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Title:
STEEL FOR MECHANICAL STRUCTURE EXCELLING IN MACHINABILITY AND PROCESS FOR PRODUCING THE SAME
Document Type and Number:
WIPO Patent Application WO/2009/001792
Kind Code:
A1
Abstract:
A steel for mechanical structure that not only maintains mechanical properties, such as strength, through lowering of S content but also exhibits excellent machinability (especially tool life) in the interrupted cutting at low speed (for example, hob working) with high-speed steel tool; and an advantageous process for producing such a steel for mechanical structure. The steel for mechanical structure while maintaining the solid-dissolved N in steel at 0.002% or higher attains appropriate regulation of chemical component composition and satisfies the relationship of the formula: (0.1Œ[Cr]+[Al])/[O]≥150 (1) wherein [Cr], [Al] and [O] are the contents (mass%) of Cr, Al and O, respectively.

Inventors:
MASUDA TOMOKAZU
TSUCHIDA TAKEHIRO
SHIMAMOTO MASAKI
HORIGUCHI MOTOHIRO
MASUDA SHINSUKE
AKAZAWA KOICHI
MURAKAMI SHOGO
NAGAHAMA MUTSUHISA
YAGUCHI HIROSHI
SAKAMOTO KOICHI
Application Number:
PCT/JP2008/061405
Publication Date:
December 31, 2008
Filing Date:
June 23, 2008
Export Citation:
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Assignee:
KOBE STEEL LTD (JP)
MASUDA TOMOKAZU
TSUCHIDA TAKEHIRO
SHIMAMOTO MASAKI
HORIGUCHI MOTOHIRO
MASUDA SHINSUKE
AKAZAWA KOICHI
MURAKAMI SHOGO
NAGAHAMA MUTSUHISA
YAGUCHI HIROSHI
SAKAMOTO KOICHI
International Classes:
C22C38/00; C21D6/00; C22C38/38; C22C38/58
Foreign References:
JP2004143579A2004-05-20
JPH09176784A1997-07-08
JP2001342539A2001-12-14
JP2003226932A2003-08-15
JPH11229032A1999-08-24
Other References:
See also references of EP 2159294A4
Attorney, Agent or Firm:
OGURI, Shohei et al. (7-13 Nishi-Shimbashi 1-chom, Minato-ku Tokyo 03, JP)
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Claims:
 C:0.05~1.2%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.03~2%、Mn:0.2~1.8%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.03%以下(0%を含まない)、Cr:0.1~3%、Al:0.06~0.5%、N:0.004~0.025%、およびO:0.003%以下(0%を含まない)、をそれぞれ含有し、
 Ca:0.0005~0.02%および/またはMg:0.0001~0.005%を含有し、鋼中の固溶N:0.002%以上であり、残部が鉄および不可避的不純物からなり、且つ下記(1)式の関係を満足するものであることを特徴とする被削性に優れた機械構造用鋼。
 (0.1×[Cr]+[Al])/[O]≧150   …(1)
 (但し、[Cr],[Al]および[O]は、それぞれCr,AlおよびOの含有量(質量%)を示す)
 Mo:1.0%以下(0%を含まない)を更に含有する請求項1に記載の機械構造用鋼。
 Nb:0.15%以下(0%を含まない)を更に含有する請求項1または2に記載の機械構造用鋼。
 Ti,Zr,HfおよびTaよりなる群から選ばれる1種以上:合計で0.02%以下(0%を含まない)を更に含有する請求項1~3のいずれかに記載の機械構造用鋼。
 V:0.5%以下(0%を含まない),Cu:3%以下(0%を含まない),Ni:3%以下(0%を含まない)およびB:0.005%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を更に含有する請求項1~4のいずれかに記載の機械構造用鋼。
 Nの固溶化処理として、鋼材を1150℃以上に加熱した後、900~500℃の温度範囲を0.8~4℃/秒の冷却速度で冷却することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の機械構造用鋼の製造方法。
Description:
被削性に優れた機械構造用鋼お びその製造方法

 本発明は、機械部品を製造するために切 加工が施される機械構造用鋼およびその製 方法に関する。詳しくは、本発明は、ホブ 工のような低速の断続切削で優れた被削性 示すと共に、浸炭処理や浸炭窒化処理等の 面硬化処理を施した後であっても靭性の低 を招くことのない機械構造用鋼、およびそ 製造方法に関するものである。

