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Patent Searching and Data


Title:
STAINLESS STEEL MATERIAL FOR SEPARATOR OF SOLID POLYMER FUEL CELL AND SOLID POLYMER FUEL CELL USING THE SAME
Document Type and Number:
WIPO Patent Application WO/2009/157557
Kind Code:
A1
Abstract:
Disclosed is a stainless steel material for separators of solid polymer fuel cells having excellent battery characteristics with little performance decrease during a long-time operation, which does not deteriorate the corrosion resistance of a stainless steel separator.  The stainless steel material comprises a stainless steel matrix, an oxide film formed on the surface of the stainless steel matrix, a conductive layer formed on the surface of the oxide film and provided with a non-metallic conductive substance, and a conductive substance so arranged as to penetrate the oxide film and electrically connected to the stainless steel matrix and the conductive layer.  A solid polymer fuel cell using the stainless steel material is also disclosed.

Inventors:
KAMINAKA HIDEYA (JP)
IMAMURA JUNKO (JP)
HIGASHIDA YASUTO (JP)
Application Number:
PCT/JP2009/061765
Publication Date:
December 30, 2009
Filing Date:
June 26, 2009
Export Citation:
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Assignee:
SUMITOMO METAL IND (JP)
KAMINAKA HIDEYA (JP)
IMAMURA JUNKO (JP)
HIGASHIDA YASUTO (JP)
International Classes:
H01M8/02; C22C38/00; C22C38/54; H01M8/10
Domestic Patent References:
WO2003044888A12003-05-30
WO1999019927A11999-04-22
WO2001018895A12001-03-15
Foreign References:
JP3365385B22003-01-08
JP2005243595A2005-09-08
JP2007031233A2007-02-08
JPH11260382A1999-09-24
JP2003532528A2003-11-05
JP2005209394A2005-08-04
JP2001052721A2001-02-23
JP2007165275A2007-06-28
JPH10228914A1998-08-25
JPH11345618A1999-12-14
JP2000067881A2000-03-03
JP3365385B22003-01-08
Other References:
See also references of EP 2302721A4
"Wakai Gijutsusha no Tameno Kikai Kinzoku Zairyou", MARUZEN COMPANY, LTD., pages: 325
"The Properties of Graphite and Deployment of Technology Thereof", HITACHI POWDER METALLURGY TECHNICAL REPORT, 2004
TITAN, vol. 54, no. 4, pages 259
"KEITHELEY", 2001, TOYO CORPORATION
Attorney, Agent or Firm:
HIROSE SHOICHI (JP)
Hirose Shoichi (JP)
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Claims:
 固体高分子形燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼材であって、
 ステンレス鋼母材と、
 当該ステンレス鋼母材の表面に設けられた酸化膜と、
 当該酸化膜の表面に設けられ非金属性導電物質を備える導電層と、
 前記酸化膜を貫通するように設けられ、前記ステンレス鋼母材および前記導電層に電気的に接続する導電性物質と
を備えるステンレス鋼材。
 前記導電性物質がM 2 B型硼化物系金属介在物からなり、当該M 2 B型硼化物系金属介在物は前記ステンレス鋼母材に部分的に埋設される、請求項1記載のステンレス鋼材。
 前記導電層が前記導電性物質の表面にも設けられている請求項1または2に記載のステンレス鋼材。
 前記硼化物系金属介在物がCrの硼化物を含む、請求項1から3のいずれかに記載のステンレス鋼材。
 前記非金属性導電物質が黒鉛質炭素を含む、請求項1から4のいずれかに記載のステンレス鋼材。
 前記黒鉛質炭素の面間隔がd002≦3.390Åである、請求項5に記載のステンレス鋼材。
 前記ステンレス鋼母材の酸化膜の表面に設けられた黒鉛質炭素の結晶について広角X線回折測定することにより得られる原子面の回折線のピーク強度を比較したときに、(110)原子面の回折線のピーク強度の(004)原子面の回折線のピーク強度に対する比率が0.1未満である、請求項6に記載のステンレス鋼材。
 前記導電層が、前記酸化膜の表面と前記硼化物系金属介在物の表面とからなる表面に対して黒鉛質炭素を含む部材を摺動させることにより形成されたものである請求項5から7のいずれかに記載のステンレス鋼材。
 前記酸化膜の表面と硼化物系金属介在物の表面とからなる表面の粗さがRaとして0.10μm以上である請求項8に記載のステンレス鋼材。
 前記導電層が、前記酸化膜の表面と前記硼化物系金属介在物の表面とからなる表面に、黒鉛質炭素およびその2質量%以下の結着剤を含む塗料組成物を塗布し、当該塗布物が付着する表面に対して黒鉛質炭素を含む部材を摺動させることにより形成されたものである、請求項5から7のいずれかに記載のステンレス鋼材。
 前記結着剤が、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)およびPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の少なくとも一種を含む、請求項10に記載のステンレス鋼材。
 燃料電極膜、固体高分子電解質膜および酸化剤電極膜をこの順番で重ねあわせて形成された単位電池を複数個、当該単位電池間にセパレータを個別に介在させて積層した積層体に、燃料ガスおよび酸化剤ガスを供給して直流電力を発生させる固体高分子形燃料電池であって、前記セパレータが請求項1から11のいずれかに記載のステンレス鋼材からなることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
Description:
固体高分子形燃料電池のセパレ タ用ステンレス鋼材およびそれを用いた固 高分子形燃料電池

 本発明は、固体高分子形燃料電池および の構成要素であるセパレータ用のステンレ 鋼材に関する。

 燃料電池は、水素と酸素の結合反応の際 発生するエネルギーを利用するため、省エ ルギーと環境対策の両面から、その導入お び普及が期待されている次世代の発電シス ムである。燃料電池には複数のタイプがあ 、固体電解質型、溶融炭酸塩型、リン酸型 よび固体高分子形などが例示される。

 これらの中でも固体高分子形燃料電池は 出力密度が高く小型化が可能であり、また のタイプの燃料電池より低温で作動し、起 停止が容易である。このため、固体高分子 燃料電池は電気自動車や家庭用の小型コジ ネレーションへの利用が期待されており、 年、特に注目を集めている。

 図1は、固体高分子形燃料電池(以下、単 「燃料電池」ともいう。)の構造を示す図で 図1(a)は、燃料電池を構成する単セルの分解 図、図1(b)は多数の単セルを組み合わせて作 れた燃料電池全体の斜視図である。

 図1に示すように、燃料電池1は単セルの 合体(スタック)である。単セルは、図1(a)に すように固体高分子電解質膜2の一面に電池 陰極として作用するガス拡散電極層(燃料電 極膜とも呼ばれ、以下、「アノード」とも記 す。)3が、他面には電池の陽極として作用す ガス拡散電極層(酸化剤電極膜とも呼ばれ、 以下、「カソード」とも記す。)4がそれぞれ 層されており、その両面にセパレータ(バイ ポーラプレート)5a、5bが重ねられた構造にな ている。

 なお、上記の単セルと単セルの間、また 数個の単セルごとに冷却水の流通路を持つ セパレータを配した水冷型の燃料電池もあ 。本発明はそのような水冷型燃料電池をも 象とする。

 固体高分子電解質膜(以下、単に「電解質 膜」という。)2としては、水素イオン(プロト ン)交換基を有するフッ素系プロトン伝導膜 使われている。アノード3およびカソード4に は、粒子状の白金触媒および黒鉛粉が設けら れ、さらに必要に応じて水素イオン(プロト )交換基を有するフッ素樹脂からなる触媒層 設けられている場合もある。この場合には 燃料ガスまたは酸化性ガスとこの触媒層と 接触して反応が促進される。

 セパレータ5aに設けられている流路6aから は燃料ガス(水素または水素含有ガス)Aが流さ れて燃料電極膜3に水素が供給される。また セパレータ5bに設けられている流路6bからは 気のような酸化性ガスBが流され、酸素が供 給される。これらガスの供給により電気化学 反応が生じて直流電力が発生する。

 固体高分子形燃料電池のセパレータに求め れる主な機能は次のようなものである。
 (1)燃料ガス、酸化性ガスを電池面内に均一 供給する“流路”としての機能、
 (2)カソード側で生成した水を、反応後の空 、酸素といったキャリアガスとともに燃料 池から効率的に系外に排出する“流路”と ての機能、
 (3)電極膜(アノード3、カソード4)と接触して 電気の通り道となり、さらに単セル間の電気 的“コネクタ”となる機能、
 (4)隣り合うセル間で、一方のセルのアノー 室と隣接するセルのカソード室との“隔壁 としての機能、および
 (5)水冷型燃料電池では、冷却水流路と隣接 るセルとの“隔壁”としての機能。

 このような機能を果たすことが求められ 固体高分子形燃料電池に用いられるセパレ タ(以下、単に「セパレータ」という。)の 材材料としては、大きく分けて金属系材料 カーボン系材料とがある。

 ステンレス鋼、Ti、炭素鋼などの金属系 料によるセパレータは、プレス加工等の方 により製造される。一方、カーボン系材料 よるセパレータの製造方法には複数の方法 ある。その方法として、黒鉛基板にフェノ ル系、フラン系などの熱硬化性樹脂を含浸 化して焼成する方法、炭素粉末をフェノー 樹脂、フラン樹脂またはタールピッチなど 混練して、板状にプレス成形または射出成 し、得られた部材を焼成し、ガラス状カー ンにする方法が例示される。

 ステンレス鋼をはじめとする金属系材料 、金属特有の加工性に優れ、セパレータの みを薄くすることができ、セパレータの軽 化が図れるなどの利点を有する。しかしな ら、腐食による金属イオンの溶出や金属表 の酸化により電気伝導性が低下することが 念される。このため、金属系材料によるセ レータ(以下「金属セパレータ」という。) ガス拡散電極層との接触抵抗が上昇する可 性があることが問題となっている。

