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Patent Searching and Data


Title:
PANCREATIC CELL REGENERATION/TRANSPLANTATION KIT FOR PANCREATIC DISEASES OR DIABETES
Document Type and Number:
WIPO Patent Application WO/2009/157559
Kind Code:
A1
Abstract:
Disclosed is a pancreatic cell regeneration/transplantation kit for the regenerative therapy for various pancreatic diseases including diabetes, which comprises an adult neural stem cell and optionally a neuronal differentiation inducer.  Also disclosed is a pancreas regeneration therapy method using the transplantation kit.

Inventors:
KUWABARA TOMOKO (JP)
ASASHIMA MAKOTO (JP)
Application Number:
PCT/JP2009/061770
Publication Date:
December 30, 2009
Filing Date:
June 26, 2009
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Assignee:
NAT INST OF ADVANCED IND SCIEN (JP)
KUWABARA TOMOKO (JP)
ASASHIMA MAKOTO (JP)
International Classes:
A61L27/00; A61K31/19; A61K31/215; A61K33/14; A61K35/30; A61K38/00; A61L27/38; A61P1/18; A61P3/10
Domestic Patent References:
WO2004011621A22004-02-05
WO2001078752A22001-10-25
Other References:
BURNS, C.J. ET AL.: "The in vitro differentiation of rat neural stem cells into an insulin- expressing phenotype", BIOCHEM BIOPHYS RES COMMUN, vol. 326, no. 3, 2005, pages 570 - 7
YUICHI HORI: "Tonyobyo no Saisei Igaku -Sui P Saibo Saisei no Kiso to Rinsho- Shinkei Kansaibo no Kasosei o Riyo shita Insulin-sansei Saibo no Bunka yudo", SAISHIN IGAKU, vol. 61, no. 7, 2006, pages 1489 - 1495
ISAO DATE ET AL.: "Shinkei Hensei Shikkan no Shinkei Saisei-Shinkei Ishoku Seitai Yurai Shinkei Kansaibo no Yuyosei -Rinsho Oyo o Mezashite", COGN DEMENT, vol. 6, no. 1, 2007, pages 18 - 24
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Claims:
 成体神経幹細胞を含むことを特徴とする、膵臓疾患又は糖尿病のための膵臓細胞再生移植用キット。
 さらに神経細胞分化誘導剤を含むことを特徴とする、請求項1に記載の膵臓細胞再生移植用キット。
 さらにアストロサイト細胞分化誘導剤を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の膵臓細胞再生移植用キット。
 生体適合性シート表面に配置した成体神経幹細胞と、RA、RA+FSK、RA+FSK+KCl、Wnt3a、GSK3βインヒビター、リチウム塩、VPA、5AzaC及びβカテニンから選択された少なくとも1種の神経細胞分化誘導剤とを含むことを特徴とする、膵臓細胞再生移植用キット。
 前記成体神経幹細胞が、あらかじめ前記生体適合性シート表面上で、RA、RA+FSK、RA+FSK+KCl、Wnt3a、GSK3βインヒビター、リチウム塩、VPA、5AzaC及びβカテニンから選択された少なくとも1種の神経細胞分化誘導剤の存在下で培養され、β前駆細胞にまで分化させておいた状態の細胞であることを特徴とする、請求項4に記載の膵臓細胞再生移植用キット。
 生体適合性シート表面に配置した成体神経幹細胞を、膵臓患部に導入することを特徴とする、膵臓再生治療方法。
 前記成体神経幹細胞が、あらかじめ前記生体適合性シート表面上で、RA、RA+FSK、RA+FSK+KCl、Wnt3a、GSK3βインヒビター、リチウム塩、VPA、5AzaC及びβカテニンから選択された少なくとも1種の神経細胞分化誘導剤の存在下で培養され、β前駆細胞にまで分化させておいた状態の細胞であることを特徴とする、請求項6に記載の膵臓再生治療方法。
 生体適合性シート表面に配置した成体神経幹細胞と、RA、RA+FSK、RA+FSK+KCl、Wnt3a、GSK3βインヒビター、リチウム塩、VPA、5AzaC及びβカテニンから選択された少なくとも1種の神経細胞分化誘導剤とを有効成分として含むことを特徴とする、糖尿病用再生治療用組成物。
 前記成体神経幹細胞が、あらかじめ前記生体適合性シート表面上で、RA、RA+FSK、RA+FSK+KCl、Wnt3a、GSK3βインヒビター、リチウム塩、VPA、5AzaC及びβカテニンから選択された少なくとも1種の神経細胞分化誘導剤の存在下で培養され、β前駆細胞にまで分化させておいた状態の細胞であることを特徴とする、請求項8に記載の、糖尿病用再生治療用組成物。
Description:
膵臓疾患又は糖尿病のための膵 細胞再生移植用キット

 本発明は、成体神経幹細胞を用いた膵臓 胞再生移植用キットに関する。

 骨髄幹細胞や間葉系幹細胞の移植は、既に 床応用が始められているが、その標準化、 一化において非常に厳密な制御が必要とな 。我々「成体」の各臓器には、臓器に必要 細胞群を産み出す源となる幹細胞が存在し いる。ただ、胎生幹細胞やES細胞の研究に べ、「成体」の幹細胞の研究自体の歴史は だ浅く、各臓器の「成体幹細胞」の確立も っかり統一されていない。また、分化を左 する遺伝子の調節機構の違いについて、胎 幹細胞と詳細に比較解析されている例も少 い。今後、成体組織幹細胞の再生医療への 用開発を促すためには、その分子機構の基 研究がさらに発展する必要がある。
 ここで、既に国際的、学術的にも確立され 成体幹細胞として、脳の神経幹細胞があげ れる。ヒトからマウス等、下等動物に至る で、「成体」神経幹細胞の存在が国際学術 に多数報告されている(例えば、非特許文献 1など)。成体脳内での神経新生は従来不可能 と考えられていたが、成体の脳内にも日々 裂を繰り返し、神経新生を繰り返している 経幹細胞が存在する領域が保持されている とが分かった。最近の研究から、胎生神経 細胞と成体神経幹細胞からの分化制御機構 、細胞外シグナル分泌には幾らか相同性が るが、そのシグナルに応答して細胞内で発 し、実際に分化開始を誘導する上で、中心 なる遺伝子の発現制御機構が違うという重 な事実が、徐々に明らかになってきた。
 成体の神経幹細胞の存在が1990年代に始めて 明らかにされて以降、脳内で神経新生を起こ す成体神経幹細胞の仕組みを解明し、創薬開 発や再生医療、脳神経疾患の治療に役立てる 研究が盛んに今日では行われている。神経幹 細胞からは、成熟神経細胞、オリゴデンドロ サイト細胞、アストロサイト細胞の3種が分 して形成される。
 この分化能力を備えた神経幹細胞は胎生期 も存在する。この胎生神経幹細胞から神経 生を起こす代表転写遺伝子例はNeurogeninとい う遺伝子である。一方、成体の「神経新生」 を起こす代表転写遺伝子はNeuroD1/beta2であり この遺伝子が無いと、成体の脳内で神経新 を起こす領域のみが限定して欠損する。
 さらに、成熟神経細胞まで分化全過程に必 な、神経特異的遺伝子群の発現を「活性化 調節する転写因子が、成体脳ではNRSF/REST転 遺伝子なのだが、胎生期では神経細胞以外 発現されることにより、「活性化」ではな 「抑制」している。発現される転写因子の 類や時期、遺伝子の発現調節機構自体も全 違うため、「成体期」と「胎生期」の幹細 ・分化制御は明確に区別できる。
 安全な再生医療を考えた場合、増殖性の極 に高い胎生期から樹立された細胞(胎生幹細 胞)やES細胞を用いるより、「成体」から樹立 された「成体組織幹細胞」は、標的となる各 臓器部位で、制御分子機構や細胞応答性がよ り生体環境に馴染んだ幹細胞であるため、ガ ン化などのリスクファクターが少ない利点が あり、とりわけ「成体」由来の「自己幹細胞 」を用いた方が、患者に負担も低く免疫拒絶 性も無い、自然で効果的な医療が行えると考 えられる。
 現在までに、神経幹細胞以外にも種々の組 由来の組織幹細胞である、血液幹細胞、神 幹細胞、肝臓幹細胞、心筋幹細胞、骨格筋 細胞なども、既に国際的、学術的にも確立 れた成体幹細胞として報告されている。

 しかしながら、膵臓幹細胞については、糖 病患者など、インシュリン産生膵臓細胞に 化し得る膵臓幹細胞への臨床的期待が大き にもかかわらず、確立した樹立細胞として 胎児性(ES)幹細胞のみである。唾液腺由来の 成体幹細胞の報告はある(非特許文献2)ものの 、当該報告中では、多能性を有していること の確認実験はなく、樹立細胞としての要件も 不十分である。また、膵臓幹細胞のβ細胞等 の分化誘導法としても、ES細胞から誘導分 させる手法(非特許文献3)に準じて行われて たが、分化能が限られたり、増殖能の違い ら生じるガン化などの欠点があった。
 そこで、膵臓組織における再生医療におい は、患者への負担も低く免疫拒絶性も無い 自己幹細胞」も視野に入れた、膵臓への移 が可能であり、かつ各種膵臓細胞へ分化可 な成体幹細胞の安定的な提供が強く望まれ いた。

Gage, F. H. et al., Survival and differentiatio n of adult neuronal progenitor cells transplanted to the adult brain. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 92, 1 1879-11883 (1995). Suzuki, A., Nakauchi, H. & Taniguchi, H. Pr ospective isolation of multipotent pancreatic progenito rs using flow-cytometric cell sorting. Diabetes 53, 2 143-2152 (2004). Kume, S. Stem-cell-based approaches for regenerat ive medicine. Dev Growth Differ. 2005 Aug;47(6):393-40 2 Hsieh, J. et al. IGF-I instructs multipotent ad ult neural progenitor cells to become oligodendrocytes . J. Cell Biol. 164, 111-122 (2004), Kuwabara, T., Hsieh, J., Nakashima, K., Taira,  K. & Gage, F. H. A small modulatory dsRNA speci fies the fate of adult neural stem cells. Cell 116,  779-793 (2004)., Nakashima, K et al., Synergistic signaling in f etal brain by STAT3-Smad1 complex bridged by p300. S cience 284, 479-482. D'Amour K.A. & Gage, F. H. Genetic and fun ctional differences between multipotent neural and plu ripotent embryonic stem cells. Proc. Natl. Acad. Sci.  USA 100, 11866-11872 (2003). Habener, J. F., Kemp, D. M. & Thomas M. K . Minireview: transcriptional regulation in pancreatic development. Endocrinology 146, 1025-1034 (2005). Clevers H., Wnt/β-Catenin Signaling in Developme nt and Disease. Cell 127,469-480 (2006).

