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Title:
POWER TRANSMISSION SHAFT
Document Type and Number:
WIPO Patent Application WO/2008/099689
Kind Code:
A1
Abstract:
A male spline section(Sm) is formed on the outer periphery of a power transmission shaft. A diameter expanded section (21b), whose outer diameter is gradually increased toward the side opposite the end of the shaft, is formed at each root (21) of the male spline section (Sm), at a portion on the side opposite the end of the shaft. Rounded sections (21b1) having a circular arc cross section are provided on both sides in the circumferential direction of the diameter expanded section (21b). The curvature radius of each rounded section (21b1) is gradually increased toward the side opposite the end of the shaft. The material of the power transmission shaft is steel having specified components, and the average diameter of former austenite grains after induction hardening and tempering of the material is not more than 10 μm or less.

Inventors:
MATSUBARA YUKIO (JP)
MORIMOTO HIROO (JP)
YOSHIDA KAZUHIKO (JP)
OMORI YASUHIRO (JP)
UWAI KIYOSHI (JP)
TOYOOKA TAKAAKI (JP)
Application Number:
PCT/JP2008/051681
Publication Date:
August 21, 2008
Filing Date:
February 01, 2008
Export Citation:
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Assignee:
NTN TOYO BEARING CO LTD (JP)
JFE STEEL CORP (JP)
MATSUBARA YUKIO (JP)
MORIMOTO HIROO (JP)
YOSHIDA KAZUHIKO (JP)
OMORI YASUHIRO (JP)
UWAI KIYOSHI (JP)
TOYOOKA TAKAAKI (JP)
International Classes:
F16D1/06; C21D9/28; C22C38/00; C22C38/32; F16C3/02
Domestic Patent References:
WO2008032626A12008-03-20
Foreign References:
JP2005147367A2005-06-09
JP2005314756A2005-11-10
JP2006138007A2006-06-01
Attorney, Agent or Firm:
TANAKA, Hideyoshi et al. (15-26 Edobori 1-chome,Nishi-k, Osaka-shi Osaka 02, JP)
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Claims:
 外周に雄スプライン部が設けられ、雄スプライン部の谷部の軸方向一端側にその外径寸法を徐々に拡径させた拡径部を有する動力伝達シャフトにおいて、
 前記雄スプライン部の拡径部の円周方向両側にアール部を設け、アール部の曲率半径を軸方向一端側に向けて徐々に大きくし、且つ、
C :0.4mass%以上、0.5mass%以下、
Si:0.35mass%以上、0.8mass%以下、
Mn:0.5mass%以上、0.8mass%以下、
Al:0.005mass%以上、0.05mass%以下、
Ti:0.005mass%以上0.05mass%以下、
Mo:0.3mass%以上、0.5mass%以下、
B :0.0005mass%以上、0.005mass%以下、
Cu:0.05mass%以上、0.5mass%以下、
S :0.005mass%以上、0.025mass%以下、
P :0.02mass%以下、
Cr:0.2mass%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物から成る鋼で形成され、この鋼の高周波焼入・焼戻後の硬化層表層における旧オーステナイト平均粒径が10μm以下であることを特徴とする動力伝達シャフト。
 トルクTが負荷されたときに、雄スプライン部の拡径部に作用する第1主応力、および軸方向のせん断応力の最大値をそれぞれσ 1max 、τ θzmax とし、トルクT、雄スプライン部の谷部の直径d o 、雄スプライン部の内径d i に対し、1)式で与えられる基準応力τ 0 とするとき、下記2)式と3)式を同時に満たす請求項1記載の動力伝達シャフト。
  τ 0 =16Td o /[π(d o 4 -d i 4 )]  …1)
  σ 1max ≦2.7τ o  …2)
  τ θzmax ≦2.1τ 0        …3)
 アール部の曲率半径の増加率をdR/dL、拡径部の軸方向断面の内径端と外径端を結ぶ直線の角度をθとするとき、それぞれの値が
  0.05≦dR/dL≦0.60、
  5°≦θ≦20°
の範囲にある請求項2記載の動力伝達シャフト。
 前記鋼の母材組織が組織分率で50%以上のベイナイト組織を有する請求項1~3の何れかに記載の動力伝達シャフト。
 前記鋼の高周波焼入・焼戻後の硬化層深さの軸半径に対する比である硬化層比が0.55以上である請求項1~4の何れかに記載の動力伝達シャフト。
 前記鋼の高周波焼入れ・焼戻後の硬化層表層の硬さがHV690以上である請求項1~5の何れかに記載の動力伝達シャフト。
Description:
動力伝達シャフト

 本発明は、雌側部材とスプライン(セレー ションも含まれる。以下、同じ)を介して結 される動力伝達シャフトに関する。

 近年、環境問題に対する関心の高まりか 、例えば自動車では排ガス規制の強化や燃 向上等が強く求められており、それらの対 の一環として、ドライブシャフト、プロペ シャフト等に使用される動力伝達シャフト もさらなる軽量化・強度向上が強く求めら ている。この種の動力伝達シャフトは、外 に雄側のスプラインが形成されると共に、 速自在継手の内側継手部材の内周面に雌側 スプラインが形成される。この動力伝達シ フトの外周の雄スプライン部と内側継手部 の内周面の雌スプライン部とが嵌合するこ により、動力伝達シャフトと内側継手部材 がトルク伝達可能に結合される。

 雄スプライン部を有する動力伝達シャフ には強度が要求されるため、通常は、素材 して鋼を用い、雄スプライン部を転造加工 プレス加工などによって成形した後、少な とも雄スプライン部を焼入れ硬化させて使 される。成形後の焼入れ硬化の方法として 、高周波焼入れによることが多いが、ずぶ 入れや浸炭焼入れによる場合もある。

