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Patent Searching and Data


Title:
METHOD FOR HEAT TREATMENT OF COLUMNAR COMPONENT
Document Type and Number:
WIPO Patent Application WO/2009/063753
Kind Code:
A1
Abstract:
Provided is a method for heat treatment of a columnar component. The heat treatment method of a columnar component which can enhance the productivity and quality while reducing the cost comprises a quenching step (S1) and a tempering step (S2) subsequent to the quenching step (S1) wherein the quenching step (S1) includes a first step (S11) and a second step (S12) subsequent to the first step (S11). In the first step (S11), quenching is performed by heating a columnar component (3) over the entire region thereof from the outer circumferential surface (31f) to the core (32) at a temperature above the Ac3 transformation temperature, or by heating a partial region of the columnar component (3) from the outer circumferential surface (31f) to the core (32) at a temperature above the Ac3 transformation temperature.

Inventors:
SYUE WEITON (JP)
Application Number:
PCT/JP2008/069724
Publication Date:
May 22, 2009
Filing Date:
October 30, 2008
Export Citation:
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Assignee:
TOPY IND (JP)
SYUE WEITON (JP)
International Classes:
C21D9/00; C21D1/10; C21D1/18
Foreign References:
JP2000239744A2000-09-05
JPH11279647A1999-10-12
JPH1096010A1998-04-14
JPH0452247A1992-02-20
JPH07118791A1995-05-09
Other References:
See also references of EP 2224021A4
Attorney, Agent or Firm:
Patent Corporate Body TAKAHASHI Office (Minato-ku Tokyo, 03, JP)
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Claims:
中炭素合金鋼から成る円柱状部品(3)の熱処理方法であって、該熱処理方法は焼入れ工程(S1)と、該焼入れ工程の後に施される焼もどし工程(S2)とを有し、前記焼入れ工程(S1)は、焼入れ第1工程(S11)と、焼入れ第1工程の後に施される焼入れ第2工程(S12)とを有し、前記焼入れ第1工程(S11)は前記円柱状部品(3)の外周表面(31f)から芯部(32)までの前記円柱状部品(3)の全体をAc 3 変態点以上の温度に加熱して焼入れする工程であり、前記焼入れ第2工程(S12)は前記焼入れ第1工程(S11)で焼入れされた前記円柱状部品(3)の外周表面部(31)のみをAc 3 変態点以上の温度に誘導加熱して焼入れする工程であり、前記焼もどし工程(S2)は、前記焼入れ工程で(S1)焼入れされた前記円柱状部品(3)を低温焼もどしする工程であることを特徴とする円柱状部品の熱処理方法。
中炭素合金鋼から成る円柱状部品(3)の熱処理方法であって、該熱処理方法は焼入れ工程(S1)と、該焼入れ工程の後に施される焼もどし工程(S2)とを有し、前記焼入れ工程(S1)は、焼入れ第1工程(S11A)と、焼入れ第1工程の後に施される焼入れ第2工程(S12)とを有し、前記焼入れ第1工程(S11A)は前記円柱状部品(3)の外周表面(31f)から芯部(32)までの一部の領域をAc 3 変態点以上の温度に加熱して焼入れする工程であり、前記焼入れ第2工程(S12)は前記焼入れ第1工程(S11A)で焼入れされた前記円柱状部品(3)の外周表面部(31)のみをAc 3 変態点以上の温度に誘導加熱して焼入れする工程であり、前記焼もどし工程(S2)は、前記焼入れ工程で(S1)焼入れされた前記円柱状部品(3)を低温焼もどしする工程であることを特徴とする円柱状部品の熱処理方法。
前記焼入れ第1工程(S11、S11A)の加熱が誘導加熱である請求項1、2の何れかの円柱状部品の熱処理方法。
前記焼入れ第1工程(S11、S11A)の加熱が炉中加熱である請求項1、2の何れかの円柱状部品の熱処理方法。
前記焼入れ第2工程(S12)における外周表面部(31)の深さ(t)が、円柱状部品の半径(R)の1/10以上で、円柱状部品の半径(R)の1/2以下である請求項1~4の何れか1項の円柱状部品の熱処理方法。
 前記焼入れ第1工程(S11A)で加熱される前記円柱状部品(3)の一部の領域の半径方向寸法(rr)は、円柱状部品(3)の半径(R)の1/3以上であり、3/4以下である請求項2~5の何れか1項の円柱状部品の熱処理方法。
前記円柱状部品(3)が無限軌道帯用ピンである請求項1~6の何れか1項の円柱状部品の熱処理方法。
Description:
円柱状部品の熱処理方法

 本発明は、円柱状部品、とりわけ、大型( 大径)の円柱状部品の熱処理方法に関する。 こで、「円柱状部品」には、例えば建設機 の無限軌道帯(履帯)の構成部品であるピンが 含まれる。ただし、「円柱状部品」はピンに 限るものではなく、また、大型の部品(ピン あれば大径のピン)に限定されるものでもな 。

 油圧ショベルやブルドーザー等の建設機械 用いられる履帯10(図13参照)は、図14に示す うに、リンク1、履板2、ピン3、ブッシュ4を している。
 図15において、履帯用のピン3のような円柱 部品では、外周表面部(外周表面およびその 近傍)31には曲げ応力とねじれ応力に耐えるた めの強度および耐摩耗性が要求され、芯部32 はせん断応力に耐えるための強度および靭 が要求される。

 これらの要求品質をすべて満足させるため 履帯用ピンの熱処理方法として、従来から 々の方法が提案されている。
 例えば、低炭素合金鋼を素材とし、「浸炭 入れ」を行い、次に「低温焼もどし」を施 方法が存在する。係る方法(浸炭焼入れ方法 )によれば、SCM415またはSCM420等の低炭素合金 を素材とし、これに浸炭を施して外周表面 のみ高炭素合金鋼とし、その後、焼入れお び低温焼もどしを施している。
 しかし、浸炭焼入れ方法によれば、ピンの 摩耗性および強度を向上するためには浸炭 化層を深く、浸炭時間を長くする必要があ 、コストが嵩むという問題がある。それと に、浸炭ガスの大量使用等も、コスト高騰 惹起する。

 また、中炭素合金鋼を素材とし、「全体加 焼入れ」を行い、次に「低温焼もどし」を す方法が存在する。詳細には、炭素含有量 0.3~0.5質量%の中炭素合金鋼を素材とし、ピ の外周表面から芯部までの全体をAc 3 変態点以上の温度に加熱し、急冷して焼入れ し、その後、低温焼もどしを施している。
 しかし、係る従来技術では、ピンの硬化層 さは、素材の焼入れ性やピンの直径等によ て決まってしまうので、焼入れ性の低い素 を使用すると、必要な耐摩耗性および強度 得られなくなる。一方、焼入れ性の高い素 を使用すると、硬化層深さが深くなりすぎ 外周表面の圧縮残留応力が低くなり、ピン 破壊靭性および疲労強度が低くなるという 題がある。

