする鋼部材の製造方法。
 請求項11~13のいずれか1項において、上記徐冷工程における上記冷却ガスの減圧状態は、上記鋼部材の温度がA1変態点以下となった後にそれ以前よりも高くする条件で冷却を行うことを特徴とする鋼部材の製造方法。
 請求項1~14のいずれか1項において、上記焼き入れ工程は、上記鋼部材の所望部分を高密度エネルギーを利用してオーステナイト化温度以上に加熱し、その後浸炭層においてマルテンサイト変態する急冷臨界冷却速度以上で急冷することにより行うことを特徴とする鋼部材の製造方法。
 請求項1~15のいずれか1項において、上記焼き入れ工程における上記高密度エネルギーを利用した加熱は高周波加熱により行い、上記急冷は水焼入れにより行うことを特徴とする鋼部材の製造方法。
 請求項16において、上記高周波加熱による加熱は、上記鋼部材を1個流しで処理し、加熱後の冷却時には、鋼部材を回転させながら、周囲から冷却水を上記鋼部材に向かって噴射して冷却することを特徴とする鋼部材の製造方法。
 請求項1~17のいずれか1項において、上記焼き入れ工程は、高密度エネルギービームを上記鋼部材の所望部分に照射することにより加熱した後、自己放冷により急冷することにより行うことを特徴とする鋼部材の製造方法。
 請求項18において、上記高密度エネルギービームは、電子ビームであることを特徴とする鋼部材の製造方法。
Description:
鋼部材の製造方法

 本発明は、例えばギヤ等の、その形状に 因して浸炭処理時に侵入した炭素の拡散速 が異なる第1部位(炭素容易拡散部位)と第2部 位(炭素難拡散部位)とを有し、第1部位よりも 上記第2部位の方が侵入した炭素の拡散速度 遅い鋼部材に浸炭処理を施して製造する方 に関する。

 例えば、ギヤ等の鋼部材は、靱性を維持 つつ表面硬度を高めるための処理として浸 焼入れ処理が施されることが多い。浸炭焼 れ処理は、鋼部材をオーステナイト化温度 上に加熱した状態で表面の炭素濃度を増大 せる浸炭処理を行った後に、焼入れ処理を って芯部の靱性を確保すると共に、表面硬 を高める処理である。

 従来の浸炭焼入れ処理としては、出側に 焼入れ槽を備えた大型の熱処理炉を用いて 長時間浸炭処理した直後に油焼入れする連 式のガス浸炭炉によるガス浸炭法がとられ いた。ガス浸炭法では、平衡反応により鋼 に炭素を侵入させるので、長時間、鋼部材 高温の浸炭ガス雰囲気中にさらす必要があ た。また、焼入れ時の冷却剤を油とする理 は、水の場合よりも比較的緩やかな冷却が えることによる歪みの抑制をするためであ 。しかしながら、多数個を同時に油槽に沈 込ませる油焼入れでは、一つの鋼部材の中 も、最初に油に浸かる部分と最後に油に浸 る部分とでの時間差により、鋼部材に歪が じてしまうため、油にて焼入れを行っても 上記従来の方法で浸炭焼入れ処理を行った 部材は、歪みの発生の問題を解消すること 困難であった。更に、鋼部材間でも鋼部材 配置する位置によって焼き入れ品質にバラ キが発生していた。

 また、従来の浸炭焼入れ処理は、上記の とく大型の熱処理炉を用いた長時間の浸炭 理を必須とするために、処理時間が長く、 費エネルギーも多い。そのため、浸炭焼入 処理に必要な処理時間の短縮および消費エ ルギーの低減、さらには、浸炭焼入れ設備 のものの小型化が望まれていた。

 浸炭焼入れ処理での、消費エネルギーを低 させる方策として、減圧浸炭処理(真空浸炭 処理)の採用が有効であると考えられる。
 また、浸炭処理後の焼入れ処理としては、 品全体に焼入れ処理を行うのではなく局部 に焼入れを行う高周波焼入れ方法(特許文献 1参照)が提案されている。

特開平11-131133号公報

 しかしながら、上記減圧浸炭処理を採用す に当たって発明者が多数の実験を行った結 、次のような問題が生じることがわかった
 即ち、通常のガス浸炭の場合は平衡反応に 浸炭を行うので、予めカーボンポテンシャ を計算して条件設定することができるが、 圧浸炭処理では、非平衡反応であるため、 のような条件設定が難しい。また、例えば ヤのように凹凸部分を有する鋼部材を減圧 炭処理した場合には、部位によって侵入し 炭素の拡散速度に差異が生じ、得られる表 の浸炭濃度が部位によってばらつき、浸炭 理によって表面改質すべき部位に所望の改 効果が得られない場合が生じることがわか た。

 なお、上述したごとく減圧浸炭処理は非 衡反応であり、得られる表面の浸炭濃度は 浸炭を進める浸炭期直後とその後に内部に 入している炭素の拡散を進める拡散期を経 後では変化する。本発明で扱う浸炭濃度は あくまでも拡散期を経た後の値を用いて表 してある。したがって、本願明細書におけ 浸炭濃度は、すべて、浸炭期直後ではなく 散期を経た後の浸炭濃度の値である(以下、 同様)。

 本発明は、このような事情に鑑み、形状 起因して浸炭処理時に侵入した炭素の拡散 度が異なる第1部位(炭素容易拡散部位)と第2 部位(炭素難拡散部位)とを有する鋼部材の減 浸炭工程を行う場合の条件を最適条件にす ことができる鋼部材の製造方法を提供しよ とするものである。

