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Title:
COMPOSITION FOR NEUTRALIZING BOTULINUS TOXIN TYPE-A, AND HUMAN ANTI-BOTULINUS TOXIN TYPE-A ANTIBODY
Document Type and Number:
WIPO Patent Application WO/2009/096162
Kind Code:
A1
Abstract:
Disclosed is a means which is effective for botulism diseases and the prevention of the botulism diseases. Specifically disclosed are multiple human anti-botulinus toxin type-A antibodies having different epitopes from one another. Also specifically disclosed is a composition for neutralizing botulinus toxin type-A, which comprises a combination of two or more of the antibodies and which has a high neutralizing activity.

Inventors:
AZUMA MASACHIKA (JP)
TAKAHASHI MOTOHIDE (JP)
KOZAKI SHUNJI (JP)
MUKAMOTO MASAFUMI (JP)
KOHDA TOMOKO (JP)
KUROSAWA GENE (JP)
KUROSAWA YOSHIKAZU (JP)
Application Number:
PCT/JP2009/000250
Publication Date:
August 06, 2009
Filing Date:
January 23, 2009
Export Citation:
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Assignee:
INST ANTIBODIES CO LTD (JP)
JP NAT INST INFECTIOUS DISEASE (JP)
UNIV OSAKA PREFECT PUBLIC CORP (JP)
AZUMA MASACHIKA (JP)
TAKAHASHI MOTOHIDE (JP)
KOZAKI SHUNJI (JP)
MUKAMOTO MASAFUMI (JP)
KOHDA TOMOKO (JP)
KUROSAWA GENE (JP)
KUROSAWA YOSHIKAZU (JP)
International Classes:
C12N15/09; A61K39/395; C07K16/12; C12N1/15; C12N1/19; C12N1/21; C12N5/10; C12P21/08
Domestic Patent References:
WO2007094754A22007-08-23
WO2005016232A22005-02-24
WO2007094754A22007-08-23
WO1997002290A11997-01-23
WO2001062907A12001-08-30
Foreign References:
JP2006311857A2006-11-16
Other References:
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MOTOHIDE TAKAHASHI, KO DOKUSO SEIZAI NO KORITSUTEKI SEIZO HOHO NO KAIHATSU NI KANSURU KENKYU, 2005, pages 1 - 7, XP009149081
MOTOHIDE TAKAHASHI, KO DOKUSO SEIZAI NO KORITSUTEKI SEIZO HOHO NO KAIHATSU NI KANSURU KENKYU, 2005, pages 23 - 26, XP009149082
MOTOHIDE TAKAHASHI, KO DOKUSO SEIZAI NO KORITSUTEKI SEIZO HOHO NO KAIHATSU NI KANSURU KENKYU, March 2008 (2008-03-01), pages 15 - 20
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Attorney, Agent or Firm:
HAGINO, Mikiharu (1-21 technoplaza Kakamigahara-sh, Gifu 09, JP)
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Claims:
 配列番号4のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と配列番号8のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを有する抗体のエピトープを認識する第1のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体と、
 配列番号36のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と配列番号40のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを有する抗体のエピトープを認識する第2のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体と、
 配列番号44のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と配列番号48のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを有する抗体のエピトープ、又は配列番号52のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と配列番号56のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを有する抗体のエピトープを認識する第3のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体と、
 を含むA型ボツリヌス毒素中和組成物。
 第1のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が、以下の(1)~(3)からなる群より選択されるいずれかの抗体であり、
 第2のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が、以下の(4)又は(5)の抗体であり、
 第3のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が、以下の(6)~(8)からなる群より選択されるいずれかの抗体である、請求項1に記載のA型ボツリヌス毒素中和組成物:
 (1)配列番号1のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域1、配列番号2のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域2、配列番号3のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、配列番号5のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域1、配列番号6のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号7のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を有する抗体;
 (2)配列番号9のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域1、配列番号10のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域2、配列番号11のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、配列番号13のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域1、配列番号14のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号15のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を有する抗体;
 (3)配列番号17のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域1、配列番号18のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域2、配列番号19のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、配列番号21のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域1、配列番号22のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号23のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を有する抗体;
 (4)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域1、配列番号26のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域2、配列番号27のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、配列番号29のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域1、配列番号30のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号31のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を有する抗体;
 (5)配列番号33のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域1、配列番号34のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域2、配列番号35のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、配列番号37のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域1、配列番号38のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号39のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を有する抗体;
 (6)配列番号41のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域1、配列番号42のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域2、配列番号43のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、配列番号45のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域1、配列番号46のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号47のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を有する抗体;
 (7)配列番号49のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域1、配列番号50のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域2、配列番号51のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、配列番号53のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域1、配列番号54のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号55のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を有する抗体;
 (8)配列番号57のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域1、配列番号58のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域2、配列番号59のアミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、配列番号61のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域1、配列番号62のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号63のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を有する抗体。
 第1のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が前記(1)~(3)からなる群より選択されるいずれかの抗体であり、
 第2のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が前記(4)又は(5)の抗体であり、
 第3のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が前記(6)の抗体であり、
 第4のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体として前記(7)又は(8)の抗体を更に含む、請求項2に記載のA型ボツリヌス毒素中和組成物。
 第1のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が前記(1)の抗体であり、
 第2のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が前記(5)の抗体であり、
 第3のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が前記(6)の抗体である、請求項2に記載のA型ボツリヌス毒素中和組成物。
 第4のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体として前記(7)の抗体を更に含む、請求項4に記載のA型ボツリヌス毒素中和組成物。
 第1のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が前記(1)の抗体であり、
 第2のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が前記(5)の抗体であり、
 第3のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が前記(7)の抗体である、請求項2に記載のA型ボツリヌス毒素中和組成物。
 第4のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体として前記(4)の抗体を更に含む、請求項6に記載のA型ボツリヌス毒素中和組成物。
 前記(1)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号4のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号8のアミノ酸配列を有し、
 前記(2)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号12のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号16のアミノ酸配列を有し、
 前記(3)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号20のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号24のアミノ酸配列を有し、
 前記(4)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号28のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号32のアミノ酸配列を有し、
 前記(5)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号36のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号40のアミノ酸配列を有し、
 前記(6)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号44のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号48のアミノ酸配列を有し、
 前記(7)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号52のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号56のアミノ酸配列を有し、
 前記(8)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号60のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号64のアミノ酸配列を有する、
 請求項2~7のいずれか一項に記載のA型ボツリヌス毒素中和組成物。
 請求項2に規定された(1)~(8)のいずれかの抗体からなる、単離されたヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体。
 前記(1)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号4のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号8のアミノ酸配列を有し、
 前記(2)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号12のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号16のアミノ酸配列を有し、
 前記(3)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号20のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号24のアミノ酸配列を有し、
 前記(4)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号28のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号32のアミノ酸配列を有し、
 前記(5)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号36のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号40のアミノ酸配列を有し、
 前記(6)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号44のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号48のアミノ酸配列を有し、
 前記(7)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号52のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号56のアミノ酸配列を有し、
 前記(8)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号60のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号64のアミノ酸配列を有する、請求項9に記載の単離されたヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体。
 請求項10に記載の抗体の重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域をコードする、単離された核酸分子。
 請求項11に記載の核酸分子を保持するベクター。
 請求項12に記載のベクターで形質転換された形質転換体。
 請求項13に記載の形質転換体を培養し、ヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体を産生させる工程と、
 培養上清を回収し、該培養上清からヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体を精製する工程と、
 を含む、ヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体の製造方法。
Description:
A型ボツリヌス毒素中和組成物及 びヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体

 本発明は、A型ボツリヌス毒素に対する結 合活性を有し且つ完全ヒト可変領域を有する 遺伝子組換え抗体、該抗体をコードする核酸 分子、該抗体を産生する形質転換体、該形質 転換体を用いた抗体製造法及び該抗体を用い たA型ボツリヌス毒素中和組成物などに関す 。

 クロストリジウム・ボツリヌス(Clostridium botulinum)が産生する毒素は、血清型の違いに ってA型~G型に分類される。A、B、E、F型毒素 はヒトの健康に重大な影響を及ぼす。ヒトの ボツリヌス中毒疾患には「食餌性ボツリヌス 症(ボツリヌス食中毒)」、「乳児ボツリヌス 」、「創傷ボツリヌス症」及び、「感染型 ツリヌス症」の4種類がある。A型毒素はボ リヌス食中毒の26%に関与している。A型毒素 ボツリヌス食中毒の26%に関与している。B、 及びE型がこれに続き、F型毒素のボツリヌス 中毒への関与の割合は比較的低い。また、 傷ボツリヌス中毒はA型又はB型毒素によっ のみ引き起こされることが報告されている( 特許文献1)。

 成人のボツリヌス食中毒は通常、食品中で や芽胞が増殖した結果、産生した毒素を経 的に摂取して発症する一方で、新生児ボツ ヌス症では、ハチミツなどの食品に存在す 菌や芽胞を経口的に摂取した結果、菌が腸 で発育・増殖して毒素を生産することによ て中毒症状が引き起こされる。
食中毒の原因毒素は国により多少異なるがA 、B型およびE型による症例が報告されている 。また乳児ボツリヌス症の大半はA型、B型で るが、C.butiricumによるE型毒素、によるF型毒 素の報告もある。

 ボツリヌス毒素は重鎖と軽鎖がS-S結合(ジ スルフィド結合)した構造の分子である。ボ リヌス毒素は筋肉への神経伝達をブロック 、これによって弛緩性麻痺を引き起こす。 ツリヌス毒素が気道や呼吸筋に進入すると 死性の呼吸障害を引き起こす。ボツリヌス 毒による死亡率は12%であり、特定のリスク ループでは更に死亡率が高い(非特許文献3)

 一方、ボツリヌス毒素は生物学的毒素と て致死性の最も高い毒素(精製A型毒素にお る70kgのヒトの致死量は、静注または筋注で0 .09-0.15μg、吸入で0.70-0.90 µg、経口で 70μg(JAMA. 2001 Feb 28;285(8):1059-70)であるため 通常の中毒以外の側面として、バイオテロ 利用されるという特殊性を備え、社会的に 注目されている。

 ボツリヌス毒素に対する中和剤として日 で承認を受けているものは、ウマ血清を原 料とした製剤である。この製剤はウマ血清 来のグロブリン、即ちヒトには異種蛋白を 成分とするため、アナフィラキシー反応等 免疫反応を引き起こす危険性がある。また 未知のウイルス感染や血清病の問題もある さらには、安定供給も困難である。さらに 当該製剤の製造には1年以上を要することか ら、バイオテロなどの非常時への対応は困難 な状況にある。加えて、ウマの飼育管理の問 題があるため当該製剤は備蓄目的には向いて いない。

 乳児ボツリヌス症に関しては、アナフィ キシー反応等の重篤な副作用を回避するた 、このウマグロブリン製剤による治療が行 れていないのが現状である。米国において 、健常人をボツリヌストキソイドで免疫し 得られた中和抗体価の高い血漿から調製し ヒトグロブリン製剤を利用して、乳児ボツ ヌス症に対する特異的治療が行われている 実際、「BabyBIG」という商品名の下、乳児ボ ツリヌス症を対象とした医薬が米国FDAでオー ファンドラッグとして製造認可承認されてい る。しかし、この方法は、倫理的な問題に加 えて原材料入手やバイオハザードの問題、さ らには安全性の確保の観点から製造に際して 各種のウイルス検査を行う必要があるという 問題などを抱える。また、日本では当該製剤 は承認されておらず使用できない。

 A型毒素に対する組換え中和キメラ抗体の作 製に成功したことが報告された(特許文献1)。 しかしながら、当該抗体を使用する場合、HAC A(ヒト抗キメラ抗体)の出現の問題や、アナフ ィラキシー反応などの問題を解決する必要が ある。
 一方、米国では特にバイオテロの脅威に備 る意味からも毒素中和の研究開発が行われ ボツリヌス毒素ペンタマーを免疫した人のB リンパ球からファージ抗体ライブラリーを作 製し、その中から所望の完全ヒト中和抗体を 選択する方法が試みられた。しかし、A型毒 に対して、単独で十分な中和活性を発揮す 抗体クローンの取得には成功していない。 のため、ファージディスプレイスクリーニ グの結果得られた1種のヒト抗体に、XENOマウ ス由来のクローン1種、さらにマウスの免疫 より得たマウス抗体をヒト化したものを混 する(オリゴクローナル化)ことによって中和 活性を強化せざるを得ず、所期の目的、即ち 完全ヒト中和抗体による毒素の中和、を達成 するには至っていなかった(特許文献2、3、非 特許文献4、5、6)。

特開2006-311857号公報

国際公開第2005/016232号パンフレット

国際公開第2007/094754号パンフレット H.Sugiyama,Microbiol.Rev.44:419,1980 S.Arnon,Epidemiol.Rev.3:45, 1981 C.O.Tacket et al.,Am.J.Med.76:794,1984 P. Amersdorfer et al., Infect. Immun. 65(9):3743 , 1997 P. Amersdorfer et al., Vaccine 20:1640, 2002 A. Nowakowski et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U SA 99(17):11346, 2002