 自動車用変速機や差動装置をはじめとす 各種歯車伝達装置へ利用される歯車、シャ ト、プーリや等速ジョイント等、更にはク ンクシャフト、コンロッド等の機械構造用 品は、鍛造等の加工を施した後、切削加工 施すことによって最終形状に仕上げられる が一般的である。この切削加工に要するコ トは製作費に占める割合が大きいことから 上記機械構造部品を構成する鋼材は被削性 良好であることが要求される。

 上記のような機械構造用部品は、最終形 にされた後、浸炭や浸炭窒化処理(大気圧、 低圧、真空、プラズマ雰囲気を含む)等の表 硬化処理を施され、必要によって焼入れ-焼 戻しや高周波焼入れ等がされて所定の強度 確保される。しかしながら、こうした処理 際には強度低下が生じることがあり、特に 鋼材の圧延方向に対して垂直な方向(この方 向を一般に「横目」と呼ばれる)の強度低下 生じ易いという問題がある。

 機械構造用鋼の強度を低下させることな 、被削性を改善する元素としては、従来か 鉛(Pb)が知られており、このPbは被削性改善 極めて有効な元素である。しかしながら、P bは人体への有害性が指摘され、また溶製時 鉛のヒュームや切削屑等の処理の点で問題 多いため、近年ではPbを添加することなく(Pb フリー)、良好な被削性を発揮することが求 られている。

 Pbを添加することなく良好な被削性を確 する技術として、S含有量を0.06%程度まで増 させる鋼材が知られている。しかしながら こうした技術においては、機械的特性(靭性 疲労強度)が低下しやすいという問題があり 、S含有量を増加させることにも限界がある これは、硫化物(MnS)が圧延方向に長く展伸す るために、横目の靭性が低下することが原因 であると考えられる。特に、高強度化が要求 される部品においては、S含有量を極力低減 る必要がある。こうしたことから、PbやSを 極的に添加することなく、被削性を向上さ るための技術の確立が必要である。このよ な背景の下、PbやSを積極的に添加すること く、良好な被削性を発揮させるための各種 術が提案されている。

 ところで、機械構造用部品の1つである歯 車の製造プロセスでは、機械構造用鋼(素材) 鍛造し、ホブ加工によって粗切りし、シェ ビングにより仕上げた後、浸炭等の熱処理 行い、再度研磨加工(ホーニング加工)する が一般的である。しかしながら、こうした ロセスでは、熱処理歪みの発生が大きいの 、研磨加工だけでは修正しきれず、部品の 法精度が悪くなることがある。近年では、 車使用時の騒音対策から良好な寸法精度が められており、その手段として、上記研磨 工に先立ち、研削加工(ハードフィニッシュ) を施すことがある。

 いずれの製造プロセスを採用するにして 、非常に多くの工程が必要であり、切削や 削に要するコストが高くなるので、プロセ 全体のコスト低減へのニーズが大きい。そ ため、全ての工程でのコストダウンを可能 する鋼材への期待が大きい。特に、両プロ スに共通のホブ加工においては、その工具 が高いため、工具寿命向上の技術への期待 大きい。

 上記ホブ加工は断続切削に相当するもの あり、このホブ加工に用いられる工具とし は、高速度工具鋼にAlTiNなどのコーティン を施したもの(以下、「ハイス工具」と略称 ることがある)が、現状の主流である。これ に対して、超硬合金にAlTiNなどのコーティン を施したもの(以下、「超硬工具」と略称す ることがある)は、焼きならし材に対して適 するときに「欠け」が発生し易いという問 があることから、旋削等の「連続切削」に 用されることが多い。

 上記断続切削と連続切削とでは切削機構 異なり、それぞれの切削に応じた工具が選 れることになるが、被削材としての機械構 用鋼には、いずれの切削においても良好な 削性を発揮する特性を具備していることが まれる。しかしながら、ハイス工具を用い ホブ加工(断続切削)による歯切りは、超硬 具を用いた連続切削である旋削加工よりも 低速・低温で工具が酸化・摩耗し易くなる いう弊害がある。そのためホブ加工等の断 切削に供される機械構造用鋼は、被削性の ちでも、特に工具寿命を伸ばすことが求め れている。