 一方、カーボン系材料は軽量なセパレータ 得られる利点がある。しかしながら、ガス 過性を有するといった問題や、機械的強度 低いといった問題があった。
 金属セパレータに関する上記の問題を解決 る方法の一つとして、特許文献1に示される ように、金属セパレータ基材の電極と接する 表面に、金めっきを施すことが提案されてい る。しかしながら、自動車等の移動体用燃料 電池および定置用燃料電池に金を多量に使用 することは、経済性および資源量制約の観点 から問題があった。

 このため、金を用いることなく上記の問題 解決するための試みの一つとして、金属セ レータ表面を、カーボンで被覆する提案が されている。
 以下に、これまでに金属セパレータ表面を ーボンで被覆する方法として提案されてい 技術を列挙する。

 (A)特許文献2に開示される固体高分子形燃 料電池用塗装金属セパレータ材料は、表面を 酸洗したオーステナイト系ステンレス鋼から なる基材と基材表面に3~20μm形成された導電 塗膜とを備え、この塗膜中の導電剤がグラ ァイト粉末とカーボンブラックとの混合粉 である。この特許文献には、金属セパレー の基材表面を酸洗し、酸洗後の基材表面に ーボンを含む導電性塗料を塗布する工程が 示されている。

 (B)特許文献3に開示される燃料電池セパレ ータ用塗料は、導電材として黒鉛を使用し、 燃料電池用の金属製またはカーボン製セパレ ータ基材の表面に塗布されて導電性塗膜を形 成するものであって、この塗料の結着材とし てフッ化ビニリデン(VDF)と六フッ化プロピレ (HFP)との共重合体(VDF-HFP共重合体)を10重量% 上含有し、媒体として上記結着材と相溶性 ある有機溶剤を用い、上記導電材と結着材 の配合比率が重量比で15:85~90:10であり、上記 有機溶剤の配合割合が50~95重量%である。

 (C)特許文献4に開示される燃料電池用セパ レータは、単電池の平板状電極と協働してガ ス流路を形成する燃料電池用セパレータであ って、低電気抵抗性金属板と、その金属板を 被覆してガス流路形成面を構成する非晶質炭 素膜とからなり、その非晶質炭素膜の水素含 有量CH が1原子%≦CH≦20原子%である。当該文 では、上記の導電性塗膜の代わりに薄膜形 技術(P-CVD法、イオンビーム蒸着法等)を用い て炭素質膜を蒸着する方法が提案されている 。

 (D)特許文献5に開示される手段は、カーボ ン系粒子がその表面に圧着されたステンレス 鋼からなる基材を加熱処理する手段であり、 カーボン系粒子と基材との間に拡散層が生成 するため密着性が高まるとともに、カーボン 系粒子と基材との間の電気的導通が確実にな る。

 (E)特許文献6に開示される金属セパレータ は、導電性ガス流路を構成する金属基材の表 層に導電性樹脂層を設けたものであって、こ の導電性樹脂層内にはカーボン粉末が分散さ れ、金属セパレータと導電性樹脂層との間に Zr、Sn、Al、Cr化合物、Mo化合物が配置される

特開平10-228914号公報

特開平11-345618公報

国際公開2003/044888パンフレット

特開2000-67881号公報

国際公開99/19927パンフレット

国際公開2001/18895パンフレット

特許第3365385号

 ステンレス鋼をはじめとする金属からな セパレータに関する上記の問題を金めっき 外の手段で解決するために上記(A)~(E)が提案 されている。しかしながら、現時点で実用化 された技術はなく、それぞれが解決すべき技 術的問題点があるものと推定される。本発明 者らが追試等により確認したそれぞれの技術 に関する問題点を以下に記載する。

 上記(A)の方法は、ステンレス鋼からなる 材の表面酸化膜を酸洗により除去し、カー ンを含有する導電性塗料をその表面に塗布 る方法である。この酸洗後に導電性塗料が 布された材料は、酸洗まま(導電性材料が塗 布されない)の材料と比較して接触抵抗が上 する。導電性塗料が塗布された材料から得 れる接触抵抗値は、金めっきと比較して1桁 い値である。このため金めっきの代替技術 はなり得ない。

 上記(B)の方法は、形成された導電性塗膜 基材に対する密着性が不十分で、燃料電池 組み立て時における塗膜剥離、および電池 運転・休止に伴うMEA(Membrane-Electrode Assembly) 膨潤/収縮に起因する塗膜剥離などの問題点 がある。

 上記(C)の方法は、薄膜形成技術は、処理コ トが高く、処理に長時間が必要である。こ ため、量産には適さない方法である。
 上記(D)の方法は、ステンレス鋼からなる基 の表面にカーボン系粒子を分散付着させた 、ロールを用いて圧延し、その後基材とカ ボン層との間に拡散層を生じさせる熱処理 必要である。通常プレス成型セパレータに いる基材は300μm以下の箔帯であり、拡散層 生じさせるための熱処理(700℃程度)を施せ 、不均一な変形が生じ、セパレータに必要 平坦性等を確保することが困難である。ま 、拡散層を生じさせるための熱処理によっ 基材表面に過剰な酸化皮膜が生じて接触抵 が上昇してしまうことを回避するために、 活性ガスあるいは真空雰囲気で実施する必 がある。このためにコストが大幅に上昇す 要因となる。この方法では、基材の表面に 在する不動態皮膜をカーボン系粒子に由来 るカーボンが熱処理において貫通し、基材 母材表面およびその表面下にカーボン拡散 が形成されることによって、接触抵抗が低 されることが期待される。しかしながら、 実には、燃料電池の運転中に、形成された ーボン拡散層と母材とによって局部電池が 成され、母材の腐食が進行し、接触抵抗が 昇する。このため、実用には適さない方法 ある。

 上記(E)の方法は、Zr、Sn、Al、Cr化合物、Mo 化合物を導電性樹脂の中に配置するために使 用されるバインダー成分が接触抵抗を上昇さ せてしまう。このため、金めっきの様な低い 接触抵抗を実現することができない。

 ステンレス鋼製のセパレータ(以下、「ス テンレスセパレータ」という。)は材料コス および加工コストの上から極めて実用性に む。ステンレスセパレータの高耐食性は、 の表面の不動態皮膜の存在によるところが きい。しかしながら、不動態皮膜の存在は 接触電気抵抗を高くするため、電気化学反 により発生した電荷をステンレスセパレー で集電する際に抵抗損失が大きくなる問題 あった。

 この様な問題点を解決するために、上記 ごとく、セパレータの表面に金めっきした カーボンで被覆したりする方法が提案され きたが、ステンレスセパレータの普及に繋 る解決手段に至っていない。

 なお、特許文献7に開示される方法は、不 動態皮膜が形成されているステンレスセパレ ータの表面の不動態皮膜を貫通するように、 導電性の硼化物系析出物および/または炭化 系析出物をステンレス鋼材の内部から表面 露出させる。このため、これらの析出物と ス拡散電極層とが接触し、ステンレスセパ ータとガス拡散電極層との間の導電性が確 される。この方法は接触抵抗の低減に大き 効果を有するが、固体高分子形燃料電池の 転環境においては、運転に伴い析出物の表 に形成された酸化物が徐々に成長する。こ ため、長期間の運転では接触抵抗が高くな 、電池の出力電圧が次第に低下していく問 があり、改善が求められている。この接触 抗上昇を経済的に優れた方法により抑制す ことができれば問題点を解決することかで る。

 本発明の目的は、ステンレスセパレータ 有する耐食性を損なうことなく、上記の接 抵抗上昇という問題を解決し、長時間運転 に性能劣化が少ない優れた電池特性を有す 固体高分子形燃料電池のセパレータ用ステ レス鋼材、およびそれを用いた固体高分子 燃料電池を生産性高く、すなわち安価に提 することにある。 

 本発明者らは、上記課題を解決すべく種々 検討を進めた。
 従来の技術を確認検証行ったところ、初期 触抵抗が低く、かつ燃料電池運転後の接触 抗の上昇が軽微な技術は、金めっきであっ 。

 ところが金は鉱山建値が3068円/g(日本経済 新聞2008年6月17日 朝刊参照)と高価であり、 年価格が高騰する傾向がある。しかも、そ そも稀少資源であることから、工業的な用 で大量に使うことは現実的ではない。

 金めっきを実施しないで金属セパレータ(ス テンレスセパレータ)を使用する方法として 金属セパレータ表面にカーボン被覆を行う 種の方法が提案されている。
 これまで提案されているカーボンコート方 を検証したところ、効果は認められるがそ 改善程度は不十分であって、(1)金めっきと 較して高い接触抵抗値であること、(2)被覆 法によっては電池運転環境で剥離が生じて の効果が持続しないこと、等の問題が認め れた。

 金の抵抗率2.35×10 -6 ωcmに対して、カーボンの電気抵抗率は、平 1375×10 -6 ωcm(若い技術者のための機械・金属材料 丸 株式会社 325ページ)であり、カーボンを単 に金属セパレータ(ステンレスセパレータ)上 に被覆しただけでは、金めっきと同程度の接 触抵抗を実現するのが困難なことは明らかで ある。

 こうした材料が持つ固有の物性差を考慮 入れた上で、カーボン被覆法により金めっ に近い低接触抵抗を実現し、かつ電池運転 境においても剥離等の問題が生じさせない 段を得るべく、本発明者らは検討を行った その結果、以下に示す知見を得た。これら み合わせることで従来技術では達成できな った課題を解決することが可能となる。

 a)セパレータ用のステンレス鋼材を、ステ レス鋼母材と、このステンレス鋼母材の表 に設けられた酸化膜と、この酸化膜の表面 設けられ非金属性導電物質を備える導電層 、酸化膜を貫通するともにステンレス鋼母 に部分的に埋設され、ステンレス鋼母材お び導電層に電気的に接続する、導電性を有 るM 2 B型硼化物系金属介在物とを備える構成とす 。

 「ステンレス鋼母材」とは、セパレータ用 ステンレス鋼材の素材であるステンレス鋼 おいて、不動態皮膜を含まない部分を意味 る。
 「ステンレス鋼母材の表面に設けられた酸 膜」(以下、「酸化膜」と略記する。)とは ステンレス鋼の表面に形成される不動態皮 を意味する。この不動態皮膜の存在により 燃料電池運転環境下でのセパレータの耐食 を高めることができる。