 本発明は、以上の背景に鑑み、A型ボツリ ヌス毒素の中和に有効な組成物を提供し、従 来の技術における様々な問題点(アナフィラ シー反応、異種蛋白やウイルスの混入など) 解決しようとするものである。また、先行 組換え抗体の検定法では中和活性を客観的 評価し難いという状況に鑑み、本発明は別 局面として、A型ボツリヌス毒素中和組成物 を提供するに際して、国際基準に適合した数 値によって中和活性を示すことも課題とする 。

 本発明者らはまず、先例に倣って、ヒトフ ージ抗体ライブラリーを構築し、ボツリヌ 毒素Aを特異的に認識する抗体クローンの単 離を試みた。スクリーニングを繰り返し実施 したところ、各回のスクリーニングによって 複数の抗体クローンが選択されたものの、エ ピトープが共通する抗体が繰り返し選択され ていることが明らかとなった。この現象が生 ずる原因について検討した結果、抗原性が極 端に高いエピトープが存在し、それがエピト ープのオーバーラップを引き起こしていると 予想された。この仮定に従えば、当該エピト ープをブロックすることが、エピトープが異 なる抗体を効率的に取得するために有効な手 段となる。そこで、複数回のスクリーニング で重複して取得された抗体の断片の添加によ って抗原性の強いエピトープをブロック(マ ク)した上で、ボツリヌスA型毒素にファージ 抗体ライブラリーを反応させるという戦略を 立てた。当該戦略に従い再度スクリーニング を実施することによって、エピトープが異な る複数の抗体クローンを取得することに成功 した。取得に成功した各抗体のエピトープを 解析した結果、エピトープの違いによって4 類に分類された。即ち、4つのエピトープに して特異的な抗体クローンを取得すること 成功したことが判明した。
 続いて、これらの抗体を3種又は4種組み合 せた場合の中和活性を、国際的な基準(日本 局法 医薬品各条に掲げる生物学的製剤医 品に記載の「乾燥ボツリヌスウマ抗毒素(乾 ボツリヌス抗毒素)」の項 3.2.7 「力価試験 」に準ずる)に従って比較・評価した。その 果、高い中和活性を与える抗体クローンの 合せとして、3種の抗体クローンの組合せが 出された。また、さらに1種の抗体クローン を組合せれば中和活性が向上することが示さ れた。
 以上のように本発明者らは、A型ボツリヌス 毒素に対する高い中和活性をもたらす抗体ク ローンを複数取得することに成功するととも に、当該抗体に認識される4つのエピトープ 中和活性の関係を明らかにした。本発明は としてこれらの成果に基づくものであり、 下の通りである。
 [1]配列番号4のアミノ酸配列からなる重鎖可 変領域と配列番号8のアミノ酸配列からなる 鎖可変領域とを有する抗体のエピトープを 識する第1のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体と 、
 配列番号36のアミノ酸配列からなる重鎖可 領域と配列番号40のアミノ酸配列からなる軽 鎖可変領域とを有する抗体のエピトープを認 識する第2のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体と
 配列番号44のアミノ酸配列からなる重鎖可 領域と配列番号48のアミノ酸配列からなる軽 鎖可変領域とを有する抗体のエピトープ、又 は配列番号52のアミノ酸配列からなる重鎖可 領域と配列番号56のアミノ酸配列からなる 鎖可変領域とを有する抗体のエピトープを 識する第3のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体と 、
 を含むA型ボツリヌス毒素中和組成物。
 [2]第1のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が、 下の(1)~(3)からなる群より選択されるいずれ の抗体であり、
 第2のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が、以 の(4)又は(5)の抗体であり、
 第3のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が、以 の(6)~(8)からなる群より選択されるいずれか 抗体である、[1]に記載のA型ボツリヌス毒素 中和組成物:
 (1)配列番号1のアミノ酸配列からなる重鎖相 補性決定領域1、配列番号2のアミノ酸配列か なる重鎖相補性決定領域2、配列番号3のア ノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、配 番号5のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決 定領域1、配列番号6のアミノ酸配列からなる 鎖相補性決定領域2、及び配列番号7のアミ 酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を有す 抗体;
 (2)配列番号9のアミノ酸配列からなる重鎖相 補性決定領域1、配列番号10のアミノ酸配列か らなる重鎖相補性決定領域2、配列番号11のア ミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、 列番号13のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性 決定領域1、配列番号14のアミノ酸配列からな る軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号15のア ミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を する抗体;
 (3)配列番号17のアミノ酸配列からなる重鎖 補性決定領域1、配列番号18のアミノ酸配列 らなる重鎖相補性決定領域2、配列番号19の ミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、 列番号21のアミノ酸配列からなる軽鎖相補 決定領域1、配列番号22のアミノ酸配列から る軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号23の ミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を する抗体;
 (4)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖 補性決定領域1、配列番号26のアミノ酸配列 らなる重鎖相補性決定領域2、配列番号27の ミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、 列番号29のアミノ酸配列からなる軽鎖相補 決定領域1、配列番号30のアミノ酸配列から る軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号31の ミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を する抗体;
 (5)配列番号33のアミノ酸配列からなる重鎖 補性決定領域1、配列番号34のアミノ酸配列 らなる重鎖相補性決定領域2、配列番号35の ミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、 列番号37のアミノ酸配列からなる軽鎖相補 決定領域1、配列番号38のアミノ酸配列から る軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号39の ミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を する抗体;
 (6)配列番号41のアミノ酸配列からなる重鎖 補性決定領域1、配列番号42のアミノ酸配列 らなる重鎖相補性決定領域2、配列番号43の ミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、 列番号45のアミノ酸配列からなる軽鎖相補 決定領域1、配列番号46のアミノ酸配列から る軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号47の ミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を する抗体;
 (7)配列番号49のアミノ酸配列からなる重鎖 補性決定領域1、配列番号50のアミノ酸配列 らなる重鎖相補性決定領域2、配列番号51の ミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、 列番号53のアミノ酸配列からなる軽鎖相補 決定領域1、配列番号54のアミノ酸配列から る軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号55の ミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を する抗体;
 (8)配列番号57のアミノ酸配列からなる重鎖 補性決定領域1、配列番号58のアミノ酸配列 らなる重鎖相補性決定領域2、配列番号59の ミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、 列番号61のアミノ酸配列からなる軽鎖相補 決定領域1、配列番号62のアミノ酸配列から る軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号63の ミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を する抗体。
 [3]第1のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が前 (1)~(3)からなる群より選択されるいずれかの 体であり、
 第2のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が前記(4 )又は(5)の抗体であり、
 第3のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が前記(6 )の抗体であり、
 第4のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体として 記(7)又は(8)の抗体を更に含む、[2]に記載のA ボツリヌス毒素中和組成物。
 [4]第1のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が前 (1)の抗体であり、
 第2のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が前記(5 )の抗体であり、
 第3のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が前記(6 )の抗体である、[2]に記載のA型ボツリヌス毒 中和組成物。
 [5]第4のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体とし 前記(7)の抗体を更に含む、[4]に記載のA型ボ リヌス毒素中和組成物。
 [6]第1のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が前 (1)の抗体であり、
 第2のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が前記(5 )の抗体であり、
 第3のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体が前記(7 )の抗体である、[2]に記載のA型ボツリヌス毒 中和組成物。
 [7]第4のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体とし 前記(4)の抗体を更に含む、[6]に記載のA型ボ リヌス毒素中和組成物。
 [8]前記(1)の抗体は、重鎖可変領域が配列番 4のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配 列番号8のアミノ酸配列を有し、
 前記(2)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号1 2のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配 番号16のアミノ酸配列を有し、
 前記(3)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号2 0のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配 番号24のアミノ酸配列を有し、
 前記(4)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号2 8のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配 番号32のアミノ酸配列を有し、
 前記(5)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号3 6のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配 番号40のアミノ酸配列を有し、
 前記(6)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号4 4のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配 番号48のアミノ酸配列を有し、
 前記(7)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号5 2のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配 番号56のアミノ酸配列を有し、
 前記(8)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号6 0のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配 番号64のアミノ酸配列を有する、
 [2]~[7]のいずれか一項に記載のA型ボツリヌ 毒素中和組成物。
 [9][2]に規定された(1)~(8)のいずれかの抗体か らなる、単離されたヒト抗A型ボツリヌス毒 抗体。
 [10]前記(1)の抗体は、重鎖可変領域が配列番 号4のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が 列番号8のアミノ酸配列を有し、
 前記(2)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号1 2のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配 番号16のアミノ酸配列を有し、
 前記(3)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号2 0のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配 番号24のアミノ酸配列を有し、
 前記(4)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号2 8のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配 番号32のアミノ酸配列を有し、
 前記(5)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号3 6のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配 番号40のアミノ酸配列を有し、
 前記(6)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号4 4のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配 番号48のアミノ酸配列を有し、
 前記(7)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号5 2のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配 番号56のアミノ酸配列を有し、
 前記(8)の抗体は、重鎖可変領域が配列番号6 0のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配 番号64のアミノ酸配列を有する、[9]に記載の 単離されたヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体。
 [11][10]に記載の抗体の重鎖可変領域及び/又 軽鎖可変領域をコードする、単離された核 分子。
 [12][11]に記載の核酸分子を保持するベクタ 。
 [13][12]に記載のベクターで形質転換された 質転換体。
 [14][13]に記載の形質転換体を培養し、ヒト A型ボツリヌス毒素抗体を産生させる工程と
 培養上清を回収し、該培養上清からヒト抗A 型ボツリヌス毒素抗体を精製する工程と、
 を含む、ヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体の製 造方法。

(用語)
 説明の便宜上、本明細書に使用される用語 一部についてその定義をまとめて以下に示 。
 本明細書において用語「~を含む」又は「~ 含んでなる」は、「~からなる」の意味をも む表現として使用される。したがって例え 、「複数の要素(部材)を含んで構成される (又は方法)」と記載した場合には、それが意 味するものとして「当該複数の要素(部材)か 構成される物(又は方法)」も当然に考慮さ る。

 「単離された」とは、その本来の環境(例え ば天然の物質の場合は天然の環境)から取り された状態、即ち人為的操作によって本来 存在状態と異なる状態で存在していること 意味する。
 「単離された抗体」には、天然であって且 何ら外的操作(人為的操作)が施されていな 抗体、即ちある個体の体内で産生され、そ に留まっている状態の抗体は含まれない。 、単離された抗体は、典型的には、他の種 の抗体が混在していない状態、即ち単独で( 種の抗体の集合として)存在している。
 「相補性決定領域(CDR)」については、Kabatら (Sequences of Proteins of Immunological Interest, 4th edition US Department of Health and Human Services(1 987))を参照)の定義に従う。
 「A型ボツリヌス毒素中和組成物」とは、複 数種の抗体を有効成分として含有し、A型ボ リヌス毒素に対して中和活性を示す薬学的 合物をいう。
 本発明における「抗毒素力価」は、特に言 しない限り、国際単位で表現される。「抗 素力価」は、日本薬局法 医薬品各条に掲 る生物学的製剤医薬品に記載の「乾燥ボツ ヌスウマ抗毒素(乾燥ボツリヌス抗毒素)」の 項 3.2.7 「力価試験」に準じて決定される。

 本明細書では必要に応じて、慣習に従い以 の略号(括弧内)を使用する。
 重鎖(H鎖)、軽鎖(L鎖)、重鎖可変領域(VH)、軽 鎖可変領域(VL)、相補性決定領域(CDR)、相補性 決定領域1(CDR1)、相補性決定領域2(CDR2)、相補 決定領域3(CDR3)、重鎖相補性決定領域1(VH CDR 1)、重鎖相補性決定領域2(VH CDR2)、重鎖相補 決定領域3(VH CDR3)軽鎖相補性決定領域1(VL CDR 1)、軽鎖相補性決定領域2(VL CDR2)、軽鎖相補 決定領域3(VL CDR3)

