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Patent Searching and Data


Title:
METHOD FOR PRODUCTION OF BIOCOMPATIBLE IMPLANT
Document Type and Number:
WIPO Patent Application WO/2008/143219
Kind Code:
A1
Abstract:
A biocompatible implant is produced by forming a titanium oxide film on the surface of a base material by a thermal treatment and irradiating the titanium oxide film with ultraviolet ray. In the method, the titanium oxide film may be produced by heating a base material comprising metal titanium or a titanium alloy in an oxidizable gas. Alternatively, the titanium oxide film may be produced by a sol-gel processing involving applying a solution containing a titanium compound on the surface of the base material and heating the base material. It becomes possible to provide a method for producing a biocompatible implant having a titanium oxide film excellent in a hydroxyapatite-forming ability.

Inventors:
HAYAKAWA SATOSHI (JP)
OSAKA AKIYOSHI (JP)
TSURU KANJI (JP)
SHOZUI TETSUYA (JP)
Application Number:
PCT/JP2008/059149
Publication Date:
November 27, 2008
Filing Date:
May 19, 2008
Export Citation:
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Assignee:
UNIV OKAYAMA NAT UNIV CORP (JP)
HAYAKAWA SATOSHI (JP)
OSAKA AKIYOSHI (JP)
TSURU KANJI (JP)
SHOZUI TETSUYA (JP)
International Classes:
A61L27/00
Domestic Patent References:
WO1995013100A11995-05-18
Foreign References:
JP2003235954A2003-08-26
JP2006075500A2006-03-23
Other References:
LIU X. ET AL.: "Light-induced bioactive TiO2 surface", APPLIED PHYSICS LETTERS, vol. 88, no. 1, 2006, pages 013905-1 - 013905-3, XP012080436
CHU P.K.: "Plasma-Treated Biomaterials", IEEE TRANSACTIONS ON PLASMA SCIENCE, vol. 35, no. 2, April 2007 (2007-04-01), pages 181 - 187, XP011176834
WANG X.X. ET AL.: "A comparative study of in vitro apatite deposition on heat-, H2O2-, and NaOH-treated titanium surfaces", JOURNAL OF BIOMEDICAL MATERIALS RESEARCH, vol. 54, no. 2, 2001, pages 172 - 178, XP008124260
Attorney, Agent or Firm:
NAKATSUKASA, Shigeki (4-9-1 Ima,Okayama-sh, Okayama 75, JP)
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Claims:
 基材を熱処理することによってその表面に酸化チタン皮膜を形成してから、該酸化チタン皮膜に紫外線を照射することを特徴とする生体親和性インプラントの製造方法。
 前記熱処理の温度が250~790℃である請求項1記載の生体親和性インプラントの製造方法。
 前記酸化チタン皮膜の厚さが30~1500nmである請求項1又は2記載の生体親和性インプラントの製造方法。
 250~420nmの波長の紫外線の照射量が1J/cm 2 以上である請求項1~3のいずれか記載の生体親和性インプラントの製造方法。
 水に対する静的接触角が5度以下である請求項1~4のいずれか記載の生体親和性インプラントの製造方法。
 チタン金属又はチタン合金からなる基材を酸化可能気体中で加熱して酸化チタン皮膜を形成する請求項1~5のいずれか記載の生体親和性インプラントの製造方法。
 前記熱処理の温度が420~790℃である請求項6記載の生体親和性インプラントの製造方法。
 前記酸化チタン皮膜がルチル型結晶を含む請求項6又は7記載の生体親和性インプラントの製造方法。
 前記基材の表面にチタン化合物を含有する液を塗布してから熱処理して、ゾル-ゲル法によって酸化チタン皮膜を形成する請求項1~5のいずれか記載の生体親和性インプラントの製造方法。
 前記酸化チタン皮膜がアナターゼ型結晶を含む請求項9記載の生体親和性インプラントの製造方法。
 前記基材がステンレス鋼、アルミナ及びソーダライムガラスからなる群から選択される1種である請求項9又は10記載の生体親和性インプラントの製造方法。
 
 
Description:
生体親和性インプラントの製造 法

 本発明は、基材の表面に酸化チタン皮膜 有する生体親和性インプラントの製造方法 関する。

 近年、金属製のインプラントが、人工骨 人工歯根など、整形外科や歯科の領域にお て広く使用されるようになってきている。 えば、変形性関節症や関節リウマチにより 節の機能を失った場合に、人工関節への置 によりその機能を再獲得する治療が一般的 なっている。

 人工関節の骨への固定方法としては、現 主に二種類の方法が用いられている。一つ 、骨セメントと呼ばれる接着剤を骨と人工 節の隙間に充填し、固定する手法である。 セメントは術中に硬化するために、術後早 からのリハビリの開始が可能になる。しか ながら、骨セメントの充填時に骨髄内へ過 の圧迫を生じたためにショック症状や血圧 下を来す危険性が報告されているために、 の利用は年々減少傾向を示している。もう つの方法は、セメントレス固定と呼ばれて る骨セメントを用いない固定方法であり、 えば人工関節の表面に作られた多孔質部へ 周辺骨の侵入による機械的なアンカー効果 固定するような方法である。この方法は、 セメントを用いることによる危険性を回避 きることから症例が急増している。しかし がら、人工関節が骨に固定されるのに要す 時間は、患者の骨の成長速度に依存するた に、患者に長期間の安静やリハビリテーシ ンが求められる。

