Login| Sign Up| Help| Contact|

Patent Searching and Data


Title:
METHOD FOR PRODUCTION OF DHA-CONTAINING PHOSPHOLIPID THROUGH MICROBIAL FERMENTATION
Document Type and Number:
WIPO Patent Application WO/2008/149542
Kind Code:
A1
Abstract:
Disclosed is a method for producing a DHA phospholipid comprising an ω3 unsaturated fatty acid, particularly DHA, as a constituent lipid by using a microorganism in a simpler manner. Specifically disclosed is a method for producing a phospholipid comprising an ω3 unsaturated fatty acid as a constituent lipid, which comprises the steps of: growing a microorganism capable of producing the ω3 unsaturated fatty acid in a culture medium containing a carbon source; and further culturing the grown microorganism in a culture medium without any carbon source. The method enables to produce a highly value-added phospholipid which comprises an ω3 unsaturated fatty acid as a constituent lipid by using a microorganism capable of producing the ω3 unsaturated fatty acid in a large quantity.

Inventors:
OKUYAMA HIDETOSHI
ORIKASA YOSHITAKE
NISHIDA TAKANORI
Application Number:
PCT/JP2008/001394
Publication Date:
December 11, 2008
Filing Date:
June 03, 2008
Export Citation:
Click for automatic bibliography generation   Help
Assignee:
UNIV HOKKAIDO NAT UNIV CORP (JP)
RES OF MICROBES CO LTD (JP)
OKUYAMA HIDETOSHI
ORIKASA YOSHITAKE
NISHIDA TAKANORI
International Classes:
C12P9/00
Foreign References:
JP2001309779A2001-11-06
JP2005102680A2005-04-21
JP2004121019A2004-04-22
JP2006230403A2006-09-07
JPS5939258A1984-03-03
JPH08202405A1996-08-09
JPH08509355A1996-10-08
JP2001275656A2001-10-09
JP2004298798A2004-10-28
JP2003000292A2003-01-07
JPH09284A1997-01-07
JPH1072590A1998-03-17
JPH10310556A1998-11-24
JP2006230403A2006-09-07
Other References:
TAICHI GOYA ET AL.: "Shinki Kodo Fuhowa Shibosan Seisankin no Tansaku Oyobi Baiyo Joken no Kento", DAI 36 KAI ABSTRACTS OF THE MEETING ON OIL CHEMISTRY, 1997, pages 160, XP008118289
MASASHI SAKAI ET AL.: "Phosphatidyl Serine and Brain Function", OLEO SCIENCE, vol. 2, no. 2, 2002, pages 23 - 28
DATABASE WPI Week 200663, Derwent World Patents Index; AN 2006-606787
Attorney, Agent or Firm:
SAEKI, Norio et al. (Aminosan Kaikan Building 15-8, Nihonbashi 3-chome, Chuo-k, Tokyo 27, JP)
Download PDF:
Claims:
 炭素源を含む培地でω3系不飽和脂肪酸生産能を有する微生物を増殖させる工程、及び増殖させた前記微生物を、炭素源を含まない培地でさらに培養する工程を含む、ω3系不飽和脂肪酸を構成脂質とするリン脂質の製造方法。
 ω3系不飽和脂肪酸生産能を有する微生物がラビリンチュラ類微生物又はトロウストチトリアレ類微生物である、請求項1に記載の製造方法
 ラビリンチュラ類微生物がラビリンチュラ12B株である、請求項2に記載の製造方法。
 ラビリンチュラ類微生物が、ラビリンチュラ属微生物、トラウストキトリウム属微生物、及びシゾキトリウム属微生物よりなる群から選ばれる、請求項2に記載の製造方法。
 ラビリンチュラ類微生物がラビリンチュラ属S3-2株又はシゾキトリウム属SR21株である、請求項4に記載の製造方法。
 ω3系不飽和脂肪酸がドコサヘキサエン酸である、請求項1~5の何れかに記載の製造方法。
 強制通気を行いながら炭素源を含まない培地での培養を行う、請求項1~6の何れかに記載の製造方法。
Description:
微生物発酵によるDHA含有リン脂 の製造方法

 本発明は、高付加価値を有するリン脂質 製造する方法に関する。より詳細には、本 明は、ω3系不飽和脂肪酸の生産能を有する 生物を用いた、ω3系不飽和脂肪酸、特にド サヘキサエン酸(DHA)を構成脂質とするリン 質の製造方法に関する。