抗体ライブラリーの構成。 スクリーニング実験1で取得した抗体の 結合活性。無毒成分タンパク質に対するELISA ABS492<0.2を示したクローンをポジティブク ローンとした(矢印)。 スクリーニング実験1で取得した抗体を サンプルとした中和試験(動物試験)の結果。 中の符号(+、-等)は症状の強さを表す。±、+ 、++の順に症状が強い。 スクリーニング実験2で採用した、エピ トープのマスク法の概要。 スクリーニング実験2で取得した抗体の 結合活性(図5の下(4th))とスクリーニング実験3 で取得した抗体の結合活性(図5の上(3rd-2))。 スクリーニング実験3で取得した抗体の アミノ酸配列の比較。上から順にBT-058のVHの 列(配列番号20)、BT-047のVHの配列(配列番号12) 、BT-015のVHの配列配列番号4)、BT-058のVLの配列 (配列番号24)、BT-047のVLの配列(配列番号16)、BT -015のVLの配列(配列番号8)。 スクリーニング実験4で取得した抗体の 結合活性。ここに示した全ての抗体クローン をポジティブクローンとした。 スクリーニング実験4で取得した抗体を サンプルとした中和試験(動物試験)の結果。 中の符号(+、++等)は症状の強さを表す。++、 +++の順に症状が強い。dは「マウス死亡」を す。 ボツリヌストキソイドを用いたスクリ ニングの過程。 スクリーニング実験5で取得した抗体 結合活性。 スクリーニング実験5で取得した抗体 結合活性。 スクリーニング実験6で取得した抗体 結合活性。 スクリーニング実験6で取得した抗体 結合活性。 スクリーニング実験5及び6で取得した 体をサンプルとした中和試験(動物試験)の 果。表中の符号(+、++等)は症状の強さを表す 。±、+、++、+++の順に症状が強い。dは「マウ ス死亡」を表す。 ニューロトキシンを用いたスクリーニ ングの過程(ニューロトキシン特異的抗体の 縮)。 スクリーニング実験1~6で取得した抗体 のアミノ酸配列の比較。上から順にBT-175のVH 配列(配列番号36)、NT-221のVHの配列(配列番号 28)、NT-320のVHの配列(配列番号44)、NT-539のVHの 列(配列番号60)、BT-015のVHの配列(配列番号4) NT-523のVHの配列(配列番号52)、NT-320のVLの配 (配列番号48)、NT-539のVLの配列(配列番号64)、N T-221のVLの配列(配列番号32)、BT-175のVLの配列( 列番号40)、BT-015のVLの配列(配列番号8)、NT-52 3のVLの配列(配列番号56)。尚、Germlineとの相同 性も併せて示した。 Biacoreによる結合定数解析の結果(サン ルはBT-015のFab-PP型抗体)。 Biacoreによる結合定数解析の結果(サン ルはBT-015のIgG型抗体)。 Biacoreによる結合定数解析の結果(サン ルはBT-175のFab-PP型抗体)。 Biacoreによる結合定数解析の結果(サン ルはBT-175のIgG型抗体)。 Biacoreによる結合定数解析の結果(サン ルはNT-221のFab-PP型抗体)。 Biacoreによる結合定数解析の結果(サン ルはNT-320のFab-PP型抗体)。 Biacoreによる競合実験の結果(BT-015との 合)。BT-015とNT-221が競合することが示唆され た。 Biacoreによる競合実験の結果(BT-175との 合)。BT-175とNT-221が競合することが示唆され た。 Biacoreによる競合実験の結果(NT-221との 合)。NT-539は250sec付近で強いノイズが発生し たためその領域を削除した。 Biacoreによる競合実験の結果(NT-320との 合)。 Biacoreによる競合実験の結果(NT-523との 合)。NT-523とNT-539が競合することが示唆され た。 5種類の抗体クローン(BT-015、BT-175、NT-2 21、NT-320、NT-523)をサンプルとした中和試験の 結果。表中の符号(+、++等)は症状の強さを表 。+、++、+++の順に症状が強い。-は「症状を 認めない」、dは「マウス死亡」をそれぞれ す。 ELISAによる抗体のエピトープ解析と毒 亜型A2毒素に対する反応性。6種類の中和抗 (BT-015, BT-175, NT-221、NT-320, NT-523, NT-539)の ピトープをより詳細に解析し、またその亜 であるA2型のニューロトキシン(CHIBA-H)に対す る反応性も同時に確認するため、下記抗原を 用いてELISAを実施した。クローン毎、OD492nmの 値を表形式で示した。 イムノブロッティングによるエピトー プ解析。ニューロトキシン(NT)及び重鎖C末端 の神経細胞結合ドメイン(Hc、大腸菌リコン ナントタンパク質)に対してイムノブロッテ ィングによるエピトープ解析を行った結果を 示した。各抗体クローンにつき2種類の濃度(5 0μg/ml(実線のレーン)、5μg/ml(破線のレーン)に 希釈し、反応させた。NT-523はHcドメインの一 構造を認識した。一方、この実験では、そ 他の抗体についてはバンドが検出されなか た。 免疫沈降によるエピトープ解析。3種 の抗原(ニューロトキシン、H鎖、L鎖)を用い 各クローンの免疫沈降を行い、エピトープ 析を行った結果である。コントロールはH鎖 、L鎖をそのまま上層泳動し、アフィニティ 精製したウサギ抗A型ボツリヌスニューロト シン抗体(1000倍希釈)を反応させている。BT-0 15, NT-523, NT-539はH chainを認識(実線の丸)、BT- 175はL chainを認識している可能性が高い(破線 の丸)。一方、この実験からは、NT-221, NT-320 H chainとL chainのどちらを認識しているか判 不能であった。 エピトープ解析の結果を纏め、6種類 抗体のエピトープ分類した表。エピトープ 析の結果を総合的に判断し、抗体エピトー 候補を表の最下段にまとめた。尚、各クロ ンの結合性(エピトープ候補)について、ニュ ーロトキシンと結合性がある場合はNT、H chai n結合性がある場合はH、H chain C末端側の神 細胞結合ドメインと結合性がある場合はHc、 L chainと結合性がある場合はLで示した。(-)は 判定不能を表す。

 本発明の第1の局面はA型ボツリヌス毒素 和組成物(以下、「本発明の組成物」ともい )に関する。本発明の組成物では少なくとも 3種の抗体を用いる。当該3種の抗体はいずれ 、A型ボツリヌス毒素を認識するヒト抗体で ある。本明細書では当該3種の抗体を、「第1 ヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体」、「第2の ト抗A型ボツリヌス毒素抗体」、「第3のヒト 抗A型ボツリヌス毒素抗体」と呼ぶ。尚、説 の便宜上、以下では「第1のヒト抗A型ボツリ ヌス毒素抗体」を「第1抗体」と略称し、「 2のヒト抗A型ボツリヌス毒素抗体」を「第2 体」と略称し、「第3のヒト抗A型ボツリヌス 毒素抗体」を「第3抗体」と略称する。

 本発明者らはA型ボツリヌス毒素の中和に 有効なヒト抗体クローン(BT-015、BT-047、BT-058 NT-221、BT-175、NT-320、NT-523、NT-539)を取得する とに成功した(実施例の欄を参照)。また、 得に成功したヒト抗体クローンは、エピト プの異同に基づき、4種類に分類されること 示した。第1抗体は、他の抗体クローンと組 み合わせて使用するとA型ボツリヌス毒素の 和に有効であることが示された抗体クロー BT-015に対応するものであり、抗体クローンBT -015、即ち「配列番号4のアミノ酸配列からな 重鎖可変領域と配列番号8のアミノ酸配列か らなる軽鎖可変領域とを有する抗体」のエピ トープを認識することによって特徴づけられ る。第1抗体のエピトープは抗体クローンBT-01 5のエピトープに一致することから、第1抗体 抗体クローンBT-015を同時にA型ボツリヌス毒 素に反応させれば競合が認められる。従って 、第1抗体としての適格性は、抗体クローンBT -015を利用した競合実験によって確認するこ ができる。

 第2抗体は、他の抗体クローンと組み合わ せて使用するとA型ボツリヌス毒素の中和に 効であることが示された抗体クローンBT-175 対応するものであり、抗体クローンBT-175、 ち「配列番号36のアミノ酸配列からなる重鎖 可変領域と配列番号40のアミノ酸配列からな 軽鎖可変領域とを有する抗体」のエピトー を認識することによって特徴づけられる。 、第2抗体としての適格性については第1抗 の場合と同様に確認することができる。

 第3抗体は、抗体クローンBT-015と抗体クロ ーンBT-175と組み合わせて使用するとA型ボツ ヌス毒素の中和に有効であることが示され 抗体クローン(NT-320又はNT-523)に対応するもの であり、抗体クローンNT-320、即ち「配列番号 44のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と配 番号48のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領 とを有する抗体」のエピトープ、又は抗体 ローンNT-523、即ち「配列番号52のアミノ酸配 列からなる重鎖可変領域と配列番号56のアミ 酸配列からなる軽鎖可変領域とを有する抗 」のエピトープを認識することによって特 づけられる。尚、第3抗体としての適格性に ついては第1抗体の場合と同様に確認するこ ができる。

 本発明の一態様では、第1抗体が、以下の(1) ~(3)からなる群より選択されるいずれかの抗 である。第2抗体は以下の(4)又は(5)の抗体で る。第3抗体は以下の(6)~(8)からなる群より 択されるいずれかの抗体である。
 (1)配列番号1のアミノ酸配列からなる重鎖相 補性決定領域1、配列番号2のアミノ酸配列か なる重鎖相補性決定領域2、配列番号3のア ノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、配 番号5のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性決 定領域1、配列番号6のアミノ酸配列からなる 鎖相補性決定領域2、及び配列番号7のアミ 酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を有す 抗体
 (2)配列番号9のアミノ酸配列からなる重鎖相 補性決定領域1、配列番号10のアミノ酸配列か らなる重鎖相補性決定領域2、配列番号11のア ミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、 列番号13のアミノ酸配列からなる軽鎖相補性 決定領域1、配列番号14のアミノ酸配列からな る軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号15のア ミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を する抗体
 (3)配列番号17のアミノ酸配列からなる重鎖 補性決定領域1、配列番号18のアミノ酸配列 らなる重鎖相補性決定領域2、配列番号19の ミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、 列番号21のアミノ酸配列からなる軽鎖相補 決定領域1、配列番号22のアミノ酸配列から る軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号23の ミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を する抗体
 (4)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖 補性決定領域1、配列番号26のアミノ酸配列 らなる重鎖相補性決定領域2、配列番号27の ミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、 列番号29のアミノ酸配列からなる軽鎖相補 決定領域1、配列番号30のアミノ酸配列から る軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号31の ミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を する抗体
 (5)配列番号33のアミノ酸配列からなる重鎖 補性決定領域1、配列番号34のアミノ酸配列 らなる重鎖相補性決定領域2、配列番号35の ミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、 列番号37のアミノ酸配列からなる軽鎖相補 決定領域1、配列番号38のアミノ酸配列から る軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号39の ミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を する抗体
 (6)配列番号41のアミノ酸配列からなる重鎖 補性決定領域1、配列番号42のアミノ酸配列 らなる重鎖相補性決定領域2、配列番号43の ミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、 列番号45のアミノ酸配列からなる軽鎖相補 決定領域1、配列番号46のアミノ酸配列から る軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号47の ミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を する抗体
 (7)配列番号49のアミノ酸配列からなる重鎖 補性決定領域1、配列番号50のアミノ酸配列 らなる重鎖相補性決定領域2、配列番号51の ミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、 列番号53のアミノ酸配列からなる軽鎖相補 決定領域1、配列番号54のアミノ酸配列から る軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号55の ミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を する抗体
 (8)配列番号57のアミノ酸配列からなる重鎖 補性決定領域1、配列番号58のアミノ酸配列 らなる重鎖相補性決定領域2、配列番号59の ミノ酸配列からなる重鎖相補性決定領域3、 列番号61のアミノ酸配列からなる軽鎖相補 決定領域1、配列番号62のアミノ酸配列から る軽鎖相補性決定領域2、及び配列番号63の ミノ酸配列からなる軽鎖相補性決定領域3を する抗体

 (1)はヒト抗体クローンBT-015に対応し、(2) ヒト抗体クローンBT-047に対応し、(3)はヒト 体クローンBT-058に対応し、(4)はヒト抗体ク ーンNT-221に対応し、(5)はヒト抗体クローンB T-175に対応し、(6)はヒト抗体クローンNT-320に 応し、(7)はヒト抗体クローンNT-523に対応し (8)はヒト抗体クローンNT-539に対応する。以 、各クローンの配列情報を示す。

(BT-015)
 VH CDR1:配列番号1
 VH CDR2:配列番号2
 VH CDR3:配列番号3
 VH:配列番号4
 VL CDR1:配列番号5
 VL CDR2:配列番号6
 VL CDR3:配列番号7
 VL:配列番号8

(BT-047)
 VH CDR1:配列番号9
 VH CDR2:配列番号10
 VH CDR3:配列番号11
 VH:配列番号12
 VL CDR1:配列番号13
 VL CDR2:配列番号14
 VL CDR3:配列番号15
 VL:配列番号16

(BT-058)
 VH CDR1:配列番号17
 VH CDR2:配列番号18
 VH CDR3:配列番号19
 VH:配列番号20
 VL CDR1:配列番号21
 VL CDR2:配列番号22
 VL CDR3:配列番号23
 VL:配列番号24

(NT-221)
 VH CDR1:配列番号25
 VH CDR2:配列番号26
 VH CDR3:配列番号27
 VH:配列番号28
 VL CDR1:配列番号29
 VL CDR2:配列番号30
 VL CDR3:配列番号31
 VL:配列番号32

(BT-175)
 VH CDR1:配列番号33
 VH CDR2:配列番号34
 VH CDR3:配列番号35
 VH:配列番号36
 VL CDR1:配列番号37
 VL CDR2:配列番号38
 VL CDR3:配列番号39
 VL:配列番号40

(NT-320)
 VH CDR1:配列番号41
 VH CDR2:配列番号42
 VH CDR3:配列番号43
 VH:配列番号44
 VL CDR1:配列番号45
 VL CDR2:配列番号46
 VL CDR3:配列番号47
 VL:配列番号48