 本発明は、鋼部材を減圧下の浸炭ガス中に いて浸炭処理する減圧浸炭工程と、
 該減圧浸炭工程を終えた上記鋼部材を冷却 ス中において徐冷する徐冷工程と、
 冷却された上記鋼部材の所望部分を高密度 ネルギーを利用して加熱した後に急冷する き入れ工程とを含み、
 上記減圧浸炭工程に供する上記鋼部材は、 の形状に起因して浸炭処理時に侵入した炭 の拡散速度が異なる第1部位と第2部位とを し、上記第1部位よりも上記第2部位の方が侵 入した炭素の拡散速度が遅く、上記減圧浸炭 工程は、上記第1部位の表面浸炭濃度が0.65±0. 1質量%の範囲内となる条件で行うことを特徴 する鋼部材の製造方法にある。

 本発明では、浸炭処理工程として上記減 浸炭工程を採用すると共に、焼入れ処理工 として高密度エネルギーを利用して加熱し 後に急冷する焼き入れ工程を採用し、かつ 両工程の間に上記徐冷工程を取り入れた方 である。これによって、従来と同等以上の 炭焼入れ処理を施すことができると共に、 み発生を大幅に抑制することができ、さら 従来よりも処理時間を短くすることも可能 なる。これにより使用するエネルギー量及 コストも大幅に低減することができる。

 ここで注目すべき点は、本発明は、上記 定の方法による焼き入れ工程を採用するこ を前提として、上記減圧浸炭工程に供する 記鋼部材を、上記第1部位と第2部位とを有 る部材である場合に、上記減圧浸炭処理を 上記第1部位の表面浸炭濃度が0.65±0.1質量%の 範囲内となる条件で行うことである。

 本発明の発明者は、このような条件で減 浸炭処理を行うことによって、得られる鋼 材の第2部位、つまり、拡散速度が第1部位 りも遅くて浸炭処理後の表面の浸炭濃度が 1部位よりも高くなる部位の表面浸炭濃度を 0.85質量%以下の範囲に抑制することができ ということを多くの実験の結果はじめて見 したのである。そして、これにより、鋼部 の浸炭処理によって表面改質しようとする 位のほぼ全面の表面炭素濃度を0.55~0.85質量% 範囲内に収めることができる。この範囲内 表面炭素濃度を収めることにより、その後 高周波エネルギーを利用した加熱の後に急 するという特殊な焼き入れ工程を施すこと よって、表面浸炭濃度が下限に近い部分(第 1部位)においても焼き入れ効果が十分に得ら 、かつ、表面浸炭濃度が上限に近い部分(第 2部位)においては過剰炭素によるセメンタイ の生成を抑制することができて焼き入れ後 優れた改質面が得られるのである。

 上記のような浸炭条件は、減圧浸炭処理 程における温度、浸炭ガスの種類、圧力、 理時間などを変更して複数回の予備実験を い、上記第1部位の表面浸炭濃度が上記特定 の範囲となる条件を見つけることが必要であ る。なお、被処理材である鋼部材が同じ形状 のものであれば、データの積み重ねによって 、予備実験の回数を減少させることも可能で ある。また、上記鋼部材の上記第1部位と第2 位の決定は、上記予備実験で実際に複数箇 の浸炭濃度を測定して判断しても良いが、 状から比較的容易に判断できるので、形状 観察によって決定しても良い。

 また、焼入れ処理工程としては、上記の とく、鋼部材の所望部分を高密度エネルギ を利用して加熱した後に急冷する焼き入れ 程を行う。この焼き入れ工程では、鋼部材 体を加熱するのではなく、高密度エネルギ の特性を活かして所望部分、つまり、焼入 により強度向上させたい部分のみを急速に 熱し、その部分を急冷する。これにより、 来のように鋼部材全体を焼入れ処理する場 よりも、焼入れ処理時の歪みの発生を大幅 抑制することができ、本発明の焼き入れ工 前の形状を焼入れ後もほぼ維持することが 能となる。

 また、この焼き入れ工程では、高密度エネ ギーを利用することによって、焼入れによ 強度向上効果を高めることが可能となる。 た、この焼入れ能の向上が得られるので、 記減圧浸炭工程における浸炭深さ等の浸炭 理の度合いを低下させたとしても、これを 記焼入れ能の向上によって補うことが可能 なる。本発明は、この優れた特性を積極的 利用して、減圧浸炭工程での上記第1部位の 浸炭濃度を通常の場合よりも低い0.65±0.1質量 %に設定可能としたものである。つまり、こ 高密度エネルギーを利用した焼き入れ工程 上記減圧浸炭工程とを組み合わせることに って、上記減圧浸炭工程における浸炭処理 間を短縮してより効率化すると共に、過剰 セメンタイト生成を抑制した品質向上が可 となる。
 上記高密度エネルギーとしては、例えば電 ビーム、レーザビーム等の高密度エネルギ ビーム、また、ビームではないが高周波加 などの高密度エネルギーがある。

 一方、たとえ歪み抑制効果の高い上記高 度エネルギーを利用した焼き入れ工程を採 しても、その工程の前の鋼部材そのものが んでいる場合には、高精度の鋼部材を得る とは困難となる。このような問題を解決す のために減圧浸炭工程と焼き入れ工程の間 鋼部材の歪み抑制可能な上記徐冷工程を採 した。

