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Patent Searching and Data


Title:
YEAST MUTANT AND YEAST EXTRACT
Document Type and Number:
WIPO Patent Application WO/2009/123019
Kind Code:
A9
Abstract:
Provided is a natural yeast extract which is rich in glutamic acid and therefore has an impact at first taste. Further, provided is a yeast extract which is also rich in 5'-guanylic acid or 5'-inosinic acid and therefore has strong umami. Further, provided is a yeast mutant capable of accumulating a large amount of glutamic acid, glutamine and ribonucleic acid for obtaining such a yeast extract. A yeast mutant to which resistance to organic acids and analogues thereof has been imparted by inducing spontaneous mutation, accumulates a significant amount, i.e., 10% by weight or more of the total of free glutamic acid and glutamine in the cell, and further accumulates 5% by weight or more of a ribonucleic acid. The yeast extract produced by using this strain contains 20% by weight or more of L-glutamic acid, and further contains 3% by weight or more of 5'-IG.

Inventors:
IWAKIRI RYO (JP)
MAEKAWA HIROKAZU (JP)
MASUO NAOHISA (JP)
FURUE SHOGO (JP)
KODERA HIROKO (JP)
HIRAKURA SETSUKO (JP)
NISHIDA MASAHIRO (JP)
UCHIDA MASANORI (JP)
IKEDA SAKIKO (JP)
Application Number:
PCT/JP2009/056168
Publication Date:
February 18, 2010
Filing Date:
March 26, 2009
Export Citation:
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Assignee:
KOHJIN CO (JP)
IWAKIRI RYO (JP)
MAEKAWA HIROKAZU (JP)
MASUO NAOHISA (JP)
FURUE SHOGO (JP)
KODERA HIROKO (JP)
HIRAKURA SETSUKO (JP)
NISHIDA MASAHIRO (JP)
UCHIDA MASANORI (JP)
IKEDA SAKIKO (JP)
International Classes:
C12N1/16; A23L27/10
Attorney, Agent or Firm:
HANABUSA, Tsuneo et al. (JP)
Sepal Tsuneo (JP)
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Claims:
 遊離のグルタミン酸とグルタミンの総和として、乾燥菌体重量あたり10%以上蓄積する酵母変異株。
 請求項1記載の酵母変異株であって、さらにリボ核酸(RNA)を乾燥菌体重量あたり5%以上蓄積する酵母変異株。
 前記酵母変異株がブロモピルビン酸エチルに耐性である、請求項1又は2に記載の酵母変異株。
 前記酵母変異株がブロモピルビン酸エチルおよび2-オキソグルタル酸に耐性である、請求項1又は2に記載の酵母変異株。
 前記酵母変異株がキャンディダ・ウチリス36D61(受託番号 FERM BP-11103)である、請求項1~4のいずれか一項に記載の酵母変異株。
 請求項1~5いずれか一項に記載の酵母変異株から製した酵母エキスであって、L-グルタミン酸をナトリウム塩換算で20重量%以上含有する酵母エキス。
 請求項6に記載の酵母エキスであって、さらに5'-グアニル酸と5'-イノシン酸または5'-アデニル酸とを合計で3重量%以上含有する酵母エキス。
Description:
酵母変異株と酵母エキス

 本発明は、細胞内に遊離のL-グルタミン とL-グルタミン、およびリボ核酸を著量蓄積 する酵母変異株、および該酵母を用いて得ら れる天然のL-グルタミン酸を高濃度含有し先 (さきあじ)の強いうま味を呈する酵母エキ に関する。

 最近の健康・天然・無添加志向に加え、B SE等、食の安全性に関する問題もあり、天然 味料である酵母エキスへの期待が急速に高 っている。酵母エキスでは、うま味の伸び 後味を強化した核酸系のエキスや、最近注 されている食品にコクや厚みを付与するペ チド系エキスの開発が盛んに行われている