 ω3系不飽和脂肪酸、特にエイコサペンタ ン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)は、血中 脂質低下作用、脳視覚機能の改善などの生理 効果を示すことから、機能性脂質と言われて いる。いずれもヒトに不可欠の栄養分である が、食品からの摂取が不足しがちであるため に、必要摂取量を補うためのEPAやDHAを含む健 康食品素材あるいはサプリメントが広く市販 されている。また、EPAについては、高純度の EPAエチルエステルが脂質低下剤などの医薬と しても利用されている。さらに、EPAとDHAを成 分とする健康食品が厚生労働省により特定健 康用食品として2004年に認可されて以来、EPA DHAを初めとするω3系不飽和脂肪酸の利用と 場は、より一層拡大するものと予想されて る。

 一方、脂肪酸そのものではなく、脂肪酸 構成脂質とするリン脂質についても、種々 有用な生理活性を有することが数多く報告 れている。例えば、ホスファチジルセリン( PS)の脳機能改善効果(非特許文献1)、ホスファ チジルコリン(PC)の動脈硬化症や神経機能障 の改善効果が、それぞれ報告されている。 らに最近は、健康補助食品への利用を目的 して、PSやPCにとどまらず、ホスファチジル タノールアミン(PE)を含むリン脂質全般が注 目を集めている。

 この様な背景の下、ω3系不飽和脂肪酸を 成脂質とするリン脂質、例えばDHAを構成脂 とするPCやPE(それぞれをDHA-PC、DHA-PEといい 以下、DHAを構成脂質とするリン脂質全体をDH Aリン脂質という)の抗腫瘍性や抗酸化性など 生理機能が、培養細胞を使った系にとどま ず、動物生体を使った系でも明らかになっ きている。

 例えば、Kafrawyら(非特許文献2)によれば、 DHA-PC、特にPC1分子中に2分子のDHAをもつもの(D HA/DHA-PC)が癌化した動物細胞(マウス白血病細 )に選択的毒性を示すことを報告している。 したがって、ω3系不飽和脂肪酸、特にDHAを構 成脂質とするリン脂質に対する需要は今後さ らに高まっていくと期待される。

 ω3系不飽和脂肪酸を構成脂質とするリン 質の代表的な例であるDHAリン脂質の主な供 源は、イカ(特にムラサキイカの皮)や魚油 あるいはこれらの魚油の給餌により得られ 鶏卵(特許文献1)などである。ムラサキイカ 、リン脂質を多く含む上、そのリン脂質の50 %を占めるホスファチジルコリン(PC)の構成脂 の50%がDHAであり、脂質中のDHAリン脂質の含 比率は高いという特徴を有している。

 しかし、DHAリン脂質の工業的な生産を考 た場合、ムラサキイカや魚油等の海産物をD HAリン脂質の供給源とすることは、漁獲高に 存した供給量の不安定性、季節や気候の変 を原因とする品質の不均一性、海洋汚染を 因とする安全性などの他に、魚油独自の臭 (いわゆる魚臭さ)による最終製品の品質や 値の低下、各種の構造類似の長鎖高度不飽 脂肪酸が魚油中に含まれることによる高い 製コスト等の多くの問題を抱えることにな 。また鶏卵は、卵黄脂質の30%がリン脂質で り、リン脂質の含有比率は高いが、総脂質 は低く、また卵黄のエタノール抽出物中のDH A含量は12%程度に過ぎない。

 上記の魚油や鶏卵の利用とは異なるω3系 飽和脂肪酸の供給源としては、ω3系不飽和 肪酸生産能を有する微生物、特にDHA生産能 有する微生物が知られている。微生物を用 たDHAの製造方法は、アメリカ合衆国等では 用化されており、DHA含有脂質の原料や、高D HA含有飼料等が製品化されている。具体的に 、例えば、トラウストキトリウム属、シゾ トリウム属の生育技術(特許文献2)、トロウ トチトリアレ類から抽出されるω3系不飽和 肪酸の利用技術(特許文献3)等が挙げられる

 日本国内においても、ラビリンチュラ類 DHAの供給源として用いる技術は種々開発さ ている。具体的には、例えば、ラビリンチ ラ属の微生物であるS3-2株を利用する技術( 許文献4~特許文献6)、シゾキトリウム属の微 物 であるSR21株およびその利用技術(特許文 献7~特許文献9)等が挙げられる。