 図8は、谷部100の反軸端側(図面左側)の端 を、外径寸法を徐々に拡径させた拡径部102 介して外周面(平滑部)101につなげた、いわ る切上がりタイプの雄スプライン部を示す 面図である。この形態の雄スプライン部の 労破壊は、通常、谷部100と拡径部102のつな 目付近もしくは拡径部102で生じる。その際 き裂発生モードは2つあり、1つはA部に集中 る引張応力によるもの、もう一つはB部に集 するせん断応力によるものである。鋼の場 、目安としてビッカース硬さ700を境に、そ 以下ではき裂発生が主としてせん断応力支 となり、それ以上でかつ片振り捩り疲労の 合は引張応力支配となる。

 これまで、雄スプライン部の疲労強度を向 させるための手段として、いくつかの方法 提案されている。例えば特許文献1では、拡 径部と歯面の境界を鈍化させて応力集中を緩 和する技術が開示されている。また、特許文 献2では、通常は一つの拡径部を軸方向に2つ 上並べて設けた高強度化技術が開示されて る。

特開2005-147367号公報

特表平11-514079号公報

 しかしながら、特許文献1に記載された技 術では、引張応力集中の緩和には効果が認め られるが、せん断応力集中の緩和効果は不充 分である。また、特許文献2の技術では、せ 断応力集中の緩和はできるが、引張応力集 の緩和効果は不充分である。このように、 裂発生を支配する2つの応力のどちらか一方 緩和できる技術は存在するが、双方を同時 緩和する技術は存在せず、さらなる疲労強 向上を実現するためには改良の余地があっ 。

 また、雄スプライン部の疲労強度が高めら たとしても、動力伝達シャフトを形成する 材自体の疲労強度が低いと、他の部分にき 等の疲労破断が生じる恐れがある。例えば 1に示すように、動力伝達シャフト2の両端 に等速自在継手J 1 、J 2 を結合する場合、動力伝達シャフト2のうち 継手が大きな作動角を取ったときに外側継 部材4、14の開口端部と干渉する部分に最小 部2a、2bを形成し、継手の作動角の高角化を ることがある。このとき、動力伝達シャフ 2のうち、比較的強度の低い最小径部2a、2b き裂等の疲労破断が生じる恐れがある。

 そこで、本発明では、動力伝達シャフト 雄スプライン部での引張応力とせん断応力 双方の応力集中を緩和させて雄スプライン の疲労強度の向上させると共に、動力伝達 ャフトを形成する素材自体の疲労強度を高 ることを目的とする。

 本発明者らは、平行部に切欠きを有する 験片を製作し、これを回転曲げ疲労試験と り疲労試験にそれぞれ供して、応力集中係 と疲労強度との関係を求めた。

 試験片としては、図9に示す化学成分の同 一ロットの中炭素鋼を用い、図10aおよび図11a に示す形状および寸法(単位mm)の試験片を製 した。図10aは回転曲げ疲労試験の試験片で り、図11aは捩り疲労試験の試験片である。 転曲げ疲労試験の試験片では、切欠き先端 曲率半径を0.10、0.15、0.25、0.50、1.40の5水準 し、それぞれの応力集中係数αを3.5、3.0、2.5 、2.0、1.5に設定した(図10c参照)。捩り疲労試 の試験片では、切欠き先端の曲率半径を0.15 、0.25、0.50、1.40の4水準とし、それぞれの応 集中係数αを3.0、2.5、2.0、1.5に設定した(図11 c参照)。これら全ての試験片に対し、切欠き 含む平行部に高周波焼入れを施した後に低 焼戻しを施した。何れの試験片も熱処理後 表面硬度は約HV650であった。

 先ず、回転曲げ疲労試験は、小野式回転 げ疲労試験機により、常温大気中で負荷周 数50Hzにて行った。

 回転曲げ疲労試験の結果、切欠きの水準に らず、切欠き底に沿ってき裂が発生して破 に至った。この場合のき裂発生モードは引 応力支配となる。破断に至るまでの負荷回 が10 5 を越える辺りまでは、応力振幅の減少に伴っ て疲労曲線が降下し、応力振幅が一定値を下 回ると破断しなくなる明瞭な疲労限現象を示 した。なお、ここでの応力振幅は、切欠きの 水準によらない公称応力振幅のことで、切欠 き底直径(φ6.5mm)を有する平滑丸棒に疲労試験 と同じ大きさの曲げモーメントを与えた時に 表面に作用する最大引張応力振幅を意味する 。

 図12に、上記回転曲げ疲労試験で得られた 力集中係数α σ と疲労限強度との関係を示す。図示のように 、α σ の減少に伴って疲労強度は向上したが、図中 に破線で示すように、α σ ≦2.7では疲労曲線の勾配が大きく、α σ を減少させた時の疲労強度の向上がより顕著 に現れることが判明した。

 次に、捩り疲労試験は、電気式油圧サー 疲労試験機により、トルク制御にて、常温 気中で負荷周波数2Hz、完全両振り(応力比R=- 1)の条件で行った。

 捩り疲労試験の結果、切欠きの水準によら 、切欠き底に沿ってき裂が発生して破断に った。この場合のき裂発生モードはせん断 力支配となる。両振り捩り疲労試験は負荷 数が最大で10 6 回近くになるまで行ったが、その範囲では応 力振幅の減少に伴って、疲労曲線が降下した 。なお、ここでの応力振幅は、切欠きの水準 によらない公称応力振幅のことで、切欠き底 直径(φ17mm)を有する平滑丸棒に疲労試験と同 大きさの捩りトルクを与えた時に表面に作 する最大せん断応力振幅を意味する。

 図13に、上記両振り捩り疲労試験で得られ 応力集中係数α τ と10 5 回における疲労強度との関係を示す。図示の ように、α τ の減少に伴って疲労強度は向上したが、図中 に破線で示すように、α τ ≦2.1では疲労曲線の勾配が大きく、α τ を減少させた時の疲労強度の向上がより顕著 に現れることが判明した。

