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Patent Searching and Data


Title:
MALE-STERILE PLANT OF GENUS ALLIUM, CELL DERIVED THEREFROM AND METHOD FOR PRODUCING THE SAME
Document Type and Number:
WIPO Patent Application WO/2009/098838
Kind Code:
A1
Abstract:
The invention has its object to provide a male-sterile plant usable in breeding of plants of the genus Allium and a method for producing the same. To achieve the above object, the invention provides a plant of the genus Allium characterized by having a cytoplasm derived from Allium roylei strain and a nuclear genome derived from a plant of the genus Allium other than Allium roylei strain and exhibiting a male-sterile phenotype.

Inventors:
SHIGYO MASAYOSHI (JP)
IWATA MACHIKO (JP)
Application Number:
PCT/JP2009/000228
Publication Date:
August 13, 2009
Filing Date:
January 22, 2009
Export Citation:
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Assignee:
UNIV YAMAGUCHI (JP)
SHIGYO MASAYOSHI (JP)
IWATA MACHIKO (JP)
International Classes:
A01H6/04; A01H1/02; A01H1/08; C12N5/04
Domestic Patent References:
WO2006061256A12006-06-15
Other References:
MORITA T. ET AL.: "Negi Zoku Saibaishu to Yaseishu Allium roylei no Ishitsu Sanbaitai no Sakushutsu", JOURNAL OF THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE SEPARATE VOLUME, vol. 74, no. 2, 2005, pages 452
MORITA T. ET AL.: "Allium roylei Yurai Ishu Senshokutai o Motsu Negi Keito no Sakushutsu", JOURNAL OF THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE SEPARATE VOLUME, vol. 75, no. 2, 2006, pages 524
IWATA M. ET AL.: "Allium roylei Yurai Ishu Senshokutai o Motsu Negi Keito ni Okeru Naiyo Seibun no Tokusei ni Tsuite", HORTICULTURAL RESEARCH (JAPAN), vol. 6, 2007, pages 511
TAKATORI Y. ET AL.: "Genomic in situ hybridization ni yoru Allium galanthum to A.fistulosum-kan no Kaku Chikan no Shinko Katei no Kashika", JOURNAL OF THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE SEPARATE VOLUME, vol. 69, no. 2, 2000, pages 335
YAMASHITA, K. ET AL.: "Visualization of Nucleus Substitution between Allium galanthum and Shallot (A. cepa) by Genomic In Situ Hybridization.", JOURNAL OF THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE, vol. 69, no. 2, 2000, pages 189 - 191
YAMASHITA K. ET AL.: "Genomic in situ hybridization ni yoru Allium galanthum to Shallot-kan no Kaku Chikan no Shinko Katei no Kashika", JOURNAL OF THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE SEPARATE VOLUME, vol. 68, no. 2, 1999, pages 117
YAMASHITA K.: "Saiboshitsu Kogakuteki Shuho o Mochiita Negi Zoku Saibaishu no Ikushu -Yaseishu no Saiboshitsu o Riyo shita Negi Oyobi Shallot Yusei Funen Keito no Ikusei", AGRICULTURE AND HORTICULTURE, vol. 80, no. L, 2005, pages 7 - 14
VAN, R.L. ET AL.: "Biodiversity assessment based on cpDNA and crossability analysis in selected species of Allium subgenus Rhizirideum.", THEORAPPL GENET, vol. 107, no. 6, 2003, pages 1048 - 1058
VRIES, J.N. ET AL.: "Linkage of downy mildew resistance genes Pdl and Pd2 from Allium roylei Stearn in progeny of its interspecific hybrid with onion(A.cepa L.)", EUPHYTICA, vol. 64, no. 1/2, 1992, pages 131 - 137
IWATA M. ET AL.: "Allium roylei Yurai Saiboshitsu o Donyu shita Allium cepa Saiboshitsu Chikan Keito no Yusei Funensei ni Tsuite", HORTICULTURAL RESEARCH (JAPAN), vol. 7, 27 September 2008 (2008-09-27), pages 188
Attorney, Agent or Firm:
HIROTA, Masanori (8-5 Akasaka 2-chome, Minato-k, Tokyo 52, JP)
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Claims:
 アリウム・ロイレイ(Allium roylei)種植物由来の細胞質と、前記アリウム・ロイレイ種以外のネギ属植物(非ロイレイ種ネギ属植物)由来の核ゲノムとを有することを特徴とする雄性不稔ネギ属植物。
 少なくとも1種類の非ロイレイ種ネギ属植物由来の核ゲノムを有することを特徴とする、請求項1に記載の雄性不稔ネギ属植物。
 単一種の非ロイレイ種ネギ属植物由来の核ゲノムを有することを特徴とする、請求項2記載の雄性不稔ネギ属植物。
 非ロイレイ種ネギ属植物が、タマネギ(Allium cepa Common onion group)、及び/又はシャロット(Allium cepa Aggregatum group)であることを特徴とする請求項3に記載の雄性不稔ネギ属植物。
 請求項1~4のいずれかに記載の雄性不稔ネギ属植物に由来する植物細胞。
 以下の工程(1)~(4)を順次備えることを特徴とする雄性不稔ネギ属植物の作製方法。
 (1)アリウム・ロイレイ種植物を種子親として、非ロイレイ種ネギ属植物を花粉親として両者を交配させ雑種植物を得る工程;
 (2)工程(1)で得られた雑種植物由来の細胞の染色体を倍加し、4倍体雑種植物を得る工程;
 (3)工程(2)で得られた4倍体雑種植物を種子親として、前記非ロイレイ種ネギ属植物を花粉親として両者を交配させ、異質3倍体植物を得る工程;
 (4)工程(3)で得られた異質3倍体植物を種子親として、前記非ロイレイ種ネギ属植物を花粉親として両者を交配させ、得られた子孫植物由来の細胞の染色体を調査することにより、前記ロイレイ種植物の染色体を持たない核置換植物を得る工程(戻し交配工程);
Description:
雄性不稔ネギ属植物及びそれに 来する細胞ならびにその作製方法