 しかしながら、断続切削における被削性 上、特に切削速度が低い場合の被削性を向 させるための技術は確立されていないのが 情である。被削性を向上させるための技術 して、例えば日本国公開特許公報2001-342539 は、Al:0.04~0.20%、O:0.0030%以下を含有させるこ によって、高速(切削速度:200m/min以上)での 続切削(工具寿命)に優れた鋼材が提案されて いる。この技術によって、高速での断続切削 が良好な断続高速切削用鋼が実現できた。し かしながら、この技術は基本的に超硬合金工 具[超硬工具P10(JIS B4053)使用]による切削を想 したものであり、ハイス工具による低速切 (低温切削)での被削性については不十分な のである。

 また、日本国公開特許公報2003-226932には S:0.001~0.040%、Al:0.04~0.20%、N:0.0080~0.0250%を含有 ると共に、Alの含有量[Al]とNの含有量[N]の比 ([Al]/[N])を2.0~15.0に制御することによって、旋 削(連続切削)やフライス加工(断続切削)にお る高速切削を良好にした鋼材が開示されて る。しかしながら、この技術においても、 記した技術と同様に、基本的に超硬合金工 (超硬工具P10使用)による切削を想定したもの であり、ハイス工具による低速切削での被削 性については不十分なものである。

 一方、日本国公開特許公報11-229032には、 窒化用鋼において、高Cr(0.5~2%)、高Al(0.01~0.3% )として化学成分組成を制御すると共に、鋼 のTi炭硫化物の最大直径を10μm以下とするこ によって、ドリル穿孔性に代表される被切 性を改善することが開示されている。しか ながら、ハイス工具による低速での断続切 については、何ら開示されていない。

 本発明は前記のような事情に着目してな れたものである。本発明の目的は、S含有量 を低減して強度等の機械的特性を維持すると 共に、ハイス工具における低速での断続切削 (例えばホブ加工)において優れた被削性(特に 工具寿命)を発揮することのできる機械構造 鋼、およびこの機械構造用鋼を製造するた の有用な方法を提供することにある。

 上記目的を達成することのできた本発明の 械構造用鋼とは、C:0.05~1.2%(質量%の意味、以 下同じ)、Si:0.03~2%、Mn:0.2~1.8%、P:0.03%以下(0%を まない)、S:0.03%以下(0%を含まない)、Cr:0.1~3% Al:0.06~0.5%、N:0.004~0.025%およびO:0.003%以下(0%を 含まない)をそれぞれ含有し、Ca:0.0005~0.02%お び/またはMg:0.0001~0.005%を含有し、鋼中の固溶 N:0.002%以上であり、残部が鉄および不可避的 純物からなり、且つ下記(1)式の関係を満足 る点に要旨を有するものである。
 (0.1×[Cr]+[Al])/[O]≧150   …(1)
 但し、[Cr],[Al]および[O]は、それぞれCr,Alお びOの含有量(質量%)を示す。

 本発明の機械構造用鋼は、必要によって に、(a)Mo:1.0%以下(0%を含まない)、(b)Nb:0.15%以 下(0%を含まない)、(c)Ti,Zr,HfおよびTaよりなる から選ばれる1種以上:合計で:0.02%以下(0%を まない)、(d)V:0.5%以下(0%を含まない),Cu:3%以下 (0%を含まない),Ni:3%以下(0%を含まない)およびB :0.005%以下(0%を含まない)よりなる群から選ば る1種以上、等を含有することも有効である 。含有される元素の種類に応じて鋼材の特性 が更に改善される。

 上記のような機械構造用鋼を製造するに 、Nの固溶化処理として、鋼材を1150℃以上 加熱した後、900~500℃の温度範囲を0.8~4℃/秒 冷却速度で冷却すると良い。

 本発明によれば、S含有量の低減により強 度を優れたものとすると共に、酸化物系介在 物の各成分を適切に調整して介在物の全体が 低融点で変形しやすくすることができる。こ れにより、ハイス工具での断続切削および超 硬工具での連続切削の両方で優れた被削性( に、工具寿命)を発揮する機械構造用鋼を得 ことができた。