(NT-523)
 VH CDR1:配列番号49
 VH CDR2:配列番号50
 VH CDR3:配列番号51
 VH:配列番号52
 VL CDR1:配列番号53
 VL CDR2:配列番号54
 VL CDR3:配列番号55
 VL:配列番号56

(NT-539)
 VH CDR1:配列番号57
 VH CDR2:配列番号58
 VH CDR3:配列番号59
 VH:配列番号60
 VL CDR1:配列番号61
 VL CDR2:配列番号62
 VL CDR3:配列番号63
 VL:配列番号64

 好ましい一態様では、(1)の抗体は、重鎖 変領域が配列番号4のアミノ酸配列を有し、 軽鎖可変領域が配列番号8のアミノ酸配列を する。(2)の抗体については、重鎖可変領域 配列番号12のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変 領域が配列番号16のアミノ酸配列を有する。( 3)の抗体については、重鎖可変領域が配列番 20のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が 列番号24のアミノ酸配列を有する。(4)の抗体 については、重鎖可変領域が配列番号28のア ノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号3 2のアミノ酸配列を有する。(5)の抗体につい は、重鎖可変領域が配列番号36のアミノ酸配 列を有し、軽鎖可変領域が配列番号40のアミ 酸配列を有する。(6)の抗体については、重 可変領域が配列番号44のアミノ酸配列を有 、軽鎖可変領域が配列番号48のアミノ酸配列 を有する。(7)の抗体については、重鎖可変領 域が配列番号52のアミノ酸配列を有し、軽鎖 変領域が配列番号56のアミノ酸配列を有す 。(8)の抗体については、重鎖可変領域が配 番号60のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域 が配列番号64のアミノ酸配列を有する。

 各抗体の由来、種類、クラス、形態などは 定されない。好ましくは、完全ヒトIgG抗体 して各抗体を調製する。この場合の定常領 の種類は特に限定されない。即ち、重鎖は 鎖に限られず、μ鎖、α鎖又はε鎖であって よい。同様に軽鎖はκ鎖であってもλ鎖であ てもよい。
 Fab、Fab'、F(ab')2、scFv、又はdsFv抗体などの抗 体断片として各抗体を調製することもできる 。Fabは、IgG抗体をシステイン存在下パパイン 消化することにより得られる、L鎖とH鎖可変 域、並びにCH1ドメイン及びヒンジ部の一部 らなるH鎖フラグメントとから構成される分 子量約5万の断片である。所望のIgG抗体があ ば、これをパパイン消化することによりFab 得ることができる。また、H鎖の一部及びL鎖 をコードするDNAを適当なベクターに組み込み 、当該ベクターを用いて形質転換した形質転 換体よりFabを調製することもできる。

 Fab'は、後述のF(ab') 2 のH鎖間のジスルフィド結合を切断すること より得られる分子量が約5万の断片である。 望のIgG抗体があれば、これをペプシン消化 、還元剤を用いてジスルフィド結合を切断 ることによりFab'を得ることができる。また 、Fab同様に、Fab'をコードするDNAを用いて遺 子工学的に調製することもできる。

 F(ab') 2 は、IgG抗体をペプシン消化することにより得 られる、L鎖とH鎖可変領域、並びにCH1ドメイ 及びヒンジ部の一部からなるH鎖フラグメン トとから構成される断片(Fab')がジスルフィド 結合で結合した分子量約10万の断片である。 望のIgG抗体があれば、これをペプシン消化 ることによりF(ab') 2 を得ることができる。また、Fab同様に、F(ab') 2 をコードするDNAを用いて遺伝子工学的に調製 することもできる。

 scFvは、H鎖可変領域とL鎖可変領域とからな Fvを、片方の鎖のC末端と他方のN末端とを適 当なペプチドリンカーで連結し一本鎖化した 抗体断片である。ペプチドリンカーとしては 、例えば柔軟性の高い(GGGGS) 3 などを用いることができる。例えば、H鎖可 領域及びL鎖可変領域をコードするDNAとペプ ドリンカーをコードするDNAを用いてscFv抗体 をコードするDNAを構築し、これを適当なベク ターに組み込み、当該ベクターを用いて形質 転換した形質転換体よりscFvを調製すること できる。

 dsFvは、H鎖可変領域及びL鎖可変領域の適 な位置にCys残基を導入し、H鎖可変領域とL 可変領域とをジスルフィド結合により安定 させたFv断片である。各鎖におけるCys残基の 導入位置は分子モデリングにより予測される 立体構造に基づき決定することができる。例 えばH鎖可変領域及びL鎖可変領域のアミノ酸 列から立体構造を予測し、かかる予測に基 き変異を導入したH鎖可変領域及びL鎖可変 域をそれぞれコードするDNAを構築し、これ 適当なベクターに組み込み、そして当該ベ ターを用いて形質転換した形質転換体よりds Fvを調製することができる。

 ここで、本発明の組成物における好ましい 体の組合せとして、以下の組合せを挙げる とができる。当該組合せは、後述の実施例 示す中和試験において非常に高い中和活性 認められた組合せに対応する。
 第1抗体:(1)の抗体
 第2抗体:(5)の抗体
 第3抗体:(6)の抗体

 上記組合せを採用した場合には、第4のヒ ト抗A型ボツリヌス毒素抗体(第4抗体)として(7 )の抗体を併用することが好ましい。このよ にして得られる4種の抗体の組合せは、後述 実施例に示す中和試験において最も高い中 活性が認められた抗体の組合せに対応する

 好ましい抗体の組合せの他の例を以下に示 。当該組合せは、後述の実施例に示す中和 験において高い中和活性が認められた組合 に対応する。
 第1抗体:(1)の抗体
 第2抗体:(5)の抗体
 第3抗体:(7)の抗体

 なお、有効成分の抗体を3種に限る場合に おいては、A型毒素のなかでもその亜種のA2毒 素に対しては、上記第3抗体として(7)より強 結合性を保持している(8)の抗体を用いるこ が好ましい。

 上記組合せを採用した場合には、第4のヒ ト抗A型ボツリヌス毒素抗体(第4抗体)として(4 )の抗体を併用することが好ましい。

 4種の抗体を併用する場合の組合せは以上の 二つの例に限られるものではない。以下、4 の抗体を併用する場合の好ましい組合せを す。
 第1抗体:(1)~(3)からなる群より選択されるい れかの抗体
 第2抗体:(4)又は(5)の抗体
 第3抗体:(6)の抗体
 第4抗体:(7)又は(8)の抗体

 (1)~(8)の抗体は、A型ボツリヌス毒素に対し 高い中和活性を示す組成物の有効成分とし 利用されるものであり、それ自体が高い力 を有する。そこで、本発明は第2の局面とし 、(1)~(8)のいずれかの抗体からなるA型ボツ ヌス毒素中和抗体を提供する。また、本発 は第3の局面として、当該抗体の重鎖可変領 及び/又は軽鎖可変領域をコードする、単離 された核酸分子を提供する。以下、(1)~(8)に 応する抗体クローンの塩基配列(重鎖可変領 及び軽鎖可変領域)を示す。
(BT-015)
 VH:配列番号65
 VL:配列番号66

(BT-047)
 VH:配列番号67
 VL:配列番号68

(BT-058)
 VH:配列番号69
 VL:配列番号70

(NT-221)
 VH:配列番号71
 VL:配列番号72

(BT-175)
 VH:配列番号73
 VL:配列番号74

(NT-320)
 VH:配列番号75
 VL:配列番号76

(NT-523)
 VH:配列番号77
 VL:配列番号78

(NT-539)
 VH:配列番号79
 VL:配列番号80

 なお、A型の亜種であるA2毒素に対しても 上記各(1)~(8)の抗体は強い結合性を保持して おり、強い中和活性を示す組成物の有効性分 となりうる。

 本発明の抗体((1)~(8)の抗体)は、各抗体ク ーンの配列情報を基に遺伝子工学的手法で 製することができる。即ち、典型的には、 的の抗体をコードする遺伝子発現コンスト クトの調製、適当な発現系を利用した発現 及び発現産物の回収、からなる一連の工程 よって本発明の抗体を調製することができ 。

 発現系は特に限定されない。即ち、目的の 換え抗体が発現される限り、任意の発現系 利用することができる。但し、IgG型の組換 抗体を発現させる場合には、動物細胞を利 した発現系を用いるとよい。また、可変領 由来のFab、Fab'、F(ab') 2 、scFv、又はdsFvなどの抗体断片を発現させる 合、動物細胞の他、大腸菌、酵母などの微 物を利用した発現系を利用することができ 。使用する宿主に応じ、適当な発現ベクタ が用いられる。シグナルペプチドを利用す ば、目的の組換え抗体を細胞外に分泌させ り、ペリプラズマ領域に輸送させたり、あ いは細胞内に留まらせたりすることができ 。

 以下では、最も一般的である、動物細胞 利用した発現方法について詳細に述べる。 ず、目的の抗体の重鎖可変領域(VH)をコード するDNAを化学合成、生化学的切断/再結合等 より作製する。得られたH鎖可変領域をコー するDNAを、ヒトH鎖定常領域をコードするDNA とライゲーションして発現用ベクターに組込 みH鎖発現ベクターを得る。同様の方法でL鎖 現ベクターを作製する。尚、CDR領域を挟ん 存在するFR(フレームワーク領域)においては 若干の変異を導入した可変領域を用いること もできる。即ち、CDR領域が全て同一な抗体は 同じエピトープを認識するためであり、最終 的に得られる抗体がA型ボツリヌス毒素を認 し、十分な結合活性を示す限り、FRの改変が 許容される。

 ここで、アミノ酸配列が明らかであれば可 領域の立体構造(空間的配置)を予測するこ が可能であり、FRに特定の改変を加えたこと による立体構造の変化を予測することも可能 である。また、コンピュータープログラムENC AD(Energy Calculation and Dynamics)を利用して可変 域の分子モデルを構築することや、CDRと潜 的に相互作用するのに十分に近接した、FR のアミノ酸を決定することなども可能であ (例えば、WO97/002290を参照)。また、各アミノ 残基が適した環境にあるかを定量的に評価 るコンピュータープログラムVerify-3Dや免疫 ロブリン専用のモデリング手法(WAM-Web Antibo dy ModelingやOxford Moleclelar社のAbM)なども利用 能である。可変領域の変異の最適化はラン ムPCRやファージディスプレイ法などを利用 ることによってルーチン的作業で行うこと できる。(Manuel B,et al J.Biol Chem Vol.272 no.16  10678 "Antibody humanization using monovalent page d isplay"やWO2007/094754等を参照)。
 改変されるアミノ酸の数は、好ましくはFR 体の15%以下であり、更に好ましくはFR全体の 10%以下であり、更に更に好ましくはFR全体の5 %以下であり、最も好ましくはFR全体の1%以下 ある。

 「発現ベクター」とは、それに挿入された 酸を目的の細胞(標的細胞)内に導入し且つ 該細胞内において発現させることが可能な 酸性分子をいい、ウイルスベクター及び非 イルスベクターを含む。ウイルスベクター 用いた遺伝子導入法は、ウイルスが細胞へ 感染する現象を巧みに利用するものであり 高い遺伝子導入効率が得られる。ウイルス クターとしてSV40 virus basedベクター、EB viru s basedベクター、BPV(パピローマウイルス)based ベクター等を例示できるが、これらに限定さ れるものではない。非ウイルスベクターとし てリポソーム、正電荷型リポソーム(Felgner, P .L., Gadek, T.R., Holm, M. et al., Proc. Natl. Acad . Sci., 84:7413-7417, 1987)、HVJ(Hemagglutinating virus  of Japan)-リポソーム(Dzau, V.J., Mann, M., Moris hita, R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 93:11421-11 425, 1996、Kaneda, Y., Saeki, Y. & Morishita, R. , Molecular Med. Today, 5:298-303, 1999)等が開発さ れている。発現ベクターをこのような非ウイ ルス性ベクターとして構築してもよい。
 発現ベクターに含まれるプロモーターとし はSV40初期プロモーター、SV40後期プロモー ー、サイトメガロウイルスプロモーター、 ワトリβアクチンプロモーターなどが利用さ れる。

 H鎖発現ベクターとL鎖発現ベクターを用 した後、これらを用いて宿主細胞を共形質 換する。宿主細胞としては、CHO細胞(チャイ ーズハムスター卵巣)(A.Wright& S.L.Morrison, J.Immunol.160, 3393-3402 (1998))、SP2/0細胞(マウス エローマ)(K.Motmans et al., Eur.J.Cancer Prev.5,51 2-519 (1996),R.P.Junghans et al.,Cancer Res.50,1495-1502  (1990))などが好適に用いられる。形質転換に はリポフェクチン法(R.W.Malone et al.,Proc.Natl.Ac ad.Sci.USA 86,6077 (1989), P.L.Felgner et al.,Proc.Natl .Acad.Sci.USA 84,7413 (1987)、エレクトロポレーシ ョン法、リン酸カルシウム法(F.L.Graham & A .J.van der Eb,Virology 52,456-467(1973))、DEAE-Dextran 等が好適に用いられる。

