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Patent Searching and Data


Title:
METHOD FOR PRODUCTION OF STABLE MUTANT PROTEIN
Document Type and Number:
WIPO Patent Application WO/2009/051226
Kind Code:
A1
Abstract:
Disclosed is a generally applicable method for improving the stability of a protein molecule, including thermal stability, chemical stability against a modifying agent and resistance against a protease, compared with the intrinsic stability of the protein molecule, without deteriorating the original functions of the protein molecule. The method is for producing a useful mutant form of a protein, and comprises the steps of: selecting, as a target site for mutation, an amino acid residue located on a partial segment whose three-dimensional structure is stabilized by the interaction among adjacent amino acid residues located on the amino acid sequence for the protein, by using a three-dimensional structure coordinate data from the protein; selecting, as other amino acid residue by which the target site for mutation is to be substituted, an amino acid residue having high frequency of occurrence in a conformation that is the same as or similar to the conformation of the partial segment; and substituting the target site for mutation by the selected amino acid residue.

Inventors:
HONDA SHINYA (JP)
SAWADA YOSHITO (JP)
MATSUMARU HIROYUKI (JP)
Application Number:
PCT/JP2008/068861
Publication Date:
April 23, 2009
Filing Date:
October 17, 2008
Export Citation:
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Assignee:
NAT INST OF ADVANCED IND SCIEN (JP)
HONDA SHINYA (JP)
SAWADA YOSHITO (JP)
MATSUMARU HIROYUKI (JP)
International Classes:
C12N15/09; C07K14/315; C12N1/15; C12N1/19; C12N1/21; C12N5/10; C12P21/02; G06F17/00; G06F19/00
Foreign References:
JP2004272867A2004-09-30
Other References:
HONDA S. ET AL.: "10 residue folded peptide designed by segment statistics.", STRUCTURE, vol. 12, no. 8, 2004, pages 1507 - 1518
HONDA S. ET AL.: "Structural diversity of protein segments follows a power-law distribution.", BIOPHYS. J., vol. 91, 2006, pages 1213 - 1223
FAHNESTOCK S.R. ET AL.: "Gene for an immunoglobulin-binding protein from a group G streptococcus.", J. BACTERIOL., vol. 167, no. 3, 1986, pages 870 - 880
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Claims:
 タンパク質の立体構造座標データを用いて、該タンパク質のアミノ酸配列上近傍のアミノ酸残基間の相互作用によって立体構造が安定化されている部分セグメントを探索し、該部分セグメントを変異導入領域として選定することを特徴とする、タンパク質の変位導入領域の選定方法。
 変異導入領域が、以下の数式(1)、(2)及び(3)に基づき算出された局所コンタクト指数(I loc )が、正の値を示すアミノ酸残基の連続する領域から選出されることを特徴とする、請求項1に記載のタンパク質の変異導入領域の選定方法。
 上記数式(1)中、n i,j はタンパク質中のアミノ酸残基iと同アミノ酸残基jの間のコンタクト原子数(i≠j)、Nはタンパク質分子の鎖長を表し、C p,q はタンパク質分子内の水素原子を除く重原子pと重原子qの間のコンタクト数を表す。C p,q は2つの重原子の中心間の距離が閾値d以内なら1、そうでなければ0となる二値変数を表し、dは0.3~1.2 nmである。
 上記数式(2)中、D loc k はタンパク質のk番目のアミノ酸残基の局所コンタクト数密度を表し、wはk番目のアミノ酸残基についての配列上近傍の範囲を規定するウィンドウ幅を表し、w L はk番目のアミノ酸残基の左側のウィンドウ幅、w R はk番目のアミノ酸残基の右側ウィンドウ幅をそれぞれ表す。w L 、及びw R はそれぞれ1~15の整数である。
 上記数式(3)中、I loc k はタンパク質のk番目のアミノ酸残基の局所コンタクト指数を表し、μ D loc 及びσ D loc は、それぞれ以下の式で表され、μ D loc はタンパク質の全アミノ酸残基の局所コンタクト数密度(D loc )の平均値、σ D loc はタンパク質の全アミノ酸残基の局所コンタクト数密度(D loc )の標準偏差を表す。
 タンパク質の立体構造座標データを用いて、該タンパク質のアミノ酸配列上遠方のアミノ酸残基との相互作用が弱いアミノ酸残基を探索し、探索されたアミノ酸残基の中から変異対象部位のアミノ酸残基を選定することを特徴とする、タンパク質中の変異対象部位の選定方法。
 変異対象部位のアミノ酸残基が、以下の数式(4)及び(5)に基づき算出される非局所コンタクト指数(I nl )が少なくとも0.1以上であるアミノ酸残基から選定されることを特徴とする、請求項3に記載のタンパク質中の変異対象部位の選定方法。
 上記数式(4)中、N nl i  はi番目のアミノ酸残基の非局所コンタクト原子数、Nはタンパク質分子の鎖長を表し、C’ p’,q はアミノ酸残基iの側鎖の重原子p’とアミノ酸残基jの重原子qとの間のコンタクト数を表し、w L とw R は上記数式(2)で示したのと同様である。C' p,q は2つの重原子の中心間の距離が閾値d以内なら1、そうでなければ0となる二値変数を表し、dは上記数式(1)で示したのと同様である。
 上記数式(5)中、I nl i  はi番目のアミノ酸残基の非局所コンタクト指数、N nl i  は上記数式(4)で示したのと同様であり、αは任意の定数を表す。
 変異対象部位のアミノ酸残基が、以下の数式(6)で算出される変異適性指数(I M )が少なくとも0.1以上であるアミノ酸残基から選出されることを特徴とする、請求項3に記載のタンパク質中の変異対象部位の選定方法。
 上記数式(6)中、I M i  はi番目のアミノ酸残基の変異適性指数を示し、I loc i はタンパク質のi番目のアミノ酸残基の局所コンタクト指数を表しI nl i  はi番目のアミノ酸残基の非局所コンタクト指数を表す。
 タンパク質の変異対象部位のアミノ酸残基を置換する他のアミノ酸残基を選定する方法であって、該タンパク質の立体構造座標データを用いて、変異対象部位を含む部分セグメントの主鎖のコンフォメーションを特定し、該特定されたコンフォメーションを安定に形成するアミノ酸配列を決定し、該決定されたアミノ酸配列における上記変異対象部位と対応する位置の各アミノ酸残基を上記変異対象部位のアミノ酸残基を置換する他のアミノ酸残基として選定することを特徴とする、上記置換する他のアミノ酸残基の選定方法。
 タンパク質の変異対象部位を含む部分セグメントの主鎖のコンフォメーションと同様あるいは類似するコンフォメーションを探索し、探索されたコンフォメーションを形成するアミノ酸配列における上記変異対象部位と対応する位置の各アミノ酸残基の中から、出現頻度の高いアミノ酸残基を上記変異対象部位のアミノ酸残基として選定することを特徴とする、請求項6に記載の置換する他のアミノ酸残基の選定方法。
 タンパク質の変異対象部位のアミノ酸残基が、請求項1または2に記載の変異導入領域中のアミノ酸残基から選定されるか、あるいは請求項3~5に記載のいずれかの方法により選定されたものであることを特徴とする、請求項6または7に記載の置換する他のアミノ酸残基の選定方法。
 タンパク質の変異対象部位を含む部分セグメントの主鎖2面角をタンパク質局所構造データベースProSegの検索ウィンドウに入力し、得られた位置特異的スコア行列(PSSM)のスコアに基づき、以下の数式(7)から算出される交換の好ましさ(p)を算出し、交換の好ましさ(p)が1.0以上であるアミノ酸残基を置換する他のアミノ酸残基として選定することを特徴とする、請求項6~8に記載の置換する他のアミノ酸残基の選定方法。
 上記数式(7)中、p k は変位対象部位kのアミノ酸残基の交換の好ましさを表し、s PSSM k (original)は変異対象部位kの置換前のアミノ酸残基のスコア、s PSSM k (candidate)は変異対象部位kを置換する他のアミノ酸残基のスコアを表す。
 以下の式(8)で算出される変異対象部位のアミノ酸残基の露出表面積比Rが、0.3以上になることを条件として、変異対象部位のアミノ酸残基の側鎖サイズより大きくなる側鎖サイズのアミノ酸残基を、置換する他のアミノ酸残基として選択することを特徴とする、請求項6~9のいずれかに記載の置換する他のアミノ酸残基の選定方法。
 式8中、R i は変異対象部位iのアミノ酸残基の露出表面積比を表し、ASA FOLD,SIDE (i)はi番目のアミノ酸残基の側鎖の天然状態における露出表面積、ASA UNFOLD,SIDE (i)は変異対象部位iのアミノ酸残基の側鎖の変性状態における露出表面積をそれぞれ表す。
 タンパク質の変異対象部位のアミノ酸残基を、請求項1または2に記載の変異導入領域中のアミノ酸残基から選定するか、あるいは請求項3~5に記載のいずれかの方法により選定し、該選定された変異対象部位のアミノ酸残基を、請求項6~10のいずれかに記載の方法により選定された、他のアミノ酸残基により置換することを特徴とする、変異型タンパク質の製造方法。
 請求項11に記載の方法により得られた変異型タンパク質。
 以下の(a)~(e)の変異を1以上有する変異型プロテインGのB1ドメインであることを特徴とする請求項12に記載の変異型タンパク質。
  (a)Asp36Glu
  (b)Asn37Leu
  (c)Asp47Pro
  (d)Ala48Lys
  (e)Ala48Glu
 請求項12または13の記載の変異型タンパク質をコードする核酸。
 請求項14の核酸を含有する組換えベクター。
 請求項14の核酸または請求項15の組換えベクターを含む形質転換体。
Description:
安定な変異型タンパク質の製造 法

 本発明は、任意のタンパク質の立体構造 標データを用いて、該タンパク質より安定 新規な変異型タンパク質を製造する方法に するものである。

 各種のゲノムプロジェクトの成果として、 然界に存在する野生型タンパク質のアミノ 配列に関する莫大な情報を利用することが 在可能になっている。また、遺伝子工学を いて、任意のアミノ酸配列を有するタンパ 質を組替えタンパク質として生産すること 可能になっている。したがって、野生型タ パク質のアミノ酸配列の一部のアミノ酸残 が置換された人工的なアミノ酸配列を有す 変異型タンパク質を組替えタンパク質とし 生産することも現在は可能である。
 すなわち、遺伝子工学技術は任意のアミノ の置換を可能にし、タンパク質分子の構造 機能に果たす各位置のアミノ酸残基の役割 関する膨大な知識を我々にもたらし、この 識の理解と整理を基盤として、いくつかの 究が、現に、計画されたアミノ酸残基の置 により天然タンパク質の性質をより好まし 方向に合目的的に改変することが可能であ ことを示してきた。たとえば、古くはMatthew sらによる一連のT4リゾチームの安定化研究が ある(非特許文献1参照)。また、自然界でまれ に存在する左巻きらせん型構造を形成するタ ンパク質に対して、グリシン残基またはアス パラギン残基への置換が該タンパク質を安定 化するとの発明がある(特許文献1)。しかし、 多くの場合、安定性の向上は機能の低下をも たらす、または、機能の向上は安定性の低下 をもたらすなど、改変には好まざる影響が伴 うことが一般的で、複数の要求を同時に満足 することは容易ではない。また、これまでの 多くの研究は、特定の構造のみに対する方法 で、任意の構造に対して有効な汎用な方法と はなっていない。
 一方で、タンパク質の3次元的な立体構造に 関しても急速に解析が進展しつつあり、主に 自然界に存在する野生型タンパク質およびそ の組替えタンパク質を対象とした4万を超え 立体構造座標データが公共データベースか 入手可能な状況になっており、この座標デ タのより有効で高度な活用も望まれている

特開平05-308963号公報 Matsumura M., Signor G., and Matthews B. W. (1 987) Substantial increase of protein stability by mul tiple disulphide bonds Nature, 342, 291-293.