 このように、本発明の鋼部材の製造方法 おいては、浸炭工程として上記減圧浸炭工 を採用することによって、高温の浸炭炉の 部を減圧状態に維持しながら比較的少量の 炭ガスによって浸炭処理を行うことができ ので、従来よりも効率よく処理でき、かつ 省エネルギー化を進めることができる。ま 、上記のごとく浸炭条件として、第1部位の 浸炭濃度を0.65±0.1質量%という通常よりも低 値に設定することと、上記特定の焼き入れ 法の採用とによって、表面改質効果を高品 で得ることができ、さらには、上記徐冷工 の採用によって歪みの少ない高精度の鋼部 を得ることができる。

実施例1における、(a)本発明方法のヒー トパターンを示す説明図、(b)比較方法のヒー トパターンを示す説明図。 実施例1における、(a)本発明方法を実施 する熱処理設備、(b)比較方法を実施する浸炭 焼入れ設備を示す説明図。 実施例1における、(a)鋼部材の平面図、 (b)鋼部材の断面図((a)のA-A線矢視断面図)。 実施例1における、浸炭焼入れ後の硬度 分布を示す説明図。 実施例1における、歪み発生状況を示す 説明図。 実施例1における、残留応力発生状況を 示す説明図。 実施例1における、表面の浸炭濃度と焼 入れ後の表面硬度との関係を示す説明図。 実施例1における、ギヤの別例を示す説 明図。 実施例1における、ギヤの別例を示す説 明図。 実施例1における、(a)ギヤの歯形部の 細を示す説明図、(b)歯先角部断面形状にお る角度を示す説明図、(c)歯先角部の輪郭形 と第1部位及び第2部位の位置を示す説明図。

 本発明の上記減圧浸炭工程では、浸炭条件 して、第1部位(炭素容易拡散部位)の浸炭濃 を0.65±0.1質量%に設定することを必須要件と する。この第1部位の浸炭濃度が0.55質量%未満 の場合には、上記の高密度エネルギーを利用 して加熱した後に急冷する焼き入れ工程を採 用したとしても、上記第1部位において十分 焼き入れ硬化効果が得られないおそれがあ 。一方、上記第1部位の浸炭濃度が0.75質量% 超える場合には、上記第2部位の浸炭濃度が0 .85質量%を超える確率が高くなり、セメンタ トが生成し易くなり、表面改質効果が低減 るという問題がある。
 そのため、上記減圧浸炭工程は、上記第1部 位(炭素容易拡散部位)の表面浸炭濃度が0.65±0 .05質量%の範囲内となる条件で行うことがよ 好ましい。

 そして、上記減圧浸炭工程は、上記第2部 位(炭素難拡散部位)の表面浸炭濃度について 0.85質量%以下となる条件を実験により予め め、その条件の範囲内で行うことがより好 しい。

 また、上記減圧浸炭工程は、炭化水素系 上記浸炭ガス中に上記鋼部材を保持し該鋼 材の表面に炭素を侵入させる浸炭期と、減 状態にて炭素を上記鋼部材の内部へ拡散さ る拡散期を有することが好ましい。この場 には、条件設定を比較的容易に行うことが きる。特に、本発明は、上記のごとく第1部 位の表面浸炭濃度の目標値を条件として管理 するものであるが、この条件は、上記浸炭期 の処理時間と上記拡散期の処理時間を調整す ることによって変更可能である。具体的な時 間条件については、予備実験によって確認す る必要があるが、同種形状の実績がある場合 には、その予備実験も容易である。

 また、上記鋼部材の上記第1部位(炭素容易 散部位)は、その部位の断面形状における表 の角度が130度以上の条件を満たす任意の部 とすることができる。上記第1部位(炭素容 拡散部位)と第2部位(炭素難拡散部位)は、最 正確には、予備実験として減圧浸炭処理を して、各部位の浸炭濃度を測定して比較す ことにより決定することが好ましい。一方 形状から経験的に判断しても大きな誤りに ならない。特に、上述したように、各部の 面形状を比較したときに、その部位の断面 状における角度が130度以上の条件を満たす 意の部位、つまり、経験的に凸部と判断さ ないような部位であれば、その任意の部位 上記第1部位と決定しても良い。
 なお、本発明における第1部位及び第2部位 、いずれも、浸炭処理後に焼き入れをして 面改質をする部位であるので、部分的に焼 入れをしない部位が上記第1部位及び第2部位 に当たらないことはいうまでもない。

 また、上記鋼部材は歯形部を有するギヤ ある場合には、上記第1部位は、上記歯形部 の歯面または歯底とすることが好ましい。歯 面と歯底は、比較的平面に近い緩やかな曲面 形状であるので、浸炭処理時に侵入した炭素 が拡散しやすい部位である。一方、歯先面と 歯面との間の歯先角部は、凸状となるので、 まさに第2部位となり、表面の浸炭濃度が高 なりやすい。そして、発明者の多くの実験 結果、ギヤの場合には、多少形状が変わっ としても、歯面または歯底の表面の浸炭濃 が0.65±0.1質量%となるように減圧浸炭処理を うことにより、上記歯先面と歯面との間の 部表面の浸炭濃度を歯面及び歯底よりも高 、かつ、0.85質量%以下の範囲に収めること でき、非常に優れた表面改質効果を得るこ ができることが見出されたのである。

 また、上記減圧浸炭工程は、上記鋼部材を ーステナイト化温度以上に加熱すると共に 1~100hPaの減圧条件下において行うことが好 しい。浸炭時の減圧が1hPa未満の場合には真 度維持のために高価な設備が必要となると う問題が生じる。一方、100hPaを超える場合 は浸炭中にススが発生し、浸炭濃度ムラが じるという問題が生じるおそれがある。
 また、上記浸炭ガスとしては、例えば、ア チレン、プロパン、ブタン、メタン、エチ ン、エタン等の炭化水素系のガスを適用す ことができる。