 H鎖発現ベクターとL鎖発現ベクターの比 、導入のタイミングなどに特段の制約はな 。両ベクターの比率(H鎖発現ベクター:L鎖発 ベクター(モル比))は、例えば1:0.5~5、好まし くは1:0.8~1.2である。導入のタイミングに関し ては、H鎖発現ベクターとL鎖発現ベクターを 時に宿主細胞に導入することにしても、い れかを先に導入することにしてもよい。ま 、上記のようにH鎖発現ベクターとL鎖発現 クターを別々に構築するのではなく、VHをコ ードするDNAとVLをコードするDNAの両者を組み んだ発現ベクターを構築し、当該発現ベク ーで宿主細胞を形質転換することにしても い。

 形質転換体の選択に利用するマーカー(選択 マーカー)としては、アミノグリコシド3'ホス ホトランスフェラーゼ(neo)遺伝子やジヒドロ 酸還元酵素(dhfr)遺伝子、ピューロマイシン 性酵素遺伝子、グルタミン合成酵素(GS)遺伝 子など、一般的なマーカー遺伝子(例えば、Mi chael Kriegler著、加藤郁之進
監訳、ラボマニュアル動物細胞の遺伝子工学 、宝酒造(1994)を参照)が利用できる。

 形質転換体の細胞内又は培養液より抗体 回収(分離・精製)される。抗体の回収は常 に従えば良い。即ち、遠心分離、硫安分画 塩析、限外濾過、アフィニティークロマト ラフィー(Protein A樹脂やProtein G樹脂を使用 たものなど)、イオン交換クロマトグラフィ 、ゲルろ過クロマトグラフィーなどを利用 て抗体を回収する。

 以上のようにして得られた抗体は、本発明 組成物の有効成分として利用される。本発 の組成物を構成する際の製剤化は常法に従 ばよい。製剤化の際、製剤上許容される他 成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝 剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保 存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させ ことができる。賦形剤の例としては、水、 理食塩水溶液、リンゲル液、デキストロー 溶液、各種緩衝液(リン酸バッファー、重炭 バッファー、トリスバッファー等)、乳糖、 デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、 糖等が挙げられる。崩壊剤としてはデンプ 、カルボキシメチルセルロース、炭酸カル ウム等を用いることができる。緩衝剤とし はリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用い ことができる。乳化剤としてはアラビアゴ 、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を いることができる。懸濁剤としてはモノス アリン酸グリセリン、モノステアリン酸ア ミニウム、メチルセルロース、カルボキシ チルセルロース、ヒドロキシメチルセルロ ス、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いるこ ができる。無痛化剤としてはベンジルアル ール、クロロブタノール、ソルビトール等 用いることができる。安定剤としてはプロ レングリコール、ジエチリン亜硫酸塩、ア コルビン酸等を用いることができる。保存 としてはフェノール、塩化ベンザルコニウ 、ベンジルアルコール、クロロブタノール メチルパラベン等を用いることができる。 腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラ キシ安息香酸、クロロブタノール等と用い ことができる。
 製剤化する場合の剤型も特に限定されない 、注射剤、外用剤又は座剤など、即効性の る製剤処方が好ましい。

 有効成分である各抗体の混合比は特に限定 れないが、典型的には、各抗体の存在量を 一とする(等モルずつ混合)。尚、当業者で れば、後述の実施例に示した中和試験と同 の試験を通して混合比を最適化することが きる。
 また、各抗体のクラスや形態などは任意で る。従って、異なるクラスの抗体が混在し 状態や、異なる形態の抗体が混在した状態 本発明の組成物が構成されていてもよい。
 本発明の組成物中の抗体濃度は、最終的な 与形態と投与スケジュールを鑑みた上で逆 的に決定することが好ましい。

 本発明の組成物の状態も特に限定されな 。例えば液状や乾燥状態(好ましくは凍結乾 燥躁状態)に本発明の組成物を調製する。例 ば凍結乾燥させる場合には、溶剤で溶解後 最終1mL中に有効成分として抗毒素力価500単 以上となるように濃度を調整した上で凍結 燥するとよい。尚、日本薬局法 医薬品各条 に掲げる生物学的製剤医薬品に記載の「乾燥 ボツリヌスウマ抗毒素(乾燥ボツリヌス抗毒 )」の項5.2 「小分容器の含有単位数」に従 、小分容器の含有単位数を抗毒素価10000単位 以上とするのが好ましい。

 本発明の組成物は、典型的には、ボツリ ス中毒疾患の治療と予防に用いられる。本 明の組成物はその形態に応じて経口投与又 非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、筋肉、 腹腔内注射、標的細胞への直接導入など)に って対象(患者)に適用される。

 本発明の組成物の投与量は症状、患者の 齢、性別、及び体重などによって異なるが 当業者であれば適宜適当な投与量を設定す ことが可能である。例えば、成人(体重約60k g)を対象として一回当たりの抗毒素の投与量 10000単位~100000単位となるように設定するこ ができる。投与量、スケジュールの設定に いては、ウマ抗毒素の場合に使用される量 スケジュール(日医雑誌第128巻・第1号/平成1 4(2002)年7月1日)を参考に、本発明組成物とウ 抗毒素の相対力価を鑑み、患者の病状や効 の持続時間などを考慮することができる。

 国際的な使用に適したものにするため、 ましくは、本発明の組成物の抗毒素力価は 際的な基準で評価される。日本薬局方 医 品各条に掲げる生物学的製剤医薬品に記載 「乾燥ボツリヌスウマ抗毒素(乾燥ボツリヌ 抗毒素)」の項 詳細は生物学的製剤基準の 乾燥ボツリヌスウマ抗毒素」3.2.7 「力価試 験」に準じて検定すれば、国際的な基準に基 づく抗毒素力価を算出することができる。

1.ボツリヌストキソイド免疫抗体ライブラリ の作製
1-1.ボツリヌストキソイドのヒトボランティ への接種
 各A,B,E及びF型菌を培養し、得られた毒素を 製して得た毒素を材料として、トキソイド 調製を行った。特にA型は現在治療用毒素と して使用されているクロストリジウム・ボツ リヌス97株(C. botulinum 97)または62A株(C. botulin um 62A)より産生された神経毒素を、B型神経毒 素で行われた方法(Infect. Immun. 18 : 761-766, 1 977)に準じて精製した。精製した各型毒素は ルマリンで不活化してアルミニウムアジュ ントと混合し沈降ABEF型多価混合トキソイド した。この多価トキソイドを基礎免疫とし 3-4週間隔で3回、さらに約12ヶ月後に1回を0.5 mLを皮下に注射した。さらに、10年後、20年後 に追加注射し、さらに以下の成分採血に際し て約3週間前にも同量を注射した。

1-2.抗体ライブラリーの作製
 ABEF型ボツリヌストキソイドを接種したヒト から、成分採血により3リットルの血液に相 する単核球成分血を分取(約50ml)した。PBSで2 希釈して血球を回収後、10ml/チューブで分 したFicoll Paque PLUS(GEヘルスケアバイオサイ ンス)上に重層し、400g、RT、30分の条件で遠 処理して単核球分画のみを再精製し、1.8x10 9 細胞を分画した。0.9x10 9 細胞を用いてtotal RNAの抽出(RNA Extraction Kit: マシャム)を行い、1.89mgを回収した。ランダ ムプライマーを用いてcDNAを調製後(Super Script  II:インビトロジェン)、抗体のH鎖(VH)に特異 なプライマー群(下記参照)と抗体のL鎖(VLCL: ッパ鎖、ラムダ鎖)に特異的なプライマー群 (下記参照)を用いて目的の抗体遺伝子を増幅 た。H鎖はpscFvCA-E8VHdベクターへ(SfiI-XhoIを利 )、L鎖はファージミドベクター(pFCAH9-E8d:再 01/062907参照、SfiI-AscIを利用)に組み込み、H鎖 ライブラリー、カッパ鎖ライブラリー及びラ ムダ鎖ライブラリーを得た。ライブラリーサ イズはH鎖ライブラリーが7.05x10 9 、カッパ鎖ライブラリーが5.87x10 8 、ラムダ鎖ライブラリーが5.05x10 8 であった。

(1)VHに特異的なプライマー群
 ヒト抗体重鎖遺伝子の取得用5'末端側プラ マー(VH1~VH7)と3’末端側プライマー(human JHプ ライマー4種(697~700)を等量混合したもの)
 各VH familyの増幅に使用したプライマー
 ヒトVHプライマー(SfiI siteを下線で示す)
628 hVH1a(配列番号81):GTCCTCGCAACTGC GGCC CAGCC GGCC ATGGCC
CAGGTGCAGCTGGTGCAGTCTGG
629 hVH2a(配列番号82):GTCCTCGCAACTGC GGCC CAGCC GGCC ATGGCC
CAGGTCAACTTAAGGGAGTCTGG
630 hVH3a(配列番号83):GTCCTCGCAACTGC GGCC CAGCC GGCC ATGGCC
GAGGTGCAGCTGGTGGAGTCTGG
631 hVH4a(配列番号84):GTCCTCGCAACTGC GGCC CAGCC GGCC ATGGCC
CAGGTGCAGCTGCAGGAGTCGGG
632 hVH5a(配列番号85):GTCCTCGCAACTGC GGCC CAGCCGGCCATGGCC
CAGGTGCAGCTGTTGCAGTCTGC
633 hVH6a(配列番号86):GTCCTCGCAACTGC GGCC CAGCC GGCC ATGGCC
CAGGTACAGCTGCAGCAGTCAGG
629-2 hVH2a-2(配列番号87):GTCCTCGCAACTGC GGCC CAGCC GGCC ATGGCC
CAGRTCACCTTGAAGGAGTCTGGTCC
631-2 hVH4a-2(配列番号88):GTCCTCGCAACTGC GGCC CAGCC GGCC ATGGCC
CAGGTGCAGCTACAGCAGTGGGG
632-2 hVH5a-2(配列番号89):GTCCTCGCAACTGC GGCC CAGCC GGCC ATGGCC
GAGGTGCAGCTGGTGCAGTCTGG
712 hVH7(配列番号90):GTCCTCGCAACTGC GGCC CAGCC GGCC ATGGCC
CAGGTGCAGCTGGTGCAATCTGGGTCTGAGT
 ヒトJHプライマー(BstPI, XhoI siteを下線で示 )
697 hJH1-2(配列番号91):GGTGGAGGCACTCGAGACGGTGACCAGGGTGC
698 hJH3(配列番号92):GGTGGAGGCACTCGAGACGGTGACCATTGTCC
699 hJH4-5(配列番号93):GGTGGAGGCACTCGAGACGGTGACCAGGGTTC
700 hJH6(配列番号94):GGTGGAGGCACTCGAGACGGTGACCGTGGTCC

(2)L鎖(VLCL:カッパ鎖、ラムダ鎖)に特異的なプ イマー群
 軽鎖遺伝子の取得用VLの5'側にアリールする プライマー(κ1~κ6、λ1~λ6)とCκ、Cλの3’側に リールするプライマー(hCKASCプライマーまた はhCLASCプライマー)
 L鎖(VLCL:カッパ鎖、ラムダ鎖)
 5’-プライマーκ1~κ6
hVK1a(配列番号95):GTCCTCGCAACTGC GGCCCAGCCGGCC ATGGCC GACATCCAGATGACCCAGTCTCC
hVK2a(配列番号96):GTCCTCGCAACTGC GGCCCAGCCGGCC ATGGCC GATGTTGTGATGACTCAGTCTCC
hVK3a(配列番号97):GTCCTCGCAACTGC GGCCCAGCCGGCC ATGGCC GAAATTGTGTTGACGCAGTCTCC
hVK4a(配列番号98):GTCCTCGCAACTGC GGCCCAGCCGGCC ATGGCC GACATCGTGATGACCCAGTCTCC
hVK5a(配列番号99):GTCCTCGCAACTGC GGCCCAGCCGGCC ATGGCC GAAACGACACTCACGCAGTCTCC
hVK6a(配列番号100):GTCCTCGCAACTGC GGCCCAGCCGGCC ATGGCC GAAATTGTGCTGACTCAGTCTCC
 5’-プライマーλ1~λ6
hVL1(配列番号101):GTCCTCGCAACTGC GGCCCAGCCGGCC ATGGCC CAGTCTGTGTTGACGCAGCCGCC
hVL2(配列番号102):GTCCTCGCAACTGC GGCCCAGCCGGCC ATGGCC CAGTCTGCCCTGACTCAGCCTGC
hVL3a(配列番号103):GTCCTCGCAACTGC GGCCCAGCCGGCC ATGGCC TCCTATGTGCTGACTCAGCCACC
hVL3b(配列番号104):GTCCTCGCAACTGC GGCCCAGCCGGCC ATGGCC TCTTCTGAGCTGACTCAGGACCC
hVL4(配列番号105):GTCCTCGCAACTGC GGCCCAGCCGGCC ATGGCC CACGTTATACTGACTCAACCGCC
hVL5(配列番号106):GTCCTCGCAACTGC GGCCCAGCCGGCC ATGGCC CAGGCTGTGCTCACTCAGCCGCC
hVL6(配列番号107):GTCCTCGCAACTGC GGCCCAGCCGGCC ATGGCC AATTTTATGCTGACTCAGCCCCA
 3’-プライマー hCKASC(配列番号108):TCGACT GGCGCGCC GAACACTCTCCCCTGTTGAAGCTCTTTGTG
 3’-プライマーHCLASC(配列番号109):TCGACT GGCGCGCC GAACATTCTGTAGGGGCCACTGTCTTCTC

