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Patent Searching and Data


Title:
NON-HUMAN ANIMAL FOR EYE DISEASE MODEL
Document Type and Number:
WIPO Patent Application WO/2008/090742
Kind Code:
A1
Abstract:
It is intended to provide an animal model which shows a naturally occurring eye disease symptom, particularly ocular hypertension and/or retinal degeneration. The invention relates to a non-human animal for eye disease model in which the function of Vav2 gene and/or Vav3 gene have/has been impaired. Because the animal shows a naturally occurring eye disease symptom, such as ocular hypertension and/or retinal degeneration without administering a drug or placing it in a special growth environment, it can be used as a model useful for elucidation of onset mechanism of eye disease or evaluation for therapeutic agent for eye disease. When it is applied for such a purpose, because it is not affected by an exogenous factor, which is conventionally administered for artificially inducing eye disease, it reflects a natural pathology, therefore, the clinical and industrial usefulness thereof is high.

Inventors:
FUJIKAWA KEIKO
INOUE KAORU
Application Number:
PCT/JP2008/000069
Publication Date:
July 31, 2008
Filing Date:
January 23, 2008
Export Citation:
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Assignee:
UNIV HOKKAIDO NAT UNIV CORP (JP)
FUJIKAWA KEIKO
INOUE KAORU
International Classes:
A01K67/027; C12N15/09; G01N33/15; G01N33/50
Other References:
FUJIKAWA K. ET AL.: "Vav Family Bunshi no NK Saibo deno Hataraki - NKG2D/DAP, DAP12 o Kaisuru Saibo Shogai Sayo Signaling Keiro eno Kotonatta Kan'yo", DAI 34 KAI THE JAPANESE SOCIETY FOR IMMUNOLOGY.GAKUJUTSU SHUKAI, 5 November 2004 (2004-11-05), pages 333
FUJIKAWA K. ET AL.: "Vav /2/3-null Mice Define an Essential Role for Vav Family Proteins in Lymphocyte Development and Activation but a Differential Requirement in MAPK Signaling in T and B Cells", THE JOURNAL OF EXPERIMENTAL MEDICINE, vol. 198, no. 10, 17 November 2003 (2003-11-17), pages 1595 - 1608
GINA M.D. ET AL.: "Signal transduction through Vav-2 participates in humoral immune responses and B cell maturation", NATURE IMMUNOLOGY, vol. 2, no. 6, 2001, pages 537 - 541
AIHARA H.: "Dobutsu Model o Tsukatta Jikken", PRACTICAL OPHTHALMOLOGY, 3 September 2006 (2006-09-03), pages 378 - 379
AIHARA H.: "Idenshi Kaihen Dobutsu o Mochiita Yakubutsu Kaihatsu -Ryokunaisho, Shinkei Shikkan Chiryo eno Oyo-", JAPANESE JOURNAL OF OCULAR PHARMACOLOGY, vol. 20, no. 1, 8 September 2006 (2006-09-08), pages 59 - 62
Attorney, Agent or Firm:
SAEKI, Norio et al. (Aminosan Kaikan Building 15-8, Nihonbashi 3-chome, Chuo-k, Tokyo 27, JP)
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Claims:
 Vav2遺伝子及び/又はVav3遺伝子の機能を欠損させた眼疾患モデル用非ヒト動物。
 Vav2遺伝子及びVav3遺伝子の機能を欠損させた請求項1に記載の眼疾患モデル用非ヒト動物。
 眼疾患が網膜変性、視神経変性、眼圧上昇、高眼圧、視力低下、視野狭窄、視野欠損の少なくとも1以上の症状を伴う疾患である、請求項1又は2に記載の眼疾患モデル用非ヒト動物。
 眼疾患が緑内障である、請求項2又は3に記載の眼疾患モデル用非ヒト動物。
 非ヒト動物がマウスである、請求項1~4の何れかに記載の眼疾患モデル用非ヒト動物。
 Vav2遺伝子及び/又はVav3遺伝子の機能を欠損させた非ヒト動物に化合物を投与する工程、及び該化合物の眼疾患に対する治療作用を確認する工程を含む、眼疾患治療作用を有する化合物のスクリーニング方法。
 非ヒト動物がVav2遺伝子及びVav3遺伝子の機能を欠損させた非ヒト動物である、請求項6に記載のスクリーニング方法。
 眼疾患が網膜変性を伴う疾患であり、眼圧を測定することで化合物の治療作用を確認する、請求項6又は7に記載のスクリーニング方法。
 眼疾患が網膜変性を伴う疾患であり、眼組織の病理学的検査によって化合物の治療作用を確認する、請求項6又は7に記載のスクリーニング方法。
 眼疾患が緑内障である、請求項7~9の何れかに記載のスクリーニング方法。
 眼疾患が網膜症、黄斑変性症、又は黄斑浮腫である、請求項7~9の何れかに記載のスクリーニング方法。
Description:
眼疾患モデル用非ヒト動物