 また、上記徐冷工程は、少なくとも上記 部材が冷却中にマルテンサイト変態しない 却速度で行うことが好ましい。これにより 歪み発生をより確実に抑制することができ 。

 また、上記減圧浸炭工程においては、通 浸炭より表面濃度を上げ、表層に鉄と炭素 化合物を析出させる高濃度浸炭、あるいは 炭処理と共に窒化処理も行う浸炭窒化処理 採用することも可能である。

 また、上記徐冷工程は、少なくとも上記 部材の温度がA1変態点温度以上にある間の 却速度が0.1℃/秒~3.0℃/秒となるよう徐冷を うことが好ましい。徐冷工程の冷却速度が 部材のA1変態点温度以上の期間に3.0℃/秒を える場合には、冷却時の歪み発生抑制効果 十分に得られないおそれがある。一方、徐 工程の冷却速度が鋼部材のA1変態点温度以上 の期間に0.1℃/秒未満とすることは、A1変態点 温度へ到達するまでに長時間を費やし、その 間にも浸炭した炭素が鋼材中で拡散が進んで しまう。徐冷中の拡散は部位により温度差が あり、拡散スピードもバラツキが発生し、結 果的に炭素量のバラツキが生じるおそれがあ る。

 また、上記徐冷工程において用いる上記 却ガスは、窒素、ヘリウム、又はアルゴン いずれかであることが好ましい。これらの スはいわゆる不活性ガスに類するものであ 、被処理材である鋼部材の徐冷中の酸化を 止することができる。

 また、上記徐冷工程は、上記冷却ガスを大 圧よりも低く減圧した状態で行うことが好 しい。これにより、冷却時の歪み発生をよ いっそう抑制することができる。
 即ち、冷却時に冷却ガスを撹拌する場合に 、冷却ガスを減圧状態とすることによって 大気圧状態の場合に比べ、循環する冷却ガ の風上と風下での冷却速度の差を低減させ ことができる。つまり、大気圧で徐冷する 合、大気圧中の冷却ガスに被冷却部材を接 させただけで熱交換が進み被冷却部材の冷 が開始する。この場合、積極的なガス攪拌 たは熱によるガス対流により風上と風下が じ、冷却速度差が生じる。冷却速度差によ 被冷却部材の温度差が生じ、熱処理歪を発 する。これに対し、冷却ガスを減圧状態と ることによって、風上・風下のいずれであ ても、そもそも熱交換速度が遅く、冷却速 差が生じ難い。それ故、冷却ガスを減圧状 とする減圧徐冷を採用した場合には、比較 均一に冷却が進む為、熱処理歪の発生が少 い。また、撹拌を全くしない場合であって 、減圧状態の場合には、大気圧の場合より 、温度の異なる冷却ガスの滞留による冷却 度の差を低減させることができる。

 このような冷却ガスの減圧による効果を 用することにより、上記減圧徐冷工程を施 た鋼部材は、歪み発生を抑制することがで 、高精度の寸法精度を維持したまま上記焼 入れ工程に進めることができる。そして、 れにより、上述した高密度エネルギーを利 した焼き入れ工程によるメリットを活かし 、焼入れ後の鋼部材も歪みの少ない高精度 ものとすることができる。

 また、上記減圧浸炭工程と上記減圧状態 の徐冷工程とを連続で行うことにより、実 の設備では、減圧浸炭室と徐冷室とを直接 ぐことができ、両者の間に減圧度を調整す ような予備室等を設ける必要がない。すな ち、上記減圧浸炭工程と上記徐冷工程とが 方とも減圧状態で行われるので、両者の間 圧力差を小さくすることができる。そのた 、減圧浸炭処理を終えた製品を常圧状態に すことなく減圧徐冷処理することができ、 み発生を抑制した効率のよい処理が可能で る。

 また、上記徐冷工程における上記冷却ガス 減圧状態は、100hPa~650hPaの範囲とすることが 好ましい。上記の減圧徐冷処理は、この場合 の圧力が100~650hPaの範囲よりも高い場合には 減圧による効果が十分に得られない場合が り、一方、この範囲よりも低くすることは 備構成上困難となるおそれがある。
 そのため、より好ましくは、上記徐冷工程 おける上記冷却ガスの減圧状態は、100hPa~300 hPaの範囲とするのがよい。

 また、上記徐冷工程における上記冷却ガ の減圧状態は、上記鋼部材の温度がA1変態 以下となった後にそれ以前よりも高くする 件で冷却を行うことが好ましい。減圧徐冷 、減圧度が高いほど、つまり真空に近いほ 歪み抑制効果が高いが、その分冷却効率は 下する。この点、鋼部材の温度がA1変態点以 下となった場合には、歪みが発生しにくくな るので、冷却ガスの圧力をそれまでよりも高 くして冷却効率を上げても歪み抑制効果を維 持することが可能である。

 次に、上記焼き入れ工程は、冷却された上 鋼部材の所望部分を高密度エネルギーを利 して加熱した後に急冷する工程である。こ ように、鋼部材を高密度エネルギーを利用 てオーステナイト化温度以上に加熱するこ によって、局部的な加熱を行うことが容易 なり、全体を加熱する場合と比べて大幅に み抑制効果を高めることができる。
 また、上記急冷の冷却速度は、200℃/秒~2000 /秒であることが好ましい。冷却速度が200℃ /秒よりも遅い場合には、焼入れ効果が十分 得られないおそれがあり、一方、2000℃/秒を 超える急冷を実現することは困難である。