 本発明は、ネギ属植物において品種改良 どに有用な雄性不稔植物及びその作製方法 関し、より詳しくは、ロイレイ種の細胞質 非ロイレイ種ネギ属植物(ロイレイ種ではな いネギ属植物、以下同じ)由来の核ゲノムと 有し、雄性不稔の形質を有するネギ属植物 びその細胞、ならびにその作製方法等に関 る。

 種子植物において、雄性器官に異常を生 、稔性のある正常な花粉の形成が阻害され 現象は雄性不稔(Male sterility)と呼ばれ、例 ば、花の構造上おしべの除去(除雄)が困難な 野菜等であっても、雄性不稔の形質を持って いればその必要がなくなるため、雑種の形成 やその制御が容易になるという利点を持って いる(非特許文献1)。雄性不稔は通常、自然突 然変異として単離される形質であり、その原 因としては、核遺伝子に存在する因子の支配 を受ける場合(Genic male sterility)、細胞質及び 核の両方の因子の支配を受ける場合(Gene-cytopl asmic male sterility)の2つの型があり、育種対象 の植物種などにより使い分けられている。

 有用植物の雄性不稔のうち、ネギ属植物に いては、雄性不稔の形質が細胞質(S=雄性不 細胞質、N=正常細胞質)及び核(優性稔性回復 遺伝子MS、劣性対立遺伝子ms)の両方の因子の 配を受ける型であることが知られている(非 特許文献2)。雄性不稔形質を有用品種に付与 ることは、育種上、また種苗生産上きわめ 有用であるが、ネギ属植物を用いて雄性不 系統を作出するためには、タマネギを用い 例では、(A)自然突然変異として単離された 性不稔系統S1(S-msms)と改良対象となる品種N1( N-MSMS)とを交配して稔性F1(S-MSms)を得、(B)次い F1(S-MSms)を花粉親としてN1(N-MSMS)との間で交 ・採種して核因子がヘテロの子孫を得、(C) に(B)で得られた子孫同士(N-MSMS及びN-MSms:両者 は区別できない)を多数交配してN-msmsの形質 持った子孫(雄性不稔維持系統)を作出し、(D) 最終的にS1(S-msms)とN-msms形質を持つ子孫とを 配することによって、品種としてはN1の形質 を持ち、かつ雄性不稔形質を有する雄性不稔 子孫(S-msms)という工程を経るのが従来の方法 あった。
 この様な従来の方法においては、採種と定 の過程を含むことから作出には最低でも7年 間が必要であり、また特に工程(B)及び(C)では 外見では区別がつかない子孫株どうしを多数 かけ合わせる必要があるなど、非常な労力を 要するのが現状であった。

 また、他種植物においては、イタリアンラ グラスとペレニアルライグラスとを交配し 雄性不稔ライグラスを作製する方法(特許文 献1)、Brassica oleraceaの細胞とB.napus等の細胞と を融合させ、雄性不稔アブラナ科植物を作製 する方法(特許文献2,4)、自然界から単離され 雄性不稔系統を用いる雄性不稔のスギ(特許 文献3)、大豆(特許文献5)、コムギ(特許文献6) 作製方法、その他シンノリン化合物を用い ユリ綱植物の花粉を抑制する方法(特許文献 7)や遺伝子組み換えを用いて雄性不稔形質を 与する方法等が提案されているが、化合物 用いたり遺伝子組み換えを用いる方法は、 に食に関するものでは社会的な抵抗感があ 、また他種植物における雄性不稔形質の事 ではその植物に固有の因子を利用するもの あるため、ネギ属植物には適用できないと う問題があった。このため、ネギ属植物に いても、育種上利用可能で遺伝子組み換え 化合物処理などによらない雄性不稔植物の 発が望まれていた。

特開2004-222646号公報

特開平10-052185号公報

特開平10-248418号公報

特開平7-031307号公報

特表2000-510346号公報

特表2000-514664号公報

特開平5-301807号公報 鈴木芳夫ほか著 1993「新 蔬菜園芸学」 倉書店 山口彦之監修 2003「細胞質雄性不稔と育 種技術(普及版)」シーエムシー出版 田丸典彦、木下俊郎、高橋萬右衛門 1980  北海道大学農学部邦文紀要12(2):124-128 Yamashita K. & Tashiro Y. 1999. J.Japan.Soc. Hort.Sci.68(2): 256-263. Yamashita K. et al. 1999. J.Japan.Soc.Hort.Sci.  68(4): 788-797. Keusgen M. et al. 2002. J.Agric.Food Chem. 50: 2884-2890. Masuzaki S. et al. 2006. Genes Genet.Syst. 81(4 ): 255-263. Umehara M. et al. 2006. Euphytica 148(3): 295-3 01. 執行正義 2002 園学研 1(1):75-80. Wendel J.F. 1983. Ph.D.Thesis Univ.North Carolina  Chapel  Hill. van Heusden A.W. et al. 2000. Theor.Appl.Genet. 100: 480-486. Chung S-M. & Staub J.E. 2003. Theor.Appl.Gen et. 107: 757-767. 荒木直幸、執行正義 2005 園学雑 74 別1 :199.