 本発明は、眼疾患のモデル非ヒト動物の 供に関し、より詳しくはVav2遺伝子及び/又 Vav3遺伝子の機能を欠損させた眼疾患モデル 非ヒト動物に関する。

 人間が外部から得る情報の約80%は視覚で ると言われているように、眼はヒトにとっ 最も重要な感覚器官の一つである。そのた 、眼疾患の多くは致死性ではないものの、 終的に失明に至るおそれのある眼疾患は日 生活に重大な支障をもたらすため、その治 法の開発は、人類にとって極めて重要な意 を有する。

 最終的に失明に至るおそれのある眼疾患 して特に重要視されているのが、網膜神経 傷害を受けて視力を失う網膜変性や視神経 性を伴う疾患である。このような変性は、 力低下や視野狭窄、視野欠損、眼循環障害 どの症状を惹起し、最終的には失明に至る

 特に、高い眼圧が原因となって網膜が損 する緑内障は、高齢化に伴う大きな問題と っている。そのため、緑内障をはじめとす 眼疾患の有効な薬物療法を開発するに当た て、高眼圧及び/又は網膜変性を呈する眼疾 患モデル動物の作製は極めて重要な課題であ る。

 これまでに、眼疾患症状を呈する種々の デル動物が作製されてきた。その多くは、 定の化合物ないし薬物を投与して癌疾患と 様の症状を生じさせたモデル動物である。 えば、先天性糖尿病動物であるGKラットに ーズベンガルを投与することで網膜血管傷 を併発させた網膜症モデル動物(特許文献1) 架橋ポリマー含有液を前房内に注入するこ によって高眼圧および視神経損傷を誘発さ た実験動物(特許文献2)などが挙げられる。 方、内在性GLAST遺伝子の機能を欠損させた正 常眼圧緑内障のモデルとしてのGLASTノックア トマウス(特許文献3)は、特定の遺伝子の機 を抑制することで癌疾患症状を誘発させた デル動物の例である。

 しかし、前者の特定の化合物ないし薬物を 与して癌疾患と同様の症状を生じさせたモ ル動物には、再現性の問題や、誘発させた 状と実際の疾患原因との関係が必ずしも直 的に反映されているとは限らないなどの問 が指摘されている。また、後者のGLASTノッ アウトマウスは、正常眼圧緑内障のモデル その用途が限定されている。

国際公開第WO2004/080166号パンフレット

特開2003-149236号公報

国際公開第WO2004/092371号パンフレット

 本発明は、自然発生的に眼疾患、特に高 圧及び/又は網膜症を呈するモデル動物の提 供を目的とする。

 本発明者らは、眼疾患モデル動物の提供 は異なる、免疫応答の機能解明を目的とし 研究において、Vavファミリー遺伝子の一種 あるVav2遺伝子及び/又はVav3遺伝子の機能を 損させたノックアウトマウスを作製したが 全く意外なことに、当該マウスが自然発生 に高眼圧を初めとする種々の眼疾患症状を することを新たに見いだし、以下の各発明 完成させた。

(1)Vav2遺伝子及び/又はVav3遺伝子の機能を欠 損させた眼疾患モデル用非ヒト動物。

(2)Vav2遺伝子及びVav3遺伝子の機能を欠損さ た(1)に記載の眼疾患モデル用非ヒト動物。

(3) 眼疾患が網膜変性、視神経変性、眼圧 昇、高眼圧、視力低下、視野狭窄、視野欠 の少なくとも1以上の症状を伴う疾患である 、(1)又は(2)に記載の眼疾患モデル用非ヒト動 物。

(4)眼疾患が緑内障である、(2)又は(3)に記載 の眼疾患モデル用非ヒト動物。

(5)非ヒト動物がマウスである、(1)~(4)の何 かに記載の眼疾患モデル用非ヒト動物。

(6)Vav2遺伝子及び/又はVav3遺伝子の機能を欠 損させた非ヒト動物に化合物を投与する工程 、及び該化合物の眼疾患に対する治療作用を 確認する工程を含む、眼疾患治療作用を有す る化合物のスクリーニング方法。