 また、上記焼き入れ工程は、上記鋼部材 所望部分を高密度エネルギーを利用してオ ステナイト化温度以上に加熱し、その後浸 層においてマルテンサイト変態する急冷臨 冷却速度以上で急冷することにより行うこ が重要である。これにより、浸炭層の十分 硬化効果を得ることができる。

 また、上記焼き入れ工程における上記高密 エネルギーを利用した加熱は高周波加熱に り行い、上記急冷は水焼入れにより行うこ が好ましい。この場合には、高周波加熱を 用することにより、非接触で誘導加熱によ 精度よく加熱することができ、また、高効 化を図ることができる。
 また、上記高周波加熱としては、公知の方 を適用できる。

 上記高周波加熱を利用した場合の上記急 は、水焼入れにより行うことが好ましい。 なわち、上記高周波加熱を利用すれば、部 全体ではなく部分的な加熱を精度よくでき ので、その後、非常に冷却効果の高い水を いて水焼き入れしても、焼入れ歪みの発生 極力抑えることができる。そして、水焼き れによる優れた急冷効果によって、焼入れ 性を高くすることができ、焼入れ部分のさ なる高強度化を図ることができる。また、 の高強度化を利用して、浸炭処理の簡易化( 処理時間の短縮)、つまり、浸炭層の薄肉化 しても要求強度を具備することができる場 があり、この場合には熱処理工程全体のさ なる時間短縮を図ることも可能である。

 また、上記高周波加熱による加熱は、上 鋼部材を1個流しで処理し、加熱後の冷却時 には、鋼部材を回転させながら、周囲から冷 却水を上記鋼部材に向かって噴射して冷却す ることが好ましい。この場合には、冷却時に 均一に冷やすことができ、さらに歪みの発生 を抑えることができる。

 また、上記焼き入れ工程は、高密度エネ ギービームを上記鋼部材の所望部分に照射 ることにより加熱した後、自己放冷により 冷することにより行うこともできる。すな ち、電子ビームやレーザビーム等に代表さ るような高密度エネルギービームは、照射 た極表面を非常に高速に加熱することがで る。そして、加熱部分を極表面に限ること よって、高密度エネルギービームの照射の 止、あるいは移動等によってエネルギーの 入が終了すれば、自己放冷によって十分な 冷効果を得ることができる。

 上記高密度エネルギービームは、電子ビー であることが好ましい。電子ビームは、出 、照射ビーム径や照射領域の変更等が容易 あり、加熱領域の精度が高い高精度の加熱 行うことができる。
 そして、電子ビームを利用する場合には、 射部分を急速に溶融することもできるので 上記焼き入れ工程では、電子ビームを上記 部材の所望部分に照射して表層のみを融点 上に加熱して溶融部を形成し、次いで該溶 部をマルテンサイト変態領域まで急冷して ルテンサイト組織とすることにより硬化層 形成することが好ましい。

 この場合の上記硬化層は0.2mm以下である とが好ましい。0.2mmを超える場合には、溶融 後の自己放冷効果が低減するおそれがある。 一方、硬化層が薄すぎると耐久性に問題が出 る場合があるので、より好ましくは、0.1mm~0.2 mmの範囲とするのがよい。

 本発明の製造方法を適用する鋼部材とし は、自動車の駆動系部品が適している。自 車の駆動系部品としては、例えば自動変速 におけるギヤ、リング状部材、その他の部 があるが、これらは部分的な高強度特性と い寸法精度の両方が求められる部品である そのため、上述した優れた熱処理方法を適 することによって、製造工程の合理化、低 スト化を図ることができると共に、製品の 品質化を図ることができる。

(実施例1)
 本発明の実施例に係る鋼部材の製造方法に き、図を用いて説明する。
 本例では、自動変速機の部品として用いら るリング状の鋼部材8(リングギヤ)について 本発明の製造方法(本発明方法)および比較 ための従来の製造方法(比較方法)を実施して 、表面硬度特性、歪み発生状況等を評価した 。本例において処理する鋼部材8は、図8(図3 図8を模式図的に示したもの)に示すごとく、 リング状の本体部80の内周面に歯形部81を備 たものであり、歯形部81の硬度が高く、また 真円度が非常に重要な部品である。

 まず、図1に示すごとく、本発明方法にお けるヒートパターンAと、比較方法における ートパターンBとを比較する。同図は、横軸 時間を、縦軸に温度を取り、熱処理中にお る鋼部材の温度をヒートパターンA、Bとし 示したものである。

 本発明方法は、同図のヒートパターンAよ り知られるように、浸炭温度である950℃まで 加熱した後、その温度で49分間保持して減圧 炭工程a1を行い、その後、40分かけて150℃以 下の温度まで減圧徐冷する減圧徐冷工程a2を い、その後、再度焼入れ温度である950℃ま 高周波加熱により急速加熱した後水焼入れ る高周波焼き入れ工程a3を行うというもの ある。

 一方、比較方法は、同図のヒートパター Bより知られるように、浸炭温度である950℃ まで加熱した後、その温度で220分間保持して 通常の浸炭工程b1を行い、その後焼入れ温度 ある850℃に保持した後、油焼入れする焼入 工程b2を行うというものである。また、比 方法では、油焼入れ時に付着した冷却剤(油) を洗い落とす後洗工程b3と焼入硬化層の靱性 保も目的とした焼き戻し工程b4を行うが、 の際にも若干の昇温を行う。なお、後述す 歪み評価、強度評価、および残留応力評価 おいては、この焼き戻し工程b4を行った後の 状態で行った。