 以上から、き裂発生が引張応力、せん断応 のどちらに支配される場合であっても応力 中緩和によって疲労強度が向上し、特に引 応力に対してはα σ ≦2.7で、また、せん断応力に対してはα τ ≦2.1でより応力集中の緩和効果が高まること が判明した。従って、双方の破損モードで疲 労破壊する雄スプライン部の拡径部において は、そこに集中する第1主応力の最大値σ 1max を基準応力τ 0 の2.7倍以下(σ 1max ≦2.7τ o )、軸方向のせん断応力の最大値τ θzmax を基準応力τ 0 の2.1倍以下(τ θzmax ≦2.1τ 0 )となるよう形状をチューニングすることが ましい。ここで、基準応力τ 0 は、トルクTと、図6に示す雄スプライン部の 部底の直径d o と、雄スプライン部の内径d i (雄スプライン部が中空の場合。中実の時はd i =0となる)とに対し、以下で与えられる値であ る。

 τ 0 =16Td o /[π(d o 4 -d i 4 )]
 本発明者らが拡径部の形状を種々チューニ グした結果、雄スプライン部の拡径部の円 方向両側にアール部を設け、アール部の曲 半径を反軸端側に向けて徐々に大きくすれ 、σ 1max ≦2.7τ o 、およびτ θzmax ≦2.1τ 0 を満足できることが判明した。

 次に、図10(a)および図11(a)の切欠き疲労試 験片と同じ成分(図9参照)の素材を用いて、両 軸端に雄スプライン部を有するシャフト形状 試験片を製作し(図17a参照)、この試験片を用 て両振り捩り疲労試験および片振り捩り疲 試験を行った。試験片は、図17bに示すイン リュートスプライン諸元に準じ、拡径部の 状を本発明品相当と従来品相当とした2種類 を製作した。これら試験片には、その全体に 大気中の同一条件で高周波焼入れおよび焼戻 しが施されている。両振り捩り疲労試験は850 ~1300Nmの範囲の4水準で行い、片振り捩り疲労 験は1250~2000Nmの範囲の4水準の最大捩りトル を付与している。図18に両振り捩り疲労試 で得られたT/N線図、図19に片振り疲労試験で 得られたT/N線図を示す。両図からも明らかな ように、本発明品では、従来品に対して両振 り捩り疲労および片振り捩り疲労の双方で大 幅な疲労強度の向上を達成することができる 。

 次に、図28(a)に示す成分のA鋼(本発明品用鋼 )及びB鋼(従来品用鋼)を用いて図28(b)に示すシ ャフト形状試験片を製作し、これに異なる処 理(28(c)参照)を施して得られた試験片A-1、A-2 A-3、及びB-1を用いて両振り捩り疲労試験を った。この試験片の両軸端には、図17bに示 インボリュートスプライン諸元に準じ、拡 部の形状が本発明品相当の雄スプライン部 有する。試験片の軸方向中間部には、直径D o =19mmで外周面が平滑な小径部を有する。A鋼か らなる試験片A-1~A-3には、旧オーステナイト 径を微細にするため、比較的低温の約900℃ 高周波加熱して焼入を行った。一方、B鋼か なる試験片B-1には、従来条件、すなわち比 的高温の約1000℃で高周波加熱して焼入を行 った。硬化層比は、A鋼品、B鋼品ともに約0.6 なるように、高周波加熱温度以外の条件を 整した。その後の焼戻しについては、A鋼品 は170℃×1時間(A-1)、150℃×1時間(A-2)、及び焼 しなし(A-3)の3水準とし、B鋼品は170℃×1時間 1水準(B-1)とした。この両振り捩り疲労試験 850~1300Nmの範囲の4水準で行い、得られたT/N 図を図29(a)~(d)に示す。図29中の実線は、従来 品の疲労強度レベルを示す基準回帰線である 。この実線で示す従来品より強度を15%向上さ せることを目標とし、目標値を図29に点線で す。

 図29(a)~(c)に示す試験結果から、A鋼を用い たA-1~A-3のうち、焼戻し温度が低くその分表 硬度が高いA-1及びA-2は、全負荷域で目標値 超える高強度を示した(図29(a)、(b)参照)。ま 、焼戻し温度が高くその分表層硬度が低いA -3は、平均的に概ね目標値に沿う結果を示し (図29(c)参照)。これに対し、図29(d)に示す試 結果から、B-1は雄スプライン部の拡径部が 発明の形状であるため、従来品(実線)より 優れた疲労強度を示すものの、目標値(点線) には到底届かないものであることが明らかと なった。以上より、本発明に規定した成分を 有するA鋼を用いると、疲労強度向上の目標 を達成することができる。尚、A-3の結果か 、全負荷域で目標値以上の強度を発揮する は、図28(c)に示す表層硬度のバラつきを考慮 して、HV690以上の表層硬度が必要であるとい る。

 以上から、本発明は、以下の事項によっ 特徴付けられるものである。

 (I)外周に雄スプライン部が設けられ、雄 プライン部の谷部の軸方向一端側にその外 寸法を徐々に拡径させた拡径部を有する動 伝達シャフトにおいて、前記雄スプライン の拡径部の円周方向両側にアール部を設け アール部の曲率半径を軸方向一端側に向け 徐々に大きくする。

 (II)トルクTが負荷されたときに、雄スプラ ン部の拡径部に作用する第1主応力、および 方向のせん断応力の最大値をそれぞれσ 1max 、τ θzmax とし、トルクT、雄スプライン部の谷部の直 d o 、雄スプライン部の内径d i に対し、1)式で与えられる基準応力τ 0 とするとき、下記2)式と3)式を同時に満たす うにする。