 本発明の課題は、このような任意のタン ク質の立体構造座標データを利用すること より、該タンパク質の本来の機能を損なわ 、かつ、該タンパク質に比べて、例えば、 安定性、変性剤に対する化学的安定性、お び蛋白分解酵素に対する耐性等のタンパク 分子の安定性を向上させるための普遍的な 法を開発し、有用な変異型タンパク質を提 することにある。

 本発明者は上記課題を解決するため、鋭意 究の結果、以下の(a)~(g)の知見を獲得し、さ らに該知見を発展させ、タンパク質の立体構 造座標データを用いることで、機能に与える 不利益を最小限に留めつつ任意のタンパク質 の安定性を高確度で向上させる方法を開発し 、本発明を完成するに至ったものである。
(a)タンパク質分子には、配列上近傍のアミノ 酸残基間の相互作用によって立体構造が安定 化されている部分セグメントが存在する。
(b)配列上近傍のアミノ酸残基間の相互作用に よって立体構造が安定化されている部分セグ メント内に変異箇所を設定することで、タン パク質分子全体に及ぼす不測の不利益を抑え つつタンパク質の構造安定性を向上させるこ とが期待できる。
(c)タンパク質分子には、配列上遠方のアミノ 酸残基との相互作用が強いアミノ酸残基が存 在する。
(d)配列上遠方のアミノ酸残基との相互作用が 強いアミノ酸残基を変異箇所から除外するこ とで、タンパク質分子全体に及ぼす不測の不 利益を抑えることが期待できる。
(e)タンパク質分子の主鎖のコンフォメーショ ンを形成する蓋然性が高いアミノ酸配列は、 多数のタンパク質の局所構造の統計解析によ り推定することができる。
(f)多数のタンパク質の局所構造の統計解析に より導かれた人工的なアミノ酸配列は、特定 の主鎖のコンフォメーションを自律的に形成 する。
(g)アミノ酸残基の置換において側鎖のサイズ が大きく変わる場合は、タンパク質分子にお けるアミノ酸残基の埋もれ度を評価すること で、その影響を予想することができる。

 即ち、本発明は、以下のとおりのものであ 。
 1.タンパク質の立体構造座標データを用い 、該タンパク質のアミノ酸配列上近傍のア ノ酸残基間の相互作用によって立体構造が 定化されている部分セグメントを探索し、 部分セグメントを変異導入領域として選定 ることを特徴とする、タンパク質の変位導 領域の選定方法。
 
 2.変異導入領域が、以下の数式(1)、(2)及び(3 )に基づき算出された局所コンタクト指数(I loc )が、正の値を示すアミノ酸残基の連続する 域から選出されることを特徴とする、上記1 記載のタンパク質の変異導入領域の選定方 。
 上記数式(1)中、n i,j はタンパク質中のアミノ酸残基iと同アミノ 残基jの間のコンタクト原子数 (i≠j)、Nはタ ンパク質分子の鎖長を表し、C p,q はタンパク質分子内の水素原子を除く重原子 pと重原子qの間のコンタクト数を表す。C p,q は2つの重原子の中心間の距離が閾値d以内な 1、そうでなければ0となる二値変数を表し dは0.3~1.2 nmである。
 上記数式(2)中、D loc k はタンパク質のk番目のアミノ酸残基の局所 ンタクト数密度を表し、wはk番目のアミノ酸 残基についての配列上近傍の範囲を規定する ウィンドウ幅を表し、w L はk番目のアミノ酸残基の左側のウィンドウ 、w R はk番目のアミノ酸残基の右側ウィンドウ幅 それぞれ表す。w L 及びw R はそれぞれ1~15の整数である。
 上記数式(3)中、I loc k はタンパク質のk番目のアミノ酸残基の局所 ンタクト指数を表し、μ D loc 及びσ D loc は、それぞれ以下の式で表され、μ D loc はタンパク質の全アミノ酸残基の局所コンタ クト数密度(D loc )の平均値、σ D loc はタンパク質の全アミノ酸残基の局所コンタ クト数密度(D loc )の標準偏差を表す。
 
 3.タンパク質の立体構造座標データを用い 、該タンパク質のアミノ酸配列上遠方のア ノ酸残基との相互作用が弱いアミノ酸残基 探索し、探索されたアミノ酸残基の中から 異対象部位のアミノ酸残基を選定すること 特徴とする、タンパク質中の変異対象部位 選定方法。
 
 4.変異対象部位のアミノ酸残基が、以下の 式(4)及び(5)に基づき算出される非局所コン クト指数(I nl )が少なくとも0.1以上であるアミノ酸残基か 選定されることを特徴とする、上記3に記載 タンパク質中の変異対象部位の選定方法。
 上記数式(4)中、N nl i  はi番目のアミノ酸残基の非局所コンタクト 原子数、Nはタンパク質分子の鎖長を表し、C p’,q はアミノ酸残基iの側鎖の重原子p’とアミノ 残基jの重原子qとの間のコンタクト数を表 、w L とw R は上記数式(2)で示したのと同様である。C' p,q は2つの重原子の中心間の距離が閾値d以内な 1、そうでなければ0となる二値変数を表し dは上記数式(1)で示したのと同様である。
 上記数式(5)中、I nl i  はi番目のアミノ酸残基の非局所コンタクト 指数、N nl i  は上記数式(4)で示したのと同様であり、aは 任意の定数を表す。
 
 5.変異対象部位のアミノ酸残基が、以下の 式(6)で算出される変異適性指数(I M )が少なくとも0.1以上であるアミノ酸残基か 選出されることを特徴とする、上記3に記載 タンパク質中の変異対象部位の選定方法。
 上記数式(6)中、I M i  はi番目のアミノ酸残基の変異適性指数を示 し、I loc i はタンパク質のi番目のアミノ酸残基の局所 ンタクト指数を表しI nl i  はi番目のアミノ酸残基の非局所コンタクト 指数を表す。
 
 6.タンパク質の変異対象部位のアミノ酸残 を置換する他のアミノ酸残基を選定する方 であって、該タンパク質の立体構造座標デ タを用いて、変異対象部位を含む部分セグ ントの主鎖のコンフォメーションを特定し 該特定されたコンフォメーションを安定に 成するアミノ酸配列を決定し、該決定され アミノ酸配列における上記変異対象部位と 応する位置の各アミノ酸残基を上記変異対 部位のアミノ酸残基を置換する他のアミノ 残基として選定することを特徴とする、上 置換する他のアミノ酸残基の選定方法。
 
 7.タンパク質の変異対象部位を含む部分セ メントの主鎖のコンフォメーションと同様 るいは類似するコンフォメーションを探索 、探索されたコンフォメーションを形成す アミノ酸配列における上記変異対象部位と 応する位置の各アミノ酸残基の中から、出 頻度の高いアミノ酸残基を上記変異対象部 のアミノ酸残基として選定することを特徴 する、請求項6に記載の置換する他のアミノ 残基の選定方法。
 
 8.タンパク質の変異対象部位のアミノ酸残 が、上記1または2に記載の変異導入領域中の アミノ酸残基から選定されるか、あるいは上 記3~5に記載のいずれかの方法により選定され たものであることを特徴とする、上記6また 7に記載の置換する他のアミノ酸残基の選定 法。
 
 9.タンパク質の変異対象部位を含む部分セ メントの主鎖2面角をタンパク質局所構造デ タベースProSegの検索ウィンドウに入力し、 られた位置特異的スコア行列(PSSM)のスコア 基づき、以下の数式(7)から算出される交換 好ましさ(p)を算出し、交換の好ましさ(p)が1 .0以上であるアミノ酸残基を置換する他のア ノ酸残基として選定することを特徴とする 上記6~8に記載の置換する他のアミノ酸残基 選定方法。
 上記数式(7)中、p k は変位対象部位kのアミノ酸残基の交換の好 しさを表し、s PSSM k (original)は変異対象部位kの置換前のアミノ酸 基のスコア、s PSSM k (candidate)は変異対象部位kを置換する他のアミ ノ酸残基のスコアを表す。
 
 10.以下の式(8)で算出される変異対象部位の ミノ酸残基の露出表面積比Rが、0.3以上にな ることを条件として、変異対象部位のアミノ 酸残基の側鎖サイズより大きくなる側鎖サイ ズのアミノ酸残基を、置換する他のアミノ酸 残基として選択することを特徴とする、上記 6~9のいずれかに記載の置換する他のアミノ酸 残基の選定方法。
 式8中、R i は変異対象部位iのアミノ酸残基の露出表面 比を表し、ASA FOLD,SIDE (i)はi番目のアミノ酸残基の側鎖の天然状態 おける露出表面積、ASA UNFOLD,SIDE (i)は変異対象部位iのアミノ酸残基の側鎖の 性状態における露出表面積をそれぞれ表す
 
 11.タンパク質の変異対象部位のアミノ酸残 を、上記1または2に記載の変異導入領域中 アミノ酸残基から選定するか、あるいは上 3~5に記載のいずれかの方法により選定し、 選定された変異対象部位のアミノ酸残基を 上記6~10のいずれかに記載の方法により選定 れた、他のアミノ酸残基により置換するこ を特徴とする、変異型タンパク質の製造方 。
 
 12.上記11に記載の方法により得られた変異 タンパク質。
 
 13.以下の(a)~(e)の変異を1以上有する変異型 ロテインGのB1ドメインであることを特徴と る上記12に記載の変異型タンパク質。
  (a)Asp36Glu
  (b)Asn37Leu
  (c)Asp47Pro
  (d)Ala48Lys
  (e)Ala48Glu
 