 これらの処理内容をより詳細に説明する前 、本発明方法を実施するための熱処理設備5 と、比較方法を実施するための浸炭焼入れ設 備9について、簡単に説明する。
 図2(a)に示すごとく、本発明方法を実施する ための熱処理設備5は、浸炭焼入れ処理前に 部材を洗浄するための前洗槽51と、加熱室521 、減圧浸炭室522、および減圧徐冷室523を備え た減圧浸炭徐冷装置52と、高周波焼き入れ機5 3と、欠陥を検査するための磁気探傷装置54と を備えたものである。

 図2(b)に示すごとく、比較方法を実施する ための浸炭焼入れ設備9は、浸炭焼入れ処理 に鋼部材を洗浄するための前洗槽91と、加熱 ・浸炭・拡散を行うための浸炭炉921および焼 入れ油槽922とを備えた長大な浸炭炉92と、浸 焼入れ処理後に鋼部材を洗浄するための後 槽93と、焼き戻し処理を行うための焼き戻 炉94とを備えたものである。

 次に、上記各設備を用いて、それぞれ上記 部材8の浸炭焼入れ処理を行い、強度特性、 歪み発生状況、および残留応力発生状況につ いての比較を行った。
 本発明方法では、上述したごとく、図1のヒ ートパターンAにも示すように、鋼部材を減 下の浸炭ガス中において浸炭処理する減圧 炭工程a1と、該減圧浸炭工程を終えた上記鋼 部材を、冷却ガス中において冷却するに当た り、該冷却ガスを大気圧よりも低く減圧した 状態で冷却する減圧徐冷工程a2と、冷却され 上記鋼部材の所望部分を高周波加熱した後 水焼入れする高周波焼き入れ工程a3とを行 た。

 上記減圧浸炭工程a1は、炭化水素系の上記 炭ガス中に上記鋼部材を保持し該鋼部材の 面に炭素を侵入させる浸炭期と、炭素を上 鋼部材の内部へ拡散させる拡散期を有する のであるが、本例では、これら両方の処理( 炭処理および拡散処理)としてオーステナイ ト化温度以上の温度である950℃に49分間保持 る処理を行った。その際の浸炭室の真空度 1hPa、浸炭ガスの種類はアセチレンという条 件とした。つまり、浸炭期も拡散期も上記の ごとく減圧して行い、浸炭期はアセチレンを 浸炭室内に投入し、拡散期はアセチレンの投 入を停止して減圧のみを行った。温度は上記 のごとく浸炭期と拡散期を通して一定とした 。ここで、特に注目すべき点は、鋼部材8が ングギヤであって、その形状に起因して浸 処理時に侵入した炭素の拡散速度が異なる 1部位(炭素容易拡散部位)と第2部位(炭素難拡 散部位)とを有し、第1部位は、歯底815及び歯 811であり、該第1部位よりも侵入した炭素の 拡散速度が遅い第2部位は、歯先角部813(歯面8 11と歯先812との間の角部)であるが、上記減圧 浸炭工程は、第1部位である歯底815の表面浸 濃度が0.65±0.05質量%の範囲内となる条件で行 う点である。
 なお、上記歯底815と歯面811とは、後述する 10(a)、図10(b)からも知られるように、その断 面形状における表面の角度が180度に近く、確 実に130度以上の形状の部位である。

 上記減圧徐冷工程a2は、冷却ガスは窒素(N 2 )、減圧状態は200hPa、冷却ガスの撹拌は有り 減圧徐冷工程の期間は浸炭処理直後のオー テナイト化温度以上の温度からA1変態点より も低い150℃の温度となるまで、冷却速度は0.1 ~3.0℃/秒の範囲内、具体的には10℃/分(0.17℃/ )という条件とした。

 高周波焼き入れ工程a3は、高周波加熱に って鋼部材8の内周部である歯形部81を、オ ステナイト化温度以上の温度である950℃に 熱し、その後、浸炭層においてマルテンサ ト変態する急冷臨界冷却速度以上の冷却速 が容易に得られるように、水を吹き付けて 焼入れするという条件で行った。この水焼 れによる冷却速度は268℃/秒であった。上記 周波加熱による加熱は、鋼部材8を1個単位 流して(運搬して)1個ずつ加熱処理し、加熱 の冷却時には、鋼部材8を回転させながら、 囲から冷却水を上記鋼部材8に向かって噴射 して1個ずつ冷却して、歪みの発生を最も抑 られる方法をとった。

 比較方法では、図1のヒートパターンBか も知られるように、浸炭温度である950℃ま 加熱した後、その温度で220分間保持して通 の浸炭工程b1を行い、その後焼入れ温度であ る850℃に保持した後、油焼入れする焼入れ工 程b2を行うというものである。ここで、比較 法における浸炭処理は、カーボンポテンシ ルを調整して、鋼部材8の表面全体の浸炭濃 度がほぼ0.8質量%となる条件で行った。なお 比較例では、焼入れ工程b2後に後洗工程を実 施し、更に、後洗工程b3後に焼き戻し工程b4 実施した。

 また、上記比較方法と本発明方法共に、 炭に適したSCM420(JIS)を素材として用いた。

 浸炭焼入れ処理を終えた鋼部材に対して ギヤの歯底815(図3)部分の表面からの距離に するビッカース硬さ(Hv)を測定し、これを強 度評価とした。測定結果を図4に示す。同図 横軸に表面からの距離(mm)を、縦軸にビッカ ス硬さ(Hv)をとったものである。そして、本 発明方法により処理した鋼部材の結果を符号 E1、比較方法により処理した鋼部材の結果を 号C1として示した。