(7)非ヒト動物がVav2遺伝子及びVav3遺伝子の 能を欠損させた非ヒト動物である、(6)に記 のスクリーニング方法。

(8)眼疾患が網膜変性を伴う疾患であり、眼 圧を測定することで化合物の治療作用を確認 する、(6)又は(7)に記載のスクリーニング方法 。

(9)眼疾患が網膜変性を伴う疾患であり、眼 組織の病理学的検査によって化合物の治療作 用を確認する、(6)又は(7)に記載のスクリーニ ング方法。

(10)眼疾患が緑内障である、(7)~(9)の何れか 記載のスクリーニング方法。

(11)眼疾患が網膜症、黄斑変性症、又は黄 浮腫である、(7)~(9)の何れかに記載のスクリ ニング方法。

正常マウスとVav2 ko の眼圧の変化を示す。縦軸は眼圧(mmHg)を、横 軸は生後週齢数を、それぞれ示す。 正常マウスとVav3 ko の眼圧の変化を示す。縦軸は眼圧(mmHg)を、横 軸は生後週齢数を、それぞれ示す。 正常マウスとVav2/3 ko の眼圧の変化を示す。縦軸は眼圧(mmHg)を、横 軸は生後週齢数を、それぞれ示す。 21週齢のコントロールマウス(B6マウス) 、線維柱帯及びシュレム管の光学顕微鏡観 写真を示す。 9週齢のVav2/3 ko の線維柱帯及び強膜静脈洞の光学顕微鏡観察 写真を示す。 Vav2/3 ko の線維柱帯及び強膜静脈洞の光学顕微鏡観察 写真を示す。 Vav2/3 ko における水晶体の変性の例を示す。 Vav2/3 ko における角膜の肥厚と血管新生の例を示す。 Vav2/3 ko における視神経の血管拡張の例を示す。 Vav2/3 ko における硝子体の好酸球浸潤の例を示す。 Vav2/3 ko における眼球網膜の萎縮変性の例を示す。 Vav2/3 ko における眼球の開放性の隅角の例を示す。 3週齢のコントロールマウス(上段)及びVav2/3 ko (下段)における眼球(eye ball)、視神経乳頭(Opti c nerve head)及び網膜(Retina)の様子を示す。 10週齢のコントロールマウス(1段目)、10週齢 Vav2/3 ko (2段目)、15週齢のVav2/3 ko (3段目)、30週齢のVav2/3 ko (4段目)における眼球(eye ball)、視神経乳頭(Opt ic nerve head)及び網膜(Retina)の様子を示す。 Vav2/3 ko に対してラタノプラストを投与したときの眼 圧低下を示す。左の2つのグラフがラタノプ ストの投与を、右の2つのグラフがコントロ ルの投与をそれぞれ示す。 Vav2/3 ko に対してラタノプラスト又はコントロール溶 液を投与したときの眼圧低下を示す。グラフ 左のバーが投与前の、グラフ右のバーが投与 3時間後の眼圧をそれぞれ示す。 Vav2 ko に対してラタノプラスト又はコントロール溶 液を投与したときの眼圧低下を示す。グラフ 左のバーが投与前の、グラフ右のバーが投与 3時間後の眼圧をそれぞれ示す。 Vav2/3 ko に対してラタノプラスト、塩酸ドルゾラミド 又はマレイン酸チモロールを投与したときの 眼圧低下を示す。グラフ左のバーがラタノプ ラスト、グラフ中央のバーが塩酸ドルゾラミ ド、グラフ右のバーがマレイン酸チモロール である。 正常マウスの眼球を構成する各組織に おけるVav2遺伝子及びVav3遺伝子の発現をリア タイムPCRで確認した結果を示す。 正常マウスの眼球の前房隅角における Vav2遺伝子及びVav3遺伝子の発現を、in situハ ブリダイゼーションで確認した結果を示す 微鏡写真である。 コントロールマウス、Vav2/3 ko 、Vav2 ko 、及びVav3 ko に対してY-27632又はコントロール溶液を投与 たときの眼圧低下を示す。バー1がコントロ ルマウス、バー2がVav2/3 ko 、バー3がVav2 ko 、バー4がVav3 ko である。

 本発明において、Vav2遺伝子及び/又はVav3 伝子の機能を欠損させた非ヒト動物とは、 色体上の内在性Vav2遺伝子及び/又はVav3遺伝 において、遺伝子中のアミノ酸配列をコー する領域に変異を導入することにより、あ いは当該遺伝子の発現調節領域、例えばプ モーター領域やイントロン領域中に変異を 入することにより、あるいは当該遺伝子の 部又は全部が他の遺伝子、典型的には外来 マーカー遺伝子によって置き換えられてお 、機能的なVav2遺伝子及び/又はVav3遺伝子が 現しないあるいは恒常的に抑制されている ヒト動物を意味する。本発明において、Vav2 遺伝子及び/又はVav3遺伝子の機能を欠損させ 非ヒト動物は、内在性Vav2遺伝子及び/又はVa v3遺伝子がそれぞれ2つ欠損しているホモ接合 型及び内在性Vav2遺伝子及び/又はVav3遺伝子が それぞれ1つ欠損しているヘテロ接合型を包 するが、ホモ接合型非ヒト動物の利用が好 しい。また動物種としては、マウスが特に ましい。