 H鎖ライブラリーからH鎖遺伝子をHindIII、XhoI で切り出し、カッパ鎖ライブラリーとラムダ 鎖ライブラリーを等モル混合して作製したL ライブラリーへ組み込み、最終的にライブ リーサイズが1.3x10 10 の抗ボツリヌス毒素スクリーニング用Fab型抗 体ライブラリーを得た(図1)。抗体の種類はVH CDR3の多様性によって生み出されており、今 回作製した巨大な抗体ライブラリーは、単離 した抗体遺伝子の多様性を十分にカバーして いるものと考えられる。

2.A型ボツリヌストキソイドとボツリヌス毒素 の無毒成分タンパク質とを使用した抗体ライ ブラリーのスクリーニング
2-1.スクリーニング実験1
(1)特異的クローンの選択・回収
 中和抗体を取得するには、神経毒の活性を するニューロトキシン部位に結合する抗体 スクリーニングすることが理想となる。し し献血ボランティアには毒素全長で作製し トキソイドを免疫しており、無毒成分タン ク質に結合する抗体(ここでは不要な抗体) 体内で産生されている。また、神経毒の活 を有するニューロトキシンの入手も制限さ ている。そこで、最初に無毒成分タンパク とヒト抗体ライブラリーを反応させて不要 抗体を無毒成分タンパク質に吸収させた後 反応上清を回収し、続いてボツリヌストキ イドと無毒成分タンパク質に吸収されなか たヒト抗体ライブラリー反応させるという クリーニング戦略を採用した。

 まずマイクロカップ(Nunc社製、Maxisorp)6well分 にPBSで10μg/mlの濃度に調製したボツリヌスト ソイド及び無毒成分タンパク質を各々100μl つ分注し、4℃通夜反応させて固相化した。 溶液を除去後、1% BSA/PBSを200μlずつ分注して3 7℃、1時間でブロッキングした。作製したヒ 抗体ライブラリー1.0x10 13 クローン当量を、まず最初に無毒成分タンパ ク質を固相化したマイクロカップに分注(130μ l/well)して、37℃、2時間反応させた。その後 反応上清を回収して改めてボツリヌストキ イドを固相化したマイクロカップに分注し 、37℃、2時間反応させた。反応終了後、反 液を除去し、PBSで5回洗浄した。0.1M HCl(グリ シンを溶解してpH2.2に調製)を100μl/well分注し 室温で15分反応させ、抗原に結合したファ ジ抗体を回収した。
 これをOD 0.5の大腸菌DH12S 20mlに1時間感染さ せ、60mlのSBGA培地(SB培地(MOPS 10g、Tryptone 30g びYeast Extract 20gを溶解し、3N NaOHでpH 7へ調 整した後、最終溶液量を1リットルとしたも )に最終濃度として125μg/ml ampicillin sulfateと0 .5% glucoseを添加したもの)に添加して37℃、2 間培養後、500mlのSBA培地に添加して更に37℃ 2時間培養した。続いて、ヘルパーファージ KO7を1x10 12 当量添加し、37℃にて2時間培養した後、カナ マイシンを終濃度50μg/mlになるよう添加し、3 0℃、18時間培養した。これを8000rpmにて10分間 遠心処理して上清を回収し、それに110mlのPEG (20% polyetyleneglycol 6000, 2.5M NaCl)を混ぜてよ くかきまぜた後、8500rpm、15分間の遠心処理を 行い、ファージを沈殿させた。これを2.5mlのP BSに懸濁し、その一部を使用して大腸菌感染 を調べた。このようにして1stスクリーニン のファージ(1stファージ)を得た。
 2ndスクリーニングは、1stファージ400μlを使 すること及びPBSの洗浄回数を20回にするこ 以外、1stスクリーニングと同じ条件で実施 た。3rdスクリーニングは、2ndファージ400μl 使用する以外、2ndスクリーニングと同じ条 で実施した。3rdスクリーニングの後、46クロ ーンをピックアップした。

(2)抗体クローンの塩基配列決定
 スクリーニングによって得られた大腸菌を 釈し、ampicillin(100μg/ml)を添加した普通寒天 地に蒔いた。得られたコロニーをピックア プ(上記(1)の46クローンに相当)して2xYTGA培地 にて30℃通夜培養後、PI-50(倉敷紡績株式会社) にてDNAを抽出し、ジデオキシ法で塩基配列を 決定した。

(3)各抗体クローンのcp3融合型タンパクの発現 ・調製
 スクリーニングによって得られた大腸菌を 釈し、ampicillin(100μg/ml)を添加した普通寒天 地に蒔いた。得られたコロニーをピックア プ(上記(1)の46クローンに相当)して2xYTGA培地 にて30℃通夜培養後、20μlを2mlの0.05% Glucose 2 xYTA(2xYT, 100μg/ml ampicillin sulfate,0.05% Glucose) 接種した。30℃、3時間培養後、1M IPTGを20μl 加し、さらに20時間培養した。次に、マイ ロ遠心機にて15000rpm、5分間遠心処理し、上 を回収した。上清中には各抗体クローンのcp 3融合型タンパク質が含まれる。この上清を いてトキソイドや無毒成分とのELISAを行った 。

(4)ボツリヌストキソイド及び無毒成分とのELI SA反応
 ボツリヌストキソイド及び無毒成分タンパ 質を用いたELISAで抗体の結合能を判定した ボツリヌストキソイドにのみ反応する抗体 単離目的の抗体(即ち中和抗体)となる。
 まず、マイクロカップ(Nunc社、Maxisorp)にPBS 10μg/mlの濃度に調製したボツリヌストキソイ ド及び無毒成分タンパク質を各々100μlずつ分 注し、4℃通夜反応させて固相化した。溶液 除去後、1% BSA/PBSを200μlずつ分注して37℃、1 時間でブロッキングした。(3)で得た上清(抗 のcp3融合型タンパク質を含む)を100μlずつ分 し、37℃にて1時間反応させた。溶液を除去 た後、PBSで洗浄し、PBSで2.5μg/mlに希釈した サギ抗cp3抗体(MBL)を37℃にて1時間反応させ 。溶液を除去した後、PBSで洗浄し、PBSで10000 倍希釈したHRP標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(MBL)を3 7℃にて1時間反応させた。溶液を除去した後 PBSで洗浄し、100μlのOPD液を室温にて5分反応 させた。2N硫酸にて反応を停止し、SPECTRAmax 3 40PC(Molecular Devices)にて492nmの吸光度を測定し 。
 以上のようにして、(1)で回収した46クロー の結合能を調べた結果、40クローン(アミノ 配列が相違するものとして22種類)がボツリ ストキソイドに対して反応性を示した。ま 、ボツリヌス毒素の無毒成分タンパク質に しては19種類が反応した。

(5)抗体タンパク質の調製
 一方、上記ボツリヌストキソイドを抗原と たスクリーニングで得られた抗体のうち、 ツリヌス毒素の無毒成分タンパク質に対し は反応性を示さないが、ボツリヌストキソ ドには反応する抗体は3種類であった(図2)。 尚、無毒成分タンパク質に対するABS<0.2を 定基準とした。矢印で示したBT-015、37、39、4 4のうち、BT-037と無毒成分タンパク質と反応 るBT-014はアミノ酸配列が同一であった)。こ らのファージミドDNAを制限酵素SalIにて消化 後、自己再結合させてProteinA融合型抗体(Fab-pp 型抗体)に変換し、それを用いてDH12Sを形質転 換した。形質転換後、25mlの2xYTGAにて30℃通夜 培養した。この培養液20mlを2リットルの2xYTA 混ぜて3時間培養した後、2mlの1M IPTGを加え30 ℃で20時間培養した。培養液を4℃、8000rpm、10 分間の遠心処理に供し、上清を回収した。回 収した上清に1122gの硫酸アンモニウムをゆっ り加えて室温にて1時間かき混ぜた後、4℃ 8500rpm、30分間の遠心処理に供した。沈渣を10 0mlのComplete(Roche社製)入りPBSに懸濁した。続い てPBSに対して4℃で通夜透析後、4℃、10000rpm 10分間の遠心処理に供した。上清を回収し、 それを3mlのIgGセファロース(GEヘルスケアバイ オサイエンス)を充填したカラムに添加し、 温にてカラム内を自然滴下で通過させた。30 0mlのPBSでカラムを洗浄した後、6mlの0.2Mグリ ン(pH3)、3mlの0.2Mグリシン(pH2.5)、10mlの0.2Mグ シン(pH3)で溶出した。溶出液を各々2M Trisに pHを7.0に調整した後、透析濃縮用チューブ(M illipore 社製、Amicon Ultra-15、4℃、5530rpm回転) 入れ、PBSに対して透析し、濃縮した。その SDS-PAGEを行い、タンパク濃度を算出した。

(6)動物試験による抗体の評価
 単離・調製したFab-pp型抗体を毒素と混合し 皮下投与した後、マウスの麻痺等の症状を 察するという、半定量的な試験法によって 抗体の中和能を評価した。方法は参考文献( M. Takahashi et al., International Journal of Food M icrobiology, 11, 271-278, 1990. Jpn. J. Med. Sci. Bi ol., 43. 163-170, 1990)に準じた。比較対照とし 、A型ボツリヌス毒素抗毒素日本標準品(10単 位/ml)を10倍希釈してストック溶液とした抗毒 素原液(1単位/ml)を、更にPBSで3倍ずつ6段階希 したものを調製した(以下「標準希釈」とい う)。一方、(5)で得た抗体溶液をPBSで5倍希釈 て抗体原液とし、更に5倍ずつ4段階希釈し ものを検体(以下「検体希釈液」という)とし た。
 また、ボツリヌス神経毒素(3.8×10 5 LD50/ml)を400倍希釈してストック溶液(950LD50/ml) し、更に500倍希釈して試験毒素(1.9LD50/ml)を 製した。試験毒素0.25mlと、各標準希釈及び 体希釈液0.25mlを正確に採り、よく混合して 温で1時間反応させた後、1群2匹のマウスの 下へ0.2mlずつ接種し、3日間観察した。試験 のマウスの臨床症状(完全緩解、麻痺の程度 )により、検体の力価を判定した。その結果 BT-015が中和能を示した(図3)。

2-2.スクリーニング実験2
 スクリーニング実験1で取得した抗体のうち 、ネガティブと判断された(無毒素部位にも 応する抗体)19クローンの抗体タンパク質を 合したものを以下の方法で調製した。
 まず、当該19クローンのDNAを混合し、制限 素SalIにて消化後、自己再結合させてFab-pp型 体に変換し、それを用いてDH12Sを形質転換 た。形質転換後、100mlの2xYTGAにて30℃通夜培 した。この培養液40mlを4リットルの2xYTAに混 ぜて3時間培養した後、4mlの1M IPTGを加えて30 で20時間培養した。培養液を4℃、8000rpm、10 間の遠心処理に供し、上清を回収した。回 した上清に2244gの硫酸アンモニウムをゆっ り加えて室温にて1時間かき混ぜた後、4℃、 8500rpm、30分間の遠心処理に供した。沈渣を200 mlのComplete(Roche社製)入りPBSに懸濁した。続い 、PBSに対して4℃で通夜透析後、4℃、10000rpm 、10分間の遠心処理に供した。上清を回収し それを3mlのIgGセファロース(GEヘルスケアバ オサイエンス)を充填したカラムに添加し、 室温にてカラム内を自然滴下で通過させた。 500mlのPBSでカラムを洗浄した後、6mlの0.2Mグリ シン(pH3)、3mlの0.2Mグリシン(pH2.5)、10mlの0.2Mグ リシン(pH3)で溶出した。溶出液を各々2M Tris てpHを7.0に調整した後、透析濃縮用チューブ (Millipore 社製、Amicon Ultra-15、4℃、5530rpm回転 )に入れ、PBSに対して透析し、濃縮した。そ 後SDS-PAGEを行い、タンパク濃度を算出した。

 以上の方法で調製した抗体ミックスタン ク質を230μg/mlで添加して抗原をマスクした (図4を参照)、スクリーニング実験1と同様の 方法でスクリーニングを実施した。その結果 、46クローンが回収された。各抗体クローン ELISAで解析した結果、トキソイド特異的に 応する新規抗体クローンが27種類含まれてい ることが明らかとなった。このように、抗原 をマスクすることで、無毒素部位に反応する 抗体は大幅に減少し(2/46)、スクリーニング効 率は上昇した(図5の下(4th))。