 上記セメントレス固定を採用した際の安 期間やリハビリテーション期間を短縮する めに、人工関節に骨伝導性を付与する方法 これまでにいくつか検討されている。その つは、骨類似成分であるハイドロキシアパ イトを高温で溶射し、人工関節の表面に骨 導性を付与する手法であり、既に実用化さ ている。しかしながら、この方法には、溶 のための大がかりな設備が必要なこと、溶 されるアパタイトが高温にさらされるため 変性するおそれがあること、形成されたア タイト層が剥離するおそれがある等の問題 があるとされている。

 特許文献1には、チタンを含有する金属基 材と、該金属基材の表面に設けられた金属酸 化物層とを備え、該金属酸化物層の少なくと も表面にTiOHからなる化学種を有する骨伝導 生体材料が記載されている。このような化 種を表面に有する骨伝導性生体材料は、チ ンを含有する金属基材を1000℃以下の温度で 処理して得られたチタン酸化物層を温度100 以上、圧力0.1MPa以上の条件で水熱処理する とで形成される。このとき、熱処理によっ 形成される金属酸化物層の好適な厚さは3~10 μm程度である。そして、このような構成とす ることによって骨伝導性の良好な生体材料が 提供される。例えば、特許文献1の実施例1に いては、Ti-29Nb-13Ta-4.6Zr合金に対して、800℃ 1時間熱処理をして約5μmの厚さの金属酸化 層を形成し、それをリン酸緩衝液に浸漬し 120℃、0.2MPaの条件で水熱処理した試料が、 似体液中でアパタイト結晶を形成したこと 記載されている。しかしながら、800℃もの 温で長時間加熱したのでは、金属基材の強 の低下が避けられない。また、酸化チタン 膜が厚すぎると、皮膜の剥離も生じやすく る。一方、上記水熱処理を行わずに金属酸 物層を形成しただけではアパタイト結晶が 成されないことが、特許文献1の比較例2に記 載されている。

 非特許文献1には、空気中で400℃、1時間 処理することによって表面に酸化物層が形 されたチタン金属の平板試料を擬似体液に 漬してアパタイトの形成状態を観察した結 が示されている。このとき、擬似体液を入 た容器はその底面が上に凸の曲面を有する リスチレン製の容器であり、その上に試料 平板が載置される形で平板試料が浸漬され 。すると、試料の上面にはアパタイトが形 せず、下面(容器の底に接触する側)にのみア パタイトの形成が認められた。試料の下面は 容器の曲面に接しているのでその隙間は場所 によって異なるが、概ね100μm程度の隙間を有 するところにおいてアパタイトの形成が容易 であった。すなわち、アパタイトの形成が、 限られた環境においてのみ可能であることが 示されている。

 金属などの基材に、アルコキシチタンな の有機チタン化合物の溶液を塗布し、熱処 する、いわゆるゾル-ゲル法によって酸化チ タン皮膜を形成することができる(例えば非 許文献2参照)。この場合に形成される酸化チ タン皮膜の表面には、擬似体液中でヒドロキ シアパタイトが形成されることが知られてい る。しかしながら、基材によってはこの方法 によってヒドロキシアパタイトが形成されな い場合があった。例えば、基材がステンレス 鋼、アルミナあるいはソーダライムガラスで ある場合には、ゾル-ゲル法で得られた酸化 タン皮膜の表面にヒドロキシアパタイトが 成されないことが知られている(非特許文献3 )。これは、これらの基材から酸化チタン皮 への拡散成分がヒドロキシアパタイトの形 を阻害するためと考えられている。例えば ステンレス鋼は腐食に強く、人体に対して 較的安全で、しかも加工が容易なので、骨 導性の良い表面処理が強く望まれている。

 非特許文献4には、酸化チタンの粉末を圧 縮成形した成形品に水銀ランプの光を照射し てから、1.5倍のイオン濃度の擬似体液に浸漬 した結果が示されている。その結果、光照射 した面には、ヒドロキシアパタイトが形成さ れ、光照射しなかった面にはヒドロキシアパ タイトが形成されなかったことが報告されて いる。しかしながら、その実施例によれば、 1.5倍のイオン濃度の擬似体液を用いても、5 間ではヒドロキシアパタイトは形成されず 10日間でようやくヒドロキシアパタイトが形 成されるものであって、そのアパタイト形成 能は必ずしも十分とはいえないものであった 。

 非特許文献5には、アナターゼ相を80%、ル チル相を20%含む30nmの酸化チタン粉末を、チ ン合金基材上にプラズマスプレーコーティ グし、その表面に紫外線照射してから、擬 体液に浸漬した結果が示されている。それ よれば、紫外線照射しなかった場合にはア タイトが形成されなかったけれども、紫外 照射することによってアパタイトが形成さ ることが記載されている。しかしながら、12 5Wの高圧水銀ランプで24時間の紫外線照射を てもアパタイトの形成には4週間もの長時間 必要であり、そのアパタイト形成能は必ず も十分とはいえないものであった。また、 ラズマスプレーコーティングは、大掛かり 設備が必要であるし、立体的な成形品に対 て均一な膜厚でコーティングするのが困難 ある。