 上記の様な現状に鑑み、本発明は、ネギ 植物において育種上利用可能な雄性不稔植 及びその細胞ならびにその作製方法等を提 することを課題とする。

 上記課題の解決のため、本発明者らは、核 換による細胞質雄性不稔系統の作出技術に 目した。核置換とは、異種間または異品種 で交配を行い、その子孫株に花粉親を連続 て戻し交配して、核ゲノムを限りなく花粉 に近づける(染色体組換えを考慮しない理論 値は1-1/2 n 、nは戻し交配の回数)という技術であり、あ 組合せにおいては細胞質と形成された核と 間で何らかの不和合性が生じて、花粉が正 に形成されないなど雄性不稔の形質が表れ という現象を利用するものである。イネに いてインディカ品種(Oryza sativa subsp.indica) ジャポニカ品種(O.sativa subsp.japonica)との交配 に由来する核置換系統で雄性不稔系統が作出 されているほか(非特許文献3)、ネギ属植物で もガランサム種(Allium galanthum)とネギ(A.fistulos um)またはシャロット(A.cepa Aggregatum group)との 交配に由来しガランサム種の核がそれぞれの 核で置換された系統に雄性不稔系統が見いだ されている(非特許文献4,5)。しかしながら、 れまでのところ、ネギ属植物では核置換に る細胞質雄性不稔系統の利用は進んでおら 、また北米におけるトウモロコシでのごま 枯病の大流行の例、すなわちF1種子として く用いられていた単一の雄性不稔系統が新 病原菌に感受性であったため、この細胞質 持つ多くの品種が感染し被害が拡大した例 での教訓から、雄性不稔系統は複数の、由 を異にする系統が並立するのが望ましいと えられた。この観点から、本発明者らは核 換による細胞質雄性不稔系統の作出を可能 するネギ属植物を広く探索し、その中で野 種のネギの一種のロイレイ種植物(Allium royle i)に注目した。ロイレイ種は灰色かび病やべ 病への抵抗性が知られ、一般的なネギ属栽 種植物と交配親和性を持つ野生種のタマネ の一種であるが、ロイレイ種の細胞質が持 雄性不稔形質については全く知られていな った。本発明者らは、ロイレイ種の細胞質 持ち、核が非ロイレイ種のネギ属植物の核 置換された植物に強い雄性不稔形質が表れ という事実を見い出し、本発明を完成する 至った。

 すなわち本発明は、(1)アリウム・ロイレ (Allium roylei)種植物由来の細胞質と、前記ア リウム・ロイレイ種以外のネギ属植物(非ロ レイ種ネギ属植物)由来の核ゲノムとを有す ことを特徴とする雄性不稔ネギ属植物や、( 2)少なくとも1種類の非ロイレイ種ネギ属植物 由来の核ゲノムを有することを特徴とする、 上記(1)に記載の雄性不稔ネギ属植物や、(3)単 一種の非ロイレイ種ネギ属植物由来の核ゲノ ムを有することを特徴とする、上記(2)記載の 雄性不稔ネギ属植物に関する。

 また本発明は、(4)非ロイレイ種ネギ属植 が、タマネギ(Allium cepa Common onion group)、 び/又はシャロット(Allium cepa Aggregatum group) であることを特徴とする上記(3)に記載の雄性 不稔ネギ属植物や、(5)上記(1)~(4)のいずれか 記載の雄性不稔ネギ属植物に由来する植物 胞に関する。

 さらに本発明は、(6)[1]アリウム・ロイレ 種植物を種子親として、非ロイレイ種ネギ 植物を花粉親として両者を交配させ雑種植 を得る工程;[2]工程[1]で得られた雑種植物由 来の細胞の染色体を倍加し、4倍体雑種植物 得る工程;[3]工程[2]で得られた4倍体雑種植物 を種子親として、前記非ロイレイ種ネギ属植 物を花粉親として両者を交配させ、異質3倍 植物を得る工程;[4]工程[3]で得られた異質3倍 体植物を種子親として、前記非ロイレイ種ネ ギ属植物を花粉親として両者を交配させ、得 られた子孫植物由来の細胞の染色体を調査す ることにより、前記ロイレイ種植物の染色体 を持たない核置換植物を得る工程(戻し交配 程);の工程[1]~[4]を順次備えることを特徴と る雄性不稔ネギ属植物の作製方法に関する

 本発明によれば、育種上極めて有用な「 胞質雄性不稔」の形質を、食用、観賞用と く利用されているネギ属植物に付与するこ が可能となる。また、本発明の雄性不稔ネ 属植物の作製方法は、過去に報告のあるガ ンサム種を用いた方法と異なり、その工程 染色体の倍加と異質3倍体の作出を含むこと によって、ロイレイ種染色体の排除を容易か つ確実にしており、これによってロイレイ種 ゲノム中に含まれる花粉稔性回復遺伝子を排 除し、完全な細胞質雄性不稔ネギ属植物を作 出可能である。このことはまた、新品種作出 までの時間を大幅に短縮するものである。更 に、ロイレイ種の細胞質にはべと病や葉枯れ 病などネギ属栽培種が罹患しやすい病気への 抵抗性がある可能性があり、雄性不稔形質と 同時に耐病性も付与することも期待される。

本発明の実施の形態において提供する 性不稔ネギ属植物の作製方法を模式的に示 。 本発明の実施の形態の交配各世代にお るLap-1アイソザイム分析の結果を模式的に す。 本発明の実施の形態で用いたロイレイ 、シャロット、タマネギ及びBC2世代の葉緑 DNAの多型の解析結果を示す。 本発明の実施例における葉緑体DNAの多 (ccSSR-11プライマー使用)の解析結果の模式図 を示す。 本発明の実施例における葉緑体DNAの多 (ccSSR-17プライマー使用)の解析結果の模式図 を示す。

 本発明の雄性不稔ネギ属植物としては、 リウム・ロイレイ(Allium roylei;以下、ロイレ イということもある)種植物由来の細胞質と 前記アリウム・ロイレイ種以外のネギ属植 (非ロイレイ種ネギ属植物)由来の核ゲノムと を有する雄性不稔ネギ属植物であれば特に制 限されるものではなく、本明細書において「 核ゲノム」とは、核に存在する生物をその生 物足らしめるのに必須な遺伝情報をいい、生 存に必要な最小限の1組の染色体(x)や、2組の 色体(2x)が含まれる。本発明の雄性不稔ネギ 属植物として、ロイレイ種ネギ属植物由来の 核ゲノムを有さない細胞質と、少なくとも1 類の非ロイレイ種ネギ属植物由来の核ゲノ (単一種の核ゲノムからなる同質倍数体や1種 類以上の核ゲノムからなる異質倍数体など) を有する雄性不稔ネギ属植物を好適に例示 ることができ、非ロイレイ種ネギ属植物の2 のゲノム染色体(2n=2x)や4組のゲノム染色体(2 n=4x)を有する雄性不稔ネギ属植物がより好ま い。