 本発明の課題は、膵臓組織へ移植可能で り、かつ所望の膵臓細胞への分化が容易な 体幹細胞を提供することであり、当該成体 細胞を用いた膵臓組織の再生治療方法を提 することである。

 本発明者らは、脳内での学習機能に必要な ンシュリン産生能を有する神経細胞と、膵 内で血糖値低下に必要なインシュリン産生 を有する膵臓細胞との間の性質の共通性に 目し、胎生期の発生段階では前者は外胚葉 、後者は内胚葉系という遠い隔たりのある 胞ではあるが、成体幹細胞としての制御機 などにおいて類似している可能性があると 考えにそって鋭意研究の結果、神経幹細胞 用いられる樹立方法を基本とした膵臓幹細 の樹立方法を成功させ、はじめて確実な成 組織幹細胞としての要件を備え、糖尿病な 各種膵臓細胞の移植治療用に用いることの きる膵臓幹細胞についての発明を完成させ 。
 また、このようにして樹立した成体膵臓幹 胞を、α細胞、β細胞、δ細胞、γ細胞それ れに分化させる際にも、神経幹細胞から各 神経系細胞へ分化させるための方法が転化 用できること、つまり、β細胞分化には神経 分化の方法、α細胞の分化にはアストロサイ 細胞への分化方法、δ細胞の分化には抑制 のインターニューロンを作製する神経分化 件、γ細胞分化にはオリゴデンドロサイト細 胞を誘導するグリア細胞分化の条件を使用す ればよいことを見出し、膵臓幹細胞の各種膵 臓細胞への効率的な分化方法も確立すること ができた。なお、これらの点については、本 願と同日付で出願している。
 本発明者らは、さらに、このようにして樹 した成体膵臓幹細胞と、同時に樹立・培養 た成体神経幹細胞とについて、分子基盤の 細な比較解析を行い、両者の分化制御因子 に非常に高い類似性・相補性があることを らかにした。
 本発明者らは、このように、神経幹細胞と 臓幹細胞とが、樹立、培養工程のみならず 分化工程においてもきわめて類似した挙動 示すという知見を踏まえ、膵臓幹細胞を神 組織に移植した場合も、神経細胞分化誘導 又はグリア細胞分化誘導剤を併用すること 、神経系細胞又はグリア細胞に分化し、神 幹細胞を膵臓組織に移植した場合は、反対 β細胞等の各膵臓細胞に分化するという仮 を立て、トランスジェニックマウスを用い 実験系で当仮説を立証した。
 以上の知見をもとに、本発明者らは、成体 経幹細胞を用いた、糖尿病など各種膵臓疾 の再生治療のための再生移植用キットなど 膵臓組織への再生移植医療についての本発 を完成させた。なお、同時に成体膵臓幹細 を用いた糖尿病用の再生移植医療及び神経 胞系疾患用の再生移植医療についての発明 完成し、本願と同日付で別出願をしている( 特願2008-168222号)。

 すなわち、本発明は以下の発明を含むもの ある。
〔1〕成体神経幹細胞を含むことを特徴とす 、膵臓疾患又は糖尿病のための膵臓細胞再 移植用キット。
〔2〕さらに神経細胞分化誘導剤を含むこと 特徴とする、前記〔1〕に記載の膵臓細胞再 移植用キット。
〔3〕さらにアストロサイト細胞分化誘導剤 含むことを特徴とする、前記〔1〕又は〔2〕 に記載の膵臓細胞再生移植用キット。
〔4〕生体適合性シート表面に配置した成体 経幹細胞と、RA、RA+FSK、RA+FSK+KCl、Wnt3a、GSK3β インヒビター、リチウム塩、VPA、5AzaC及びβ テニンから選択された少なくとも1種の神経 胞分化誘導剤とを含むことを特徴とする、 臓細胞再生移植用キット。
〔5〕前記成体神経幹細胞が、あらかじめ前 生体適合性シート表面上で、RA、RA+FSK、RA+FSK +KCl、Wnt3a、GSK3βインヒビター、リチウム塩、 VPA、5AzaC及びβカテニンから選択された少な とも1種の神経細胞分化誘導剤の存在下で培 され、β前駆細胞にまで分化させておいた 態の細胞であることを特徴とする、前記〔4 に記載の膵臓細胞再生移植用キット。
〔6〕生体適合性シート表面に配置した成体 経幹細胞を、膵臓患部に導入することを特 とする、膵臓再生治療方法。
〔7〕前記成体神経幹細胞が、あらかじめ前 生体適合性シート表面上で、RA、RA+FSK、RA+FSK +KCl、Wnt3a、GSK3βインヒビター、リチウム塩、 VPA、5AzaC及びβカテニンから選択された少な とも1種の神経細胞分化誘導剤の存在下で培 され、β前駆細胞にまで分化させておいた 態の細胞であることを特徴とする、前記〔6 に記載の膵臓再生治療方法。
〔8〕生体適合性シート表面に配置した成体 経幹細胞と、RA、RA+FSK、RA+FSK+KCl、Wnt3a、GSK3β インヒビター、リチウム塩、VPA、5AzaC及びβ テニンから選択された少なくとも1種の神経 胞分化誘導剤とを有効成分として含むこと 特徴とする、糖尿病用再生治療用組成物。
〔9〕前記成体神経幹細胞が、あらかじめ前 生体適合性シート表面上で、RA、RA+FSK、RA+FSK +KCl、Wnt3a、GSK3βインヒビター、リチウム塩、 VPA、5AzaC及びβカテニンから選択された少な とも1種の神経細胞分化誘導剤の存在下で培 され、β前駆細胞にまで分化させておいた 態の細胞であることを特徴とする、前記〔8 に記載の、糖尿病用再生治療用組成物。

 本発明により、既に樹立方法、培養方法 分化方法が確立している成体神経幹細胞を 糖尿病用治療用キットなどとして、膵臓組 への再生移植医療に転用することができる で、糖尿病などの重篤な膵臓病疾患を患っ いる患者にとっての福音となる。