A値{(0.1×[Cr]+[Al])/[O]}と工具摩耗量Vbの関 係を示すグラフである。 A値{(0.1×[Cr]+[Al])/[O]}と横目シャルピー 収エネルギーEの関係を示すグラフである。

 本発明者らは、機械構造用鋼の低速での 続切削における被削性を向上させるべく、 々な角度から検討した。その結果、本発明 らは、CrおよびAlの含有量およびこれらの含 有量の比(前(1)式の関係)を適切に制御しつつ 学成分組成を適切に調整した機械構造用鋼 は、鋼の被削性(特に工具寿命)を向上でき ことを見出し、本発明を完成した。本発明 規定される化学成分組成の範囲限定理由は の通りである。

 [C:0.05~1.2%]
 Cは、機械構造用鋼から製造される部品に必 要な芯部硬さを確保するために有効な元素で ある。こうした効果を発揮させるためには、 C含有量は0.05%以上とする必要がある。しかし ながら、C含有量が過剰になると、硬さが上 しすぎて、被削性や靭性が低下するので、1. 2%以下とする必要がある。尚、C含有量の好ま しい下限は0.15%であり、好ましい上限は0.5%で ある。

 [Si:0.03~2%]
 Siは、脱酸元素として鋼材の内部品質を向 させるのに有効な元素であり、こうした効 を有効に発揮させるためには、Si含有量は0.0 3%以上とする必要があり、好ましくは0.1%以上 とする。また1%以上のSiを多量に含有させた 合には、工具保護膜生成に有効に作用する 、Si含有量が過剰になると、浸炭時の異常組 織が生成したり、熱処理後(焼入れ後)の残留 ーステナイト(残留γ)量が増大して高硬度が 得られないので2%以下とする必要があり、好 しくは1.5%以下とする。

 [Mn:0.2~1.8%]
 Mnは、焼入れ性を向上させて鋼材の強度向 のために有効な元素である。こうした効果 有効に発揮させるためには、0.2%以上(好まし くは0.5%以上)含有させる必要がある。しかし がら、Mn含有量が過剰になると、焼入れ性 増大し過ぎて、焼きならし後でも過冷組織 生成して被削性を低下させるので、1.8%以下( 好ましくは1.5%以下)とする必要がある。

 [P:0.03%以下(0%を含まない)]
 Pは、鋼材中に不可避的に含まれる元素(不 物)であり、熱間加工時の割れを助長するの 、できるだけ低減することが好ましい。そ ためP量を、0.03%以下(より好ましくは0.02%以 、更に好ましくは0.01%以下)と定めた。Pは、 その量を0%とすることは工業的に困難である

 [S:0.03%以下(0%を含まない)]
 Sは、被削性を向上させる元素であるが、過 剰に含有させると鋼材の延性・靭性を低下さ せるのでその上限を0.03%とする必要がある。 に、S含有量が過剰になると、Mnと反応してM nS介在物を形成し、この介在物が圧延時に圧 方向に伸展して、圧延直角方向の靭性(横目 の靭性)を劣化させる。但し、Sは、鋼に不可 的に含まれる不純物であり、その量を0%と ることは工業的に困難である。

 [Al:0.06~0.5%]
 Alは、強い脱酸元素であり、鋼材内部品質 向上させるのに有効な元素である。またAlは 断続切削においても重要な元素であり、Alを 保することによって被削性を顕著に向上さ ることになる。こうした効果を発揮させる めには、Al含有量は0.06%以上とする必要があ る。好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.2% 上、更に好ましくは0.3%以上である。しかし ながら、Al含有量が過剰になると、鋼材中の 在物量が増大すると共に、熱処理後(焼入れ 後)の残留オーステナイト(残留γ)量が増大し 高硬度が得られなくなるので、0.5%以下とす る必要がある。

 [Cr:0.1~3%]
 Crは、鋼材の焼入性を高め、鋼材強度を高 るために有効な元素である。またAlとの複合 添加によって、鋼材の断続切削性を高めるの に有効な元素である。こうした効果を発揮さ せるためには、Cr含有量は0.1%以上とする必要 がある。しかしながら、Cr含有量が過剰にな と、粗大炭化物の生成或は過冷組織の発達 よって被削性を劣化させるので、3%以下と る必要がある。尚、Cr含有量の好ましい下限 は0.3%であり、より好ましくは0.7%以上である また、Cr含有量の好ましい上限は2.0%であり より好ましくは1.6%以下である。