 14.上記12または13の記載の変異型タンパク質 をコードする核酸。
 
 15.上記14の核酸を含有する組換えベクター
 
 16.上記14の核酸または上記15の組換えベクタ ーを含む形質転換体。
 

 本発明のタンパク質の変異手法は、タンパ 質の種類によらず適用でき、広く汎用性を する。
 この手法を用いることにより、タンパク質 本来の機能を損なうことなく、有用な性質 特にタンパク質の変性、失活要因に対抗す 安定性を付加することができる。事実、こ 手法を連鎖球菌由来のタンパク質であるプ テインGの細胞膜外ドメインに適応して、3 の変異型タンパク質を得たが、得られたす ての変異型タンパク質において、野生型の ロテインG細胞膜外ドメインに比べ、熱安定 、変性剤に対する化学的安定性、および蛋 分解酵素に対する耐性が共に向上した。加 て、プロテインGの細胞膜外ドメインが本来 有する抗体(免疫グロブリンG)結合活性は、3 の変異型タンパク質のすべてにおいて野生 のプロテインG細胞膜外ドメインと同等であ た。これより、現在市場に流通している多 のプロテインG細胞膜外ドメイン含有製品に おいて、野生型と代替することにより、製品 の長期保存や長期使用に伴う機能劣化の低減 、安定性向上に伴う製品の利用条件や対象範 囲の拡大、製品の保存、操作および管理の容 易化が期待できる。

 一方、本発明の手法は、タンパク質分子 局所的性質に着目するところに特徴を有す が、このことは、本発明が、特定の立体構 のタンパク質または特定の機能のタンパク に限られることなく、立体構造座標データ 利用可能なすべてのタンパク質に適用可能 あることを意味している。上記変異型プロ インGは、本発明の手法の有効性を実証する ものであり、本発明によれば、安定で有用な 変異型タンパク質の製造が、プロテインG細 膜外ドメインにとどまることなく、様々な ンパク質について可能になり、医療・農業 バイオテクノロジー分野を始めとするタン ク質を利用するあらゆる産業分野の発展に 与するところが大きい。

プロセスA~Cのフローチャートを示す図 ある。 プロセスD~Hのプローチャートを示す図 ある。 各タンパク質における各アミノ酸残基 のコンタクト原子数を示す図である。 プロテインG・B1ドメインの局所コンタ ト指数を示すグラフである。 プロテインG・B1ドメインの非局所コン クト指数を示すグラフである。 プロテインG・B1ドメインの変異適正指 を示すグラフである。 プロテインG・B1ドメインの部分セグメ ト(43-51)の主鎖2面角を示す図である。 プロテインG・B1ドメインの部分セグメ ト(43-51)のPSSMを示す図である。 プロテインG・B1ドメインの各アミノ酸残基に 対する置換アミノ酸の交換の好ましさ;p k 値を示すグラフである。 プロテインG・B1ドメインの各アミノ酸残基の 露出表面積比;R i 値を示すグラフである。 プロテインG変異型タンパク質の免疫 ロブリンFc領域に対する結合性を試験した結 果を示すグラフである。 プロテインG変異型タンパク質の熱安 性を試験した結果を示すグラフである。 プロテインG変異型タンパク質の変性 に対する化学的安定性を試験した結果を示 グラフである。 プロテインG変異型タンパク質のタン ク質分解酵素に対する安定性を試験した結 を示すグラフである。

 以下、本発明を詳細に説明する。
 本発明は、タンパク質本来の機能を損なう となく、有用な性質、特にタンパク質の安 性を向上させた変異タンパク質を得るため 方法及び、これを用いて得られた有用な変 タンパク質に関するものであり、該方法は 変異対象タンパク質における変異導入部位 選定し、該変異導入部位のアミノ酸残基を のアミノ酸残基に置換するプロセスを含み 変異導入部位の選定は、以下のプロセスA、 B、またはCを含む。図1にその好ましいフロー を示す。

 1.変異導入部位の選定
 〔プロセスA〕
 タンパク質の立体構造座標データを用いて 配列上近傍のアミノ酸残基間の相互作用に って立体構造が安定化されている部分セグ ントを探索するプロセス。
 このプロセスにおいて使用するタンパク質 立体構造座標データは、例えば、国際的な ンパク質立体構造データベースであるProtein  Data Bankよりダウンロードすることにより取 得でき、また、タンパク質のX線結晶解析法 核磁気共鳴測定法などの実験的手法を利用 て決定することも、あるいはホモロジーモ リングなどの情報論的手法を利用して予測 ることもできる。

 次に、変異導入対象とするタンパク質の立 構造座標データを用いて、配列上近傍のア ノ酸残基間の相互作用によって立体構造が 定化されている部分セグメントを探索し、 部分セグメントを変異導入領域として選定 る。好ましくは、以下に示す方法で決定す 。即ち、以下の数式(1)、(2)及び(3)で定義さ るコンタクト原子数n、局所コンタクト数密 度D loc 、局所コンタクト指数I loc を算出する。
 式(1)中、n i,j は残基iと残基jの間のコンタクト原子数(i≠j) 、Nはタンパク質分子(またはサブユニット)の 鎖長を表す。C p,q はタンパク質分子内の水素原子を除く重原子 pと重原子qの間のコンタクト数で、2つの重原 子の中心間の距離が閾値d以内なら1、そうで ければ0となる二値変数である。dは0.3~1.2 nm 、好ましくは0.4~0.7nm、さらに好ましくは0.5nm する。

 上記式(2)中、D loc k はタンパク質のK番目のアミノ酸残基の局所 ンタクト数密度を表す。
 wはk番目のアミノ酸残基の配列上近傍の範 を規定するウィンドウ幅を表し、w L はk番目のアミノ酸残基の左側のウィンドウ 、w R はk番目のアミノ酸残基の右側ウィンドウ幅 それぞれ表す。w L とw R はそれぞれ1~15の整数、好ましくは3~7の整数 さらに好ましくは4とする。w L とw R は必ずしも等しくなくて良い。w は、w L とw R の和に、k番目のアミノ酸残基を含める意味 1を足したものである。
 すなわち、wは、“配列上近傍のアミノ酸残 基”を表現するパラメータであり、この設定 により、k-w L 番目からk+w R 番目のアミノ酸残基が、k番目のアミノ酸残 の配列上近傍に位置するアミノ酸残基と定 される。
 例として、プロテインGの各構成アミノ酸残 基相互のコンタクト原子数n i,j を示す図3を参照すれば、D loc k は、四角で表される一辺wの正方形の内部のn i,j  を足し合わせた値の1/2に相当する値である なお、図3中横軸及び縦軸はタンパク質のア ミノ酸番号を表し、各アミノ酸番号の交点に おける小四角の濃淡は、各アミノ酸残基相互 のコンタクト原子数n ij を表す。
 すなわち、上記式により算出したD loc k  は、変異対象のタンパク質におけるk番目の アミノ酸残基と、該アミノ酸残基を中心とす るその近傍領域すなわち設定されたウィンド ウ枠内の各アミノ酸残基とのコンタクト原子 数の合計(局所コンタクト数密度)を示す。本 明においては、タンパク質のアミノ酸配列 構成する各アミノ酸残基について各D loc を算出する。

 上記式(3)中、I loc k はk番目のアミノ酸残基の局所コンタクト指 、μ D loc はD loc の平均値、σ D loc はD loc の標準偏差を表し、それぞれ以下の式で示さ れる。
 上記式(3)により算出されるI loc k は、タンパク質のk番目のアミノ酸における 所コンタクト数密度の平均値からの乖離度 表し、該算出値が0の場合は平均と同じであ が、プラス値の場合は平均を超え、その絶 値が大きいほど局所コンタクト数密度が大 く、マイナス値の場合は平均未満で、その 対値が大きいほど局所コンタクト数密度が いことを示す。

 タンパク質を構成するアミノ酸残基を、局 的な相互作用を介してタンパク質分子の構 安定化に寄与しているアミノ酸残基と非局 的な相互作用を介して寄与しているアミノ 残基とに区別する必要がある場合、I loc はそのための適切な指数となる。すなわち、 I loc が大きいアミノ酸残基は、その配列上近傍の アミノ酸残基(ウィンドウ枠内のアミノ酸残 )と強く相互作用しているアミノ酸残基であ ことを示唆し、I loc が大きいアミノ酸残基が連続する領域は、そ の対象タンパク質において局所的な相互作用 を介して立体構造を安定化している部分セグ メントである可能性が高い。本発明において は、少なくともI loc が正の値を示すアミノ酸残基が連続する領域 を変異導入領域として選定する。
 以上のプロセスAは、プログラムされたコン ピュータの利用によって遂行することができ る。
 なお、配列上近傍のアミノ酸残基間の相互 用によって立体構造が安定化されている部 セグメントをタンパク質の立体構造座標デ タをもとに選定する方法は、上記手法のみ はないので、本発明のI loc 値と定性的に同様の傾向を示すパラメータを 用いる限りにおいて、上述と異なる方法で選 定しても良い。

 〔プロセスB〕
 タンパク質の立体構造座標データを用いて 配列上遠方のアミノ酸残基との相互作用が いアミノ酸残基を探索するプロセス。
 このプロセスにおいては、上記プロセスAと 同様にして得た、変異導入対象のタンパク質 の立体構造座標データを用いて、配列上遠方 のアミノ酸残基との相互作用が弱いアミノ酸 残基を探索する。この探索は、好ましくは、 以下の数式(4)、(5)で定義される非局所コンタ クト原子数N nl 、非局所コンタクト指数I nl を算出に基づき行う。

 上記数式(4)中、N nl i  はi番目のアミノ酸残基の非局所コンタクト 原子数、Nはタンパク質分子の鎖長を表す。C p’,q はアミノ酸残基iの側鎖の重原子p’とアミノ 残基jの重原子qとの間のコンタクト数で、2 の重原子の中心間の距離が閾値d以内なら1 そうでなければ0となる二値変数である。dは プロセスAと同様に設定される。また、w L とw R はそれぞれアミノ酸残基iの左側ウィンドウ 、右側ウィンドウ幅を表し、プロセスAと同 に設定される。
 この数式(4)により設定されるN nl i  はi番目のアミノ酸残基の側鎖と全てのアミ ノ酸残基とのコンタクト数の合計から、i番 のアミノ酸残基の側鎖と配列上その近傍の ミノ酸残基すなわちウィンドウ枠内のアミ 酸残基とのコンタクト数の合計を除いたも であって、該アミノ酸残基の側鎖と、該残 を中心とするウィンドウ枠の外側に位置す 各アミノ酸残基すなわち遠方の各アミノ酸 基とのコンタクト数の合計を示す。配列上 方のアミノ酸残基と多数接触している側鎖 有するアミノ酸残基ほど大きなN nl 値を示すことになる。
 本発明においては、各アミノ酸残基につい のN nl 値を比較から、配列上遠方のアミノ酸残基と の相互作用が弱いアミノ酸残基を見いだして もよいが、以下の数式(5)に基づき非局所コン タクト指数を求めれば、0~1の間に規格化して 評価することができる。