 「導電性M 2 B型硼化物系金属介在物」(以下、「M 2 B型硼化物」と略記する。)とは、ステンレス 材を構成する金属元素(具体的には、Fe,Cr,Ni, Moなどが例示される。)とステンレス鋼材に含 まれる硼素とにより生成した導電性化合物で あって、この化合物における金属元素の原子 数の硼素の原子数に対する比が約2である化 量論的関係を有しているものをいう。

 上記の特許文献7にも記載されるように、ス テンレス鋼母材の表面に分散・露出するM 2 B型硼化物は、ステンレス鋼母材中で析出し 析出物であるうえに、ステンレス鋼母材の 面に存在する不動態皮膜を貫通してステン ス鋼材の表面に露出している。このため、 パレータをなすステンレス鋼母材とM 2 B型硼化物との間での接触抵抗が特に少ない また、このようなM 2 B型硼化物を有するステンレス鋼材からなる パレータを備える固体高分子形燃料電池で 、ガス拡散電極層とセパレータとの電気的 接触部はこの導電性のM 2 B型硼化物となる。したがって、セパレータ ガス拡散電極層との間でこのM 2 B型硼化物を介した良好な電気的接触が実現 れる。

 しかしながら、このようなM 2 B型硼化物はセパレータの表面に散在し、セ レータの表面全面を覆うように存在するわ ではない。一方、このセパレータと対向す ガス拡散電極層は所定の表面粗さを有して る。このため、セパレータの表面にあるM 2 B型硼化物の全てがガス拡散電極層と電気的 接触できるとは限らない。すなわち、かか 構成のセパレータとガス拡散電極層との電 的な接触面積はさらに増加する余地がある

 上記知見に基づいてさらに検討を進めた結 、非金属性導電物質を備えてなる導電層を 化膜の表面に設け、この導電層がセパレー の表面に露出するM 2 B型硼化物と電気的に接続させる構成を備え セパレータは、ガス拡散電極層に対する接 抵抗が低下するとの知見が得られた。かか 構成を備えるセパレータでは、ステンレス 材の表面において集電現象(詳細は後述。)が 生じ、セパレータとガス拡散電極層との電気 的な接触面積が増加していると推測される。

 ここで、「非金属性導電物質」とは、導 性を主として担う物質が金属結合を有して ない導電性物質であり、その典型的な材料 黒鉛質炭素が挙げられる。非金属性導電性 質は、電池の運転に伴い腐食が発生しても 金属イオンが流出することがほとんどない このため、腐食生成物による接触抵抗の上 が起こりにくいばかりか、固体高分子電解 膜内に金属イオンが拡散して電解質膜を劣 させることが起こりにくい。

 また、酸化膜の表面のみならず、M 2 B型硼化物の表面に上記の導電層を形成する とも、接触抵抗の低下、特に接触抵抗の経 的な上昇の抑制の観点から好ましい。
 すなわち、M 2 B型硼化物の表面にも、M 2 B型硼化物が酸化することにより形成された 化物(以下、ステンレス鋼母材の表面に設け れた酸化膜と区別するために、「M 2 B型硼化物の表面酸化物」という。)が存在し 電池の運転に伴い腐食が進行することによ てこのM 2 B型硼化物の表面酸化物が成長する。このた 、セパレータとガス拡散電極層との間の接 抵抗が増大し、電池性能が経時的に劣化す 場合がある。

 そこで、露出するM 2 B型硼化物を非金属性導電物質層で被覆する とによって、M 2 B型硼化物の表面酸化物の成長が抑制され、 ス拡散電極層をなす部材との接触抵抗が経 的に上昇することが抑制される。

 なお、M 2 B型硼化物の表面酸化物は、ステンレス鋼材 面の不動態皮膜に比較して生成速度が遅く 固でない。このため、例えば黒鉛質炭素の うな軟質な非金属性導電物質を押し付けて 面を摺動させるだけで、M 2 B型硼化物の表面酸化物は除去され、この硼 物と非金属性導電物質との間に良好な電気 導通が得られる。

 ただし、M 2 B型硼化物の表面酸化物が過剰に厚く発達し いる場合には、非金属性導電物質を被覆し も低い接触抵抗は得にくくなるため、非金 性導電物質を被覆する工程に先立って、M 2 B型硼化物の表面酸化物を除去してM 2 B型硼化物の表面を露出させる酸洗工程を実 することが望ましい。

 なお、この非金属性導電物質によるM 2 B型硼化物上への被覆は、燃料電池を構成し 場合にガス拡散電極層と接触する表面のみ 実現されれば電気的導通の観点からは十分 ある。

 b)非金属性導電物質は黒鉛質炭素であるこ が好ましい。
 非金属性導電物質には、先に例示した黒鉛 炭素のほかに、カーボンブラック、導電性 料などが例示され、いずれについても、燃 電池として組み立てたときにセパレータに められる導電性をステンレス鋼材が有すれ 問題なく使用できる。この中でも特に黒鉛 炭素を用いて被覆する、すなわち非金属性 電物質を黒鉛質炭素とすることが、化学的 定性、導電性、およびM 2 B型硼化物に対する密着性などの観点から好 しい。

 なお、金属セパレータにカーボンコート 施すことはこれまでも提案されているが、 用するカーボンの性状・構造を特に限定し いるものはない。たとえば特許文献3には、 カーボンブラックとグラファイト粉末の混合 物と規定する記載があるのみである。

 本発明者らが、この黒鉛質炭素について らに詳細に検討した。その結果、黒鉛質炭 のうち特にC面間隔d002≦3.390Åの性状を有す るカーボンを被覆すると、良好な密着性が得 られると同時に、特に低い接触抵抗が得られ ることを本発明者らは知得した。

 黒鉛質炭素のC面間隔をd002≦3.390Åと規定し た理由は次のとおりである。
 (i)黒鉛質炭素の可塑性は、C面間隔が小さく なり理想的な結晶状態である3.354Åに近づく ど良好になる。本発明において規定してい C面間隔がd002≦3.390Åの黒鉛質炭素は可塑性 が良好であるため、M 2 B型硼化物の表面に対する被覆が容易になる

 (ii)結晶性の高い黒鉛質炭素の電気抵抗値に は、異方性がある(黒鉛の特性と技術展開 日 立粉末冶金テクニカルレポート No.3(2004) 表1  )。a軸方向の体積抵抗率は4~7×10 -5 ωcmと低く、c軸方向は1~5×10 -1 ωcmと高い。このa軸方向の電気伝導は、sp2結 におけるπ結合が共役することによっても らされているので、結晶性が高いほど体積 抗率も低くなる。このため、d002≦3.390Åの 晶性が高い黒鉛質炭素を用いることで、a軸 向の体積抵抗率が特に低くなる。その結果 黒鉛質炭素全体の体積抵抗率が低くなり、 触抵抗の低下がもたらされる。前述したよ に、一般的なカーボンの抵抗が平均1375×10 -6 ωcm、すなわち約1.4×10 -3 ωcm(若い技術者のための機械・金属材料 丸 株式会社 325ページ)であることを考慮にい ると、黒鉛質炭素のa軸方向の低い体積抵抗 (4~7×10 -5 ωcm)を積極的に活用することが望まれる。

 (iii)酸化膜の表面とM 2 B型硼化物の表面とからなる表面(以下、「被 理表面」という。)に対して、結晶性の高い 黒鉛質炭素を摺動させながら圧着させると、 黒鉛質炭素はちぎれて鱗片状の粉体となって 、酸化膜の表面に固着する。このとき、鱗片 状粉末であるため電気抵抗の低いa軸方向が テンレス鋼材の表面に平行となるように配 した形で圧着する。このため図3に示すよう 、表面と平行な方向(面内方向)には電気が れやすくなる。

 ここで、M 2 B型硼化物は導電層と電気的に接続するため 導電層において面内方向に流れた電荷はM 2 B型硼化物にも流れ込むことができる。そし 、このM 2 B型硼化物はステンレス鋼母材に部分的に埋 されるため、導電層を通る電荷はM 2 B型硼化物を伝ってステンレス鋼母材の中に れることができる。すなわち、M 2 B型硼化物は、導電層とステンレス鋼母材と 電気的に接続する連結ポイントとなってい 。この点を換言すれば、M 2 B型硼化物は導電層を流れる電荷をステンレ 鋼母材へと流す集電ポイントとして機能し いる。上記のようにa軸方向の体積抵抗率が に低いd002≦3.390Åの黒鉛質炭素を用いると この集電効果が顕著に見られるようになり 接触抵抗が特に低くなる。

 なお、上記の圧着作業により、M 2 B型硼化物上にも黒鉛質炭素が固着する。こ ときM 2 B型硼化物の表面酸化物が除去されるのは前 のとおりである。
 (iv)黒鉛質炭素の腐食は結晶性が乱れた部分 において発生しやすいため、結晶性が高いほ ど黒鉛質炭素は腐食が発生しにくい。したが って、d002≦3.390Åの黒鉛質炭素を含んでなる 導電層はステンレス鋼材における腐食防止層 として効果的に機能をする。また、M 2 B型硼化物の表面に黒鉛質炭素を含む導電層 形成された場合には、M 2 B型硼化物の表面酸化物の形成および成長が 期にわたって抑制される。このため、接触 抗の経時変化も生じにくい。