 履帯用ピンの熱処理方法の従来技術として さらに、中炭素合金鋼を素材とし、「全体 熱焼入れ」を行い、「全体加熱高温焼もど 」を行い、「外周表面部の高周波焼入れ」 行い、最後に「低温焼もどし」を施す方法 存在する。詳細には、炭素含有量が0.3~0.5質 量%の中炭素合金鋼を素材とし、ピンの外周 面から芯部までの全体をAc 3 変態点以上の温度に加熱し、急冷して焼入れ した後、ピンの外周表面から芯部までの全体 を高温焼もどしして、ピン全体のミクロ組織 をソルバイト組織にする。その後、ピンの外 周表面部に高周波焼入れを施し、そして、低 温焼もどしを施す。
 ここで、「全体加熱焼入れ」と「全体加熱 温焼もどし」の2工程を合わせて「素地調質 (工程)」という。大型のピン(大径のピン:直 が概ね50mm以上のピン)は、この方法によって 熱処理が行われている。

 図16は、中炭素合金鋼の一例であるSCM440の 成(質量%)を表として示している。
 以下、SCM440を素材とするピンを「ピンA」と 表現する。なお、ピンAの長さは370mm、直径は 70mmである。

 図17~図20は、ピンAに、前記従来技術(全体加 熱焼入れ、全体加熱高温焼もどし、高周波焼 入れ、低温焼もどしを行う従来技術)を施し 場合において、各熱処理工程におけるピン 断面における硬さ分布(外周表面から中心部 での硬さ分布)を示している。
 図17~図20において、横軸はピンAの外周表面 らの距離を示し、縦軸はロックウェル硬さ 示している。

 図17は、全体加熱焼入れ工程の後における さ分布を示している。図17で示すように、全 体加熱焼入れ工程の後、ピンの外周表面部( 周表面近傍)の硬さはHRC55程度で、芯部(ピン 中心近傍の領域:ピンの中心から半径方向所 定距離の範囲)では、HRC50程度である。
 図18は、全体加熱高温焼もどし工程の後に ける硬さ分布を示している。図18では、高温 焼もどしによってピンの外周表面部の硬さは HRC40程度まで低下する。また、中心を含む芯 では、HRC30程度となっている。

 図19は、高周波焼入れ工程後の硬さ分布を している。図19において、ピンの外周表面部 の硬さは、高周波焼入れのためHRC60程度に上 している。ピンの芯部ではHRC30程度のまま ある。そして、ピンの外周表面部と芯部と 間の領域で、急激に硬さが低下する領域B2が 存在している。
 図20は、低温焼もどし工程の後における硬 分布を示している。図20で示すように、低温 焼もどしのために外周表面部の硬さがやや下 がり、HRC55程度となる。

 全体加熱焼入れ、全体加熱高温焼もどし、 周波焼入れ、低温焼もどしを行う上述の従 技術は、4工程を行うため、リードタイムが 長くなり、全体の処理時間が長くなるという 問題がある。
 また、必要な芯部硬さ(素地硬さ)を確保す ためには焼入れ性の高い素材を使用する必 があり、そのような素材は価格が高いので コストアップにつながってしまう。
 さらに、必要な芯部硬さ(素地硬さ)が得ら ないと、過大なせん断応力が負荷された際 、折損する可能性がある。

 その他の従来技術として、所定の配合の鋼 に高周波焼入れを2回施す熱処理方法が提案 されている(特許文献1参照)。
 しかし、係る従来技術(特許文献1)では、二 焼入れ硬化層深さが0.5mm~0.7mm程度であり、 帯用ピンに要求される耐摩耗性を充足させ ことができない、という問題が存在する。

特開平7-118791号公報

 本発明は上述したような従来技術の問題 に鑑みて提案されたものであり、円柱状部 、とりわけ、大型(大径)の円柱状部品の熱 理方法であって、従来の方法に比較して、 産性が高く、コストを低減することができ 品質の向上を可能にする円柱状部品の熱処 方法の提供を目的としている。

 本発明の円柱状部品の熱処理方法は、中炭 合金鋼から成る円柱状部品(3:ピン)の熱処理 方法であって、該熱処理方法は焼入れ工程(S1 )と、該焼入れ工程の後に施される焼もどし 程(S2)とを有し、前記焼入れ工程(S1)は、焼入 れ第1工程(S11)と、焼入れ第1工程の後に施さ る焼入れ第2工程(S12)とを有し、前記焼入れ 1工程(S11)は前記円柱状部品(3)の外周表面(31f) から芯部(32)までの前記円柱状部品(3)の全体 Ac 3 変態点以上の温度に加熱して焼入れする工程 であり、前記焼入れ第2工程(S12)は前記焼入れ 第1工程(S11)で焼入れされた前記円柱状部品(3) の外周表面部(31)のみをAc 3 変態点以上の温度に誘導加熱して焼入れする 工程であり、前記焼もどし工程(S2)は、前記 入れ工程(S1)で焼入れされた前記円柱状部品( 3)を低温焼もどしする工程であることを特徴 している(請求項1)。

 ここで、前記焼入れ第2工程(S12)における「 周表面部(31)」とは、円柱状部品(3)の外周表 面(31f)のみならず、外周表面(31f)から半径方 内方(深さ方向)の一定の領域を含んでいる。 換言すれば、外周表面(31f)から有効硬化層深 (t)だけ半径方向内方の領域が、「外周表面 」(31)である。
 「有効硬化層深さ(t)」とは、有効硬化層の さ(深さ:半径方向寸法)であり、円柱状部品( 3)の「外周表面」(31f)から「有効硬さ位置」(3 1ff)までの距離である。
 「有効硬化層」は、焼入れ第2工程後に有効 硬さ以上になる領域(範囲)である。「有効硬 」は、硬化した(焼入れされた)とみなされ 硬さであり、本明細書では、「80%マルテン イト硬さ(HRC45)を以って硬化した(焼入れされ た)とみなしている。
 「有効硬さ位置」(31ff)は、「有効硬さ(HRC45) 」になる位置(外周表面31fからの深さ)である
 有効硬化層深さ(t)は、必要な耐摩耗性を確 するために、3mm以上であるのが望ましい。