  τ 0 =16Td o /[π(d o 4 -d i 4 )] …1)
  σ 1max ≦2.7τ o             …2)
  τ θzmax ≦2.1τ 0            …3)
 本発明者が検証したところ、以上の構成に いては、アール部の曲率半径の増加率をdR/d L、拡径部の軸方向断面の内径端と外径端を ぶ直線の角度をθとするとき、それぞれの値 を0.05≦dR/dL≦0.60、および5°≦θ≦20°の範囲 設定するのが望ましいことが判明した。

 また、上記の試験結果より、本発明の動 伝達シャフトは、C:0.4mass%以上、0.5mass%以下 Si:0.35mass%以上、0.8mass%以下、Mn:0.5mass%以上、 0.8mass%以下、Al:0.005mass%以上、0.05mass%以下、Ti: 0.005mass%以上0.05mass%以下、Mo:0.3mass%以上、0.5mas s%以下、B:0.0005mass%以上、0.005mass%以下、Cu:0.05m ass%以上、0.5mass%以下、S:0.005mass%以上、0.025mass %以下、P:0.02mass%以下、Cr:0.2mass%以下を含有し 残部はFeおよび不可避的不純物から成る鋼 形成し、この鋼の高周波焼入・焼戻後の硬 層表層における旧オーステナイト平均粒径 10μm以下であることが好ましい。

 また、上記試験結果より、動力伝達シャ トを形成する鋼の母材組織は、組織分率で5 0%以上のベイナイト組織を有することが好ま い。さらに、この鋼の高周波焼入・焼戻後 硬化層深さの軸半径に対する比である硬化 比は0.55以上であることが好ましい。

 動力伝達シャフトを形成する鋼の各成分 限定した理由は以下の通りである。

 (1)C:0.4mass%以上、0.5mass%以下
 Cは焼入性への影響が最も大きい元素であり 、高周波焼入・焼戻後の硬化層の硬さおよび 深さを高めて強度向上に有効に寄与する。し かしながら、含有量が0.4mass%に満たないと、 要とされる強度を確保するためには硬化層 をかなり大きくしなければならず、その際 焼割れの発生が顕著となり、またベイナイ 組織も生成しにくくなる。一方、0.5mass%を えて含有させると粒界強度が低下し、また 削性、冷間鍛造性、および耐焼割れ性も低 する。以上より、Cの含有量は0.4mass%以上、0. 5mass%以下の範囲、好ましくは 0.42mass%以上、0 .46mass%以下の範囲であることが望ましい。

 (2)Si:0.35mass%以上、0.8mass%以下
 Siはベイナイト組織の生成に有用な元素で る。また、焼入硬化層の粒径を微細化する 用を有する。さらに、焼戻軟化抵抗を向上 せる元素であり、高周波焼入後の硬化層の さを増加させる。さらに、炭化物生成を抑 し、粒界への炭化物析出による粒界強度の 下を抑制する。これらの作用により、強度 よび耐焼割れ性が向上する。Siの含有量が0.3 5mass%に満たないと、ベイナイト組織分率が低 下するとともに、硬化層表層の旧オーステナ イト粒径を10μm 以下にすることができず、 た、硬化層硬さが低下して強度低下する。 方、Siの含有量が0.8mass%を超えると、フェラ トの固溶硬化により素材硬さが上昇し、切 性、冷間鍛造性、および耐焼割れ性の低下 招く。以上より、Siの含有量は0.35mass%以上 0.8mass%以下の範囲、好ましくは0.4mass%以上、0 .8mass%以下の範囲であることが望ましい。

 (3)Mn:0.5mass%以上、0.8mass%以下
 Mnは焼入性を向上させる元素であり、高周 焼入後の硬化層深さを確保するのに不可欠 ある。Mnの含有量が0.5mass%未満では、その添 効果は小さく、Mnの含有量が0.8mass%を超える と素材硬さが上昇し、転造性、切削性が低下 するとともに耐焼割れ性も低下する。以上よ り、Mnの含有量は0.5mass%以上、0.8mass%以下の範 囲、好ましくは0.5mass%以上、0.7mass%以下の範 であることが望ましい。

 (4)Al:0.005mass%以上、0.05mass%以下
 Alは脱酸に有効な元素である。また、高周 焼入加熱時においてオーステナイト粒成長 抑制する効果がある。しかし、Alの含有量が 0.005mass%に満たないとその効果は小さく、一 、0.05mass%を超えて含有させてもその効果は 和し、むしろ成分コストの上昇を招く不利 生じる。以上より、Alの含有量は0.005mass%以 、0.05mass%以下の範囲、好ましくは0.02mass%以 、0.04mass%以下の範囲であることが望ましい

 (5)Ti:0.005mass%以上0.05mass%以下
 Tiが不可避的不純物として混入するNと結合 ることにより、BがBNとなってBの焼入性向上 効果が消失するのを防止することができる。 この効果を得るためには、少なくとも0.005mass %以上の含有を必要とする。しかし、0.05mass% 超えて含有するとTiNが多量に形成される結 、これが疲労破壊の起点となって強度低下 招く。以上より、Tiの含有量は0.005mass%以上0. 05mass%以下の範囲、好ましくは0.015mass%以上、0 .03mass%以下の範囲であることが望ましい。さ には、Nを確実に固定して、Bによる焼入性 上効果を十分に発揮させる観点からは、Ti(ma ss%)/N(mass%)≧3.42を満足させることが好適であ 。