 上記式5中、I nl i  はi番目のアミノ酸残基の非局所コンタクト 指数、N nl i  は上記と同様であり、αは非局所コンタク 数の縮減を意図する任意の定数である。αは 正の実数、好ましくは1~10の実数、さらに好 しくは3とする。
 上式より、配列上遠方のアミノ酸残基との 触が無いアミノ酸残基のI nl は1であり、接触が多いアミノ酸残基のI nl は0に近づく。本実施例では、I nl の値がより大きいアミノ酸残基は、配列上遠 方のアミノ酸残基との相互作用が弱いアミノ 酸残基であり、反対にI nl の値がより小さいアミノ酸残基は配列上遠方 のアミノ酸残基と相互作用が強いアミノ酸残 基である。本発明においては少なくともI nl 値が0.1以上のアミノ酸残基を候補として選定 する。

 以上のプロセスBは、タンパク質を構成する アミノ酸配列の中から、配列上遠方のアミノ 酸残基との相互作用が弱いアミノ酸残基を探 索するプロセスであり、単独で遂行すること も可能であるが、上記プロセスAにおいて選 された部分セグメントの構成アミノ酸残基 に、配列上遠方のアミノ酸残基との相互作 が弱いアミノ酸残基を見いだすことにより すなわち、プロセスAにこのプロセスBを付加 することにより、より的確に変異対象候補部 位を絞り込むことが可能となる。
 以上のプロセスBは、プログラムされたコン ピュータの利用によって遂行することができ る。
 なお、配列上遠方のアミノ酸残基との相互 用が弱いアミノ酸残基をタンパク質の立体 造座標データをもとに求める手法は、この ロセスBのみ手法のみに限らないので、本発 明のI nl 値と定性的に同様の傾向を示すパラメータを 用いる限りにおいて、上述と異なる方法で求 めても良い。

 〔プロセスC〕
 プロセスA、あるいはプロセスB、あるいは ロセスAおよびプロセスBの結果を用いて、該 タンパク質を構成するアミノ酸配列の中から 変異対象部位とするアミノ酸残基を選定する プロセス。
 このプロセスは、変異対象部位とするアミ 酸残基を選定するプロセスであり、プロセ Aで選定された、配列上近傍のアミノ酸残基 間の相互作用によって立体構造が安定化され ていると予測される部分セグメントに含まれ るアミノ酸残基の中から、変異対象部位とす るものを選定してもよいが、あるいはプロセ スBで選定された、配列上遠方のアミノ酸残 との相互作用が弱いと予測されるアミノ酸 基を変異対象部位として選定してもよいが より好ましくは、プロセスAで選定された配 上近傍のアミノ酸残基間の相互作用によっ 立体構造が安定化されていると予測される 分セグメントに含まれるアミノ酸残基であ て、かつプロセスBで選定された配列上遠方 のアミノ酸残基との相互作用が弱いと予測さ れるアミノ酸残基を変異対象部位として選定 する。
 この変異部位のアミノ酸残基の選定は、特 の手法に限定されるわけではないが、後者 場合、好ましくは、上記プロセスAで算出さ れる各アミノ酸残基についてのI loc 値及びプロセスBで算出される同I nl 値を用いて、以下の式(6)で定義される変異適 性指数I M を算出する。算出したI M の値がより大きいアミノ酸残基は変異対象部 位として好適であり、このI M 値を算出することにより、より簡便かつ効率 的に変異対象部位を選定することができる。

 式6中、I M i  はi番目のアミノ酸残基の変異適性指数を示 す。本発明においてはI M 値が、0.1以上、好ましくは0.5以上のアミノ酸 残基を変異対象部位として選定することが好 ましい。
 以上のプロセスCは、プログラムされたコン ピュータの利用によって遂行することができ る。
 なお、プロセスAおよび/またはプロセスBの 果を用いて、アミノ酸配列の中から変異対 部位とするアミノ酸残基を選定する方法は の手法のみに限らないので、本発明のI M 値と定性的に同様の傾向を示すパラメータを 用いる限りにおいて、上述と異なる方法で選 定しても良い。

 2.置換後アミノ酸残基の選定
 一方、本発明は、変異対象部位として選定 れたアミノ酸残基を置換する他のアミノ酸 基(以下、置換後アミノ酸残基という。)を 定し、変異型タンパク質のアミノ酸配列を 定するプロセスを含む。このアミノ酸残基 選定は、以下のプロセスD、E、およびF、あ いはプロセスGを含み、さらにプロセスHを含 む。図2にその好ましいフローを示す。

 〔プロセスD〕
 変異対象のタンパク質の立体構造座標デー を用いて、変異対象部位を含む部分セグメ トの主鎖のコンフォメーションを特定する ロセス
 このプロセスで使用するタンパク質の立体 造座標データは、プロセスAと同様に取得で きる。次に、取得した立体構造座標データを 用いて、変異対象部位を含む部分セグメント の主鎖のコンフォメーションを特定する。好 ましくは、以下に示す方法で特定すると良い 。即ち、対象とするタンパク質の主鎖の二面 角(φ、ψ、ω)を算出し、さらにその結果から 異部位を含む前後数残基分の部分セグメン の主鎖二面角を抜き出すことにより、変異 象部位を含む部分セグメントの主鎖のコン ォメーションを特定する。ここで変異対象 位とは、例えば、上記プロセスA、あるいは プロセスB、あるいはプロセスA及びBあるいは さらにプロセスCを付加して選定されたアミ 酸残基、あるいは類縁体の配列解析や公知 献などの情報にもとづき特定したアミノ酸 基であり、あるいは任意のアミノ酸残基で ってもよい。
 以上のプロセスDの計算は、プログラムされ たコンピュータの利用によって遂行すること ができる。
 なお、部分セグメントの主鎖のコンフォメ ションをタンパク質の立体構造座標データ もとに特定する方法は上記手法のみ限らず たとえば、変異部位を含む前後数残基分の 分セグメントのカルテシアン座標などの、 鎖二面角と同等の情報を用いる限りにおい 、上述と異なる方法で変異部位を含む部分 グメントの主鎖のコンフォメーションを特 しても良い。

 〔プロセスE〕
 プロセスDで特定した部分セグメントの主鎖 のコンフォメーションを安定に形成するアミ ノ酸配列を決定するプロセス。
 このプロセスは、種々のタンパク質が有す 主鎖のコンフォメーションの中から、プロ スDで特定した部分セグメントの主鎖のコン フォメーションと同様あるいは類似のものを 抽出し、抽出されたコンフォメーションを形 成するアミノ酸配列中の各アミノ酸残基にお いて、出現頻度の高いアミノ酸残基の種類を 特定することにより実現できる。あるいは、 プロセスDで特定した部分セグメントの主鎖 コンフォメーションを安定に形成するアミ 酸配列は、理論科学的知見に基づく予測あ いは実験科学的試験に基づく結果から決定 ることもできる。ここで理論科学的知見と 、たとえば非特許文献「T. E. Creighton, Protei ns: Structures and Molecular Properties (1933) W H F reeman & Co.」、「G. A. Petsko, Protein Structu re and Function (2003) Sinauer Associates Inc.」、 I. Eidhammer, Protein Bioinformatics: An Algorithmic  Approach to Sequence and Structure Analysis (2004) Jo hn Wiley & Sons Inc.」に記載の、当該事業 においては周知であるタンパク質分子に関 る物理学的知見あるいは統計学的知見を指 。また、実験科学的試験とは、たとえば非 許文献「Methods in Enzymology, Vol.1~30, Elsevier  Inc.」に記載の、当該事業者においては周知 あるタンパク質に関わる各種の理化学試験 法を指す。

 上記出現頻度の高いアミノ酸残基の種類の 定は、例えば、以下に示すプロセスを挙げ ことができる。
 すなわち、(独)産業技術総合研究所で開発 れ、公開されているタンパク質局所構造デ タベースProSegの検索ウィンドウにプロセスD 計算した部分セグメントの主鎖二面角の値 入力することで、プロセスDで特定した部分 セグメントの主鎖のコンフォメーションと同 様あるいは類似した主鎖のコンフォメーショ ンを有するタンパク質の局所構造クラスタを 検索する。ついで、同様のあるいは類似した 局所構造クラスタの統計値を表示させ、表示 された位置特異的スコア行列(PSSM)のスコアを 参照することにより、プロセスDで特定した 分セグメントの主鎖のコンフォメーション 同様あるいは類似のコンフォメーションを 成する場合のアミノ酸配列において、出現 度が高いアミノ酸残基を特定する。

 すなわち、上記構造データベースProSegにお ては、局所構造クラスタごとに、そのアミ 酸配列位置に対応した各アミノ酸残基の出 可能性の度合いを示す統計値(PSSM)が格納さ ており、プロセスDで計算した部分セグメン トの主鎖二面角の値を入力することにより、 格納された種々のタンパク質の局所構造クラ スタの中から、プロセスDで特定した部分セ メントの主鎖のコンフォメーションと同様 るいは類似のコンフォメーションを抽出し 該コンフォメーション形成するアミノ酸配 の位置毎の各アミノ酸残基の出現頻度の度 いを知ることができる。
 この出現頻度の度合いの高いアミノ酸残基 、プロセスDで特定したコンフォメーション と同様あるいは類似するコンフォメーション を形成するために重要なアミノ酸残基と解釈 することができ、上記プロセスDで特定した 分セグメントを含むこのようなコンフォメ ションを有するタンパク質に対し、その構 安定化に対する寄与度が大きいアミノ酸残 である可能性が高い。
 以上のプロセスEは、プログラムされたコン ピュータの利用によって遂行することができ る。
 上記出現可能性が高いアミノ酸残基を特定 る方法は、上記手法のみに限らないので、P roSegにて表示されるPSSMのスコアと定性的に同 様の傾向を示すパラメータを用いる限りにお いて、上述と異なる方法で推定しても良い。
 なお、ProSegにおけるPSSMの定義は、非特許文 献(Sawada Y. and Honda S. 2006 Biophysical J., 91(4 ), 1213-1223.)に明記されている。