 非特許文献6には、チタン金属基材の表面 をマイクロ・アーク酸化してから、擬似体液 中で紫外線照射することによって、その表面 にアパタイトを形成することが記載されてい る。ここで、前記マイクロ-アーク酸化は、 タン金属を陽極として電解液に浸漬し、電 を印加することによってチタン金属表面を 化して酸化チタン皮膜を形成する方法であ 。擬似体液中において、アナターゼ結晶を 有する酸化チタン皮膜を1000Wの水銀ランプで 2時間紫外線照射することによってアパタイ が形成されたことが記載されている。しか ながら、擬似体液内で紫外線照射してアパ イトを形成しているので、生体外で予めア タイト形成させたものを移植するような使 法に限定される。すなわち、体内環境下で アパタイトの析出に伴う骨との融合を想定 ていない。また、多孔質の酸化チタン皮膜 形成されるので、成形後の基材の表面形態 変化するし、インプラントの外観が損なわ 、金属光沢も失われる。

 特許文献2には、チタン又はチタン合金か らなるインプラントの表面を水酸化してから 紫外線照射することによって、骨一体化特性 を改良することが記載されている。ここで、 インプラント表面の水酸化は、チタン又はチ タン合金からなるインプラントを酸でエッチ ングすることによって得ており、酸化チタン 皮膜が積極的に形成されているわけではない 。また、紫外線は、有機不純物を分解除去す るために照射されている。

特開2003-235954号公報

特表2005-505352号公報 Xiao-Xiang Wang et al、「A comparative studyof in vitro apatite depositionon heat-, H2O2-, and NaOH -treated titanium」、Journal of Biomedical Materials  Research、2001年、54巻、p.172-178 横尾俊信 他「ゾル・ゲル法により調製 たTiO2薄膜の光電気化学的性質」、窯業協会 誌、1987年、第95巻、p.150-155 T. Shozui et al、「In Vitro Apatite-FormingAbil ity of Titania Films Depends on Their Substrates」 KeyEngineering Materials、2007年、第330-332巻、p.633 -636、TransTech Publications、Switzerland Toshihiro Kasuga et al、「Apatite formation onT iO2 in simulated body fluid」、Journal ofCrystal Gro wth、2002年、p.235-240 Xuanyong Liu et al、「Light-induced bioactiveTiO 2 surface」、Applied Physics Letters、2006年、第88 、013905 Yong Han et al、「Photoexcited formation ofborn  apatite-like coatings on micro-arc oxidized titanium 、Journal of Biomedical Materials Research、2004年 71巻A、p.608-614

 本発明は、上記課題を解決するためにな れたものであり、ヒドロキシアパタイトの 成能力に優れた酸化チタン皮膜を有する生 親和性インプラントの製造方法を提供する とを目的とするものである。

 上記課題は、基材を熱処理することによっ その表面に酸化チタン皮膜を形成してから 該酸化チタン皮膜に紫外線を照射すること 特徴とする生体親和性インプラントの製造 法を提供することによって解決される。こ とき、前記熱処理の温度が250~790℃であるこ とが好ましい。前記酸化チタン皮膜の厚さが 30~1500nmであることも好ましい。250~420nmの波長 の紫外線の照射量が1J/cm 2 以上であることも好ましい。また、水に対す る静的接触角が5度以下であることも好まし 。

 上記生体親和性インプラントの製造方法 おいて、チタン金属又はチタン合金からな 基材を酸化可能気体中で加熱して酸化チタ 皮膜を形成することが好適な実施態様であ 。このとき、前記熱処理の温度が420~790℃で あることが好ましく、前記酸化チタン皮膜が ルチル型結晶を含むことも好ましい。

 上記生体親和性インプラントの製造方法 おいて、前記基材の表面にチタン化合物を 有する液を塗布してから熱処理して、ゾル- ゲル法によって酸化チタン皮膜を形成するこ とが好適な実施態様である。このとき、前記 酸化チタン皮膜がアナターゼ型結晶を含むこ とが好ましく、前記基材がステンレス鋼、ア ルミナ及びソーダライムガラスからなる群か ら選択される1種であることも好ましい。

 本発明の製造方法によれば、ヒドロキシ パタイトの形成能に優れた酸化チタン皮膜 有する生体親和性インプラントが提供され 。

図1は、実施例1における紫外線照射後 似体液浸漬前の試片の薄膜X線回折測定結果 ある。 図2は、実施例1における紫外線照射後 似体液7日間浸漬後の試片の薄膜X線回折測定 結果である。 図3は、実施例1における紫外線未照射 擬似体液浸漬7日間浸漬後の試片の薄膜X線回 折測定結果である。 図4は、実施例2における基材がチタン 属で紫外線未照射の試片(「C5Ti」)の薄膜X線 折測定結果である。 図5は、実施例2における基材がチタン 属で紫外線照射した試片(「C5Ti_UV」)の薄膜X 回折測定結果である。 図6は、実施例2における基材がステン ス鋼で紫外線未照射の試片(「C5SUS」)の薄膜X 線回折測定結果である。 図7は、実施例2における基材がステン ス鋼で紫外線照射した試片(「C5SUS_UV」)の薄 X線回折測定結果である。

 本発明の生体親和性インプラントの製造 法は、基材を熱処理することによってその 面に酸化チタン皮膜を形成してから、該酸 チタン皮膜に紫外線を照射する方法である これによって、酸化チタン皮膜の表面にヒ ロキシアパタイトが形成しやすくなり、生 親和性に優れたインプラントを提供するこ ができる。