 一方、グルタミン酸に代表される先味のう 味を強化した酵母エキスに関しては、安価 精製グルタミン酸ナトリウム(MSG)を系外か 添加する手法が主流で、酵母エキス自体の 発例はあまり多くない。
 例えば特許文献1に示す様に、変異育種によ り酵母の遊離グルタミン酸蓄積量を高めるこ とで、グルタミン酸含有量を高めた酵母エキ スを作製する方法や、また、特許文献2に示 様に、エキス抽出率を低く抑えて、さらに 素を作用させる等の製法の改良によりグル ミン酸含量を高める試みもある。
 しかしながら、このようにして作製される 母エキスのグルタミン酸含有量は、ナトリ ム塩換算で14.5%以下であり、グルタミン酸 有調味料として一般的に用いられている小 グルテン加水分解物に比べると低く、呈味 において十分満足できるレベルではない。
 さらには特許文献1では変異育種により対糖 菌体収率が低下する、特許文献2では、酵母 グルタミン酸蓄積量が低いため、製法が限 されるなどの問題もあった。
 工業的利用に耐えうる生産性を持って、商 設計に応じた様々な製法によりグルタミン 含有量の高い酵母エキスを開発する為には 菌体生産性を低下させることなく、酵母の ルタミン酸蓄積量を飛躍的に高める事が必 である。

 バクテリアによるグルタミン酸ナトリウム 生産では菌体外に蓄積させるのに対し、酵 エキスの生産においては酵母菌体内にグル ミン酸を蓄積させる必要がある。しかし、 体内ではフィードバック阻害などの代謝制 系が働き、菌体内へグルタミン酸を高濃度 積させることは容易ではないと推察される
 酵母細胞内の遊離のアミノ酸プールの解析 り、グルタミン酸は細胞質、グルタミンは 胞に多く存在するという報告がある(Eur. J. Biochem. Vol.108,P439(1980))。このことから、グル タミン酸だけでなく、局在の異なるグルタミ ンも高濃度蓄積させる酵母を開発できれば、 常法であるグルタミンの酵素的変換により、 グルタミン酸含有量を著しく高めた酵母エキ スの作製が可能である。

 特許文献3では、一倍体の実験室酵母、サッ カロマイセス・セレビジアエの遺伝子組換え により、遊離のグルタミン酸とグルタミンを 合わせて5.4%蓄積する組換え株を造成し、こ 酵母より16.2%のグルタミン酸含量の酵母エキ スを作製している。しかしながら、遺伝子組 換えを用いてもなおグルタミン酸とグルタミ ンの総和が低く、得られるエキスのグルタミ ン酸含量もナトリウム塩換算で20%をようやく 上回るに過ぎない。また、倍数性が高く、胞 子形成能が低下した実用酵母や胞子形成能を 持たないキャンディダ・ウチリス酵母での同 様の遺伝子組換えは難しい。またさらに作製 された遺伝子組換え体を食品に用いる事には 、法規制や消費者の抵抗等の障壁があり、現 時点では望ましい方法とは言いがたい。
 このことから、グルタミン酸高含有酵母エ スの製造には、遺伝子組換えは使わず、自 突然変異で細胞内に遊離のグルタミン酸と ルタミンを高濃度蓄積する酵母を育成する 要があった。

 さらに、グルタミン酸と5'-グアニル酸ま は5'-イノシン酸との味の相乗効果は良く知 れており、うま味の強い酵母エキスを作製 るには、上記アミノ酸に加えてヌクレオチ の原料であるリボ核酸(RNA)も高い株である とがより好ましい。

特開平9-294581号公報

特開2006-129835号公報

特開2002-171961号公報

 本発明は、グルタミン酸を多く含むこと より先味にインパクトのある天然の酵母エ スを提供することを課題とする。さらに併 て、5'-グアニル酸または5'-イノシン酸を多 含むことにより、うま味の強い酵母エキス 提供することを課題とする。また、かかる 母エキスを得るために、グルタミン酸、グ タミン、リボ核酸を多く蓄積する酵母変異 を提供することを課題とする。