 同図から知られるように、本発明方法(E1) の場合は、内部に行くにつれて比較方法(C1) 場合よりも若干硬度が低くなるが、最表面 はむしろ比較方法よりも高い硬度が得られ 。これらの結果から、本発明方法を適用す ことにより、従来と同等以上の優れた熱処 を施すことができることがわかる。特に、 発明方法の場合には、歯底部815の浸炭濃度(0 .65±0.05質量%)を比較例の場合の浸炭濃度(0.8質 量%)よりも低く設定したが、十分な焼き入れ 能が得られたことがわかる。

 また、本発明方法で処理した鋼部材8の歯先 角部813の表面浸炭濃度を測定した結果、ほぼ 0.8質量%となっており、その硬度は歯底部815 同等であった。これにより、本発明方法の 圧浸炭工程の条件設定が非常に有効である とがわかる。
 この点を図7を用いて補足説明する。
 同図は、横軸に表面の浸炭濃度(炭素含有量 )を取り、縦軸に焼入れ後の表面硬度を取っ ものである。そして、同図には、本発明方 の減圧浸炭工程での浸炭濃度と水焼き入れ の硬度との関係について実験によって求め 結果を曲線Aとして、従来方法の浸炭工程の 合に浸炭濃度と油焼入れ後の硬度との関係 ついて実験によって求めた結果を曲線Bとし て示した。さらに、過剰浸炭により異常組織 が生じやすい領域S(炭素濃度0.85%以上)を示し 。

 また、同図には、従来方法の場合に浸炭濃 0.8質量%の浸炭処理条件を選択した場合に最 終的に到達する実際の浸炭濃度について、第 1部位(歯底815)については矢印b1の先端位置で し、第2部位(歯先角部813)については矢印b2 先端位置で示した。
 また、本発明方法の場合に、第1部位(歯底81 5)の浸炭濃度が0.8質量%となる浸炭処理条件を 選択した場合に最終的に到達する浸炭濃度に ついて、第1部位(歯底815)については矢印c1の 端位置で示し、第2部位(歯先角部813)につい は矢印c2の先端位置で示した。
 さらに、本発明方法の場合に、第1部位(歯 815)の浸炭濃度が0.60質量%となる条件を選択 た場合に最終的に到達する浸炭濃度につい 、第1部位(歯底815)については矢印a1の先端位 置で示し、第2部位(歯先角部813)については矢 印a2の先端位置で示した。

 同図より知られるごとく、従来方法の場 には、焼入れ後の硬度が、浸炭濃度が高い ど高くなる。一方、過剰浸炭は問題がある で、浸炭濃度をすべての部位において0.8質 %となるように設定することが望ましい。こ の点、従来方法の場合には、第1部位も第2部 もほぼ同等の浸炭濃度とすることができる で、浸炭濃度の条件を0.8質量%に設定するこ とによって全体的に高硬度を得ることができ る。

 本発明方法の場合には、焼入れ後の硬度が 浸炭濃度0.6~0.8質量%の間ではほぼ同等であ 。これは、上述した優れた焼き入れ工程を 極的に採用した結果である。
 そして、第1部位(歯底815)の浸炭濃度が0.8質 %となるように減圧浸炭を行った場合(c1)に 、第2部位(歯先角部813)の浸炭濃度(c2)が、過 浸炭領域Sに突入してしまう。
 これに対し、第1部位(歯底815)の浸炭濃度が0 .6質量%となるように減圧浸炭を行った場合(a1 )には、第2部位(歯先角部813)の浸炭濃度(a2)を0 .8質量%以下の範囲に抑えることができる。そ して、このように浸炭濃度に差があっても、 得られる硬度はほぼ同等に維持できることが わかる。

 また、本発明方法(E1)の場合には、従来と 同様の浸炭処理に適した材料を用いた場合に は、浸炭時間を大幅に短くした分だけ浸炭深 さが浅くなることによる強度低下が考えられ る。しかし、本例のように、適用材料の変更 と、水焼入れの採用によって、これらの強度 的な問題を解消することができた。また、内 部強度の従来品並までの向上は、素材の成分 改良によって解決できる可能性がある。

 次に、浸炭焼入れ処理を終えた鋼部材の寸 を測定することにより歪み発生量を比較し 。
 寸法の測定は、「BBD」と「BBDだ円」の2種類 を行った。「BBD」は、図3に示すごとく、歯 81の谷部分に接触するように所定の直径の鋼 球88を配置し、対向する硬球88同士の内径寸 を測定して得られた寸法である。そして、 の測定を軸方向3箇所(同図(b)のa位置、b位置 びc位置)において、全周に対して行い、そ 測定値の平均値(Ave)、最大値(Max)、最小値(Min )を求めた。
 次に、軸方向の各測定位置における上記「B BD」の最大値と最小値の差を「BBDだ円(μm)」 して求めた。そして、上記と同様に、その 定値の平均値(Ave)、最大値(Max)、最小値(Min) 求めた。