 (v)黒鉛質炭素の配向性は、広角X線回折(2θ/ スキャン法)から得られる面内方向の回折線( 110)とC軸方向の回折線(004)のピーク強度比よ 知ることができる。黒鉛質炭素がd002≦3.390 の結晶性を有することに加えて、ステンレ 鋼材の表面を被覆する黒鉛質炭素結晶から 広角X線回折における(110)回折線のピーク強 I(110)の(004)回折線のピーク強度I(004)に対する 比であるI(110)/I(004)が0.1未満である場合には 抵抗率が低い黒鉛のa軸方向がほぼステンレ 鋼材の表面と平行する状態となり、黒鉛質 素のa軸方向の低い体積抵抗率(4~7×10 -5 ωcm)を積極的に活かすことが可能となる。I(11 0)/I(004)が0.05未満であれば、特に好ましい。

 c)樹脂性結着剤を単独で被処理表面に塗布 、その後黒鉛質炭素を摺動圧着させること 好ましい。
 黒鉛質炭素を含んでなる導電層を基板上に 覆する場合には、黒鉛質炭素を含有する導 性塗料を作製し、この塗料を基板上に塗布 て導電層を形成する方法が一般的に行われ いる。しかしながら、この塗料は具体的に 黒鉛質炭素粉末と樹脂結着剤との混合物で り、結着剤となる樹脂は導電性を持たない このため、黒鉛質炭素単独で被覆する場合 比べ、上記塗料による塗膜の場合には接触 抗が高くなる傾向がある。したがって、黒 質炭素を含んでなる導電層により金めっき 近い接触抵抗を実現するためには、この導 層を形成する材料が樹脂性結着剤を用いな ことが望ましい。ところが、結着剤を用い と、導電層を形成する工程における製造条 の管理が容易となるため、生産性の観点か は使用したほうが好ましい場合もある。

 本発明者は、本発明に係る導電層の形成 法について検討した。その結果、結着剤と 鉛質炭素とを混合して得られる導電性塗料 被処理表面に塗布するのではなく、結着剤 単独で被処理表面に塗布し、結着剤が塗布 れた被処理表面に対して上記の摺動による 鉛質炭素の固着を行うと、導電層の接触抵 の上昇を抑制しつつ導電層と被処理表面と 密着力を向上させることが可能である。こ 場合であっても、被覆する黒鉛質炭素の質 に対して2質量%以下にすることが望ましい

 本発明は、上記の知見に基づき完成された のある。
 本発明は、その一態様として、固体高分子 燃料電池のセパレータ用ステンレス鋼材で って、ステンレス鋼母材と、当該ステンレ 鋼母材の表面に設けられた酸化膜と、当該 化膜の表面に設けられ非金属性導電物質を える導電層と、前記酸化膜を貫通するよう 設けられ、前記ステンレス鋼母材および前 導電層に電気的に接続する導電性物質とを えるステンレス鋼材である。

 上記の導電性物質がM 2 B型硼化物系金属介在物からなり、このM 2 B型硼化物系金属介在物はステンレス鋼母材 部分的に埋設されることが好ましい。
 上記の導電層が上記のM 2 B型硼化物系金属介在物の表面にも設けられ いることが好ましい。

 上記の硼化物系金属介在物がCrの硼化物を んでいることが好ましい。
 上記の非金属性導電物質が黒鉛質炭素を含 でいることが好ましい。
 上記の黒鉛質炭素の面間隔がd002≦3.390Åで ることが好ましい。

 上記の酸化膜の表面に設けられた黒鉛質 素の結晶について広角X線回折測定すること により得られる原子面の回折線のピーク強度 を比較したときに、(110)原子面の回折線のピ ク強度の(004)原子面の回折線のピーク強度 対する比率が0.1未満であることが好ましい

 上記の導電層が、上記の酸化膜の表面と 記の硼化物系金属介在物の表面とからなる 面(被処理表面)に対して黒鉛質炭素を含む 材を摺動させることにより形成されたもの あることが好ましい。ここにのべる広角X線 折測定とは、X線が入射する試料面は鋼板表 面とし、またその面はゴニオメーターの回転 軸に一致させ、回折角、強度の測定誤差が生 じないような2θ/θスキャン法を意味する。

 上記の酸化膜の表面と硼化物系金属介在物 表面とからなる表面(被処理表面)の粗さがRa として0.10μm以上であることが好ましい。
 上記の導電層が、上記の酸化膜の表面と上 の硼化物系金属介在物の表面とからなる表 (被処理表面)に黒鉛質炭素およびその2質量% 以下の結着剤を含む塗料組成物を塗布し、当 該塗布物が付着する表面に対して黒鉛質炭素 を含む部材を摺動させることにより形成され たものであることが好ましい。

 上記の結着剤が、PVDF(ポリフッ化ビニリデ )およびPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の なくとも一種を含むことが好ましい。
 また、本発明は、別の態様として、燃料電 膜、固体高分子電解質膜および酸化剤電極 をこの順番で重ねあわせて形成された単位 池を複数個、この単位電池間にセパレータ 個別に介在させて積層した積層体に、燃料 スおよび酸化剤ガスを供給して直流電力を 生させる固体高分子形燃料電池であって、 パレータが上記のステンレス鋼材からなる 体高分子形燃料電池である。

 本発明に係るステンレス鋼材からなるス ンレスセパレータを用いることで、金めっ 等の高価な表面処理が不要で、発電性能に れ・電池性能劣化の少ない経済性に優れた 体高分子形燃料電池を提供することができ 。

固体高分子形燃料電池の構造を概念的 示す図である。 接触抵抗の測定原理を示す図である。 黒鉛質炭素を圧着したステンレス鋼材 表面のSEM画像(上)と模式図(下)である。

 以下、本発明を構成する要件とその限定理 を記載する。
 1.導電性物質
 本発明に係るステンレス鋼材は、ステンレ 鋼母材と電気的に接続しつつ、ステンレス 母材の表面に設けられた酸化膜、すなわち テンレス鋼母材の不動態皮膜を貫通するよ に設けられた導電性物質を備える。この導 性物質は、酸化膜の表面に設けられた導電 (詳細は後述する。)とも電気的に接続して る。導電性物質と電気的に接続している部 以外のステンレス鋼母材の表面には、酸化 が設けられているため、導電性物質を介し 、ステンレス鋼材と導電層とは電気的に接 している。

 ステンレス鋼母材の表面における導電性 質がステンレス鋼母材と電気的に接触する 域の面積比率や形状、換言すれば、ステン ス鋼母材の表面に設けられた酸化膜、すな ち不動態皮膜と導電性物質とが作るパター 、は特に限定されない。好ましい一例とし 、酸化膜をマトリックスとして、導電性物 が散在する表面パターンが挙げられる。一 的には、導電性物質よりも酸化膜のほうが 食性に優れるため、耐食性の確保の観点か はステンレス鋼母材の表面における導電性 質と電気的に接続する部分の面積は少ない うが好ましい。逆に、後述するように、本 明においては、導電性物質は集電ポイント して機能するため、導電性物質とステンレ 鋼材との直接的な接触面積は、大きいほど 触抵抗は低くなる。したがって、導電性物 と電気的に接続する部分の面積は、流す電 量によって適宜決定すればよいことになる 一方、過度の電流集中を避けるために、導 性物質は酸化膜に散在するように設けられ いることが好ましい。

 酸化膜に導電性物質を散在させる方法は に限定されない。簡便な方法の一例として ステンレス鋼母材中に導電性物質を分散析 させておき、セパレータに成形後、酸洗等 鋼母材の表面に露出させる方法が挙げられ 。この場合には、ステンレス鋼母材の表面 おける導電性物質が露出した部分にはステ レス鋼母材の酸化膜としての不動態皮膜は 成されない。このため、酸化膜は導電性物 を包むように成長する。したがって、結果 に導電性物質は酸化膜を貫通するように設 られることになり、しかも、導電性物質は 化膜に散在した状態となる。

 この導電性物質の組成は、(1)低い電気抵抗 よび(2)良好な耐食性を有すれば特に制限は い。好ましい一例として、M 2 B型硼化物系金属介在物(M 2 B型硼化物)が挙げられる。このM 2 B型硼化物は、ステンレス鋼材に含まれる硼 が鋼を組成する金属元素により生成した導 性化合物であり、ステンレス鋼母材との間 の接触抵抗が特に少ない。M 2 B型硼化物の具体例として、Fe 2 B,Cr 2 B,Ni 2 B,Mo 2 Bなどが挙げられ、このほか、Cr x Ni y B(x、yは正の整数でx+yが約2である。)のような 複合硼化物が例示される。これらのなかでも 、Crの硼化物を含むM 2 B型硼化物であることが、硬度および導電性 さらに表面に形成される酸化物の特性(特に 械的強度)の観点でバランスが取れていて、 好ましい。

 ここで、M 2 B型硼化物を形成するステンレス鋼材の構成 素は、特に限定されず、オーステナイト系 あっても、フェライト系や2相系であっても まわない。生成されるM 2 B型硼化物量を増やすという観点からは硼素 よびM 2 B型硼化物を作る金属元素の含有量を通常の テンレス鋼材に比べて高めることが好まし が、鋼材に求められる他の特性(機械特性、 食性など)との関係で適宜決定されるべきで ある。

 典型的な鋼組成を以下に例示する。
 オーステナイト系ステンレス鋼として、質 %で、C:0.2%以下、Si:2%以下、Mn:3%以下、Al:0.001 %以上6%以下、P:0.06%以下、S:0.03%以下、N:0.4%以 、Cr:15%以上30%以下、Ni:6%以上50%以下、B:0.1% 上3.5%以下、残部Feおよび不純物を含有する テンレス鋼が例示される。強度、加工性、 食性の観点から、更にFeの一部に代えて、質 量%で、Cu:2%以下、W:5%以下、Mo:7%以下、V:0.5%以 下、Ti:0.5%以下、Nb:0.5%以下が含有されていて よい。

 フェライト系ステンレス鋼として、質量% で、C:0.2%以下、Si:2%以下、Mn:3%以下、Al:0.001% 上6%以下、P:0.06%以下、S:0.03%以下、N:0.25%以下 、Cr:15%以上36%以下、Ni:7%以下、B:0.1%以上3.5%以 下、残部Feおよび不純物を含有するステンレ 鋼が例示される。強度、加工性、耐食性の 点から、更にFeに一部に代えて、質量%で、C u:2%以下、W:5%以下、Mo:7%以下、V:0.5%以下、Ti:0. 5%以下、Nb:0.5%以下が含有されていてもよい。