 本発明者らは上記の欠点を解消するため、 意検討した結果、自然突然変異を誘発し、 機酸やそのアナログ耐性を付与した酵母が 驚くべき事に遊離のグルタミン酸とグルタ ンを合わせて10重量%以上と細胞内に著量蓄 し、さらにリボ核酸を5重量%以上蓄積する とを見出し本発明に至った。
 すなわち本発明は、
(1)遊離のグルタミン酸とグルタミンの総和と して、乾燥菌体重量あたり10%以上蓄積する酵 母変異株、
(2)上記(1)記載の酵母変異株であって、さらに リボ核酸(RNA)を乾燥菌体重量あたり5%以上蓄 する酵母変異株、
(3)前記酵母変異株がブロモピルビン酸エチル に耐性である、上記(1)又は(2)に記載の酵母変 異株、
(4)前記酵母変異株がブロモピルビン酸エチル および2-オキソグルタル酸に耐性である、上 (1)又は(2)に記載の酵母変異株、
(5)前記酵母変異株がキャンディダ・ウチリス 36D61(受託番号 FERM BP-11103)である、上記(1)~(4) のいずれか一に記載の酵母変異株、
(6)上記(1)~(5)いずれか一に記載の酵母変異株 ら製した酵母エキスであって、L-グルタミン 酸をナトリウム塩換算で20重量%以上含有する 酵母エキス、
(7)上記(6)に記載の酵母エキスであって、さら に5'-グアニル酸と5'-イノシン酸または5'-アデ ニル酸とを合計で3重量%以上含有する酵母エ ス
を提供するものである。

 本発明の酵母変異株は、遺伝子組換えを行 ことなく得られた菌株でありながら、グル ミンとグルタミン酸を著量蓄積するもの、 らにリボ核酸も多量に蓄積するものである この菌株を用いて得られた酵母エキスは、 ルタミン酸含有量が高いため、先味の強い 味を呈し、さらにイノシン酸とグアニル酸 よる相乗効果のため、強い旨味を呈するも である。
 このような酵母エキスを食品に添加するこ により、系外からグルタミン酸を加えるこ なく、少量の酵母エキスで十分な旨味を付 でき、特に先味の強い呈味性を付与するこ ができる。
 なお、本発明における「先味」とは、口に んだ瞬間に速やかに広がる味のことを言い 糖や食塩ではなく主としてアミノ酸による のを指し、MSGの感応時間を基準としている また、「持続性」とは、先味の後に感じる が保持される時間の程度を言う。

 本発明に用いられる酵母としては、食用 母が望ましく、例えばサッカロマイセス属 属する酵母、クリベロマイセス属酵母、キ ンディダ属酵母、ピヒヤ属酵母などが挙げ れ,好ましくは、リボ核酸蓄積能の高いこと が知られる、キャンディダ属酵母、キャンデ ィダ・ウチリスが推奨される。他の酵母でも 特公平7-93871号公報に示すような手順で酵母 改良も加えて施し、リボ核酸蓄積量を高め 事も可能である。

 本発明は、先味の強いグルタミン酸高含有 母エキスの作製に、遊離のグルタミン酸と ルタミンおよびリボ核酸を高濃度蓄積する 母を用いる点に特色を有するものであるが これらの酵母は、紫外線、エックス線、亜 酸、ニトロソグアニジン、エチルメタンス フォネート等の突然変異剤を使い、親株で 育できない濃度の有機酸や有機酸アナログ 含んだ合成培地に生育可能な株を選択する とで得る事ができる。用いられる有機酸ア ログとしては、グルタミン酸の生合成に関 するものが好ましい。具体的にはブロモピ ビン酸エチル(以下、BPEと略称)と2-オキソグ ルタル酸(以下、2OGと略称)が挙げられる。前 に関しては、ピルビン酸アナログとして知 れるブロモピルビン酸が、特開平9-313169号 報において酵母のグルタミン酸高蓄積化で 用されているが、キャンディダ属酵母の育 にはそのエチル化合物、ブロモピルビン酸 チルが有効であった。また、後者は、クエ 酸シンターゼの阻害剤として知られ、特開20 01-103958号公報に示す様に、清酒の風味改善の ため菌体外へリンゴ酸やコハク酸を蓄積する 酵母の改良に使用されている。しかし、酵母 キャンディダ・ウチリスはこの薬剤に対して 2000ppmを越える高濃度の耐性を有しており、 独での耐性株の取得が困難であった。両薬 を併用することで、各薬剤を単独で使用す よりも効果的に遊離のグルタミン酸とグル ミンを高濃度蓄積する酵母を育成すること 可能である。また、変異処理を繰り返し、 薬剤に対し高濃度の耐性を付与することで 遊離のグルタミン酸とグルタミンを総和と て10重量%以上蓄積する酵母が得られる。
 このようにして単離された、キャンディダ ウチリス 36D61株は、遊離のグルタミン酸と ルタミンを総和として14重量%、リボ核酸を9 重量%蓄積し、高濃度のグルタミン酸を含有 先味の強い酵母エキスの製造、あるいはグ タミン含有酵母エキスの製造にきわめて好 である。
 例えば特許文献1のように、変異育種により 菌体生産性が低下する恐れもあるが、本発明 で使用される酵母変異株は、高い対糖菌体収 率を維持しており、工業的生産上何ら問題は ない。