 非特許文献4~6に示されているように、酸 チタンに紫外線を照射することで、アパタ ト形成能が改善されることは既に知られて る。これは光照射によって酸化チタンの表 が光励起されてアパタイト形成の容易な表 状態になるためであると考えられている。 かしながら、そのアパタイト形成能は未だ 分ではなく、さらなる改善が望まれている 本発明者らが検討したところ、基材を熱処 することによってその表面に酸化チタン皮 を形成した場合に、紫外線照射によるアパ イト形成能が大幅に改善されることが明ら になった。その理由としては、アパタイト 形成に有利なTi-OH基量の増加などが考えら る。

 以下、本発明を詳細に説明する。本発明 用いられる基材を構成する材料は特に限定 れず、金属、ガラス、セラミックスなどの 種材料を用いることができる。後述するよ に、基材表面を酸化して酸化チタン皮膜を 成する場合には、チタン金属又はチタン合 からなる基材が用いられる。一方、チタン 合物を含有する液を塗布してから熱処理し 酸化チタン皮膜を形成する場合には、基材 特に限定されない。本発明で用いられる基 の形態も特に限定されず、用途に応じた様 な形態の成形品を基材として用いることが きる。

 本発明の製造方法においては、酸化チタ 皮膜が、基材を熱処理することによってそ 表面に形成されたものであることが重要で る。熱処理に伴って形成された酸化チタン 皮膜であることによって、紫外線照射によ アパタイト形成能の改善効果が顕著である また、基材とともに熱処理されることによ て、酸化チタン皮膜の基材への密着性も良 となる。ここで、熱処理によって酸化チタ 皮膜を形成する方法としては、金属基材を 化してその表面に酸化チタン皮膜を形成す 方法や、チタン化合物を含有する液を塗布 てから熱処理する方法が採用される。熱処 の温度は250~790℃であることが好ましい。加 熱温度が250℃未満では酸化チタン皮膜が十分 に形成されないし、紫外線を照射してもアパ タイト形成能が改善されないおそれがある。 熱処理の温度は、より好適には350℃以上であ り、さらに好適には420℃以上である。一方、 加熱温度が790℃を超えたのでは、結晶が成長 しすぎて皮膜が脆くなったり、結晶構造がア パタイト形成に適さないものに変わったりす るおそれがある。熱処理の温度は、より好適 には750℃以下であり、さらに好適には650℃以 下である。

 基材の表面に形成される酸化チタン皮膜 厚さは30nm以上であることが好ましい。酸化 チタン皮膜の厚みが30nm未満である場合には アパタイト形成能が不十分になるおそれが り、より好適には50nm以上であり、さらに好 には80nm以上である。一方、酸化チタン皮膜 の厚さは1500nm以下であることが好ましい。酸 化チタン皮膜の厚さが1500nmを超える場合には 、膜が剥離しやすくなるおそれがあり、より 好適には1000nm以下であり、さらに好適には500 nm以下である。

 酸化チタン皮膜を形成する好適な第一の 法は、チタン金属又はチタン合金からなる 材を酸化可能気体中で加熱する方法である まず、この方法について以下説明する。こ ときの基材はチタン金属又はチタン合金か なるものである。チタン金属を基材として いる場合には、得られるインプラントがア タイト形成能に優れるけれども強度的には 十分な場合があるので、大きな荷重のかか ない部位、例えば、人工歯根などに好適に いられる。一方、チタン以外の金属を含有 るチタン合金はアパタイト形成能が低下す 場合があるけれども、高強度のインプラン を得ることができるので、人工関節、内固 材、髄内釘など、大きな荷重がかかって強 が要求される部位に好適に使用される。

 第一の方法で使用されるチタン合金は、 タンを含有するものであればよく、特に限 されないが、チタン含有量が20重量%である とが好ましく、50重量%以上であることがよ 好ましく、70重量%以上であることがさらに ましい。チタン合金に配合されるチタン以 の金属としては、アルミニウム、バナジウ 、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、パラ ウム、モリブデンなどが例示される。現在 医療用に使用されるチタン合金の中で最も 般的なTi-6Al-4V(アルミニウム6重量%とバナジ ム4重量%を含有し残余がチタンであるチタ 合金)などを用いることができる。チタン合 に配合されるチタン以外の金属の含有量が0 .1重量%未満である場合、用途によっては強度 が不十分になるおそれがあり、より好適には 1重量%以上(このとき、チタンの含有量は99重 %以下)であり、さらに好適には5重量%以上( タンの含有量は95重量%以下)であり、特に好 には10重量%以上(チタンの含有量は90重量%以 下)である。一方、チタン以外の金属の含有 が50重量%を超える場合、アパタイト形成能 低下するおそれがあり、より好適には40重量 %以下(チタンの含有量は60重量%以上)であり、 さらに好適には30重量%以下(チタンの含有量 70重量%以上)である。

 インプラントは、様々な寸法や形状のも が求められる場合が多く、チタン金属又は タン合金は予め所望の形状に成形される。 形方法は特に限定されず、鋳造、鍛造、削 出しなどによって成形することができる。 のとき、骨組織との接合部位においてその 面に凹凸を形成してもよい。第一の方法に れば、立体的な成形品の表面に対して均一 膜厚で酸化チタン皮膜を形成するのがきわ て容易である。

 このように成形してから、酸化可能気体 で加熱してその表面に酸化チタン皮膜を形 する。酸化可能気体としては、その雰囲気 で基材の表面のチタン元素を酸化して酸化 タン皮膜を形成させることができるもので れば特に限定されない。具体的には、大気 など、酸素を含有する雰囲気中で加熱する とが好ましい。このような方法による酸化 タン皮膜の形成操作はきわめて容易である また、形成される酸化チタン皮膜は、熱処 によって基材に含まれるチタン原子が酸化 れたものであり、皮膜の基材への密着性が 好である。また、基材に含まれる金属原子 酸化されただけのものなので、通常、生体 対する安全性も高い。