 〔プロセスF〕
 変異対象部位のアミノ酸残基に代える置換 アミノ酸残基の種類を選別するプロセス。
 このプロセスFは、プロセスEの結果を用い 、変異対象部位のアミノ酸残基に代える置 後アミノ酸残基の種類を選別するプロセス あり、好ましくは、以下に示す手法で選別 ることができる。即ち、プロセスEで求めたP SSMのスコアを用いて、以下の式(7)で定義され る交換の好ましさpを算出する。
 式7中、p k は変異対象部位であるk番目のアミノ酸残基 交換の好ましさ、s PSSM k (original)は変異対象部位kの置換前のアミノ酸 基のスコア、s PSSM k (candidate)は変異対象部位kの置換するアミノ酸 残基のスコアである。算出したp k の値がより大きくなるアミノ酸残基の種類を 、変異対象部位のアミノ酸残基に代える置換 後アミノ酸残基の種類として選別する。
 本発明において置換後アミノ酸残基の選定 おいては、p値が1.0以上の、好ましくは2.0以 上のアミノ酸残基が好ましい。
 この選別手法について図6の結果を例として 以下具体的に説明する。
 図6はプロテインG・B1ドメインの部分セグメ ント(43-51)の主鎖2面角を入力して得られたPSSM 出力データである。変異前のプロテインG・B1 ドメインの部分セグメントの47番目はAspであ が、そのPSSMスコアは、1.3279である。これに 対してProは4.1811であり、AspをProに置換した場 合のp (k=47) は、3.1487となり、1.0より大きい。また、他の いかなるアミノ酸に置換した場合に比べても Pro への置換のp (k=47) は大きい。このような場合、本発明において 、置換後アミノ酸残基としてProを選別する。
 以上のプロセスFは、プログラムされたコン ピュータの利用によって遂行することができ る。
 なお、置換後アミノ酸残基の種類を選別す 方法上記手法のみにかぎらないので、本発 のp値と定性的に同様の傾向を示すパラメー タを用いる限りにおいて、上述と異なる方法 で選別しても良い。

 〔プロセスG〕
 タンパク質の立体構造座標データを用いて アミノ酸残基の埋もれ度を評価し、アミノ 残基の置換の許容度を判定するプロセス
 このプロセスは、上記プロセスDと同様にし て得た、変異導入対象のタンパク質の立体構 造座標データを用いて、アミノ酸残基の埋も れ度を評価し、アミノ酸残基の置換の許容度 を求めるプロセスである。
 好ましくは、以下の式(8)で定義される露出 面積比Rを算出し、アミノ酸残基の埋もれ度 を評価する。

 式8中、R i は変異対象部位であるi番目のアミノ酸残基 露出表面積比を表す。
 ASA FOLD,SIDE (i)はi番目のアミノ酸残基の側鎖の天然状態 おける露出表面積、ASA UNFOLD,SIDE (i)はi番目のアミノ酸残基の側鎖の変性状態 おける露出表面積を示す。
 ASA FOLD,SIDE (i)については、取得した立体構造座標データ を用いて算出する。露出表面積の定義および その理論的特性は、当事業者において周知で あり、たとえば「T. E.  Creighton (1993) Protein s: Structures and Molecular Properties 2 nd  ed., W. Freeman and Company, New York, pp.227-232 等の非特許文献にて詳説されている。また 露出表面積の算出は、たとえば、Surface Racer  3.0 for Linux(Dr. Oleg Tsodikov, The University of Michigan)などのインターネットで入手可能な リーのソフトウエアを用いて計算すること できる。

 R i の値が大きいということは天然状態の立体構 造において、i番目のアミノ酸残基の側鎖の もれ度が小さく、大部分が溶媒に露出して ることを意味する。したがって、置換後の ミノ酸残基の側鎖のサイズが置換前に比べ 大きくなる場合も、タンパク質分子全体に えるストレスが少ないことが予想される。
 一方、算出したR i の値が小さい部位はアミノ酸残基の埋もれ度 が大きいと評価し、このような部位で置換後 のアミノ酸残基の側鎖のサイズが置換前に比 べて大きくなる場合は、その置換は許容され ないと判定する。本発明においてはR i の値が0.3以上、好ましくは0.5以上のアミノ酸 残基を置換後アミノ酸残基として選別する。
 以上の算出法に関して、プロテインG・B1ド インを例として以下具体的に説明する。
 プロセスDと同様にして得たプロテインG・B1 ドメインの立体構造座標データ、炭素、窒素 、酸素、硫黄各原子のファンデルワールス半 径、溶媒である水分子の近似半径(1.4Å)をSurf ace Racer 3.0 for Linuxに入力すると、プロテイ ンG・B1ドメインを構成する各重原子の露出表 面積が出力される。これをもとに、たとえば 47番目のAspの側鎖は、ASA FOLD,SIDE (Asp47)=72.86Å 2 と算出される。一方、変性状態の構造モデル に対応するトリペプチドGlyAspGlyの立体構造座 標データを、Surface Racer 3.0 for Linuxに入力 ることにより、ASA UNFOLD,SIDE (Asp) =116.99 Å 2 が求められる。これを式8に代入して、R i =0.62を得る。この場合、R i が0.3以上であることから、47番目のAspでは、 換後のアミノ酸残基の側鎖のサイズが置換 に比べて大きくなる場合も、タンパク質分 全体に与えるストレスが少ないことが予想 れる。

 置換後アミノ酸残基を選別は、プロセスG単 独で行うことも可能ではあるが、上記プロセ スFにより選別された置換後アミノ酸残基に いて、プロセスGを付加することにより、埋 れ度を算出し、その許容度の判定を行えば より好適な置換後アミノ酸残基を選別する とが可能となる。
 以上のプロセスGは、プログラムされたコン ピュータの利用によって遂行することができ る。
 なお、アミノ酸残基の埋もれ度をタンパク の立体構造座標データをもとに評価する方 は上記手法のみに限らないので、本発明のR 値と定性的に同様の傾向を示すパラメータを 用いる限りにおいて、上述と異なる方法でア ミノ酸残基の置換の許容度を判定しても良い 。

 〔プロセスH〕
 プロセスFおよび/またはプロセスGの結果を いて、変異型タンパク質を構成するアミノ 配列を設計するプロセス。
 本プロセスは、選定された変異対象部位と プロセスFあるいはプロセスG、若しくはプ セスFとプロセスGを組み合わせた手法により 選別された該部位における好適な置換後アミ ノ酸残基の種類に基づき、変異型タンパク質 のアミノ酸配列を設計するプロセスである。 このプロセスで設計される変異型タンパク質 は、点置換であっても多重置換であってもよ い。
 また、本プロセスにおいて、対象とするタ パク質に関する公知の構造機能情報(たとえ ば活性部位を構成するアミノ酸残基など)を 用して、設計した変異型タンパク質を構成 るアミノ酸配列について、さらに適当か否 の検討を加えてもよい。

 3.変異型タンパク質の製造
 本発明においては、設計されたアミノ酸配 に基づき、変異型タンパク質を製造するが この製造プロセスにおいては、変異型タン ク質の合成・単離・精製・分析プロセスを む。
 タンパク質を合成する方法としては、遺伝 工学的手法と有機化学的手法があり、両手 とも広く知られており、本発明における変 型タンパク質の合成に用いることができる 歴史的な経緯から前者により合成されたタ パク質を組替えタンパク質と呼ぶが、十分 精製プロセスを経れば、遺伝子工学的手法 よる組替えタンパク質と有機化学的手法に るタンパク質の間に物質化学的な差が生じ ことはない。
 遺伝子組換え手法による変異型タンパク質 合成においては、まず、該タンパク質をコ ドする遺伝子を合成するが、設計されたア ノ酸配列をコードする遺伝子と相同性の高 塩基配列を有する核酸(たとえば、野生型の 遺伝子)が利用できる場合は、まずその核酸 取得し、ついで、カセット変異法や部位特 的変異導入法によって目的の設計されたア ノ酸配列をコードする遺伝子を合成するこ ができる(左右田健次、中村聡、高木博史、 秀行(1999)「タンパク質 科学と工学」、講 社サイエンティフィク)。

 相同性の高い塩基配列を有する核酸が利用 きない場合は、100塩基程度までのオリゴヌ レオチドを複数化学合成し、これらを組み わせ、オーバーラップ伸張法などを用いて 的の遺伝子を全合成することができる(左右 田健次、中村聡、高木博史、林秀行(1999)「タ ンパク質 科学と工学」、講談社サイエンテ フィク、 Horton R. M., Hunt H. D., Ho S. N., Pullen J. M. and Pease L. R. (1989). Engineering h ybrid genes without the use of restriction enzymes:  gene splicing by overlap extension. Gene 77, 61-68.)
 ついで、目的の遺伝子をベクターに組み込 。ベクターとしては、プラスミド、ファー 、コスミドなどを利用することができる(左 右田健次、中村聡、高木博史、林秀行(1999)「 タンパク質 科学と工学」、講談社サイエン ィフィク)。その後、ベクターを用いて宿主 の細胞を形質転換する。宿主の細胞としては 、大腸菌、枯草菌、放線菌、酵母、昆虫細胞 、動物細胞などを利用することができる(大 茂男、西村善文監修(1997)タンパク質実験プ トコール1-機能解析編、秀潤社)。
 薬剤耐性などの選択マーカーを利用して選 後、これらの形質転換体を培養する。一定 間培養した後、大量発現した細胞を破砕し 変異型タンパク質を含む菌体破砕液を抽出 る。なお、タンパク質の生合成に関わる因 のみを混合させた、いわゆる無細胞合成系 利用すると、生細胞を用いることなく、ベ ターから変異型タンパク質を含む粗精製液 得ることができる(岡田雅人、宮崎香(2004)タ ンパク質実験ノート(上)、羊土社)。

 これらの菌体破砕液や粗精製液から目的の 異型タンパク質を精製する。精製法として 、遠心分離、硫安分画、イオン交換クロマ グラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー アフィニティクロマトグラフィーなどを利 することができる(大野茂男、西村善文監修 (1997)タンパク質実験プロトコール2-構造解析 、秀潤社)。
 有機化学的手法によるタンパク質の合成は 固相ペプチド合成法などにより行うことが きる。好ましくは自動合成機を利用して、 性化されたアミノ酸誘導体の重縮合反応を り返すことにより、設計されたアミノ酸配 を有する保護ポリペプチドを樹脂上で合成 る。ついで、この保護ポリペプチドを樹脂 から切断すると共に側鎖の保護基も同時に 断する。この切断反応には、樹脂や保護基 種類、アミノ酸の組成に応じて適切なカク ルがあることが知られている(大野茂男、西 村善文監修(1997)タンパク質実験プロトコール 2-構造解析編、秀潤社)。この後、有機溶媒層 から粗精製タンパク質を水層に移し、目的の 変異型タンパク質を精製する。精製法として は、逆相クロマトグラフィーなどを利用する ことができる(大野茂男、西村善文監修(1997) ンパク質実験プロトコール2-構造解析編、秀 潤社)。
 精製したタンパク質が目的通りのアミノ酸 列からなる変異型タンパク質であるか否か 分析する。分析方法としては、SDS-PAGE、ウ スタンブロッティング、質量分析、アミノ 分析、アミノ酸シーケンサーなどを利用す ことができる(大野茂男、西村善文監修(1997) ンパク質実験プロトコール2-構造解析編、 潤社)。
 本発明においては、設計される変異型タン ク質のアミノ酸配列は1つのみに限らないの で、得られた変異型タンパク質本来の機能、 性質を有しているか否かあるいは耐熱性等の 安定性を指標にしてスクリーニングすること により、目的にかなう変異型タンパク質を取 得することができる。