 本発明の培養形式としては、バッチ培養、 るいは連続培養のいずれでも良いが、工業 には後者が採用される。
 本発明の変異株を培養する際の培地には、 素源として、ブドウ糖、酢酸、エタノール グリセロール、糖蜜、亜硫酸パルプ廃液等 用いられ、窒素源としては、尿素、アンモ ア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム 硝酸塩などが使用される。リン酸、カリウ 、マグネシウム源も過リン酸石灰、リン酸 ンモニウム、塩化カリウム、水酸化カリウ 、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等 通常の工業用原料でよく、その他亜鉛、銅 マンガン、鉄イオン等の無機塩を添加する この他には、ビタミン、アミノ酸、核酸関 物質等を特別に使用しないが、むろんこれ を添加したり、コーンスチーブリカー、カ イン、酵母エキス、肉エキス、ペプトン等 有機物を添加しても良い事は当然である。

 培養温度は、21~37℃、好ましくは25~34℃が 良く、pHは3.0~8.0、特に3.5~7.0が好ましい。培 条件によりアミノ酸や核酸の生産性は変動 るので、目的とする酵母エキスの製品スペ クにあった条件を採用する必要がある。

 以上で得られる遊離のグルタミン酸とグル ミンの高蓄積酵母を用いることで、酵母エ スの製造では公知の製法で、グルタミン酸 ナトリウム塩換算で20~50%含む酵母エキスの 造が容易に実施される。
 エキスの抽出は、一般的に酵母エキスの製 で用いられる手法、例えば、加熱抽出法や 素分解法、あるいは自己消化法のいずれで 可能である。得られるエキスの味にはそれ れ特徴があり、商品設計に合わせた抽出法 選択可能である。ここではエキス抽出率の が大きい、熱水抽出と酵素抽出について以 に例示するが、これらに限定されるもので ない。

 熱水抽出による製法としては、10%濃度に調 した菌体懸濁液を50℃以上、好ましくは60℃ 以上に加熱する。抽出時間は抽出条件にもよ るが、数秒~数時間程度である。グルタミン 熱安定性が低く、熱履歴は少ない方が好ま い。熱水抽出のペプチド含量は低く、すっ りとした味わいの酵母エキスができる。
 一方、酵素抽出では、一般的に酵母の消化 使われる酵素、細胞壁溶解酵素やプロテア ゼが利用可能である。酵素抽出の方が、熱 抽出よりもエキス分が多く、ペプチド率が くなるため、味にコクが付与される。

 抽出後、遠心分離等の方法により固形分を 去し、エキス分を得る。
 酵母エキス中のグルタミン酸濃度をさらに める為には、食品ではよく用いられている うに、市販のグルタミナーゼをエキス抽出 、もしくはエキス分離後に作用させ、グル ミンからグルタミン酸へ変換させる。

 本酵母はこの他にもRNAを9重量%以上蓄積 きる。たとえば特公平7-93871号公報に記載の 法により、該酵母よりRNAを抽出して、リボ クレアーゼ、場合によってはさらにデアミ ーゼを作用させ、5'-アデニル酸と5'-グアニ 酸(以下、5'-AGと記す)、または5'-イノシン酸 と5'-グアニル酸(以下、5'‐IGと記す)を同時に 含有する酵母エキスも作製可能である。RNAの 抽出には加熱による酵素の熱失活が有効であ るが、グルタミンの熱安定性が悪いので、最 適な抽出温度や時間を設定するか、熱水抽出 後の菌体を加熱し再抽出する等行うのが良い 。