Sox2-EGFPを導入したトランスジェニック ウスの成体の膵臓(島)と脳(海馬)。上段:両 器とも、インシュリンを産生している細胞( /点線で囲った箇所)に接して、未分化のSox2 性細胞(緑/GFP発現陽性)、すなわち成体幹細 が存在している。下段:分化したβ細胞と神 細胞は共に、インシュリンを産生し、かつ 経細胞に分化したことを示すNRSF/REST転写因 陽性である共通点を持つ(左では、核内でNRS F/REST転写因子が発現し、その周りの細胞質内 でインシュリンが発現している様子がわかる 。) 神経幹細胞からの分化と膵臓幹細胞か らの分化制御機構の相関図。 神経幹細胞、膵臓幹細胞から抽出した RNAを用いたRT-PCR解析。P;未分化状態、N;神経 化誘導条件、A;グリア分化誘導条件。神経系 、膵臓内分泌系の全ての分化経路マーカー遺 伝子が同じ分化条件下[神経=β細胞、δ細胞、 グリア(アストロサイト、オリゴデンドロサ ト)細胞=α細胞、γ細胞]で検出された。 膵臓のδ細胞(ソマトスタチン)、γ細胞 (Pancreatic polypeptide)の分布と脳内での分布。 じ抗体を用いた免疫組織染色。 分化誘導後の膵臓幹細胞。未分化状態 (FGF2存在下)から、神経分化条件(上矢印)とグ ア・アストロサイト分化条件(下矢印)下で 膵臓内分泌系の各種マーカーが出現した。β 細胞(インシュリン、C-peptide)、α細胞(グルカ ン)、δ細胞(ソマトスタチン)、γ細胞(Pancreat ic polypeptide)。 神経細胞特異的なマーカーTUJ1はイン ュリンを産生する膵臓β細胞でも染色される 。同様に、膵臓β細胞もTUJ1で染色される。TUJ 1陽性細胞はともに、NRSF/REST転写因子陽性で ある。 脳内で神経新生のマーカーであるNeuroD 1遺伝子は、膵臓β細胞でも同様に発現してお り、染色される。 出生日の膵臓と脳。盛んに新生してい る細胞群はともに、NeuroD1陽性。 成体膵臓内で分裂している新生細胞(Br DU陽性)はNeuroD1陽性。 各種神経分化促進薬剤の投与で、イン シュリンプロモーター活性が上昇。レポータ ーとしてルシフェラーゼ遺伝子をインシュリ ンプロモーターの下流に連結したアッセイ系 で解析した。 膵臓幹細胞の分化。未分化状態(FGF2存 下)から、神経分化条件(上矢印)とグリア・ ストロサイト分化条件(下矢印)下で、膵臓 分泌系の各種マーカーが出現した。分化マ カーとして、β細胞(インシュリン、C-peptide) α細胞(グルカゴン)、δ細胞(ソマトスタチン )、γ細胞(Pancreatic polypeptide)を用いたところ 神経細胞分化条件では、インシュリン、C-pep tideが及びソマトスタチンの発現が確認され グリア・アストロサイト分化条件下ではPP及 びグルカゴンの発現を観察した。 Wnt3を産出するα細胞。脳内でWnt3を産 し、神経新生を促進するアストロサイト細 (GFAP陽性)と同じ機能をもつ。α細胞はWnt3を 生することによって、β細胞新生を促進して いる(以下の図より)。 膵臓幹細胞をβ細胞新生状態(神経誘導 条件下;N)に誘導すると、Wntシグナリングの重 要タンパク質であるβカテニンが安定化され 積する。P;未分化状態、A;アストロサイト誘 導条件下。 Wnt/βcateninシグナリングの活性化(試薬) でインシュリン遺伝子の発現が上昇し(Wnt3,GSK 3beta-inhibitor)、対照的にWnt/βcateninシグナリン の不活性化(DnWnt;ドミナントネガティブWnt,β catenin shRNA)ではインシュリン遺伝子の発現が 起きない。 NeuroD1のプロモーター上のTCF/LEF転写因 結合部位のクロマチンの活性化(Anti-Acetyl Hi stoneH3)がWnt3で誘導される(左)。Wnt3によって活 性化されたNeuroD1は、インシュリン遺伝子の 性化を起こす。インシュリン遺伝子のプロ ーター上のNeuroD1認識結合部位(E-box)へNeuroD1 直接結合し、クロマチンの活性化(Anti-Acetyl  HistoneH3を誘導する)を導くことを示している( )。 神経幹細胞の膵臓への移植。Fisher344ラ ットへのマイクロインジェクションの結果。 膵臓へ移植された神経幹細胞(緑、蛍光GFP発 )が、インシュリン陽性(赤、上、中段)であ ことを示している。また、新規のインシュ ン産生を示すC-peptide抗体でも陽性(下段)。 神経幹細胞の膵臓への移植。コラーゲ ンシート上で培養された神経幹細胞およびニ ューロブラスト。インシュリンプロモーター 活性が神経分化誘導条件下で上昇することが 、コラーゲンシート上でも確認された 神経幹細胞の膵臓への移植。糖尿病ラ ットへの移植。尾静脈から採血された血液を 用いて、グルコメーター/グルコカード(簡易 糖値検査機)で測定した血糖値の変遷を記録 したグラフ。◇;健康体ラット、○;糖尿病ラ ト(GKラット)に整理食塩水をインジェクショ ンしたコントロール。●;糖尿病ラットにコ ーゲンシートのみを移植したコントロール □;糖尿病ラットに神経幹細胞をマイクロイ ジェクションしたグループ。■;糖尿病ラッ トにニューロブラストをマイクロインジェク ションしたグループ。△;糖尿病ラットに、 ラーゲンシート上の神経幹細胞を移植した ループ。▲;糖尿病ラットに、コラーゲンシ ト上のニューロブラストを移植したグルー 。 (参考図1) 樹立した膵臓幹細胞の写真 1段目左は、樹立時の培地として、10%FCSを、1 段目右及び2段目は、FGF/EGFを、3段目はFCSを用 いた場合を示す。最下段は、一定期間培養後 、継代した細胞(P1)をFGF2のみで培養した場合 未分化性と増殖能を保持している。 (参考図2)膵臓幹細胞の脳神経系への移 植。実験概要。成体膵臓幹細胞(GFP陽性)をラ ト脳(海馬の顆粒細胞層)にインジェクショ する。 (参考図2)膵臓幹細胞の脳神経系への移 植。脳内へ移植された膵臓幹細胞(緑、蛍光GF P発現)が、神経幹細胞の分化に同調して分化 ていく様子がインジェクション箇所からの 置変化として観察できる。上段は、インジ クション付近の海馬の顆粒細胞層で、神経 駆細胞であることを示す遺伝子マーカー、N euroD1(赤)を発現する細胞と一致し、中段の神 細胞初期マーカーであるTUJ1(マゼンタ)の発 細胞と一致する。また下段では成熟神経細 マーカーであるNeuN陽性(赤)細胞とも一致し ことを示している。 コラーゲンシート上の神経幹細胞をII 糖尿病のモデルラット(GKラット)の膵臓に移 し、インシュリン産生β細胞に分化したこ 、及びそのことによるモデルラットの血糖 が低下したことを確認した。

1.成体神経幹細胞と成体膵臓幹細胞について
 成体幹細胞の中で、神経幹細胞は国際的、 術的にも確立されている。1990年代に始めて 明らかにされて以降、脳内で神経新生を起こ す成体神経幹細胞の仕組みを解明し、創薬開 発や再生医療、脳神経疾患の治療に役立てる 研究が盛んに今日では行われている。
 本発明者らは、内分泌器官である「成体」 膵臓にも、成体神経幹細胞と同じ未分化マ カー遺伝子(Sox2)を発現する膵臓幹細胞が存 することを明らかにさせた(図1)。Sox2遺伝子 は、ES細胞でも発現する非常に高い未分化性 保持する転写因子である。トランスジェニ クマウスを用いた動物個体の脳と膵臓で、 の発現を確認した(Sox2プロモーターにレポ ター遺伝子であるEGFPを連結した遺伝子改変 ウス内で、Sox2遺伝子を発現している細胞が 蛍光を発する)。重要なこととして、両臓器 神経細胞及び、β細胞がともにインシュリン を発現していることである(図1、上図、赤が ンシュリン抗体陽性、緑がSox2遺伝子を発現 している成体幹細胞)。神経細胞とβ細胞は成 体ではNRSF/RESTという転写因子を発現しており (マゼンタ)、そのNRSF/REST発現陽性の細胞がイ シュリン(緑)を発現していることが分かる( 1、下段)。
 「成体幹細胞」を樹立したことは、得られ 成体幹細胞が多能性を有していることを、 sox-2マーカー」によって確認することがで る。ここで、「sox-2マーカー」とは、Sox2プ モーターにレポーター遺伝子であるEGFPを連 したものであり、遺伝子改変マウス内でSox2 遺伝子を発現している細胞が蛍光を発するこ とで確認できる(非特許文献7)。Sox2遺伝子は 典型的な多能性を有する未分化細胞であるES 細胞でも発現している遺伝子であり、未分化 状態を示す幹細胞特異的な遺伝子であるとさ れ、当該遺伝子の発現は、成体組織幹細胞が 樹立されたことを示す最もよい指標となる。 本発明の実施例でも、成体神経幹細胞の樹立 は、Sox2遺伝子を発現していることで確認し いる(図1)。Sox2遺伝子配列は、公知のデータ ースから入手可能であり、例えばヒトSox2遺 伝子は、NM_003106(Gene Bankアクセッションナン ー)、マウスSox2遺伝子はNM_011443(Gene Bankアク セッションナンバー)である。また、Sox2遺伝 発現は、抗Sox2抗体によっても簡単に確認す ることができ、抗Sox2抗体はすでに市販され いるものを用いることができる(例えば、Chem icon社製)。

2.神経幹細胞の樹立法及び培養法
 本発明では、非特許文献1の記載に基づいて 、神経幹細胞存在領域として知られているマ ウス脳の海馬組織から、多能性をもつ成体神 経幹細胞を樹立した。樹立した成体神経幹細 胞は未分化状態を示す成体幹細胞特異的なSox 2遺伝子を発現している(図1)。
 なお、本発明において「成体神経幹細胞」 いうとき、典型的にはドナーとなるヒトの 々な神経組織から得られた「成体神経幹細 」であり、好ましくは再生治療を行う患者 身の「成体神経幹細胞」であることが好ま いが、ブタなど異種哺乳類由来の「成体神 幹細胞」であってもよい。また、マウス、 ットなどの実験動物由来、又はイヌ、ネコ どの愛玩動物由来の「成体神経幹細胞」で ってもよい。
 具体的な手法は以下の通りである。
 神経幹細胞存在領域をマイクロダイセクシ ンしたのち、迅速にトリプシン酵素処理下 細胞を分散させ、次いで、37℃のCO 2 インキュベーター内で神経細胞培養用培地中 に細胞を懸濁し、培地による洗浄を繰り返し 、遠心により、神経幹細胞を含有する神経由 来の細胞成分を採取する。神経細胞培養用培 地としては、典型的には[DME/F12,high glucose(1mM L-glutamine)、N2 supplement添加,Antibiotic-Antimicotic 加]が用いられる。
 細胞増殖能を上昇させるためには、上記神 幹細胞培養用培地に、さらにFCS及びFGF2を添 加することが好ましい。例えば、FCSを濃度1~1 0%、好ましくは5%で添加すると共に、FGF2を10~2 00ng/mL、好ましくは100ng/mL添加する、樹立初期 特有の培養方法を続ける。
 さらに、上記FCS及びFGF2を添加して約5~8日間 、好ましくは7日間培養することで十分増殖 せた後に、FCSの添加をやめ、FGF2のみを添加 た神経幹細胞用培地(好ましいFGF2の添加量 、10~100ng/mL、より好ましくは20ng/mLである。) 培養すれば、成人神経幹細胞の未分化状態 維持し続けることができる。
 なお、膵臓幹細胞の場合は、EGF2を添加して もあまり効果が見られないが、神経幹細胞の 場合は、FGF2に代えてEGF2を用いても未分化状 の維持効果がある。