 ロイレイ種は灰色かび病やべと病への抵 性が知られ、一般的なネギ属栽培種植物と 配親和性を持つ野生種のタマネギの一種で るが、ロイレイ種の細胞質が持つ雄性不稔 質については全く注目されていなかった。 発明に用いられる非ロイレイ種ネギ属植物 しては、ネギ属に属する植物であって、且 、ロイレイ種以外の植物であれば特に制限 れるものではないが、ロイレイ種と交配可 なネギ属に属するロイレイ種以外の植物が ましく、以下の表1~21に示すネギ属植物を例 として具体的に挙げることができるが、なか でも、ネギ(Allium fistulosum)、ニンニク(Allium s ativum)、ニラ(Allium tuberosum)、ラッキョウ(Allium  chinese)、チャイブ(Allium schoenoprasum)、アサツ キ(Allium schoenoprasum var.foliosum)、ノビル(Allium grayi)、ギョウジャニンニク(Allium victoralis)、 リーキ(Allium ampeloprasum)などから選択される 用作物や、花ネギ(Allium giganteum)、コワニー( Allium neapolitanum)、アリウム・アズレウム(Alliu m azureum)、アリウム・ロゼウム(Allium roseum)、 アリウム・スファエロセファルム(Allium sphaer ocephalum)、アリウム・トリクエトルム(Allium tr iquetrum)、アリウム・ディッキンソニイ(Allium  dickinsonii)、アリウム・アフラチュネンセ(Alliu m aflatunense)、アリウム・ディクラミディウム (Allium dichlamydeum)、アリウム・モンゴリクム(A llium mongolicum)等の観賞用ネギ属植物を特に好 ましい例として挙げることができる。また、 前記非ロイレイ種ネギ属植物としては、ロイ レイ種植物との交配が難しい種であってもよ く、この場合は、下記実施例にも示されるよ うに、ロイレイ種植物の核ゲノムをタマネギ (A. cepa)等のロイレイ種植物との交配が可能 ネギ属植物の核ゲノムと置換した後、この 孫とA.altyncolicum、A.chevsuricum、A.globosum、A.obliq uum、A.saxatile、A.senescens等のすでにタマネギと の交配が可能であることが報告されている種 との交配を行うことにより、本発明の雄性不 稔ネギ属植物を作製することができる。以下 の表1~21に本発明に適用可能なネギ属植物の ストを示す。これらの表は現在報告されて るネギ属植物をアルファベット順に列記し ものであり、表中において、「A.」は属名の Allium(ネギ)を省略したものである。

 また、本発明の雄性不稔ネギ属植物は、 イレイ種の細胞質と前記非ロイレイ種ネギ 植物の核ゲノムを有するものであって、且 、雄性不稔性の形質を示す植物であれば特 制限されるものではないが、好適には少な とも1種類の非ロイレイ種ネギ属植物のゲノ ムからなる核を有しているのが良い。ネギ属 植物は異種間交配が容易な植物群であり、こ れまでにもネギとシャロットとの雑種(非特 文献7)、ネギとチャイブとの雑種(非特許文 8)などが報告されており、ロイレイ種と非ロ イレイ種との交配によりロイレイ種の染色体 を排除した後、別の非ロイレイ種ネギ属植物 と交配して品種改良等を行うこともできる。 複数種の非ロイレイ種ネギ属植物のゲノムを 持つ場合における、非ロイレイ種ネギ属植物 の組み合わせ、数、ゲノム内の各種の比率な どは必要に応じて適宜変更すれば良い。また 、ゲノムの倍数性についても、半数体(1倍体) 、2倍体、3倍体以上の高次倍数体等、育種目 に沿ったものであればその内容は適宜選択 能である。更に、生物をその生物足らしめ のに必須な遺伝情報を備える場合、非ロイ イ種ネギ属植物のゲノムを1セット(n)全部で はなく染色体レベルで付与する場合について も、ネギ属植物ではその技術を利用可能であ り、本発明の範囲内に含まれるものである。 これらの中でも育種上、特に形質の安定性の 観点から、単一種の非ロイレイ種ネギ属植物 の核を持つものが本発明の実施の態様として は好適である。下記の実施例で示すとおり、 非ロイレイ種ネギ属植物の中でも特にシャロ ット(Allium cepa Aggregatum group)や、タマネギ(A. cepa Common onion group)は日常食される野菜とし て需要も高く、実施の態様として好適である 。ロイレイ種の核ゲノムを非ロイレイ種の核 ゲノムで置換する方法としては、通常の交配 技術を用いるのが好適であるが、細胞工学的 な手法、すなわち顕微手術によって直接核を 入れ替える手法も原理的には適用可能である 。なお、これらの雄性不稔ネギ属植物に由来 する細胞も、組織培養などで植物体を再生し たり、プロトプラストを形成させ細胞融合に 用いたりと、細胞工学的手法により新たな植 物体を形成させるための原材料として利用可 能であり、本発明の範囲内に含まれるもので ある。