 また、本発明の円柱状部品の熱処理方法は 中炭素合金鋼から成る円柱状部品(3:ピン)の 熱処理方法であって、該熱処理方法は焼入れ 工程(S1)と、該焼入れ工程の後に施される焼 どし工程(S2)とを有し、前記焼入れ工程(S1)は 、焼入れ第1工程(S11A)と、焼入れ第1工程の後 施される焼入れ第2工程(S12)とを有し、前記 入れ第1工程(S11A)は前記円柱状部品(3)の外周 表面(31f)から芯部(32)までの一部の領域をAc 3 変態点以上の温度に加熱して焼入れする工程 であり、前記焼入れ第2工程(S12)は前記焼入れ 第1工程(S11A)で焼入れされた前記円柱状部品(3 )の外周表面部(31)のみをAc 3 変態点以上の温度に誘導加熱して焼入れする 工程であり、前記焼もどし工程(S2)は、前記 入れ工程(S1)で焼入れされた前記円柱状部品( 3)を低温焼もどしする工程であることを特徴 している(請求項2)。

 ここで、前記焼入れ第1工程(S11、S11A:請求項 1の焼入れ第1工程及び請求項2の焼入れ第1工 )の加熱は誘導加熱であるのが好ましい(請求 項3)。
 あるいは、前記焼入れ第1工程(S11、S11A:請求 項1の焼入れ第1工程及び請求項2の焼入れ第1 程)の加熱は炉中加熱であるのが好ましい(請 求項4)。

 そして、前記焼入れ第2工程(S12)における外 表面部(31)の深さ(t:有効硬化層深さ)は、円 状部品(3)の半径(R)の1/10以上で、円柱状部品( 3)の半径(R)の1/2以下であるのが好ましい(請求 項5)。
 すなわち、 1/10≦t/R≦1/2 であるのが好ま い。

 さらに本発明において、前記焼入れ第1工程 (S11A:請求項2における焼入れ第1工程)で加熱さ れる前記円柱状部品(3)の一部の領域の半径方 向寸法(rr)は、円柱状部品(3)の半径(R)の1/3以 であり、3/4以下であるのが好ましい(請求項6 )。
 すなわち、 1/3≦rr/R≦3/4 であるのが好ま い。

 本発明において、前記円柱状部品(3)は無 軌道帯用ピンであるのが好ましい(請求項7)

 そして、前記円柱状部品(3)の直径は50mm以上 であるのが好ましい。
 但し、前記円柱状部品(3)の直径が50mm未満で あっても、本発明を適用することが可能であ る。

 上述する構成を具備する本発明(請求項1及 請求項2の発明)によれば、円柱状部品(3)の熱 処理が4工程から3工程に削減されるので、生 性が向上し、製造コストが低減する。
 また、第2工程(S12)では外周表面部(31)のみが 焼入れ硬化するので、外周表面部(31)に高い 縮の残留応力が付与され、円柱状部品(3)の 労強度が向上する。
 さらに、従来の方法によるものと比べて、 ンの横断面における最大せん断応力となる 置近傍の硬さが高くなるので、過大なせん 応力が負荷されても折損を防止することが きる。そのため、必要な芯部硬さ(素地硬さ )を確保するために焼入れ性の高い素材を使 する必要がなくなり、使用するべき素材と て合金元素の添加(量)が少ない素材の使用が 可能になり、素材調達のコストが低減する。

 ここで本発明において、焼入れ第1工程(S11A) で、前記円柱状部品(3)の外周表面(31f)から芯 (32)までの一部の領域をAc 3 変態点以上の温度に加熱して焼入れを行ない 、円柱状部品(3)の断面の全領域をAc 3 変態点以上の温度に加熱しないように構成す れば(請求項2)、円柱状部品(3)の断面の全領域 をAc 3 変態点以上の温度に加熱しないため、焼入れ 第1工程(S11A)における加熱時間を短縮するこ ができる。
 その結果、焼入れ第1工程(S11A)における加熱 に費やされるエネルギーを節約することがで きる。

 本発明において、前記焼入れ第1工程(S11)の 熱が誘導加熱であれば(請求項3)、焼入れ工 (S1)の連続化が可能になる。
 一方、本発明において、前記焼入れ第1工程 (S11)の加熱が炉中加熱であれば(請求項4)、焼 れ第1工程(S11)の加熱に関するコストが低減 る。

 また本発明において、前記焼入れ第2工程 (S12)における外周表面部(31)の深さ(t:有効硬化 層深さ)が円柱状部品(3)の半径(R)の1/10以上で 円柱状部品(3)の半径(R)の1/2以下に設定すれ (請求項5)、有効硬化層深さ(t)が小さ過ぎて ン(3)が早期に摩耗することがなく、有効硬 層深さ(t)が大き過ぎて、ピン(3)外周表面の 縮残留応力が小さくなってしまうこともな 。

 なお本発明において、製造される円柱状部 (3)が、たとえば、無限軌道帯用ピンであっ もよいし(請求項7)、無限軌道帯用ピン以外 部品にも適用できる。
 加えて、本発明によれば、製造される無限 道帯用ピン(3)の直径が50mm以上への適用を推 奨するが、無限軌道帯用ピン(3)の直径は50mm 満のものにも適用可能である。

 以下、添付図面を参照して、本発明の実施 態を説明する。
 本発明に係る円柱状部品の熱処理方法の実 形態を説明するため、円柱状部品として、 えば、油圧ショベルやブルドーザー等の建 機械の無限軌道帯(履帯)10(図13参照)の構成 品である履帯用ピンを例示して、説明する ただし、円柱状部品は、履帯用ピン(以下、 ピン」と記載する。)に限るものではない。

 また、本願発明の方法では直径が50mm以上の 大型ピンを例示しているが、本願発明の方法 に係る円柱状部品の熱処理方法は、小型、中 型のピンにも適用することが可能である。
 ここで、小型ピンとは直径が30mm未満のもの を意味しており、中型ピンとは直径が30mm以 で50mm未満のものを意味しており、大型ピン は直径が50mm以上のものを意味している。

 上述したように、建設機械の履帯10(図13)は 図14に示すように、1対のリンク1、履板2、 ン3、ブッシュ4から成るユニットが、連続的 に連結されて構成されている。
 そして、履帯用のピン3(図15参照)において 外周表面部(外周表面31fから有効硬さ位置31ff までの深さがtの範囲)31には、曲げ応力とね れ応力に耐えるための強度および耐摩耗性 すなわち、硬さが要求される。一方、芯部( 周表面部31を除く部分)32には、せん断応力 耐えるための強度および靭性が要求される
 本願発明の方法では、外周表面部31に要求 れる硬さと、芯部32に要求されるせん断強度 および靭性を熱処理によって獲得するために 、中炭素合金鋼から成る素材に熱処理を施す のである。

 ここで、中炭素合金鋼とは、中炭素鋼にMn B、Cr、Mo、Ni等の合金元素を添加したものを う。これらの合金元素の添加目的は、焼入 性向上、耐摩耗性向上、靭性向上等である
 また、中炭素鋼とは、炭素含有量が質量%で 0.30以上0.50以下のものを言う。ちなみに、低 素鋼とは、炭素含有量が質量%で0.30未満の のを言い、高炭素鋼とは、炭素含有量が質 %で0.50を超えるものを言う。