 以下、実施例を用いて本発明を具体的に 明する。ただし、本発明の技術的範囲はこ らの実施例に限定されるものではない。

 実施例1
 本実施例においては、任意のタンパク質の 体構造座標データを用いて、配列上近傍の ミノ酸残基間の相互作用によって立体構造 安定化されている部分セグメントを推定す プロセスAを例示する。
 まず、以下に示す表1に示すタンパク質の立 体構造座標データを、国際的なタンパク質立 体構造データベースであるProtein Data Bank(PDB;  http://www.rcsb.org/pdb/home/home.do)よりダウンロー ドした。
 ついで、以下で定義されるコンタクト原子 (contact atom number)を各タンパク質分子(また サブユニット)の立体構造座標データを用い て算出した。

 ここでn i,j は残基iと残基jの間のコンタクト原子数 (i≠ j)、Nはタンパク質分子(またはサブユニット) 鎖長を表す。C p,q はタンパク質分子内の水素原子を除く重原子 pと重原子qの間のコンタクト数で、C p,q は2つの重原子の中心間の距離が閾値d以内な 1、そうでなければ0となる二値変数である 本実施例ではd=0.5nmと固定して計算した。算 した結果の例として、表1に示すタンパク質 のn i,j を図3に示す。
 図中、横軸、縦軸は各タンパク質のアミノ 番号を示し、右上のバーの濃淡はコンタク 原子数nの大きさの指標を表す。横軸のアミ ノ酸番号iと縦軸のアミノ酸番号jの交点にあ 小四角は、タンパク質中の2つのアミノ酸番 号で特定されるアミノ酸残基間のn i,j の値をその濃淡で示したものであり、上記指 標により、タンパク質分子内のすべてのアミ ノ酸残基間のコンタクト原子数を把握できる 。

 この図3によれば、各タンパク質において、 アミノ酸番号の近いアミノ酸残基間と大きい コンタクト原子数を示すアミノ酸残基や、遠 方に位置するアミノ酸残基と大きいコンタク ト原子数を示すアミノ酸残基が存在すること が明らかである。
 次に、以下で定義される局所コンタクト数 度(local contact number density)を算出した。

 ここでD loc k はk番目のアミノ酸残基の局所コンタクト数 度を表す。w、w L 、w R はそれぞれウィンドウ幅、左側ウィンドウ幅 、右側ウィンドウ幅を表す。図3において、 方形で表される一辺wの正方形の内部のn i,j  を足し合わせた値の1/2がD loc k に相当することになる。なお、wは、“配列 近傍のアミノ酸残基”を表現するパラメー である。即ち、k-w L 番目からk+w R 番目のアミノ酸残基をk番目のアミノ酸残基 配列上近傍に位置するアミノ酸残基と見な 。本実施例ではw L =w R =4、すなわちw=9と固定して計算した。
 次に、以下で定義される局所コンタクト指 (local contact index)を算出した。

 ここでI loc k はk番目のアミノ酸残基の局所コンタクト指 、μ D loc はD loc の平均値、σ D loc はD loc の標準偏差を表す。タンパク質が、wを単位 する部分セグメントにより構成されると考 ると、アミノ酸残基が局所的に密に接触し いる部分セグメントのI loc は正の値として、局所的に疎に接触している 部分セグメントのI loc は負の値として表される。算出した結果の例 として、Protein G(1PGA)の場合のI loc 算出結果を図4に示す。これによれば、局所 ンタクト指数I loc が正で大きい値を示す領域と負の領域がある ことが明確に分かる。
 本実施例では、I loc の値がより大きい領域を、配列上近傍のアミ ノ酸残基間の相互作用によって立体構造が安 定化されている部分セグメントとした。

 なお、本実施例の計算は、intel fortran com plier for linux ver9.0 (インテル)を用いて新た 開発したプログラム、Red Hat Enterprise Linux WS release 3 (Taroon Update 8)(レッドハット)(以 上ソフトウエア)、Dell Precision Workstation370(デ ル)(以上ハードウエア)を用いて行った。

 実施例2
 本実施例においては、任意のタンパク質の 体構造座標データを用いて、配列上遠方の ミノ酸残基との相互作用が弱いアミノ酸残 を推定するプロセスBを例示する。
 実施例1と同様に立体構造座標データをダウ ンロードし、各タンパク質分子(またはサブ ニット)について、以下で定義される非局所 ンタクト原子数(non-local contact atom number)を 計算した。

 ここでN nl i  はi番目のアミノ酸残基の非局所コンタクト 原子数である。Nはタンパク質分子(またはサ ユニット)の鎖長を表す。C’ p’,q はアミノ酸残基iの側鎖の重原子p’とアミノ 残基jの重原子qとの間のコンタクト数で、2 の重原子の中心間の距離が閾値d以内なら1 そうでなければ0となる二値変数である。本 施例ではd=0.5nmと固定して計算した。なお、 アミノ酸残基iがGlyの場合はC’ p’,q は0とした。w L とw R はそれぞれ左側ウィンドウ幅、右側ウィンド ウ幅で、本実施例では上記実施例1と同様にw L =w R =4と固定して計算した。上式は、すべてのア ノ酸残基に対するコンタクト数の和から配 上近傍のアミノ酸残基に対するコンタクト の和を除いたものなので、配列上遠方のア ノ酸残基と多数接触している側鎖をもつア ノ酸残基は大きなN nl 値を示すことになる。
 次に、以下で定義される非局所コンタクト 数(non-local contact index)を算出した。

 ここでI nl i  はi番目のアミノ酸残基の非局所コンタクト 指数である。αは非局所コンタクト数の縮減 意図する任意の定数で、本実施例ではα =3 固定して計算した。上式より、配列上遠方 アミノ酸残基との接触が無いアミノ酸残基 I nl は1であり、接触が多いアミノ酸残基のI nl は0に近づく。算出した結果の例として、Prote in G(1PGA)の場合のI nl を図5に示す。図4と対比すれば明らかように I loc の値がより大きい領域、すなわち、配列上近 傍のアミノ酸残基間の相互作用によって立体 構造が安定化されている領域においても配列 上遠方のアミノ酸残基と強く相互作用してい るアミノ酸残基(I nl の値がより小さいアミノ酸残基)があること 分かる。
 本実施例では、I nl の値がより大きいアミノ酸残基を、配列上遠 方のアミノ酸残基との相互作用が弱いアミノ 酸残基とした。

 なお、本実施例の計算は、intel fortran com plier for linux ver9.0 (インテル)を用いて新た 開発したプログラム、Red Hat Enterprise Linux WS release 3 (Taroon Update 8)(レッドハット)(以 上ソフトウエア)、Dell Precision Workstation370(デ ル)(以上ハードウエア)を用いて行った。

 実施例3
 本実施例においては、タンパク質を構成す アミノ酸配列の中から変異部位とするアミ 酸残基を選定するプロセスCを例示する。
 実施例1により得られたI loc の算出値と実施例2により得られたI nl の算出値を用いて以下で定義される変異適性 指数(good mutation index)を算出した。

 ここでI M i  はi番目のアミノ酸残基の変異適性指数を示 す。
 算出した結果の例として、Protein G(1PGA)の場 合のI M を図6に示す。その値が大きいほど、配列上 傍のアミノ酸残基間の相互作用によって立 構造が安定化されている部分セグメントで って、かつ配列上遠方のアミノ酸残基との 互作用が弱いアミノ酸残基である。すなわ 、変異適正指数が高いアミノ酸番号のアミ 酸残基は、変異対象部位として好適である とを示す。
 この結果に基づき、Protein G(1PGA)について、 本実施例ではI M i >0.5のアミノ酸残基、即ち、Ala24、Thr25、Lys2 8、Gln32、Asn35、Asp36、Asn37、Asp47、Ala48、Thr49を 変異部位の候補とした。
 なお、本実施例の計算は、intel fortran compli er for linux ver9.0 (インテル)を用いて新たに 発したプログラム、Red Hat Enterprise Linux WS  release 3 (Taroon Update 8)(レッドハット)(以上 ソフトウエア)、Dell Precision Workstation370(デル )(以上ハードウエア)を用いて行った。

 実施例4
 本実施例においては、任意のタンパク質の 体構造座標データを用いて、変異部位を含 部分セグメントの主鎖のコンフォメーショ を特定するプロセスDを例示する。
 実施例1と同様に立体構造座標データをダウ ンロードし、これを用いてタンパク質分子( たはサブユニット)の主鎖二面角(φ,ψ,ω)を計 算した。主鎖二面角の定義は、「有坂、バイ オサイエンスのための蛋白質科学入門」を参 照した。ついで、変異部位を含む前後(w-1)/2 基分の部分セグメントの主鎖二面角を抜き すことにより、変異部位を含む部分セグメ トの主鎖のコンフォメーションを特定した wはウィンドウ幅で、本実施例では実施例1と 同様にw=9と固定して計算した。算出した結果 の例として、Protein G(1PGA)の部分セグメント(4 3-51)の場合を図7に示す。
 なお、本実施例の計算は、intel fortran compli er for linux ver9.0 (インテル)を用いて新たに 発したプログラム、Red Hat Enterprise Linux WS  release 3 (Taroon Update 8)(レッドハット)(以上 ソフトウエア)、Dell Precision Workstation370(デル )(以上ハードウエア)を用いて遂行した。

 実施例5
 本実施例においては、プロセスDで特定した 部分セグメントの主鎖のコンフォメーション と同様あるいは類似のコンフォメ―ションに おいて、出現可能性の高いアミノ酸残基の種 類を特定するプロセスEを例示する。
 まず、(独)産業技術総合研究所で開発され 公開されているタンパク質局所構造データ ースProSeg (http://riodb.ibase.aist.go.jp/proseg/index.h tml)の検索ウィンドウに実施例4で計算した部 セグメントの主鎖二面角の値を入力するこ で、実施例4で選定した部分セグメントの主 鎖のコンフォメーションと類似した主鎖のコ ンフォメーションを有するタンパク質の局所 構造クラスタを検索した。ついで、最も類似 した局所構造クラスタの統計値の詳細を表示 させた。検索した結果の例として、Protein G(1 PGA)の部分セグメント(43-51)の結果を図8に示す 。
 PSSMの各位置でスコアが高いアミノ酸の組み 合わせからなる配列は、その主鎖のコンフォ メーションを安定に形成する可能性が高い。
 なお、本実施例の計算は、firefox ver 2.0.0.4 for linux(mozilla.org)、Red Hat Enterprise Linux WS  release 3 (Taroon Update 8)(レッドハット)(以上 フトウエア)、Dell Precision Workstation370(デル)( 以上ハードウエア)を用いて行った。