 2相系ステンレス鋼として、質量%で、C:0.2 %以下、Si:2%以下、Mn:3%以下、Al:0.001%以上6%以 、P:0.06%以下、S:0.03%以下、N:0.4%以下、Cr:20%以 上30%以下、Ni:1%以上10%以下、B:0.1%以上3.5%以下 、残部Feおよび不純物を含有するステンレス が例示される。強度、加工性、耐食性の観 から、更にFeに一部に変えて、質量%で、Cu:2 %以下、W:5%以下、Mo:7%以下、V:0.5%以下、Ti:0.5% 下、Nb:0.5%以下が含有されていてもよい。

 それぞれの成分の限定理由は、以下のとお である。なお、元素の含有量における%は質 量%を意味する。
 Cは、鋼の強度を確保するために必要な元素 であるが、過剰に含有させると、加工性が劣 化するので上限を0.2%とする。好ましくは、0. 15%以下である。

 Siは、脱酸剤として添加される成分である しかし、過剰な添加は延性の低下を招き、 に2相系ではσ相の析出を助長する。したが て、Siの含有量は2%以下とする。
 Mnは、脱酸や鋼中のSをMn系の硫化物として 定する作用があるために、添加される。一 で、オーステナイト相安定化元素であるた に、オーステナイト系では相の安定化に寄 する。また、2相系ではフェライト相の比率 調整する目的で調整される。しかし、過剰 含有させると耐食性を低下させるため、上 を3%とする。好ましい範囲は2%以下である。

 P、Sは、不純物として混入する元素であり 耐食性や熱間加工性を低下させるために、 れぞれ0.06%以下、0.03%以下とする。
 Alは、脱酸元素として溶鋼段階で添加する 本発明鋼ではBを含有させM 2 B型硼化物を形成させるが、Bは溶鋼中酸素と 結合力が強い元素であるので、Al脱酸によ 酸素濃度を下げておくのがよい。そのため 0.001~6%の範囲で含有させるのがよい。

 Nは、フェライト系におけるNは不純物で る。Nは常温靭性を劣化させるので上限を0.25 %とするのがよい。低いほうがより好ましく 0.1%以下とする方が良い。一方、オーステナ ト系および2相系においては、Nはオ-ステナ ト形成元素として、オーステナイト相バラ スの調整や、耐食性の向上に有効な元素で る。しかし、過剰な含有は加工性を劣化さ るために、上限を0.4%とするのがよい。

 Crは、ステンレス鋼の耐食性を確保する に必要な元素であり、オーステナイト系お びフェライト系では15%以上、2相系では20%の 有が必要である。フェライト系においてはC r量が36%を超えると量産規模での生産が難し なる。オーステナイト系では30%を超えると ーステナイト相がその他合金成分の調整に っても不安定になる。また、2相系では、30% 超えるとフェライト相が増加し、2相組織を 維持し難くなる。

 Niは、オーステナイト相安定化元素で、 ーステナイト系では耐食性を向上させるこ が可能となる。6%未満では、オーステナイト 相が不安定となり、また50%を超えると製造が 困難となる。フェライト系においても、耐食 性、靭性を改善する効果があるが、7%を超え 含有させると、フェライト相が不安定とな ため、7%を上限とする。一方、2相系におい も、耐食性、靭性を改善する効果があり、1 %以上含有させる。しかし、10%を超えて含有 ると過度のオーステナイト相の増加とフェ イト相の減少を招く。

 Bは、M 2 B型硼化物を形成させるのに重要な元素であ 、Cr、Feを主体とし、Ni、Moを微量含有する(Cr ,Fe) 2 B、(Cr,Fe,Ni) 2 BといったM 2 B型硼化物として析出させる。この効果は、0. 1%以上で発揮されるが、3.5%を超えるBを含有 せることは、通常の溶解法での製造では困 である。

 Cu、W、Mo、V、TiおよびNbは任意添加元素で あり、強度、耐食性等を改善する元素で、そ れぞれ、2%、5%、7%、0.5%、0.5%、0.5%を上限とす る。これを越えた含有は、上記の改善効果が 飽和するうえに、加工性を劣化させる場合も ある。

 M 2 B型硼化物をステンレス鋼母材の表面に露出 せる処理(以下、「露出処理」ともいう。)は 特に限定されない。一例として、ステンレス 鋼母材および不動態皮膜は溶解するが硼化物 を溶解しにくい酸液等でステンレス鋼母材を 選択的に溶解し露出させる方法が挙げられる 。この酸液等には、ふっ酸、硝酸、硫酸、塩 酸、塩化第2鉄等を単体または混合して用い ことができる。特に、ふっ酸、硝酸、硫酸 塩酸等の酸液で処理した場合には、電池の 動中に固体高分子電解膜由来のF、SO 4 2- によるセパレータからの金属の溶出を抑制で きる点で好ましい。この理由については明ら かではないが、電池稼動中に生成するふっ酸 や硫酸で予め酸洗を行っておくことによって 、これらの酸で溶解可能な金属成分は酸洗時 に溶出しているために、稼動時の金属の溶出 が抑制されているものと推測される。

 露出処理は不動態皮膜を溶解する処理で るために、セパレータ用のステンレス鋼材 おける酸化膜としての不動態皮膜が十分に 成されず、ステンレス鋼材が腐食されやす なる問題が生じる場合がある。このような 合には、露出処理の後に、硝酸等の酸化性 で不動態化処理を行うことが望ましい。

 また、不動態化処理を行った場合に、M 2 B型硼化物の表面酸化物が成長し、接触抵抗 増大する場合がある。このような場合には 酸化膜として機能する不動態皮膜を溶解し くい硫酸等でM 2 B型硼化物の表面酸化物を選択的に除去する とが好ましい。

 2.導電層
 本発明に係るステンレス鋼材は酸化膜(不動 態皮膜)上に導電層が設けられており、その 電層は非金属性導電物質を備える。なお、 下、導電性物質がM 2 B型硼化物からなる場合を例として説明を行 が、導電性物質は他の材料であってもよい

 導電層を構成する非金属性導電物質には、 述のように、カーボンブラックや導電性塗 、さらにはITO(酸化インジウムスズ)、WCなど の化合物系の導電物質などが含まれ、これら の材料を使用してもよい。黒鉛質炭素を用い ることが化学的安定性、導電性、およびM 2 B型硼化物に対する密着性などの観点から好 しい。

 黒鉛質炭素は種類を問わず、鱗片状黒鉛 鱗状黒鉛、膨張黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛 いずれを使用してもよい。後述するように 黒鉛質炭素の異方導電性を最大限に生かす 点からは鱗片状黒鉛や鱗状黒鉛のようなア ペクト比(直径/高さ)が大きな形状を有する のを用いることが好ましい。

 ここで、被覆する黒鉛質炭素には、(1)導電 が高いこと、(2)硫酸・フッ素イオン等が存 する雰囲気においても十分な耐食性を有す ことが求められる。さらに、後述する好ま い製造方法(酸化膜の表面とM 2 B型硼化物の表面とからなる表面に対して黒 質炭素を摺動させ、M 2 B型硼化物のやすり効果により黒鉛質炭素を り取り、これを酸化膜の表面にa軸方向が優 的に表面と平行となるように固着させる方 )の観点から(3)摺動による被覆が容易である 軟質材料であることが好ましい。

 こうした要求を同時に満たす観点からは 結晶性が高い黒鉛質炭素を用いることが好 しい。前述のように、結晶性が高いほど黒 質炭素は軟質であり導電性も良好であるう 、結晶性が高いほど耐薬品性が良好で、酸 アルカリのいずれの環境下においても優れ 耐食性を有する。このため、結晶性が高い どイオン溶出等でMEA膜を汚染し性能劣化を 引する可能性が低い。

 ここで、黒鉛質炭素は、一般的にC面間隔 d002の大きさによって結晶性を評価すること でき、本発明に使用する黒鉛質炭素のC面間 をd002≦3.390Åとすることで、上記の要求を 度に満たすことができ、特に好ましい。

 また、黒鉛質炭素は、その抵抗の低い方 (a軸方向)が酸化膜の表面と平行になるよう 配向させることが好ましい(図3参照。)。こ 場合には、体積抵抗率の低いa軸方向が酸化 膜の表面に平行となっているため、この面内 方向での電荷の移動が容易になっている。

 このため、このセパレータにガス拡散電極 が接触すれば、その接触部分にステンレス 母材と直接的に電気的に接続しているM 2 B型硼化物が存在せず、ガス拡散電極層は黒 質炭素と接触していた場合であったとして 、この面内方向の体積抵抗率が特に低くな ている導電層を通じて電荷がM 2 B型硼化物に速やかに移動することが可能で る。そして、M 2 B型硼化物はステンレス鋼母材と電気的に接 しているため、電荷はステンレス鋼母材へ 移動することができる。

 すなわち、結晶性が高い黒鉛質炭素を含ん なりセパレータ表面に存在する導電層にガ 拡散電極層が接触すれば、M 2 B型硼化物とガス拡散電極層とが直接的に接 していなくとも、この導電層によるM 2 B型硼化物への集電現象によってセパレータ ガス拡散電極層との電気的接触が達成され ことになる。

 従来のM 2 B型硼化物を露出させただけ構成のステンレ 鋼材(以下、「導電層がない硼化物分散ステ レス鋼材」という。)からなるセパレータを 用いた燃料電池では、このような集電現象が 生じないため、ガス拡散電極層とセパレータ との電気的な接触状態は複数の点接触であっ た。この燃料電池と比べて、本発明に係るセ パレータを用いた燃料電池では、ガス拡散電 極層とセパレータとの電気的な接触面積が飛 躍的に増大するため、その電気的な接触状態 は複数の点接触から面接触に近い状態に変化 する。このような優れた電気的な接触状態の 結果として、本発明に係るセパレータはその 表面部分は金めっきと同等の抵抗値を示し、 かかるセパレータを用いた燃料電池は、金め っきセパレータを用いたものと同等の電池特 性を有する。

 ここで、前記の集電現象を効果的に実現 るためには、本発明に係る非金属性導電性 質を含んでなる導電層の面内方向の電気抵 がガス拡散電極層の電気抵抗よりも低いこ が好ましい。この点に関し、ガス拡散電極 の電気抵抗は体積抵抗率として面内方向0.08 ωcm程度(財団法人 日本自動車研究所 平成16 度「燃料電池自動車に関する調査報告書」 4章 技術動向-1 214ページ 表4-1-15参照)であ るから、黒鉛質炭素のC面間隔をd002≦3.390Å あって黒鉛質炭素のa軸方向が表面に平行に 向した構造を有する導電層は、この集電現 が効果的に発生しているものと推測される