 本願発明の第1実施形態に係る方法を、図1~ 7を参照して説明する。
 第1実施形態に係る方法において、大型ピン 3は、機械加工完了後、図1に示す工程に従っ 製造される。
 図2は、本願発明の第1実施形態に係る方法 、図17~図20を参照して説明した従来技術(全 加熱焼入れ、全体加熱高温焼もどし、高周 焼入れ、低温焼もどしを行う従来技術)に対 させて示している。より詳細には、図2では 、本願発明の第1実施形態に係る方法におけ 各工程(製造プロセス)における断面の金属組 織を、図17~図20の従来技術における断面の金 組織と比較して模式的に示している。
 それと共に図2では、図3~図5および図17~図20 参照することにより、第1実施形態における 各工程(製造プロセス)における断面の硬さ分 と、図17~図20の従来技術における断面の硬 分布とを比較することを企図している。

 図1において、「機械加工完了品」なる文 言で示す工程では、中炭素合金鋼から成る素 材(棒鋼)に機械加工等を施して、大型ピン3に 成形する。ピン3の素材はSCM440であり、前記 たように、その成分(質量%)は図16で示されて いる。

 次に、ピン3を全体焼入れ装置20に搬入し、 ン3に対して焼入れ第1工程S11を施す。明確 は図示されていないが、全体焼入れ装置20は 、加熱手段(加熱炉あるいは誘導加熱装置)と 却装置とを有している。先ず、全体焼入れ 置20の加熱手段により、ピン3の全体(図15に ける外周表面31fから芯部32に至る全ての領 )を、Ac 3 変態点以上の温度に加熱する。
 全体焼入れ装置20による加熱は誘導加熱に って行なってもよいし、加熱炉内で行なっ もよい。
 加熱を加熱炉内で行う場合には、その加熱 (エネルギー)として、重油、軽油、灯油等 化石燃料または電気が用いられる。

 ワークのAc 3 変態点(特定の温度)は、ワークの化学成分に って決まり、概略、次式で示される。
   Ac 3 (℃)=908-224×C(%)+30×Si(%)
           -34×Mn(%)+439×P(%)-23×Ni(%)
 中炭素合金鋼では、Ac 3 変態点は、加熱炉内での加熱の場合、概略800 ℃程度(780~820℃)である。図示しない誘導加熱 (急速加熱)の場合には、Ac 3 変態点は、加熱炉内での加熱の場合よりも100 ℃程度高くなる。

 焼入れ第1工程S11を誘導加熱装置によって加 熱する場合、ワークの外周表面31fから芯部32 至るすべての領域がAc 3 変態点以上の温度に加熱されるように、図示 しない発振機の周波数を選定する必要がある 。
 ここで、周波数f(kHz)と加熱深さd(mm)との間 は、
        d=(250/f) 1/2
なる関係がある。係る関係に従って、周波数 fを適宜設定することにより、ピン3の断面全 域をAc 3 変態点以上の温度に加熱することができる。

 全体加熱焼入れ装置20によりピン3の全体がA c 3 変態点以上の温度に加熱されたならば、加熱 を停止し、ワークの外周表面31fの温度がAr 3 変態点まで下がる前に、全体焼入れ装置20の 示しない冷却装置により冷却を開始して焼 れする。
 Ar 3 変態点は、中炭素合金鋼の場合、Ac 3 変態点より100℃程度低い温度になる。
 焼入れの際に使用する冷却液(冷却手段)と ては、水、水溶性焼入れ液、油等がある。 スト面、環境面を考慮すると、冷却液とし 水を使用することが望ましい。

 全体加熱焼入れ装置20によりピン3を焼入れ 、焼入れ第1工程S11が完了したならば、部分 加熱焼入れ装置30に搬入する。明確には図示 れていないが、部分加熱焼入れ装置30は、 導加熱装置と冷却装置とを有している。そ て、ピン3に高周波焼入れ工程(焼入れ第2工 )S12を施す。
 この高周波焼入れ工程(焼入れ第2工程)S12で 、焼入れ第1工程S11で焼入れされたピン3の 周表面部31のみを、Ac 3 変態点以上の温度に誘導加熱する。換言すれ ば、焼入れ第1工程S11ではピン3の断面全領域 Ac 3 変態点以上の温度に加熱したが、焼入れ第2 程S12ではピン3の外周表面部31のみをAc 3 変態点以上の温度に加熱する。
 焼入れ第1工程S11の加熱は全体加熱であるの に対し、焼入れ第2工程S12の加熱は、外周表 部31のみを加熱するので、いわゆる部分加熱 である。外周表面部31のみの加熱(いわゆる部 分加熱)を行うために、焼入れ第2工程S12にお る加熱は、誘導加熱(例えば高周波誘導電源 による加熱)によらなければならない。

 ここで、外周表面部31とは、図15に示すよう に、ピン3の外周表面31fのみならず、その近 をも含む一定の深さt(有効硬化層深さ)を有 る領域である。
 「有効硬化層深さt」は「有効硬化層の厚さ (深さ:半径方向寸法)」であり、図15における 柱状部品3の外周表面31fから有効硬さ位置31f fまでの距離である。さらに、「有効硬化層 は、焼入れ第2工程後に有効硬さ以上になる 域(範囲)であり、「有効硬さ」は、硬化し (焼入れされた)とみなされる硬さであり、本 願発明の方法では、「80%マルテンサイト硬さ (HRC45)」を以って、「硬化した(焼入れされた) 」とみなしている。そして、「有効硬さ位置 31ff」は、「有効硬さ(HRC45)」になる位置であ 。

 有効硬化層深さtは、ピン3の半径Rの1/10以上 で、ピン3の半径Rの1/2以下であることが好ま い。すなわち、外周表面31fからの有効硬化 深さtは、ピンの半径をRとすれば、R/10≦t≦ R/2であるのが望ましい。
 有効硬化層深さtがR/10よりも小さいと、ピ 3が早期に摩耗してしまう。一方、有効硬化 深さtがR/2よりも大きいと、ピン3の外周表 の圧縮残留応力が小さくなり、後述する効 (ピンに作用する引張応力を下げる効果)が得 られないからである。

 これに加えて、必要な耐摩耗性を確保する めに、有効硬化層深さtは、3mm以上であるこ とが望ましい。
 有効硬化層深さtが R/10≦t≦R/2(Rはピン3の 径)であり、かつ、有効硬化層深さtが3mm以上 となるように、ピン3の外周表面部31がAc 3 変態点以上の温度に加熱されるように、誘導 加熱による加熱深さdを決定し、周波数f(kHz) 加熱深さd(mm)との関係式 d=(250/f) 1/2  に従って、周波数を決定するのである。
 ここで、焼入れ第1工程S11が誘導加熱装置に よって加熱される場合、焼入れ第2工程S12の 導加熱装置の周波数は、焼入れ第1工程S11の 導加熱装置と同一の周波数を使用してもよ 。この際、加熱時間や電流密度などの調整 よって、必要な加熱深さを得る。