 第一の方法において、酸化可能気体中で 熱する際の加熱温度は420~790℃であることが 好ましい。加熱温度が420℃未満である場合に は、酸化物皮膜の形成が不十分になり、アパ タイト形成能が低下するおそれがある。加熱 温度は、より好適には450℃以上である。一方 、加熱温度が790℃を超える場合には、基材の チタン金属又はチタン合金の結晶構造が変化 してインプラントの機械的強度が低下するお それがある。また、形成される酸化チタン皮 膜が厚くなりすぎたり結晶成長が過度になっ たりして、結果として皮膜が脆くなったり剥 離しやすくなったりするおそれがある。加熱 温度は、より好適には750℃以下でありさらに 好適には650℃以下である。加熱時間は、加熱 温度との関係で適当に設定されるが、通常1 ~24時間程度である。形成された酸化チタン 膜の厚さは前述の通りであり、30nm以上であ ことが好ましい。加熱温度が高いほど、ま 、加熱時間が長いほど、形成される酸化チ ン皮膜は厚くなる。

 第一の方法によって形成された酸化チタ 皮膜がルチル型結晶を含むことが好ましい 後の実施例にも示されているように、熱処 することによって形成された酸化チタン皮 について薄膜X線回折試験を行ったところ、 ルチル型結晶に由来する回折ピークは観察さ れたが、アナターゼ型結晶に由来する回折ピ ークは観察されなかった。したがって、酸化 チタン皮膜にアナターゼ型結晶が含まれてい るとしても多くないと推定され、基材中のチ タン元素を酸化して酸化チタン皮膜を形成す る場合には、直接ルチル型結晶が形成されや すいようである。したがって、形成された酸 化チタン皮膜において、ルチル型結晶に由来 する回折ピークが、アナターゼ型結晶に由来 する回折ピークよりも大きいことが好ましく 、通常の薄膜X線回折測定においてルチル型 晶に由来する回折ピークのみが観察され、 ナターゼ型結晶に由来する回折ピークが観 されないことがより好ましい。従来、アナ ーゼ型結晶の方がルチル型結晶よりもアパ イト形成が容易であることが知られている 、本発明の製造方法においては、ルチル型 晶を含む酸化チタン皮膜であってもアパタ ト形成能に優れており、この点でも意義が きい。形成される酸化チタン皮膜中に、基 に含まれていた、チタン以外の金属元素が まれていてもよい。

 酸化チタン皮膜を形成する好適な第二の 法は、基材の表面にチタン化合物を含有す 液を塗布してから熱処理して、ゾル-ゲル法 によって酸化チタン皮膜を形成する方法であ る。次に、この方法について以下説明する。 このときの基材は、熱処理に耐えるものであ ればよく、特に限定されない。金属、ガラス 、セラミックスなど、用途に応じて各種の基 材を用いることができる。また、基材の形態 も特に限定されず、用途に応じた様々な形態 の成形品を基材として用いることができる。 第二の方法によれば、立体的な成形品の表面 に対して均一な膜厚で酸化チタン皮膜を形成 するのが容易である。

 このときに用いられる基材が金属である とが、加工性や強度の面から好ましい。金 として、チタン金属又はチタン合金を用い 場合については、前述の通りである。それ 外にも、ステンレス鋼、タンタル、ジルコ ウム、ニッケル、亜鉛、コバルト-クロム合 金などの金属を用いることができる。本発明 のインプラントの製造方法によれば、アパタ イト形成の可能な基材の種類を拡大すること が可能である。例えば、非特許文献2にも記 されているように、ゾル-ゲル法によって酸 チタン皮膜を形成する際の基材がステンレ 鋼である場合には、アパタイト形成が困難 あることが従来知られているが、このよう 基材であっても本発明の方法によればアパ イト形成能を改善することができて有用で る。この場合、酸化チタン皮膜を熱処理し 形成する際に、皮膜内に鉄原子などの基材 来の成分が拡散した場合であっても、アパ イト形成が可能になると考えられる。すな ち、酸化チタン皮膜が、チタンと酸素以外 元素を含むものであっても、アパタイト形 能が阻害されにくいと考えられる。ステン ス鋼は、腐食に強く、人体に対して比較的 全で、しかも加工が容易なので、骨伝導性 良い表面処理ができることの意義は大きい ここで、ステンレス鋼とは、クロムを含有 る鉄鋼であり、ニッケル、マンガン、モリ デンなどを含んでいてもよい。代表的にはS US201、SUS202、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS305 SUS316、SUS317などが例示される。

 また、基材としてガラスを用いることも き、ソーダライムガラス、シリカガラス、 ウ酸塩系ガラス、チタン酸塩系ガラスなど 用いることができる。非特許文献2にも記載 されているように、ゾル-ゲル法によって酸 チタン皮膜を形成する際の基材が、ソーダ イムガラスである場合には、アパタイト形 が困難であることが従来知られているが、 のような基材であっても本発明の方法によ ばアパタイト形成能を改善することができ 有用である。また、基材としてセラミック を用いることもでき、アルミナ、シリカ、 化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素などを いることができる。非特許文献2にも記載さ ているように、ゾル-ゲル法によって酸化チ タン皮膜を形成する際の基材が、アルミナで ある場合には、アパタイト形成が困難である ことが従来知られているが、このような基材 であっても本発明の方法によればアパタイト 形成能を改善することができて有用である。