 本発明の雄性不稔ネギ属植物の作製方法 しては、(1)アリウム・ロイレイ種植物を種 親として、非ロイレイ種ネギ属植物を花粉 として両者を交配させ雑種植物を得る工程; (2)工程(1)で得られた雑種植物由来の細胞の染 色体を倍加し、4倍体雑種植物を得る工程;(3) 程(2)で得られた4倍体雑種植物を種子親とし て、前記非ロイレイ種ネギ属植物を花粉親と して両者を交配させ、異質3倍体植物を得る 程;(4)工程(3)で得られた異質3倍体植物を種子 親として、前記非ロイレイ種ネギ属植物を花 粉親として両者を交配させ、得られた子孫植 物の染色体を調査することにより、前記ロイ レイ種植物の染色体を持たない核置換植物を 得る工程(戻し交配工程);の工程(1)~(4)を順次 えるものであれば特に制限されるものでは く、ここで、種子親と花粉親の両者を交配 せるとは、種子親由来の雌性配偶子と、花 親由来の雄性配偶子とを交配させることを 味する。前記工程(1)においては、ロイレイ 植物を種子親とし、自然交配や人工交配で 間雑種を形成可能な非ロイレイ種ネギ属植 を花粉親に用いることができ、その種類や 配の手法は本発明を限定するものではない 前記工程(2)においては、形成された雑種植 の染色体を倍加するために植物育種で通常 いられる手法を適宜選択することができ、 体例として、成長点を植物体から単離し、 ルヒチン処理によって倍加する方法等を挙 ることができる。前期工程(3)及び(4)は、工 (2)で得られた4倍体植物(複2倍体植物)と工程( 1)で用いた花粉親植物とを交配する工程であ 、これは広い意味での戻し交配工程であっ 、核ゲノムからロイレイ種植物のゲノムす わち染色体を排除する目的で行われるもの ある。戻し交配の回数は、多ければ多いほ 核ゲノムが非ロイレイ種ネギ属植物の核ゲ ムに限りなく近づくと考えられ、有効であ と考えられるが、実質的に得られた子孫が 性不稔になればよく、その回数などが本発 を限定するものではない。従来方法では交 の回数によって核置換の確度を上げていた 、下記実施例に示すとおり、得られた子孫 物の組織から分裂中の細胞を採取して染色 を形態的に観察するか、または染色体特異 マーカー遺伝子やくり返し配列などの特定 チーフの多型、あるいはアイソザイムマー ーなどを用いて分子生物学的に染色体を同 するかして、核ゲノム中に含まれる染色体 調査し、ロイレイ種の染色体を持たない子 植物を選択すれば戻し交配の回数が少なく すむ。ロイレイ種細胞質の雄性不稔形質が いため、シャロット(Allium cepa Aggregatum grou p)及び/又はタマネギ(A. cepa Common onion group) 核ゲノムで置換された子孫植物を作製する めには、工程(4)の戻し交配工程は理論上1回 で可能である。こうして得られた雄性不稔ネ ギ属植物を種子親として、種々のネギ属植物 との間で交配を行い、更なる品種改良に供す ることも可能である。以下に本発明の実施例 を示すが、本発明は実施例にのみ限定される ものではない。

 (材料、及び雄性不稔系統の作出工程)
 まず、材料及び雄性不稔系統の作出工程に いて説明する。図1は、本実施例に係る雄性 不稔ネギ属植物の作製方法を模式的に示すフ ローチャート図である。本実施例においては 、図1に示す様に、ロイレイ種ネギ属植物(Alli um roylei)の細胞質を有し、核ゲノムが非ロイ イ種ネギ属植物の核ゲノムで置換された雄 不稔ネギ属植物を得るために、工程(1)とし 、ロイレイ種とシャロット(A.cepa Aggregatum g roup)との交配を行った。ロイレイ種のCPRO97175 を種子親(rRR:2n=16;rはロイレイ種細胞質を、R はロイレイ種ゲノムをそれぞれ表す。以下同 じ)とし、シャロットの86208株(aAA:2n=16;aはシャ ロット細胞質を、Aはシャロットゲノムをそ ぞれ表す。以下同じ)を花粉親として交配を った。交配の際にはCPRO97175株(ロイレイ種) 自家受粉が起こらないように除雄を行い、 量のシャロット花粉を手作業にてCPRO97175株( イレイ種)に受粉させてF1を得た。これらの 配で得られた果実から、成熟した種子を採 した。採取された種子の一部を、湿らせた 紙を敷いたシャーレ上に置き、25℃、暗黒 件下で発芽させた。発芽後は25℃、照明下で 緑化させ、ある程度まで成長させた後、順化 させて培養土に移植し、温室内で栽培した。 以後の交配についても、同様の方法を用いた 。

 次に、図1の工程(2)に示すように、ロイレ イ種とシャロットのF1(rAR)の染色体の倍加を った。先の工程(1)で得られたF1から茎頂部組 織を切り出し、コルヒチン0.1%を含むLinsmeier-S koog(LS)固形培地上に組織を置床して、暗黒条 下で4日間培養した。その後、組織をLSフリ 培地上に移し、2ヶ月間培養した後、得られ た再生植物体について根端細胞の染色体を酢 酸カーミンで染色し、顕微鏡下で染色体調査 を行った。予めロイレイ種とシャロットの染 色体の形や大きさを顕微鏡下で調べておき、 これと再生植物体の染色体像を形態的に比較 することで、どの染色体をどれだけもってい るかを決定した。染色体の観察は以下の方法 で行った。まず、5-10mmに伸長した二次根を採 取し、酢酸-エタノール混合液(1:3)内にて冷蔵 庫内で一晩固定した。次に、固定後の根を60 の1N塩酸で6分間処理し、解離・加水分解さ た後、塩基性フクシンを用いてフォイルゲ 染色を行った。続いて、スライドガラス上 45%酢酸を1滴落とし、その中に染色した根端 を入れ、カバーガラスを載せて先の尖った棒 でカバーガラス上から試料を叩き、カバーガ ラスを圧した。この操作により細胞や染色体 を分散させ、染色体を一平面上に配列させた 後、光学顕微鏡下で染色体を観察した。この 観察により、再生植物体の中から、ロイレイ 種染色体とシャロットの染色体をそれぞれ2 ずつ持つもの、すなわち複2倍体(rAARR:2n=32)を 選抜して次代の交配に用いた。

 更に図1の工程(3)に示すように、先の工程 (2)で得られた複2倍体を種子親とし、シャロ ト18-5株(aAA)、及びタマネギ晩抽苔株(cCC)を花 粉親として戻し交配を行って第一代の異質3 体(BC1)を作出した。下記表22に、交配の結果 示す。なお、下記表22において種子形成胚 率は、種子形成胚珠率=[種子数/(交配小花数 6)]で示す計算式により求めたものである。

 上記表22からも明らかな様に、複2倍体(rAARR) ×シャロット(aAA)の組み合わせでは、568個の 花に交配を行い、うち124個の小花が結実し 種子数は232個であった。この値を基に種子 成胚珠率[種子数/(交配小花数×6)]を計算する と、6.8%という値を示した。このうち79個の種 を前述の方法にて発芽させたところ、29個が 芽し、発芽率は36.7%であった。この29個体を 培養したところ、23個体が正常に成長し、そ 生存率は86.2%であった。
 一方、複2倍体(rAARR)とタマネギ晩抽苔株(cCC) との組み合わせでは、79個の小花に交配を行 、うち33個の小花が結実し、種子数は75個で あった。種子形成胚珠率はシャロットよりも 高く15.8%の値を示した。種子のうち52個を発 させたところ、10個が発芽し、発芽率は19.2% あった。この10個体を培養したところ、6個 が正常に成長し、その生存率は60%であった タマネギとシャロットは形態的に違いはあ が、種レベルでは同種とされ、そのゲノムA とCとは等価であると指摘されているが、こ 結果はそれを裏付けるものである。