 ピン3の外周表面部31のみを誘導加熱するこ により、ピン3の外周表面31fから芯部32にか て温度勾配が生じる。外周表面部ではAc 3 変態点以上であるが、芯部側すなわち半径方 向内方に向かって温度は低下する。
 外周表面部31の芯部側近傍では400~700℃(高温 焼もどし温度に相当)となり、さらに芯部側( 径方向内方)の領域では150~250℃(低温焼もど 温度に相当)となる。

 ピン3の外周表面部31がAc 3 変態点以上の温度に加熱されたならば、加熱 を停止し、ピン3を図示しない誘導加熱装置 ら取り出し、ピン3の外周表面31fの温度がAr 3 変態点まで下がる以前の段階で、部分加熱焼 入れ装置30の図示しない冷却装置により冷却 開始して焼入れする。
 上述した通り、Ar 3 変態点は、中炭素合金鋼の場合、Ac 3 変態点より約100℃低い温度になる。
 高周波焼入れ工程(焼入れ第2工程)S12におい も、焼入れ第1工程S11と同様に、焼入れの際 に用いられる冷却液(冷却手段)としては、コ ト面、環境面からは水を使用することが望 しい。但し、水溶性焼入れ液、油等を用い もよい。

 高周波焼入れ工程(焼入れ第2工程)S12におい 、ピン3の外周表面部31は、再度、焼入れさ る。
 また、ピン3の芯部32における外周表面部31 傍の領域では、高周波焼入れの際に400~700℃ 加熱されるため、高温焼もどしが施される
 さらに、芯部32側の中心側(半径方向内方)領 域では、高周波焼入れの際に150~250℃に加熱 れるので、低温焼もどしが施される。

 これに対して、図17~図20で説明した従来 術(全体加熱焼入れ、全体加熱高温焼もどし 高周波焼入れ、低温焼もどしを行う従来技 )では、本願発明の第1実施形態に係る方法 おける焼入れ第1工程S11と高周波焼入れ工程( 焼入れ第2工程)S12との間に、すでに、素地高 焼もどし(図18参照)が施されている。そのた め、図17~図20の従来技術における図19の高周 焼入れ工程(本願発明の方法における焼入れ 2工程:S12に相当する工程)では、芯部32に対 る焼もどしは行われない。

 換言すれば、図17~図20で説明した従来技 (全体加熱焼入れ、全体加熱高温焼もどし、 周波焼入れ、低温焼もどしを行う従来技術) では、単に外周表面部のみの高周波焼入れを 行っているのに対して、第1実施形態におけ 高周波焼入れ工程(焼入れ第2工程)S12では、3 類の熱処理、具体的には外周表面部31にお る高周波焼入れと、芯部32の外周表面部31側( 半径方向外方)領域における高温焼もどしと 芯部32の中心側(半径方向内方)領域における 温焼もどしを、同時に行っている。

 高周波焼入れ工程(焼入れ第2工程)S12の後、 ン3を低温焼もどし装置40に搬入して、ピン3 に低温焼もどし(S2)を施す。
 この低温焼もどし工程(S2)においても、加熱 は加熱炉(低温焼もどし炉)内で行ってもよく 図示しない誘導加熱装置によってもよい。
 加熱炉内で低温焼もどしを行う場合は、150~ 250℃にて加熱される。加熱源(エネルギー)と ては、電気または重油、軽油、灯油等の化 燃料が用いられる。

 一方、誘導加熱装置で低温焼もどし工程S2 行う場合には、誘導加熱が急速加熱である め、加熱温度は加熱炉内で行う場合よりも 干高くなる。ピン3の少なくとも外周表面部3 1が低温焼もどし温度に加熱されるように、 述した周波数f(kHz)と加熱深さd(mm)との関係式  d=(250/f) 1/2  に基いて、図示しない発振機の周波数を選 する必要がある。
 加熱後の冷却は、自然放冷でもよい。ある は、低温焼もどし装置40に冷却装置を設け 、強制冷却を行ってもよい。
 以上により、ピン3の熱処理が完了する。

 次に、図2~図7を参照して、第1実施形態の作 用効果を説明する。
 第1実施形態に係る熱処理方法は、図2でも らかなように、従来技術に対して、円柱状 品の素地高温焼もどしの工程を省略(廃止)し ている。すなわち、第1実施形態に係る熱処 方法では、従来の4工程からなる熱処理工程 、3工程に削減している。
 この工程削減は、円柱状部品の製造時間の 縮のみならず、従来あった素地高温焼もど 工程に費やされていた熱エネルギーを不要 し、製造コストの大幅な削減につながる。

 図3~図5において、横軸にピンの外周表面か 中心位置までの距離をとり、縦軸に硬さを って、ピンの断面における硬さ分布を示し いる。図3~図5の左端がピンの外周表面で、 端がピンの中心を示している。
 図3~図5は、それぞれ、本願発明の第1実施形 態に係る方法における素地焼入れ(焼入れ第1 程)後のピンの断面における硬さ分布(図3)、 表面部焼入れ(焼入れ第2工程、すなわち図2に おける「高周波焼入れ+焼もどし」)後のピン 断面における硬さ分布(図4)、低温焼もどし のピンの断面における硬さ分布(図5)を示し いる。

 低温焼もどし工程後のピンの断面における さ分布については、従来技術(図2の下欄に す従来技術:図17~図20で説明した従来技術)で 、境界部分B2(硬さが急激に低下している部 )と中心との間の領域における硬さが、HRC30 度である(図20参照)。これに対して、第1実 形態に係る方法では(図5参照)、芯部32(図2のT :低温焼もどし層)において、外周表面部31と 境界部分B1(硬さが急激に低下している部分) 中心との間の領域における硬さが、HRC32~40 度であり、明らかに硬さが高くなっている
 同様に、従来技術における表面部焼入れ(図 2の「高周波焼入れ」)後のピンの断面におけ 硬さ分布は(図19、図20参照)、境界部分B2(硬 が急激に低下している部分)と中心との間の 領域における硬さがHRC30程度であるのに対し 、第1実施形態に係る方法における表面部焼 入れ(図2における「高周波焼入れ+焼もどし」 )後のピンの断面における硬さ分布では(図4、 図5参照)、境界部分B1(硬さが急激に低下して る部分)と中心との間の領域における硬さが 、HRC32~40程度であり、従来技術に比較して硬 なっている。