 しかし、上記の微生物を用いた方法で製 されるDHAは、いずれもリン脂質の構成脂質 はなく、単なる脂肪(トリグリセリド)の構 脂質としてのDHAであり、DHAリン脂質を構成 るものではない。

 本発明者らは、非光合成性の単細胞微生 であるラビリンチュラ類に属する新規微生 12B株を単離し、これがDHAリン脂質を製造す ことを見いだし、特許出願を行った(特許文 献10)。しかしながら、この微生物は、微生物 の全脂肪に対して40%を超えるDHAを蓄積するが 、DHAリン脂質の含有量は、微生物の全脂肪に 対して12~13%程度に過ぎない。

 また、生物材料から調製されるDHAリン脂 のほとんどは、リン脂質分子中に1分子のDHA を持つだけであり、構成脂質としてのDHAの含 有量が50%を超える、生物材料由来のリン脂質 はほとんど報告されていない。従って、リン 脂質中のDHA含量を高めることは、機能性食品 の他に、医薬としての利用価値も高めること ができる、重要な課題である。

酒井正士ら、「ホスファチジルセリンと 脳機能」、2002年、オレオサイエンス、第2巻 第2号、第23-28頁 Kafrawy Oら、Cancer Lett.、1998年、第132巻(1- 2)、第23-29頁

特開昭59-39258号公報

特表平8-202405号公報

特表平8-509355号公報

特開2001-275656号公報

特開2004-298798号公報

特開2003-000292号公報

特開平9-000284号公報

特開平10-072590号公報

特開平10-310556号公報

特開2006-230403号公報

 本発明は、魚油や鶏卵を原料とせず、微 物を用いたω3系不飽和脂肪酸を構成脂質と るリン脂質、特にDHAを構成脂質とするDHAリ 脂質をより簡便に製造する方法を提供する とを目的とする。

 本発明者らは、ラビリンチュラ類12B株に 表されるω3系不飽和脂肪酸生産能を有する 生物を、炭素源を含む通常の培地で培養す だけでなく、この様な培地で増殖させた微 物を、炭素源を含まない培地でさらに培養 ることによって、脂質全体におけるDHAリン 質の含有量ひいてはDHAリン脂質の生産量自 も高めることができることを見いだし、下 の各発明を完成した。

(1)炭素源を含む培地でω3系不飽和脂肪酸生 産能を有する微生物を増殖させる工程、及び 増殖させた前記微生物を、炭素源を含まない 培地でさらに培養する工程を含む、ω3系不飽 和脂肪酸を構成脂質とするリン脂質の製造方 法。

(2)ω3系不飽和脂肪酸生産能を有する微生物 がラビリンチュラ類微生物又はトロウストチ トリアレ類微生物である、(1)に記載の製造方 法

(3)ラビリンチュラ類微生物がラビリンチュ ラ12B株である、(2)に記載の製造方法。

(4)ラビリンチュラ類微生物が、ラビリンチ ュラ属微生物、トラウストキトリウム属微生 物、及びシゾキトリウム属微生物よりなる群 から選ばれる、(2)に記載の製造方法。

(5)ラビリンチュラ類微生物がラビリンチュ ラ属S3-2株又はシゾキトリウム属SR21株である (4)に記載の製造方法。

(6)ω3系不飽和脂肪酸がドコサヘキサエン酸 である、(1)~(5)の何れかに記載の製造方法。

(7)強制通気を行いながら炭素源を含まない 培地での培養を行う、(1)~(6)の何れかに記載 製造方法。

 本発明の方法によれば、ω3系不飽和脂肪 生産能を有する微生物を用いて、ω3系不飽 脂肪酸を構成脂質とする高付加価値のリン 質を大量に生産することができる。

 本発明にいうω3系不飽和脂肪酸としては リノレン酸、オクタデカテトラエン酸、エ コサテトラエン酸、EPA、DHA酸を挙げること できるが、本発明で好ましいω3系不飽和脂 酸は、EPA又はDHAであり、特に好ましくはDHA ある。