 続いて、図1に示すように、工程(3)で得ら れた子孫株のうち、複2倍体(rAARR)とシャロッ (aAA)の交配に由来し、染色体数が24である異 質3倍体(rAAR)CM23系統を材料とし、ここにタマ ギ北見交39号(cCC)をかけ合わせ、工程(4)の戻 し交配を行って第二代(BC2)を作出した。交配 結果を、下記表23に示す。

 上記表23で示すように、交配で得られた種 178個のうち、130個が発芽し、発芽率は73.0%で あった。発芽した個体のうち正常に成長した ものは127個体あり、生存率は97.7%と高い値を した。
 正常に成長したBC2世代108個体につき、その 色体数を上記の方法で形態学的に調査した 結果を下記表24に示す。

 上記表24に示すように、染色体数が16、すな わちロイレイ種由来の染色体が排除され、核 ゲノムがシャロット及びタマネギの核ゲノム で置換されたと考えられるものが68個体あり 全体の63%を占めた。次いで、染色体数が17 すなわちロイレイ種由来の単一染色体を有 るものが38個体で、割合は35%であった。染色 体数が18-22のものは見られず、染色体数が23 なわちロイレイ種由来の染色体が1本欠失し 個体が1個体、染色体数が24すなわちロイレ 種由来の染色体を全て持つ異質3倍体が1個 で、割合はそれぞれ0.9%と非常に少なかった 4倍体(2n=32)は観察されなかった。
 これらの結果は、本発明の提供する、ロイ イ種由来の細胞質を有し、核ゲノムが非ロ レイ種由来の核ゲノムからなるネギ属植物 作製方法(工程1-4)を用いれば、BC2世代でロ レイ種の染色体を持たないものが7割近くと 率よく目的の系統を作製することが可能で ることを示している。

 (アイソザイム分析による核ゲノムの同定)
 実施例2においては、アイソザイム分析によ る核ゲノムの同定を行った。以下に、その詳 細を説明する。染色体数が2n=16を示したBC2系 、及び2n=17を示し染色体の形態からロイレ 種の第1染色体を有すると推定されたBC2系統 各1個体を、ネギ属植物第1染色体特異的ア ソザイムマーカーLap-l(非特許文献9参照)を用 いて分析し、ロイレイ種、シャロット、ロイ レイ種とシャロットのF1及びBC1におけるアイ ザイムの出現パターンを比較・検討した。L ap-1(ロイシンアミノペプチダーゼ-1)は細胞内 は単量体(モノマー)として存在し、種によ てその分子量にばらつきがあることから、 イソザイム分析のマーカーとして広く利用 れているタンパク質である。またネギ属植 では、Lap-1をコードする遺伝子が第1染色体 に存在することが知られており、Lap-1は第1 色体のマーカーとして利用可能である。各 物試料から、それぞれ葉身部を0.2g程度切り って乳鉢に入れ、Wendelの抽出液(0.6%リン酸 素2Na,7%ショ糖,5%PVP-40,0.05%EDTA,0.05%Dithiothreitol,0 .1%L-アスコルビン酸Na,0.1%Diethyldithiocarbamic acid -sodium salt,0.05%ピロ亜硫酸Na,0.1% v/v メルカプ トエタノール;非特許文献10参照)を1mlと石英 を加え、氷上にて乳棒を用いて磨砕した。 砕した試料を、15000rpm、4℃で5分間遠心し、 清20μlを電気泳動用の試料とした。電気泳 は5%ポリアクリルアミドゲルを用い、15A(ゲ 1枚あたり)の定電流で3時間半、冷蔵庫内に 泳動した。電気泳動の終了後、ゲルを染色 [0.2Mリン酸緩衝液(pH4.8)中に0.02%L-Leucineβ-Naphth ylamide,0.05%Fast Garnet GBC salt,10mM MgCl 2 ・6H 2 O]に移し、37℃、暗黒条件下で30分間、振とう させながら染色した。ゲル上にバンドが出現 した後、1.5%酢酸で染色反応を止め、ゲルを 道水で5-6回洗浄して酢酸を除去した。ガラ 板上にGelbond(登録商標)PAG film(タカラバイオ 製)を乗せ、その上にゲルを乗せ、10%グリセ ロールをゲルの上に重層し、更にその上から セロファンを乗せてシールした。この状態で 25℃の暗所に置き、全体を乾燥させた。

 アイソザイム分析の結果を模式化したも を、図2に示す。図中レーン1-6は電気泳動で 得られたバンドパターンを模式化したもので あり、レーン1はロイレイ種、レーン2はシャ ット、レーン3はロイレイ種とシャロットの F1、レーン4はBC1の異質3倍体、レーン5は2n=16 示したBC2、レーン6は2n=17を示したBC2の結果 それぞれ表している。ロイレイ種第1染色体 コードされたLap-1の産物をαで、シャロット 及びタマネギの第1染色体にコードされたLap-1 の産物をβでそれぞれ示しており、これらの 果から、2n=17のBC2個体はロイレイの第1染色 とシャロット及び/またはタマネギの第1染 体の両方を持っており、反対に2n=16のBC2個体 はロイレイ種の染色体を持たず、シャロット 及び/またはタマネギの染色体を持っている とが明らかとなった。この結果はまた、本 明の方法を用いることでロイレイ種の染色 がBC2世代で排除可能であることも示してい 。