 本発明に係る導電層における黒鉛質炭素 配向性は、導電層中の黒鉛質炭素結晶から 広角X線回折における(110)回折線のピーク強 I(110)と(004)回折線のピーク強度I(004)との強 比であるI(110)/I(004)により知ることができる

 広角X線回折による回折線のピーク強度の測 定方法は前述のとおりである。
 この指標I(110)/I(004)が0.1未満であれば、黒鉛 質炭素被覆層における黒鉛質炭素のa軸方向 ほぼステンレス鋼材の表面と平行する状態 なり、黒鉛質炭素のa軸方向の低い体積抵抗 (4~7×10 -5 ωcm)を積極的に活かす、すなわち集電現象を 果的に生じさせることが可能となる。指標I (110)/I(004)が0.05未満であれば、特に優れた電 特性を有するステンレス鋼材が得られる。

 以上説明したように導電層は集電現象に りセパレータとしての高い導電性を実現し いるものと想定されるが、黒鉛質炭素の熱 導率が高いこともセパレータとしての導電 を高めることに寄与していると考えられる

 黒鉛質炭素を含んでなる導電層は酸化物で る不動態皮膜に比べると熱伝導率が高く、 に黒鉛質炭素の結晶性が高く、黒鉛質炭素 a軸方向がほぼステンレス鋼材の表面と平行 する場合には、導電層の表面と平行な方向に ついて100W/mK以上の熱伝導率が達成されてい ものと想定される。このため、使用時に集 現象によってM 2 B型硼化物に発生するジュール熱は速やかに 電層に拡散していることが期待される。し がって、M 2 B型硼化物の体積抵抗率がジュール熱によっ 上昇したり、M 2 B型硼化物が熱変性することによってその体 抵抗率が上昇したりすることが抑制され、 パレータとしての導電率の低下が抑制され ことになる。

 また、導電層がない硼化物分散ステンレス 材からなるセパレータでは、表面に露出す M 2 B型硼化物の分布がガス拡散電極層との接触 抗に直接的に影響していた。このため、表 に露出するM 2 B型硼化物の分布を可能な限り多くする必要 あった。

 しかしながら、本願発明に係るステンレス 材では、この集電現象によって、ステンレ 鋼母材と電気的に接続しているM 2 B型硼化物のステンレス鋼母材の表面におけ 分布の程度がガス拡散電極層とセパレータ の接触抵抗に与える影響が少なくなる。こ ため、ステンレス鋼材の化学組成の自由度 高くなる。具体的には、ステンレス鋼材中 硼化物の生成量を低減できるために鋼材の 工性が向上し、ステンレス鋼材を製造する 延、冷延工程、更にはセパレータのプレス 工工程の負荷が低減できる。また、M 2 B型硼化物を形成する工程(熱処理など)やこれ を露出させる工程の管理許容幅が広がる。し たがって、本発明に係るステンレス鋼材は、 導電層がない硼化物分散ステンレス鋼材に比 べて生産性が向上している。

 また、本発明に係るステンレス鋼材からな セパレータはガス拡散電極層に対して実質 に電気的に面接触することになるため、電 伝導を担うM 2 B型硼化物の一つが酸化などの理由により導 性能が低下しても、電気的な接触状態が複 の点接触であった導電層がない硼化物分散 テンレス鋼材に場合に比べてその影響は軽 であり、接触抵抗の経時変化が起こりにく 。

 導電層はM 2 B型硼化物上に設けられていてもよい。M 2 B型硼化物の表面にも導電層が設けられるこ によって、M 2 B型硼化物の表面酸化物の形成が抑制される このため、ガス拡散電極層との接触抵抗が 時的に上昇することが抑制される。

 上記のような導電層を実現する被覆方法は に制限されないが、次の方法を用いれば、 記の被覆状態が効率的かつ安定的に実現さ 、好ましい。
 まず、ステンレス鋼母材にM 2 B型硼化物が分散されたステンレス鋼からな 基材を公知の方法により形成する。具体例 示せば、次のようになる。まず、溶解原料 炉内で加熱溶解し、得られた溶鋼を連続鋳 によりスラブとし、これを熱間圧延し、焼 する。得られた鋼を酸洗後、冷間圧延し、 鈍することによりステンレス鋼からなる基 が得られる。なお、連続鋳造を行わずに、 鋼から造塊してインゴット得て、これを鍛 して熱間圧延に供してもよい。また、冷間 延を複数回行い、その間に中間焼鈍を行っ もよい。あるいは、M 2 B型硼化物の生成を確実にするために、セパ ータへの形状加工を行った後で熱処理(例え 700℃~800℃程度、数時間~数十時間)を行って よい。

 次に、物理的および/または化学的にステン レス鋼からなる基材(この基材が形状加工さ てセパレータの形状が付与されたものを含 。)の表面の表面、を除去し、その表面にM 2 B型硼化物を露出させる。その方法は基材の 理的・化学的特性に基づき、公知の方法か 適切な方法を選択して実施すればよい。具 例を示せば、物理的方法としてはベルトグ インディングなどを用いた表面研磨が挙げ れる。化学的方法としては酸による洗浄が げられ、処理液として塩化第二鉄水溶液や 酸およびフッ酸の混合水溶液が例示される なお、表面にM 2 B型硼化物を露出させる処理が行われたステ レス鋼からなる基材では、M 2 B型硼化物が露出する表面以外の表面は、ス ンレス鋼母材の不動態皮膜からなる酸化膜 覆われている。

 続いて、酸化膜の表面とM 2 B型硼化物の表面とからなる表面(被処理表面) と黒鉛質炭素のブロックとを摺動させ、M 2 B型硼化物のやすり効果によって黒鉛質炭素 表層を削り、被処理表面に圧着させる。こ ようにして黒鉛質炭素の被覆を行うと、摺 によるせん断力によって黒鉛質炭素はブロ クからちぎれて鱗片状となって、露出したM 2 B型硼化物の表面を含む被処理表面の全面に 着する。そして、この黒鉛質炭素が鱗片状 あることにより、固着した黒鉛質炭素のa軸 被処理表面に平行になりやすい。このため 図3に示すような集電作用が生じやすくなり 、特に優れた特性のセパレータが得られる。

 黒鉛を摺動付着させる方法については、上 の摺動に限定されるものではない。他の例 示すと次のようになる。
 ロール材質を黒鉛とした圧延機でバックテ ションをかけながら圧延を行う、
 フライス盤の工具部分を黒鉛丸棒に交換し 一定の荷重をかけながら黒鉛を回転させて 着する、
 黒鉛粉末を付着させたブラシで表面を擦る および
 黒鉛粉末を付着させた布(フェルト等)で擦 。

 被処理表面と導電層との密着性を高めるた に、被処理表面(酸化膜の表面と硼化物系金 属介在物の表面とからなる表面)の表面粗さ 、平均表面粗さRaとして0.10μm以上とするこ が好ましい。被処理表面の表面粗さの上限 この密着性の観点からは特に制限されない 粗さを過度に大きくしても効果が飽和する め、実用上0.1~3μm程度で十分である。また、 ステンレス鋼材をプレス成形等によりセパレ ータ形状へ加工した際に割れが発生する可能 性を低減する観点から、平均表面粗さRaを板 の1/10以下とすることが好ましい。通常酸洗 で表面粗さを増大させる場合には、平均表面 粗さRaは2~3μmが上限となる。ダルロールを用 ると被処理表面に数十μm程度の粗さを十分 与できる。M 2 B型硼化物を露出させるために行う表面処理( えば酸による洗浄)において、同時に被処理 表面に所定の表面粗さを付与してもよい。

 なお、この表面粗さは、ステンレス鋼材の ち、燃料電池を構成した場合にガス拡散電 層と接触する面のみが有すればよい。
 被処理表面を上記の表面粗度に調整する方 は特に限定されず、いくつか例を挙げると 次のようになる。

 (1)表面処理:例えば塩化鉄などステンレス 鋼材をエッチングするための公知のエッチャ ントを用い、エッチング量に応じてエッチャ ント濃度、エッチング液温度、エッチング時 間などを設定してエッチングを行う。

 (2)ベルトグラインドによる研磨:表面にダ イヤモンド、炭化珪素、アルミナなどの研磨 砥粒が埋め込まれたベルトグラインダーを用 いて表面研磨を行い、所定の表面粗度まで調 整する。

 (3)圧延ロールの表面粗さを調整することに る表面粗さ制御:圧延ロール研削仕上げの粗 さを調整し、被圧延材の表面粗さを調整する 。
 3.結着剤について
 前述のように、結着剤は導電性を有しない で、黒鉛質炭素を被覆する場合にこれを使 すると、当然に接触抵抗は高くなる。この め、被処理表面上に導電層を形成するとき は結着剤を用いないことが理想的である。 た、上記の好ましい態様として示したC面間 隔がd002≦3.390Åである黒鉛質炭素を用いて、 上記の好ましい方法で被覆すれば、通常の燃 料電池に組み込み、使用される条件では剥離 がほとんど発生しないセパレータを得ること が可能である。

 しかし、たとえば厳しい燃料電池運転条件 より密着性を要求される場合には黒鉛質炭 を含む導電層を形成する際に結着剤を使用 ることが可能である。
 この結着剤の使用に関し、従来技術におい は黒鉛質炭素と結着剤とを混合して塗料化 て塗布する方法が一般的であるが、上記の 鉛質炭素ブロックとステンレス鋼からなる 材(この基材が形状加工されてセパレータの 形状が付与されたものも含む。)との摺動に り黒鉛質炭素を鋼材またはセパレータの表 に固着させる方法の場合には、まず、被覆 るステンレス鋼からなる基材の表面、すな ち被処理表面に結着剤を塗布し、その後、 鉛質炭素を摺動被覆することが望ましい。