 第二の方法において基材の表面に塗布さ る液は、チタン化合物を含有する液であっ 、熱処理することで酸化チタン皮膜を形成 きるものであれば特に限定されない。酸化 タン微粒子が分散したゾルを使用してもよ し、加水分解してチタン含有ゾルを形成す ことの可能な有機チタン化合物を含有する 液を使用してもよい。

 なかでも、基材に塗布されるコーティング が、下記式(1)で示されるチタンアルコキシ 、その加水分解物及びその縮合物からなる から選ばれる少なくとも一種類と水と有機 媒とを含有する溶液又は分散液であること 好適である。
 R 1 n Ti(OR 2 ) 4-n     (1)
(式中、R 1 は同一でも異なっていてもよく炭素数1~30の 機基であり、R 2 は同一でも異なっていてもよく炭素数1~9のア ルキル基を持つ有機基であり、nは0~2の整数 ある。)

 チタンアルコキシドとしては、取扱いの やすさから、式(1)におけるnが0のもの、す わちオルトチタン酸テトラアルキルが好ま く使用される。具体的には、オルトチタン テトラメチル、オルトチタン酸テトラエチ 、オルトチタン酸テトライソプロピル、オ トチタン酸テトラn-プロピル、オルトチタン 酸テトラn-ブチルなどが好適なものとして例 される。このとき、チタンアルコキシドに えて、チタンアルコキシドを加水分解する めの水を含有することが必要であるし、水 チタンアルコキシドの双方を溶解すること 可能な有機溶媒を含有することも必要であ 。

 チタンアルコキシド1モルに対する水の含 有量は0.2~10モルであることが好ましい。より 好適には0.5モル以上であり、さらに好適には 1モル以上である。一方より好適には6モル以 であり、さらに好適には4モル以下である。 水の量が少なすぎる場合には加水分解反応速 度が遅くなりすぎるおそれがあり、水の量が 多すぎる場合には加水分解反応が急激に進行 してチタン含有微粒子が凝集するおそれがあ る。ただし、チタンアルコキシドの反応性が 高い場合には、水を含有しないコーティング 液を使用して、周辺環境から水分を吸収して 加水分解することも可能である。

 ここで使用される有機溶媒は極性溶媒で ることが好ましく、アルコール、エーテル ケトンなどを使用することができる。特に ルコールが好適であり、メタノール、エタ ール、イソプロピルアルコール、n-プロピ アルコール、n-ブチルアルコールなどが好適 に使用される。チタンアルコキシド1モルに する有機溶媒の含有量は5~200モルであること が好ましい。より好適には10モル以上であり また100モル以下である。有機溶媒の含有量 少なすぎる場合には、成膜後の酸化チタン 膜にひび割れが生じやすく、均質な塗膜を 成することが困難になるおそれがある。一 、有機溶媒の含有量が多すぎる場合には一 の塗布操作で形成できる塗膜の厚みが小さ なり、生産効率が低下するおそれがある。

 さらに、加水分解反応を円滑に進行させ ために酸又はアルカリからなる加水分解触 を含有することが好ましい。前記触媒が揮 性の酸であることが、形成される酸化チタ 膜中に触媒残渣が残らないので好ましい。 適な酸としては、塩酸、硝酸、酢酸などが 示される。触媒の含有量はチタンアルコキ ド1モルに対して0.02~2モルであることが好ま しい。より好適には0.05モル以上であり、ま 1モル以下である。

 さらに、上記コーティング液が乾燥制御 を含有してもよい。これによって均質な膜 形成しやすくできる場合がある。乾燥制御 としては、コーティング液で主として使用 れる有機溶媒よりも沸点の高い有機溶媒を 用することができ、例えば、ジメチルホル アミド、ジメチルアセトアミド、ジメチル ルホキシドなどを使用することができる。 た、上記コーティング液がカップリング剤 含有してもよい。これによって、基材と酸 チタン皮膜との密着性が改善される場合が る。カップリング剤としては、シランカッ リング剤などを使用することができる。本 明の効果を阻害しない範囲でチタン以外の 属元素を含んでも構わないが、アパタイト 成能の観点からは含まないことが好ましい

 基材に対して前記コーティング液を塗布 る方法は特に限定されない。ディップコー 、スプレー塗布、刷毛塗り、スピンコート どを、基材の形態などに応じて適宜選択す ことができる。中でも複雑な形状の基材に 布する場合には、ディップコートが好適で る。

 コーティング液を塗布した後で、熱処理 施される。処理温度は、好適には250~790℃で ある。250℃以下の熱処理では、有機チタン化 合物の分解が不十分で皮膜中に有機物が残存 するおそれがあるし、形成される皮膜の強度 が不十分になるおそれもある。350℃以上で熱 処理することがより好ましく、420℃以上で熱 処理することがさらに好ましい。一方、加熱 温度が790℃を超えたのでは、結晶が成長しす ぎて皮膜が脆くなったり、アナターゼ型結晶 がルチル型結晶に変わってアパタイト形成性 が低下したりするおそれがある。加熱方法は 特に限定されず、大気中で、オーブンやヒー ターを用いて加熱する方法などが例示される 。

 以上のようにして、酸化チタン皮膜が形 されるが、コーティングしてから熱処理す 操作を少なくとも2回以上繰り返すことが好 ましい。重ね塗りすることによって、均一性 及び密着性に優れた皮膜が形成できる。