2-3.スクリーニング実験3
 スクリーニング実験1の3rdスクリーニングで ネガティブと判断したクローンの数が多いこ とから、この段階で既に偏りが生じ、中和抗 体の存在比率が低くなっていると考えた。そ こで、スクリーニングの途中段階である2ndス クリーニング後のファージ抗体(2ndファージ) 用いてスクリーニング(3rd-2)を実施した。ま ずマイクロカップ(Nunc社製、Maxisorp)6well分にPB Sで10μg/mlの濃度に調製したボツリヌストキソ イドを100μlずつ分注し、4℃通夜反応させて 相化した。溶液を除去後、1% BSA/PBSを200μlず つ分注して37℃、1時間でブロッキングした。 ブロッキング溶液除去後、2-2.で調製した抗 ミックスタンパク質を30μg/wellで分注して37 、1時間反応させて抗原をマスクした。抗体 ンパク質溶液を除去後、2ndファージ3.6x10 13 当量と2-2.で調製した抗体ミックスタンパク 180μgを混合した後、マイクロカップに分注 て、37℃、2時間反応させた。以後の操作は 記スクリーニング実験1と同様とした。

 最終的に46クローンをピックアップし、そ らの結合能をELISAで確認した。その結果、ト キソイド特異的に反応する新規クローンは20 類であった。抗原をマスクすることで、無 素部位に反応する抗体は大幅に減少し(1/46) スクリーニング効率は上昇した(図5の上、3r d-2)。
 これら各抗体クローンから抗体タンパク質 調製し、毒素の中和試験を実施した。その 果、二つのクローン(BT-058、BT-047)が中和活 を示したが、それらのH鎖のアミノ酸配列は スクリーニング実験1で取得したクローンBT- 015のそれとほぼ同一であった(図6)。従って、 これら3クローンのエピトープは同じである 予想される。

2-4.スクリーニング実験4(抗体集団共存による 集団的排除と、抗体共存による同一クローン 排除の同時実施)
 ネガティブと判断した抗体をスクリーニン 系に共存させることでトキソイド特異的な 体クローンが効率的に取得されるように改 されたものの、スクリーニング実験1で取得 した抗体クローンBT-015と同一又は類似の抗体 クローンしか取得できなかった。そこで、新 規抗体クローンを取得するため、ネガティブ と判断した抗体クローン19種の抗体タンパク に加えて抗体クローンBT-015の抗体タンパク も共存させることで、これらの抗体クロー のエピトープをマスクするという戦略をと ことにした(4th-2スクリーニング)。
 まず、マイクロカップ6well分にPBSで10μg/mlの 濃度に調製したボツリヌストキソイドを100μl ずつ分注し、4℃通夜反応させて固相化した 溶液を除去後、1% BSA/PBSを200μlずつ分注して 37℃、1時間でブロッキングした。ブロッキン グ溶液除去後、2-2.で調製した抗体ミックス ンパク質と抗体クローンBT-015から調製した 体タンパク質を分注し(各々30μg/well)、て37℃ 、1時間反応させて抗原をマスクした。抗体 ンパク質溶液を除去後、スクリーニング実 3で得たファージ(3rd-2ファージ)7.2x10 12 当量と2-2.で調製した抗体ミックスタンパク 180μg及び抗体クローンBT-015から調製した抗 タンパク質180μgを混合した後、マイクロカ プに分注して37℃、2時間反応させた。以後 操作は上記スクリーニング実験1と同様とし 。

 94クローンをピックアップし、それらの 合能をELISAで確認したところ、全てがトキソ イド特異的に反応した(図7)。これらのクロー ンの内、新規アミノ酸配列をもつクローンは 26種類であった。また、抗体クローンBT-015と 一若しくは類似の抗体は含まれていなかっ 。尚、以上のスクリーニング過程を図9に示 す。

 続いて、毒素と混合して皮下投与したとき マウスの生死・麻痺等の症状を観察すると う、簡易的な試験法によって各抗体クロー の中和能を評価した。具体的な試験法は参 文献(日本生物学的製剤基準 厚生労働省)に 準じた。試験には、各抗体クローンから調製 したFab-pp型抗体を使用した。比較対照として 、A型ボツリヌス毒素抗毒素日本標準品(10単 /ml)を10倍希釈してストック溶液とした抗毒 原液(1単位/ml)をPBSで希釈して0.1単位/mlとし ものと更に2倍ずつ5段階希釈したものを調製 した(以下「標準希釈」という)。検体には調 した原液をそのまま使用した。
 ボツリヌス神経毒素を400倍希釈してストッ 溶液(950LD50/ml)とし、更に10倍希釈して試験 素(95LD50/ml)を作製した。試験毒素0.25mlと、各 標準希釈及び検体0.25mlを正確に採り、よく混 合して室温で1時間反応させた後、1群2匹のマ ウスの皮下へ0.2mlずつ接種し、4日間観察した 。試験群のマウスの臨床症状(完全緩解、麻 の程度)により、検体の力価を判定した。そ 結果、抗体クローンBT-175が中和能を示した( 図8)。

2-5.スクリーニング実験5(A型ボツリヌスニュ ロトキシンを用いたスクリーニング)
 クロストリジウム・ボツリヌス62A株より、 献INFECTION AND IMMUNITY, Vol. 12, No. 6 Dec. 197 5, p. 1262-1270に従い、精製したボツリヌス毒 より無毒成分タンパク質を除去して調製し ニューロトキシン(毒素の活性中心150kDa)を 製した。これを抗原としたスクリーニング 実施し、抗体クローンBT-015、BT-175とは異な エピトープを認識する中和抗体の取得を試 た。
 まず、マイクロカップ6well分にPBSで10μg/mlの 濃度に調製したボツリヌスニューロトキシン を100μlずつ分注し、4℃通夜反応させて固相 した。溶液を除去後、1% BSA/PBSを200μlずつ分 注して37℃、1時間でブロッキングした。ブロ ッキング溶液除去後、ヒト抗体ライブラリー 1.0×10 13 を分注(130μl/well)して、37℃、2時間反応させ 。以後の操作は上記スクリーニング実験1と 一とした(4thスクリーニングまで実施した。 4thスクリーニングでは3rdファージ400μlを使用 した)。
 4thスクリーニングを実施後、188クローンを ックアップし、それらの結合能をELISAで確 した結果、トキソイド特異的に反応するク ーンは6種類であった(図10、11)。その中には これまでに取得した2種類の抗体クローン(BT -015、BT-0175)と同一又は類似のクローンが数多 く含まれていた(BT-015については6クローン、B T-175については5クローン)。

2-6.スクリーニング実験6(BT-015とBT-175抗体共存 による同一クローン排除)
 ニューロトキシンを抗原としたスクリーニ グ(2-5.)でも数多く取得された抗体クローン( BT-015又はBT-175と同一又は類似のクローン)を 除することを目的として更にスクリーニン 実験を実施した。
 まず、マイクロカップ8well分にPBSで10μg/mlの 濃度に調製したニューロトキシンを100μlずつ 分注し、4℃通夜反応させて固相化した。溶 を除去後、1% BSA/PBSを200μlずつ分注して37℃ 1時間でブロッキングした。ブロッキング溶 液除去後、抗体クローンBT-015及びBT-175から調 製した抗体タンパク質を分注し(各々30μg/well) 、37℃、1時間反応させて抗原をマスクした。 抗体タンパク質溶液を除去後、スクリーニン グ実験5の3rdスクリーニングで得られたファ ジ(3rdファージ)2.0x10 13 と抗体クローンBT-015及びBT-175から調製した抗 体タンパク質(各180μg)を混合した後、マイク カップに分注して、37℃、2時間反応させた 188クローンをピックアップし、それらの結 能をELISAで確認したところ、ニューロトキ ン特異的に反応する新規クローンは24種類で あった(図12、13)。尚、以上のスクリーニング 過程を図15に示す。

2-7.動物試験による抗体の評価
 ニューロトキシンを抗原としたスクリーニ グ(スクリーニング実験5及び6)で取得された 30種類の抗体クローンからFab-pp型抗体を調製 た。各Fab-pp型抗体について、毒素と混合し 皮下投与してマウスの生死・麻痺等の症状 観察するという、試験法によって中和能を 断した。試験法は参考文献(生物学的製剤基 準 厚生労働省 日本薬局方)に準じ、検体の 価は日本標準品に対する相対価として求め 。A型ボツリヌス抗毒素日本標準品(10単位/ml )を10倍希釈してストック溶液とした抗毒素原 液(1単位/ml)をPBSで希釈して0.1単位/mlとしたも のと更に2倍ずつ5段階希釈したものを調製し (以下「標準希釈」という)。検体には調製 た原液をそのまま使用した。
 また、ボツリヌス神経毒素を400倍希釈して トック溶液(950LD50/ml)とし、更に10倍希釈し 試験毒素(95LD50/ml)を作製した。試験毒素0.25ml と、各標準希釈及び検体0.25mlを正確に採り、 よく混合して室温で1時間反応させた後、1群2 匹のマウスの皮下へ0.2mlずつ接種し、40日間 察した。試験群のマウスの臨床症状(完全緩 、麻痺の程度)により、検体の力価を判定し た。その結果、4種類の抗体クローン(NT-221、N T-320、NT-523、NT-539)が中和能を示した(図14)。

3.抗体の配列の比較
 以上のスクリーニング(スクリーニング実験 1~6)で取得された抗体の配列情報を以下に示 。尚、図16では、これらの抗体(但し、BT-015 類似クローンであるBT-047及びBT-058を除く)の ミノ酸配列を比較するとともに、Germlineと 相同性を示した。

(1)BT-015
(アミノ酸配列)
 VH CDR1:配列番号1
 VH CDR2:配列番号2
 VH CDR3:配列番号3
 VH:配列番号4
 VL CDR1:配列番号5
 VL CDR2:配列番号6
 VL CDR3:配列番号7
 VL:配列番号8
(塩基配列)
 VH:配列番号65
 VL:配列番号66

(2)BT-047
(アミノ酸配列)
 VH CDR1:配列番号9
 VH CDR2:配列番号10
 VH CDR3:配列番号11
 VH:配列番号12
 VL CDR1:配列番号13
 VL CDR2:配列番号14
 VL CDR3:配列番号15
 VL:配列番号16
(塩基配列)
 VH:配列番号67
 VL:配列番号68

(3)BT-058
(アミノ酸配列)
 VH CDR1:配列番号17
 VH CDR2:配列番号18
 VH CDR3:配列番号19
 VH:配列番号20
 VL CDR1:配列番号21
 VL CDR2:配列番号22
 VL CDR3:配列番号23
 VL:配列番号24
(塩基配列)
 VH:配列番号69
 VL:配列番号70

(4)NT-221
(アミノ酸配列)
 VH CDR1:配列番号25
 VH CDR2:配列番号26
 VH CDR3:配列番号27
 VH:配列番号28
 VL CDR1:配列番号29
 VL CDR2:配列番号30
 VL CDR3:配列番号31
 VL:配列番号32
(塩基配列)
 VH:配列番号71
 VL:配列番号72

(5)BT-175
(アミノ酸配列)
 VH CDR1:配列番号33
 VH CDR2:配列番号34
 VH CDR3:配列番号35
 VH:配列番号36
 VL CDR1:配列番号37
 VL CDR2:配列番号38
 VL CDR3:配列番号39
 VL:配列番号40
(塩基配列)
 VH:配列番号73
 VL:配列番号74

(6)NT-320
(アミノ酸配列)
 VH CDR1:配列番号41
 VH CDR2:配列番号42
 VH CDR3:配列番号43
 VH:配列番号44
 VL CDR1:配列番号45
 VL CDR2:配列番号46
 VL CDR3:配列番号47
 VL:配列番号48
(塩基配列)
 VH:配列番号75
 VL:配列番号76

(7)NT-523
(アミノ酸配列)
 VH CDR1:配列番号49
 VH CDR2:配列番号50
 VH CDR3:配列番号51
 VH:配列番号52
 VL CDR1:配列番号53
 VL CDR2:配列番号54
 VL CDR3:配列番号55
 VL:配列番号56
(塩基配列)
 VH:配列番号77
 VL:配列番号78

(8)NT-539
(アミノ酸配列)
 VH CDR1:配列番号57
 VH CDR2:配列番号58
 VH CDR3:配列番号59
 VH:配列番号60
 VL CDR1:配列番号61
 VL CDR2:配列番号62
 VL CDR3:配列番号63
 VL:配列番号64
(塩基配列)
 VH:配列番号79
 VL:配列番号80

4.抗体の解析
4-1.IgG抗体の調製
 Fab-pp型抗体に中和活性が観察された抗体ク ーン(BT-015、BT-175、NT-221、NT-320、NT-523)からIg G抗体を調製した。まず、各抗体クローンに いて、VHをコードする遺伝子断片をヒトγ1鎖 定常領域DNAとライゲートした後、発現ベクタ ー「BCMGS Neoベクター」(烏山一「ウシパピロ マウイルスベクター」,村松正実および岡山 博人編,実験医学別冊遺伝子工学ハンドブッ ,羊土社,pp.297-299(1991)に組み込み、定常領域 伴ったH鎖ベクターを作製した。同様に、各 体クローンのL鎖全長遺伝子をベクターに組 み込み、L鎖発現抗体発現ベクターとした。
 抗体発現ベクターをチャイニーズハムスタ 細胞株CHO-K1にリポフェクチン法を用いてト ンスフェクトし、37℃で所定時間培養した 、96穴プレートに移植し高発現の細胞を選択 した。選択した各細胞を無血清培地(CHO-S-SFM  II:Invitrogen 社製、1% (v/v) Penicillin - Streptomyc in Solution:Sigma-Aldrich 社製、700 &micro;g/ml G 418:Sigma-Aldrich 社製)を使用し、大量培養フラ コ(Becton
Dickinson 社製
CELLine 1000 Flask)で2週間培養した。培養上清 回収し、Protein G結合アフィニティカラムへ した。カラムをPBSで洗浄後、グリシン塩酸 衝液(pH 2.7)で溶出し、トリス塩酸緩衝液(pH8 .9)で中和した。続いて、溶出液を透析濃縮用 チューブ(Millipore 社製、Amicon Ultra-15)に入れ PBSに対して透析して濃縮した。このように て得られたIgG型抗体を以降の実験に用いた