 上記の摺動被覆では次の現象が生じている 想定される。
 ・結着剤が表面に塗布された被処理表面に いて、突出するM 2 B型硼化物が黒鉛質炭素を削り取る、
 ・対向する黒鉛質炭素ブロックとの摺動に り、被処理表面上の結着剤が被処理表面か 剥がれる、
 ・被処理表面と黒鉛質炭素ブロックとの間 、削り取られた黒鉛質炭素と剥がれた結着 とが混合される、および
 ・被処理表面と黒鉛質炭素ブロックとの間 おける黒鉛質炭素と結着剤との混合物が、 処理表面に固着して導電層となる。

 このほか、黒鉛質炭素ブロックから削り取 れた黒鉛質炭素がそのまま、結着剤が塗布 れた被処理表面上に固着して導電層をなす 象も、同時に発生していると考えられる。
 このため、摺動固着後の被処理表面におけ 導電層は、被処理表面との界面側ほど結着 の含有量が多く、最表面側ほど黒鉛質炭素 含有量が高くなっているものと考えられる この構造を有する導電層を備えるセパレー における導電層の密着性およびガス拡散電 との接触抵抗の双方に優れていることは、 易に理解される。

 ここで、被処理表面のうち、M 2 B型硼化物の表面は、酸化膜の表面よりも強 力で摺動される。このため、M 2 B型硼化物の表面における結着剤は酸化膜の 面における結着剤よりも、対向する黒鉛質 素ブロックとの摺動において剥がれやすい したがって、M 2 B型硼化物の表面における導電層は、酸化膜 表面における導電層よりも結着剤の含有量 低く、黒鉛質炭素の含有量が高いと考えら る。それゆえ、M 2 B型硼化物の表面における導電層は相対的に 触抵抗が低いと期待される。

 なお、M 2 B型硼化物の表面の導電層は、結着剤の含有 が相対的に少ないため、導電性は高いもの 密着性が相対的に低くなっている可能性が る。しかしながら、M 2 B型硼化物の表面の導電層の周囲に連続的に 成される酸化膜の表面の導電層は、M 2 B型硼化物の表面の導電層よりも結着剤の含 量が多くなるため、相対的に強固に酸化膜 対して密着している。このため、この酸化 の表面の導電層によってM 2 B型硼化物の表面の導電層は保持され、剥離 抑制されているものと考えられる。

 こうして、結着剤を使用しつつ、初期の接 抵抗が低く、かつ経時的変化が少ないセパ ータを得ることが実現される。
 このような結着剤を予め塗布する方法を採 する場合であっても、黒鉛質炭素およびそ 2質量%以下の結着剤を含む塗料組成物を被 理表面に塗布することが好ましい。塗料組 物における結着剤の含有量が黒鉛質炭素の 有量の2%を超えると、導電層の抵抗が大きく なり、燃料電池用の抵抗発熱損失が大きくな って、電力としての出力が小さくなる可能性 が高まる。

 なお、用いる結着剤は、耐水性、耐酸化 そして耐薬品に優れるものであれば、種類 問わない。燃料電池の触媒層形成に用いら るPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVDF( リフッ化ビニリデン)などフッ素樹脂系の結 剤が好ましく、これらの中でもPTFEが特に好 ましい。

 以下、本発明の優位性を示すための実施 を示す。導電層に含有させる非金属性導電 質として黒鉛質炭素を用いた例を示すが、 気抵抗の低い導電性物質であれば黒鉛質炭 に限定されることは無い。

 1.ステンレス鋼材の準備
 (1)鋼板の製造
 表1に示した10種の化学組成のステンレス鋼 高周波誘導加熱方式の150kg真空溶解炉で溶 しインゴットに造塊した。なお、表中の分 Aはオーステナイト系ステンレス鋼、Fはフェ ライト系ステンレス鋼を意味する。

 なお、材料1,2,7,8については、以下の関係と なるように成分設計を行った。
 材料1は、マトリックスが材料7の組成でCr 2 B系硼化物が析出するように組成調整したも 、具体的には、硼素を含有させるとともに 化物生成に使われるCrを増量したものである 。

 材料2は、マトリックスが材料8の組成でCr 2 B系硼化物が析出するように組成調整したも 、具体的には、硼素を含有させるとともに 化物生成に使われるCrを増量したものである 。

 得られた150kgの鋳塊に対して、表2に示す 造条件に従い、熱間鍛造、切削、熱間圧延 焼鈍、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延、焼 の工程をこの順番に行い、冷間圧延鋼板を た。

 上記の工程で得られた冷間圧延鋼板に対 て、最終焼鈍に続いて7質量%硝酸、4質量%ふ っ酸水溶液、60℃中で酸洗を実施した。得ら た鋼板の表面における高温酸化スケールを 去して、厚さが0.3mmのシート材を得た。

 (2)硼化物露出のための表面処理
 得られたシート材の表面に対して、硼化物 露出させる目的および表面粗さの調整の目 で、以下の条件で表面処理を行った。

 表面処理液の原料;塩化第二鉄無水物(和光 薬工業株式会社製)、純水
 表面処理液:45ボーメの塩化第二鉄水溶液
 表面処理条件:60℃の処理液に、シート材を4 0秒浸漬
 処理後の水洗・乾燥条件:表面処理後のシー ト材を十分に流水洗浄し、洗浄後の素材を70 のオーブンで十分に乾燥。

 以下、上記の表面処理により得られたシー 材をセパレータ用シート材という。
 2.接触抵抗の測定方法
 論文等(例えば チタン Vol.54 No.4 P259)で報 されている方法に準じ、図2に模式的に示す 装置を用いて、接触抵抗の測定を実施した。 面積が1cm 2 であってガス拡散電極層に使用されるカーボ ンペーパー(東レ(株)製 TGP-H-90)でセパレータ シート材を狭持し、これを金めっきした電 で挟んだ。次に、この金めっき電極の両端 荷重(5kgf/cm 2 または20kgf/cm 2 )を加え、続いて電極間に一定の電流を流し 。このとき生じるカーボンペーパーとセパ ータ用シート材と間の電圧降下を測定し、 の結果に基づいて接触抵抗を測定した。な 、得られた抵抗値は狭持した両面の接触抵 を合算した値となるため、これを2で除して ス拡散電極層片面あたりの接触抵抗値を求 、この値で評価した。

 電流値および電圧降下は、デジタルマルチ ータ((株)東陽テクニカ製 KEITHLEY2001)を用い 測定した。
 3.電池模擬環境における耐食性調査
 セパレータ素材を90℃、pH2のH 2 SO 4 に96時間浸漬し、十分に水洗し乾燥させた後 、前述の接触抵抗測定を行った。耐食性が 好でない場合には、セパレータ用シート材 表面には不動態皮膜が成長するため、浸漬 と比較し接触抵抗が上昇する。

 4.被覆黒鉛の面間隔測定
 被覆させる黒鉛の面間隔測定は2θ/θスキャ 法で測定し、X線回折測定装置((株)リガク製  RINT 2000)を用いて学振法117(炭素材料の格子 数および結晶子の大きさ測定法(改正案)04/07 /08)に従い、標準Siを20質量%添加して、ベース ライン補正、プロファイル補正等を施し、正 確な002面間隔(d002)、すなわちC面間隔を算出 た。なお、計算には、(株)リアライズ理工セ ンター製 Carbon-X Ver1.4.2 炭素材料X線回折デ タ解析プログラムを活用した。 

 ここで、摺動で黒鉛を被覆する場合には 使用する黒鉛ブロックそのものをX線回折測 定した。また、塗着の場合には、使用する黒 鉛粉末をX線回折測定した。黒鉛質炭素を真 蒸着により被覆させた場合には、そのまま は面間隔測定が困難であった。このため、d0 02ピークが明瞭に現れるまで厚く蒸着を行っ XRD測定専用のサンプルを試作して、このサ プルについてX線回折測定を行った。

 5.燃料電池セル評価
 評価に用いた固体高分子形燃料単セル電池 、米国Electrochem社製市販電池セルEFC50を改造 して用いた。

 セルに用いたステンレスセパレータ板の詳 は、以下のとおりである。
 表面処理前のセパレータ用シート材に対し 、図1に示す形状で両面(アノード側、カソ ド側)にプレス加工を行って溝幅2mm、溝深さ1 mmのガス流路を形成して、セパレータとした その後、実施例に示す表面処理法を行った 、このセパレータを用いて固体高分子形単 ル電池を組み立てた。実施例においては単 ルで評価を行った。多セル積層した状態で 、積層の技術の善し悪しが評価結果に反映 れるためである。

 アノード側燃料用ガスとしては99.9999%水素 スを用い、カソード側ガスとしては空気を いた。電池本体は全体を70±2℃に保温すると 共に、電池内部の湿度制御は、供給時のカソ ード側ガスの露点を70℃とすることで調整し 。電池内部の圧力は、1気圧である。
水素ガス、空気の電池への導入ガス圧は0.04~0 .20barで調整した。セル性能評価は、単セル電 圧で0.5A/cm 2 において0.62±0.04Vが確認できた状態を評価の 始時点とし、その後継時的に測定を行った

 上記の単セル電池を用いて次の評価を行っ 。
 (1)初期電池電圧
 特性評価は、電池内に燃料ガスを流してか 0.5A/cm 2 の出力が得られたときから単セル電池の電圧 を測定し、測定開始後48時間の最も高い電池 圧を初期電池電圧と定義した。

 (2)電池の劣化度
 初期電池電圧を記録した500時間後の電池電 (0.5A/cm 2 の出力時)を用いて、下記の定義(一時間毎の 池電圧低下割合)で燃料電池の劣化度を定義 した。

  劣化度={500時間後の電池電圧(V)-初期電池 圧(V)}/500時間
 6.被覆黒鉛の密着度測定
 セパレータ用シート材の表面に形成された 電層の密着度測定は、JIS D0202-1988に準拠し 碁盤目テープ剥離試験を行った。セロハン ープ(ニチバン(株)製 CT24)を用い、指の腹で フィルムに密着させた後剥離した。判定は100 マス(10×10)の内、剥離しないマス目の数で表 、導電層が剥離しない場合を100/100、完全に 剥離する場合を0/100として表した。