 [N:0.004~0.025%]
 断続切削においては、工具に付着した鋼材 生面が急速に酸化するために工具の酸化摩 が進行するが、Nはこの反応を抑制して断続 切削による工具寿命を改善する効果を発揮す る。また、NはAlとAlNを形成して浸炭時におけ る結晶粒の異常成長の抑制、および熱処理時 の結晶粒の微細化にも効果を発揮する。これ らの効果を発揮させるためには、Nは0.004%以 含有させる必要があり、好ましくは0.006%以 含有させることが推奨される。しかしなが 、N含有量が過剰になると、時効硬化によっ 、鋼材の延性・靭性を劣化させることにな 。こうしたことから、N含有量は、0.025%以下 とする必要があり、好ましくは0.020%以下(よ 好ましくは0.015%以下)と定めた。

 [O:0.003%以下(0%を含まない)]
 O含有量が過剰になると、粗大な酸化物系介 在物が生成して、被削性や延性・靭性、鋼の 熱間加工性および延性に悪影響を及ぼす。そ こでO含有量の上限を、0.003%(好ましくは0.002%) と定めた。

 [Ca:0.0005~0.02%および/またはMg:0.0001~0.005%]
 CaとMgは、アルミナ等の硬質介在物を軟質化 して工具摩耗を抑制する作用を発揮する。ま たCaは、MnSを球状化する作用によって、圧延 角方向の靭性向上に寄与する。こうした効 を発揮させるためには、Caを0.0005%以上、Mg 0.0001%以上含有させる必要があるが、過剰に 有させると介在物量が増大することによっ 、延性・靭性が低下することになるので、C aを0.02%以下、Mgを0.005%以下とする必要がある

 [固溶N:0.002%以上]
 本発明の機械構造用鋼においては、固溶状 のN(固溶N)を所定量確保することも重要な要 件である。従来では、鋼の被削性の観点から は、NをAlN等で固定してできるだけ少なく抑 る方が良いとされてきた。しかしながら、 発明者らが検討したところによれば、Nを一 固溶させることによって、被削性が更に改 されることが明らかになったのである。こ した効果が発揮されるのは、Nがフェライト 中に固溶し、強度が上昇することによって、 フェライト相とその他の硬質相との硬度差が 低減され、切削時の切削抵抗の変動が抑えら れるためであると推定される。

 固溶Nによる上記の効果を発揮させるため には、その量は少なくとも0.002%以上確保する 必要があり、好ましくは0.0045%以上(より好ま くは0.005%以上)である。固溶N量の上限につ ては、上記全N量によって自ずと決まってく が、固溶N量が多くなると鋼材の強度が上昇 すると共に、靭性・延性が低下しはじめる。 こうしたことから、固溶N量は、0.02%以下とす ることが好ましく、より好ましくは0.015%以下 とする。

 尚、本発明における固溶Nの含有量は、JIS  G 1228に準拠して、線材中の全N量から全窒 化合物中のN量を差し引いて求められる値で る。この固溶Nの含有量の実用的な測定法を 以下に例示する。

 (a)不活性ガス融解法-熱伝導度法(全N量測定)
 供試材から切り出したサンプルをルツボに れ、不活性ガス気流中で融解してNを抽出し 、抽出物を熱伝導度セルに搬送して熱伝導度 の変化を測定して全N量を求める。
 (b)アンモニア蒸留分離インドフェノール青 光光度法(全N化合物量の測定)
 供試材から切り出したサンプルを、10%AA系 解液に溶解し、定電流電解を行って、鋼中 全N化合物量を測定する。用いる10%AA系電解 は、10%アセトン、10%塩化テトラメチルアン ニウム、残部メタノールからなる非水溶媒 の電解液であり、鋼表面に不動態皮膜を生 させない溶液である。