4-2.Biacoreによる結合定数解析
 解析には、Biacore3000バイオセンサー装置を 用した。まず、ニューロトキシン88ORUをセン サーチップ(CM5)に固相化後、Fab-PP型或いはIgG 抗体を順次濃度を変えて(1.9nM~1μM)インジェ ション(40μl、2分間)した。解析結果を図17(BT -015のFab-PP型抗体)、図18(BT-015のIgG型抗体)、図 19(BT-175のFab-PP型抗体)、図20(BT-175のIgG型抗体) 図21(NT-221のFab-PP型抗体)、図22(NT-320のFab-PP型 抗体)に示す。解析の結果、何れも強い結合 を有する抗体であった。

4-3.Biacoreによるエピトープ解析
 A型ボツリヌス毒素に対して中和活性を示し た6種類の抗体クローン(BT-015、BT-175、NT-221、N T-320、NT-523、NT-539)のFab-PP型抗体を調製し、そ れを用いてBiacoreにる競合実験を行った。ニ ーロトキシン800RUをセンサーチップ(CM5)に固 化後、以下の濃度で抗体を順次インジェク ョンし、競合の有無を測定した。インジェ ションは40μl(2分間)ずつ流した。すべての 析実験は、HBS-EP流速20μl/min HBS-EP(Biacore)中、 25℃にて行った。再生は100mM Glycine-HCl(pH2.0)を 20μl(流速60μl/min、20秒間)で行った。

 Biacoreによる競合実験の結果を図23~27に示す 一方、ELISAによって抗体間の競合の有無を 認した。ELISAの結果から、BT-015とNT-221は競合 しないことと、BT-175とNT-221が競合することが 確認された。Biacore及びELISAの結果を総合的に 判断した結果、6種類の抗体はエピトープの いによって4カテゴリーに分類された。なお BT-047とBT-058のH鎖のアミノ酸配列は、クロー ンBT-015のそれとほぼ同一であり、これら3ク ーンのエピトープは同じであると予想され 。

4-4.中和試験(IgG抗体による中和試験。L+/20レ ル)
 各抗体クローンから調製したIgG型抗体を用 、生物学的製剤基準に則して中和試験を行 た。
 まず、ボツリヌスA型国内標準品を希釈し、 0.25ml中に0.050単位を中心に試験精度を考慮し 適当な間隔濃度単位を含む5段階希釈(以下 標準希釈」という)を作製した。また、IgG型 体を希釈し、同様の希釈(以下「被検希釈」 という)を作製した。更に、A型試験毒素を希 し、0.25ml中に1試験毒素量を含む液(以下「 素希釈」という)を作製した。各標準希釈及 被検希釈のそれぞれと各毒素希釈との等量 つを正確に採り、よく混ぜて1時間放置した 。23~29日齢のマウス4匹を1群として、各混合 につき1群ずつを用い、1匹当たり混合液0.5ml 腹腔内に注射して3日間観察し、標準品に対 する相対値を計算した。

 6種類の抗体クローンの内、IgG型抗体の発現 が良好で調製が容易であった5種類の抗体ク ーン(BT-015、BT-175、NT-221、NT-320、NT-523)では、 IgG型抗体を単独投与したときに完全な中和が 認められなかった。そこで、A型ボツリヌス 素を完全に中和できる、抗体の組合せを見 すべく抗毒素製剤評価試験を実施した。即 、単独投与よりも混合することで相乗効果 示すことが判明しており、且つエピトープ 明らかに異なるBT-015とBT-175を基礎とした種 の組合せ(検体)を用意し(表3)、中和活性を比 較した。

 1mg/mlに調製した抗体を等量混合して調製し 抗体溶液を検体原液とした。検体原液を3倍 ずつ段階希釈して81倍希釈までの検体希釈液 作製した。検体希釈液0.25mlにPBS 0.38mlを加 て0.63mlとし、試験毒素0.63mlとよく混合して 温で1時間反応させた後、1群2匹のマウスの 腔内へ0.5mlずつ接種し、40日間観察した。
 比較対照はA型ボツリヌス抗毒素日本標準品 (10単位/ml)とし、PBSで希釈して0.50単位/mlを中 に試験精度を考慮した適当な間隔濃度単位 含む5段階希釈(以下「標準希釈」という。 4)を作製した。またそれぞれの抗毒素に対応 するボツリヌス神経毒素を希釈して試験毒素 (214ipLD50/ml)を作製した。試験毒素0.63mlと、各 準希釈及び検体希釈液0.63mlを正確に採り、 く混合して室温で1時間反応させた後、1群2 のマウスの腹腔内へ0.5mlずつ接種し、40日間 観察した。検体の力価は日本標準品に対する 相対価として求めた。

 中和試験の結果(図28)、次の3種類の抗体、 ちBT-015、BT-175及びNT-320を混合(サンプル6)す ことで完全中和に成功し、最も強い活性を したのは次の4種類の抗体、即ちBT-015、BT-175 NT-320及びNT-523を混合した場合(サンプル4)で った。4種類の抗体を併用した場合の活性は 12単位/mg(=12単位/ml)であった。一方、BT-015、BT -175及びNT-523を混合した場合(サンプル7)も高 中和活性を示した。また、これら3種類の抗 にNT-221を混合すると(サンプル3)中和活性が 上することが示唆された。
 尚、現行の治療用乾燥ボツリヌスウマ抗毒 (A, B, E, F 4種混合)にはA型毒素抗体が10000 位/vial含まれており、4種類の抗体で代替す 場合は各抗体を約210mgずつ混合することで 等の活性が得られることになる。

4-5.ELISAによる抗体のエピトープ解析と毒素亜 型A2毒素に対する反応性
 6種類の中和抗体(BT-015, BT-175, NT-221、NT-320, NT-523, NT-539)のエピトープをより詳細に解析 、またその亜型であるA2型のニューロトキ ン(CHIBA-H)に対する反応性も同時に確認する め、以下に示す各抗原を用いてELISAを実施し た。
 ・A型毒素 62A ニューロトキシン(NT)(BoNT/A1)
 ・ニューロトキシン重鎖(H chain)
 ・ニューロトキシン軽鎖(L chain)
 ・A2亜型毒素 ニューロトキシン CHIBA-H(BoNT/ A2)

 操作手順は次の通りである。各抗原をPBSで 釈(NT:10μg/ml、H chain:7μg/ml、L chain:3.5μg/ml) 、100μl/wellでマイクロプレートに分注した。 37℃で2時間反応後、溶液を除去した。続いて 、PBSで0.5%に希釈したBSAで通夜反応させてブ ッキングした。溶液を除去した後、以下の 度に段階希釈した6種類のIgG型中和抗体を各 100μl/wellで分注し、2時間反応させた。尚、 下の通り、予備実験によって抗体毎に最適 希釈濃度を設定した。
 ・BT-015, BT-175, NT-221:1μg/ml、0.5μg/ml、0.25μg/ ml、0.125μg/ml
 ・NT-320, NT-523, NT-539:10μg/ml、5μg/ml、2.5μg/ml 、1.25μg/ml

 次に、PBSで洗浄した後、PBSで20000倍希釈 たHRP標識ヤギ抗ヒトIgG抗体(BIO-RAD)を37℃にて 2時間反応させた。溶液を除去した後、PBSで 浄し、150μlのOPD液(o-phenylendiamine 0.4 mg/ml)を3 7℃にて30分反応させた。5N硫酸を50μl添加し 反応を停止し、492nmの吸光度を測定した。測 定結果を図29の表に示す。尚、2ウエルの平均 値からネガティブコントロール(無関係な抗 )のヒトIgG(各濃度)のOD値を引いた値を示した 。また、OD値が3.5以上の場合は測定不能であ 、表では「>3.500」と記載した。NDはnot det erminedを表す。

 図29に示した結果は以下の通り解釈された
 ・NT-320はH chainを認識しているためNT-320の ピトープはH chain上に存在している。
 ・NT-523はH chain、L chain両方に反応した。
 ・その他4種類はH chain、L chainのいずれと 反応しなかった。
 ・BT-015, BT-175, NT-539はBoNT/A1、BoNT/A2に対し 同程度の反応性を有している。
 ・NT-221, NT-320, NT-523はBoNT/A2に対する反応性 がBoNT/A1に比較して低下している。

 以上の解釈を総合すると、A2毒素の中和 はNT-523よりもNT-539の方が優れている可能性 示唆された。

4-6.イムノブロッティングによるエピトープ 析
 続いて、ニューロトキシン(NT)及び重鎖C末 側の神経細胞結合ドメイン(Hc、大腸菌リコ ビナントタンパク質)に対してイムノブロッ ィングによるエピトープ解析を行った。ア リルアミドの濃度が10%のゲルを用いてSDS-PAG Eを行い(ニューロトキシン:1.5μg/lane、Hc:0.5μg/ lane)、メンブレンに転写・ブロッキング後、2 種類の濃度(50μg/ml(実線のレーン)、5μg/ml(破 のレーン)に希釈し、6種類のIgG型中和抗体を 各々200ulずつ反応させた。PBSで洗浄し、PBSで2 0000倍希釈したHRP標識ヤギ抗ヒトIgG抗体を反 させた。PBSで洗浄し、発色基質にDABを用い 検出した(図30)。

 重鎖C末端側の神経細胞結合ドメイン(Hc)に する反応性の結果は以下の通り解釈された
 ・NT-523はHcドメインの一次構造を認識した
 ・その他の抗体はバンドが検出されなかっ ことから、毒素の高次構造を認識する抗体 あると考えられる。

4-7.免疫沈降によるエピトープ解析
 更に3種類の抗原(ニューロトキシン、重鎖 軽鎖)を用いて、免疫沈降によるエピトープ 析を行った。プロテインGセファロース 100 lにIgG型中和抗体を5μgずつ反応させ、6種類 抗体ビーズを作製した。抗体ビーズに抗原( ューロトキシン:0.6μg/100μl、H chain:0.4μg/100 l、L chain:0.4μg/100μl)を4℃で通夜反応させた 洗浄後、アクリルアミドの濃度が10%のゲル 用いてSDS-PAGEを行い、メンブレンに転写・ ロッキング後、アフィニティー精製したウ ギ抗A型ボツリヌスニューロトキシン抗体(100 0倍希釈)を反応させた。PBSで洗浄した後、PBS 2000倍希釈したHRP標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(BI O-RAD)を37℃にて反応させた。PBSで洗浄した後 発色基質にDABを用いて検出した(図31)。

 図31の結果は以下の通り解釈された。
 ・BT-015, NT-523, NT-539はH chainを認識(実線の )している。
 ・BT-175はL chainを認識している可能性が高 (破線の丸)。
 ・NT-221, NT-320はH chainとL chainのどちらを認 識しているか判定不能である。

 4-5.~4-7.に記載したエピトープ解析の結果 総合すると、6種類の抗体のエピトープ分類 は図32の通りとなる。尚、各クローンの結合 (エピトープ候補)について、ニューロトキ ンと結合性がある場合はNT、H chain結合性が る場合はH、H chain C末端側の神経細胞結合 メインと結合性がある場合はHc、L chainと結 合性がある場合はLで示した。(-)は判定不能 表す。

 本発明のA型ボツリヌス毒素中和組成物は、 エピトープが異なる複数の抗体を含有し、高 い中和活性を発揮する。本発明の有効成分は 完全ヒト可変領域を有する抗体である。この 特徴によって、製造に時間がかかることや、 安定した供給が困難であること、さらには未 知ウイルスの混入のおそれがあること等、従 来の製剤(ウマ抗毒素製剤や中和キメラ抗体 ど)が抱える課題を解決することができる。 のように本発明は、安全で経済的な抗A型ボ ツリヌス毒素製剤の実用化を可能とするもの であり、ボツリヌス中毒患者の治療と予防に 大きく貢献する。
 一方、本発明は、毒素中和試験の国際基準 適合したA型ボツリヌス毒素中和組成物を提 供するものである。従って、備蓄体制が整っ ていない途上国における中毒症、特に突発的 に大発生した中毒症、バイオテロなどに対し て国際的に使用可能な治療・予防手段として 本発明は極めて有用である。

 この発明は、上記発明の実施の形態及び実 例の説明に何ら限定されるものではない。 許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が 易に想到できる範囲で種々の変形態様もこ 発明に含まれる。
 本明細書の中で明示した論文、公開特許公 、及び特許公報などの内容は、その全ての 容を援用によって引用することとする。