3.膵臓幹細胞の樹立法及び培養法における、 経幹細胞との類似性
 成体神経幹細胞の培養法と基本的には同じ 件下で行う。すなわち、例えば、典型的な 経幹細胞用培地である[DME/F12,high glucose(1mM  L-glutamine)、N2 supplement添加,Antibiotic-Antimicotic 加]を用いることができる。
 細胞増殖能を上昇させるためには、上記神 幹細胞培養用培地に、さらにFCS及びFGF2を添 加することが好ましい。例えば、FCSを濃度1~1 0%、好ましくは5%で添加すると共に、FGF2を10~2 00ng/mL、好ましくは100ng/mL添加する、樹立初期 特有の培養方法を続ける。
 さらに、上記FCS及びFGF2を添加して約5~8日間 、好ましくは7日間培養することで十分増殖 せた後に、FCSの添加をやめ、FGF2のみを添加 た神経幹細胞用培地(好ましいFGF2の添加量 、10~100ng/mL、より好ましくは20ng/mLである。) 培養すれば、成人膵臓幹細胞の未分化状態 維持し続けることができる。
 なお、膵臓幹細胞の場合は、FGF2に代えてEGF 2を添加してもあまり未分化状態の維持効果 見られない。
 一般に、神経幹細胞など、各種幹細胞が樹 されたことは、上述のように、Sox2遺伝子が 発現していることを確認して、未分化状態を 示すことを確認する。膵臓幹細胞の場合、膵 臓細胞が分化した状態で発現が上昇するイン シュリンやグルカゴン遺伝子の発現が認めら れないことも同時に確認できる(図3aおよびb)

4.膵臓幹細胞の分化誘導法における神経幹細 との類似性
 成体神経幹細胞を分化させる際の手法とし 、神経分化誘導法やグリアへの分化誘導法 既に確立されている(非特許文献1、4~6など)
 一方、成体膵臓幹細胞を、α細胞、β細胞、 δ細胞、γ細胞それぞれに分化させるために 、各種神経細胞への分化方法を適用するこ ができる。つまり、β細胞分化には神経分化 の方法、α細胞の分化にはアストロサイト細 への分化方法、δ細胞の分化には抑制性の ンターニューロンを作製する神経分化条件 γ細胞分化にはオリゴデンドロサイト細胞を 誘導するグリア細胞分化の条件が適用できる 。

 成体膵臓幹細胞の各膵臓細胞への具体的な 化誘導法は、以下の通りである。
(a)インシュリン産生能を有するβ細胞への分
 神経幹細胞から神経細胞への分化条件を適 することで、成体膵臓幹細胞を、インシュ ン産生能を有するβ細胞に分化させること できる。基本的には、非特許文献4又は5に記 載の神経細胞への分化条件に従うことが好ま しい。典型的には、[RA+FSK+KCl]添加培地が用い られ、例えば、DME/F12,high glucose(1mM L-glutamine) 、N2 supplement添加、Antibiotic-Antimicotic添加培地 中に、1μMのretinoic acid(RA、シグマ社製)、5μM forskolin(FSK、シグマ社製)及び40 mMのKCl(WAKO社 製)を添加する。また、本実施例2-3中では、 経細胞分化誘導剤として典型的に用いられ 「RA+FSK+KCl」を添加する以外に、レチノイン (RA)単独、またはレチノイン酸+フォスフォ リン(RA+FSK)でも、さらにヒストンデアセチラ ーゼ(HDAC)阻害剤の一種であるバルプロ酸(VPA) メチル化酵素阻害剤の5AzaCもインシュリン ロモーターを活性化することを確認した(図3 F)。
 また、脳内の神経新生領域で発現する分泌 ンパク質として知られるWnt3もしくはその遺 伝子又はWnt3のシグナリング促進物質を用い ことでも、成体神経幹細胞をインシュリン 生性のβ細胞へ効率的に分化することができ ることを本発明において、初めて実証できた 。すなわち、成体神経幹細胞の培地にWnt3aも くはその活性化剤を添加するか、当該細胞 にWnt3a遺伝子を導入することでインシュリ を産生できるように分化させることができ 。Wnt3aについては、下記5.で詳細に述べる。
 成体膵臓幹細胞がβ細胞に分化したことを 認するためには、β細胞分化経路マーカーと して広く用いられている「インシュリン」発 現を抗体で確認すればよい。インシュリンが 新しく生成する反応由来の「C-peptide」で発現 を新規のインシュリン産生を同時に確認する こともできる。例えば、インシュリン検出用 の「guinea pig anti-Insulin(1:300;Sigma社製)」又はC -peptide検出用の「goat anti-C-peptide(1:250,Linco Res earch社製)」が好適に用いられる。また、イン シュリン又はC-peptideのmRNAの存在をRT-PCR法な により確認することができる(図3B)。

(b)δ細胞への分化
 成体膵臓幹細胞に対して、β細胞の場合と 様の神経幹細胞から神経細胞への分化条件 適用することで、δ細胞にも分化させること ができるが、δ細胞の含量を高めたい場合は 神経幹細胞から抑制性のインターニューロ を作製する神経分化条件を適用する。基本 には、非特許文献4,5に記載の神経分化条件 従うことが好ましい。典型的には、DME/F12,hi gh glucose(1mM L-glutamine),N2 supplement添加,Antibioti c-Antimicotic添加培地中に、1μMのretinoic acid(RA シグマ社製)、5μMのforskolin(FSK、シグマ社製) 追加的に40 mMのKCl(WAKO社製)を添加する。
 成体膵臓幹細胞がδ細胞に分化したことを 認するためには、δ細胞分化経路マーカーと して広く用いられている「ソマトスタチン」 発現を確認すればよい。例えば、ソマトスタ チン検出用の「rat anti-Somatostatin(1:300,Chemicon 製)」抗体が好適に用いられる。また、ソマ スタチンmRNAの存在をRT-PCR法などにより確認 することができる。

(c)α細胞への分化
 神経幹細胞からアストロサイト細胞への分 条件を適用することで、成体膵臓幹細胞を α細胞に分化させることができる。基本的 は、非特許文献4~6に記載のアストロサイト 胞への分化条件に従うことが好ましい。典 的には、DME/F12,high glucose(1mM L-glutamine)、N2 s upplement添加、Antibiotic-Antimicotic添加培地に、5% FCSまたはLIF(50 ng/mL;WAKO社製)とBMP2(50 ng/mL;WAKO 製)を添加する。
 成体膵臓幹細胞がα細胞に分化したことを 認するためには、α細胞分化経路マーカーと して広く用いられている「グルカゴン」発現 を確認すればよい。例えば、グルカゴン検出 用の「mouse anti-Glucagon(1:300,Immuno社製)」抗体 の検出が好適に用いられる。また、グルカ ンmRNAの存在をRT-PCR法などにより確認するこ ができる。

(d)γ細胞への分化
 成体膵臓幹細胞に対して、α細胞の場合と 様の神経幹細胞からアストロサイト細胞へ 分化条件を適用することで、γ細胞にも分化 させることができるが、γ細胞の含量を高め い場合は、神経幹細胞からオリゴデンドロ イト細胞を誘導するグリア細胞分化の条件 適用する。基本的には、非特許文献4~6に記 のグリア細胞、オリゴデンドロサイト細胞 の分化条件に従うことが好ましい。典型的 は、DME/F12,high glucose(1mM L-glutamine)、N2 supple ment添加、Antibiotic-Antimicotic添加培地に、1%FCS たはIGF1 (500 ng/mLが好適。使用範囲として20- 1000 ng/mL)を添加する。
 成体膵臓幹細胞がγ細胞に分化したことを 認するためには、γ細胞分化経路マーカーと して広く用いられている「Pancreatic polypeptide 発現を確認すればよい。例えば、Pancreatic p olypeptide検出用の「guinea pig anti-Pancreatic polyp eptide (1:100,Linco Research社製)」抗体が好適に いられる。また、Pancreatic polypeptideのmRNAの 在をRT-PCR法などにより確認することができ 。

5.Wnt3a及びWnt3シグナル伝達機構(Wnt3/βcateninシ ナリング)の促進物質について
 Wnt3は脳内の神経新生領域で、アストロサイ ト細胞(GFAP陽性)が発現する分泌タンパク質で 、この効果により神経幹細胞は神経新生を開 始し、ニューロブラストという神経新生細胞 (NeuroD1陽性)を産生する物質であるが、このWnt 3が、膵臓の膵島α細胞(GFAP、Glucagon陽性)で発 していることが分かった(参考例3、図3B)。
 また、膵臓の内分泌系は、脳内神経系と非 に高い相関が有り、β細胞内で新生してい 細胞は、NeuroD1陽性であるという共通点が有 (図3C-E。NeuroD1のプロモーター上には、Wnt/βc ateninシグナリングで活性化されるβcatenin/TCF/L EF転写因子が認識して結合する配列がヒト-ラ ット-マウスで保存されている。膵臓幹細胞 β細胞へ分化誘導する際に、初期神経誘導条 件下(ニューロブラスト産生状態)に置くと24 間経過後には、Wnt/βcateninシグナリングで重 となるβcateninタンパク質の安定化が起きて ることを、ウエスタンブロッティングで確 した(図4B)。
 さらに、NeuroD1遺伝子、インシュリン遺伝子 の活性化にWntが必須であり、Wnt3が両遺伝子 活性化を導くことをRT-PCRで確認した(図4C)。
 図4Cは、Wnt/βcateninシグナリングの活性化(試 薬)でインシュリン遺伝子の発現が上昇し(Wnt3 ,GSK3beta-inhibitor)、対照的にWnt/βcateninシグナリ ングの不活性化(DnWnt;ドミナントネガティブWn t,βcatenin shRNA)でインシュリン遺伝子の発現 起きないことを示している。
 NeuroD1のプロモーター上のTCF/LEF転写因子結 部位のクロマチンの活性化(Anti-Acetyl HistoneH3 )がWnt3で誘導されること、さらにNeuroD1がイン シュリン遺伝子の活性化(インシュリン遺伝 のプロモーター上のNeuroD1認識結合部位(E-box) )部位へ、直接結合し、クロマチン(染色体)の 活性化(Anti-Acetyl HistoneH3)を誘導する)を導く とを示した(図4D)。
 これらのことから、成体膵臓幹細胞を未分 状態に保つコントロール因子と共に、その 化制御におけるコントロール因子も、成体 経幹細胞からの神経再生制御機構ときわめ 共通性が高いことが実証された。
 したがって、Wnt3a自身及びWnt/βcateninシグナ ングを活性化する物質は、成体膵臓幹細胞 前駆β細胞、さらにはβ細胞へと分化させる β細胞分化誘導剤となると同時に、インシュ ン遺伝子発現を活性化することができるこ から、これらの物質を、インシュリン産生 強用医薬組成物、糖尿病用治療薬(下記7.な で詳細に述べる。)として用いることができ る。具体的には、Wnt3a自身、GSK3βインヒビタ 、リチウム塩(リチウムはWntシグナルを特異 的に活性化することで知られている)、及びβ カテニンを用いることができる。なお、β細 への分化効果、インシュリン産生増強効果 いずれに関しても、神経細胞の分化誘導剤 して知られるRA(+FA,KCl)、AzaCとVPAもWnt3aやWnt グナル活性化剤と同様な作用がある(図3F)。