 抽出液中のRNAを5'-ヌクレオチドに分解する に、5'-フォスホジエステラーゼを作用させ 場合、また、それにより得られる5'-ヌクレ チドを含む液中の5'-アデニル酸を希望によ 5'-イノシン酸に変換する為に、デアミナー を作用させる場合は、市販されている酵素 用い、推奨されている条件で反応させれば い。具体的には特公平7-93871号公報記載の条 件が挙げられる。
 5'-ヌクレオチドはグルタミン酸と味の相乗 用を有しており、先味のうま味を強化する に有効である。

 以上の反応後、利用した酵素を失活させ ため、90~100℃で30~60分程度の加熱を行った 、遠心分離等の方法により固形分を除去し 次いで上澄み液を濃縮してペースト状にす か、さらに乾燥して粉末に加工する。濃縮 法、乾燥方法は特に限定されるものではな が、減圧濃縮法、凍結乾燥法、噴霧乾燥法 、過度に高温にならないような乾燥方法が いられる。

 以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明 る。
 なお、分析法や評価法は、下記の通りであ 。
<酵母菌体中のグルタミン酸、グルタミン 定量法>
 酵母菌体中の遊離のグルタミン酸とグルタ ンの定量は以下の様に行った。
 洗浄した菌体を、沸騰水中で4分加熱し、流 水中で冷却後、遠心分離した。得られる上清 を適宜希釈し、グルタミン酸用とグルタミン 用の酵素電極を各々装備したバイオセンサー BF‐5(王子計測機器)にてグルタミン酸とグル ミンを定量した。
<酵母菌体中のRNAの定量法>
 酵母菌体中のRNAの定量については、シュミ ト・タンホイザー・シュナイダー法(J. Biol.  Chem. Vol.164,P747 (1946))により行った。
 菌体乾燥重量は、洗浄した酵母懸濁液 10ml を秤量瓶に採取し、105℃、20時間の加熱によ り水分を飛ばした後、デシケーター内で室温 まで放冷し、加熱前後の重量差を精密電子天 秤で測定することで求めた。この酵母菌体乾 燥重量を基に、菌体中の各種成分の含有量( 量%)を算出した。

<粉末酵母エキス中の遊離グルタミン酸、 の他のアミノ酸の定量法>
 乾燥粉末状の酵母エキス中の遊離グルタミ 酸とその他の遊離アミノ酸、および総アミ 酸濃度は、常法に従いアミノ酸分析計L8800(H ITACHI製)により測定した。
<粉末酵母エキス中の5'-ヌクレオチドの定 法>
 乾燥粉末状の酵母エキス中の5'-ヌクレオチ は、特公平7-93871号公報記載の条件で、高速 液体クロマトグラフィーにより定量した。

<官能評価>
 エキスの官能評価は以下のように行った。
 粉末エキスを1%、食塩を喫飲時の濃度が0.3% なるようにお湯に溶解したものをサンプル した。0.05g/dl 濃度のMSGのうま味を認識可能 なパネルにより、「先味の強度」と「持続性 」、および「うま味強度」について、対照区 との差をそれぞれ7段階で採点し、評価結果 平均値で示した。なお、先味と持続性、う 味の7段階評価の基準は、「+3点:非常に強い +2点:かなり強い、+1点:やや強い、0 点:対象 区と差がない、-1点:やや弱い、-2点:かなり弱 い、-3点:非常に弱い」とした。