 (6)Mo:0.3mass%以上、0.5mass%以下
 Moはベイナイト組織の生成を促進する作用 ある。また、高周波焼入加熱時におけるオ ステナイト粒成長を抑制することにより、 入硬化層の旧オーステナイト粒径を微細化 る作用がある。さらに、焼入性の向上に有 な元素であるため、焼入性を調整するため 用いられる。Moの含有量が0.3mass%に満たない 、製造条件や焼入条件をいかように調整し も硬化層表層の旧オーステナイト粒径を10μ m以下にすることができない。一方、Moを0.5mas s%を超えて含有させると、素材硬さが著しく 昇して加工性の低下を招くと共に、耐焼割 性も低下する。以上より、Moの含有量は0.30m ass%以上、0.5mass%以下の範囲、好ましくは0.35ma ss%以上、0.45mass%以下の範囲であることが望ま しい。

 (7)B:0.0005mass%以上、0.005mass%以下
 Bはベイナイト組織あるいはマルテンサイト 組織の生成を促進する効果を有する。また、 Bは微量添加によって焼入性を向上させ、焼 深さを増して強度向上させる効果がある。 らに、Bは粒界に優先的に偏析して粒界に偏 するPの濃度を低減し、粒界強度を向上させ る作用もある。また、粒界強化により耐焼割 れ性も向上させる。Bの含有量が0.0005mass%に満 たないとその添加効果に小さく、一方、0.005m ass%を超えて含有させるとその効果は飽和し むしろ成分コストの上昇を招く。以上より Bの含有量は0.0005mass%以上、0.005mass%以下の範 、好ましくは0.001mass%以上、0.003mass%以下の 囲であることが望ましい。

 (8)Cu:0.05mass%以上、0.5mass%以下
 Cuは焼入性の向上に有効であり、またフェ イト中に固溶し、その固溶強化によって強 向上させる効果がある。また、炭化物の生 を抑制することにより、炭化物による粒界 度の低下を抑制して強度向上させる。その めには、0.05mass%以上添加する必要がある。 かし、Cuの含有量が0.5mass%を超えると、熱間 工時に割れが発生したり、耐焼割れ性が低 する。以上より、Cuの含有量は0.05mass%以上 0.5mass%以下の範囲、好ましくは0.05mass%以上、 0.3mass%以下の範囲であることが望ましい。

 (9)S:0.005mass%以上、0.025mass%以下
 Sは鋼中でMnSを形成し、切削性を向上させる 有用元素であり、0.005 mass%以上含有させるが 、0.025mass%を超えて含有させると、MnS量が増 して強度が低下する。従って、Sの含有量は0 .005mass%以上、0.025mass%以下の範囲であること 望ましい。

 (10)P:0.02mass%以下
 Pは旧オーステナイト粒界に偏析して粒界強 度を低下させる。また、焼割れを助長する弊 害もある。したがって、Pの含有は極力低減 ることが望ましいが、0.02mass%までは許容さ る。

 (11)Cr:0.2mass%以下
 Crは炭化物を安定化させて残留炭化物の生 を助長し、粒界強度を低下させる。さらに Crは焼割れを助長する。したがって、Crの含 は極力低減することが望ましいが、0.2 mass% までは許容され、好ましくは0.05mass%以下とす るのが望ましい。

 また、動力伝達シャフトを形成する鋼の 材組織、すなわち焼入前組織がベイナイト 織を有し、その組織分率が50%以上とする理 は次の通りである。ベイナイト組織はフェ イト・パーライト組織に比べて炭化物が微 に分散した組織であり、焼入加熱時にオー テナイトの核生成サイトとなるフェライト 炭化物の延べ界面面積が大きくなる。その めオーステナイトが微細になるため、高周 焼入後の硬化層の旧オーステナイト粒径を 細にすることができる。旧オーステナイト 径の微細化により粒界強度が上昇し、強度 よび耐焼割れ性を向上させることができる このような効果はベイナイト組織の組織分 が50%以上であれば得られるが、好ましくは イナイト組織の組織分率を60%以上とするこ が望ましい。

 また、動力伝達シャフトを形成する鋼の 周波焼入後の硬化層表層の旧オーステナイ 粒径が10μmを超えると十分な粒界強度が得 れないため、この旧オーステナイト粒径は10 μm以下、好ましくは8μm以下とすることが望 しい。なお、硬化層表層とは表面から500μm 深さまでの部分を指すものとする。

 また、動力伝達シャフトを形成する鋼の 小平滑部の高周波焼入・焼戻し後の硬化層 おいて、硬化層深さの軸半径に対する比で る硬化層比を0.55以上に限定した理由は、静 捩り強度と捩り疲労強度を安定して高く保つ ためである。硬化層比が0.55未満では、捩り 荷を与えた際に内部が塑性変形するため、 果として表面における応力の増大を招き、 度低下につながることとなる。なお、ここ の硬化層深さとはHV450以上(JIS準拠)の硬度を する深さのことを言うものとする。

 また、上記の試験結果より、動力伝達シ フトを形成する鋼の疲労強度向上の目標値 達成するため、すなわち従来品より15%強度 向上させるために、鋼の高周波焼入れ・焼 し後の硬化層表層の硬さは、HV690以上であ ことが望ましい。

 以上のように、本発明によれば、動力伝 シャフトの雄スプライン部での引張応力と ん断応力の双方の応力集中を緩和させて雄 プライン部の疲労強度を高めると共に、動 伝達シャフトを形成する素材自体の疲労強 を高めることができる。

 以下、本発明の実施の形態を、添付図面 参照して説明する。

 図1に、本発明に係る動力伝達シャフト2を み込んだ車のドライブシャフト1を示す。図 例のドライブシャフト1は、動力伝達シャフ ト2と、動力伝達シャフト2のアウトボード側( 車両搭載時に車幅方向の外となる側)の端部 装着される固定型等速自在継手J 1 と、動力伝達シャフト2のインボード側の端 に装着される摺動型等速自在継手(トリポー 型等速自在継手)J 2 とを備える。