 ここで、外周表面部31との境界部分(硬さが 激に低下している部分:図4、図5におけるB1: 19、図20におけるB2)と中心との間の領域は、 ピン3への負荷による最大せん断応力が作用 る領域でもある。係る領域における硬さが 加することは、最大せん断応力に対する強 が増加したことを意味している。すなわち 従来の方法によるものと比べて、第1実施形 により製造されたピン3は、過大な負荷が作 用しても折損し難いのである。
 また、必要な芯部硬さ(素地硬さ)を確保す ために焼入れ性の高い素材を使用する必要 なくなり、高価な素材を必要としなくなる め、素材調達に係るコストが低減する。
 なお、図2の高周波焼入れにおける符号Qは 高周波焼入れによって形成された(外周)表面 硬化層を示している。

 図6は、本願発明の第1実施形態に係る方法 より製造されたピン3の表面残留応力の測定 果を、従来技術で製造されたピンと比較し 示している。図6の横軸は、円周方向の残留 応力の測定値を示し、縦軸は軸方向の残留応 力の測定値を示している。ここで、負の値は 圧縮応力を意味している。したがって、絶対 値が大きいほど圧縮残留応力が大きいという ことになる。
 図6から明らかなように、本願発明の第1実 形態に係る方法で製造されたピンの表面圧 残留応力は、従来技術で製造されたピンに べて、円周方向においては同程度であるが 軸方向においては大きくなった。すなわち 第1実施形態に係る方法で製造されたピンに いては、軸方向の圧縮残留応力が大きくな という作用効果を奏する。

 外周表面の圧縮残留応力の増加は、ピン3の 外周表面31fに、例えば、ショットピーニング や、ショットブラスト等を施したのと同等の 効果が得られる。
 そのため、ピン3に過大な負荷が作用して、 その表面に引張応力が生じても、従来技術で 製造されたピンに比較して、増加した圧縮残 留応力の分だけ当該引張応力は減少する。

 図7は、本願発明の第1実施形態に係る方法 より製造されたピン3の曲げ試験結果を、従 の方法で製造されたピンと比較して示して る。図7の横軸はたわみの最大値を示し、縦 軸は曲げ荷重の最大値を示している。
 図7から明らかなように、第1実施形態に係 方法で製造されたピンの曲げ強度(図7では曲 げ荷重)は、従来の方法で製造されたピンに べて高くなっている。

 図6および図7から明らかなように、第1実 形態に係る方法によれば、素材をより安価 ものに変更することが可能であり、あるい 、従来と同等の強度を有する素材であれば ピンの小型化が可能となる。

 明確には図示されていないが、第1実施形態 において、焼入れ第1工程S11の加熱を誘導加 とすれば、焼入れ第2工程S12も誘導加熱であ ので、いわゆる「焼入れ工程のインライン 」が可能になる。
 あるいは、焼入れ第1工程S11の加熱を炉中加 熱とすれば、誘導加熱炉に比べ、投入するエ ネルギーが削減でき、焼入れ第1工程S11の加 のコストが低減する。

 次に、図8~図12を参照して、本発明の第2実 形態を説明する。
 第2実施形態においても、円柱状部品として 、例えば、油圧ショベルやブルドーザー等の 建設機械の無限軌道帯(履帯)10(図13参照)の構 部品である履帯用ピンの熱処理が行なわれ 。
 第2実施形態に係る方法においても、直径が 50mm以上の大型ピンを例示するが、第2実施形 に係る方法は、小型、中型のピンにも適用 ることが可能である。

 本願発明の第2実施形態に係る方法では、大 型ピン3は、機械加工完了後、図8に示す工程 従って製造される。
 図9は、本願発明の第2実施形態に係る方法 、図17~図20を参照して説明した従来技術(全 加熱焼入れ、全体加熱高温焼もどし、高周 焼入れ、低温焼もどしを行う従来技術)に対 させて示している。

 そして、図9では、本願発明の第2実施形態 係る方法における各工程(製造プロセス)にお ける断面の金属組織と、図17~図20の従来技術 おける断面の金属組織とを比較して、模式 に示している。
 さらに図9では、図10~図12と図17~図20を参照 ることにより、本願発明の第2の実施形態に る方法の各工程(製造プロセス)における断 の硬さ分布(図10~図12参照)と、図17~図20の従 技術における断面の硬さ分布とを比較する とを企図している。

 図8において、「機械加工完了品」なる文 言で示す工程では、中炭素合金鋼から成る素 材(棒鋼)に機械加工等を施して、大型ピン3に 成形する。ピン3の素材はSCM440であり、第1実 形態で記述したように、その成分(質量%)は 16で示されている。

 次に、ピン3を部分加熱焼入れ装置20Aに搬入 し、ピン3に対して焼入れ第1工程S11Aを施す。 明確には図示されていないが、部分加熱焼入 れ装置20Aは、加熱手段(加熱炉あるいは誘導 熱装置)と冷却装置とを有している。
 先ず、部分加熱焼入れ装置20Aの加熱手段に り、ピン3の一部(図15における外周表面31fか ら芯部32に至る領域の一部)を、Ac 3 変態点以上の温度に加熱する。
 部分加熱焼入れ装置20Aによる加熱(一部加熱 )は、誘導加熱によって行ってもよいし、加 炉内で行ってもよい。加熱を加熱炉内で行 場合には、その加熱源(エネルギー)として、 重油、軽油、灯油等の化石燃料または電気が 用いられる。

 ここで、「ピン3の一部(図15における外周表 面31fから芯部32に至る領域の一部)」は、外周 表面31fから「有効硬さ位置31ff(図15参照)」ま の領域より深く、ピンの横断面における最 せん断応力となる位置近傍を包含している
 そして、上述したように「有効硬化層深さt 」とは「有効硬化層の厚さ(深さ:半径方向寸 )」であり、図15における円柱状部品3の外周 表面31fから有効硬さ位置31ffまでの距離であ 。さらに、「有効硬化層」は、焼入れ第2工 後に有効硬さ以上になる領域(範囲)であり 「有効硬さ」は、硬化した(焼入れされた)と みなされる硬さであり、本願発明の方法では 、「80%マルテンサイト硬さ(HRC45)」を以って 化した(焼入れされた)とみなしている。「有 効硬さ位置31ff」は、「有効硬さ(HRC45)」にな 位置である。

 「ピン3の一部」あるいは「外周表面31fから 芯部32に至る領域の一部」とは、例えば、外 表面31fから芯部32に向かって、半径方向3/4 下の領域である。そして、外周表面31fから 部32に向かって、半径方向1/3以上であること が好ましい。すなわち、ピン3の半径(外周表 31fから芯部32に至る距離)を「R」、焼入れ第 1工程S11AでAc 3 変態点以上の温度に加熱される「ピン3の一 」の半径方向深さ(外周表面31fから芯部32に かう深さ)を「rr」とすれば、下式を充足す のが好ましい。
 1/3≦rr/R≦3/4