 Wntは、細胞外に分泌され、細胞間のシグナ 伝達を司るタンパク質として複数種類(哺乳 類では19種類)存在し、線虫、ショウジョウバ エからヒトに至るまで生物種を超えて保存さ れている。ノックアウトマウスの解析により Wntは発生初期における体軸形成や器官形成に 必須な、生物学的に重要なタンパク質である 。Wntにより活性化される細胞内シグナル伝達 機構には、(1)βカテニン経路、(2)平面内細胞 性(PCP)経路(細胞骨格制御)、及び(3)Ca 2+ 経路(細胞運動制御)の3種類が存在するが、本 発明において「Wntシグナル伝達機構」という ときは、βカテニン転写因子(非特許文献8)を した「βカテニン経路」を指す。
 Wnt3aは、典型的なWntであり、幹細胞、特に 血幹細胞の増殖および自己再生を含む多数 発達イベントに関与することが知られてお 、本発明において、成体膵臓幹細胞からβ細 胞への分化を誘導する物質であることが見出 された。
 Wnt3aをインシュリン産生β細胞への分化誘導 剤として用いる場合、成体の膵臓組織に対し て、Wnt3aタンパク質、又はWnt3a遺伝子を含む 現ベクターなどを直接導入することも考え れるが、Wnt3aタンパク質、又はWnt3a遺伝子を 法により作用させた成体膵臓幹細胞、β前 細胞を膵臓組織に移植する手法が好ましい
 その際に用いるWnt3aタンパク質としては、 体試料から精製されたもの、化学合成され ものや遺伝子組み換えによって製造された のを用いることができ、市販Wnt3aを用いるこ ともできる。Wnt3aは保存性が高いので、由来 生物種はいずれのものであってもよいが、 薬製剤として用いる場合は対象生物種と同 の生物種由来のものが好ましい。また、Wnt3 aタンパク質におけるWntシグナル伝達機構に 与する領域は古くから研究され、ほぼ解明 れており(非特許文献9)、当該領域が含まれ いれば、Wnt3aタンパク質及びその遺伝子の全 長でなく部分配列であってもよい。
 Wnt3a遺伝子を細胞、組織に導入する際には 生来のプロモーターと共に、もしくは強力 公知プロモーター(例えばCAGプロモーターやC MVプロモーター)などに繋いで、生理学的に受 容可能なキャリアと共にそのまま導入しても よいが、通常は遺伝子治療用に用いられる各 種の公知ウイルスベクター(例えば、アデノ 伴ウイルス(AAV) ベクターやレンチウイルス クター)を用いて導入することができる。
 なお、「Wnt3a遺伝子」というとき、Wnt3aタン パク質をコードするDNA又はmRNAを指し、Wnt3a遺 伝子配列は、公知のデータベースから入手可 能であり、例えばヒトWnt3a遺伝子は、NM_033131( Gene Bankアクセッションナンバー)、マウスWnt3 a遺伝子はNM_009522(Gene Bankアクセッションナン バー)である。
 また、公知のWnt3a活性化剤(Wnt3aの活性を増 させるような化合物やWnt3a 転写を活性化す ような化合物)、例えば、Wntのシグナル伝達 機構を促進することが知られているグリコー ゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)インヒビタ であるAR-A014418(J. Biol. Chem., Vol. 278, No. 46 , p45937-45945, 2003)やCT 99021 - CHIR 99021(Axon Li gands社製やSTEMGENT社製)、リチウム塩(Lithium Chl oride, Wakoやシグマ社製;)βカテニン(Proc.Natl.Aca d.Sci. USA, Vol.97. 4262-4266, 2000 )を用いること ができる。また、図3Dに示されるインシュリ 遺伝子発現増強効果が確認された、レチノ ン酸(RA)は単独でも、フォスフォコリン(FSK) 共に、さらにKCl塩と共に用いることができ 神経分化誘導剤のバルプロ酸ナトリウム(VPA )や5AzaCも用いられる。
 なお、本発明の実施例4で用いた、Wnt3aのド ナントネガティブタンパク質(dnWnt)は、Wnt3a 作用領域を改変して機能不全タンパク質を ードする遺伝子をレンチウイルスベクター( Lie DC et al. Nature 437, 1370-1375. (2005))に組み 込み発現させたものを用いている。

6.成体膵臓幹細胞を用いた、膵臓細胞移植治 方法について
 成体の膵臓の膵尾部分に多く含まれる膵島 抽出し、上記成体膵臓幹細胞を樹立する。 販のコラーゲンシート(例;コラーゲンビト ゲル(旭テクノグラス株式会社))などの生体 合性シート上で前記4.(a)に示したβ細胞分化 促す薬剤(すなわち、神経系細胞分化を促進 する薬剤)による処理を施して培養し、複数 成体膵臓幹細胞培養コラーゲンシートを、 者本人の膵臓に移植して戻す方法が考えら る。例えば重度の合併症を起こす前の糖尿 患者などが対象としてあげられる。患者本 の細胞を使うため、ドナーや移植に伴う拒 反応の心配が無い。β細胞分化を促す薬剤処 理としては、上述の神経分化を促進する薬剤 (1μMのretinoic acid(RA、シグマ社製)、5μMのforsko lin(FSK、シグマ社製)及び40 mMのKCl(WAKO社製)や 後述のWntシグナリングを活性化する薬剤遺 子(Wnt3A,beta-catenin,GSK3betaインヒビター、リチ ウム塩など)、またこれまでに開発されてい 神経分化を誘導する薬剤(抗てんかん薬とし 知られるVPA;バルプロ酸ナトリウム、TSA;ト コスタチンA)などがあげられる。
 また、シートを用いる手法の他、成体膵臓 細胞を、遠心分離した細胞単独で、又は上 神経分化を促進もしくは誘導する薬剤を含 する培養液と共に、注射器などにより膵臓 織(患部)に直接注入する手法を採ることも きる。

7.インシュリン増強用医薬組成物、又は糖尿 治療薬としての製剤化、及び投与方法
 特に、インシュリンを産生するβ細胞への 化作用のある、RA(+FSK,KCl)、VPA、5AzaCなどの神 経分化誘導剤、Wnt3aもしくはその活性化剤(GSK 3βインヒビター、リチウム塩)、は、分化後 インシュリン産生も増強できるので、糖尿 用治療薬として有効であり、I型糖尿病用、I I型糖尿病用のいずれにも効果が期待できる
 本発明の医薬組成物は、移植用の成体神経 細胞と共にこれらの神経分化誘導剤を膵臓 患部に直接注入するか、又はin vitroで成体 経幹細胞又はそれを分化させた前駆β細胞 どに注入して移植する方法を用いることも きる。一般的には、コラーゲンシートなど 植用の生体適合性シート上で成体神経幹細 を分化誘導剤と共に培養し、β前駆細胞にま で分化させた後にシートごと患部に移植する のが最も効率的であるので、その際の培地中 に添加するか、その成体神経幹細胞に導入す るのが一般的である。本発明で生体適合性シ ートというとき、典型的にはコラーゲンシー トであるが、コラーゲンマトリックスやコラ ーゲンスポンジを用いることもでき、その際 の材質としては生体適合性材料製、例えば周 知の生体適合性合成樹脂製であってもよい。
 したがって、本発明でインシュリン増強用 薬組成物、糖尿病再生治療用組成物という き、単に成体神経幹細胞を有効成分とする 薬組成物のみならず、移植用シート上の成 膵臓幹細胞も含めた移植用キットを含む場 、さらに上述のβ細胞分化誘導剤を含む場 も包含し、さらに、成体神経幹細胞をあら じめ移植用シート上で、上述のβ細胞分化誘 導剤存在下で培養し、β前駆細胞にまで分化 せた状態の移植用シート上の細胞を含める ともある。
 そして、いずれの場合も、好ましくは通常 注射製剤などと同様、無菌の水溶液に溶解 又は懸濁し、薬学的に許容される安定化剤 等張化剤、緩衝剤などが配合される。また 遺伝子製剤の場合は、常法に従い、核内に 伝子を運搬するためのキャリアが併用され ことが好ましい。生理学的に受容可能なキ リアとしては、リポフェクタミン(Invitrogen )などの遺伝子導入用カチオン性脂質などが る。
 遺伝子を細胞、組織に導入する際には、生 のプロモーターと共に、もしくは強力な公 プロモーター(例えばCAGプロモーターやCMVプ ロモーター)などに繋いで、生理学的に受容 能なキャリアと共にそのまま導入してもよ が、通常は遺伝子治療用に用いられる各種 公知ウイルスベクター(例えばレトロウイル ベクター、アデノウイルスベクター、アデ 随伴ウイルスベクターなど)を用いて導入す る。
 また、公知のインシュリン製剤又はアディ ネクチン製剤などの公知インシュリン産生 強剤を併用することもできる。
 本発明の医薬有効投与量および投与回数は 目的とする治療効果、投与方法、治療期間 年齢、体重等により異なるが、通常成人1日 当たり1μg/kg~10mg/kgである。