 ω3系不飽和脂肪酸生産能を有する微生物 しては、Mortierella alpinaなどのモルティエレ ラ(Mortierella)属微生物、Desmarestia acculeataなど デスマレスティア(Desmarestia)属微生物、Crypth ecodinium cohnii等の渦鞭毛藻、ラビリンチュラ( Labyrinthula)類微生物等を挙げることができる ラビリンチュラ類微生物の具体例としては ラビリンチュラ科のラビリンチュラ(Labyrinthu la)属、例えばラビリンチュラ属S3-2株(受託番 FERM BP-7090)、ヤブレツボカビ科のラビリン ュロイド(Labyrinthuloides)属、コラロキトリウ (Corallochytrium)属、アプラノキトリウム(Aplanoch ytrium)属、アルトルニア(Althornia)属、ジャポノ キトリウム(Japonochytrium)属、ウルケニア(Ulkenia )属、トラウストキトリウム(Thraustochytrium)属 およびシゾキトリウム(Schizochytrium)属、例え シゾキトリウム属SR21株(受託番号FERM BP-5034) 等を挙げることができる。

 また、本発明者らが単離し、日本国千葉 木更津市かずさ鎌足2-5-8に所在する、独立 政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の特許微 物寄託センター(NPMD)に平成17年1月24日に受託 番号NITE P-68として寄託した、ラビリンチュ 類微生物であるラビリンチュラ12B株を挙げ ことができる。本発明の製造方法において に好ましい微生物は、このラビリンチュラ12 B株である。ラビリンチュラ12B株の詳細な性 は、特許文献(特開2006-230403)に記載されてい 。

 本発明の製造方法は、炭素源を含む培地 ω3系不飽和脂肪酸生産能を有する微生物を 養する工程を含む。この工程における培養 、特別な条件下で行う培養ではなく、利用 るω3系不飽和脂肪酸生産能を有する微生物 とって、その細胞数を増加させ、菌体内に リグリセリドや脂肪酸、リン脂質その他の 肪を蓄積させることのできる、糖その他の 素源を含む培地を用いた標準的な条件で行 れる培養である。従って、使用する微生物 に報告されている当該微生物が良好に増殖 る培養条件、例えば温度、培地組成、培地 pH、酸素濃度、光、振蕩速度、培養時間等 従い、当該微生物の増殖に好適な炭素源を む培地を適宜選択して使用すればよい。

 培地の例としては、ラビリンチュラ科微 物に対してはPY培地(約50%の塩濃度をもつ人 海水1L当りポリペプトン1g、酵母抽出物0.5g Kumonら、Appl. Microbiol. Biotechnol.、2002年、第60 巻、第275-280頁)等を、ヤブレツボカビ科微生 に対しては酵母抽出物‐ペプトン‐ブドウ ‐海水培地(水1L当りそれぞれ10g、10g、80g、5 00mL)等を、また渦鞭毛藻に対しては酵母抽出 ‐ブドウ糖‐海水塩培地(水1L当りそれぞれ2 g、9g、25g)等を利用することができる。培地 、液体、固形、または形状保持性を有する 固形の何れかの形状を有していればよい。 た、上記培養工程では、培地の形状が固形 ある場合に、当該培地に添加する水分量の 限を45%(v/w)以上とすることが好ましく、水分 量の上限を60%(v/w)以下とすることが好ましい 特に好ましくは45~50%の範囲内が好ましい。

 炭素源は、上記の培地に予め添加する、 び/又は培養と共に培地に炭素源を添加する ことができる。また炭素源の量は、使用する 微生物の細胞数が培養時間と共に増加し、菌 体内にトリグリセリドや脂肪酸、リン脂質そ の他の脂肪を蓄積するに十分な量であればよ い。また、上記培養工程では、静置培養また は振盪培養の何れかを適宜選択することがで きる。

 本発明の製造方法は、上記工程によって 殖させた微生物を、炭素源を含まない培地 さらに培養する工程を含む。以下の推察に 束されるものではないが、炭素源を含む培 で良好に生育し、ω3系不飽和脂肪酸を含む くの脂肪を菌体に蓄えたω3系不飽和脂肪酸 産能を有する微生物を、炭素源を含まない 地で更に培養することによって、菌体に蓄 された脂肪をω3系不飽和脂肪酸を構成脂質 するリン脂質へと生物変換させ、リン脂質 体におけるω3系不飽和脂肪酸を構成脂質と るリン脂質の含有量ひいてはω3系不飽和脂 酸を構成脂質とするリン脂質の生産量自体 高めることができるものと推察される。