 第1実施形態でも説明したように、ワークの Ac 3 変態点(特定の温度)は、ワークの化学成分に って決定する。中炭素合金鋼では、Ac 3 変態点は、加熱炉内での加熱の場合、概略800 ℃程度(780~820℃)である。そして図示しない誘 導加熱(急速加熱)の場合には、Ac 3 変態点は、加熱炉内での加熱の場合よりも100 ℃程度高くなる。

 焼入れ第1工程S11Aを誘導加熱装置によって 熱する場合、ピン3の一部(ワークの外周表面 31fから芯部32に至るすべての領域の一部)がAc 3 変態点以上の温度に加熱されるように、図示 しない発振機の周波数を選定する必要がある 。
 第1実施形態でも説明したように、周波数f(k Hz)と加熱深さd(mm)との間には、
        d=(250/f) 1/2
なる関係がある。係る関係に従って、周波数 fを適宜設定することにより、加熱領域を自 に制御して、焼入れ第1工程S11Aにおいて、ピ ン3の一部をAc 3 変態点以上の温度に加熱することができる。

 部分加熱焼入れ装置20Aによりピン3の一部が Ac 3 変態点以上の温度に加熱されたならば、加熱 を停止し、ワークの外周表面31fの温度がAr 3 変態点まで下がる前に、部分加熱焼入れ装置 20Aの図示しない冷却装置により冷却を開始し て焼入れする。
 Ar 3 変態点は、中炭素合金鋼の場合、Ac 3 変態点より100℃程度低い温度になる。
 第1実施形態で説明したのと同様に、焼入れ の際に使用する冷却液(冷却手段)としては、 、水溶性焼入れ液、油等がある。コスト面 環境面を考慮すると、冷却液として水を使 することが望ましい。

 部分加熱焼入れ装置20Aによりピン3の一部を 焼入れし、焼入れ第1工程S11Aが完了したなら 、部分加熱焼入れ装置30に搬入する。明確 は図示されていないが、部分加熱焼入れ装 30は、第1実施形態で用いられた部分加熱焼 れ装置30と同様に構成されており、誘導加熱 装置と冷却装置とを有している。そして、ピ ン3に高周波焼入れ工程(焼入れ第2工程)S12を す。
 この高周波焼入れ工程(焼入れ第2工程)S12で 、焼入れ第1工程S11Aで部分焼入れされたピ 3の外周表面部31のみを、Ac 3 変態点以上の温度に誘導加熱する。換言すれ ば、焼入れ第1工程S11Aではピン3の断面の一部 領域(例えば、外周表面31fから芯部32に向かっ て、半径方向3/4以下の領域)をAc 3 変態点以上の温度に加熱したが、焼入れ第2 程S12ではピン3の外周表面部31のみをAc 3 変態点以上の温度に加熱する。

 本願発明の第2実施形態に係る方法では、焼 入れ第1工程S11Aの加熱も、焼入れ第2工程S12の 加熱も、ピン3の断面の全領域は加熱せず、 わゆる部分加熱である点では共通する。焼 れ第1工程S11Aの加熱は、例えば、外周表面31f から芯部32に向かって、半径方向3/4以下の領 をAc 3 変態点以上の温度に加熱するが、焼入れ第2 程S12では、外周表面部31のみを加熱している 。
 外周表面部31のみの部分加熱を行うために 焼入れ第2工程S12における加熱は、誘導加熱( 例えば高周波誘導熱源による加熱)によらな ればならない。

 ここで、「外周表面部31」については、第1 施形態で説明した通り、図15で示すように ピン3の外周表面31fのみならず、その近傍を 含む一定の深さt(有効硬化層深さ)を有する 域である。
 そして「有効硬化層深さt」、「有効硬化層 の厚さ(深さ:半径方向寸法)」、「有効硬化層 」、「有効硬さ」、「有効硬さ位置31ff」に いては、第1実施形態で説明したのと同様で る。

 本願発明の第2実施形態に係る方法におい て、焼入れ第1工程S11Aが誘導加熱装置によっ 加熱される場合、焼入れ第2工程S12の誘導加 熱装置の周波数は、焼入れ第1工程S11Aの誘導 熱装置と同一の周波数を使用してもよい。 の際、加熱時間や電流密度などの調整によ て、必要な加熱深さを得る。

 図17~図20で説明した従来技術(全体加熱焼入 、全体加熱高温焼もどし、高周波焼入れ、 温焼もどしを行う従来技術)では、単に外周 表面部のみの高周波焼入れを行っているのに 対して、本願発明の第2実施形態に係る方法 おいても、高周波焼入れ工程(焼入れ第2工程 )S12では、3種類の熱処理、具体的には外周表 部31における高周波焼入れと、芯部32の外周 表面部31側(半径方向外方)領域における高温 もどしと、芯部32の中心側(半径方向内方)領 における低温焼もどしを、同時に行ってい 。
 第2実施形態に係る方法における焼入れ第2 程S12は、第1実施形態に係る方法における焼 れ第2工程S12と同様である。

 高周波焼入れ工程(焼入れ第2工程)S12の後、 ン3を低温焼もどし装置40に搬入して、ピン3 に低温焼もどし(S2)を施す。
 本願発明の第2実施形態に係る方法における ピン3の低温焼もどし工程S2は、第1実施形態 係る方法における低温焼もどし工程S2と同様 である。
 以上により、ピン3の熱処理が完了する。

 次に、図9~図12を参照して、本願発明の方法 の作用効果を説明する。
 図示の実施形態の熱処理方法は、図9でも明 らかなように、従来技術に対して、円柱状部 品の素地高温焼もどしの工程を省略(廃止)し いる。すなわち、従来の4工程からなる熱処 理工程を、3工程に削減している。
 この工程削減は、円柱状部品の製造時間の 縮のみならず、従来あった素地高温焼もど 工程に費やされていた熱エネルギーを不要 し、製造コストの大幅な削減につながる。

 図10~図12において、横軸にピンの外周表 から中心位置までの距離をとり、縦軸に硬 をとって、ピン断面の硬さ分布を示してい 。図10~図12の左端がピンの外周表面で、右端 がピンの中心を示している。

 図10は、焼入れ第1工程S11Aが完了した段階に おけるピン3の断面の硬さ分布を示している 本願発明の方法では、外周表面31fから芯部32 に向かって半径方向1/2の領域について、Ac 3 変態点以上の温度に加熱している。
 図10から、焼入れ第1工程S11Aが完了した段階 では、外周表面31fから芯部32に向かって半径 向1/2の位置で、硬さが急激に減少している とがわかる。