 供試材のサンプル約0.5gを、この10%AA系電解 に溶解させ、生成する不溶解残渣(窒化化合 物)を穴サイズが0.1μmのポリカーボネート製 フィルタでろ過する。得られた不溶解残渣 、硫酸、硫酸カリウムおよび純銅製チップ で加熱して分解し、分解物をろ液に合わせ 。この溶液を、水酸化ナトリウムでアルカ 性にした後、水蒸気蒸留を行い、留出した ンモニアを希硫酸に吸収させる。更に、フ ノール、次亜塩素酸ナトリウムおよびペン シアノニトロシル鉄(III)酸ナトリウムを加え て青色錯体を生成させ、吸光光度計を用いて 吸光度を測定して全化合物量を求める。
 (a)の方法によって求められた全N量から、(b) の方法によって求められた全N化合物量を差 引いて固溶N量を求めることができる。

 [不可避的不純物]
 本発明の機械構造用鋼の基本成分組成は上 の通りであり、残部は実質的に鉄である。 し原料、資材、製造設備等の状況によって ち込まれる不可避的不純物(例えば、Sn,As,H )が鋼中に含まれることは許容される。

 また、本発明の機械構造用鋼においては、C r,AlおよびOが下記(1)式の関係を満足している 要がある。下記(1)式を規定した理由につい 説明する。
 (0.1×[Cr]+[Al])/[O]≧150   …(1)
 但し、[Cr],[Al]および[O]は、それぞれCr,Alお びOの含有量(質量%)を示す。

 鋼中における硬質の酸化物は、切削中に 具/鋼材界面でのアブレシブ摩耗を引き起こ すと同時に、疲労強度の低下を招くことにな る。特に、本発明で課題としている低温域( ち、低速域)における断続切削においては、 具摩耗を支配する要因として、このアブレ ブ摩耗の影響が大きい。また、断続切削に いては、工具に付着した鋼材新生面が急速 酸化するために工具の酸化摩耗が促進され ことになるが、鋼中の固溶Cr,Alが複合的に 用することにより、アブレシブ摩耗による 響を低減できる。

 高速での断続切削では、工具面上にAlを む酸化物主体のベラーグが生成することに って、工具摩耗が抑制されるが、低速にお る低温域での断続切削においては、こうし 工具摩耗を引き起こす酸化を抑制すること 必要となる。こうした知見の下で、本発明 らが検討したところによれば、上記(1)式の 係を満足したとき、低温での断続切削性が 躍的に向上することが判明した。

 また、機械構造用鋼のなかで、特に肌焼 は通常浸炭処理を行うことにより表面を硬 するが、この処理の際に浸炭温度・時間、 熱速度等によって結晶粒の異常成長が発生 ることがある。Al含有量を通常よりも高く ることによって、こうした現象をも抑制す 効果が発揮される。こうした効果は、Al含有 量を増加することによって、AlN析出物の粒子 間距離が小さくなることにより発揮されるも のと考えられる。こうした効果は浸炭以外の 熱処理(例えば、焼入れ・焼戻し)を施す場合 も有効であり、その結果として靭性向上に 与することになる。

 本発明の機械構造用鋼は、上記のように 学成分組成を適切に制御することによって 低速での断続切削性を向上し得たものであ 。本発明の機械構造用鋼は、必要に応じて 以下の選択元素を含有していても良い。含 される元素の種類に応じて、鋼材の特性が に改善される。

 [Mo:1.0%以下(0%を含まない)]
 Moは、母材の焼入れ性を確保して、不完全 入れ組織の生成を抑制するのに有効な元素 あり、必要に応じて鋼に含有させてもよい こうした効果は、その含有量が増加するに れて増大するが、過剰に含有させると、焼 ならし後でも過冷組織が生成して被削性を 下させるので、1.0%以下とすることが好まし 。

 [Nb:0.15%以下(0%を含まない)]
 機械構造用鋼のなかで、特に肌焼鋼は通常 炭処理を行うことにより表面を硬化するが この処理の際に浸炭温度・時間、加熱速度 によって、結晶粒の異常成長が発生する場 がある。Nbには、こうした現象を抑制する 果がある。こうした効果は、Nb含有量を増加 するにつれて増大するが、過剰に含有させる と硬質の炭化物が生成して被削性が低下する ので、0.15%以下とすることが好ましい。