 本発明にいう「炭素源を含まない培地」 は、グルコースやデンプンに代表される糖 だけでなく、米糠やふすま、酢酸やエタノ ルなどを含め、本発明で使用される微生物 菌体内に蓄積された脂肪に先んじて利用を 先するような炭素源を含まない培地を意味 る。また、本発明にいう「炭素源を含まな 培地」とは、字句通りに炭素源を全く含ま い培地のみを意味するものではなく、微生 をして菌体内に蓄積された脂肪を利用して 殖を行わせ、ω3系不飽和脂肪酸を構成脂質 するリン脂質を生成させることができる限 において、少量の炭素源が含まれる培地も 味するものである。例えば、「炭素源を含 培地」で増殖させた微生物を回収してその ま利用する際の、いわゆる前培養からの持 込みとしての炭素源、あるいは培地を構成 るペプトンその他の成分に混在する微量の 素源などを含む培地は、本発明にいう「炭 源を含まない培地」に該当する。

 上記の意味における炭素源を含まないこ の他は、本発明にいう「炭素源を含まない 地」は、微生物の増殖にとって必要あるい 良好な栄養素を含む培地であることが好ま く、その様な培地、培養条件及びそれらの は、前記の「炭素源を含む」培地と、これ 用いて微生物を培養して菌体に脂肪を蓄積 せるときの培養条件と同じであってよい。 た、炭素源を除くその他の培地を構成する 分、組成などは、使用する微生物に応じて 当該微生物に好適な成分や組成を採用して いればよい。

 本発明で特に好ましい態様は、微生物と てラビリンチュラ12B株を利用したDHAリン脂 の製造方法である。ラビリンチュラ12B株は 炭素源としてグルコースを含む培地を用い 30℃で培養すると、約15g/Lもの脂質(脂肪酸 して)を細胞内に蓄積させることから、炭素 を含まない培地で増殖させる際に、炭素源 して利用可能な脂肪(トリグリセリド)を豊 に含んでいる点で有利である。また、炭素 を含む培地で増殖させたラビリンチュラ12B に蓄積される脂肪酸の40%以上がDHAであり、 該DHAを利用してDHAリン脂質へと変換する上 も、好適な微生物である。

 またラビリンチュラ12B株は、比較的単純 組成からなる培地、例えば50%海水、1%ペプ ン、1%酵母エキス、8%グルコースを含む培地( 以下、F培地と表す)においても良好に増殖し 製造コストを抑制することができる点でも 本発明において有利な微生物である。

 ラビリンチュラ12B株を利用したDHAリン脂 の製造方法において、上記のF培地は「炭素 源を含む培地」の好適な例として使用するこ とができる。また「炭素源を含まない培地」 としては、上記のF培地からグルコースを抜 、他に米糠などの炭素源として利用可能な 分を含まない培地(以下、Z1培地と表す)を好 な例として使用することができる。

 ラビリンチュラ12B株を利用したDHAリン脂 の製造方法としては、適当量のF培地にラビ リンチュラ12B株細胞を接種し、30℃で24時間~7 2時間、振蕩培養を行ってラビリンチュラ12B を増殖させた後、この培養液の一部を、あ いは培養液から遠心分離等で回収した細胞 適当量のZ1培地に加え、さらに30℃で24時間~7 2時間培養を行うことを例示することができ 。この方法により、F培地で培養を終了した 点に比べて、ラビリンチュラ12B株の細胞内 DHAリン脂質をより多く含ませることができ 。特に、「炭素源を含まない培地」におけ 培養工程は、強制通気を行いながら培養す ことが好ましい。

 本発明の製造方法は、上記の工程で得ら たω3系不飽和脂肪酸を構成脂質とするリン 質を菌体から抽出ないし回収する工程、さ に必要に応じて当該リン脂質を精製する工 を含んでいてもよい。微生物菌体内に蓄積 たリン脂質の回収並びに精製は、例えばBlig hら(Can.J.Biochem.Physiol.、1959年、第37巻、第911-91 7頁)に記載の方法に従って行うことが出来る

 また、本発明によって製造されるω3系不 和脂肪酸を構成脂質とするリン脂質は、そ まま食品、食品添加物、飼料用添加物、医 品等として用いることができ、また食品、 プリメント、飼料、医薬品又はこれらの原 に添加して利用してもよい。

 本発明について、実施例を示してさらに しく説明するが、本発明はこの実施例に限 されるものではなく、当業者は本発明の範 を逸脱することなく、種々の変更、修正、 よび改変を行うことができる。なお、以下 実施例では、重量%は単に「%」と記載する