 Vav2及びVav3は、vavファミリータンパク質 属するオンコジーンの一種であり、Rho/Rac sm allGタンパクのGDP/GTP交換反応を促進する酵素 ンパクの一群である。Vav2はRac1やCdc42を活性 化し(Betty P.ら、Mol.Cell.Biol.、2000年、第20巻、 第19号、第7160-7169頁)、Vav3はRac1を介したホス イノシチド3キナーゼ(phosphoinositide 3 kinase) 活性化ならびにB細胞リセプター応答に関与 すると報告されている(Inabeら、J. Exp.Med.、200 2年、第195巻、第2号、第189-200頁)。 

 本発明におけるVav2遺伝子及び/又はVav3遺伝 の機能を欠損させた非ヒト動物の代表例は Fujikawa K.ら(J.Exp.Med.、2003年、第198巻、第10 、第1595-1608頁)の研究において使用され、あ いは作製された、Vav2遺伝子及び/又はVav3遺 子の機能を欠損させたノックアウトマウス ある。同研究では、Vav2遺伝子の機能を欠損 させたマウス(前記文献図2にVav2 ko と表記されており、以下本明細書でもこの表 記を使用する)、Vav3遺伝子の機能を欠損させ マウス(前記文献図2にVav3 ko と表記されており、以下本明細書でもこの表 記を使用する)、Vav2遺伝子及びVav3遺伝子がノ ックアウトされ、Vav1遺伝子を正常に有する ウス(前記文献図2にVav2/3 ko と表記されており、以下本明細書でもこの表 記を使用する)、さらにVav2及びVav3に加えてVav 1遺伝子もノックアウトされたマウス(前記文 図2にVav1/2/3 ko と表記されており、以下本明細書でもこの表 記を使用する)が使用されている。

 Vav2遺伝子の機能を欠損させたマウスの作製 は、Doody G.M.ら(Nature Immunology、2001年、第2巻 第6号、第542-547頁)において報告されている またVav3 ko の作製は、前記Fujikawa K.ら(J.Exp.Med.)において 報告されている。Vav2/3 ko は、Vav2 ko とVav3 ko とを繰り返し交配させて作製することができ る、Vav2遺伝子及びVav3遺伝子の機能を欠損さ たホモ型マウスである。またVav1/2/3 ko は、Tarakhovsky A.らの報告(Nature、1995年、第374 、第467-470頁)を元にVav1遺伝子を欠損させた ウスとVav2遺伝子を欠損させたマウス(Doody G .M.ら、Nature Immunology)とを繰り返し交配させ Vav1遺伝子及びVav2遺伝子の機能を欠損させた マウスを作製し、さらにこのマウスとVav3 ko とを繰り返し交配させて作製することができ る、Vav1遺伝子、Vav2遺伝子及びVav3遺伝子の全 ての機能を欠損させたホモ型マウスである。 なお、Vav1遺伝子、Vav2遺伝子及びVav3遺伝子お よびそれらの塩基配列はいずれも公知であり 、Genbankにaccession No.NM_011691(Vav1)、accession No.N M_009500(Vav2)及びaccession No.NM_020505(Vav3)として それぞれ登録されている。

 Vav3 ko 、Vav2/3 ko 及びVav1/2/3 ko は、いずれも米国マサチューセッツ州にある ハーバード大学のFrederick W. Alt博士の研究室 、及び米国ミズーリ州にあるワシントン大学 のSwat W.博士の研究室によって、現在もその 統が維持され、供給体制が確立されている しかしながら、これらマウスにおいては眼 患モデルとして樹立されたものではなく、 た眼疾患評価のための非ヒト動物としては 用されていない。本発明は、これらVav2 ko 、Vav3 ko 、Vav2/3 ko 及びVav1/2/3 ko の眼疾患モデル非ヒト動物としての使用を提 供するものである。以下、Vav2 ko 、Vav3 ko 、Vav2/3 ko 及びVav1/2/3 ko を包含して表す場合には、Vav2-3KOマウスと表 ことにする。

 前記Fujikawaらの研究は、Vav1、Vav2及びVav3 リンパ系免疫細胞の分化における機能解明 目的として、Vav1、Vav2、Vav3の各遺伝子及び れらの遺伝子を組み合わせて欠損させたマ スを使用している。しかし、Vav遺伝子と眼 患との関係、特にVav2遺伝子及び/又はVav3遺 子の欠損がマウスに眼疾患症状をもたらす とについては、何ら記載されていない。