 固定型等速自在継手J 1 は、動力伝達シャフト2に結合される内側継 部材3と、内側継手部材3の外径側に配置され る外側継手部材4と、内側継手部材3と外側継 部材4との間でトルクを伝達するボール5と 主要構成要素とする。内側継手部材3の外周 形成されたトラック溝3aと外側継手部材4の 周に形成されたトラック溝4aとで形成され ボールトラックにボール5を配置し、円周方 等配位置に配置した複数のボール5をケージ 6で保持している。

 トリポード型等速自在継手J 2 は、動力伝達シャフト2に結合される内側継 部材13と、内側継手部材13の外径側に配置さ る外側継手部材14と、内側継手部材13と外側 継手部材14との間でトルクを伝達するトルク 達部材としてのローラ15とを主要構成要素 する。内側継手部材13の円周方向三箇所には 、脚軸13aが突設されている。外側継手部材14 内周の円周方向三等分位置には軸方向に延 るトラック溝14aが形成され、このトラック 14aをローラ15が転動する。

 動力伝達シャフト2は、以下のような成分 を有する鋼で形成される。すなわち、C:0.4mass %以上、0.5mass%以下、Si:0.35mass%以上、0.8mass%以 、Mn:0.5mass%以上、0.8mass%以下、Al:0.005mass%以 、0.05mass%以下、Ti:0.005mass%以上0.05mass%以下、M o:0.3mass%以上、0.5mass%以下、B:0.0005mass%以上、0. 005mass%以下、Cu:0.05mass%以上、0.5mass%以下、S:0.0 05mass%以上、0.025mass%以下、P:0.02mass%以下、Cr:0. 2mass%以下を含有する鋼で形成され、例えば図 28(a)に示すA鋼の成分を有する鋼で形成される 。この鋼の上記成分の残部は、Feおよび不可 的不純物から成る。この鋼は、高周波焼入 焼戻後の硬化層表層の旧オーステナイト平 粒径が10μm以下であり、母材組織が組織分 で50%以上のベイナイト組織を有し、さらに 高周波焼入・焼戻後の硬化層深さの軸半径 対する比である硬化層比が0.55以上である。 た、この鋼の高周波焼入れ・焼戻し後の硬 層表層の硬さは、HV690以上である。

 動力伝達シャフト2は、中実に形成される 。尚、動力伝達シャフト2は中空に形成して よく、この場合、軽量化が図られる。

 動力伝達シャフト2の両軸端の外周には、 それぞれ雄スプライン部Smが形成される。こ 雄スプライン部Smを、図3に示すように内側 手部材3、13の内周に形成された雌スプライ 部Sfと嵌合させることによって、動力伝達 ャフト2と内側継手部材3、13とがトルク伝達 能に結合されている。内側継手部材3、13は その反軸端側(図3の左側)の内径端部を動力 達シャフト2外周の肩部24に当接させ、かつ 端側(図3の右側)の内径端部を、例えば図示 ない止め輪で係止することによって、動力 達シャフト2に対して軸方向で位置決め固定 される。

 動力伝達シャフト2の両軸端の外周に形成さ れた雄スプライン部Smより反軸端側の領域、 なわちトルク負荷の加わる雄スプライン部S m間の領域には、最小径部2a、2bが形成される( 図1参照)。この最小径部2a,2bは、外周面が平 な円筒面状に形成され、且つ、両軸端の雄 プライン部Sm間の領域において最も小径に形 成される。この最小径部2a,2bは、軸端に設け 等速自在継手J 1 、J 2 の最大折曲時に外側継手部材4,14の開口端部 干渉する部分に設けられる。これにより、 力伝達シャフト2と外側継手部材4,14との干渉 を遅らせ、継手の作動角の高角化を図ること ができる。

 図2、図3、および図6に示すように、動力 達シャフト2の雄スプライン部Smは、軸方向 延びる谷部21と山部22とを円周方向に交互に 有する。この実施形態の雄スプライン部Smは 転造加工で形成されたいわゆる切上りタイ で、各谷部21は、軸方向で同径寸法のスト ート部21aと、その反軸端側に形成された拡 部21bとで構成される。各山部22も同様に、軸 方向で同径寸法のストレート部22aと、その反 軸端側に形成された縮径部22bとで構成される 。図4に示すように、拡径部21bと縮径部22bの 端は軸方向で同じ位置にあり、かつその終 も軸方向で同じ位置にある。この雄スプラ ン部Smは冷間鍛造で成形することもでき、こ の場合は、通常、山部22の縮径部22bは形成さ ず、山部22の反軸端側は全体が同一外径寸 となる。成形後の雄スプライン部Smには、高 周波焼入れ等による熱処理が施される。

 図3に示すように、雌スプライン部Sfの谷 31は、同径寸法で反軸端側の端部まで形成 れている。一方、山部32は、小径部32a、大径 部32b、小径部32aと大径部32bの間の立ち上り部 32cを有する。大径部32bの内径寸法は、雄スプ ライン部Smの山部22の最大外径寸法(ストレー 部22aの外径寸法)よりも小さく、雄スプライ ン部Smの反軸端側に形成された動力伝達シャ ト2の平滑部25の外径寸法よりも大きい。

 雄スプライン部Smと雌スプライン部Sfとを 互いに嵌合させると、雄スプライン部Smの歯 23と、雌スプライン部Sfの歯面(図示省略)と 強く圧接する。この時の両歯面の嵌合部(散 点模様で表す)は、図3に示すように、拡径部2 1bの外径側領域にも及んでいる。

 なお、図3では、拡径部21bおよび縮径部22b の軸方向断面を何れも直線的なテーパ状に形 成した場合を例示しているが、両者の軸方向 断面を曲線状に形成することもできる。また 、直線状と曲線状の複合形状とすることもで きる。