実施例1 <変異株の取得>
 キャンディダ・ウチリスATCC9950株を YPD 培 (酵母エキス1%、ポリペプトン2%、グルコー 2%)を含む試験管で対数増殖期まで培養した この菌体を回収し、洗浄後、Adelberg 等の方 に準じニトロソグアニジンによる変異処理 行った(Biochem. Biophys. Res. Comm. Vol.18,P788(196 5))。変異処理した菌体を二回洗浄後、YPD培地 で30℃、一晩培養したものを変異処理菌体と た。
 この菌体を合成培地(グルコース2重量%、リ 酸1カリウム2重量%、硫酸アンモニウム0.1重 %、硫酸マグネシウム0.05重量%、尿素0.2重量% 、硫酸第二鉄8.6ppm、硫酸亜鉛14.6ppm、硫酸銅0. 7ppm、硫酸マンガン3.3ppm、寒天2重量%)にブロ ピルビン酸エチル(BPE)40~45ppm、またはさらに2 ‐オキソグルタル酸(2OG) 100~200 ppmを添加し 選択培地を用い、30℃、3~7日間培養した。そ の結果親株で生育できない選択培地上に生育 するコロニーを単離した。これらを、前記合 成液体培地で培養し、菌体生産性が良く、か つ遊離のグルタミン酸とグルタミンの蓄積量 の高い株を選別した。具体的には、まず、BPE  40ppm 耐性を有するBPE0128株を取得し、次い この株に対して上記操作を繰り返し、BPE 40p pmと2OG 100ppm の二重耐性を有する2OG3D4株を、 同様にさらに変異操作を繰り返し、本発明の 酵母変異株であるBPE 45ppmと2OG 200ppm の二重 性を有する 36D61株をそれぞれ取得した。

 次いで、親株と得られた変異株を30L発酵 スケールで培養し、生産性を確認した。供 菌株を予めYPD培地を含む 三角フラスコで 母培養し、これを30L容発酵槽に0.5~1.5%植菌し た。この時の培地組成は、グルコース6重量% リン酸1カリウム2重量%、硫酸アンモニウム1 .4重量%、硫酸マグネシウム0.06重量%、硫酸第 鉄10ppm、硫酸亜鉛18ppm、硫酸銅1ppm、硫酸マ ガン8ppmである。培養条件は、槽内液量15L、p H4.3(アンモニアによる自動コントロール)、培 養温度30℃、通気1vvm、撹拌 400rpmで行った。 られた菌体について分析した結果を表1に示 した。

 変異株の遊離グルタミン酸とグルタミンの 積量の総和を親株と比べると、ブロモピル ン酸エチル耐性株(BPE0128)では3割の増加に対 し、ブロモピルビン酸エチルと2‐オキソグ タル酸の高濃度耐性株(36D61)では驚くべき事 約4倍に増加した。また、この時の36D61株のR NA含量は9.7%であった。
 酵母キャンディダ・ウチリス36D61株は、薬 耐性以外は親株 ATCC9950と全く同一の菌学的 質を有している。また、グリセロール、エ ノールを炭素源とする培地上でも旺盛な生 を示した。
 キャンディダ・ウチリス36D61株は、平成20年 3月18日付で、独立行政法人産業技術総合研究 所特許生物寄託センターに、受託番号FERM BP 11103として寄託されている。

実施例2 <酵母エキスの取得>
 酵母エキスの試作には、キャンディダ・ウ リス変異株36D61株の連続培養液を用いた。 試菌株を予めYPD培地を含む 三角フラスコで 種母培養し、これを5L容発酵槽に0.5~1.5%植菌 た。培地組成は、30Lバッチ培養と同様であ 。培養条件は、槽内液量2L、pH4.3(アンモニア による自動コントロール)、培養温度30℃、通 気1vvm、撹拌 600rpmで行った。この時の比増殖 速度は0.24~0.25hr -1 であった。得られた菌体について分析した結 果、遊離のグルタミン酸とグルタミンの総和 は13.9重量%(グルタミン酸 4.7重量%、グルタミ ン9.2重量%)、対糖菌体収率は56.8%であった。