8.成体膵臓幹細胞を用いた、神経系再生用移 治療方法について
 成体の膵臓の膵尾部分に多く含まれる膵島 部分結紮して抽出し、そこから本件の技術 用いて成体膵臓幹細胞を樹立する。コラー ンシート上で本件に記述されたようなβ細 分化を促す薬剤処理を施して培養し、複数 成体膵臓幹細胞培養コラーゲンシートを、 者本人の神経疾患部位に移植して戻す方法 考えられる。また、コラーゲンシートを用 ずに、この細胞培養物を神経損傷部位に直 インジェクションする方法も考えられる。 述と同様、患者本人の細胞を使うため、ド ーや移植に伴う拒絶反応の心配が無い。神 分化を促す薬剤処理としては、上述の神経 化を促進する薬剤(1μMのretinoic acid(RA,シグマ 社製)、5μMのforskolin(FSK、シグマ社製)及び40 m MのKCl(WAKO社製))や、後述のWntシグナリングを 性化する薬剤遺伝子(Wnt3A,beta-catenin,GSK3betaイ ンヒビターなど)、またこれまでに開発され いる神経分化を誘導する薬剤(抗てんかん薬 して知られるVPA;バルプロ酸ナトリウム、TSA ;トリコスタチンA)なども用いることができる 。

9.成体神経幹細胞を用いた、膵臓細胞移植治 方法について
 前記2.のように樹立された成体神経幹細胞 、上記4.で述べたと同様、例えばβ細胞分化 促す薬剤(すなわち、神経分化を促進する薬 剤)による処理を施したコラーゲンシート上 培養する。次いで、複数の成体神経幹細胞 養コラーゲンシートを、成体の膵臓組織に 植して戻す。例えば、重度の合併症を起こ 前の糖尿病患者などを対象とすることもで 、その場合は患者自身の成体神経幹細胞を いることで、拒絶反応の心配のない再生医 が可能となる。β細胞分化を促す薬剤処理と しては、神経分化を促進する薬剤(1μMのretinoi c acid(RA、シグマ社製)、5μMのforskolin(FSK、シ マ社製)及び40 mMのKCl(WAKO社製))や、Wntシグナ リングを活性化する薬剤遺伝子(Wnt3A,beta-cateni n,GSK3betaインヒビターなど)、またこれまでに 発されている神経分化を誘導する薬剤(抗て んかん薬として知られるVPA;バルプロ酸ナト ウム、TSA;トリコスタチンA)なども用いるこ ができる。
 また、シートを用いる手法の他、成体神経 細胞の培養液に、上記神経分化を促進又は 導する薬剤を添加した後、当該培養液と共 注射器などにより患部に直接注入する手法 採ることもできる。

 以下、実施例により本発明を具体的に説明 るが、本発明は特にこれら実施例に限定さ るものではない。
 なお、本発明の実施例で用いた遺伝子組換 技術、PCR法、その他の手法などの具体的な 順や条件は、特に断らない限り、Sambrook and  Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd Edit ion.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Plainview,NY(200 1)、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989); D. M. Glover et al. ed., "DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practica l Approach Series), IRL Press, Oxford University Pres s (1995); Ausubel, F. M. et al., Current Protocols  in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New Yor k, N.Y, 1995;日本生化学会編、「続生化学実験 講座1、遺伝子研究法II」、東京化学同人 (198 6);日本生化学会編、「新生化学実験講座2、 酸 III(組換えDNA技術)」、東京化学同人 (1992 ); R. Wu ed.,"Methods in Enzymology", Vol. 68 (Recom binant DNA), Academic Press, New York (1980); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 100 (Reco mbinant DNA, PartB) & 101 (Recombinant DNA, Part C), Academic Press, New York (1983); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 153 (Recombinant  DNA, Part D), 154 (Recombinant DNA, Part E) & 1 55 (Recombinant DNA, Part F), Academic Press, New Yo rk (1987)などに記載の方法あるいはそこで引 された文献記載の方法またはそれらと実質 に同様な方法により行うことができる。
 また、本発明で引用した先行文献又は特許 願明細書の記載内容は、本明細書の記載と て組み入れるものとする。

(実施例1) 成体内の神経幹細胞及び膵臓幹細 胞の存在の確認
 Sox2遺伝子は、ES細胞でも発現する非常に高 未分化性を保持する転写因子であり、多能 を有する幹細胞の存在を確認するマーカー なる。脳内の神経幹細胞存在領域として広 知られている海馬領域でのSox2遺伝子の発現 も周知であった。この実施例1では、Sox2プロ ーターにレポーター遺伝子であるEGFPを連結 し、導入したトランスジェニックマウスを観 察したところ、当該マウスの脳と膵臓で、そ の発現を確認した。その際の組換えベクター の製法、導入量などの実験条件は、非特許文 献5に従った。また、同時に、両臓器の分化 た神経細胞及び、β細胞がともにインシュリ ンを発現していることも確認した(図1、上図 点線枠内の細胞がインシュリン抗体陽性、 印で示した細胞がSox2遺伝子を発現している 成体幹細胞)。神経細胞とβ細胞は成体ではNRS F/RESTという転写因子を発現しており(矢印)、 のNRSF/REST発現陽性の細胞がインシュリン(同 じ矢印で示した細胞。インシュリンは細胞質 、NRSF/REST転写因子は核内)を発現しているこ が分かる(図1、下段)。

(参考例1) 膵臓からの幹細胞含有細胞成分の 採取
 Fisher344成体ラット(7週齢)から成体膵臓を取 出し、ブレードカッターにより十分なマイ ロダイセクションを施した後、コラゲナー を添加した神経幹細胞培養用培地[DME/F12,high  glucose(1mM L-glutamine)、N2 supplement添加,Antibioti c-Antimicotic添加]中で、37℃のCO 2 インキュベーター内で30分から45分間、定期 に撹拌しながら細胞を懸濁した。次いで、 胞成分を遠心処理で集め(遠心数1000rpm、2分) 新たなコラゲナーゼ入り神経幹細胞培養用 地で洗浄し、当該培地中で撹拌懸濁する、 いう工程を計3回繰り返した。

(参考例2) 膵臓幹細胞の樹立
 参考例1の方法により得られた、1000rpmで2分 遠心後の細胞成分を、神経幹細胞を培養す 際に用いる、特殊コートを施した培養用デ ッシュ[市販の細胞培養用ディッシュ/プレ トを、PORN(poly-L-ornithine)で24時間室温でコー (第1コート)し、その後滅菌済み超純水で2回 上洗浄し、LamininをPBSに溶解した第2コート で37℃のCO 2 インキュベーター内で24時間コートしたもの] に撒いた。
 細胞増殖を上昇させるため、10%FCSと100ng/mL  FGF2を添加した神経幹細胞培養用培地と、100ng /mL FGF2および100ng/mL EGF2を添加した神経幹細 培養用培地、100ng/mL FGF2のみを添加した神 幹細胞培養用培地中で、細胞培養を行った 数日後に全ての条件下から新たな細胞の増 が開始されたことを確認した。最も増殖が 進された,10%FCSと100ng/mL FGF2を添加した神経 細胞培養用培地での培養は、一週間後にFCS 添加を中止してFGF2のみの添加に切り替えた これは神経幹細胞の樹立の際に用いられる 法で、一旦増殖を開始させた神経幹細胞は2 0ng/mLのFGF2存在下で未分化性を効率よく維持 きる知見に基づく。しかし、同様に神経幹 胞の未分化維持に効果があるとされるEGF2に いては、膵臓幹細胞の培養培地中に添加し みても、FGF2の場合のような効果は見られな かった(図示せず)。
 樹立した成体膵臓幹細胞は20 ng/mLFGF2を添加 した神経幹細胞培養用培地(DME/F12, high glucose  (1mM L-glutamine)、N2 supplement添加, Antibiotic-Ant imicotic添加)で培養し、継代可能であることも 確認した(図6、P1)。