 驚くべきことに、Vav2/3 ko では、生後数週齢で眼圧の上昇が始まり、6 齢以降はコントロールマウスに比べて40%以 も高い眼圧を呈する様になる。さらに解剖 的観察では、隅角線維柱帯(Trabecular Meshwork) 形成阻害、及びシュレム管(Schlemm’s canal) 狭窄が確認される。

 さらに、網膜の萎縮変性、水晶体の変性、 膜の肥厚、角膜における血管新生、視神経 おける血管拡張、硝子体の好酸球浸潤など 観察される。この様な角膜、隅角、水晶体 硝子体、網膜、視神経の変性は、臨床的に 視力低下、視野狭窄、視野欠損、網膜剥離 失明などの症状を裏付ける所見である。Vav2 /3 ko ではこのような組織変化が出世後、漸次に病 態が進行するため、緑内障や網膜症などにか かわらず、いわゆる加齢性の眼疾患の評価に も広く用いることができる。

 この様に、Vav2/3 ko においては、Vav2遺伝子及び/又はVav3遺伝子の 機能を欠くことに起因して、自然発生的に眼 疾患症状、特に顕著な高眼圧及び/又は網膜 性が発症する。一般に、高眼圧及び/又は網 変性は、何らかの眼疾患を伴っている場合 多いとされる。高眼圧及び/又は網膜変性を もたらす疾患としては、眼底疾患、視野傷害 、開放隅角緑内障、原発閉塞隅角緑内障、原 発開放隅角緑内障、単性緑内障、高眼圧症、 低眼圧症、先天性緑内障、外傷性緑内障、出 血性緑内障、新生血管緑内障、ポスナー・シ ュロスマン症候群、ステロイド緑内障、スタ ージ・ウェーバー症候群、プラトー虹彩悪性 緑内障、本能性虹彩萎縮症による閉塞隅角緑 内障、チャンドラー症候群、絶対緑内症(硝 体の疾患)、生理的飛蚊症、後部硝子体剥離 光視症、糖尿病網膜症 、網膜動脈閉塞症 網膜静脈閉塞症、黄斑変性症、黄斑浮腫、 熟児網膜症等が知られている。

 従って、本発明にかかるVav2-3KOマウスに 合物を投与する工程、及び該化合物の眼疾 に対する治療作用を確認する工程を含む、 疾患治療作用を有する化合物のスクリーニ グ方法は、上記何れかの疾患に対する治療 の評価、あるいは探索を可能にする。治療 の評価或いは探索は、好ましくはVav2-3KOマウ スに化合物を投与し、その化合物が同マウス の眼圧を低下させるか、あるいは網膜変性の 発症を抑制するか、によって行うことができ る。眼圧の測定は、市販されている眼圧測定 機器、例えばTonolab rebound tonometer(フィンラ ド、Tiolat社製)、電子電圧計その他の装置を 用することで簡便に行うことができる。ま 網膜変性の発症抑制は、モデル非ヒト動物 眼球に対する組織病理学的観察によって確 することができる。あるいは、眼疾患それ れに特徴的な外観やマーカー蛋白質或いは 伝子の発現を確認することによっても、ス リーニングを行うことができる。

 後に詳しく説明する実施例に示されるよう Vav2/3 ko とVav2 ko では、ヒトに対して緑内障治療薬として眼圧 を下げるために用いられている公知の薬物に 反応し、眼圧の降下が確認される。従って、 上記マウスを用いることによって、ヒトに対 して有効な眼圧降下作用を有する物質を直接 的に探索、あるいは評価することができる。

 また、本発明で使用されるVav2-3KOマウス 、Vav2遺伝子及び/又はVav3遺伝子の機能を欠 ことで高眼圧や網膜症等の眼疾患症状を呈 ることから、Vav2-3KOマウスの眼疾患モデル動 物の使用は、Vav2遺伝子及び/又はVav3遺伝子と 関連して発現が亢進或いは抑制される眼疾患 関連遺伝子又は蛋白質の探索、同定を可能に する。例えば、コントロールマウスと比較し てVav2-3KOマウス内で発現が亢進あるいは抑制 れている遺伝子又は蛋白質を、ディファレ シャルディスプレイ法やDNAマイクロアレイ 電気泳動、質量分析等の種々の方法を利用 て、眼疾患関連遺伝子あるいは蛋白質とし 探索、同定することができる。この様にし 同定された眼疾患関連遺伝子又は蛋白質、 るいはこれらを通じて解明された眼疾患の 症メカニズムは、当該疾患に対するさらな 治療の可能性を広げるものとなる。従って Vav2-3KOマウスの眼疾患モデル動物としての 用は、産業的にも多大な貢献をなし得るも である。