<実施例1>
 By+培地(0.1%ペプトン、0.1%酵母エキス、0.5%ブ ドウ糖、50%海水、1.0%寒天)を含む寒天平板培 で保存しているラビリンチュラ12B株細胞の1 白金耳(約1mg)を、10mLのF培地(50%海水、1%ペプ ン、1%酵母エキス、8%グルコース)に接種し、 30℃で72時間培養した。培養後の培養液の濁 (OD 600 )は約36であった。この培養液4mLを、Z1培地(F 地からグルコースを除いた培地)25mLに接種し 、30℃で48時間、培養を行った。培養中は経 的に培養液のOD 600 を測定し、また培養終了後の細胞の乾燥重量 、乾燥細胞から抽出した全脂質の量、全脂質 中のTGの量、リンの量、リンの量から算出さ るリン脂質量と全脂質に対する比、及び全 質脂肪酸中のDHAの含量を求めた(表1)。 

 1白金耳のラビリンチュラ12B株細胞は、乾 燥重量に換算して約0.5mgの菌体重量に相当す 。この菌体を10mLのF培地に接種し、72時間培 養した場合の菌体の乾燥重量は、OD値から換 して246mgとなる。一方、1白金耳のラビリン ュラ12B株細胞を10mLのZ1培地へ直接接種して7 2時間30℃で培養したが、培養終了時のOD値か 換算した細胞の乾燥重量は16.3mgであり、F培 地で培養した場合の7%であった。このことか 、Z1培地を用いて直接培養を行ったときの ビリンチュラ12B株の増殖性は極めて低いと えられる。

 一方、F培地で72時間培養した培地4mLに含 れるラビリンチュラ12B株細胞の乾燥重量(換 算値)は90.6mgであるが、これを接種したZ1培地 で48時間培養して最終的に得られるラビリン ュラ12B株細胞の乾燥重量(換算値)は235mgと、 2.6倍に増加していた。また、Z1培地を用いた4 8時間の培養において、細胞から抽出される 脂質量は38.8mgから22.0mgへと約43%減少し、全 質中のTG(脂肪酸量として)は66.8%から5.4%へと 少していた。

 これらの結果は、炭素源を含まないZ1培 における培養によって、ラビリンチュラ12B 細胞に蓄積されていた内在性脂質、特にTGが 、ラビリンチュラ12B株の増殖のために消費さ れたことを示唆していると考えられる。

 その一方、Z1培地で48時間培養後のラビリ ンチュラ12B株細胞の細胞内全脂質中のリン脂 質含量(リンの量からの換算値)は、5.0mgから14 .8mgへと約3倍増加し、全脂質中のリン脂質含 は12.9%から67.3%へと約5倍増加した。また、 脂質中のDHAの含量は、F培地で培養した細胞 は44.7%であるのに対して、Z1培地で培養した 細胞では培養時間に応じて増加し、48時間培 した場合は約57%であり、ラビリンチュラ12B 細胞において、リン脂質の構成脂質として DHA含量の上昇したことを示す。

<実施例2>
 実施例1と同様にラビリンチュラ12B株細胞を 培養したF培地の培養液4mLを、Z1培地のペプト ンと酵母エキスを2%としたZ2培地、及びZ1培地 のペプトンと酵母エキスを4%としたZ4培地各25 mLに接種し、30℃で48時間培養した。培養後の 濁度、回収された細胞の乾燥重量、乾燥細胞 から抽出した全脂質量、全脂質中のリン量、 リン量から算出されるリン脂質量とそれらの 比及びDHA含量を求めた(表1)。リン脂質の定量 はホスファチジルセリン(シグマ)を標準品と て無機リン量を定量することにより求めた

 その結果、ペプトン、酵母エキスの含量 高めることでラビリンチュラ12B株細胞の細 収量は増加し(Z1培地で235mg、Z2培地で243mg、Z 4培地で339mg)、Z4培地では、接種時(F培地で培 した培養液4mL中の細胞乾燥重量90.6mg)の約4 となった。また、全培養終了後の細胞から 収される全脂質量は、Z2培地とZ4培地でそれ れ28.5mgと40.0mgであった。

 また、Z2培地、Z4培地で培養したラビリン チュラ12B株の細胞全脂質中のリン脂質含量は それぞれ14.9mg、20.8mgであり、Z1培地で培養し 場合の14.8mgよりも増加したが、割合はZ2培 、Z4培地でそれぞれ52.3%及び52.0%であり、Z1培 地の場合の67.3%より低下した。また、全脂質 占めるTGの割合もZ培地のペプトンや酵母エ スの濃度が上昇するにつれて増加した。