(参考例3) 成体膵臓幹細胞の分化制御機構の 解析
 参考例2で樹立した成体膵臓幹細胞を用いて 、分化制御機構の解析を行った。神経幹細胞 はSox2遺伝子を発現し、多能性を保持した未 化状態に保つことができる。樹立した膵臓 細胞を、神経幹細胞の分化調節制御機構を 考に、未分化状態と分化状態に分けて免疫 色解析を行った(図3A、図3G)。
 FGF2存在下では、成体膵臓幹細胞は神経幹細 胞と同様にSox2遺伝子を発現し、β細胞が発現 するインシュリンやα細胞が発現するGlucagon 伝子を発現していないことを抗Sox2抗体、抗 ンシュリン抗体(guinea pig anti-Insulin;1:300; Si gma社製、以下同様。)及び抗Glucagon抗体(mouse a nti-Glucagon ;1:300, Immuno社製、以下同様。)を用 いる免疫染色法で確認した。
 次いで、膵臓幹細胞を神経分化条件下(非特 許文献4、5)の神経分化条件下、すなわち1μM  のretinoic acid (RA、シグマ社製)、5μMのforskolin (FSK、シグマ社製)及び40 mMのKCl(WAKO社製)を含 DME/F12,high glucose(1mM L-glutamine)、N2 supplement 加、Antibiotic-Antimicotic添加培地([RA+FSK+KCl])を いて培養すると、β細胞への分化が促進され 、インシュリン遺伝子の発現の上昇とともに 、細胞表面に神経突起のようなプロセスを伸 長させた。
 δ細胞特異的なソマトスタチン遺伝子の発 の上昇も抗ソマトスタチン抗体(rat anti-Somato statin;1:300,Chemicon社製、以下同様。)で確認で た。
 一方、細胞をアストロサイト分化条件下(非 特許文献4-6による。)のアストロサイト分化 件下、すなわち50 ng/mLのLIF(WAKO社製)及び50 n g/mLのBMP(WAKO社製)を含む培地を用いて培養す と、α細胞への分化が促進され、Glucagon遺伝 の発現が上昇した(抗Glucagon抗体により確認) 。この際、幾つかの膵島構造が出現し、一部 でγ細胞の発現も上昇することがPancreatic poly peptide遺伝子の免疫染色解析から確認できた γ細胞含有度を高めたければ、オリゴデンド ロサイト細胞分化条件(500ng/mL IGF-I(WAKO社製) りのDME/F12,high glucose (1mM L-glutamine)、N2 suppl ement添加, Antibiotic-Antimicotic添加培地)を用い 。
 これらの抗体によるタンパク質の発現のみ なく、細胞抽出RNAを用いたRT-PCRからも、未 化、β細胞誘導、α細胞への誘導が行えるこ と、その条件が神経幹細胞の未分化性の維持 (FGF2存在下)、神経分化誘導(RA+FSK+KCl)、アスト ロサイト分化誘導(グリア細胞誘導;LIF+BMP)条 を疑似する条件で行えることを実証した(図3 B)。
 さらに、未分化状態ではα細胞、β細胞、δ 胞、γ細胞の指示マーカーが陰性であるこ に比較し、分化誘導下では対照的に全ての 化経路マーカーの発現が上昇することから 樹立した細胞が膵臓幹細胞の多能性を保持 ていることを示した。図3Cの免疫組織染色解 析により、δ細胞(ソマトスタチン)は脳神経 のInterneuron(興奮性の神経刺激を抑制する神 )に特異的な分布を示し、δ細胞が神経誘導 件下で発現が上昇する背景が判明した。さ に、γ細胞(Pancreatic polypeptide)は、脳神経で リゴデンドロサイトのマーカーであるGSTπと 疑似する分布を示し、γ細胞がグリア細胞誘 条件下で発現が上昇する背景も判明した。 れらの知見は、脳神経の細胞群(神経幹細胞 、神経細胞、オリゴデンドロサイト細胞、ア ストロサイト細胞)と膵臓内分泌系の細胞群( 臓幹細胞、β細胞、α細胞、δ細胞、γ細胞) 発現する遺伝子に非常に高い相関が有る学 的意義を示しており、β細胞誘導には、従 の神経促進/誘導薬が転化使用できることを 唆している。レポーターとしてルシフェラ ゼ遺伝子をインシュリンプロモーターの下 に連結したアッセイ系で解析したところ、 際に、RA+FSK+KClという神経分化促進条件のみ でなく、RA単独、RA+FSK、VPA、5AzaC、Wnt3などの の神経分化促進薬剤を用いた場合でも、イ シュリンプロモーターの活性が上昇するこ が、本発明の膵臓幹細胞培養系(神経幹細胞 培養用培地中)での培養により確認できた。( 3F)。

 参考例1~3にあるように、成体膵臓幹細胞( Sox2遺伝子陽性)からはα細胞、β細胞、δ細胞 γ(PP)細胞が分化して形成される。神経幹細 (Sox2遺伝子陽性)からはアストロサイト細胞 神経細胞、オリゴデンドロサイト細胞の三 が分化して形成される。膵臓の膵島を構成 る内分泌系の細胞で、インシュリンを産生 るβ細胞への分化誘導技術や幹細胞移植は 膵臓ガンや糖尿病への画期的な医療法とし 期待される。膵臓に存在する幹細胞からβ細 胞への分化制御機構は、その転写因子の発現 変遷や制御機構が、神経幹細胞からの神経細 胞への分化過程と非常に高い相関性を示すこ とが、我々の解析から明らかになった(図2A、 模式図)。

(実施例2) 成体内の神経幹細胞及び膵臓幹細 胞の培養工程と分化工程の類似性
(2-1) 未分化状態を維持した培養
 Sox2遺伝子は未分化状態を保つ機能をもつが 、FGF2というgrowth factor存在下で培養すること で、神経幹細胞及び膵臓幹細胞のいずれもの 未分化状態が維持される。神経幹細胞と膵臓 幹細胞を、神経幹細胞を培養する条件で培養 し、細胞からtotal RNAを抽出、精製し、RT-PCR(m RNAの発現を調べる分子生物学的手法)を行っ 結果を図2Bに示す。具体的な培養条件は、DME /F12培地中, high glucose(1mM L-glutamine)、N2 supple ment添加, Antibiotic-Antimicotic添加という条件で ともに、特殊コート[市販の細胞培養用ディ ッシュ/プレートを、PORN(poly-L-ornithine)で24時 室温でコート(第1コート)、その後滅菌済み 純水で2回以上洗浄し、LamininをPBSに溶解した 第2コート液で、37度CO2インキュベーター内で 24時間コートしたもの]を施した培養用ディッ シュ上で培養した。この条件で、両細胞はFGF 2というgrowth factor存在下でSox2遺伝子を発現 る(図2B、上から2段目)。
 細胞増殖を上昇させるため、両細胞に対し 、10%FCSと100ng/mL FGF2を添加した神経幹細胞 養用培地と、100ng/mL FGF2および100ng/mL EGF2を 加した神経幹細胞培養用培地、100ng/mL FGF2 みを添加した神経幹細胞培養用培地中で、 胞培養を行った。数日後に全ての条件下か 新たな細胞の増殖が開始されたことを確認 た。一旦増殖を開始させた神経幹細胞につ ては、10%FCSに加えて20ng/mLのFGF2を存在させる ことで、未分化性を効率よく維持できる。膵 臓幹細胞培地についても最も増殖が促進され たクローンに対し、10%FCSと100ng/mL FGF2を添加 た神経幹細胞培養用培地で培養した。両者 も、一週間後にFCSの添加を中止してFGF2のみ の添加に切り替えた。なお、神経幹細胞の場 合は、FGF2に代えてEGF2を用いても同様に未分 維持に効果があるが、膵臓幹細胞の培養培 中に添加してみても効果は見られなかった( 図示せず)。
 樹立した成体膵臓幹細胞について、20 ng/mLF GF2を添加した神経幹細胞培養用培地(DME/F12,hig h glucose (1mM L-glutamine)、N2 supplement添加、Anti biotic-Antimicotic添加)で培養し、継代可能であ ことも確認した(図6、P1)。

(2-2) 分化制御機構の解析
 成体神経幹細胞と共に成体膵臓幹細胞が樹 できたため、両者の分化制御機構の解析を った。
 多能性を保持した未分化状態に保つことはS ox2遺伝子の発現により確認できるので、非特 許文献1に記載される公知の神経幹細胞の分 調節制御機構を参考に、樹立した神経幹細 及び膵臓幹細胞について、未分化状態と分 状態に分けて免疫染色解析を行った。
 FGF2存在下では、成体膵臓幹細胞は神経幹細 胞と同様にSox2遺伝子を発現し、β細胞が発現 するインシュリンやα細胞が発現するGlucagon 伝子を発現していないことを抗Sox2抗体、抗 ンシュリン抗体(guinea pig anti-Insulin;1:300;Sigm a社製、以下同様。)及び抗Glucagon抗体(mouse ant i-Glucagon;1:300,Immuno社製、以下同様。)を用いる 免疫染色法で確認した。
 次いで、神経幹細胞及び膵臓幹細胞を神経 化条件下(非特許文献4、5)の神経分化条件下 、すなわち1μM のretinoic acid(RA、シグマ社製) 、5μMのforskolin(FSK、シグマ社製)及び40 mMのKCl (WAKO社製)を含むDME/F12,high glucose(1mM L-glutamine) 、N2 supplement添加, Antibiotic-Antimicotic添加培地 ([RA+FSK+KCl])を用いて培養すると、β細胞への 化が促進されることが、細胞抽出RNAを用い RT-PCRから判明した(図2B)。両成体幹細胞を神 分化に導く条件(RA+FSK+KCl)下で培養すると、I nsulin、β-III tubulin、ソマトスタチン遺伝子の 発現が上昇する(図2B)。
 両細胞で、δ細胞特異的なソマトスタチン 伝子の発現の上昇も抗ソマトスタチン抗体(r at anti-Somatostatin;1:300,Chemicon社製、以下同様。 )で確認できた。ソマトスタチンは、膵臓で δ細胞だが、脳神経系では神経伝達の上で、 刺激に対して抑制性の機能を示すinterneuronと う神経細胞の一種に相当することが分かっ (図2C)。
 一方、両細胞をアストロサイト分化条件下( 非特許文献4-6による。)のアストロサイト分 条件下、すなわち50 ng/mLのLIF(WAKO社製)及び50  ng/mLのBMP (WAKO社製)を含むDME/F12、high glucose( 1mM L-glutamine)、N2 supplement添加、Antibiotic-Antimi cotic添加培地を用いて培養すると、α細胞へ 分化が促進され、Glucagon遺伝子の発現が上昇 した(抗Glucagon抗体により確認)。この際、幾 かの膵島構造が出現し、一部でγ細胞の発現 も上昇することがPancreatic polypeptide遺伝子の 疫染色解析から確認できた。γ細胞含有度 高めたければ、オリゴデンドロサイト細胞 化条件(500ng/mL IGF-I(WAKO社製)入りのDME/F12, hig h glucose(1mM L-glutamine)、N2 supplement添加、Antibi otic-Antimicotic添加培地)を用いる。このように 両成体幹細胞を、グリア細胞に分化させる 件下(グリア細胞誘導;LIF+BMP)で培養すると、 グルカゴン(α細胞のマーカー遺伝子)、GFAP(ア ストロサイト細胞のマーカー遺伝子)、Pancreat ic polypeptide(γ細胞のマーカー遺伝子)という 伝子が上昇することが分かった(図2B)。Pancrea tic polypeptide、膵臓ではγ細胞だが、脳神経系 ではオリゴデンドロサイト細胞に特異的なGST πという抗体で共に染色されることが分かっ (図2C)。