 なお、前記Fujikawa K.らに開示されているVav2 遺伝子及び/又はVav3遺伝子の機能を欠損させ ノックアウトマウスは、本発明にいうVav2遺 伝子及び/又はVav3遺伝子の機能を欠損させた ヒト動物の代表例であるが、本発明で使用 れる非ヒト動物はこの具体的な代表例には 定されない。例えば、Fujikawa K.らによって 製されたマウスはC57BL/6マウス系統のマウス であるが、かかる系統とは異なる他の系統マ ウスも利用可能である。かかる他の系統マウ スからのVav2遺伝子及び/又はVav3遺伝子の機能 を欠損させたマウスの作製は、Vav2 ko に関する前記Doody G. M.ら(Nature Immunology、2001 年)、Vav3欠損マウスに関する前記Fujikawa K.ら( J.Exp.Med.、2003年)、さらにはVav1欠損マウスに する前記Tarakhovskyら(Nature、1995年)にそれぞれ 記載されている方法を参考に行うことができ る。また、異なるマウス系統あるいはマウス 以外の非ヒト動物のVav2遺伝子又はVav3遺伝子 、前記Fujikawa K.らが利用したVav2遺伝子及び Vav3遺伝子とは異なる塩基配列からなる場合 あり得るが、この様な場合も前記Fujikawa K. (J.Exp. Med.、2003年)、さらにはVav1及びVav2欠損 マウスに関する前記前記Doody G. M.ら(Nature Im munology、2001年)にそれぞれ記載されている方 を参考に、各非ヒト動物においてVav2遺伝子 び/又はVav3遺伝子の機能を欠損させること 、当業者にとって通常の技術能力の範囲内 作業である。この様な遺伝子の機能の欠損 、公知のノックアウト動物の作製方法、例 ばジーンターゲッティング法により達成す ことができる。
 以下、非限定的な実施例を示して本発明を らに詳細に説明する。

<実施例1>
 ワシントン大学のSwat W.博士の研究室から 与されたVav2 ko 、米国マサチューセッツ州ハーバード大学の Frederick W.Alt博士の研究室から分与されたVav3 ko をそれぞれC57BL/6マウスにバッククロスした 、Vav2 ko とVav3 ko をかけ合わせてVav2/3 ko を得た。Vav2 ko 、Vav3 ko 及びVav2/3 ko 各4匹を、北海道大学医学研究科でのSPFレベ でのバリアフリーという条件下で動物委員 の指針に沿い通常に飼育した。Tonolab rebound tonometer(フィンランド、Tiolat社製)を用い、マ ニュアルに推奨された条件下で午前10時から1 2時の間に眼圧を週齡別に測定した。この実 を別々のマウスを用いて4回繰り返し、各種 16匹について行った。得られたデータをtwo-t ailed Student’s t-test検定を用いて解析して標 偏差を算出した(P<0.01)。またコントロー としてC57BL/6マウスを用意し、眼圧を同時に 定した。この結果を図1(Vav2 ko )、図2(Vav3 ko )及び図3に(Vav2/3 ko )にそれぞれ示す。

 Vav2 ko 及びVav3 ko において、コントロールに対して約5~20%程度 眼圧上昇が確認された。
また、Vav2/3 ko では眼圧の上昇は著しく、6週齢のVav2/3 ko における眼圧は、コントロールマウスに対し て約40%上昇していた。

<実施例2>
 コントロールマウス(B6マウス)22例(表1)、及 Vav2/3 ko 18例(表2)から左右の眼球を取り出し、包埋、 切の後、ヘマトキシンーエオシン(HE)染色(Si gma)を施した病理組織標本を作製した。標本 光学顕微鏡により検査した。

観察結果を下記のグレーディングによりまと めた。

 その結果、コントロールマウスでは16日群 4眼中の1眼に軽微な所見がみられたが、その 他の4週例群の8眼、9週例群の4眼、11週例群の 2眼及び21週例群の4眼に異常はみられなかっ 。コントロールマウス(21週齢)の顕微鏡観察 真(図4)をその代表例として示す。一方、Vav2 /3 ko マウスでは、20日群及び4週例群には軽微、軽 度又は中等度の強膜静脈洞の狭窄と線維柱帯 の退縮が認められ、9週例群~26週例群の中に 高度の強膜静脈洞の狭窄と線維柱帯の退縮 認められた。前記中等度の強膜静脈洞の狭 と線維柱帯の退縮(図5)、強度の強膜静脈洞 狭窄と線維柱帯の退縮(図6)を、それぞれ代 例として示す。