 図5には、上記の「BBD」と「BBDだ円」の測定 結果を示す。同図左側の欄には、本発明方法 の結果として、減圧浸炭前、減圧浸炭+減圧 冷後、高周波焼き入れ後の3つのタイミング おける結果を示した。また、同図右側の欄 は、比較方法の結果として、浸炭焼入れ前 浸炭焼入れ後2つのタイミングにおける結果 を示した。また、各欄に示した表記は、左か ら図3(b)におけるa位置、b位置、c位置の3箇所 ついてそれぞれ最大値、最小値平均値をプ ットして最大値と最小値を太線で縦に結ん ものである。また、3箇所の位置の平均値は 細線により結んだ。
 同図より知られるごとく、本発明方法を採 すれば、焼入れ後においても歪み発生が抑 されることがわかる。また、その歪み発生 抑制効果は減圧浸炭後の減圧徐冷によって でに得られていることもわかる。
 これに対し、比較例は、浸炭焼入れ処理に って大きな歪みが発生していることがわか 。

 次に、浸炭焼入れ処理を終えた鋼部材の残 応力を測定し、比較した。測定結果を図6に 示す。同図は、横軸に歯底815の表面からの距 離をとり、縦軸に残留応力を、引張を+、圧 を-としてとった。
 本発明方法(E1)の場合には、少なくとも最表 面から圧縮残留応力状態となっており、一方 、比較方法(C1)の場合には、最表面が引張残 応力となっていることがわかる。最表面の 留応力が引張応力である場合には、様々な 題が生じるおそれがあるので、例えば熱処 あるいは表面改質処理を行って引張残留応 を緩和することが必要となる。したがって 本発明の方法は、そのような残留応力を改 するための処理を特に設ける必要がないと う効果も得られることがわかる。

 なお、本例の効果は、上記リングギヤに らず、様々な歯車に本例の方法を適用した 合に得られる。また、ギヤに限らず、凹凸 状を有するものでも同様の効果が得られる ギヤの例としては、図8に、上述したリング ギア8を示し、図9に、外歯のはす歯歯車802を す。

 また、外歯歯車の場合の歯形部81を拡大 て示したものが図10(a)である。同図に歯形部 81が、歯底815、歯面811、歯先812及び歯先角部8 13を有していることを示してある。図10(b)に 、歯先角部813の断面形状における角度θを示 す。自動変速機用外歯歯車における歯先角部 の断面形状における表面の角度θは、商業的 製品化されているものを複数選択して測定 たところ、それぞれ、118.15度、125.7度、112.7 度、111.5度、124.8度、119.0度、113.7度であり、 べて110~126度の範囲に含まれておいる。した がって、通常の歯車の歯先角部813は第2部位( 素難拡散部位)である。一方、少なくとも、 歯底815、歯面811、歯先812は、上記角度が130度 を超える部位であって、第1部位(炭素容易拡 部位)である。

 図10(c)には、歯先角部813近傍の輪郭形状( 10(b)の断面形状に対応する)において、第1部 位(炭素容易拡散部位)816の領域と、第2部位( 素難拡散部位)817の領域とをよりわかりやす するために例示する。すなわち、第1部位816 は、その直線及び矢印816aによって示される 囲であって、歯先角部813(図10(b))を含まず、 こから離れた部位である。一方、第2部位817 は、歯先角部813(頂点部)を含み、その両側に ながる2つの矢印817aに挟まれた微小な範囲 表面である。

 このようなギヤに本発明の製造方法を適 する場合には、上記歯面811または歯底815の 炭濃度が0.65±0.1質量%となるように減圧浸炭 工程の条件を設定すればよい。

(実施例2)
 本例では、実施例1と同じ形状で同じ材質の リング状の鋼部材8(リングギヤ)について、上 記実施例1の本発明方法によって、歯面811の 面浸炭濃度の狙い値を変更して製造し、得 れた歯形部81の歯先角部813と歯面811の浸炭濃 度及び表面硬度を測定すると共に、両者の表 面組織の観察を行った。減圧浸炭工程での歯 面811の表面浸炭濃度の狙い値は、表2にある うに、本発明例1の場合が0.65質量%、本発明 2の場合が0.57質量%、本発明例3の場合が0.75質 量%とした。

 また、比較のために、2種類の比較方法によ る製造も行った。
 比較例1は、基本的な製造方法は本発明方法 と同じであるが、その減圧浸炭工程での歯面 811の表面浸炭濃度の狙い値を、表2にあるよ に、0.78質量%に高めた例である。
 比較例2は、実施例1の比較方法と同じ従来 ガス浸炭直後に油焼き入れをする方法であ 。この場合のガス浸炭工程での歯面811及び 先角部813の表面浸炭濃度の狙い値は、表2に るように、0.75質量%とした。
 以上の本発明例1~3及び比較例1、2の条件及 評価結果を表1及び表2に示す。

 表1、表2より知られるごとく、本発明方 1~3により得られた鋼部材(リングギヤ)は、歯 先角部813と歯面811の両方が、浸炭濃度が0.65~0 .85質量%の範囲内に収まり、かつ、非常に優 た硬度特性を有し、組織もセメンタイトの 出が見られない健全なマルテンサイト組織 なっていた。

 一方、比較例1の場合には、基本的な方法が 本発明と同様であるが、減圧浸炭工程での第 1部位の歯面811の表面浸炭濃度の狙い値を0.75 量%を超える値(0.78)としたことによって、第 2部位である歯面角部813の表面浸炭濃度の実 値が0.85質量%を超えて0.91質量%にまで達した め、セメンタイト析出が見られる異常組織 なった。
 また、比較例2の場合には、本発明例と比べ て若干表面硬度が低い状態となった。このこ とは、逆に、本発明例によれば、浸炭濃度が 0.55~0.85質量%の範囲に入っていれば、従来の 流の製造方法であるガス浸炭とその直後の 焼き入れの方法に比べて遜色ない、むしろ 強度特性として有利な結果が得られること 明確に示している。