 [Ti,Zr,HfおよびTaよりなる群から選ばれる1種 上:合計で0.02%以下(0%を含まない)]
 Ti,Zr,HfおよびTaは、上記Nbと同様に、結晶粒 異常成長を抑制する効果があるので、必要 応じて鋼に含有させても良い。こうした効 は、これらの元素の含有量(1種または2種以 の合計量)が増加するにつれて増大するが、 過剰に含有させると硬質の炭化物が生成して 被削性が低下するので、合計で0.02%以下とす ことが好ましい。

 [V:0.5%以下(0%を含まない),Cu:3%以下(0%を含ま い),Ni:3%以下(0%を含まない)およびB:0.005%以下( 0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以 ]
 これらの元素は、鋼材の焼入れ性を向上さ て高強度化させるのに有効な元素であり、 要に応じて鋼に含有させても良い。こうし 効果は、これらの元素の含有量(1種または2 以上の合計量)が増加するにつれて増大する が、過剰に含有させると過冷組織が生成した り、延性・靭性が低下するので、それぞれ上 記した量まで含有させることが好ましい。

 本発明の鋼材は、固溶Nの含有量を所定量 確保することも重要な要件であるが、固溶N を確保するための条件について説明する。 常の製造方法で鋼材を作製した場合には、Al 含有量が普通鋼と比較して高いために、高温 からAlNが析出し始めることになる。このとき 、NはAlによって固着されることになるので、 通常の製造方法では、固溶Nとして殆ど存在 せることができない。また、AlNは、冷却に いそのサイズが増大するために、粗大AlNに る工具摩耗量(アブレシブ摩耗量)も増加する ことが考えられる。そこで、次に示すような 熱処理を施すことによって、所定量の固溶N 確保することができる。またこうした熱処 を施すことによりAlNも小さくなるので、ア レシブ摩耗の進行も抑制されるものと推定 れる。

 本発明では、Nの固溶化処理として、鋼材 を1150℃以上に加熱した後、900~500℃の温度範 を0.8~4℃/秒の冷却速度で冷却するのが良い 鋼材の加熱温度は、上記の観点から少なく も1150℃以上とする必要がある。しかしなが ら、この温度があまり高くなり過ぎると結晶 粒が粗大化しやすくなることによって、冷却 中に過冷組織が生成しやすくなり、被削性が 低下するので、1300℃程度以下とすることが ましい。尚、この加熱温度の好ましい下限 1200℃以上であり、より好ましくは1250℃以上 である。

 上記の加熱の後は、900~500℃の温度範囲を 0.8~4℃/秒の冷却速度で冷却する必要がある。 上記温度範囲はAlNが形成する温度領域を意味 し、この温度範囲を0.8~4℃/秒の冷却速度で冷 却することによって、生成したAlNの粗大化を 防止することができる。但し、この冷却速度 があまり速くなり過ぎると、ベイナイトやマ ルテンサイト等の硬質相の生成割合が増加す ることによって鋼材の強度が上昇し、被削性 が低下するので、4℃/秒以下とする必要があ 。このときの冷却速度の好ましい下限は、0 .9℃/秒であり、より好ましくは1.0℃/秒以上 ある。また、冷却速度の好ましい上限は3℃/ 秒であり、より好ましくは2.5℃/秒以下であ 。

 尚、上記のような熱処理には、焼きなら 、熱間鍛造後の焼きならし等が想定される 、これらの工程を、上記で規定した加熱温 、冷却速度の条件を満足するように実施す ば良い。

 以下、実施例を挙げて本発明をより具体 に説明するが、本発明は以下の実施例によ て制限を受けるものではなく、前記・下記 趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加え 実施することも勿論可能であり、それらは ずれも本発明の技術的範囲に包含される。

 下記表1、2に示す化学成分組成の鋼150kgを真 空誘導炉で溶解し、上面:φ245mm×下面:φ210mm× さ:480mmのインゴットに鋳造し、鍛造(ソーキ ング:1250℃×3時間程度、鍛造加熱:1000℃×1時 程度)および切断し、一辺150mm×長さ680mmの四 材形状を経由して、下記(a)、(b)の2種類の鍛 造材に加工した。尚、下記表1、2には、前記( 1)式の左辺の値{(0.1×[Cr]+[Al])/[O]:以下「A値」 呼ぶ}も示される。
 (a)板材:厚さ30mm、幅155mm、長さ100mm
 (b)丸棒材:直径80mm、長さ100mm