 また、水晶体の変性(図7)、角膜の肥厚と血 新生(図8)、視神経の血管拡張(図9)、硝子体 好酸球浸潤(図10)、網膜の萎縮変性(図11)を するVav2/3 ko もそれぞれ確認された。これらは臨床的に視 力低下、視野狭窄、視野欠損、網膜剥離、失 明などの症状を裏付ける所見であり、角膜、 隅角、水晶体、硝子体、網膜、視神経の変性 などの組織学的変化が顕著に生じていること が確認された。

 さらに、Tonometerを用いた眼圧測定を6回行っ て眼圧が有意に高かった7週齢のVav2/3 ko 6匹の眼球を、6回目の眼圧測定後すぐに摘出 、10%ホルマリンを含む脱イオン化中和メタ ール溶液にて希釈した電顕用2.5%グルタルア ルデヒド(TAAB社)にて固定し、組織切片を作製 して隅角を観察したところ、6匹中2匹におい 開放性の隅角が観察された(図12)。

<実施例3>
 本発明に係るVav2/3 ko とそのバックグランドであるC57BL/6野生型(コ トロール)の2種類のマウスを実施例1と同条 で3週、10週、15週、30週まで飼育した。各マ ウスをペントバルビタールナトリウム溶液に て深麻酔した後、眼球を素早く摘出し、前眼 房組織の観察用に、10%ホルマリンを含む脱イ オン化中和メタノール溶液にて希釈した電顕 用2.5%グルタルアルデヒド(TAAB社)にて一方の 球を固定した。もう一方の眼球は、網膜の 察用に、デビットソン溶液を用いて12時間固 定した。固定後の組織をパラフィン包埋し、 ミクロトームにて矢状断に5μmの切片とした その後脱パラフィン化し、脱水処理した後 切片をHE染色した。このHE染色の結果を図13 び図14に示す。

 図13に示されるように、生後3週齢では、Vav2 /3 ko の視神経乳頭は野生型に比べて組織学的に見 て異常はなく、視神経節細胞の減少などの異 常も認められなかったが、Vav2/3 ko で、生後7週齢を過ぎて眼圧の上昇が認めら てきたあとでは、図14で示すように、10週齢 Vav2/3 ko にて、視神経乳頭の陥凹所見と網膜視神経節 細胞数の減少が観察された。その上、15週齢 30週齢のVav2/3 ko の網膜では、視神経層構造までもが破壊され ていることが確認された。

<実施例4>
 8~9週齢のVav2/3 ko (12例)について、午前10~12時にTonometerを用いて 眼圧を測定した後、緑内障治療薬であるプロ スタグランジン誘導体のラタノプラスト(Latan oplast、Cayman Chemical社、0.01%/PBS)3μLを点眼し、 3時間後に再び眼圧を測定した。コントロー としてPBSのみを投与した群を同時に用意し Student’s t-testで検定を行った(P<0.05)。そ 結果、Latanoprost投与によるVav2/3 ko の眼圧の低下が認められた(図15)。すなわち 該マウスが緑内障治療薬の有用な評価モデ となることが確認された。

<実施例5>
 7週齢のVav2/3 ko とVav2 ko 各20例対して、午前10~12時にTonometerを用いて 圧を測定した後、0.02%塩化ベンザルコニウム 、0.5%NaH 2 PO 4 、0.6%Na 2 HPO 4 、0.4%塩化ナトリウム、及び0.005%ラタノプロ ト(Cayman Chemical社)を含む溶液3μL、又はラタ プラストを含まない上記組成のコントロー 溶液を、盲検定方法にて点眼投与し、3時間 後に再び眼圧を測定した。また、Vav2/3 ko に対しては、ラタノプロストとは眼圧降下作 用機序が異なるとされているマレイン酸チモ ロール点眼液(商品名チモプトール、米メル 社、0.5%溶液)3μL又は塩酸ドルゾラミド点眼 (商品名トルソプト、米メルク社、1%溶液)3μL を、上記ラタノプロストを含む溶液に代えて 点眼投与し、点眼から2時間後の眼圧変化を 定した。

 ラタノプロストは、図16に示されるように Vav2/3 ko の眼圧を26.3±5.0mmHgから15.8±5.1mmHgへと著明に 下させた(P<0.01)。また、ラタノプロスト 眼投与24時間後に再び眼圧を測定したところ 、眼圧はラタノプロスト投与前の高い値に戻 っていた。同様に、ラタノプラストは、図17 示されるように、Vav2 ko の眼圧を17.4± mmHgから14.5± mmHgへと有意に低 下させた(P<0.01)。

 さらに、図18に示されるように、マレイン チモロールと塩酸ドルゾラミドのいずれも Vav2/3 ko に対して眼圧作用を示した。マレイン酸チモ ロールと塩酸ドルゾラミドの眼圧効果率は、 それぞれ15%及び20%であった(ラタノプロスト 眼圧効果率は約40%)。