 本発明の有効性を確認するために、従来技 との比較検討を行った。評価結果を表3に示 す。
 従来の発明をトレースするための従来法1~9 評価試料の準備手順を以下に示す。

 従来法1
 セパレータ用シート材の表面に表面粗さの 整の目的で、前述の表面処理を行った。
 従来法2
 SUS316L相当材に、脱脂、洗浄、表面活性化、 および洗浄をこの順番で行い、さらに市販の シアン金カリウム溶液を用いて単位電池の電 極接触面(ガス拡散電極層との接触部)に相当 る面に金めっきを施した。金めっきの厚み 0.05μmであった。

 従来法3および4
 温度60℃であって10質量%の塩酸を用いてセ レータ用シート材を10秒酸洗した。洗浄後の セパレータ用シート材の表裏面に、100重量部 のグラファィト粉末(大阪ガス(株)製 MCMB 平 粒径6μm)と、35重量部の水分散性カーボンブ ラックを添加したポリオレフィン樹脂の水分 散性塗料とを混合して得られる塗料を30μm厚 塗布し、120℃×1分間の焼き付け処理を行っ 。

 従来法5および6
 14.4重量部のグラファイト粉末(大阪ガス(株) 製 MCMB 平均粒径6μm)、3.6重量部のカーボン ラック、2.0重量部のフッ化ビニリデン-六フ 化プロピレン共重合体樹脂からなる結着剤 および80重量部の溶媒(NMP)を混合しその後混 練して得られた塗料を、ドクターブレードを 用いてセパレータ用シート材の表裏面に塗布 し、150℃×15分乾燥させた。

 従来法7および8
 ターゲットにグラファイトを用い、イオン ーム蒸着法により、非晶質炭素を蒸着し、 価用試料とした。

 従来法9
 上記の酸洗までの処理が施され厚さが0.3mm あるシート材に対して、特許文献7の実施例 示される4番目の表面処理条件(硝酸8%、フッ 酸4%、残部水で処理温度60℃)を実施し、表面 M 2 Bの硼化物系の導電性化合物が析出したシー 材を得た。

 従来法10
 特許文献5において開示された材料の性能確 認のため、当該文献の実施例1に準じて確認 験を実施した。SECカーボン製のSGP黒鉛粉末( 均粒径約3μm)をフェルトにまぶして、市販 オーステナイト系ステンレス鋼板であるSUS31 6Lからなる板材の表面を摺擦した。その結果 約6mg/m 2 の黒鉛が付着した。次にこのステンレス鋼板 を圧下率3%で圧延し、その後700℃まで加熱し1 0秒間保持した。

 従来法11
 特許文献6において開示された材料の性能確 認のため、当該文献の実施例6に記載の内容 準じて確認試験を実施した。オーステナイ 系ステンレス鋼であるSUS316Lからなる板材上 スパッタリング法により厚さ数μmのCr酸化 の層を形成した。鱗片状の黒鉛に、テトラ ルエチレンおよびヘキサフルオロプロピレ の共重合体の水性分散液を混練し、水分の 部を蒸発させて樹脂組成物を得た。この樹 組成物の鱗片状黒鉛と樹脂成分との重量比 50:10であった。この樹脂組成物を前述のスパ ッタリング処理を施したSUS316Lに塗布して、15 0℃で90分間乾燥させた。

 続いて、本発明の優位性を検証するための 価試料の準備手段を以下に示す。
 本発明1,4,および7
 表面に導電性硼化物が析出したセパレータ シート材における、使用時にガス拡散電極 と接触する面に対して、ブロック状黒鉛(東 洋炭素(株)製 100mm角 d002=3.36Å)を接触させて 摺動させることで、セパレータ用シート材の 表面を黒鉛で被覆した。

 本発明2および6
 表面に導電性硼化物が析出したセパレータ シート材における、使用時にガス拡散電極 と接触する面に、PTFEディスパージョン溶液 (ダイキン工業(株)製 PTFE(ポリフロン PTFE デ ィスパージョンD1))を純水で1/15に希釈して得 れた塗料を塗布し、これを乾燥させて、セ レータ用シート材の表面に塗膜を形成した 塗膜が形成されたセパレータ用シート材の 面に対してブロック状黒鉛(東洋炭素(株)製 100mm角 d002=3.36Å)を接触させて摺動させるこ とで、セパレータ用シート材の表面を結着剤 および黒鉛で被覆した。

 本発明5および8
 表面に導電性硼化物が析出したセパレータ シート材における、使用時にガス拡散電極 と接触する面上に、黒鉛粉末(中越黒鉛工業 製 鱗状黒鉛 平均粒度10μm 面間隔 d=3.36Å) 配置した。黒鉛粉末が配置されたセパレー 用シート材の表面を150kgf/cm 2 の荷重でプレスして、セパレータ用シート材 の表面に黒鉛粉末を圧着させた。

 本発明3
 表面に導電性硼化物が析出したセパレータ シート材における、使用時にガス拡散電極 と接触する面上に、黒鉛質炭素の真空蒸着 行った。用いた装置は、神港精機(株)製 真 空蒸着装置 AAH-C1080SBである。処理時間は20分 で、1500Åの膜厚が得られるように調整した なお、セパレータ用シート材の表面に被覆 れた黒鉛質炭素の面間隔測定は、厚さが1500 ではX線回折による測定が不可能であるため 、3時間蒸着処理したステンレス鋼板を別途 製し、このステンレス鋼板上に形成された 鉛質炭素についてX線回折を実施することで 定を行った。 

 本発明例1~8において、荷重を20kgf/cm 2 付加させた場合の初期接触抵抗および耐食性 試験後の接触抵抗は10mω・cm 2 以下であり、従来法1,および3~9と比較して低 抵抗値となった。また、耐食性試験後も抵 値上昇も小さく、耐食性に優れる結果が得 れた。なお、従来法2は低接触抵抗ではある が、金めっきが高価であり、経済性および稀 少資源を大量に消費する点で問題がある。

 本発明例1~8では初期電池電圧≧0.68Vであり 従来法1,3,4,5,6,7、8、9,10および11と比較して い初期電池電圧が得られた。
 本発明例1~8は、従来法1,および3~11と比較し 、電池劣化度(μV/時間)が良好(≧-2.0μV/時間) であった。なお、従来法2,7,および8は電池劣 度が良好ではあるが、上記のように、従来 2は経済性および稀少資源を大量に消費する 点で問題があり、また従来法7および8は、初 電池電圧が低く、さらに量産性に乏しくコ トも高くなる問題がある。

 セパレータ用シート材の表面に硼化物が 出しているという点で共通する従来法9と本 発明法1~8とを比較すると、本発明法では、耐 食性試験後の接触抵抗値および電池劣化度が 大きく改善されていることがわかる。

 本実施例は、本発明の好適な範囲、具体的 はステンレス鋼板表面の硼化物を被覆する 鉛質炭素の好適な面間隔範囲を確認するた に行われた。
 石油ピッチの熱処理により生ずるメソフェ ズ小球体、およびこの小球体のマトリック であるバルクメソフェーズを加熱して炭化 た炭素材を調製し、その後の黒鉛化熱処理 加熱温度、時間を変化させることで、種々 面間隔をもつ黒鉛質炭素を調整した。

 加熱温度および得られた黒鉛質炭素の面 隔を表4に示す。炭素1~3は本発明範囲外、炭 素4~9は本発明範囲である。

 材料1のセパレータ用シート材における使 用時にガス拡散電極層と接触する面に対して 、表4に示す9種類の黒鉛質炭素を摺動させて セパレータ用シート材の表面に対する黒鉛 炭素被覆を行った。被覆を行った材料を評 した結果を表5に示す。

 面間隔>3.390Å以上の黒鉛質炭素で被覆し 材料1のステンレス鋼板は、耐食性試験後の 接触抵抗(接触圧:20kgf/cm 2 )が>10mω・cm 2 となり、電池劣化度も<-2.0μV/時間となった 。黒鉛質炭素の面間隔d002が小さいほど(理想 な黒鉛に近づくにつれ)良好な性能が得られ た。

 上記の結果に基づいて、電池劣化度>-2. 0μV/時間と優れた特性をもたらしうるd002≦3.3 90Åを本発明の特に好ましい範囲とした。

 結着剤を含有する導電層を備えるセパレー において、含有させる結着剤の種類を変化 せた場合の結果を表6に示す。ここで、結着 剤の使用方法は、本発明2と同じである。
 表6に示されるように、PTFEからなる結着剤 用いた場合には、腐食試験後の密着性が特 良好であるとともに、接触抵抗値の上昇が められない。

 本発明の中でも好適な範囲を確認するた 、表7に示されるように黒鉛質炭素の被覆方 法が異なる評価試料を作製し、被覆する黒鉛 質炭素の配向の影響を調査した。なお、表7 おける「プレス」とは本発明5および8と同様 の方法でプレス圧着を行った試料であり、「 塗布」とは本発明2および6と同様の方法で結 剤による塗布を行った試料であり、「摺動 とは本発明1,4,および7と同様の方法でブロ ク状黒鉛を摺動させた試料である。

 得られた導電層における黒鉛の配向を定 的にあらわす指標として、導電層が形成さ たセパレータ用シート材について広角のX線 回折を行い、測定によって得られる黒鉛質炭 素結晶の面内方向回折線(110)面のピーク強度I (110)とC軸方向の回折線(004)面のピーク強度I(00 4)の強度比=I(110)/I(004)を用いた。

 広角X線回折測定は、X線が入射する試料 をセパレータ用シート材の表面とし、また の面はゴニオメーターの回転軸に一致させ 回折角、強度の測定誤差が生じないような2 /θスキャン法により行われた。

 表7に配向性と接触抵抗および電池特性と の関係を示す。本発明のうち、強度比=I(110)/I (004)<0.1を満たす試料は、接触抵抗が低く初 期の電池電圧が≧0.7Vと高く、電池劣化も小 い。また、強度比<0.05とすると特に優れた 特性が得られる。