 こうして、第二の方法によって形成され 酸化チタン皮膜がアナターゼ型結晶を含む とが好ましい。アナターゼ型結晶の方がル ル型結晶よりもアパタイト形成が容易であ 。したがって、形成された酸化チタン皮膜 おいて、アナターゼ型結晶に由来する回折 ークが、ルチル型結晶に由来する回折ピー よりも大きいことが好ましい。こうして形 された酸化チタン皮膜には、前述のように 材からの拡散成分である、チタン以外の金 元素が含まれることがある。形成された酸 チタン皮膜の厚さは前述の通りであり、30nm 以上であることが好ましい。酸化チタン皮膜 の暑さは、コーティング液のチタン化合物濃 度や塗布回数によって調整することができる 。

 以上のようにして、第一の方法、第二の方 などによって形成された形成された酸化チ ン皮膜に対して、紫外線が照射される。光 は、紫外線を発生するものであれば特に限 されず、高圧水銀ランプ、キセノンランプ LEDなどを用いることができる。紫外線の照 量は、250~420nmの波長の紫外線の照射量が1J/c m 2 以上であることが好ましい。より好適には5J/ cm 2 以上であり、さらに好適には20J/cm 2 以上であり、特に好適には50J/cm 2 以上である。一方、生産性の観点からは、通 常、10000J/cm 2 以下である。また、紫外線の波長は、より好 適には300nm以上であり、さらに好適には350nm 上である。一方紫外線の波長は、より好適 は400nm以下である。このような好適な波長範 囲において、上記好適な照射量を満たすこと が好ましい。

 酸化チタン皮膜に対して紫外線照射する とによって、水に対する静的接触角が低下 る。紫外線照射後の酸化チタン皮膜の静的 触角は5度以下であることが好ましい。すな わち極めて親水性の表面を有することが好ま しい。一方、紫外線照射前の酸化チタン皮膜 の静的接触角は10度以上であることが好まし 、15度以上であることがより好ましく、20度 以上であることがさらに好ましい。紫外線照 射前後で静的接触角が大きく低下する場合に 、アパタイト形成能が容易になる傾向が認め られた。一方、紫外線照射前の酸化チタン皮 膜の静的接触角は、通常60度以下である。

 以上のようにして得られたインプラント 、擬似体液中でのアパタイト形成能に優れ おり、比較的短時間でその表面にヒドロキ アパタイトが形成され、骨親和性に優れて る。また、こうして得られたインプラント 、特殊な材料を使用することなく安全性に 優れているので、整形外科用途あるいは歯 用途などにおいて広く使用することができ 。例えば、人工関節、人工歯根、内固定材 髄内釘などの用途に好適に使用される。そ て骨セメントを使用しなくても比較的短期 で骨に接着できると期待される。

 以下、実施例を使用して本発明をさらに 細に説明する。本実施例における各試験方 は以下の通りである。

(1)酸化チタン皮膜の膜厚
 酸化チタン皮膜の膜厚は、試片の断面を、 本電子株式会社製走査型電子顕微鏡「JSM-630 0」(20kV、300mA)で観察することによって得られ たものである。なお、400℃以下で熱処理した 試片については、上記方法で観察することが 困難であったために、酸化チタンの屈折率を 考慮し、干渉色から大まかな厚みを得て、い ずれも30nm未満であることを確認した。

(2)酸化チタン皮膜表面の静的接触角
 協和界面科学株式会社製自動接触角計「CA-V 」を使用し、液滴法により蒸留水に対する静 的接触角を測定した。1μlの蒸留水を試料表 に滴下し、着滴した後に自動で静的接触角 測定、算出した。ここで、算出に際してはθ /2法を採用し、液滴(の断面)が球(円)の一部で あると仮定して、幾何の定理に従い、静的接 触角θを算出した。画像処理によって液滴の 径(2r)と高さ(h)を求め、下記式に従ってθを めた。ここでθ * は、液滴の頂点と液滴表面が試料基板に接触 する点とを結ぶ直線が基板となす角度である 。
  tanθ * =h/r
  θ=2×θ *

(3)酸化チタン皮膜のX線回折測定
 株式会社リガク製X線回折装置「RINT2000」に (株)リガク製薄膜アタッチメント(回転試料 )を装着して測定した。入射角1°に固定した 薄膜アタッチメントを取り付けたX線回折装 (ターゲットCuKα 1 :1.5406Å)で、出力40kV、200mAの条件で測定を行 た。測定範囲は、2θ角で20~50°とした。

実施例1(加熱酸化による酸化チタン皮膜の形 )
 片面鏡面研磨された金属チタン試片(有限会 社山本理化製:10×10×2mm)を、大気中において10 0~800℃で1時間熱処理した後、紫外線を1時間 射した。ここで、用いた紫外線照射装置は セン特殊光源株式会社製「HLR100T-2」であり ランプ電源116V、ランプ電流0.92Aの高圧水銀 ンプを備えたものである。光源から20cmの位 にサンプルを配置して照射した。この位置 おける照度は、365nmを中心波長として約50nm 幅で感度を有するセン特殊光源株式会社製 度計「25・36-3」で測定したところ140mW/cm 2 であった。したがって、1時間の照射線量は50 4J/cm 2 であった。こうして紫外線照射した試片と紫 外線を照射しなかった試片とを、擬似体液に 36.5℃で7日間浸漬した。擬似体液は、ヒトの 液とほぼ等しい無機イオン濃度を有する液 あり、そのイオン濃度は、Na + が142.0mM(ミリモル/リットル)、K + が5.0mM、Mg 2+ が1.5mM、Ca 2+ が2.5mM、Cl - が147.8mM、HCO 3 - が4.2mM、HPO 4 2- が1.0mM、SO 4 2- が0.5mMであり、36.5℃におけるpHは7.4である。