 すなわち、Z培地のペプトンや酵母エキス 濃度を上げることは、全脂質に対するリン脂 質の割合は低下させるが、細胞の増殖量の増 加によってリン脂質の生産量を高めることが 確認された。

<実施例3>
 Z1培地に、1mM K 2 PO 4 、1mM K 2 PO 4 と1mMセリン、1mM K 2 PO 4 と1mMエタノールアミンをそれぞれ添加した培 地(以下、それぞれZ1p、Z1ps、Z1paと表す)を用 し、実施例1と同様の培養を行って、培養後 濁度、回収された細胞の乾燥重量、乾燥細 から抽出した全脂質量、全脂質中のリン量 リン量から算出されるリン脂質量とそれら 比及びDHA含量を求めた。

 その結果、Z1psにおいてリン脂質量の増加 (15.2mg)が認められた。この結果は培地に無機 ン及びアミノ酸を添加することにより、リ 脂質の生産量を増加させることができるこ が確認された。

 上記実施例1~3における分析結果を表1に示 す。

<実施例4>
1)BY+培地の寒天プレートに保存しているラビ ンチュラ12B株の細胞の1白金耳分を500mLフラ コ中の200mLのF培地に接種し、30℃、3日間前 養を行った。この前培養液100mLを、625mLのZ1 地/2.5L容積のジャーファーメンター(JF:東京 科器械社製)に加え、JFの上部空間(ヘッドス ペース)に対して通気(1000mL/分)しながら、30℃ 、攪拌速度300rpmで24時間培養した。この培養 件によって、消泡剤を使用することなく培 液の発泡による損失を抑制することができ 。培養液30mLを回収し、細胞の乾燥重量、全 脂質量、全リン脂質量を求め、全培養液当り に換算した。DHA含量の含量は、全脂質をメタ ノリシス後、GCにより求めた。また、容器を ラスコとし、通気を行なわずに培養時間を4 8時間とした以外は上記と条件で培養したフ スコ培養を対照として用意した。

 上記の培養条件において、培養後の培養 の細胞濃度は5.7mg/mLとなり、時間当りのリ 脂質量は565μg/mL/24時間であった。この値は 対照(フラスコ培養:225μg/mL/24時間)の約2倍で った。

2)JFの撹拌速度を500rpmとした他は上記1)と同 じ条件で培養を行ったところ、培養後の培養 液の細胞濃度は6.9mg/mLに達し、時間当りのリ 脂質量は642μg/mL/24時間となった。

3)JFの上部空間(ヘッドスペース)に加えて、 培地中にも通気(110mL/分)を行った他は、上記1 )と同じ条件で培養を行ったところ、培養後 培養液の細胞濃度は7.7mg/mLとなり、リン脂質 量の生成速度は755μg/mL/24時間(対照であるフ スコ培養の約3倍)に上昇した。

 上記1)、2)、3)の結果を表2に示す。

<分析方法>
 上記の実施例における各種の分析は、次に すとおりに行った。

1)全脂質の抽出
 乾燥菌体よりクロロホルム-メタノールを用 いた定法(非特許文献11)によって抽出される 質を全脂質とした。全脂質中の脂肪と極性 質を分離するために、全脂質サンプル100μg 、シリカゲルプレート(メルク社製シリカゲ G60)を用いて1次元薄層クロマトグラフィー(T LC)を行った。展開溶媒の組成はヘキサン-エ テル-酢酸(50:50:1、体積比)である。展開後、 リムリンをプレートに噴霧し、UV照射下で ポットの位置を確認した。TGの同定は標準物 質とRf値の比較により行った。

2)リン脂質の同定
 全脂質(1mg)を、クロロホルム-メタノール-水 (65:25:4,体積比)を展開溶媒Aとした1次元展開、 次いでクロロホルム-アセトン-メタノール-酢 酸-水(50:20:10:10:1,体積比)を展開溶媒Bとした2 元展開による二次元TLCを行い、極性基に特 的な試薬を吹きつけた。対象となるスポッ をプレートからかきとり、クロロホルム-メ ノール混液を用いてリン脂質を抽出した。 ン脂質の同定は、TLCプレート上での検出試 との反応性、及び抽出物とリン脂質標準物 との異なる3種類の展開溶媒(展開溶媒A、B及 びクロロホルム-メタノール-アンモニア水(50: 20:10、体積比)からなる溶媒C)を用いた1次元TLC におけるRfの比較により行った。