 連続培養液を氷冷しながら回収し、遠心分 により集菌し、湿潤酵母菌体を得た。これ 水に再懸濁して、遠心分離し、乾燥重量と て約160gの菌体を得た。この酵母菌体を水に 懸濁して、全量を1.6Lとし、次いで湯浴中で 熱し、70℃に逹温後、10分間撹拌しながら70 に保持してエキスを抽出した。この後直ち 流水中で冷却し、遠心分離により不溶性固 分を除去しエキスを得た。液温を50℃とした 後、グルタミナーゼ ダイワC100S(大和化成製) の4.4gを少量の水に溶解後添加し、40~60℃で5 間、撹拌しながら反応させた。このエキス 90~95℃で30分加熱し、冷却した後、遠心分離 よりエキス中の不溶性固形分を再度除去し 。次いでロータリーエバポレーターで濃縮 、凍結乾燥を行い、粉末酵母エキス約49gを た。この時のエキス抽出率は約25%で、この キス中の遊離グルタミン酸含量はナトリウ 塩換算で 54.5重量%であった。また、この時 の遊離アミノ酸含量は64.2重量%、総アミノ酸 量は72.3重量%であり、これから次式で求め れるペプチド含量は8.1重量%であった。
  ペプチド含量(%)=総アミノ酸含量(%)-遊離ア ミノ酸含量(%)
 得られる酵母エキスの水溶液は、MSG様のう 味、先味がかなり強く、従来の酵母エキス はないインパクトのある味であった。また 酵母臭も少なく、程よい厚みもあるが、後 がすっきりとしており、好ましい呈味性で った。

 この試作において、グルタミナーゼ反応前 のエキスについて官能評価を行った。グル ミナーゼ反応前後のエキスを一部採取し、 形分換算で1%となるようにお湯に溶解し、 れに食塩を喫飲時の濃度が0.3%となるように 加した。グルタミナーゼ反応前を対照区と 、グルタミナーゼ反応後のエキスの「先味 強度」、「持続性」、「うま味強度」につ て、パネル5名で評価した。なお、BF‐5で測 定したグルタミン酸濃度はナトリウム塩換算 で、グルタミナーゼ反応前が20%、反応後が51% であった。
 結果、グルタミナーゼ反応後のサンプルは 先味、持続性、うま味が、それぞれ+2.6、+1. 8、+2.2であり、うまみと先味が著しく増強さ ていることを確認できた。また、反応後の ンプルでは全体的に味が強く、味の厚みも じられた。

実施例3
 実施例2と同様の方法でキャンディダ・ウチ リス変異株36D61株の乾燥重量として約21gの菌 を得た。得られた菌体について分析した結 、グルタミン酸とグルタミンの総和は14.3重 量%(グルタミン酸5.0重量%、グルタミン9.3重量 %)、対糖菌体収率は56.1%であった。
 ここに得られた酵母に水を加え、全量を200m lとし、次いで,湯浴中で加熱し、90℃に逹温 てから、90℃で2分間加熱した。この後直ち 流水中で冷却し、液温を50℃とした後、ツニ カーゼ(天野エンザイム製細胞壁溶解酵素)の0 .2gを少量の水に溶解後添加し、50℃で1hr撹拌 ながら反応させた。反応後の液を遠心分離 より不溶性固形分を除去しエキスを得た。 のエキスに対して、グルタミナーゼC100S 0.5 6gを添加し、実施例2と同様に反応、濃縮、乾 燥させ、粉末酵母エキス約11gを得た。エキス 抽出率は約51%で、このエキス中の遊離グルタ ミン酸含量はナトリウム塩換算で31.9重量%で った。また、この時の遊離アミノ酸含量は3 9.0 重量%、総アミノ酸含量は53.1重量%であり ペプチド含量は14.1重量%であった。
 この水溶液は、強度が少し劣るものの、実 例2と同様の呈味性であった。