 熱処理によって形成された酸化チタン皮 の厚みは表1に示されるとおりである。表1 例えば「HT800」は800℃で熱処理した試片とい うことである。紫外線照射前後の水に対する 静的接触角は表1に示されるとおりである。 た、紫外線照射後擬似体液浸漬前の試片の 膜X線回折測定結果を図1に、紫外線照射後擬 似体液7日間浸漬後の試片の薄膜X線回折測定 果を図2に、紫外線未照射で擬似体液浸漬7 間浸漬後の試片の薄膜X線回折測定結果を図3 に、それぞれ示す。図1~3において、「NT」は 処理をしなかった試片を、「UV」は紫外線 射した試片をそれぞれ示す。

 図2からわかるように、500~700℃で熱処理 てから紫外線照射した試片においては、薄 X線回折測定によってアパタイトの形成が確 された。図3に示されるように紫外線照射を しなかった場合には、熱処理の条件にかかわ らずアパタイトは形成されなかった。図1か わかるように、400℃以下で熱処理した試片 ついては、薄膜X線回折測定によってルチル 結晶のピークが観察されず、酸化チタン皮 の厚さも30nm未満であり、実質的に十分な酸 化チタン皮膜が形成されていない。表1に示 れるように、400℃あるいは300℃で熱処理し ものであっても、紫外線照射後には水に対 る静的接触角が大きく減少しており、紫外 照射による酸化チタン表面の改質はなされ いるようである。しかしながら、これらの 面にはアパタイトは形成されなかった。し がって、一定以上の温度での熱処理を経た 化チタン層の形成がアパタイト形成の必須 件であることが示唆された。一方、800℃以 の熱処理ではルチル相に帰属される回折ピ ク強度が強いけれども、擬似体液中でのア タイト形成は確認されなかった。結晶の過 の成長がアパタイト形成を妨げるのかもし ないが、詳細は不明である。なお、熱処理 度が高くなると紫外線照射前に水に対する 的接触角が小さくなる傾向が認められ、そ とアパタイトの形成量の減少との相関も認 られる。したがって、適切な温度範囲で熱 理をしてから紫外線照射することが重要で る。アパタイトに帰属されるX線回折ピーク 強度から判断して、500℃付近での熱処理が 適であると考えられる。

実施例2(ゾル-ゲル法による酸化チタン皮膜の 形成)
 片面鏡面研磨された金属チタン試片(有限会 社山本理化製:10×10×2mm)及び片面鏡面研磨さ たSUS316Lステンレス鋼(有限会社山本理化製:10 ×10×2mm)を基板として用いた。アセトン中で5 間の超音波洗浄を3回行い、基板を洗浄した 。Ti(OC 2 H 5 ) 4 :C 2 H 5 OH:H 2 O:HNO 3 =1:50:2:0.2(モル濃度比)のゾル溶液を調製し、 き上げ速度6cm/分で、前記基板上にゾル溶液 コーティングした後、乾燥し、500℃で10分 熱処理した。この操作を5回繰り返し、酸化 タン皮膜が表面に形成された試片を得た。 られた酸化チタン皮膜に、実施例1と同様に 紫外線を照射した。こうして紫外線照射した 試片と紫外線を照射しなかった試片とを、実 施例1と同様に擬似体液に浸漬した。

 5回のコーティングによって形成された酸 化チタン皮膜の厚みは表1に示されるとおり ある。表1中、チタン金属基板に5回コーティ ングを施した試片を「C5Ti」と、ステンレス 基板に5回コーティングを施した試片を「C5SU S」と、それぞれ表記する。紫外線照射前後 水に対する静的接触角は表1に示されるとお である。また、基材がチタン金属で紫外線 照射の試片(「C5Ti」)の薄膜X線回折測定結果 を図4に、基材がチタン金属で紫外線照射し 試片(「C5Ti_UV」)の薄膜X線回折測定結果を図5 に、基材がステンレス鋼で紫外線未照射の試 片(「C5SUS」)の薄膜X線回折測定結果を図6に、 基材がステンレス鋼で紫外線照射した試片( C5SUS_UV」)の薄膜X線回折測定結果を図7に、そ れぞれ示す。図4~7において、「0d」は、擬似 液に浸漬する前の試片であり、「3d」、「5d 」、「7d」は、それぞれ擬似体液に、3日、5 、7日浸漬した試片を示す。

 図4~7において、擬似体液に浸漬する前の 片の薄膜X線回折測定結果からわかるように 、基材上に形成された酸化チタン皮膜はアナ ターゼ型結晶を含むことがわかる。基材がチ タン金属である場合には、紫外線を照射しな くても(図4)、紫外線を照射しても(図5)、同様 にアパタイトが形成される。これに対して、 基材がステンレス鋼である場合には、紫外線 を照射しない場合にはアパタイトが形成され ず(図6)、紫外線を照射することによってアパ タイトが形成されることがわかる(図7)。ゾル -ゲル法で形成された酸化チタン皮膜は、基 の種類によってアパタイト形成能が異なる 、従来困難であるとされていた基材を用い 場合であってもアパタイト形成が可能とな 、基材の選択の幅を広げることができた。