 図2に示すように、本発明において雄スプ ライン部Smの拡径部21bは、その円周方向両側 形成されたアール部21b1(散点模様で示す)と アール部21b1の間に形成された平面状の平坦 部21b2とで構成される。アール部21b1は半径方 断面が円弧状をなし、その円周方向両側は 面23および平坦部21b2に滑らかにつながって る。

 図4は、雄スプライン部Smのうち、拡径部21b 近を示す平面図、図5a~図5dは、図4におけるA -A線、B-B線、C-C線、D-D線の各断面図である。 5aに示すように、谷部21のストレート部21aと 歯面23とをつなぐアール部の曲率半径R A は、拡径部21bとの境界部に至るまで一定であ る。図5b~図5dに示すように、拡径部21bでは、 ール部21b1の曲率半径が、境界部の曲率半径 R A よりも大きく、かつ反軸端側ほど徐々に大き くなっている(R A <R B <R C <R D )。また、図4に示すように、アール部21b1の境 界線が山部の稜線と交わって歯面23が無くな 位置までは、アール部21b1の円周方向の幅寸 法は反軸端側(図面上方)に向けて徐々に拡大 、これを超えると幅寸法は徐々に縮小して る。平坦部21b2の円周方向の幅寸法も反軸端 側に向けて徐々に拡大している。

 図4中のLは、拡径部21bのアール部21b1にお て、その曲率半径の中心を通る線の方向に った座標を示す。アール部21b1の曲率半径の 増加率は、dR/dLで表され、本実施形態ではdR/d L=0.18に設定している。また、図4中のθは、拡 径部21bの軸方向断面の内径端と外径端を結ぶ 直線の傾斜角を表し、本実施形態ではθ=8.3° 設定している。

 図14~図16に、上記特許文献1(特開2005-147367 公報)に記載された雄スプライン部Sm’、す わち、拡径部21b’と歯面23’の境界にアー 部21b1’を形成し、かつアール部21b1’の曲率 半径を軸方向全長にわたって一定とした雄ス プライン部Sm’を示す(なお、図14~図16では、 2~図4に表された部位と対応する部位に(’) 加えた同一符号を付している)。

 図2に示す雄スプライン部Sm(本発明品)と図14 に示す雄スプライン部Sm’(従来品)のそれぞ についてFEM解析を行い、それぞれについて 1主応力の最大値σ 1max とせん断応力の最大値τ θzmax を求め、これらを上記基準応力τ 0 で除した値を算出した。

 このFEM解析は、3次元線形弾性解析であり 、解析ソフトとして “I-deas Ver.10”を使用 た。解析モデルは、図20に示すように、雄ス プライン部Sm、Sm’の1つの谷部21、21’を含む 線形弾性体で、モデル長は100mmである。図21 、この解析モデルに付したメッシュを示す 各要素は4面体二次要素で、総要素数は約20 個、総接点数は約30万個である。要素長は、 主要部分P(雄スプライン部Sm、Sm’を含む部分 で)で0.2mm以下とし(最小要素長は0.05mm)、主要 分P以外で0.5mmとした。図22は、主要部分Pの ッシュを拡大して示す図であり、同図(a)が 2に対応した本発明品を表し、同図(b)が図14 対応した従来品を表す。図23に示すように 解析モデルの反軸端側端面MにRigid要素を作 し、この端面Mの中心軸O上にトルクTを負荷 た。但し、モデルとして、1/歯数モデルを使 用しているので、負荷トルクは、実際のトル クの1/歯数である。図24に示すように、解析 デルは、谷部21の中心を通る半径方向軸を対 称軸とした形状で、円周方向の両側面Wの全 点を周期対称としている。なお、図25に示す ように、解析モデルの相手部材との接触面( 点模様で示す)では、その法線方向の変位が 束されている。

 第1主応力σ 1 の解析結果を図26に示し、軸方向せん断応力 θz の解析結果を図27に示す。なお、図26および 27の何れでも、(a)図が本発明品モデルを表し 、(b)図が従来品モデルを示す。なお、両図中 の基準応力τ 0 は、トルクT、雄スプライン部Smの谷部の直径 d o 、雄スプライン部の内径d i に対し、τ 0 =16Td o /[π(d o 4 -d i 4 )]なる式で与えられる。

 以上の解析結果から、従来品では、σ 1max 0 =3.03であるのに対し、本発明品では、σ 1max 0 =2.48となり、従来品より引張応力に対する応 集中の緩和効果が高まることが判明した。 れは、本発明品では、歯面23の終端近傍に けるアール部21b1の曲率半径が、従来品の対 部位での曲率半径よりも大きくなるためと えられる。先に説明したように、引張応力 対する応力集中係数α σ が2.7以下であれば、応力集中の緩和効果が顕 著となるので、σ 1max 0 ≦2.7の本発明品であれば、従来品に比べ、引 張り応力に対する疲労強度を大幅に増大させ ることが可能である。

 また、従来品では、τ θzmax 0 =2.28であるのに対し、本発明品ではτ θzmax 0 =1.74となり、従来品より軸方向のせん断応力 対する応力集中の緩和効果も高まることが 明した。上記のとおり、せん断応力に対す 応力集中係数α τ が2.1以下であれば、応力集中の緩和効果が顕 著となるので、τ θzmax 0 ≦2.1である本発明品は、従来品に比べ、せん 断応力に対する疲労強度を大幅に向上させる ことができる。このように本発明によれば、 雄スプライン部Smで引張応力およびせん断応 の双方に対して高い応力集中緩和効果を得 ことができる。従って、動力伝達シャフト2 の疲労強度を高めることができる。

 本発明者がさらに解析したところ、図4に示 すアール部21b1の曲率半径の増加率dR/dLが0.05 dR/dL≦0.60であり、かつ拡径部21bの傾斜角θが 5°≦θ≦20°の範囲であれば、σ 1max 0 ≦2.7、τ θzmax 0 ≦2.1を満足できることが判明した。