(2-3) 神経幹細胞の分化誘導
 細胞抽出RNAを用いたRT-PCR以外にも、免疫組 染色解析(図2C、図3A~3D)からも、脳神経の細 群(神経幹細胞、神経細胞、オリゴデンドロ サイト細胞、アストロサイト細胞)と膵臓内 泌系の細胞群(膵臓幹細胞、β細胞、α細胞、 δ細胞、γ細胞)の発現する遺伝子に非常に高 相関が有ることが示された。さらに、図3F 示すように、インシュリンを産生するβ細胞 への分化誘導には、従来の神経促進/誘導薬 転化使用できることが分かった。上述したRA +FSK+KClという神経分化促進条件のみでなく、 の神経分化促進薬剤(RA単独、RA+FSK、VPA、5Aza C、Wnt3などの薬剤)でもインシュリンプロモー ターの活性が上昇することが膵臓幹細胞培養 系で明らかになった(図3F)。
 これは、神経分化を促進する試薬、または 経疾患の治療薬の、膵臓疾患への転化応用 可能性が高いことを示す。

(2-4) 成体膵臓幹細胞の分化制御におけ る、神経再生制御機構との類似性
 上記実施例(2-1)で樹立した両幹細胞に対し 、さらに詳細な分子制御機構の解析を行っ 。Wnt3は脳内の神経新生領域で、アストロサ ト細胞(GFAP陽性)が発現する分泌タンパク質 、この効果により神経幹細胞は神経新生を 始し、ニューロブラストと言う神経新生細 (NeuroD1陽性)を産生する物質であるが、このW nt3が膵臓の膵島α細胞(GFAP,Glucagon陽性)で発現 ていることが分かった(図4A)。
 また、膵臓の内分泌系は、脳内神経系と非 に高い相関が有り、β細胞内で新生してい 細胞は、NeuroD1陽性であるという共通点が有 (図3C-E)。NeuroD1のプロモーター上には、Wnt/β cateninシグナリングで活性化されるβcatenin/TCF/ LEF転写因子が認識して結合する配列がヒト- ット-マウスで保存されている。Wnt/βcateninシ グナリングで重要となるβcateninタンパク質の 安定化が、初期神経誘導条件下(ニューロブ スト産生状態)で起きていることを、ウエス ンブロッティングで確認した(図4B)。
 さらに、NeuroD1遺伝子、インシュリン遺伝子 の活性化にWntが必須であり、Wnt3が両遺伝子 活性化を導くことをRT-PCRで確認した(図4C)。 4Fは、Wnt/βcateninシグナリングの活性化(試薬 )でインシュリン遺伝子の発現が上昇し(Wnt3,GS K3beta-inhibitor)、対照的にWnt/βcateninシグナリン グの不活性化(DnWnt;ドミナントネガティブWnt, catenin shRNA)でインシュリン遺伝子の発現が きないことを示している。
 NeuroD1のプロモーター上のTCF/LEF転写因子結 部位のクロマチンの活性化(Anti-Acetyl HistoneH3 )がWnt3で誘導されること、さらにNeuroD1がイン シュリン遺伝子の活性化(インシュリン遺伝 のプロモーター上のNeuroD1認識結合部位(E-box) )部位へ、直接結合し、クロマチン(染色体)の 活性化(Anti-Acetyl HistoneH3)を誘導する)を導く とが示された(図4D)。
 これらのことから、成体膵臓幹細胞を未分 状態に保つコントロール因子と共に、その 化制御におけるコントロール因子も、成体 経幹細胞からの神経再生制御機構ときわめ 共通性が高いことが実証された。

(実施例3) 神経幹細胞の膵臓への移植応用
 膵臓幹細胞からのβ細胞分化制御が、神経 細胞からの神経細胞分化制御と非常に高い 似性を持つこと、インシュリンは膵臓だけ なく脳内にも産出されており、本来学習機 の向上等に必要とされていることなどから 神経幹細胞が膵臓の内分泌系に組み込まれ かどうか(転移分化)、移植実験を行った。移 植する神経幹細胞が追跡できるよう、マーカ ーとしてGFP(蛍光を発するタンパク質)を選択 た。GFP発現カセットがゲノムに安定に組み まれた神経幹細胞株を作製した。10 7 -10 8 個の細胞を、Fisher344成体ラット(7-8週齢)の膵 にマイクロインジェクションした。3週間飼 育後、膵臓を抽出してGFPを発現している神経 幹細胞由来の移植生細胞を、マイクロトーム を用いて作製した脳切片上で探索した。共焦 点顕微鏡を用いた免疫組織染色解析により、 成体神経幹細胞が、分化制御機構の非常に似 通った膵臓内分泌系に効率よく取り込まれる こと、インシュリンを産生するβ細胞に転移 化できることがin vivoで示された(図5A)。

(実施例4) 糖尿病等膵臓疾患を標的とした再 生医療への応用
 さらに、糖尿病に対する治療効果を調べる めに、神経幹細胞をII型糖尿病のモデルラ ト(GKラット)の膵臓に移植した。効率よい移 を促すために、コラーゲンシート上の培養 行い(図5B)、神経幹細胞、ニューロブラスト (神経分化の初期状態)の培養が問題なく行え こと、およびコラーゲンシート上でも、イ シュリンプロモーター活性が神経分化誘導 件下で、上昇することを確認した(図5B、右 ラフ)。この神経幹細胞などを培養したコラ ーゲンシートを糖尿病のモデルラットの膵臓 に移植し、血糖値の変遷を測定したグラフを 図5Cに示す。図5Cから分かるように、神経幹 胞、ニューロブラストを移植した全ての系 、手術後に血糖値の低下が確認された。さ に、コラーゲンシートが無い場合に比べ、 ラーゲンシート上のニューロブラストを移 したケースが、最も効率の良い血糖値の低 が見られた。
 以上の研究成果から、胎生期の発生段階で い隔たりのある外胚葉系の神経細胞と、内 葉系の膵細胞が、成体でインシュリンを必 とする脳内(学習機能)と膵臓(血糖値低下)の 内分泌系器官で、『インシュリンを産生』す るという共通の役割を満たすため、非常に良 く似た制御機構によって成体幹細胞から生み 出されていることと、神経幹細胞の糖尿病治 療への利用が可能であることが実際に疾患モ デル動物を用いたin vivoレベルで証明された

(参考例4) (成体)膵臓幹細胞の、脳神経(疾患 )へ効果的な移植応用
 膵臓幹細胞が、膵臓内分泌系β細胞、α細胞 、δ細胞、γ細胞に分化することに加え、神 細胞と非常に高い相似性を持つこと、イン ュリンは膵臓だけでなく脳内にも産出され おり、学習機能の向上等に必要とされてい ことなどから、膵臓幹細胞と神経幹細胞と 間に互換性がある可能性を想定し、樹立し 膵臓幹細胞が脳内神経系に組み込まれるか うかを調べた。移植する膵臓幹細胞が追跡 きるよう、マーカーとしてGFP(蛍光を発する ンパク質)を選択した。GFP発現カセットがゲ ノムに安定に組み込まれた膵臓幹細胞株を作 製した。10 6 -10 7 個の細胞を、Fisher344成体ラット(7-8週齢)の脳 馬領域に、Stereotaxic脳固定装置を用いてマ クロインジェクションした。5週間飼育後、 を抽出してGFPを発現している膵臓幹細胞由 の移植生細胞を、マイクロトームを用いて 製した脳切片上で探索した。共焦点顕微鏡 用いた免疫組織染色解析により、成体膵臓 細胞が、分化制御機構の非常に似通った脳 の神経系に効率よく取り込まれること、神 細胞に転移分化できることがin vivoで示さ た(図7)。

(実施例5) 糖尿病等膵臓疾患を標的とした再 生医療への応用(長期間試験)
 糖尿病に対する治療効果を調べるために、 経幹細胞をII型糖尿病のモデルラット(GKラ ト)の膵臓に移植した。前記実施例4と同様に 、効率よい移植を促すために、コラーゲンシ ート上の培養を行い(図5B、同様)、図5Cの短期 間試験で効果的な血糖値低下作用を示したニ ューロブラスト(神経分化の初期状態)の移植 試験を開始した。コラーゲンシート上にニ ーロブラストを培養し、複数枚数(3シート t2×10の8乗個の細胞数に最終的に相当)重ねた ものを糖尿病のモデルラットの膵臓の膵島部 に移植し、血糖値の変遷を測定したグラフを 図に示す。図5Cと同様、ニューロブラストを 植した系で、手術後に血糖値の低下が確認 れた。さらに、この効果は3ヶ月の長期の試 験に対しても有用であることが判明した。
 以上の研究成果から、成体神経幹細胞の培 系の糖尿病治療への利用が、疾患モデル動 を用いたin vivoレベルで証明された。