 得られた板材および丸棒材を、下記表3、 4に示す熱処理を施した後(加熱時間はいずれ 2時間)、板材はエンドミル切削試験片の素 とし、丸棒材はシャルピー衝撃試験片の素 とした。これらの鍛造材について、下記の 件で断続切削時の被削性を評価すると共に 横目の靭性(シャルピー吸収エネルギー)を測 定した。

 [断続切削時の被削性評価]
 断続切削時の被削性を評価するために、エ ドミル加工での工具摩耗を評価した。上記 材(焼ならし材、または焼ならし後熱間鍛造 したもの)をスケール除去した後表面約2mmを 削し、エンドミル切削試験片とした。具体 には、マニシングセンタ主軸にエンドミル 具を取り付け、上記のようにして製造した さ25mm×幅150mm×長さ100mmの試験片をバイスに り固定し、乾式の切削雰囲気下でダウンカ ト加工を行った。詳細な加工条件を下記表5 示す。断続切削を200カット行った後、光学 微鏡により、平均逃げ面摩耗幅(工具摩耗量 )Vbを測定した。その結果を表3、4に示す。断 切削後のVbが70μm以下のものを、断続切削時 の被削性に優れる(○印)と評価した。尚、こ 試験片については、表面のビッカース硬さH vについても測定し、その結果も表3、4に示す 。

 [横目の靭性]
 丸棒材から、圧延方向(鍛伸方向)に垂直な 向に沿ってノッチ形状がR10(mm)のシャルピー 撃試験片(形状:10mm×10mm×55mm)を削り出し、下 記の条件で浸炭-油焼入れした後、(170℃×120 →空冷)で焼戻し処理を行い、シャルピー衝 値(横目シャルピー吸収エネルギーE)を測定 た。その結果を表3、4に示す。シャルピー 撃値が10.0J以上のものを、横目の靭性に優れ る(○印)と評価した。

 (浸炭処理条件)
 930℃×90分(CO 2 濃度:0.110%、カーボンポテンシャル:1.0%狙い) 930℃×90分(CO 2 濃度:0.170%、カーボンポテンシャル:0.8%狙い) 840℃×60分(CO 2 濃度:0.390%、カーボンポテンシャル0.8%狙い)→ 油焼入れ(コールド油:60℃)→(焼き戻し:170℃× 120分→空冷)

 これらの結果から明らかなように、本発 の要件を満たす試験No.2~6,9,10,12,13,15~19,21~30 ものは、断続切削後の工具摩耗量Vbが小さく 断続切削時の被削性に優れており、横目の靭 性も良好であることが分かる(総合判定:○)。

 これに対して試験No.1,7,8,11,14,20,31~45のも では、本発明で規定する要件を満足しない のである(総合判定:×)。これらは、断続切削 後の工具摩耗量が大きくなったり(試験No.1,7,8 ,11,14,20,32~35,37,40~43、45)、横目の靭性が低下し ている(試験No.14,20,31,32,35~40,44,45)。

 この結果に基づき、試験No.1~6,15~30,33、45 おける工具摩耗量Vb、横目の靭性(横目シャ ピー吸収エネルギーE)について、前記A値{(0.1 ×[Cr]+[Al])/[O]}との関係を下記表6に示す。また このデータに基づいて、A値と工具摩耗量Vbの 関係を図1に、A値と横目シャルピー吸収エネ ギーEの関係を図2に示す。これらのグラフ より、前記(1)式の関係を満足する(即ち、A値 を適正に調整する)ことによって、発明例の 械構造用鋼が良好な被削性および靭性を発 することが分かる。

 以上のとおり、本発明を詳細に、また特 の実施態様を参照して説明したが、本発明 精神と範囲を逸脱することなく様々な変更 修正を加えることができることは当業者に って明らかである。本出願は2007年6月28日出 願の日本特許出願(特願2007-170936)および2008年4 月25日出願の日本特許出願(特願2008-115575)に基 づくものであり、その内容はここに参照とし て取り込まれる。