 (SSR多型解析による細胞質の同定)
 実施例3においては、SSR多型解析による細胞 質の同定を行った。以下に、その詳細を説明 する。上記の様なBC2系統において染色体数が 2n=16を示した個体7個体(5,6,14,22,24,30,41株)につ て、葉緑体DNA由来のSSR配列(Short Sequence Repe at:ccSSR11)に着目してDNA多型解析を行い、それ れの細胞質の同定を行った。葉緑体は母系 伝することが知られており、その葉緑体中 含まれるDNAの多型は細胞質の由来を知るた のマーカーとなる。
 試料からの全DNAの抽出は、van Heusdenらの方 (非特許文献11参照)に従った。具体的には、 植物試料から葉身部0.05gを切り取り、これに 出液(Lysis buffer 312.5μl,Extraction buffer 312.5μ l,Sarkosyl 125μl,亜硫酸ナトリウム2.85mgを混合 たもの)750μlを加えて磨砕した後、65℃で1時 インキュベートした。次に、磨砕試料をチ ーブに移し、14000rpm、4℃で90秒遠心し、上 にクロロホルム-イソアミルアルコール(24:1) 750μl加えて振とうし、14000rpm、4℃で5分間遠 心した。続いて、上清(水相)400μlを別チュー に移し、等量の冷やしたイソプロパノール 加えて混合し、14000rpm、4℃で5分間遠心して ペレットを得た。そして、上清を捨て、ペレ ットに70%エタノールを500μl加えて14000rpm、4℃ で5分間遠心し、上清を捨ててペレットを室 で乾かし、100μlのTE(Tris-EDTA buffer)を加えて 濁し葉緑体DNA(cpDNA)試料とした。分光高度計 用い試料液中のDNA濃度を測定し、終濃度が2 0ng/μlとなるように調整した。この試料液をPC R用に供した。
 PCRは、Chung&Staubにより開発されたプライ ーセット(非特許文献12)のうちccSSR-11プライ ーを用いて,以下の条件により行った。反応 液組成は、全量25μl;50mM KCl,4mM MgCl 2 ,0.2mM dNTP,0.4mM Forward Primer,0.4mM Reverse Primer,0 .125 unit Taq Gold,100ng template DNA,15mM Tris-HCl(pH 8.0)に調整した。PCR反応は,予備反応95℃ 11分; 変性94℃ 30秒,アニーリング56℃ 30秒,伸長反 72℃ 30秒を40サイクル;後処理72℃ 10分で行 た。PCR産物をポリアクリルアミドゲルにア ライして電気泳動を行い、そのバンドパタ ンをロイレイ種、シャロット、タマネギ、2 n=16であるBC2で比較した。

 PCRの結果を、図3に示す。図3はcpDNAのccSSR- 11のPCR増幅パターンを示す図である。図中レ ンmは分子量マーカー(bp)を表し、レーンRは イレイ種を、レーンAはシャロットを、レー ンCはタマネギを表し、以降の5-41はBC2各株の ンプルの結果である。本解析で用いたccSSR-1 1プライマー(非特許文献12)でPCRを行うと、葉 体DNAの多型が増幅されるバンドの分子量の いとして表れ、今回用いた試料ではロイレ 種が最も大きく、次いでタマネギ(ロイレイ 種よりも1塩基小さい)、最も小さいシャロッ となり、BC2細胞の葉緑体DNAが示す多型と比 可能である。レーン5-41が示す通り、全ての BC2個体でロイレイ種と同じ位置に単一のバン ドが出現し、このことから、これらのBC2個体 はロイレイ種に由来する細胞質を有している ことが明らかとなった。

 (BC2世代の花粉稔性の調査)
 実施例4では、BC2世代の花粉稔性の調査を行 った。以下に、その結果について説明する。 BC2世代において、栽培により開花が見られた 個体の花粉稔性を、酢酸カーミンの染色性と 10%(w/v)ショ糖寒天培地上における発芽率の2つ の指標により測定した。酢酸カーミンの染色 性は、最初の小花が開花した直後とその約1 間後に、1個体につき3小花、合計1500粒以上 花粉を採取し、酢酸カーミンで染色して形 学的に観察して、生殖核と栄養核の両方を つ花粉を可稔の正常な花粉、生殖核を持た い花粉を不稔の花粉とし、それぞれの個体 ついて全花粉中の可稔の花粉の割合(%)を求 た。またショ糖寒天培地上における発芽率 、酢酸カーミン染色による2回目の調査後に い、1個体から3小花、合計300粒以上の花粉 採取してショ糖寒天培地上に蒔き、25℃、湿 度50%の条件下で2時間培養して、顕微鏡下で 粉管が伸長していたものを可稔の花粉、伸 がみられなかったものを不稔の花粉とし、 れぞれの個体について全花粉中の可稔の花 の割合(%)を算出した。
 花粉稔性の調査の結果を下記表25に示す。

 上記表25に示すように、カーミン染色によ 2回の調査から、全個体のうち8割-9割近くの 体が、生殖核と栄養核の両方を持ち正常(可 稔)と考えられる花粉を10%も持たず、花粉稔 が極めて低いことが示された。更に、ショ 寒天培地上における花粉の発芽率は、カー ン染色による結果よりも更に低く、ほとん の個体が正常花粉を花粉全体の12%未満しか たないことが明らかとなった。カーミン染 と花粉培養の両調査結果から、2n=16であるBC2 世代の各個体に、強い雄性不稔形質が表れて いることが示された。
 これらの結果から、本発明の提供する、ロ レイ種の細胞質を有し非ロイレイ種の核ゲ ムを有するネギ属植物が、雄性不稔形質を していることが示された。

 実施例4の花粉稔性調査結果について、より 本質的な雄性不稔形質、すなわち花粉稔性が 0または1%未満という個体の頻度に着目して改 めて集計した。結果を下記表26に示す。表26 表25と基本的に同じ調査結果を元にしており 、個体あたりの可稔花粉の割合(%)を表25より 細かく分け、可稔花粉が0のもの、及び1%未 のものを示している。
 カーミン染色1回目の調査では、可稔花粉が 0のものが全体の20%にあたる12個体観察され、 また1%未満のものも16個体(26.7%)観察された。2 回目の調査でも可稔花粉が0、1%未満の個体が それぞれ全体の18.5%、14.8%を占めていた。更 、花粉の発芽率に着目した調査では、全体 実に75%が可稔花粉をまったく持たない不稔 個体であり、本発明の提供するロイレイ種 細胞質を有し非ロイレイ種の核ゲノムを有 る2倍体のネギ属植物に、強い雄性不稔の形 が付与されていることが改めて示された。