 実施例6
 本実施例においては、プロセスEの結果を用 いて、変異部位のアミノ酸残基に代わって置 き換えるアミノ酸残基の種類を選別するプロ セスFを例示する。
 まず、実施例5で求めたPSSMのスコアを用い 、以下で定義される交換の好ましさ(preference  of permutation)を算出した。

 ここで、p k はk番目のアミノ酸残基の交換の好ましさ、s PSSM k (original)は変異部位kの置換前のアミノ酸残基 スコア、s PSSM k (candidate)は変異部位kの置換後のアミノ酸残基 のスコアである。PSSMのスコアは、各部分セ メントの中心に位置するアミノ酸残基(図8に おける0番列)の数値を用いた。置換後のアミ 酸残基としては、原則、PSSMのスコアが最も 大きいアミノ酸残基を候補とした。ただし、 Cysは除外した。また、PSSMのスコアが大きい ミノ酸残基が複数存在した場合は、最大の のに加えてそれらについても候補とした。p k は変異部位kにおける置換後の効果の目安で り、p k が大きいほど大きな効果が期待できる。本実 施例では、p k ≧2.0となる交換についてのみ検討対象として 残すこととした。
 実施例3で特定したProtein G(1PGA)における、10 箇所の変異部位候補Ala24、The25、Lys28、Gln32、A sn35、Asp36、Asn37、Asp47、Ala48、Thr49を他のアミ 酸で置換する場合に算出されるp k 値を図9に示す。図中に示した各アミノ酸置 のうち、Ala24Glu、The25Trp、Lys28Ala、Gln32Ala、Thr 49Thrはp k <2.0のため除外し、Asn35Lys、Asp36Glu、Asn37Leu Asp47Pro、Ala48Lys、Ala48Gluを置き換えるアミノ 残基の候補と選別した。
 ちなみに上記Thr49Thr が意味することは、Pro tein G(1PGA)の49番目のスレオニン残基において は、同様あるいは類似のコンフォメ―ション の対応位置においてもスレオニン残基がもっ とも高い頻度で位置しており、すなわち、天 然のアミノ酸残基が最適のアミノ酸残基であ ったことを示している。

 なお、本実施例の計算は、intel fortran com plier for linux ver9.0 (インテル)を用いて新た 開発したプログラム、Red Hat Enterprise Linux WS release 3 (Taroon Update 8)(レッドハット)(以 上ソフトウエア)、Dell Precision Workstation370(デ ル)(以上ハードウエア)を用いて行った。

 実施例7
 本実施例においては、任意のタンパク質の 体構造座標データを用いて、アミノ酸残基 埋もれ度を評価し、アミノ酸残基の置換の 容度を判定するプロセスGを例示する。
 アミノ酸残基の置換を行う計画において、 換後のアミノ酸残基の側鎖のサイズが置換 に比べて大きくなる場合については、置換 のアミノ酸残基の、以下で定義される露出 面積比(ratio of accessible surface area)を算出 て検討した。

 ここでR i はi番目のアミノ酸残基の露出表面積比、ASA FOLD,SIDE (i)はi番目のアミノ酸残基の側鎖の天然状態 おける露出表面積、ASA UNFOLD,SIDE (i)はi番目のアミノ酸残基の側鎖の変性状態 おける露出表面積を示す。
 本実施例において、露出表面積(Accessible Sur face Area)の定義は、「Ooi, et al., 1987, Proc. N atl. Acad. Sci. USA 84, 3086-3090.」を参照した。 また、変性状態の構造モデルとしては、トリ ペプチドGly-Xaa-Glyを採用した。すなわち、ASA UNFOLD,SIDE (i)はASA GXG,SIDE (X i )と等しいとみなした。また、i番目のアミノ 残基が、側鎖が存在しないアミノ酸残基(つ まりGly)であった場合は、Glyの主鎖部分の露 表面積の比をR i とみなした。以上をまとめると式8は以下の とく書き換えられる。

 ここでASA FOLD,SIDE (i)はi番目のアミノ酸残基(Gly以外)の側鎖の天 然状態における露出表面積、ASA GXG,SIDE (X i )はi番目のアミノ酸残基(Gly以外)と同じ種類 アミノ酸残基Xaaが中心に配置されたトリペ チドGly-Xaa-GlyにおけるXaaの側鎖の露出表面積 、ASA FOLD,MAIN (i)はi番目のGlyの主鎖の天然状態における露 表面積、ASA GXG,MAIN (X i )はトリペプチドGly-Gly-Glyにおける中心のGlyの 主鎖の露出表面積を示す。
 ASA FOLD,SIDE (i)とASA FOLD,MAIN (i)については、実施例1と同様にしてダウン ードしたタンパク質分子(またはサブユニッ )の立体構造座標データを用い、ASA GXG,SIDE (X i )とASA GXG,MAIN (X i )については、統合計算化学システムMOEを利 して作成したトリペプチドGly-Xaa-Glyの立体構 造座標データを用いた。また、露出表面積の 計算は米国ミシガン大学で開発されたSurface  Racer 3.0 for Linuxを利用した。
 Protein G(1PGA)の場合の結果を図10に示す。実 例6で選別したもののうち、置換後のアミノ 酸残基の側鎖のサイズが置換前に比べて大き くなるものはAsn35Lys、Asp36Glu、Asp47Pro、Ala48Lys Ala48Gluであるが、これらは、何れもR i  >0.5であり、置換後のアミノ酸残基の側鎖 のサイズが置換前に比べて大きくなっている ものの、許容できると判定した。

 なお、本実施例の計算は、intel fortran com plier for linux ver9.0 (インテル)を用いて新た 開発したプログラム、Surface Racer 3.0 for Li nux(Dr. Oleg Tsodikov, The University of Michigan)、M OE v2006.08(Chemical Computing Group Inc.)、Red Hat E nterprise Linux WS release 3 (Taroon Update 8)(レッ ドハット)(以上ソフトウエア)、Dell Precision W orkstation370(デル)、Dell DimensionXPS/Gen3 (windows X P SP2) (デル)(以上ハードウエア)を用いて行 た。

 実施例8
 本実施例においては、プロセスFおよび/ま はプロセスGの結果を用いて、変異型タンパ 質を構成するアミノ酸配列を設計するプロ スHを例示する。
 実施例7で判定したアミノ酸残基置換の許容 度を勘案し、変異型タンパク質のアミノ酸配 列を設計した。上記したように、Protein G(1PGA )の場合、実施例6において、Asn35Lys、Asp36Glu、 Asn37Leu、Asp47Pro、Ala48Lys、Ala48Gluの6つの置換候 補を選別したが、このうち、置換後のアミノ 酸残基の側鎖のサイズが置換前に比べて大き くなるものはAsn35Lys、Asp36Glu、Asp47Pro、Ala48Lys Ala48Gluの5つであリ、実施例7で述べたように 、これら置換は何れも許容されると判定でき るので、実施例6で選別したすべての候補を した。

 実施例9
 本実施例においては、プロテインG変異型タ ンパク質をコードする遺伝子を合成し、次い で大腸菌を用いて表2に示す組換えタンパク (M-PG01、M-PG09、M-PG10、M-PG11)を合成した。

(1)M-PG遺伝子の合成
 表3に示される5’-、3’-末端に相補領域を する56~59merのオリゴDNA断片を表4の組み合わ で用い、アニールおよびポリメラーゼ伸長 応(55℃,1分,72℃,1分→50℃,1分,72℃,1分→44℃,1 5秒,72℃,1分)により、Protein G(1PGA)の1~56番目の アミノ酸配列からなる野生型タンパク質をコ ードする遺伝子(配列番号5)、Protein G(1PGA)の1~ 56番目のアミノ酸配列中、Asp36Glu/Asn37Leuなる 異を有するタンパク質をコードする遺伝子( 列番号6)、Protein G(1PGA)の1~56番目のアミノ酸 配列中、Asp36Glu/Asn37Leu/Asp47Pro/Ala48Glu なる変 を有するタンパク質をコードする遺伝子(配 番号7)、およびProtein G(1PGA)の1~56番目のアミ ノ酸配列中、Asp36Glu/Asn37Leu/Asp47Pro/Ala48Lysなる 異を有するタンパク質をコードする遺伝子( 配列番号8)からなる各PG遺伝子を合成した。 記遺伝子をそれぞれ順にM-PG01遺伝子、M-PG09 伝子、M-PG10遺伝子、M-PG11遺伝子という。

 これらを各遺伝子それぞれ鋳型にし、制限 素認識配列を含むプライマーを加えPCR法(ア ニール45℃, 15秒 → 55℃, 5秒)にて増幅を行 い、M-PG01遺伝子、M-PG09遺伝子、M-PG10遺伝子、 M-PG11遺伝子を合成した。使用したプライマー は、センスプライマー (ATAGCTCCATG GACACTTACAAATT AATCC(配列番号16))とアンチセンスプライマー(a ttggatcc ttattcagtaactgtaaaggt(配列番号17))である。 得られた増幅物をアガロース電気泳動法(3%,  100V)で確認後、QIAquick PCR Purification kit (Qiage n) を用いて精製した。

(2)クローニング
 制限酵素Nco IとBamH I (日本ジーン,37℃,一 夜)で消化し脱リン酸化(宝酒造,CIAP,50℃,30分) させたプラスミドpET16b(Novagen)と、同じ制限酵 素で消化したM-PG遺伝子をライゲーション(東 紡, Ligation High,16℃,1時間)し、得られたプ スミドベクターを用いて保存用大腸菌DH5α株 (東洋紡,Competent high)を形質転換し、100μg/mLア ンピシリンを含むLBプレート培地で選択した 正しい挿入配列をもつ形質転換体をcolony PC R、DNA sequencing (AB, BigDye Terminator v1.1)によ 選別し、Qiaprep Spin Miniprep kit (Qiagen) を用 てプラスミドを抽出した。これを用い、さ に発現用大腸菌BL21(DE3)株(Novagen)を形質転換 た。