実施例4
 実施例2と同様の方法でキャンディダ・ウチ リス変異株36D61株の乾燥重量として約20gの菌 を得た。得られた菌体について分析した結 、グルタミン酸とグルタミンの総和は12.5重 量%(グルタミン酸4.7重量%、グルタミン7.8重量 %)、RNA9.0重量%、対糖菌体収率は56.2%であった
 ここに得られた酵母に水を加え、全量を200m lとし、次いで,湯浴中で加熱し、90℃で5分間 熱した。この後直ちに流水中で冷却し、液 を50℃とした後、ツニカーゼ(天野エンザイ 製細胞壁溶解酵素)の0.2gを少量の水に溶解 添加し、50℃で6hr撹拌しながら反応させた。 反応後の液を遠心分離により不溶性固形分を 除去しエキスを得た。このエキスに対して、 グルタミナーゼC100S 0.47gを添加し、実施例2 同様に反応後、65℃に加温し、リボヌクレア ーゼP (天野エンザイム製5'‐フォスフォジエ ステラーゼ)の30mgを少量の水に溶解して加え 同温度で撹拌しながら3hr反応させた。次い 、液温を45℃として、デアミザイム(天野エ ザイム製デアミナーゼ)の20mgを少量の水に 解して加え、この温度下で2時間撹拌しなが 保持した。この後、90~95℃で30分加熱し、放 置冷却の後、遠心分離により不溶性固形分を 除去し、濃縮、乾燥させ、粉末酵母エキス約 12gを得た。エキス抽出率は約60%で、このエキ ス中の遊離グルタミン酸含量はナトリウム塩 換算で23.2重量%、5'‐IG含量は3.3重量%であっ 。また、この時の遊離アミノ酸含量は32.1重 %、総アミノ酸含量は44.8重量%であり、ペプ ド含量は12.7重量%であった。
 得られる酵母エキスの水溶液は、酵母臭も なく、インパクトがありうま味が強く、さ には味の持続性や厚みもあり、非常にバラ スの良い呈味性であった。

実施例5
 実施例2と同様の方法でキャンディダ・ウチ リス変異株36D61株の乾燥重量として約20gの菌 を得た。得られた菌体について分析した結 、グルタミン酸とグルタミンの総和は12.1重 量%(グルタミン酸4.8重量%、グルタミン7.3重量 %)、RNA 8.8重量%、対糖菌体収率は56.6%であっ 。
 ここに得られた酵母に水を加え、全量を200m lとし、湯浴中で加熱し、次いで、実施例4と じく加熱処理を行った後、流水中で冷却し 液温を50℃とした後、6Nの水酸化ナトリウム を添加しpHを10とし、3時間撹拌した。反応後 液を遠心分離により不溶性固形分を除去し キスを得た。このエキスに対して、実施例4 と同様に、グルタミナーゼ、5'-フォスフォジ エステラーゼ、デアミナーゼ反応を行った。 この後、90~95℃で30分加熱し、放置冷却の後 遠心分離により不溶性固形分を除去し、濃 、乾燥させ、粉末酵母エキス約10gを得た。 キス抽出率は約43%で、このエキス中の遊離 ルタミン酸含量はナトリウム塩換算で28.1重 %、5'‐IG含量は5.4重量%であった。また、こ エキスの遊離アミノ酸、総アミノ酸、ペプ ドの含量は、各々36.6、42.6、6.0重量%であっ 。
 得られる酵母エキスの水溶液は、グルタミ 酸含量は実施例3と同程度であるが、5'‐IG 効果により、かなり強い先味やうま味を感 、さらには味の持続性も感じられた。実施 4よりも雑味が少なくクリアーな味わいであ た。

 本発明の酵母エキスの官能評価を行った。
 2OG3D4株から、グルタミナーゼ反応を除いた 外は実施例2と同様の方法で酵母エキスを試 作し、グルタミン酸をナトリウム塩換算で12. 0重量%含有する粉末酵母エキスを対照区とし 各製法により得られた粉末エキスの「うま 強度」と「先味の強度」、「持続性」につ て、パネル7名により、評価した。

 表2から分かる様に、本発明により得られ た酵母変異株から得られる酵母エキスは、ど の抽出法を用いたものでも、対照区の2OG3D4株 と比べると、遊離のグルタミン酸の含量が明 らかに高く、またはさらに5'‐IG含有量が高 。そして、そのような特徴をもつ本発明の 母エキスは、先味の強い旨味を呈すること わかる。

 本発明により、グルタミン酸含有量の著し 高い酵母エキスが製造可能であり、先味の い天然のうまみ調味料を提供できる。当該 味料は、先味の強い旨味が求められる食品 好適に用いられる。
 また、本発明の酵母変異株はグルタミンを 量蓄積している。グルタミンは免疫細胞の 殖や機能発現に有効とされており、この機 を利用したサプリメントとしての酵母菌体 酵母エキスとしての利用も可能である。

受託番号

 受託番号 FERM BP-11103




 
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