 図11は、焼入れ第1工程S11Aが完了し、ピン3 外周表面部31のみをAc 3 変態点以上の温度に加熱した後、急冷を施し た段階、つまり焼入れ第2工程S12が完了した 階におけるピン3の断面の硬さ分布を示して る。
 図11では、外周表面31fから一定深さを越え 位置(有効硬化層深さtを包含する)で硬さが 激に減少し、外周表面31fから芯部32に向かっ て半径方向1/2の位置で、さらに硬さが急激に 減少している。

 図12は、焼もどし工程S2が完了した段階に おけるピン3の断面の硬さ分布を示している 図11の硬さ分布と同様に、図12では、外周表 31fから一定深さを越えた位置(有効硬化層深 さtを包含する)で硬さが急激に減少し、外周 面31fから芯部32に向かって半径方向1/2の位 で、さらに硬さが急激に減少している。

 ここで、図12の符号C1で示す位置から外周表 面31fまでの領域は、ピン3への負荷による最 せん断応力が作用する領域を包含している 図12から明らかなように、係る領域における 硬さの最低値(図12の符号B1で示す位置の硬さ) は、従来技術による場合の芯部硬さ(図20参照 )に比べて高くなることにより、せん断応力 対する強度が増加したことを意味している すなわち、本願発明の方法により製造され ピン3は、過大な負荷が作用しても折損し難 のである。
 また、必要な芯部硬さ(素地硬さ)を確保す ために焼入れ性の高い素材を使用する必要 なくなり、高価な素材を必要としなくなる め、素材調達に係るコストが低減する。
 なお、図9の高周波焼入れにおける符号Qは 高周波焼入れによって形成された(外周)表面 硬化層を示している。

 図12から明らかなように、本願発明の方 により製造されたピン3において、図12の符 C1で示す位置から外周表面31fまでの領域は、 ピン3への負荷による最大せん断応力が発生 る位置である。

 本願発明の第2実施形態に係る方法により製 造されたピン3の表面残留応力は、第1実施形 に係る方法により製造されたピン3の表面残 留応力と同様の特性(図6参照)を示す。そして 、本願発明の第2実施形態に係る方法で製造 れたピンの表面圧縮残留応力は、従来技術 製造されたピンに比べて、円周方向におい は同程度であるが、軸方向においては大き なる。すなわち、第2実施形態に係る方法で 造されたピンにおいても、軸方向の圧縮残 応力が大きくなるという作用効果を奏した
 そのため、第2実施形態に係る方法で製造さ れたピン3において、過大な負荷が作用して ン3表面に引張応力が生じても、従来技術で 造されたピンに比較して、増加した圧縮残 応力の分だけ当該引張応力は減少する。

 本願発明の第2実施形態に係る方法により製 造されたピン3の曲げ試験結果も、第1実施形 に係る方法により製造されたピンと同様の 性(図7参照)を示す。
 係る試験結果から明らかなように、本願発 の第2実施形態に係る方法においても、素材 をより安価なものに変更することが可能であ り、あるいは、従来と同等の強度を有する素 材であれば、ピンの小型化が可能となる。

 明確には図示されていないが、本願発明の 2実施形態に係る方法においても、焼入れ第 1工程S11Aの加熱を誘導加熱とすれば、焼入れ 2工程S12も誘導加熱であるので、いわゆる「 焼入れ工程のインライン化」が可能になる。
 あるいは、焼入れ第1工程S11Aの加熱を炉中 熱とすることにより、誘導加熱炉に比べて 入するエネルギーを削減することができて 焼入れ第1工程S11Aの加熱のコストが低減する 。

 これに加えて、本願発明の第2実施形態に係 る方法によれば、焼入れ第1工程S11Aにおいて ピン3の断面の全領域をAc 3 変態点以上の温度に加熱するのではなく、ピ ン3の外周表面31fから芯部32までの一部の領域 をAc 3 変態点以上の温度に加熱して焼入れしている 。そのため、ピン3の断面の全領域をAc 3 変態点以上の温度に加熱する場合に比較して 、焼入れ第1工程S11Aにおける加熱時間を短縮 ることができて、加熱に費やされるエネル ーも節約することができる。

 図示の実施形態はあくまでも例示であり、 発明の技術範囲を限定する趣旨の記述では いことを付記する。
 例えば、図示の実施形態では、建設機械の 限軌道帯用10の大型ピン3を例にとって図示 実施形態を説明したが、小型、中型のピン も適用することが可能である。さらには、 限軌道帯用ピン以外の円柱状部品の熱処理 も適用することが可能である。

本発明の第1実施形態に係る円柱状部品 の熱処理の工程図。 本発明の第1実施形態における各工程( 造プロセス)における金属組織や硬さ分布を 従来技術に対比させて模式的に示した比較 。 本発明の第1実施形態で焼入れ第1工程 施されたピンの断面における硬さ分布を示 図。 本発明の第1実施形態で焼入れ第2工程 施されたピンの断面における硬さ分布を示 図。 本発明の第1実施形態で低温焼もどし工 程を施されたピンの断面における硬さ分布を 示す図。 本発明の実施形態と従来技術の熱処理 程後におけるピンの表面残留応力の測定結 を比較して示す図。 本発明の実施形態と従来技術の熱処理 程後におけるピンの曲げ強度の測定結果を 較して示す図。 本発明の第2実施形態に係る円柱状部品 の熱処理の工程図。 本発明の第2実施形態における各工程( 造プロセス)における金属組織や硬さ分布を 従来技術に対比させて模式的に示した比較 。 本発明の第2実施形態で焼入れ第1工程 施されたピンの断面における硬さ分布を示 図。 本発明の第2実施形態で焼入れ第2工程 施されたピンの断面における硬さ分布を示 図。 本発明の第2実施形態で低温焼もどし 程を施されたピンの断面における硬さ分布 示す図。 建設機械の無限軌道帯(履帯)の斜視図 建設機械の無限軌道帯(履帯)の構成要 の分解斜視図。 無限軌道帯(履帯)のピンの斜視図。 熱処理の対象であるピンの素材の組成 表の一例を示す図。 従来技術における素地調質焼入れ後の ピンの断面における硬さ分布を示す図。 従来技術における素地調質高温焼もど し後のピンの断面における硬さ分布を示す図 。 従来技術における高周波焼入れ後のピ ンの断面における硬さ分布を示す図。 従来技術における低温焼もどし後のピ ンの断面における硬さ分布を示す図。

符号の説明

1・・・リンク
2・・・履板
3・・・円柱状部材(履帯用ピン)
4・・・ブッシュ
20・・・全体加熱焼入れ装置
30・・・部分加熱焼入れ装置
31・・・外周表面部
31f・・・外周表面
32・・・芯部
40・・・低温焼もどし装置