(3)組換えタンパク質の発現と精製
 LB培地で前培養した大腸菌BL21(DE3) 形質転換 体を、2.5ml / 500mlでLB培地に継代し、O.D. 600  = 0.8~1.0になるまで振とう培養した。最終濃 度0.5mM でIPTGを加え、さらに37℃で2時間振と 培養した。回収した菌体を10mlのPBSに懸濁し 、超音波破砕を行った。破砕液は濾過滅菌後 、IgG Sepharose 6 Fast Flowカラム (GEヘルスケ バイオサイエンス)をセットした液体クロマ グラフィー装置AKTApurifier (GEヘルスケアバ オサイエンス)に注入し、アフィニティクロ トグラフィー法(running buffer: 50mM Tris-HCl(pH7 .6), 150mM NaCl, 0.05% Tween20, elution buffer: 0.5M 酢酸)および/またはRESOURCE Sカラム (GEヘル ケアバイオサイエンス)をセットした液体ク マトグラフィー装置AKTApurifier (GEヘルスケ バイオサイエンス)に注入し、イオン交換ク マトグラフィー法(running buffer: 20mM クエン 酸(pH3.5), elution buffer: 20mM クエン酸(pH3.5), 1 M NaCl)によりM-PG組換えタンパク質を精製した 。分画したフラクションはNaOHで中和後、遠 濃縮機(RABCONCO, CentriVap concentrator)で濃縮し 50mM リン酸緩衝液(pH6.8)で透析した。各溶液 凍結乾燥し、粉末状の組換えタンパク質(M-P G01、M-PG09、M-PG10、M-PG11)を-20℃で保存した。

 実施例10
 本実施例においては、プロテインG変異型タ ンパク質の分子量をMALDI-TOF型質量分析計で計 測することで、合成したタンパク質を同定し た。
 まず、単離精製した変異型タンパク質をそ ぞれ15~25μMの濃度の水溶液に調製した。変 型タンパク質の濃度は表5のモル吸光係数を いて決定した。次いで、質量分析用サンプ プレートにマトリックス溶液(50%(v/v)アセト トリル‐0.1%TFA水溶液にα-シアノ-4-ヒドロキ シ桂皮酸を飽和させた溶液)1μlを滴下し、こ に各試料溶液を1μl滴下してサンプルプレー ト上で混合、乾燥させた。その後、質量分析 装置Voyager(Applied Biosystems)にて、強度2500-3000 Laserを照射し質量スペクトルを得た。質量ス ペクトルにより検出されたピークの分子量と 合成した変異型タンパク質のアミノ酸配列よ り算出された理論分子量を比較した結果、い ずれの試料も両者は測定誤差内で一致し、目 的のタンパク質(M-PG01、M-PG09、M-PG10、M-PG11)が 成されていることが確認された。また、質 スペクトルに目的のタンパク質以外の有意 ピークは見出されなかった。

 実施例11
 本実施例においては、プロテインG変異型タ ンパク質の純度をポリアクリルアミドゲル電 気泳動法(PAGE)で確認した。
 単離精製した変異型タンパク質をそれぞれ7 5μMの濃度の水溶液に調製したのち、Tricine-SDS -PAGEもしくはTricine-native-PAGE(16%T,2.6%C,100V,100min) を行いCBB(G-250)染色によりバンドを検出し純 を確認した。変異型タンパク質の濃度は表5 モル吸光係数を用いて決定した。その結果 測定したすべての試料は単一のバンドとし 検出され、各タンパク質(M-PG01、M-PG09、M-PG10 、M-PG11)が、単一成分として精製されたこと 確認された。

 実施例12
 本実施例においては、プロテインG変異型タ ンパク質の抗体に対する結合性を表面プラズ モン共鳴(SPR)法により評価した。SPR法は、生 高分子間の特異的相互作用を経時的に測定 、反応を速度論的観点から定量的に解釈で る優れた方法であることが認識されている
 まず、センサーチップCM5 (Biacore) の測定セ ルにヒト免疫グロブリンのFc領域 (Jackson Immu noResearch)をアミンカップリング法により固定 した。測定のコントロールとして、カルボ シメチル基をエタノールアミンでブロッキ グした対照セルを用いた。次いで、単離精 した変異型タンパク質を、ランニング緩衝 であるHBS-P (10mM HEPES pH7.4, 150mM NaCl, 0.05% v/v Surfactant P20)に溶解し、600, 500, 400, 300, 200, 100nMの6種の濃度の試料溶液を調製した 変異型タンパク質の濃度は表5のモル吸光係 を用いて決定した。SPRの測定は、Biacore T100  (Biacore)を用い、反応温度25℃で行った。収 したデータは、Biacore T100 Evaluation Software ( Biacore)を用いて解析し、1:1のラングミュアモ ルにフィッティングさせ、結合速度定数k on 、解離速度定数k off 、および解離平衡定数K D を算出した。
 その結果、測定したすべての変異型タンパ 質(M-PG09、M-PG10、M-PG11)において、ヒト免疫 ロブリンのFc領域に対する結合性は、野生型 のアミノ酸配列を有するコントロールタンパ ク質(M-PG01)に比べて同程度で、野生型と同等 速度論的特性を保持していることが明らか なった(図11、 表5)。

 実施例13
 本実施例においては、変異型タンパク質の 安定性を評価した。円偏光二色性(CD)スペク トルは、タンパク質の二次構造の変化を鋭敏 に反映する分光学的分析方法であることが知 られている。CDスペクトルの強度に相当する ル楕円率を試料の温度を変化させながら観 することで、どの程度の温度で各々のプロ インG変異型タンパク質が変性するのかを明 らかにすることができる。
 単離精製した変異型タンパク質をそれぞれ1 5~25μMの濃度で含む水溶液(50mMリン酸ナトリウ ム緩衝液、pH6.8)に調製した。変異型タンパク 質の濃度は表5のモル吸光係数を用いて決定 た。この試料溶液を円筒型セル(セル長0.1cm) 注入し、J805型円偏光二色性分光光度計(日 分光)を用いて、20℃の温度で測定波長を260nm から195nmに移動させCDスペクトルを得た。同 試料を98℃に加熱、さらに98℃から20℃に冷 し260nmから195nmの円二色性スペクトルを得た 加熱後再冷却したスペクトルのモル楕円率 80%以上回復し、変異型タンパク質の立体構 の可逆性が確認された。
 次いで、測定波長を222nmに固定し20℃から100 ℃に1℃/minの速度で昇温させてモル楕円率の 時変化を測定した。得られた熱融解曲線に いて二状態相転移モデルの理論式(有坂文雄  (2004) バイオサイエンスのための蛋白質科 入門、裳華房)を用いて解析し、変性温度T m 、およびT m における変性のエンタルピー変化δH m を決定した。その結果、測定したすべての変 異型タンパク質(M-PG09、M-PG10、M-PG11)の熱安定 が、野生型のアミノ酸配列を有するコント ールタンパク質(M-PG01)に比べて、向上して ることが明らかになった(図12、表5)。

 実施例14
 本実施例においては、プロテインG変異型タ ンパク質の変性剤に対する化学的安定性を評 価した。すべての変異型タンパク質はトリプ トファン残基を分子内にひとつ有し、トリプ トファンから発せられる蛍光は変異型タンパ ク質の変性により大きく強度が変化する。し たがって、変異型タンパク質の水溶液に変性 剤である塩酸グアニジンを少しずつ添加しな がらトリプトファンからの蛍光強度を観測す ることで、どの程度の濃度で各々の変異型タ ンパク質が変性するのかを明らかにすること ができる。実際の測定は、塩酸グアニジンを 含まないタンパク質溶液(A液)と高濃度の塩酸 グアニジンを含むタンパク質溶液(B液)の二液 を種々の割合で混合することで行われる。
 まず、単離精製した変異型タンパク質を50mM のリン酸緩衝液(pH6.86)に溶解し、それぞれの 終濃度0.30~0.33μMに調製し、A液を用意した。 変異型タンパク質の濃度は表5のモル吸光係 を用いて決定した。一方、B液は、8.15M 塩酸 グアニジン水溶液に500mMのリン酸緩衝液を9:1 比率で混ぜ、7.34 M 塩酸グアニジン/50mMリ 酸緩衝液とした後、微量の1.0M NaOHでpHを6.86 合わせ、さらに最終濃度0.30~0.33μMとなるよ に各変異型タンパク質を添加し、用意した 蛍光強度の測定は、自動滴定装置付FP-6500型 分光蛍光光度計(日本分光)を用いて、測定温 を20℃、励起波長を295nmに蛍光波長を350 nm 固定して行った。変性過程の観測では、A液2 .5mLを分光蛍光光度計の攪拌装置付恒温セル 入れたのち、120秒のインターバルで0.1mLのB の注入/排出を25回繰り返し、その際の蛍光 度を経過時的に観測した。また、再生過程 観測では、B液2.5mLを分光蛍光光度計の攪拌 置付恒温セルに入れたのち、120秒のインタ バルで0.1mLのA液の注入/排出を25回繰り返し その際の蛍光強度を経過時的に観測した。

 いずれの変異型タンパク質においても、変 過程と再生過程の蛍光強度データが一致し ことから、用いた測定条件で十分に平衡状 に達していることが確かめられた。測定し データは、二状態相転移モデルの理論式(有 坂文雄(2004)バイオサイエンスのための蛋白質 科学入門、裳華房)を用いて解析し、変性の 由エネルギー変化δG D H2O と変性中点の塩酸グアニジン濃度c 0.5 を決定した。その結果、変異型タンパク質(M- PG10、M-PG11)の変性剤に対する化学的安定性が 野生型のアミノ酸配列を有するコントロー タンパク質(M-PG01)に比べて向上しているこ が明らかになった(図13、表5)。

 実施例15
 本実施例においては、変異型タンパク質の 造安定性を調べるために、タンパク質分解 素キモトリプシンの消化に対する抵抗性を 価した。
 変異型タンパク質は消化反応緩衝液(40mM Tri s-HCl(pH8.0), 20mM CaCl 2 , 2mM NaOAc)に最終濃度75μMで調製し、次いで 終濃度7.5μMのキモトリプシンを添加した。25 ℃で0, 20, 40, 60, 120, 240分反応を行い、10μl ずつサンプリングを行った。100mM PMSFを1μl加 え反応を止め、Tricine-SDS-PAGEもしくはTricine-nat ive-PAGE(16%T, 2.6%C, 100V, 100min)を行いCBB (G-250) 染色によりバンドを検出した。ゲル撮影装 (アトー,Printgraph)にて泳動像を撮影し、画像 ータについてソフトウエアImage J1.4.3.67を用 いて解析を行った。まず画像のバックグラウ ンドを削除し(Rolling ball 50)、各レーンのバ ドを認識させ、画像密度をプロットした。0 の結果を100%とし、反応時間におけるバンド の残存度を消化作用に対する抵抗性として数 値化した。得られた残存度は時間に対して指 数関数的に減少し、残存度の対数と時間が直 線性を示すことから、キモトリプシンによる 消化反応を擬一次反応と仮定することが妥当 であることが示された。これより残存度の対 数と時間の回帰分析を行い、各変異型タンパ ク質の分解半減期t 0.5 を求めた。

 その結果、変異型タンパク質(M-PG10、M-PG11 )は、野生型のアミノ酸配列を有するコント ールタンパク質(M-PG01)に比べ、タンパク質分 解酵素に対する抵抗性が増加していることが 明らかになった(図14、表5)。