<試験例1>
 10週齢のC57BL/6マウスから眼球を摘出し、隅 線維柱帯(Trabecular Meshwork)、光彩、毛様体、 角膜、網膜、レンズをそれぞれ分離回収した 。各組織からTRIzol試薬(Invitrogen社)を用いて全 RNAを調製し、AMV Reverse Transcriptase(Invitrogen社) を用い、ABi7500リアルタイムPCR装置(アプライ バイオシステム社)の推奨マニュアルに従っ て、リアルタイムPCRを行った。Vav2及びVav3に するプローブはApplied Biosystems INC.からTaqman  probe(Vav2:Mm00437287、Vav3:Mm00445082)として購入し た。またコントロールとして、グリセロアル デヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH、Applied Biosyste ms INC.の製造番号:4352339E)のTaqman probeを用い 。
 この結果、Vav2、Vav3のいずれも各組織にお て発現していることが確認された(図19)。

<試験例2>
 下記の塩基配列からなるプローブを化学合 し、[ 33 P]dATPを用いてラベリングした。

 Vav2検出用プローブ:5’-AGCTGGAGACCGGCTTGAGGCCCT GCTGGTGGTTCGCTCCCGAGA-3’

 Vav3検出用プローブ:5’-GTTGCCTGTTCTATTACCCCTCTG TCCAGCTGGCTGTTCTGGCTC-3’

 Vav2検出用プローブは、GenBankにaccession No. NM_009500として登録されているVav2遺伝子の塩 配列のうち、2275-2319番目の塩基に相当する45 対の塩基配列である。またVav3検出用プロー は、GenBankにaccession No.NM_020505として登録さ ているVav3遺伝子の塩基配列のうち、2346-2302 目の塩基に相当する45対の塩基配列である

 10週齢のC57BL/6マウスから摘出した眼球を凍 後、厚さ20mmの切片とし、3-アミノプロピル リエトキシシランでコーティングしたスラ ドグラス上に置いた。Fukayaらの方法(Eur.J.Neu roscience、2005年、第21巻、第1432-1436頁)に基づ 、4%パラホルムアルデヒドを含む0.1Mリン酸 トリウム緩衝液pH7.2で10分及び2mg/mLグリシン- リン酸緩衝化生理食塩水pH7.2で10分固定化し 次に0.25%無水酢酸を含む0.1Mトリエタノール ミン塩酸pH8.0でアセチル化し、さらに50%ホル ムアミド、50mMTris塩酸緩衝液pH7.5)、0.02%Ficol、 0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%BSA、0.6MNaCl、 0.25%SDS、200mg/mLtRNA、1mM EDTA及び10%デキストラ 硫酸を含む緩衝液で1時間プレハイブリダイ ゼーションを行なった。ここに[ 33 P]dATPを用いてラベリングされたオリゴヌクレ オチド10000cpm/mLを加え、42℃で12時間ハイブリ ダイズさせた。スライドに対して、0.1%サル シンを含む0.1×SSCによる55℃で40分の洗浄を2 行った。スライドをNuclear Track emulsion(NTB-2 コダック社)に5週間当て、メチルグリーン ロニンで染色した。

 その結果、Vav2及びVav3は、いずれも隅角 維柱帯(Trabecular Meshwork)において発現してい ことが確認された(図20)。

<試験例3>
 7週齢のVav2/3 ko 、Vav2 ko 及びVav3 ko 各20例に対して、午前10~12時にTonometerを用い 眼圧を測定した後、眼房水の流出路に作用 て眼圧降下作用をもつことが報告されてい 、Rho-associatedプロテインカイネース阻害剤で あるY-27632(カルビオケム社)の1mM/PBS溶液3μL又 PBS溶液3μLを点眼し、投与1時間後に再び眼 を測定した。その結果、図21で示すように、 Vav2/3 ko 、Vav2 ko 及びVav3 ko のいずれに対しても、Y-27632は眼圧降下作用 示さなかった。

 本発明に関するVav2遺伝子及び/又はVav3遺 子の機能を欠損させた非ヒト動物は、特別 薬物の投与を必要とせずに、自然発症的に 眼圧、一部組織の退縮等の眼疾患症状を呈 ることから、当該非ヒト動物に試験化合物 投与することを含む眼疾患の治療効果を有 る化合物の評価は、眼疾患を誘発するため 投与される別の薬物の影響を受けないとい 利点を有する。また、当該眼疾患モデル用 ヒト動物は、眼疾患、特に網膜変性や視神 変性をもたらす緑内障、網膜症、黄斑変性 、黄斑浮腫などの眼疾患の原因又は発症メ ニズムの解明に大きく貢献するものとなる