 (葉緑体SSRの塩基配列を用いた他種ネギ属植 物との比較)
 実施例3で解析した葉緑体DNA上のくり返し配 列(Consensus Chloroplast Simple sequence repeat:ccSSR) ついて、より詳細な多型解析を行い、本発 において作出した核置換系統が確かにロイ イ種の細胞質を有しているかどうかを検証 た。
 多型解析用のプライマーとしては、先行研 (非特許文献13)において本発明者らが明らか にした結果より、Chung&Staubにより開発され たccSSRのプライマー(非特許文献12)のうち、ccS SR-11プライマー及びccSSR-17プライマーの2組の ライマーを用いた。試料としては栽培種、 生種を含む複数種のネギ属植物-A.cepa種に属 する4つの栽培種、すなわちネギ’九条細’ 統、タマネギ’北見交39号’系統、シャロッ ト’86208’系統、ワケギ’寒知らず(晩成)’ 統、及び4種の野生種であるA.galanthum’97205-22 ’系統、A.roylei’95001-1’系統、A.vavilovii’9720 3-8’系統、A.altaicum’97010-25’系統の4系統、 ラA.tuberosum’広幅にら’系統とラッキョウA.c hinense(系統不詳)の10種類に加え、本発明の核 換系統であるCM23-RB6、CM23-RB15、CM23-RB25、CM23- RB30、CM23-RB36、CM23-RB39、CM23-RB41の7系統の合計1 7系統を試料として供した。

 各試料から微量サンプル抽出法(実施例3 方法に従う)により全DNAを抽出した。この全D NAを鋳型とし、上記2組のプライマーについて 、Forwardプライマーの5’末端を6-FAM、HEX、NED うち1種類で蛍光標識し、これらの蛍光プラ マーを1反応につき1組用いてPCRを行い、各 料のDNAからccSSR領域を増幅させた。PCR産物は ABI Prism310 genetic analyzer(Applied Biosystems社製) よりキャピラリー電気泳動を行い、GeneScan  Analysis Software(Applied Biosystems社製)によりフラ グメントサイズを決定した。

 下記表27に、フラグメント解析の結果を示 。表中の種名・品種名はそれぞれ上記野生 、栽培種、核置換の各系統を示し、産物の 子量は葉緑体DNAからccSSR-11プライマー、ccSSR- 17プライマーで増幅した産物の分子量(bp)の測 定結果を示す。
 ccSSR-11プライマーにより、102-120bpのPCR産物 増幅され、本発明の核置換系統では111.6-111.7 bpの産物が増幅された。これを他種と比較す と、野生種ではA.royleiの111.6bpと一致し、一 で従来技術において核置換による雄性不稔 報告されているA.galanthumの102.7bpとは異なっ おり、本発明の核置換により作出された雄 不稔系統が従来知られた系統とは異なる系 であることが示された。更に交配に用いた ャロット(106.1bp)及びタマネギ(110.7bp)とも異 っており、本発明の雄性不稔系統がA.roylei 細胞質を有していることが示された。

 一方、ccSSR-17プライマーにより、194-202bpのPC R産物が増幅され、本発明の核置換系統では19 4.4-194.8bpの産物が増幅された。これはA.roylei 194.7bpと一致し、一方ccSSR-11プライマーではPC R産物の分子量が比較的近かったタマネギに ける199.6bpとは大きく異なっていた。ここで 北見交39号系統が細胞質-核遺伝子支配によ 雄性不稔系統(自然突然変異から従来技術に より作製された雄性不稔系統)を母方とするF1 品種であり、雄性不稔の細胞質(s細胞質)を有 することから、本発明で作製された雄性不稔 系統が、従来用いられてきたタマネギの雄性 不稔系統とは異なる雄性不稔系統であること が改めて示された。
 なお本実施例におけるPCR産物の分子量は、 析ソフトを用いた計算値であるため、小数 以下の数字を含む値で示されている。

 以上の結果を、図4及び図5に可視化して表 。図4はccSSR-11プライマーを用いたPCRの結果 、その産物の分子量からグラフ上に模式化 たものであり、レーン1-4は野生種(1:A.roylei,2: A.galanthum,3:A.altaicum,4:A.vavilovii)を、レーン5-10 栽培種(5:シャロット、6:タマネギ、7:ラッキ ウ、8:ニラ、9:ネギ、10:ワケギ)を、レーン11 -17は本発明の核置換系統(CM23-RB系統、番号は 番号)をそれぞれ表し、またグラフ縦軸は分 子量(bp)を表している。図中矢印で示した様 、核置換系統のPCR産物はA.royleiのものとほぼ 一致し、他の野生種や栽培種とは異なってい た。
 図5はccSSR-17プライマーを用いたPCRの結果を その産物の分子量からグラフ上に模式化し ものであり、レーン1-4は野生種(1:A.roylei,2:A. galanthum,3:A.altaicum,4:A.vavilovii)を、レーン5-10は 培種(5:シャロット、6:タマネギ、7:ラッキョ ウ、8:ニラ、9:ネギ、10:ワケギ)を、レーン11-1 7は本発明の核置換系統(CM23-RB系統、番号は株 番号)をそれぞれ表し、またグラフ縦軸は分 量(bp)を表している。図中矢印で示した様に 核置換系統のPCR産物はA.royleiのものとほぼ 致し、加えて図中囲みで示したタマネギ(雄 不稔のs細胞質を持つ)とは異なるサイズで った。
 これらの結果は、本発明で作製した核置換 よる雄性不稔系統が、ロイレイ種(A.roylei)の 細胞質を有している事を示している。

 本発明は、ロイレイ種ネギ属植物と非ロ レイ種ネギ属植物との交配によって作出さ る雄性不稔ネギ属植物であり、新品種作出 での大幅な時間短縮を可能にするなど、農 の育種分野において利用可能である。