 F培地で30℃、72時間培養後、及びZ1培地で 30℃、48時間培養後のラビリンチュラ12Bから 出した全脂質の1次元TLCの結果を、図1に示す 。スポット1がTG、スポット2が遊離脂肪酸で る。原点(スポット3)が極性脂質である。TG、 遊離脂肪酸、極性脂質、及びそれ以外の中性 脂質の脂肪酸量を基にした割合を表2に示す

 F培地からZ培地への移行によりTGが減少し 、遊離脂肪酸と極性脂質の割合が増加した。 Z2培地、Z4培地で培養した場合もZ1培地で培養 した場合と同様、TGの減少、極性脂質の増加 傾向を示したが、Z1培地の場合ほど顕著で なかった。Z2培地を用いて培養した細胞の場 合を除いて極性脂質のDHA含量はTGのDHA含量を 回っていた。

 全脂質の2次元TLCの結果を図2に示す。図2aは プレートに蛍光物質(プリムリン)を噴霧した に紫外線照射下で撮影したものであり、図2 bは図2aを模式的に図示したものである。各ス ポットには図2bに示すように番号を付した。 スポットを与える脂質の検出試薬に対する 応性を調べた。脂質1、2、3、4、6、7、8、9 Dittmer試薬に陽性であり、リン脂質であるこ がわかった。これらの脂質の他の検出試薬 対する反応性から、脂質2はホスファチジル イノシトール(PI)、脂質3と4はホスファチジル コリン(PC1とPC2)、脂質6と7はホスファチジル タノールアミン(PE1とPE2)と同定された。この 結果は、それぞれの標準物質とのR f 値の比較によって確認された。PC、PEともに2 のスポットを与えるのは、構成する脂肪酸( 特にDHAの含量)が異なるためであると考えら る。他のリン脂質を含む極性脂質は未同定 ある。0は原点をあらわし、スポット5と番号 のないスポットはDittmer試薬に対して陰性の 質である。

3)リン脂質の組成とDHA含量
 Z1培地で30℃48時間培養後のラビリンチュラ1 2B株細胞から抽出した全脂質に対して二次元T LCを行った後、Z1培地由来の脂質の全スポッ をかきとり、Istokovicsらの方法 (Can.J.Microbiol. 、1988年、第44巻、第1051-1059頁)に従ってリン 定量した。全リン脂質中、PCは61.3%、PEは11.9% 、PIは12.5%、その他が14.6%であった。PCとPEに いて脂肪酸量を基にした場合、PC1とPC2はそ ぞれ46.0%、54.0%であり、PE1とPE2はそれぞれ46.7 %、53.3%であった。

 さらに、既知量(200μg)の内部標準物質と るheneicosanoic acidとともに定法によってメタ リシスし、脂肪酸メチルエステルをGCによ 分析した。PC1とPC2は全脂肪酸の39.2%及び66.8% DHA、PE1とPE2は全脂肪酸の23.0%、33.3%がDHAであ った。PIのDHA含量は20.9%であった。このこと らDHAがPC、特にPC2の構成脂質であることが分 かった。計算で求めた全PC、全PEのDHA含量は れぞれ54.0%と28.4%であった。以上の結果を表3 に示す。なお、表3のリン脂質のDHA含量の値 、Z1培地で培養した細胞に由来する全脂質の DHA含量56.5%(表1)や極性脂質のDHA含量56.6%、TGの DHA含量(52.6%)に比べると低いが、これはTLCあ いはGCの過程で多価不飽和脂肪酸の分解が起 きているためである。

F培地及びZ1培地で培養したラビリンチ ラ12B株細胞の全脂質の1次元TLCのクロマトグ ラムを示す。レーン1:F培地で30℃、72時間後 全脂質(250μg)、レーン2:Z1培地で30℃、24時間 養後の全脂質(250μg)、レーン3:Z1培地で30℃ 48時間培養後の全脂質(250μg)。 F培地及びZ1培地で培養したラビリンチ ュラ12B株細胞の全脂質の2次元TLCのクロマト ラム(プリムリンを噴霧後、UV照射下で撮影) 示す。パネル上:F培地で30℃、72時間培養後 全脂質(1mg)、パネル下:Z1培地で30℃、48時間 養後の全脂質(1 mg)。 図2aに示すクロマトグラムを模式的に したものを示す。スポット1から9がリン脂 である。パネル上:F培地で30℃、72時間培養 の全脂質、パネル下:Z1培地で30℃、48時間培 後の全脂質。