 図14に示すように、従来品では、最大せん 応力τ θzmax が拡径部21b’の起点の中心線上で生じる。こ のように、中心線上で最大せん断応力が発生 すると、動力伝達シャフト2が正逆両方向の ルクを伝達する際、正逆何れの回転時にも じ部位に最大せん断応力が生じるため、そ だけ疲労破壊が進展し易くなる。これに対 、本発明品では、最大せん断応力τ θzmax は、図2に示すように、拡径部21bの起点より 反軸端側の双方のアール部21b1で生じる。そ ため、正回転時と逆回転時で最大せん断応 の発生部位が異なり、従って、疲労破壊の 展速度も抑制することが可能となる。以上 ら、本発明品は、トルクの伝達方向が頻繁 切り替わる用途、例えば車両の前進・後退 応じてトルク伝達方向が反転するような用 に特に好適なものとなる。

 以上に述べたアール部21b1を有する拡径部 21bは、転造加工時に使用する転造ラックに、 当該拡径部21bに対応した形状の成形部を形成 することにより、雄スプライン部Smの歯と同 に形成することができる。雄スプライン部 プレス加工で冷間鍛造する場合も同様に、 レス加工用のダイスに拡径部21bの形状に対 した成形部を予め形成することにより、雄 プライン部Smの歯と同時にアール部21b1を成 することができる。

 以上の対策により、雄スプライン部Smで 張応力およびせん断応力の双方に対して高 疲労強度が得られると共に、動力伝達シャ ト2を形成する素材自体の疲労強度を高める とができる。

 図7に本発明の他の実施形態を示す。この 実施形態は、雄スプライン部Smもしくは雌ス ライン部Sf(図面では雄スプライン部Sm)のう 、何れか一方の歯に軸心方向に対して捩れ βを持たせた実施形態であり、嵌合後の両 プライン部Sm、Sf間のガタ詰めに有効な手法 ある。捩れ角βを設けた場合、トルク伝達 の歯面同士の接触圧力が高まり、これに伴 て拡径部に集中する引張応力、せん断応力 高くなるため、疲労強度の低下を招く。こ 観点から、従来品では、捩れ角βは実質15° 限度とされてきた。これに対し、本発明品 は、上記のとおり動力伝達スプラインの疲 強度を大幅に高めることができるので、15° 上の捩れ角βをとることができ、高いガタ め効果を得ることが可能である。

 上述の実施形態では、雄スプライン部Sm して、拡径部21bの円周方向幅を反軸端側で 々に拡大させたいわゆる「槍形タイプ」を 示しているが、これに限らず、拡径部21bの 周方向幅を一定にしたいわゆる「舟形タイ 」の雄スプライン部Smに本発明を適用するこ ともできる。この場合も、拡径部21bの円周方 向両側にアール部を設け、かつアール部の曲 率半径を反軸端側ほど徐々に大きくすること により、本発明と同様の効果が得られる。

本発明にかかる動力伝達シャフトの部 段面図である。 動力伝達シャフトに形成された雄スプ イン部のうち、反軸端側部分(図1符号X部)を 示す斜視図である。 図1の符号X部を拡大して示す断面図で る。 (a)図は雄スプライン部の反軸端側部分 示す平面図であり、(b)図は(a)図中のY-Y線断 図である。 (a)図は、図4(a)中のA-A線断面図、(b)図は 同B-B線断面図、(c)図は同C-C線断面図、(d)図は 同D-D線断面図である。 雄スプライン部の周方向断面図である 捩れ角を有する雄スプライン部の概略 成を示す平面図である。 雄スプライン部の平面図である。 疲労試験で使用する試験片の化学組成 示す表である。 回転曲げ疲労試験の試験片を示す側 図である。 上記試験片の切欠き部Aを拡大した側 図である。 切欠き部の寸法と応力集中係数の関 を示す表である。 捩り疲労試験の試験片を示す側面図 ある。 上記試験片の切欠き部Aを拡大した側 図である。 切欠き部の寸法と応力集中係数の関 を示す表である。 回転曲げ疲労試験で求めた疲労限強度 の測定結果を示す図である。 捩り疲労試験で求めた10 5 回における捩り疲労強度の測定結果を示す図 である。 従来の雄スプライン部の反軸端側部分 を示す斜視図である 従来の雄スプライン部の反軸端側部分 を示す断面図である。 従来の雄スプライン部の反軸端側部分 を示す平面図である。 試験片を示す側面図である。 試験片のインボリュートスプライン 元を示す表である。 両振り捩り疲労試験で得られたT/N線図 である。 片振り捩り疲労試験で得られたT/N線図 である。 FEM解析モデルを示す斜視図である。 メッシュを付した解析モデルを示す斜 視図である。 (a)図は、メッシュを付した本発明品の 主要部分Pの斜視図であり、同図(b)が同じく 来品の主要部分Pの斜視図である。 解析モデルの反軸端側の端部の斜視図 である。 図20の矢印方向から見た解析モデルの 面図である。 解析モデルの斜視図である。 第1主応力の解析結果を示す図である 軸方向せん断応力の解析結果を示す図 である。 A鋼及びB鋼の成分表である。 試験片を示す側面図である。 試験片の仕様及び材質を示す表であ 。 両振り捩り疲労試験で得られたT/N線図 である。

符号の説明

1   ドライブシャフト
2 動力伝達シャフト
2a、2b    最小径部
J 1 、J 2     等速自在継手
3、13      内側継手部材
4、14      外側継手部材
21 谷部
 21a ストレート部
 21b 拡径部
  21b1 アール部
  21b2 平坦部
22 山部
23 歯面
24 肩部
25 平滑部
Sm 雄スプライン部
Sf 雌スプライン部